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海外情報(野菜情報 2014年9月号)


生産コスト上昇下における中国の野菜輸出の動向と産地の対応

野菜需給部(前調査情報部) 参与 河原  壽
調査情報部 山﨑 博之


【要約】

 中国の野菜貿易は、大幅な輸出超過となっており、中国農業における重要な輸出部門となっている。しかし、対日輸出について言えば、中国の野菜輸出価格は、生産および加工コストの上昇や円安の進展により、上昇は避けられない状況となっている。
中国の対日野菜輸出は、むきたまねぎなど日本が加工・業務用として求める加工品、規格品を供給できることから、価格が上昇したからといって、大幅に減少することは短期的にはないと推測される。しかし、中長期的には、中国における生産・加工コストや安全性管理に係るコストの上昇により、東南アジア諸国などにおける日本の開発輸入が進行すると推測される。
 一方、中国野菜輸出企業の中にも、東南アジア諸国への進出を始めているケースがあるようである。中長期的には、東南アジア諸国などにおける中国企業による開発も進むとみられる。

はじめに

 中国の野菜輸出は、労働者賃金や地代の上昇などによる生産・加工コストの上昇により、輸出価格は上昇傾向にあり、輸出競争力の低下が懸念されている。対日輸出でも、対米ドル為替レートが2012年末からの円の下落により円高が修正され、対日輸出環境は厳しい状況となっている(野菜情報2013年12月号「生産コスト上昇が継続する中国野菜の生産・輸出の動向」を参照)。

 本稿では、生産コスト上昇や為替変動などの経済環境が大きく変化する中での中国の野菜輸出動向を、中国海関総署の海関統計(貿易統計)により概観するとともに、たまねぎ輸出産地の現地調査に基づく生産コスト上昇への対応状況を把握し、今後の中国野菜輸出産地の動向を考察する。

1 中国の野菜貿易

 中国の野菜貿易は、2013年の輸出金額が109億6000万ドル、輸入金額が3億3000万ドルと大幅な貿易黒字となっており(図1、2)、中国農業における重要な輸出部門となっている。農業部(日本の農林水産省に相当)によれば、野菜は、農家所得の農民1人当たり平均収入の16%を占め、野菜生産労働力は約1億人、野菜の加工、貯蔵、輸送、販売などに関連する労働者は約8000万人と推計されている(2010年)。

 2010年以降の野菜輸出金額は、生産・加工コスト、流通コストの上昇による輸出価格の上昇、主要輸出品目であるにんにくやしょうがの不作による価格高騰などで大幅に増加した。一方、野菜輸入金額は、輸出金額を大幅に下回るものの、冷凍野菜、生鮮野菜、加工トマトなどが増加している。冷凍野菜では、ばれいしょが輸入額の79%を占め、ファストフードの普及により米国およびカナダからの輸入が増加し、生鮮野菜では、すいかが輸入額の90%を占め、ベトナムおよびミャンマーからの輸入が増加した。2013年では、生鮮野菜輸入量が景気後退や、習近平政権が2012年12月4日に打ち出した、「八項規定」の「六項禁令」による「倹約運動、浪費削減運動」に伴う外食需要などの減退から減少したものの、イタリアなどからの加工トマトの輸入増加により、輸入金額は前年並みとなっている。

2 野菜の輸出動向

 野菜の輸出数量は、生鮮野菜が東南アジア向けで増加したものの、冷凍野菜が欧米諸国向けで減少し、2011年以降、950万トン前後で推移している(図3)。一方、対日輸出においては、生鮮および冷凍野菜が、2008年の冷凍ギョーザ農薬混入、粉ミルクへのメラミン混入などの食品安全性に係る問題により、2008年、2009年に大幅に減少したものの、2010年以降では、生鮮野菜が日本における天候不順による減産から増加傾向に転じ、冷凍野菜も、残留農薬問題の対策が進んだほうれんそうが増加傾向に転じ、2011年以降は140万トン前後で推移している(図4)。

 類別の輸出価格(FOB)は、生産、加工、流通コストの上昇を背景に、全ての類別で上昇傾向となっている(図5、6)。なお、2010年、2011年の生鮮および乾燥野菜の価格高騰は、天候不順によるにんにく、しょうがの不作による輸出価格高騰の影響が大きい。

(1)生鮮野菜

 生鮮野菜の主な輸出品目は、にんにく、たまねぎ、にんじん及びかぶ、しょうが、ばれいしょ、キャベツなどである(図7)。主な輸出地域は東アジア、東南アジア、南アジア地域(以下、「アジア地域」という。)が70%以上を占めており、2011年以降の生鮮野菜輸出量の増加は、アジア地域への輸出が増加したことによる。

 主な輸出国は、広東省から多くの生鮮野菜が輸出されている香港、次いでマレーシア、ベトナム、日本、インドネシア、ロシアなどである(図8)。

 ロシアへの輸出は、黒龍江省や内蒙古自治区などにおける国境貿易であるが、ロシアの経済状況に大きく左右され、変動は大きい。また、ベトナムへの輸出では、国境を接する広西自治区、山東省、福建省、甘粛省などからが多い。貯蔵が可能なたまねぎやにんにくなどは、ベトナムからカンボジアなどへ再輸出されている。なお、2014年1~6月の対ベトナム輸出数量は、昨今の政治情勢も反映し減少している。

(2)冷凍野菜

 冷凍野菜の主な輸出品目は、いちご、豆類、ほうれんそう、混合冷凍野菜、スイートコーンなどである(図9)。主な輸出国は、日本、韓国、タイなどのアジア諸国が60%以上を占め、次いでEU、米国、カナダなどの欧米諸国、豪州などである(図10)。欧米諸国への輸出は、2008年の金融危機による経済の低迷から減少したものの、2010年からは増加に転じた。しかし、2012年のドイツにおける冷凍いちごに係る食中毒などの食品安全性に係る問題により、再び減少に転じている(図11)。

 一方、冷凍野菜輸出量の30%以上を占め、最大の輸出先国である対日輸出では、2008年の冷凍ギョーザの農薬混入事件など、中国食品の安全性問題により2008年、2009年と減少傾向であったが、2010年以降は、日本における天候不順などによる生鮮野菜の減産から増加傾向となった。また、2002年の中国における残留農薬問題による輸入自粛で大幅に減少した冷凍ほうれんそうは、2004年に栽培・加工の管理体制が整備された一部の輸出企業に対する輸入自粛解除に続き、2011年11月に冷凍ほうれんそうが、栽培・管理体制が整備された一部企業を対象に輸入自粛が解除されたことから、増加傾向となっている(図12)。

 なお、中国貿易統計では分類されていないその他の冷凍野菜は、対日輸出が多いことから、たまねぎ、ねぎ、ピーマン、にんじん、にら、にんにく、しょうが、ブロッコリー、かぼちゃなどと推測される(農林水産省「植物検疫統計」)。

3 たまねぎ輸出産地の動向

(1)たまねぎ輸出産地の作付動向

 最大の対日輸出品目である、たまねぎの2014年対日輸出主要産地(甘粛省、山東省・江蘇省西北地域、雲南省)における予想作付面積は、2013年の価格低迷による減少が予想されていたが、2013年並みの面積が確保されたもようである(表1)。甘粛省の2013年作付面積は、前年の高値を背景に、15万ムー(注)から25万ムーへと大幅に増加し、2014年も26万ムーに増加するとの予測である。たまねぎの対日輸出産地は山東省が最大であったが、2013年において甘粛省が最大の産地となったもようである。山東省のたまねぎは、3~6月に収穫され、むき玉加工後、冷蔵貯蔵され11月頃まで輸出されるが、8月から収穫される甘粛省の作付面積が大幅に増加することから、今後は減少するとの見方もある。

注:1ムー=6.67アール、15ムー=1ヘクタール

(2)生鮮たまねぎの輸出動向

  生鮮たまねぎは、対日輸出が全輸出量の35%を占め、日本が最大の輸出先国である(図13)。次いで、ベトナム、マレーシア、韓国などアジア諸国への輸出が多い。ロシアへは、シチュー用の小玉が黒龍江省など国境貿易により輸出されている。対日輸出では、主にむき玉に加工され、冷蔵貯蔵により周年で輸出される。主な対日輸出産地は、甘粛省、山東省、雲南省で、内陸に位置する甘粛省や雲南省は、山東省や福建省の輸出企業により運搬・むき玉加工され、対日輸出される。対日輸出量は、2011年以降では、日本における天候不順による減産を背景に、26万トン前後で推移している。

 対日輸出価格は、4月から輸出が本格化する山東省産、8月から輸出される甘粛省産、2月頃から輸出される雲南省産が、むき玉、冷蔵貯蔵により周年で輸出されることから、収穫後の冷蔵貯蔵の経費が上乗せされることで上昇傾向となり、山東省産の輸出が本格化する、翌年5~6月に下落傾向となる。近年の対日輸出価格は、生産・加工コストの上昇により上昇傾向にあり、2012年は、前年の中国国内価格の下落による作付面積の減少に加え、天候不順による大幅な減産から高騰した(図14)。

 なお、輸出価格の上昇要因は、生産および加工における労働者賃金や資材価格などの上昇、穀物などの他作物の価格上昇による地代の上昇であるが、詳しくは野菜情報2013年12月号「生産コスト上昇が継続する中国野菜の生産・輸出の動向」を参照願いたい。

 現在の対日輸出産地が直面する大きな課題は、定植や収穫作業などの労働者賃金、地代、生産資材価格などの上昇による生産コストの上昇、むき玉などの出荷調製に係る労働者賃金の上昇などが挙げられる。また、冷凍食品企業においては、冷凍加工に係る労働者賃金の上昇、労働者の確保、ガソリンなどの価格上昇による輸送コストの上昇、円の対米ドル為替レートにおける、円高修正による円高メリットの喪失が挙げられる(図15)。

 このうち労働者確保については、野菜産地における輸出企業では、労働者の高齢化は進んでいるものの、労働者賃金の上昇を背景に、近隣の農村の労働力が確保できている場合も多い。これに対し、沿岸部に立地する食品加工企業においては、賃金引き上げや宿泊施設の改善など、福利厚生の拡充を行っているものの、労働者確保が難しく、労働者不足が問題となっている場合が多い。中国中央政府が進める西部大開発や東北部開発などによる、内陸部地方都市における雇用機会の創出の影響も大きい。

 円の対米ドル為替レートは、日中野菜貿易では米ドルによる決済が一般的であることから、日中貿易に大きな影響を与えている。2009年からの米ドルに対する急激な円高は、ドルベースでの対日輸出価格の上昇を吸収し、円ベースの対日輸出価格の上昇を抑制してきた。しかし、2012年末からの円高の是正に伴い、既契約分の日本側の円決済額が増加したが、当時、日本経済がデフレ基調であったことから、中国側のドル建て輸出価格が値下げを求められた場合が多く、山東省の輸出企業の多くは、円高修正により損失を被ったもようである。円高修正後の2013年においては、中国における生産・加工コスト上昇などによる輸出価格上昇が、対日輸入価格に直接反映される状況となっている。

 また、ドルに対する元高の進行は元決済額の減少をもたらし、中国輸出企業に大きな影響を与えている。野菜加工企業の事例では、輸出による粗利益が5~10%の中で、1ドル当たりの元が、2009年の6.8元から2013年の6.2元と、約9%の上昇が企業経営に与える影響は大きいことから、2012年6月に導入された円・元直接取引や為替予約などの対策が検討されている。しかし、為替予約において対応できる中国の銀行は少ないことから、輸出国企業との交渉により、為替変動の相互分担や、輸出価格調整の条項を契約に盛り込むなどの対応が模索されている。

(3)山東省輸出企業のたまねぎに係るコスト(2012年および2013年)

ア 生産コスト

 山東省輸出企業におけるたまねぎ生産コストは、労働者賃金、地代などの上昇が継続している。

(ア)生鮮たまねぎ輸出企業が管理するたまねぎほ場の生産コストの事例(図16)

 調査企業は、主にむきたまねぎを年間1万トン対日輸出する企業である。この企業は、山東省、甘粛省、雲南省産たまねぎのむき玉加工・冷蔵貯蔵により周年で輸出している。種子は日本から輸入したF1を使用し、現地ほ場に管理者を置き、労働者はほ場管理者が作業に応じて雇用することから、生産コストに占める種子および労働者賃金の割合が高い。2013年の生産コスト(甘粛省)は、2012年に比べ、地代、労働者賃金、肥料の上昇により約20%上昇した。

(イ)冷凍たまねぎ加工企業が管理するたまねぎほ場の生産コストの事例(図17)

 調査企業は、冷凍野菜および冷凍調理食品加工企業である。この企業は、山東省西部に位置する村(村長)との契約栽培により、種子や肥料、農薬などの資材などの供給により安全性を確保している。また、栽培管理や天候不順などによる作柄のリスクは村が負うことで、輸出企業が負担する労働者賃金は、主に定植や収穫作業などに限定されている。これにより、(ア)の甘粛省の企業が栽培の管理を行う場合の生産コストに比べ、地代は高いが、労働者賃金やその他のコストの割合は低くなっている。

イ 加工コスト

 山東省における製品1トン当たりのむき玉加工コストは、地方政府が定める最低賃金の上昇もあり、17%の上昇であった。冷凍加工における労働者賃金も、同様に上昇基調である。

 一方、ダンボールやビニールの資材では、原油価格の上昇から価格は上昇傾向にあるものの、国内の競争が激しく、2013年においては前年並みであった。

ウ 輸送コスト

 山東省の生鮮たまねぎ輸出企業では、8月から9月には甘粛省から、冬季には雲南省からの輸送により、原料たまねぎを調達している。このため、甘粛省や雲南省からの輸送コストの上昇が、対日輸出コストの上昇の要因となっている。甘粛省から山東省工場まででは、30トントラックで70%以上の上昇であったが、山東省内の輸送経費は、輸送業者の省内の競争が激しく、変動していない。

エ 生産・加工・輸送コスト削減対策

(ア)生産・加工対策

 生鮮たまねぎ輸出企業の対策は機械の導入による労働者賃金の削減であり、加工工場におけるフォークリフトや洗浄機の導入により労働者雇用の抑制を図っている。

 一方、資本力がある冷凍たまねぎ輸出企業では、栽培では、は種・収穫における機械化、散水機や点滴かんがいの導入、加工工程では、洗浄機、包装機、フォークリフトなどの導入により労働者の削減を図っている。なお、2002年「輸出入野菜検査検疫管理弁法に係る輸出野菜栽培基地登録管理細則」により、輸出を行う野菜生産基地は300ムー(20ヘクタール)以上(山東省の場合100ムー(6.7ヘクタール)以上)とされていることもあって、輸出野菜産地における農地の集積は進んでおり、栽培の機械導入に必要とされる100ムー以上の農地が確保されている。

 また、一部の輸出企業においては、労働者との協議に基づき繁忙期の残業をサービス残業とし、企業の利益を確保する事例もあった。

 一方、中央政府は、従前からの緑色通道政策による生鮮農産物の高速道路通行料の免除や、流通段階における増値税(付加価値税)の免除に加え、「流通経費の低減・流通効率向上の総合対策方案の通知」(国務院2013年1月)により、一定規模以上の野菜生産者に対して、水と電気料金を、農業料金水準まで引き下げるなど、流通コスト抑制のための各種支援を実施している(野菜情報2013年12月号「生産コスト上昇が継続する中国野菜の生産・輸出の動向」を参照)。このうち、水と電気料金の引き下げについては、「一定規模以上の養豚、野菜などに要する水、電気料金を農業料金水準に引き下げ」ることが規定され、都市化の進んでいる地域に立地するなど、これまで、農業料金水準が適用されていないほ場についても農業料金水準が適用されることとなっている。

(イ)輸送コスト対策

 ガソリンやディーゼル価格は、中央政府が国際原油価格に連動して決定していることから、国際原油価格の変動に基づき、原料野菜の輸送コストも変動する。

 輸出企業は、原料産地から工場までなどの国内輸送コスト削減のため、加工工場に隣接した原料産地の開発、物流企業との工場から輸出先国港までの長期契約、原料産地から加工工場までの輸送について帰り便を活用するなど、細かい流通コスト削減対策を行っている。

4 今後の中国産たまねぎの対日輸出

 日本における中国産たまねぎの最近の価格動向について、東京都中央卸売市場で見ると、中国における天候不順による不作から対日輸出価格が高騰したのに対し、日本産たまねぎ価格は作柄が順調で下落したことから、2012年10月から2013年6月の9カ月にわたり、国内産価格を上回って推移した(図18)。このことから、日本市場における国内産と中国産たまねぎの価格形成は、別々の商品として形成されていると推察される。

 日本における生鮮たまねぎ輸入先国は、中国のほか米国、ニュージーランド、豪州などであるが、中国産と他の輸入先国との大きな違いは、中国産が大玉のむき玉で輸出されていることである。日本国内で高いコストで皮むき作業とゴミ処理を行う必要がなく、大玉で歩留まりが高い中国産むき玉は、日本の加工・業務用ユーザーのニーズを満たすものとなっている。むき玉で輸入される中国産の輸入価格は、皮付きで輸入される米国産とほぼ同水準であるが(図19)、中国産むきたまねぎは、経済性や利便性から、日本市場においては、加工・業務用として一定の需要を確保している。

 一方、中国国内では、労働者賃金の上昇による生産・加工コストの上昇に加え、むきたまねぎは、簡便な加工であることから、輸出企業が乱立し過当競争となっており、2013年においては1トン当たり粗利益が、10~20ドルまで低下した。今後、中国国内においては、むき玉加工企業の淘汰が始まると予想される。

 中国産たまねぎの対日輸出は、一定量のむき玉の輸出は継続すると予測されるが、中国産は、米国産などに比べ品質が劣ることから、生産・加工コスト上昇により、むき玉の輸出価格が他の輸出国を大きく上回ることとなれば、中国産むきたまねぎの競争力は低下するであろう。

5 今後の中国野菜の対日輸出

 2012年6月に円と元の直接取引が開始されたが、現在でも、日中貿易においては米ドルによる決済が一般的である。2008年末からの米ドルに対する急激な円高は、中国における生産・加工コスト上昇による輸出価格の上昇を抑制する効果をもたらしてきたが、現在の1ドル102円前後の為替レートでは、100円当たりの元と1米ドル当たりの元はほぼ同水準となり(図15)、米ドルに対する円高による対日輸出価格の抑制効果は消滅した。これにより、日本における中国産農産物輸入価格は、中国における生産・加工コスト上昇による輸出価格の上昇の影響を直接受ける状況である。

 中国中央政府は、2012年2月の「就業促進規画」(2011~15年)により、期間中に全国最低賃金を年平均13%以上引き上げるとしており、2013年2月「所得分配制度改革深化の若干の意見」に基づき、2015年までに地域の最低賃金標準は、現地都市労働者平均賃金の40%以上に到達しなければならないとされ、2014年では、山東省、甘粛省、雲南省など15地域で最低賃金が引き上げられた(中国新聞網7月11日)。

 急速な高齢化により、労働年齢人口(15~59歳)の減少は避けられない状況であり、加工コストにおいて労働者賃金が約50%を占める冷凍野菜や、むき玉加工コストが約25%を占める生鮮たまねぎを扱う輸出企業においては、輸出価格の上昇は避けられない(野菜情報2013年12月号「生産コスト上昇が継続する中国野菜の生産・輸出の動向」を参照)。

 さらに、安全性にかかるコスト増加も避けられないと推察される。中国における安全性の問題は、2002年8月「輸出入野菜検査検疫管理規則」、2006年4月「農産物品質安全法」、2007年7月「食品等製品安全監督管理特別規定」などにより整備されてきた(2007年11月号野菜情報、「中国における野菜生産・輸出の動向(北部地域)と農産物安全対策」を参照)。しかし、2008年の冷凍ギョーザ事件、2012年のドイツ冷凍いちご事件、2014年のたまねぎ残留農薬の確認など、輸出食品に係る安全性問題は断続的に発生しており、今後も安全性に係るコストは増加すると推察される。

 中国産野菜の対日輸出は、中国における安全性管理が一定の成果を上げたことにより、現段階での輸出野菜における安全性の管理水準は、東南アジア諸国などに比べ高い。また、中国は、日本が求める定時、定量、定品質および定価格の原料野菜を周年供給でき、むきたまねぎなどの日本が求める加工品、にんじんなどの日本が求める規格品を供給できる。これらのことから、短期的には生産・加工コストが安価な東南アジア諸国などへの大幅な生産シフトはないと推測される。しかし、中長期的には、中国における生産・加工コストや安全性管理に係るコストの上昇により、日本は、東南アジア諸国などへの輸入先の多角化を進めると推測される。

 また、山東省や福建省の輸出企業の中には、輸出価格上昇による国際競争力の低下の懸念から、労働者賃金などが安価なベトナムなど東南アジア諸国への進出を始めているケースがあるもようである。しかし、栽培における農薬・肥料管理、加工工場における安全性管理体制の構築などの問題があり、中国企業の本格的な海外生産・輸出には時間を要すると推察される。




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