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海外情報(野菜情報 2014年8月号)


中国における野菜生産コストの変化と今後の見通し

中国社会科学院農村発展研究所 曹斌
佳沃(青島)現代農業有限会社研究部 周暁東


【要約】

 近年、中国では、物財費、労働費、地代などの野菜生産に係るコストが急速に上昇し、野菜農家の経営が悪化する傾向となっている。しかし、外資系種子会社の中国進出、大規模生産農家の差別化戦略に伴う肥料費の上昇、国際原油市場の動向、都市化や工業化を背景とする農業従事者数の減少や食糧最低買付価格制度における買付価格の引き上げなど、野菜生産経営をめぐる環境の変化が進むことで、野菜農家の収益は今後さらに低下していくことが懸念される。今後、野菜農家の収益を確保し、農村地域の経済振興を図るうえで、さまざまな農業政策の取り組みについて検討する必要があると考える。

1 はじめに

 中国は、従来より野菜の生産消費大国として、そして近年では輸出大国として、近隣諸国での存在感が増している。中国国家統計局によると、2012年の中国国内での野菜作付面積は2035万3000ヘクタール、生産量は7億883万トンと、主要生産物である穀物、豆類、イモ類などの食糧の生産量を超え、野菜は中国最大の農作物となっている。また、中国海関総署によると、12年には中国産野菜輸出量が807万3000トン、輸出金額は85億9000ドルに達した。そのうち、対日輸出量は最も多く、129万1000トン、輸出総量の16.0%を占める。
しかし、近年、中国では、急速な工業化や都市化の進展を背景に、物財費をはじめとした野菜生産費が急速に上昇し、中国における野菜経営は悪化する傾向が表面化してきている。この問題は、中国国内の安定供給のみならず、日中間の野菜貿易にも大きな影響を及ぼすものである。

 本稿では、中国政府国家発展改革委員会価格局(以下、「価格局」という。)の『全国農産物費用収益資料編2013』(以下、「価格局統計資料」という。)および13年11月の中国国内の野菜生産現場での現地調査の結果を踏まえ、今日の中国における野菜経営の現況についての分析を通じて、中国の今後の野菜生産について検証する。

 なお、本稿中の為替レートは、1元=16.62円(2014年6月末日TTS相場)を使用した。

2 中国の野菜経営現況

 価格局は、中国の農産物生産経営における費用と収益を調査・集計し、取りまとめた結果を価格局統計資料として公表している。調査対象となっている野菜は、トマト(露地、温室)、きゅうり(露地、温室)、なす(露地、温室)、とうがらし(露地、温室)、キャベツ、はくさい、ばれいしょ、カリフラワ―、にんじん、さやえんどうの10種類である。2013年の価格局統計資料を分析すると、中国における野菜生産の経営状況は、年々、悪化傾向にあることが分かる。

 表1は、価格局統計資料に掲載されている、07年から12年までの中国の主要都市における野菜経営状況の推移を表している。07年における野菜経営による所得(C)は3万3401.9元(55万5140円)/ヘクタール、利益率(d)は105.9%であったが、12年は所得が10.2%の伸びであったのに対して、利益率は67.4%と4割減少した。この利益率の大幅な減少は、販売金額(a)の伸びを大幅に上回る総生産費(b)の急激な上昇によるものである。07年と12年で比較すると、販売金額は40.9%の上昇に対し、総生産費は73.4%上昇し、販売金額の上昇が総生産費の上昇をカバーできていない状況が分かる。これにより利益率が減少することとなり、11年以降、収益性が悪化していることが分かる。

 次に、この急激に上昇する総生産費の上昇要因について、物財費、労働費および地代から見ていきたい。

3 物財費の上昇とその要因

 中国の野菜生産における物財費を見ると、2007年には1万6143.9元(26万8312円)/ヘクタールであったものが、12年に2万482.4元(34万417円)/ヘクタールと26.9%上昇した。細目別の変化状況を見ると、上昇率が高い順に賃借料(65.5%増)、種苗費(41.2%増)、肥料費(32.0%増)となった(表2)。

 賃借料とは、生産者が外部組織や個人などから、耕作機械や家畜を有償で借りた際に支払う費用や、農業機械を有する企業や個人に農作業を委託した際に支払う費用を指す。近年、中国の農村部では、高齢化や過疎化の進行による労働力の減少を背景に、労働費の上昇が著しく、また、一部の産地においては、農繁期に必要な労働力を集められない現象が頻発している。このため、最近の動向として、従来、家畜などを用いて行っていた耕作や施肥などの重労働作業を外部委託するケースが増えている。農機賃借費は07年に427.7元(7108円)/ヘクタールであったものが、12年に1056.6元(1万7561円)/ヘクタールと147.0%上昇した一方、家畜賃借費は146.4元(2433円)/ヘクタールから77.4元(1286円)/ヘクタールと半減した。

 種苗費の上昇は、主に外資系種子会社の中国進出に伴う外国産種子の普及によるものだと考えられる。中国における種子の研究開発および販売は従来、国立研究所や大学などの研究機関で行われ、小売価格も比較的安価であった。しかし、近年、外資系の種子会社が巨大な未開拓マーケットであった中国市場に次々と参入する動きが相次いだ。この動きにより、

①これまで中国国内になかった新品種が数多く輸入されるようになり、中国人の食卓に、より多くの種類の野菜が提供されるようになった。

②外国産野菜種子は中国産種子と比べ、2割程度の収量増加が見込まれ、病気や虫害にも強く、野菜農家の増収に寄与することとなった、などの効果があった。

 一方、パプリカ、ミニトマト、とげなしきゅうりなどの新品種は、中国の研究機関での取り組みがほとんど行われなかったことから、現在、中国国内で栽培されている新品種の種子のほとんどが外国産のものとなっており、外資系種子会社による実質的な独占状態になっている。しかし、外国産種子は中国産種子よりはるかに高額で、たまねぎの場合を例にとると、米国産種子は10粒で、およそ3元(50円)で販売されているが、同じ値段で山東省産の紫たまねぎの種子を購入した場合、その30倍の300粒は購入できる状況となっている。

 最近では外資系種子会社の寡占化が進み、また、中国元高米ドル安基調の進展に伴い、12年の種苗費は2029.8元(3万3735円)/ヘクタールと、この6年間で41.2%上昇した。

 肥料費は、07年に3168.3元(5万2657円)/ヘクタールであったものが、12年には4183.5元(6万9530円)/ヘクタールと32.0%上昇した。一方、肥料の使用量を見ると、07年に43.4キログラム/ムー(注1)であったものが、12年に39.8キログラム/ムーと、8.3%減少した。価格局統計資料によると、リン肥料およびカリウム肥料は減少傾向にある一方、複合肥料の使用量は15.8%増加した。また、現地調査の結果、高価格である窒素割合の高い複合肥料や、省労化を目的とした高価な緩効性肥料が徐々に普及してきている。これによって、肥料の使用量自体は減少傾向にあるものの、高品質、高効率な肥料を導入したことで、肥料費自体は上昇傾向にある。これらの変化によって、1ムー当たりの肥料費の64.0%の上昇をもたらした。

注1:中国における一般的な面積を表す単位。1ムー=約6.67アール(=1/15ヘクタール)

4 労働費の上昇とその要因

 中国の労働費は全産業的に上昇傾向にあるが、その傾向は、野菜生産においても同様である(表2)。1ヘクタール当たりの労働費を見ると、2007年には1万2791元(21万2586円)/ヘクタールであったものが、12年には2万9507.3元(49万411円)/ヘクタールと130.7%上昇した。総生産費に占める労働費の割合をみると、07年には40.6%であったものが、12年には54.0%まで上昇し、総生産費における労働力の比重はより大きなものとなった。この労働費の急増の要因は以下の3点が挙げられる。

(1)農業従事者の減少

 中国国家統計局によると、11年の中国の農村人口は9億6808万6000人と、03年と比べ約3000万人増加したものの、総人口に占める割合では72.5%から71.9%に減少した(表3)。農村人口のうち第二次産業および第三次産業に従事する労働者数を除いた農林牧漁業従事者数は、中国全土的に広がりをみせる都市化や工業化を背景に、03年に3億1259万6000人であったものが、11年には2億7355万4000人にまで減少し、全産業に占める農林牧漁業従事者数の割合は、42.4%から35.8%まで減少した。

(2)雇用労働力の増加

 農業機械の普及に伴い、野菜農家では、一家総出で農作業をする機会が大幅に減少した。今日の農村では、体力がある若者や男性は、より高い所得を目指して第二次産業や第三次産業に出稼ぎに出て、残された老人や女子、子供たちが農村で農作業を営む形態が一般的となっている。このようなことから、重労働作業は外部業者に委託するように工夫するなどで、価格局統計資料によると、1世帯における野菜生産に係る年間家族労働時間は、07年には1ムー当たり581.6人日であったものが、12年には1ムー当たり413.4人日と、28.9%減少した。これに対し、雇用労働者の労働時間は、07年は1ムー当たり56.3人日であったものが、12年には1ムー当たり94.2人日と、67.3%増加した。

 また、所得構成を見ると、農家一人当たりの純収入のうち、営農所得の占める割合が年々減少している。中国国家統計局より公表された数字をもとに計算した結果によると、03年の割合は年間1人当たり1541.3元(2万5616円)であったものが、12年には3533.4元(5万8725円)と金額ベースで倍増したものの、割合では逆に58.8%から43.5%に下落した。

(3)工業化の進展による労働単価の上昇

 近年、地方政府の投資誘致政策などによって、地方の農村近辺でも食品加工をはじめとした工場が数多く作られたことにより、農家はわざわざ大都市に出稼ぎに行かなくても、地元で簡単に就職できるようになった。これらの地方企業は、出稼ぎ労働者たちの地元での受け皿となったとともに、農村に残されていた農家の労働力も吸収することになり、その結果、農業労働費のコスト形成に大きな影響を及ぼすこととなった。

 北京市近郊の例を見ると、郊外に工場が急増したものの、地域の労働供給源であった農業従事者そのものが減少傾向にあったことから、地域全体での労働者不足問題が深刻になった。工場の月給を見ると、08年には1600元(2万6592円)であったものが、13年には2500元(4万1550円)に増加した。この影響を受け、労働費も急増し、13年の農作物は種期における月給は、一時的に3500元(5万8170円)を超える状況も発生したが、老人と女性しか集められなかったということであった。

5 地代の上昇とその要因

 地代は、野菜総生産費のわずか1割弱しか占めていないものの、2007年から12年までの6年間で79.9%上昇し、総生産費の上昇率よりも高い。この地代の上昇要因は、以下の2点が挙げられる。

(1)食糧最低買付価格の引き上げ

 中国の地代は、立地条件や土壌状況によって異なるものの、基本的には当該産地の年間食糧収益に基づいて計算されるが、その食糧収益の計算においては、政府の食糧最低買取価格がベースとなっている。この食糧最低買取価格とは、04年に食糧安全保障の確保を目指して導入された「食糧最低買付価格制度(注2)」により決定されるものである。導入後、中国国家発展改革委員会は、食糧生産コストの上昇に対する農家収益の減少に対応するため、随時見直しを図っており、08年以降、6年連続で食糧最低買付価格を引き上げている。この食糧最低買付価格の動きに、地代も連動する構造となっており、近年の買付価格の引き上げに呼応するかたちで、地代も上昇基調が続いている。例えば、華北地方では小麦ととうもろこしの栽培による年間所得は大体1ムー当たり800元(1万3296円)程度となるが、地代はそれと同額の1ムー当たり800元程度となっている。

注2:市場メカニズムに基づき、農家利益の保護と食糧生産の安定した発展の促進を目的とする価格支持政策。最低買付価格は、農家の収益性を考慮のうえ、国家発展改革委員会などの中央政府と中国農業発展銀行などとの協議により設定される。買い付けられた穀物は、原則として競売により売り渡される。

(2)第二次産業および第三次産業資本の農業への流入

 08年のリーマンショック以降、株式や不動産業などに対する投資リスクの懸念が高まり、急速に第二次産業や第三次産業の資本(以下、「工商資本」という。)が農業へ流入する事態となった。中国全土を網羅する統計は存在しないが、09年以降、北京市周辺では、工商資本によって農場が次々と設立されており、参入企業数は13年末までに400社を超えたとみられている。しかし、これらの参入企業のほとんどが、農業の経験や生産技術を持たないことから、一部の企業では、雇用労働者を使って高付加価値農産物の生産を目指すものの、その大半は観光農園やホテル、レストランなど、非農業用途での農地活用を狙う状況にある。この動きにより農地の借り上げ競争が激化し、地代を元々の相場から乖離させる結果を招いた。例えば、甘粛省のたまねぎ主産地における13年の借地代は年間1ヘクタール当たり2万1000元(34万9020円)を超えた事例もあり、リーマンショック以前の2倍以上となった。また、北京郊外では、借地代が1ヘクタール当たり3万元(49万8600円)を超えるケースもあったということである。

6 中国の野菜経営における今後の見通し

 中国の野菜経営の収益悪化については、いくつかの要因をこれまで述べてきたが、この他、供給過剰も関係しているのではないかと著者は考える。

 しかし、野菜生産は、食糧生産に比べて収益性がまだ高いことから、今後、野菜の生産量が急激に減少していくことは短期的には考えにくく、また、野菜の市場価格の上昇率は、緩やかなものになると見込まれる。

 一方、生産費は以下の要因により、価格の伸びを上回る上昇が想定されることから、野菜農家の収益は、今後さらに悪化していくものと考えられる。

(1)物財費

ア 外資系種子会社の中国進出による種苗費の上昇

 近年、主要外資系種子会社による中国市場への参入が相次いでいるが、まだその動きは初期段階といえる。しかし、今後、種子会社の寡占化が進んでいくことで、販売価格が引き上げられる可能性がある。

 外資系種子会社の中国進出戦略を見ると、まず参入段階において、外国産種子に慣れ親しんでもらうことを目的に、無償あるいは赤字で種子を農家に提供する。その後、成長段階に入り、市場シェアが高まった頃を見計らって、値段を引き上げる手法が一般的となっている。今後、多くの外資系種子会社が成長段階に入っていくことで、外国産種子価格の引き上げが行われていくことが考えられるものの、相次ぐ外資系種子会社の参入により、種子会社間の競争が激しさを増していることから、引き上げの度合いは緩やかになるものと考えられる。

イ 差別化戦略の実施に伴う肥料費の上昇

 経済成長を背景に中国の都市住民の消費水準が向上し、ライフスタイルは量的な向上から質的な向上に変化を遂げ、野菜に対して味や見た目などを重要視するようになった。

 また、農地の集約化に合わせて、大規模生産農家、農場経営者などの大規模生産者が増加し、それらの間で野菜の差別化戦略が講じられるようになった。その一環として、土壌改良を目的に有機肥料を積極的に導入する動きが加速している。

 近年、農業部より推進されている、土壌診断に基づいて合理的に施肥させる方法(測土配方施肥)の普及に伴い、中国の過剰施肥問題は徐々に緩和されるようになってきた。また、大規模生産者による上記の動きなどを背景に、中国における2014年の有機肥料の需要量はやや増加すると考えられ、今後、有機肥料の大量消費によって、肥料費は増加していくものと予測される。

ウ 国際原油市場需給変化により、石油化学製品の価格も高水準を維持

 10年にチュニジアで起きた「ジャスミン革命」では、石油生産国も巻き込まれ、各国で政治紛争や戦乱が起こったことで、石油生産は減少した。これにより石油の需給バランスが崩れ、世界規模で石油価格の上昇をもたらした。13年においても中近東諸国の内乱問題はまだ完全には解決されていないものの、石油生産は徐々に回復の傾向にある。また、最近の報道では、米国でシェールオイルの開発が成功し、カナダへの輸出を開始したとのニュースが発表された。一方、需要面を見ると、リーマンショック以降、世界経済は徐々に回復し、石油需要も復調基調にある。このように今後、国際市場における石油供給量と需要量は同時に増加していく見込みであると考えられており、燃料費、農薬、農業用ビニールなどの石油化学製品の中国国内の価格は、13年と同程度の高い水準で維持されるものと考えられる。

(2)労働費(農業従事者の減少による労働費の上昇)

 都市化の進展に伴い、農村部での若手労働力の流出が加速している。近年、大学を卒業したばかりの若手労働者が農村に戻り、農業生産に従事する動きがあるが、それはごく一部に限られるものであり、まだ高齢の農業従業者に取って代わる規模にはなっていない。

 都市化が加速していくことで、産業間における農村労働力の獲得競争は一層激しさを増していくことが想定され、今後、中国各地における給与水準はさらに引き上がる可能性は十分に考えられることから、しばらくの間、労働費全体の上昇は避けられない様相である。

(3)地代(食糧最低買付価格の引き上げによる地代の上昇)

 近年、食糧最低買付価格は上昇を続けており、今後、食糧最低買付価格制度が存続し続けることで、食糧価格はさらに上昇を続け、国内食糧価格の上昇により、安価な外国産の食糧輸入量も増加するだろうという懸念が中国内部で強まっている。しかし、国家食糧安全保障という観点から、農家収入を一定程度確保しないと農家の廃業が続出する懸念があるなか、政府は食糧最低買付価格制度に代わる効率的かつ効果的な対策を打ち出せずにおり、先日、14年の小麦の最低買付価格の引き上げを発表した。このように、短期的には食糧最低買付価格制度が維持されるものと考えられることから、これに伴う地代の上昇傾向は持続されるものと考えられる。

7 まとめ

 本稿では、価格局統計資料の分析と現地調査の結果を踏まえ、今日の中国における野菜経営の現況について俯瞰したうえで、今後の野菜経営の見通しについて検証した。総じて言えば、中国の野菜生産量が増加していく中で、野菜の生産費は上昇傾向が持続しているものの、国内の野菜価格上昇の勢いは衰えつつあり、野菜農家の経営は悪化の方向に向かっていることが分かった。

 今後、野菜経営をめぐる環境の変化が進むことで、中国における野菜の生産費は、引き続き上昇を続けるものと見込まれることから、野菜農家の経営は、さらに悪化していくと考えられる。

 これまで、中国政府は農家収益を確保するため、緑色通道制度(注3)といった流通経費の削減政策を実行することで、流通経費や市場価格の低減に一定の効果を取り上げてきた。しかし、生産費の削減に係る政策や取り組みは、いまだ十分に行われておらず、生産性や効率性の改善の余地はまだ残っていると考えられ、今後の中国における野菜生産の維持発展のために、以下の取り組みが必要と考えられる。

注3:公的手続の簡素・省略化により、利用者の負担軽減を図るもの。この政策の1つとして、農産物積載車両の有料道路使用料の免除がある(有料道路の料金所において‘グリーンレーン’を設置し、生鮮品の積載運搬車両に対し、合法的に通行料を免除)。

(1)国民経済において重要な野菜を選定し、生産助成金額を拡大する

 経済成長に伴い、野菜に対する消費需要が多様に展開していく傾向が強まっている。しかし、限られた財政資金では、野菜全品目の生産を保護することは不可能である。財政資金の効率を考え、国民経済における重要性に着目して絞った品目に助成金政策を実施すべきである。なお、特定品目に対する助成金額を引き上げることによって農家所得が増加し、生産意欲が高まり、野菜の持続的な生産を確保できると考えられる。

(2)全国的な野菜生産情報システムを構築し、盲目的な生産を回避させる

 野菜は、生産収益が食糧よりはるかに高いことから、地方政府は、農家増収と地域経済振興の重要作物として取り扱っている。しかし、全国的な野菜生産情報を収集、分析する組織が存在しないため、地方政府と農家は、自力で情報を収集しているが、その能力が限られているため、野菜の生産リスクが高く、市場価格の変動も大きい。したがって、迅速に生産、販売情報を収集、公表できる公益的な組織を構築できれば、野菜の生産問題を緩和でき、過剰供給もしくは供給不足による農家収益の低下問題を解決できると考えられる。

(3)農業補助制度を全面的に見直し、農業経営者を対象とする補助制度を構築する

 既存の農業補助金の申請資格者は、自治団体である村民委員会と農地請負契約を締結している当該村の農家に限られている。近年、急速な都市化、工業化が進展し、農地請負契約締結者のうち、農地の利用権を他人に貸し出して、自身は農作業をやめる農家が増えてきた。しかし、制度上の問題で農地賃借者、つまり農地の賃借者は地代は払うものの、国に補助金を申請することができない。これは農業補助金制度の実施目的と明確に乖離しているため、今後、制度を見直して実際の農業経営者に補助金を交付し、生産費を削減させるような効率的な財政制度を構築すべきだと考えられる。

(4)農家を中核とする農民協同組合制度を完備し、生産費を最大限に削減する

 2007年には、日本の『農協法』に当たる『中国農民専業合作社法』が実施されてから、わずか7年間で農民専業合作社は98万2000社以上となった。農民専業合作社とは、日本の農協に相当する農業組織であるが、その多くの農民専業合作社では、組合員間の出資金額の格差があまりに大きく、外部監視不足などの要因で、実際に大規模資本により支配されていることが多い。このため、小規模農家が農業専業合作社に参加しても収益の増加は限定的である。今後、野菜生産費を低減させるために、既存の農民専業合作社制度を改善して、農家を主人公とする組合制度として、生産資材の共同購入および共同販売を効率的に実施すべきだと考えられる。

(5)公益的な農業技術普及システムを整備し、野菜の生産性を高める

 1990年代半ばからの市場経済の展開に伴い、公益的な農業技術普及システムの機能が衰退した。今日、野菜農家の種子選択、施肥、農薬散布などの知識普及を主に担っているのは農業機械製造メーカー、農業資材販売業者である。しかし、これらの業者は利益を追求することが目的で、農業の専門知識が欠けているため、農家利益を守りにくく、リスクも高い。より効率的な農業資材の購入、低コスト生産方法の普及を推進させるために、今後、公益的な農業技術普及システムの整備が不可欠である。

(6)中小型野菜生産機械を開発・導入し、労働費を削減する

 農地集約による大規模な野菜生産の進展に従い、雇用労働費の割合が増え、野菜収益は労働費に大きく左右されるようになった。今日、中小規模農場では農業機械で労働力を軽減しようという傾向が強く見られるが、中小規模の農場に適する野菜生産機械の開発がまだ不十分である。また、一部大規模な野菜生産農場は、海外から野菜生産機械を輸入したが、価格が高いことから、普及しづらいのが現況である。今後、中国における農家数はさらなる減少が予測されることから、野菜専業農家を中心に需要調査を行い、生産の全工程を視野に入れた、中小規模な野菜生産機械の開発が必要となる。

(7)末端地域の組織機能を強化し、農業生産に係るインフラ整備を促進する

  家庭請負制度(注4)の実施によって、人民公社所有の公的な生産資材は全て家庭に分配され、農家の生産意欲が高まり、家族単位の農業生産性が高まった。一方、道路、水利施設などのインフラ整備については村民委員会の機能の衰退により、農民間の話し合いで決めるケースが多くなってきた。しかし、近年、若手労働者など農業従事者の減少に伴い、水利施設、井戸などの農村施設の崩壊が加速したが、農家自身による修繕、建設には限界があるため、野菜生産に及ぼす影響が強まっている。今後、持続的な野菜生産の維持および生産費の削減を実現するために、村民委員会の再構築あるいは村を越えた地域の農業組織の創設が必要不可欠である。

注4:正式名称は家庭聨産承包責任制。1978年12月の中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議(第11期三中全会)後、実施した最も重要な農村改革措置である。家庭請負制と従来の人民公社の最大の違いは、農民は村民委員会から生産を請負い、一定数量の農作物を国家に上納して、余った農作物については農民が自由に処分してよいという取り決めである。これによって農家は自由に生産品目、販売経路を決められ、生産意欲が高まった。78年から93年の間の食糧(穀物、イモ類、豆類を含む)生産量は61億8744万4000トン、49年の中国建国28年以来の食糧生産(57億8052万トン)を突破した。


(参考資料)
[1] 中国国家統計局http://www.stats.gov.cn/
[2] 中国海関総署http://www.customs.gov.cn
[3] 国家発展和改革委員会価格司(編)『全国農産品成本収益資料編2013』
   中国統計出版社,2013年9月
※ 本稿は、中国政府が公表した統計資料などについて、現地の専門家が分析したものである。




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