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海外情報(野菜情報 2014年6月号)


ニュージランド産にんじんの生産および対日輸出状況について

調査情報部


【要約】

 ニュージーランド(以下、「NZ」という。)のにんじん生産量は近年8万5000トンで、作付面積は2000ヘクタール前後であるが、生産者の集中が加速している。NZで栽培されるにんじんの約8割は加工向けで、生鮮向けは2割程度である。生鮮にんじんの対日輸出は全体の4割、にんじんジュースは9割のシェアを誇っており、NZにとって、日本は重要なマーケットとなっている。
 対日輸出の拡大が期待された1990年代末には、日本で主流の向陽二号や黒田五寸等の五寸種も栽培されていたが、現在では、ナンテス種が主流となっている。

1. はじめに

 日本では、国産にんじんは周年であるが、3~8月は、作型および産地の切り替わりにより、品薄になる時期があり、にんじん輸入が増加する。

 NZでは、1990年代末~2000年代初頭にかけてアジア向けにんじん輸出の機運が高まったが、低価格でかつ日本などの主要輸出市場と地理的にも近い中国産に押されて輸出は伸び悩んでいる。しかし、日本に輸入されるにんじんジュースの9割がNZ産であるなど、同国のにんじん生産および輸出動向は、引き続き注視する必要がある。

 以下、NZのにんじん生産および対日輸出の動向について紹介する。

2. にんじんの生産動向

 NZのにんじん生産量は、日本やアジア諸国向けが増加した1990年代末~2000年代初頭にかけてやや増加したが、輸出の減少とともに落ち込み、2012年は、作付面積が2000ヘクタール、生産量が8万5000トンとなっている(図1)。NZで生産されるにんじんの8割は加工向けで、生鮮向けは2割程度である。このうち加工向けは、輸出向けを含め、にんじんジュース等の加工が盛んになったことからシェアが拡大している。なお、加工向けと生鮮向けでは、生産や流通形態が分かれているのが特徴である。

 栽培されるにんじんは主にナンテス種(肩から尻までおなじ太さのソーセージタイプ)である。対日輸出の拡大が期待された1990年代末には、日本で主流のチャンテネー種(向陽二号や黒田五寸等のいわゆる五寸種)も栽培されていたが、輸出の伸び悩みや、ヒビが入り易いなどの取り扱いの難しさも影響して栽培は減少し、現在では一部の契約栽培農家を除いてほとんど栽培されていない。輸出向けも、今ではナンテス種が主流となっている。
NZの主要なにんじん産地は、カンタベリー、マナワツ、オークランド/ワイカト、サウスランド、ホークスベイの各地方となっており、中でもマナワツ地方のオハクネ(Ohakune)、オークランド地方の南端に位置するプケコヘ(Pukekohe)、サウスランド地方の南側沿岸部に位置するインバーカーギル(Invercargill)などが主要産地として知られている。生鮮向けは、主にプケコヘとオハクネ、加工向けは、主にカンタベリー地方とホークスベイ地方で栽培されている。また、対日輸出向け生産は、オハクネとインバ-カーギルが中心となっている(図2、表1)。

 にんじんは地温8~30度で栽培でき、NZでは一年中栽培することが可能である。主要産地であるプケコヘでは、9月には種し、翌年1月頃に出荷する春にんじん、オハクネやインバーカーギルでは2月には種し、9月頃に出荷する夏にんじんの栽培が一般的である(図3)。インバーカーギルに拠点を置く大手生産者は、7~12月初旬には種し、12月中旬~翌10月末に収穫および販売するというサイクルにより、周年で市場ににんじんを供給している。

 NZの野菜生産は、全般に商業化および大規模化が進んでおり、にんじん栽培も同様の傾向が見られる。生産量は10年前と比較して増加している一方、生産者数は2002年に146農場であったのが、2007年に98農場、2012年には40農場に大きく減少し、10年前の3分の1以下になっている。NZでは、150人以上の従業員を雇用する大規模生産者が生産者全体の8割を占めており(注)、にんじんについても、20~30農場が大規模生産者であると推定される。加工向けのにんじんは、酪農、肉牛、羊等の牧草地における輪作の一環として栽培されている一方、生鮮向けは、野菜などの専業農家が、ばれいしょなど数種類の作物と組み合わせて栽培している。かんがいはほとんど行われていないが、近年の干ばつの影響により、かんがい施設の整備を進めている大手生産者もある。

注:Vegetable New Zealandへのインタビュー

 にんじん生産の最大手は、インバーカーギルに拠点を置くPypers Produce社である。同社は、40年以上前に小規模なばれいしょ生産者としてスタートし、現在では周辺から370.3ヘクタールの土地を借り上げてばれいしょとにんじんの栽培を行っている。通常は、ばれいしょを1年栽培した後、2年連続でにんじんを栽培し、その後休耕地にするという輪作体系を行っている。同社の2013年におけるにんじんの栽培目標は、1万2000トンである。栽培されたにんじんの6割は国内市場向け、残りの4割が輸出市場向けで、にんじん輸出最大手のHarvest Fresh社を通じて、毎年40フィートのリーファーコンテナ200~250基分が、日本などのアジアや、中東向けに輸出されている。

 その他の主要な生産者としては、Wilcox社、Kim Young & Sons社、Wai Shing社などがあげられる。Wilcox社は1954年に設立された同族企業で、ばれいしょ、たまねぎ、にんじんを栽培している。にんじんはプケコヘ、ワイカト地方のマタマタ、オハクネを拠点に、ナンテス種の他に向陽二号も栽培している。Kim Young & Sons社は1958年に設立され、プケコヘを拠点に、にんじんやばれいしょの栽培を行うほか、畜産業を営んでいる。1961年に設立されたWai Shing社も、プケコヘに拠点を置く園芸農家で、にんじんのほか、カリフラワー、ブロッコリー、ほうれんそう、かぼちゃ、ばれいしょなどを栽培している。

 NZで生産されるにんじんの8割は冷凍や乾燥製品、濃縮ジュースなどに加工され、国内で消費されるほか、冷凍のカットにんじんやにんじんジュースとして、日本などにも輸出されている。にんじん加工の大手企業としては、McCain社、Heinz Wattie’s社、Talleys社、Cedenco社があげられる。McCain社は、世界最大のフレンチフライポテト製造メーカーであるが、NZのにんじん加工業で約4割のシェアを占め、ヘイスティングスにある工場で、冷凍のカットにんじんやミックスベジタブルを生産している。2番目にシェアが大きいのがHeinz Watti’s社で、約3割を占める。ヘイスティングスにNZで唯一の野菜の缶詰ラインを保有しているほか、カンタベリー地方のクライストチャーチに野菜の乾燥工場を有している。次いで、約2割シェアを占めるTalleys社は、カンタベリー地方に隣接するマールボロ地方のブレナムやカンタベリー地方のアシュバートンの工場で野菜を加工している。

 野菜および果物の生産者団体であるHorticulture NZによれば、国内出荷向けの生鮮にんじんの生産者価格は、おおむね国内の小売価格(消費税抜き)の半分程度となっている。2012年の小売り向け国内販売額は3000万NZドル、生産者販売価格では1500万NZドル程度である。生産コストについては開示されていないが、平均的な利益率は41%程度であると考えられる。ただし、農地が所有か借地かによって大きく異なってくるため生産者によって幅があり、利益率は、低いところ2%程度、高いところで30%以上となっている。

3. にんじんの輸出動向

 NZのにんじん輸出は、1990年代末~2000年代初頭にかけてピークを迎え、2002年には2万3000トンを輸出したが、中国産との価格競争にさらされて急激に減少し、2005年には7700トンまで落ち込んだ。その後、輸出量は2000年代後半を通じて1万トン前後で推移し、2011年には、日本が東日本大震災の影響により野菜輸入を増加させたため一時的に増加したが、2012年には再び減少し、1万2000トンとなった(図4)。にんじん輸出の最盛期には、シンガポール、タイ、台湾、マレーシアなどにも数千トン規模で輸出されていたが、現在は、日本が最大の輸出市場であり、その他ではフィジーをはじめとする太平洋諸島が主要な輸出先となっている。

 生鮮にんじんの輸出額は、輸出が落ち込んだ2010年を除き、近年は900万NZドル台で推移している。2011年は、輸出量が伸びた一方で単価が大幅に下がったため、輸出額は2012年と変わらなかった。一方、2012年の加工品の輸出額は220万NZドルで、前年の2倍となっている。これは、日本向けにんじんジュースの出荷が増加したことが一因と考えられる(表2)。

 生鮮にんじんの輸出価格は、近年上昇傾向にあり、対日輸出では、2011年に大きく下落したものの、2012年には1トン当たり547米ドルとなった。中国産にんじんの対日輸出価格との差は、2000年代前半と比較すると縮小しており、2011年にはいったんNZ産の方が安くなったほどであるが、2012年には再び1トン当たり29米ドルの価格差となっている(図5)。こうした価格競争に加え、NZドル高、労働コストの上昇、輸送距離などが主要な課題となっている。

 また、輸出時期は、春にんじんの収穫が始まる1月から増え始め、3~7月に集中する(図6)。

 にんじん輸出の最大手はHarvest Fresh社で、NZの生鮮にんじん輸出の約7割を手掛けている。同社は2005年にオークランド地方のオークランドに設立された野菜輸出業者で、にんじんのほか、たまねぎとばれいしょの輸出を行っている。同社が取り扱うにんじんは、にんじん生産最大手のPypers Produce社のみである。大手生産者であるWai Shing社やWilcox社も輸出を手掛けているが、取扱量はHarvest Fresh社と比較すると少ない。

 NZのにんじん業界では、NZかぼちゃ協議会のような業界を代表するような単独の団体は存在しない。ただし、NZのにんじん生産者は、Horticulture New Zea-landと、その傘下で産品毎に構成されたグループの一つである、Vegetable New Zealand(ばれいしょ、たまねぎ、トマト、アスパラガスおよび西洋かぼちゃ以外の野菜生産者を代表)によって支えられている。これらの団体は、輸出主導型の産業発展を重要戦略の一つとして位置付けている。しかし、NZのにんじん輸出業者は、目標とする市場まで著しく離れているため、Horticulture NZは地域の成長企業とともに、産品の保存可能期間を長くする方法の開発に取り組んでいる。また、NZ産にんじんは、輸出市場において価格競争力が弱いことから、業界としては、高級小売店を販売拠点として開拓し、品質、安全性、トレーサビリティーの整備などを前面に押し出して売り込むことで、価格競争から一線を画した販売を行おうとしている。

4. にんじんの対日輸出の状況

 NZ産にんじんの対日輸出は、品質改善や五寸種である向陽二号の作付拡大により、1990年代後半以降増加したが、その後、中国産との価格競争や、為替の影響で伸び悩んでいる。2011年には、東日本大震災の影響により国産が品薄となったため、外国産の需要が一時的に増加し、NZからの輸入も8000トンを超えたが、その他の年は年間3000トンから5000トン程度となっている。日本の輸入にんじん市場は中国産が8~9割のシェアを占め、残りがNZ、台湾、豪州産などに分散している状況である。

 日本向け輸出は、NZの収穫時期に当たる3~8月頃にかけて集中し、国産の秋にんじんが出回り始める9月以降はほとんど見られない。統計によれば、およそ8割が東京、横浜および川崎税関となっており、関東への出荷が多い。

 NZ産にんじんは、主に量販店などの小売り向けとなっているが、為替の変動によって価格競争力がある場合などは、加工や外食向けにも流通している。日本の消費者のNZに対するイメージの良さに加え、周年で供給可能であること、農薬の使用が比較的少なく、糖度が高い点などがNZ産の主な強みとなっている。

 対日輸出向けの規格は、Mサイズ(1本120~190グラムで長さ15~20センチメートル)、Lサイズ(同180~250グラムで19~23センチメートル)、2Lサイズ(同250~360グラムで20~25センチメートル)の3つに分けられる。Mサイズは1箱125本、Lサイズは同95本、2Lサイズは同75本で箱詰めされ、通常40または20フィートの温度管理が可能なリーファーコンテナで船舶輸送される。また、顧客の仕様に応じて10キログラムまたは20キログラムのカートン詰めや20キログラムの袋詰めで出荷される場合もある。

 また、近年、日本は野菜ジュースのブレンド用として、にんじんジュースをNZから輸入するようになっており、2012年および2013年には、約8500トンがNZから輸出された。NZで生産されるにんじんジュースの9割は日本に輸出されており、生鮮にんじんと同様に、NZにとって日本は重要なマーケットになっている。

5. おわりに

 日本は、NZの生鮮にんじんの主要な輸出先であるが、近年は中国産との競争やNZドル高などの影響により輸出の大きな伸びは見られない。生産者は集約化および専業化が急速に進み、輸出も主要大手による寡占体制となっている。一方、ここ数年の新しい動きとしてにんじんジュースの日本向け輸出が急増しており、今後の生産体制への影響や輸出動向が注目される。




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