調査情報部 審査役 河原 壽
台湾の主な野菜生産地域は、中部と南部地域であるが、夏季における野菜生産は、台風などにより不安定で、7月~10月における野菜輸入が多い。
2012年の加工品を含む野菜の輸入額は、ばれいしょ、スイートコーンおよびたまねぎが55パーセントを占める。主な輸入先国は、米国、中国およびタイで9割を占め、日本は1割も満たない。
生鮮野菜の輸入額では、たまねぎ、カリフラワー・ブロッコリー、レタス、キャベツおよびやまいもが全輸入額の65パーセントを占め、主な輸入先国は、米国、日本、タイ、中国、ベトナム、インドネシア、韓国などである。日本からの輸入は、やまいもが78パーセントを占め、2010年以降では、レタスなど多くの品目が減少傾向となっている。
日本産野菜の輸入量減少の主な要因は、夏季の供給確保のためのインドネシアなどとの契約栽培による輸入の増加、台湾における施設栽培の増加、日本品種の導入や栽培技術の向上による台湾産の品質の向上、有機認証などの普及である。
台湾においては、日本産野菜は品質が高く安全と認識されているが、台湾国内産野菜の品質および安全性の向上にともない、台湾産との競合が強まっており、日本産野菜にはレタスのような日本産ならではの味や品質、台湾の消費形態に合わせた品質の野菜が求められている。
台湾は、面積が3万5563平方キロメートルと日本の九州地方(3万9907平方キロメートル)とほぼ同程度であり、中部地域に北回帰線が通っており、気候は、おおまかに分類すると北回帰線以南が熱帯、以北が亜熱帯気候となる島国である。
人口は、2001年の2234万人から、2012年の2319万1000人と増加傾向であるが、総人口に占める65歳以上の割合は、2001年8.8パーセントから2012年11.2パーセントと増加しており、高齢化が進んでいる。
農家人口は、2001年378万3000人から2011年294万4000人、農業就業人口は、2001年の70万8000人から2012年の54万4000人と減少傾向であり、農業就業人口に占める65歳以上の割合は、2001年10.8パーセントから2012年17.1パーセントと、農業部門においても高齢化が進んでいる。
2011年の一人当たり耕地面積は0.27ヘクタール、農家1戸当たり耕地面積は1.0ヘクタールと零細で、兼業農家が74.9パーセントを占める。農業就業人口減、高齢化、兼業農家が進展する中、活力のある農家への農地の集積が大きな課題となっている。
GDPに占める農林水産部門の割合は、サービス部門の増加傾向により、2000年の1.98パーセントから2008年には1.6パーセントと減少したが、農産物価格の上昇などにより2012年は1.9パーセントを占めている。
耕地面積(表1)は、2001年の84.9万ヘクタールから2012年の80.3万ヘクタールと減少傾向にある。そのうち、畑地は41万ヘクタールから40.3万ヘクタールと0.7万ヘクタールの減少にとどまっているのに対し、水田は43.9万ヘクタールから39.9万ヘクタールと2万ヘクタールの減少となっており、中・南部地域における水田が都市化の進展、農業就業人口の減少により減少傾向にある。2012年においては、水田が49.8パーセント、畑地が50.2パーセントと畑地が水田を上回った。耕地面積の72.2パーセントを中部地域および南部地域が占めており、中・南部地域が農業の中心となっている。
2012年農畜林業(含む水産)産出額では、畜産物が31パーセント強、果実が17パーセント、野菜が13パーセントを占め、米は、1968年に自給を達成し現在では生産過剰となっており、さらに2001年のWTO加盟により、ミニマムアクセスの輸入が開始され、減反政策と食生活の変化にともなう消費量の減少から8パーセントとなっている(表2、図2)。
このような中で、稲作転作等による農業生産構造調整が実施されるとともに、野菜、果実、花き、水産物、豚、肉鶏、鶏卵の7部門が重点部門として振興されている。
野菜生産は、2012年の作付面積では中部地域が46.9パーセント、南部地域が34.7パーセント、生産量では中部地域が56.2パーセント、南部地域が27.4パーセントを占め、主に中部と南部地域において生産されている。また県別に見ると、中部地域の雲林県が作付面積の26.6パーセント、生産量の31.7パーセント、彰化県が同8.9パーセント、同12.9パーセント、南部地域の台南市が同9.8パーセント、同8.2パーセント、嘉義県が同9.7パーセント、同7.1パーセント、屏東県が同8.9パーセント、同6.8パーセントとなっている(表3)。
野菜の栽培・収穫期間は、水田裏作の11月~翌1月、一期の2月~6月、二期の7月~10月の3期に大別される(図3)。生産量は、天候が安定する冬季の11月~1月が多く、多くの品目で過剰生産となっており、政府も11月~1月における需給調整および輸出促進支援を実施している。一方、夏季にあたる7月~10月は、気温が高く、台風等の災害も多いことから生産量の変動が大きい。
野菜(いも類を除く)の自給率は、2003年の93.4パーセントから2007年に87.4パーセントにまで低下したが、2012年には90.2パーセントまで回復している。これを類別に見ると、根菜類の自給率は、にんじんが消費増加に伴い生産量が増加しているものの、だいこんの生産量の減少、輸入増加などにより低下傾向にあり、葉菜類では、キャベツ、レタス等が消費増加に伴い生産量が増加しているものの、はくさい、空芯菜等の伝統的野菜の消費量の減少・生産量減少により低下傾向にある。他方、花果菜類では、トマト、カリフラワー、えだまめ等の生産回復により自給率は上昇している(表4)。
農林水産物貿易は1976年以降、輸入超過が継続しており、近年では、ほとんどの農産物において、輸入額が増加傾向となっている。一方、近年の輸出額は、すべての品目で増加傾向にあり、変動が大きいものの、2010年以降では増加傾向となっている(表5、6)。
野菜の貿易額(加工品を含む)では、輸入額は増加傾向となっており、輸出額も減少傾向から増加傾向に転じている。
2012年における主な輸入野菜は、ばれいしょが輸入総額の37.9パーセントを占め、次いでスイートコーン9.8パーセント、たまねぎ6.8パーセント、トマトとカリフラワーおよびブロッコリー4.8パーセント、えんどう4.4パーセント、レタス3.2パーセント、キャベツ3.1パーセント、はくさい2.3パーセントと、国内生産が減少しているはくさいの輸入が増加している。
主な輸入先国は、米国が38.6パーセントを占め、次いで中国30.5パーセント、タイ25.5パーセント、ドイツ13.8パーセント、オランダ11.4パーセント、ベトナム11.2パーセント、カナダ10.4パーセント、韓国9パーセント、インドネシア7.2パーセントとなっている。日本からの野菜輸入は6.9パーセントと少なく、主要品目は、ばれいしょ、えんどう、きのこ、にんじん、スイートコーン等となっている(表7)。
一方、2012年における主な輸出野菜は、えだまめが輸出総金額の42.9パーセントを占め、台湾の野菜輸出の中核となっている。次いでレタス4.6パーセント、たけのこ2.5パーセント、きのこ2.4パーセント、しょうが2.3パーセント、にんじん1.9パーセント等となっている。
主な輸出先国は、日本が最大の輸出先国であり、野菜輸出総額の55.6パーセントを占め、次いで米国23.0パーセント、香港4.5パーセント、シンガポール4.3パーセント、中国3.3パーセントとなっている(表8)。
生鮮野菜の主な輸入期間は、台風の襲来により、作柄の変動が大きい6月~10月である。
最大の輸入品目はたまねぎであり、次いでカリフラワー・ブロッコリー、レタス、キャベツ等、やまいも、ばれいしょ、アスパラガス、はくさい、セルリーなどとなっている。生鮮野菜の輸入は、台湾国内産の作柄により変動するが、生産量が減少しているたまねぎ、サラダ需要が増加しているレタスの輸入増加が著しい。レタスは、冬季においては日本向けに輸出されているが、高温となる夏季においては栽培が難しく、品質も輸入レタスに比べ劣ることから輸入が増加する。にんじん、キャベツ、はくさいなどは、台湾国内産の作柄により変動が大きい。にんじんは、台湾国内産の不作による高騰時に、ニュージーランド、米国、韓国、オーストラリア、日本からの輸入が増加する(表9、図4~6)。
主な輸入先国は、米国、日本、タイ、中国、ベトナム、インドネシア、韓国、ニュージーランドなどである。米国からの輸入は、たまねぎ、レタスなどが増加化傾向となっている。日本はマッシュルーム、レタスの増加、ニュージーランドはたまねぎの増加により、輸入額は増加している。インドネシアは、はくさいなどが増加したものの、シャロットの大幅な減少により輸入額は減少した。
日本産野菜の輸入は、2012年でやまいもが輸入金額の78パーセントを占めており、次いでマッシュルームが16パーセント、にんじんおよびかぶ0.7パーセント、リーキ等、かぼちゃ、レタスが0.3パーセントとなっている。日本産野菜の輸入量は、台湾国内産の作柄に大きく影響されるが、2010年以降では、マッシュルームを除くと輸入量および輸入額は減少傾向となっている(表10)。
やまいもの輸入量は、健康志向の高まりから味の良い日本産やまいもの輸入が増加傾向にあったが、台湾の国内生産における日本品種の導入や、台湾国立大学による品種改良、栽培指導の向上により、台湾産が日本産に近い品質に達していることから減少傾向となっている。また、やまいもの台湾国内の生産は、2006年の作付面積593ヘクタールから、2012年478ヘクタールと減少傾向となっており、やまいもの消費量の減少と相まって、輸入量減少の要因と推察される(表11)。
台湾のレタス生産は、1999年以降、米国からの輸入の増加に従い減少したものの、冬季における日本のファストフードへの輸出が開始された2002年には再び増加傾向に転じ、また、国内のファストフード店の増加およびサラダ需要の増加にともない、国内生産量および輸入量は増加傾向である(表12、13)。
レタスの消費は、主にファストフードのカップサラダ需要などの業務用需要と、家庭におけるサラダ需要に大別される。夏季におけるレタスの輸入需要量は、1週間360トン(12トン×30コンテナ)とされる。
日本産(写真1)は、巻が緩く日持ちが短いものの品質が高いことから、主に百貨店や量販店の店頭に並び、夏季のサラダ需要として人気が高い。輸入価格(C&F)は、1キログラム当たり日本産60元、米国産40元(写真2)と価格差はあるものの、夏季は野菜の台湾国内の価格が高いこと、日本産は品質が高いことから、家庭用サラダ需要(写真3、4)では輸入価格差は問題ないとされる。しかし、着荷の品質劣化が多い場合には、輸入企業の販売価格が600グラム当たり30元以下と安価な業務用(量販店向け同49元)に仕向けられることから、日本産はリスクが高いとされる。2012年の日本産輸入においては、着荷段階での水分含有量が高く品質劣化が大きかったことから大幅な損失となっていた(写真5、6)。
一方、最大の輸入先国である米国産は、家庭用サラダ需要のほか、輸入価格が安価であることから業務用需要も多い。
キャベツ、はくさいの輸入量は、台風等により不作となった場合に大幅に増加するものの、青果物流通企業等がインドネシア、ベトナムにおいて天候不順などによる価格高騰に備えて現地生産企業と契約栽培を行っていること、韓国からの輸入では、中国産を韓国において一次加工して台湾に輸出していることから、対日輸入は減少傾向にある(図7、8)。
米国、インドネシア、ベトナム、韓国などからの輸入増加により、日本産野菜の輸入量は減少傾向にあるが、台湾国内産の品質、安全性の向上、施設園芸、野菜工場などの導入による台湾国内産の供給力の向上も、日本産生鮮野菜輸入量減少の要因となっている。
台湾の認証制度は、GAP(吉園圃)、有機認証が整備されており、台湾独自の認証として、主要原料が国産であることに加え、衛生・安全条件の適合、品質・規格の適合、包装表示の適合を定めたCAS(Certified Agricultural Standards、優良農産品)がある。GAP認証ほ場面積は、2008年1万4371ヘクタールから2012年は2万5073ヘクタール、有機認証面積ほ場は、同2,356ヘクタールから5,558ヘクタール、CAS認証工場数は290工場から348工場と、国民の安全性への関心の高まりから増加傾向となっている。
さらに、食品の生産、処理、加工、流通、販売等各段階の情報を追跡でき、食品の安心、安全を求め、「農場」から「食卓」まで一貫した安心システムを保証する産銷履歴制度(トレーサビリティ)も整備されている。
また、近年では、LEDを用いた野菜工場も25工場が建設されており、夏季における葉菜類の国内供給が増加している。この結果、夏季における葉菜類の自給率の向上が図られている。
日本種子の導入、台湾国立大学による栽培技術指導による品質の向上、GAPなどの認証野菜の普及により、認証野菜と慣行栽培野菜との価格差は縮小しており(調査では、慣行栽培野菜が35元に対し、90元であった有機野菜が現在は45元)、日本産野菜に対する需要の減少につながっていると考えられる(写真7~11)。
台湾においては、日本産野菜は品質が高く安全と認識されているが、台湾国内産野菜の品質および安全性の向上に伴い、台湾産との競合が強まっている。夏季のレタスにおいては、日本産は主として量販店や百貨店で販売される家庭用サラダ需要であり、味および鮮度が良い日本産ならではの野菜として消費されている。一方、やまいもにおいては、台湾における日本種の導入、栽培技術の向上により、日本産の需要が減少傾向にある。日本産野菜には、家庭向けのサラダ用レタスのように、日本産ならではの味や品質が求められるようになっているとともに、業務用に対応した巻の固いレタスの輸出ルートの開拓や台湾の需要の多い鍋物に適した野菜など、台湾の消費形態に合わせた品質を兼ね備えた野菜の輸出が求められている。
また、2011年の東日本大震災に伴う輸入規制が大きな影響を与えている模様である。これにより、新たな日本の輸出産地の開発を余儀なくされ、安全証明の取得、放射線物質検査費用、検査による店頭販売期間が短くなるという問題などが指摘されている。安全性をアピールするものとして検査合格シールなどの表示のあり方の重要性も指摘されている。
(1台湾元=0.29円:2013年12月末日TTS相場)
輸入野菜においては、252項目の残留農薬検査が実施されており、検査項目以外のものでは0.01PPMの基準が適応される。なお、台湾で使用されていない農薬については、輸出先国政府の台湾政府への申請に基づき、1~2年間の調査が行われ、使用可否や残留基準などが定められる。
(参考)台湾農産物輸入制度関連HP
台湾の輸入関連制度(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/pps/j/search/ekuni/as/taiwan/
生果実、果菜類等の品目で輸出できないものはないが、植物検疫証明書の添付の義務のある品目等を細かく解説
中華民國輸入植物或植物産品檢疫規定
www.baphiq.gov.tw/public/Data/86416515671.doc
殘留農藥安全容許量
https://consumer.fda.gov.tw/Law/PesticideList.aspx?nodeID=520