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海外情報(野菜情報 2013年12月号)


生産コスト上昇が継続する中国野菜の生産・輸出の動向

調査情報部 審査役 河原 壽


【要約】

 中国の野菜産業は、重要な輸出産業となっており、作付面積および生産量は増加傾向となっている。また、施設面積も増加傾向にあるが、加温日光温室やガラス温室は先進的な企業などごく一部に過ぎず、75パーセントをビニールハウスが占めている。
 野菜輸出産地は、山東省、江蘇省、福建省など南北に広がっており、周年で生産および輸出される。また、甘粛省や雲南省など、内陸部の産地などでは、山東省や福建省の輸出企業を通じて輸出される。
 野菜の生産コストおよび加工コストは、労働者賃金や資材価格などの上昇、穀物などの他作物の価格上昇による地代の上昇により増加傾向となっており、中央政府は、流通コストの削減対策により、野菜価格の安定を図っている。
 生産・加工コストの上昇による輸出価格の上昇は、野菜輸出産業の国際競争力の低下につながる。中国は、生産や輸出野菜に係る残留農薬などの安全性の管理の水準を見ると、労働者賃金が安価な東南アジア諸国などに比べ高いことから、短期的には東南アジア諸国などへの大幅な生産シフトはないと推測されるものの、東南アジア諸国などにおける開発が、中国を補完する供給国、チャイナプラスワンとして進行すると推測される。

1 野菜生産動向

 中国の野菜作付面積および生産量は増加傾向にあり、2011年には作付面積1,964万ヘクタール、生産量6.79億トン(表1、表2-1)と過去最高となり、野菜生産総額は、1兆2438億元(20兆1993億円、1元16.24円)と、農産物生産総額の33.6パーセントを占める。中国農業部によれば、2010年農民1人当たり平均収入における野菜収入の占める割合は14パーセントを占め、野菜生産労働力は約1億人、野菜の加工、貯蔵、輸送、販売などに関連した労働力は約8000万人と推計されている。また、2011年の輸出数量は772万トン、輸出金額は93億4993億ドルと、野菜は重要な農産物輸出品目となっており、野菜産業は、中国農業にとって重要な部門となっている。

(2)生産地域

2011年における野菜生産地域を省別にみると、全国野菜作付面積の約9パーセントを山東省および河南省が、同約6パーセントを江蘇省、広東省、四川省、湖南省、河北省が占めている。最大の産地である山東省の野菜作付面積は、1993年では四川省、広東省に次ぐ74万ヘクタールであったが、2011年では2.4倍の179万ヘクタールとなり、第1位となっている。生産量も山東省が第1位、次いで、施設野菜の栽培が多い河北省、はくさい、キャベツ、だいこん等の重量野菜の栽培が多い河南省、たまねぎ、にんにく、れんこん等の土もの野菜の生産が多い江蘇省が、山東省に次ぐ生産量となっている(表2-1)。
 品目別に作付面積・生産量を見ると、伝統的に消費量が多いはくさいが大幅に減少し、瓜菜類、茄菜類(果菜類)が大幅に増加しており、食生活の洋風化が進んでいると思われる(表2-2)。


(3)施設面積

 中国の施設面積は、2000年代にビニールハウスを中心として急速に増加した。
 2012年の施設面積では、75パーセントをビニールハウスが占めており、無加温日光温室は24パーセント、加温日光温室やガラス温室は先進的な企業や研究機関などごく一部に過ぎない(表3-1)。施設導入地域を見ると、野菜生産量の多い山東省、河北省、遼寧省、江蘇省が多い。また、部門別では、野菜が94パーセント、花きが4パーセント、果樹が2パーセントと、中国の施設栽培は野菜生産が主体となっている(表3-2)。野菜の品目別では、きゅうり、トマト、なす、パプリカ、メロンといった果菜類および果実的野菜、ステム(茎)レタスが主体となっている(表3-3,4)。



(4)主要輸出地域

 2011年の野菜貿易を見ると、輸入金額3億6100万ドルに対し輸出金額は93億2200万ドルと、大幅な輸出超となっている。野菜の主要輸出地域は、2011年では上位5地域、山東省、福建省、湖北省、雲南省、江蘇省で71パーセントを占めている(図1-1)。山東省および福建省は、主要な野菜輸出地域であるとともに主要野菜輸入地域であり、加工貿易地域ともなっている(図1-2)。


2 野菜価格の動向

 2011年の消費者物価指数は、前年の野菜価格の高騰による作付面積および生産量の増加により、春季の野菜価格が暴落したが、夏季以降は再び上昇基調に転じ、2011年の全期間においては前年並みとなった。2012年は、2011年夏季以降の上昇傾向が継続し、対前年16パーセントの上昇となった(図2)。

(1)野菜価格の上昇要因

① 労働者をめぐるコストの上昇

 最低賃金引上げや社会保険加入の厳格化および企業負担増などにより、労働者をめぐる生産コストは上昇している。農業関連部門では、他産業に比べ労働環境が厳しく「労働者吸引力」が劣ることから、労働者確保のための宿舎設備や食事の改善など労働者福祉面のコストも上昇している。また、農村企業の発展による、農村部から沿海部の輸出加工企業への労働者供給力が減少しており、沿岸部の輸出企業においては、労働者の確保が難しくなっていることも労働者賃金上昇の要因となっている。

②生産資材の上昇

 原油価格の高騰などにより、肥料、農薬などの生産資材、輸送費が上昇しており、生産コスト上昇の一要因になっている(表4)。

③穀物価格上昇に伴う地代の上昇

 とうもろこしや小麦などの穀物価格の高騰は、輸出農産物価格にも大きな影響を与えている。輸出野菜生産企業が農家や村から賃貸借により農地を集積する場合は、地代がとうもろこし栽培の収益を基準に決定され、また、契約栽培を行っている農家から買付ける場合には、契約野菜の買付価格は、とうもろこしがもたらす収益を基準に決定されている。とうもろこし価格の高騰は、農産物の買付価格や地代の上昇をもたらし、農産物価格の上昇を招いている。2009年以降の大幅なとうもろこし価格の上昇を背景に、地代も大幅に上昇している(表5)。

3 主要対日輸出産地の生産・輸出(生鮮)動向

 主要対日輸出品目(たまねぎ、にんじん、ねぎ、ごぼう、キャベツ)の主要産地の作付面積は、2011年の春季の価格暴落を受け、山東省などでは減少した品目が多いが、冬季の産地である福建省は安定している。

(1)たまねぎ

 主要対日輸出産地は山東省、甘粛省、雲南省であるが、2012年の作付面積は、春季の国内価格下落により減少した(表6-1)。甘粛省、雲南省の対日輸出においては、山東省や福建省に輸送され、皮むきなどの加工を経て対日輸出されることから、山東省が対日輸出の50パーセント以上を占めている(表6-2)。
 最大の輸出先は、日本である(図3)。

(2)にんじん

 主要対日輸出産地は、山東省、福建省であるが、2012年の作付面積は、春季の国内価格下落により減少した(表7-1)。対日輸出は、山東省、福建省が70パーセント以上を占めているが、山東省においては、内蒙古自治区などで生産されたものが山東省で洗浄などの調整を経て対日輸出される(表7-2)。
 最大の輸出先は、日本である(図4)


(3)ねぎ

 主要対日輸出産地は、山東省、福建省であるが、2012年の作付面積は、春季の国内価格下落により、山東省章丘市など国内向け作付面積が大幅に減少した(表8-1)。対日輸出は、山東省、福建省で対日輸出の80パーセント以上を占めている(表8-2)。
 なお、輸出量の90パーセント程度は対日輸出が占めるものの、韓国国内産の作柄が悪い場合には、韓国への輸出量が大幅に増加する(図5)。


(4)ごぼう

 主要対日輸出産地は、江蘇省徐州市、山東省である。2012年の作付面積は、中国国内の消費量が、所得の向上や健康志向の高まりから増加しているため、安定して推移している(表9-1)。ごぼうの輸出量は、その他根菜類として分類されているが、2012年の日本の中国からの輸入量が4万5511トンであることから、その他根菜類の対日輸出量の大半はごぼうと推測される。対日輸出量の80パーセント程度は、江蘇省からの輸出となっている(表9-2)。
 最大の輸出先は、日本である(図6)


(5)キャベツ

 主要対日輸出産地は、山東省、福建省であるが、2012年の対日主要輸出産地の作付面積は、春季の国内価格下落により減少した(表10-1)。対日輸出量は、日本国内の作柄により大きく変動するが、2010~2012年においては、日本の天候不順による作柄不良により、対日輸出量は大幅に増加した。対日輸出量は、山東省、福建省が50パーセント程度を占めている(表10-2)。
 最大の輸出先は、日本である(図7)


4 輸出冷凍野菜企業における生産コストの動向

 近年における原料生産コストは、労働者賃金、地代、肥料費の大幅な上昇により、増加傾向となっている。また、冷凍加工コストにおいても、賃金の大幅な上昇により、増加傾向となっている。一方、資材費においては、供給者との長期契約・一括購入や、中国国内における包材分野の競争激化を背景に、資材費の上昇は抑制されている。また、農薬費においては、企業が栽培する作物に係る農薬を一括購入すること、年により使用する量も病虫害の発生状況により変動することから、緩やかな上昇となっている。種子費については、輸入種子(米国、日本等)を使用しており輸入価格は安定していること、元高であること、F2種子の購入や自家採取も多いことから変動は小さい。種子、肥料、農薬などの農業投入財については、政府の価格モニタリングにより急激な価格上昇は抑制されいる模様である。なお、化学肥料の投入量は年々増加傾向にある。
 生産コストに占める地代、肥料、人件費の割合は、どの品目も、地代が40パーセント弱、肥料が20パーセント程度を占めているが、人件費は、都市化が進んでいる地域の産地では20パーセント程度、都市化が進んでいない地域では15パーセント程度となっている。また、ごぼうなど、連作障害により産地が遠隔化している品目では、輸送費が増加している(図8-1~8)。




5 輸出冷凍野菜企業における生産および加工コスト上昇に対する対策

 輸出冷凍野菜企業は、原料生産コストおよび冷凍加工コストの上昇に対応するため、販売においては、主要都市の量販店、高級レストランとの直接取引による、冷凍野菜の国内市場の開拓や原料野菜の国内販売の拡大、冷凍ミックス野菜などの新商品の開発を行っている。原料野菜の生産においては、播種機や散水機の導入などの機械化、農地の複数年賃貸借による地代の抑制、農場における管理者の削減による栽培管理コストの縮減を図っている。加工工程においては、原料野菜の工場搬入におけるフォークリフト導入、洗浄機導入などの設備導入による労働者の削減、1日当たりの労働時間の延長を行っている。流通においては、物流会社との長期契約による、工場から輸出港、輸出港から輸出国の港までの海上輸送の流通コスト縮減、加工工場に隣接した産地の開発による産地と加工工場間の流通コスト縮減を図っている。
 なお、中国の青果物流通は、常温や簡便な保温による流通が多く、流通ロスが20~30パーセントにおよんでいる。現在、2010年の「農産物コールドチェーン物流発展計画に係る通知」に基づき、低温流通の整備が進められているが、上海などの一部地域では、大型低温物流センターが建設されて整備されつつあるものの、野菜の低温輸送率は10パーセント未満とされ、大部分は一般貨物車による常温輸送である。低温輸送コストは、一般輸送のコストより20~30パーセント高くなるため、多くの企業における短中距離輸送(500km以下)は一般輸送であり、冷凍流通の整備は、かなり低いものとなっている。コールドチェーンの整備には自己投資が必要になり、販売価格に転嫁できないことから、冷凍野菜の国内販売は難しい状況となっている模様である。

6 中央政府の流通コスト抑制政策

 中央政府は、国内および輸出価格の上昇に対し、高速道路の通行料の免除する緑色通道政策の実施、コールドチェーン整備による流通ロスの削減、卸売市場等の流通における増値税(付加価値税)の免税などの流通政策を行ってきた。政府は、野菜価格高騰の要因の一つである国内流通を整備するため、「流通体制改革の深化・流通産業発展の加速に関する意見」により、「近代的な流通システムの建設」の必要性を指摘し、「流通経費の低減・流通効率向上の総合対策方案の通知」(国務院2013年1月)により、一定規模以上の野菜生産に係る水と電気料金に対し、一般農民に適用される農業料金を適用するなど、以下の10の政策を打ち出した。

【流通経費の低減・流通効率向上の総合対策方案の概要】

一、農産物の生産・流通段階における水、電気料金および運営費用の削減

 ・ 一定規模以上の養豚、野菜などに要する水、電気料金を農業料金水準に引下げ(農業料金水準が適用されていない都市化の進んでいる地域などにおける導入の模様)

 ・ 農産物卸売市場、自由市場の電気料金を工業用料金水準に引下げ

 ・ 農産物卸売市場、自由市場の水料金の引下げ

 ・ 農産物コールドチェーンに係る冷蔵庫用電気料金を工業用料金水準に引下げなど、2013年6月30日に実施

二、農産物市場の利用料金の規範化と引下げ

三、小売商等における取引管理強化

四、農産物輸送における緑色通道の厳格な実施⇒原則、通行料を全て無料化

五、重点とする業界(公益企業、公益性サービス)の価格と料金の管理強化

六、価格管理・検査体制の強化と反独占の強化

七、財政政策の整備

 ・ 野菜の流通段階の増値税の免税(12年1月~)、肉および卵製品へ拡大(12年10月~)

 ・ 2013年1月1日~2015年12月31日、農産物卸売市場、自由市場の都市土地使用税および不動産税の免除

 ・ 零細流通企業への企業税軽減、交通運輸に係る税の引下げ

 ・ 農村市場と農産物流通基盤施設の建設

八、都市部政府による卸売市場、自由市場用地に係る土地計画制定(土地取得を優先)

九、都市部における配送に係る規則を整備し、配送コストの低減を図る

十、流通コスト調査統計の整備

7 輸出企業における為替変動リスクへの対応

 2012年6月に円元直接取引が開始されたものの、中国の輸出企業の多くは、円元に比べ米ドル元の為替変動が小さいことから米ドルによる代金決済が主体となっている(図9)。近年における米ドルに対する急激な円安は、日本側の円決済額の増加となることから、輸出価格の引き下げを求められる場合もあり、2012年においては、山東省の多くの輸出企業が円安による損失を計上している状況であった。一部の企業では為替予約により為替リスクを回避する企業もあるが、中国においては為替予約に対応できる銀行は少なく、中国の輸出企業にとって為替変動は大きなリスクとなっている。

まとめ

 地方政府が定める最低賃金は上昇しており、中央政府は「就業促進規画」(2011~15年)により、期間中に全国最低賃金を年平均13パーセント以上引き上げるとしている。また、新華社によれば、労働年齢人口(15~59歳)は、当初予測の2015年より3年早く 、2012年に減少した模様である。労働者賃金や地代の上昇、資材やガソリン価格の上昇による、生産および輸送コストの上昇は継続すると推測される。
 これに対し、中国政府は、非効率な流通システムの改革、加工および流通段階における光熱水道経費の削減により、コスト削減を図る政策を打ち出し、農産物の国内価格の上昇に対応しようとしている。
 原料生産および加工コストの上昇は、輸出価格の上昇となり、農産物貿易にとって重要な位置を占める野菜輸出産業の国際競争力低下につながることとなる。中国は、生産や輸出野菜に係る残留農薬などの安全性の管理の水準、近年注目されている労働者賃金が安価な東南アジア諸国などに比べ高いことから、短期的には東南アジア諸国などへの大幅な生産シフトはないと推測されるが、東南アジア諸国などにおける開発が、中国を補完する供給国、チャイナプラスワンとして進行すると推測される。



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