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海外情報(野菜情報 2013年5月号)


中国有機野菜の生産・流通課題と管理監督制度

中国社会科学院農村発展研究所 研究員 曹斌
東京農業大学大学院農学研究科農業経済専攻・博士後期課程 楊岩


【要約】

 中国においては有機野菜と普通野菜の価格差は2~5倍以上といわれている。それだけ有機野菜の栽培には多量な資材、人件費などのコストが掛かるということであるが、近年、有機野菜の販売における普通野菜の混入等が問題となっている。中国国家質量監督検査検疫総局(AQSIQ)と中国国家認証認可監督管理委員会(CNCA)1)はこの問題に対し、一連の政策を打ち出し、問題の解決を図った。本稿では、中国有機野菜の生産・流通課題の所在を分析する上、新たな管理監督制度の骨子とその影響などについて紹介する。

一、有機野菜の生産・消費現況

 中国は、1994年に国際有機農業運動連盟(IFOAM)2)が策定した「有機農業と加工のIFOAM基礎基準」に基づく、中国認証認可協会(CCAA)による有機野菜を含む有機製品3)認証制度を発足した。その後、所得増加による需要の増加を背景に、有機製品の生産量は徐々に増加した。「2012年世界有機農業年鑑(抜粋)」4)によると、2010年に、中国有機農産物の耕作面積は139万ヘクタールに達し、耕地総面積の約0.3%を占める。有機野菜の場合、これまで公表されたデータがなく、断片的な文献を整理すると、2010年に、中国全土には有機野菜生産企業は1,000社を超えた。その生産の約70%は、北京市、上海市郊外および四川省、湖南省、広東省などの地域に集中している。
 消費状況については、中緑華夏有機食品認証センター(COFCC)の調査によると、2009年に中国産有機農産物輸出額は4億6400万ドルに達し、同期中国農産物総輸出金額の1.2%を占める。また、2009年の有機食品5)消費金額は106億元(約15億8700万ドル)、中国食品総消費金額の0.2%を占める。そのうち、有機野菜の消費金額は上海市が最も多く、富裕層、海外駐在員などを中心に、年間約6億元以上に達している。また、近年、所得増加と食品安全問題に対する関心が高まっている中で、有機野菜の消費量は年間10%以上の速度で増加しているとされる。

二、有機野菜の生産・流通課題

 有機野菜の生産・流通課題は、次の4つが挙げられる。①認証機関の問題、②有機栽培移行期における販売の問題、③有機野菜を保証する表示の問題、④一般野菜の混入の問題である。これらの問題を引き起こした要因は以下の二つがある。
 中国における有機野菜の生産は、既存研究でも解明されたように、ほとんど「企業+農家」あるいは「企業+生産基地+農家」という方式により栽培されている。つまり、企業は農家を組織、あるいは農地を集約して農家に栽培を任せる。企業は生産前に種子、肥料など資材を農家に無償提供し、生産計画も示す。生産過程中、栽培技術も指導する。農家は企業の指導を受け、収穫した野菜は契約価格で全量企業に納入される。この生産方式は農家にとって農産物の販路確保、技術保証を実現した一方、企業にとっても労賃、日常管理などの生産コストを削減できるメリットがある。しかし、この生産方式は、病虫害の発生などにより減産となった場合、生産量の確保が難しいこと、農家の収入が大幅に減少すること、また、企業にとっては有機野菜の信用を確保しにくいことなどが問題である。
 また、有機野菜の流通においては、2005年に公表された「有機製品認証管理弁法」において、CNCAが有機認証制度、登録認証機関を監督し、各地方のAQSIQと国家輸出入商品検験検疫局(CIQ)が管轄地域内の有機製品の登録認証機関を監督するとともに、認証を取得した企業の農場と製品を検査することを明確に規定した。しかし、CNCAは認証基準の制定機構であることから、企業の生産状況を直接に検査、監督能力が限られており、また、AQSIQは有機食品だけではなく、農産物、食品および工業製品全般を検査対象にしているが、中国では零細な農家、農場が多く、AQSIQは限られている予算で市場検査を行うため、検査範囲、頻度は不十分である。このため、生産段階および流通段階における認証などの問題が生じている。

三、有機野菜の管理監督制度

 AQSIQ とCNCAは、「有機製品の認定に関する規則」を改正し、「有機製品の認証に関する規則(2012年改正)」および「有機製品国家基準(2012年改定)」6)により構成される新制度を2012年3月1日に実施した。その目的は、有機製品に対する信頼を回復させることにある。その骨子は下記の通りである。

1、有機製品認証検査員登録制度の厳格化

 有機製品認証検査員(以下、検査員という。)は有機認証の申請を審査、現地確認する資格を有する作業員であり、以前から登録制を取っていた。しかし、認証申請の案件が多くなると、無資格者により審査が実施されていたことが明らかとなった。このため、CCAAは2012年3月27日に、「有機製品認証検査員登録基準(第2版)」を公表し、有機製品認証検査員登録制度の厳格化を行った。従来、検査員の検査資格は、植物類、家畜禽類、水産類、加工類の4つの分野のみであったが、新制度では、より専門性が高い検査のために、検査分野を植物生産、野生植物採集、食用菌栽培、家畜禽養殖、蜂蜜と蜂製品、水産養殖、加工の7つの分野に分けられた。また、検査員の専攻、学歴、職歴などを厳格に示し(表1)、専門知識を持つようになっている。

2、認証機関の申請・管理制度の厳格化

 新制度は、登録認証機関が有機製品の認証・監督の重要な組織だと認識し、認証機関への監督を厳格にした。まず、「有機製品の認証に関する規則(2012年改正)」では「認証機関は『中国認証認可条例』により定めた条件と有機製品を認証できる技術能力を備えるべき」と新たな条例を追加した。この規定によって、第一に認証機関は登録する際に、10名以上の検査員資格を有する専業検査員を有しなければならないとした。また、検査員の構成は、少なくとも高級検査員4名、一般検査員6名を備えなければならない。第二に、検査方法を明確にした。日常な残留農薬検査以外に、その年に発行した総認証証書数の5%の認証企業に対して事前通知なしの立ち入り検査を実施することとし、同じ検査員は3年間以上は同じ検査対象企業に対する検査を禁止した。第三に、認証機関への罰則を厳格にした。AQSIQは市場で有機認証を有する製品を不定期にサンプリング検査を実施するが、旧制度では国家基準(GB2763)に基づく検査により認証の5%以上の違反を発見した場合、認証を許可した認証機関は関連責任を取るとされていたが、新制度では「ゼロ検出」基準を決定した。これによって、認証機関の関連責任はより重くなった。

3、生産企業への管理・罰則の厳格化

 新制度は、生産企業に対する管理、罰則を厳格に取る方針である。まず、サンプリング検査の頻度を高めた。①生産前、認証申請ほ場周辺の大気、土壌、水質の検査頻度を3年間1回から年1回に変更した。②残留農薬検査は以前、年に1回のみであったが、新制度では野菜種類別、収穫ごとに検査を行うように要求した。例えば、あるほ場に20種の野菜を生産したら、20種類の野菜に対して全て残留農薬サンプリング検査を実施する。また、年に3回収穫できるチンゲン菜の場合は、毎回、収穫してから検査を受ける必要がある。この場合、一つのほ場での農薬検査回数は20種×3回=60回になる。③流通段階においては、量販店は入荷時、「有機製品認証証書」のコピーの取得および消費者が見やすい箇所にそれを展示する義務が付された。また、工商行政総局は、スーパー、小売店などで不定期にその適正検査を実施するように規定された。第二に、検査機関を明確にした。AQSIQと認証機関は、ほ場の抜き打ち検査ができることを規定した。第三に、罰則を厳格にした。新制度では、①認証量の超過販売、禁止農薬・化学肥料使用が発覚すれば、認証を直ちに取り消し、最長5年間有機認証の申請を許可しないこと。②関連制度に違反する場合、最大10万元の罰金、さらに責任者に最大5万元の罰金を科し、刑事責任を追及する場合もある。③一般野菜が有機認証野菜として販売されたと確認された場合、商品、収益没収、罰金を科せられ、最悪営業謄本を取り消されることなどを規定した。

4、認証取得情報の公開の義務化

 新制度は官民一体になった市場監督体制を構築する狙いで、トレーサビリティシステムを導入した。「有機製品国家基準(2012年改定)・管理体系」には「有機製品生産企業は関連の生産履歴を5年間保存しなければならない」と明確に規定した。また、最小量の包装に有機製品トレーサビリティシール(以下、有機シールという。)(図1)を貼り付ける義務が付けられた。また、有機シールの取得はCNCAと登録認証機関による厳格な管理のもとに置かれる。その取得手順は下記のとおりである。
 1)有機野菜生産企業は、認証更新あるいは新規申請時、生産計画書と包装形態を認証機関に申告する。
 2)登録認証機関はCNCAに申請企業の生産計画書と包装形態を通告する。CNCAはそれに基づき、必須な有機シールの数量を計算し、トレーサビリティナンバーを発行する。例えば、A社の場合、年間500キロのほうれんそうを生産する予定、市販の包装は0.25キロのパックである。この場合、500キロ÷0.25キロ=2,000枚のナンバーが与えられる。
 3)登録認証機関は資格がある印刷工場で有機シールを印刷して、申請企業に与える。
 4)申請企業は有機シールを製品の最小包装に貼り付け(図1)、スーパーなどの量販店に出荷する。
 消費者は有機野菜を購入してから、http://food. cnca. cnから有機シールに印刷してある17桁のナンバーを入力すれば、購入した有機野菜の生産会社名、認証証書の有効期間、商品名称、包装重量などの認証情報を確認できる(図2)。相違が発覚すれば、直ちに関連の認証機関あるいは地元の管理監督機関に申し出ることができる。
 このトレーサビリティシステムは、世界で最も厳格な有機製品の監督システムといわれている。

4、認証取得情報の公開の義務化

 新制度は官民一体になった市場監督体制を構築する狙いで、トレーサビリティシステムを導入した。「有機製品国家基準(2012年改定)・管理体系」には「有機製品生産企業は関連の生産履歴を5年間保存しなければならない」と明確に規定した。また、最小量の包装に有機製品トレーサビリティシール(以下、有機シールという。)(図1)を貼り付ける義務が付けられた。また、有機シールの取得はCNCAと登録認証機関による厳格な管理のもとに置かれる。その取得手順は下記のとおりである。

 1)有機野菜生産企業は、認証更新あるいは新規申請時、生産計画書と包装形態を認証機関に申告する。

 2)登録認証機関はCNCAに申請企業の生産計画書と包装形態を通告する。CNCAはそれに基づき、必須な有機シールの数量を計算し、トレーサビリティナンバーを発行する。例えば、A社の場合、年間500キロのほうれんそうを生産する予定、市販の包装は0.25キロのパックである。この場合、500キロ÷0.25キロ=2,000枚のナンバーが与えられる。

 3)登録認証機関は資格がある印刷工場で有機シールを印刷して、申請企業に与える。

 4)申請企業は有機シールを製品の最小包装に貼り付け(図1)、スーパーなどの量販店に出荷する。

 消費者は有機野菜を購入してから、http://food. cnca. cnから有機シールに印刷してある17桁のナンバーを入力すれば、購入した有機野菜の生産会社名、認証証書の有効期間、商品名称、包装重量などの認証情報を確認できる(図2)。相違が発覚すれば、直ちに関連の認証機関あるいは地元の管理監督機関に申し出ることができる。
 このトレーサビリティシステムは、世界で最も厳格な有機製品の監督システムといわれている。

四、有機野菜生産・流通に対する新制度の影響

1、生産コストが大幅に上昇

 新制度実施後、有機野菜の生産コストは約20%上昇した。これに関して、筆者は現在、北京有機野菜市場シェアの80%以上を占める「北京欧閣有機農庄科貿発展有限公司(以下、北京公司という。)」にヒアリング調査を実施した。その結果は下記のとおりである(表2)。

 1)環境検査費 旧制度は空気、土壌、水質への検査が3年間に1回の頻度で実施されていたが、新制度は、年に1回とされた。これによって環境検査費は以前より3倍増加した。

 2)残留農薬検査費 残留農薬検査は登録認証機関によるサンプリング検査と生産会社の自主検査の二つがある。前者の場合、年に1回のサンプリング検査から全品目、収穫ごとの検査に変更された。ここで、北京公司を例にすれば、表2で示されているように、2012年には残留薬検査だけで131回を受け、検査費を600元/回とすると、7万8600元となる。また、A社は出荷前に自主検査も実施している。検査農薬は約192種があり、法定項目より多く、検査費も約10万元を要した。

 3)有機シール購入費 有機シールは1枚にあたり0.03元が掛かる。2012年にはA社は約200万枚の有機シールを使用した。総費用は6万元以上となった。

 4)有機シールに係る人件費 有機シールは使用時、はく離紙からはがして有機野菜パックの指定される箇所に貼り付ける。A社は調査時、北京市内のカルフール、メドロン、BHGなど、大手スーパーに出荷している。1日の貼付け作業だけで3~4名の専業職員を増やした。2012年北京周辺の平均労賃は2,000元/月前後とすると、4名の職員だけで9万6000元を要する。また、A社は有機シールの使用を間違わないように、専門職員により有機シールの購入・使用を管理している。その人件費も年間約2万4000元を要する。

2、生産方式の改善の必要性

 新制度の実施は生産企業と登録認証機関への罰則を厳格にしたため、リスクを回避するために、両者とも有機野菜の生産方式の改善が求められている。まず、登録認証機関は「企業+農家」生産方式のリスクが高いとし、この生産方式を採用している生産企業の有機認証の申請については、契約農家が耕作している農地を農家数に合わせて一つ一つ検査すると規定した。これによって検査の手間とコストが多くなった。次に、新制度によって、製品から残留農薬が検出された生産企業は、有機認証が直ちに取り消され、5年間は新たな有機認証申請はできない。これは事実上、同企業が有機野菜市場から排除されることから、リスクが極めて大きい。このため、最近、多くの有機野菜の生産企業は直営農場を作るようになった。

3、求められる高度な生産管理

 トレーサビリティシステムの導入によって、有機野菜生産企業の生産・管理水準の向上が求められるようになった。これは、まず、有機野菜の出荷先が量販店の場合、納品の安定を実現するため、生産企業は少なくとも、年に20種以上の野菜を栽培しないと、周年供給を実現できない。トレーサビリティシステムの導入によって、生産企業は有機シールを取得するために、最短10日前に申告しなければならない。このため、有機野菜の生産企業は以前より厳密な生産計画が求められている。次に、生産企業は数十種類の野菜を多頻度、少量に出荷する中で、有機シールを貼り間違わないように、より厳格に作業現場を管理する必要がある。現在、農業企業に働いている労働者は老人、婦人が多く、社員教育はかなり困難であり、生産管理水準の向上を短期に実現することは困難である。

4、新制度による認証状況の改善

 新制度が公表された2011年末から、多くの登録認証機関は自主検査を強化したことから、認証の取り消しあるいは更新しない生産企業が増加した。これによって、図3で示したように、中国の有機認証証書は2010年以降、徐々に増加したが、2012年3月にピークの1万615枚に達してから、減少に転じ、2012年9月には7,325枚となった。北京市における有機野菜生産会社は7社から3社に減少した。2012年8月3日、広州市緑色食品工作チームは市内大手スーパーで残留農薬のサンプリング検査を実施した結果、合格率が100%であった。

五、新制度が残される課題

 新制度は2012年3月1日に実施され、かなりの効果を取り上げたことを否定できない。しかし、まだ多くの課題も残されている。
 まず、有機野菜の生産特性に合う制度の改善が求められている。有機野菜の生産は農薬、化学肥料を一切使用しないため、天候状況に影響されやすく、計画生産、計画出荷が難しい。しかし、トレーサビリティシステムの導入によって、企業は有機シールを事前に申請しなければならなくなり、その時間は最短10日間である。この間、もし天候状況が突然に変化したら、出荷に間に合わない可能性が十分に出てくる。また、有機シール枚数計算式は「枚数=申告総重量÷申告最小包装重量」である。しかし、かぼちゃ、だいこん、はくさい、サツマイモなど重量が一定しない野菜の場合、すべて収穫時、一本あたりの重量を計り、単価を計算して販売している。例えば、平均重量を計算して有機シールを申請した場合、実際重量は申請重量より少なくなると、顧客をだますことになるから、生産企業は賠償責任を持たなければならない。逆の場合、生産企業の損失が大きい。現在、多くの有機野菜生産企業はこれに苦労している。
 次に、新制度は有機認証を有し、なおかつ量販店を出荷対象にする生産企業を管理・監督するためのシステムであるが、宅配、ネットショップなど生産者と消費者の直接取引をしている場合の管理監督ではない。今後、宅配、ネットショップなどへの監督も、より厳格にさせる必要があると考えられ、制度の改善も期待される。
 最後に、有機野菜の産業規模の拡大を促進できる制度の改善が求められている。新制度はいかにこの産業の発展を促進させるか触れていない。中国は世界7%の農地で世界人口20%以上の人口を養うために、化学肥料と農薬の大量使用を通じて生産力の向上を図った。しかし、近年、地力の衰退、水資源の減少などの問題が深刻になり、有機農業を始め、持続可能な農業生産の拡大が急務である。しかし、今日、有機野菜の需要が日々に高まっている中、消費者啓発活動は依然として各企業により行われている。筆者の調査によると、多くの消費者は新制度の骨子、有機シールの識別方法をよく理解していない。今後、消費者に正確な市場情報を消費者に伝える公益団体の設立や経路の確保などの制度の改善が期待される。


1)Certification and Accreditation Administration of the People’s Republic of China

2)ドイツ・ボンに本部を置く、国際NGO。有機農業を推進するために、1972年フランス・パリ郊外で設立された。世界111カ国、約770団体が加盟しており、世界中で有機農業の普及に努めている。

3)有機製品は有機農産物およびそれを原料にした有機食品、有機化粧品、有機衣料品などの製品を指す。

4)有機農業研究所・国際有機農業運動連盟,2012年世界有機農業年鑑(抜粋),2012,p11.

5)有機農産物を原料にした加工品のことを指す。

6)有機製品の生産、加工、標識と販売、管理体系の4つの部分によって構成される。



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