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海外情報(野菜情報 2012年9月号)


米国の野菜産業を支える流通プログラムと
分業化が進む野菜生産現場

調査情報部 前田 絵梨/村田 宏美


【要約】

 我が国にとって重要な野菜の輸入先国である米国では、安定した価格で一定の品質・規格の農産物を流通させる仕組みとして、連邦マーケティングプログラムが実施されている。これは、農産物の生産・流通に携わる者が自主的に定めた流通上の取り決めに法的な強制力を持たせるというもので、具体的には、流通量、規格等に関する規制、余剰農産物の取り扱いに関する規制などがある。
 当該プログラムは、需給均衡を図り、過度な価格変動を抑えることで、生産者にとっては収入の改善や安定化を、消費者にとっては一定水準以上の農産物を安定した価格で購入できることを目的としており、米国の野菜産業を支える流通プログラムとなっている。

Ⅰ はじめに

 我が国の野菜自給率は重量ベースでみると8割と高いものの、野菜生産は天候条件に左右されることから、産地が天候に恵まれず不作の際には、海外から生鮮野菜などの輸入が増加する。我が国にとって米国は、生鮮・冷凍ともに中国に次ぐ第2位(重量ベース、生鮮:シェア17%、冷凍:シェア37%)の野菜の輸入先国となっている。
 米国には、安定した価格で一定水準以上の農産物を市場に流通させる仕組みがあり、野菜も対象となっている。この仕組みは、農産物流通協定法(Agricultural Mar-keting Agreement Act of 1937)に基づくプログラムで米国農務省農業市場流通局(USDA/AMS)が管轄している。このプログラムは、国際市場における米国野菜の優位性を高める要素のひとつとなっている。本稿では、米国の野菜の流通に関する当該プログラムを紹介するとともに、米国の野菜生産の中心であるカリフォルニア州およびワシントン州の生産現場の現状について報告する。

Ⅱ 米国の野菜産業の概況

1 生産概況(生産の中心は、生鮮・加工向けともにカリフォルニア州)

 2011年における生鮮向け野菜の収穫量は1973万トンで、上位3品目(たまねぎ、結球レタス、スイカ)が全体の37%を占めている。一方、加工向け野菜の収穫量は1547万トンで、上位3品目(トマト、スイートコーン、さやいんげん)が全体の92%を占め、加工品として消費される品目は限られたものとなっていることが分かる。なお、1995年以降は生鮮向け収穫量が加工向け収穫量を上回って推移している。
 野菜生産は全米各地で行われているものの、地域によって収穫量が大きく異なり、上位5州の収穫量の合計が生鮮向けでは全体の約7割を、加工向けでは約9割を占めている。その中でもカリフォルニア州の全米の生産量に占める割合は大きく、生鮮向けは5割、加工向けは約7割となっている。
 一般的に、野菜産地は季節の変化に伴い移り変わる。例えばキャベツ産地をみると、夏場の産地である五大湖周辺では3カ月程度、冬場の産地であるテキサス州では6カ月程度しか生産されないのに対し、南北に長いカリフォルニア州では州内で産地が移り変わるものの一年を通して生産される。また、灌がい施設が整備されていることから水利管理ができるほか、同州の野菜の主産地は、朝夕に発生する霧により、野菜の生育に適した環境となっている。年間を通じて生産が行え、かつ、栽培環境にも恵まれているという他州にはない特性は、同州が米国の野菜生産の中心となっている要因と考えられる。
 また、米国野菜生産の最近の傾向として、温室(greenhouse)で野菜生産を行うケースが増えており、スーパーマーケット等小売店では、食の安全の観点から温室栽培された野菜の取り扱いが増加しつつある。生産されるのは、オーガニック野菜など高価格で取り引きされるものが中心である。

2 消費概況(健康志向の高まりから、野菜消費の中心は生鮮へ)

 一人当たり消費量は1970年代以降拡大し、1996年に130キログラムを超えてからはおおむね安定しているものの、食品価格が高値で推移していることなどからここ数年はやや弱含んで推移し、2011年の一人当たり消費量(ばれいしょを除く。)は127キログラムとなっている。一人当たり消費量の内訳をみると、缶詰向けは1990年代前半をピークに減少に転じている。生鮮向けは2000年代後半からやや弱含んで推移しているものの消費量の約6割を占めている。この背景のひとつに、健康志向の高まりがある。健康のために生鮮野菜から栄養を摂取したいと考える消費者が、缶詰野菜から生鮮野菜へ消費を変えたことによる。また、簡便志向が高まるなか、サラダ向けカット野菜の充実や、店頭販売時も消費者が購入した後もカット野菜の品質が長期間保たれるような梱包フィルムの開発等が生鮮野菜消費を後押ししている。一方、家庭で料理をする場合、手早く調理できる下処理が施された野菜が重宝される傾向にあることから、冷凍向けは安定的な需要がある。
 また、政府による健康的な食生活を促進するための取り組みとして、2011年6月にUSDAにより発表された食事ガイドライン「マイプレート(My Plate)」がある。この中で、十分摂取したい食品として、ビタミンDや食物繊維を多く含む野菜や果物が掲げられ、皿の半分を赤色やオレンジ色、緑色の緑黄色野菜や果物にすることが奨励されている。この背景には、米国で深刻化する肥満問題がある。米国疾病対策センター(CDC)によると、2009年-2010年の肥満割合は大人で35.7%となり、子供については16.9%となっている。このような状況を改善し、健康増進を図るための政府による野菜摂取に関する啓発活動も追い風となり、生鮮向けを中心とする野菜消費量は今後も拡大していくとみられている。

3 貿易概況(NAFTAが貿易の中心)

 生鮮野菜をみると、2011年の野菜総供給量に占める輸出量割合は7%、国内消費量に占める輸入量割合は25%と、輸出国である一方で輸入国でもある。輸出入数量の推移をみると、1996年以降、輸入数量は輸出数量を上回る割合で増加している。
 米国の野菜貿易で特徴的なのは、NAFTA2カ国(カナダ、メキシコ)が貿易の中心となっている点で、輸入量の76%、輸出量の51%がNAFTA域内での貿易となっている。
 NAFTA域外の取引をみると、米国にとって我が国は最大の輸出先国となっており、主な輸出品目は生鮮野菜では、たまねぎ、ブロッコリー、セルリー等、冷凍野菜では、フライドポテト用のばれいしょ、スイートコーン、えんどう等となっている。米国から我が国への輸出数量は、我が国の作況および中国からの輸入数量の増減により変動する。
 日本へ野菜加工品を輸出している米国の輸出業者によると、最近の傾向として、これまで輸入品については中国産のみを利用していた日本企業で、米国産および南米産の農産物を求める動きがあり、当該輸出業者にとっては新たな商機となっているという。なお、日本企業の調達先の分散化は、①食の安全という観点や、②生産コスト上昇を背景に中国産野菜の価格優位性が下がったこと-によるものと考えられる。

Ⅲ 野菜産業を支えるプログラムの概要

1 野菜産業への米国農務省の関わり

 米国の農業において、野菜部門は政府の関与が小さい分野と言われている。その中で、例えばAMSは「フルーツ・ベジタブルプログラム」を設け、①農産物の等級付けや検査、②農産物流通協定法に基づくプログラムの管轄、③マーケット情報の収集・提供、④生鮮農産物法(Perishable Agricultural Commodities Act)に基づくプログラムの管轄、⑤余剰農産物の買い入れ、⑥GAP等、食品の安全・品質を保証する認証プログラム実施-などにより、農産物の価値向上と品質強化に取り組んでいる。
 まず、AMSの掲げる目標、‘農産物の価値向上と品質強化’のベースとなる農産物の等級付けと検査についてみると、AMSは野菜や果物について、生鮮向け・加工向けの標準規格、標準包装等を定めており、本基準に適合したものにはAMSから検査証が与えられる。本基準はあくまで目安であって流通を制限するような法的な強制力を持つものではないが、業界にとって共通の物差しとなることから、一般的にはこの基準を基に取引されている。
 ただし、特定の品目・特定の地域で生産者と流通業者等が自主的に定めた流通上の取り決めに法的な強制力が設けられる場合がある。それが、農産物流通協定法に基づく‘マーケティングオーダーおよびマーケティングアグリーメント’(以下、「連邦マーケティングプログラム」という。)であり、需給均衡を図り、過度な価格変動を抑えることで、生産者にとっては収入の改善や安定化、消費者にとっては一定水準以上の農産物を安定した価格で購入できることを目的としている。

2 連邦マーケティングプログラムの概要

 連邦マーケティングプログラムは、農産物流通協定法に基づき1937年より実施されている。
 1930年代、米国は大恐慌に見舞われ、農産物価格の暴落により農家所得も激減した。このような状況に対応するため、議会は1933年に農産物調整法(Agricultural Adjustment Act)を制定し、農産物の流通量の制限や政府による過剰農産物買い上げを行って、農産物価格の安定化を図った。その後、農産物調整法の一部を踏襲し、農産物流通協定法が制定された。なお、対象となる品目は、生乳と野菜・果物(ナッツ類を含む。)であるが、本稿では野菜・果物に関してのみ取り上げるものとする。
 連邦マーケティングプログラムは、農産物の効率的な市場流通の促進や、品目ごとに品質、サイズ、荷姿などを定め、規格外品の流通を排除することで、適正な価格で一定水準以上の農産物を市場に流通させることを目的としており、輸入品も規制の対象となっている。
 特定の地域で特定の農産物の生産・流通に携わる者がこのような目的を達成するために自主的な取り決めをし、これを農務長官が承認することで、法的な強制力を有するものとなっている。連邦マーケティングプログラムを適用するか否かの判断は該当品目の生産者の意思に基づいて決定されるが、いったんプログラムが成立すると法的な強制力をもつため、業界をまとめることができる仕組みとなっている。

(1)マーケティングオーダーとマーケティングアグリーメント

 連邦マーケティングプログラムには2つのタイプが存在する。
 ひとつは、農務長官の承諾を得ることで、該当品目の小売業者を除く流通業者等すべてが規制の対象となる“マーケティングオーダー(農産物販売命令)(以下「オーダー」という。)”である。もうひとつは、農務長官と協定を結んだ流通業者等のみが規制の対象となる“マーケティングアグリーメント(農産物流通協定)(以下「アグリーメント」という。)”である。これは、50%以上の流通業者等または50%以上のシェアを占める流通業者等の同意が得られた場合に発効する。ただし、アグリーメントについては、規制対象者を限定することは公平でないという考えとその効果が限定的であることから、2002年までピーナッツで実施されていたのを最後に、現在は実施されていない。
 規制の領域は複数の州にわたるものと単州のものがあり、現在は合計32のオーダー(生乳を除く。)が実施されている。なお、そのうち野菜は4品目で合計11のオーダーが実施されている。

(2)連邦マーケティングプログラムの制定および運営

 連邦マーケティングプログラムは、生産者からの要請を基に、最終的には生産者による投票を経て成立する。なお、オーダーおよびアグリーメント制定に当たり、USDA職員は原案作成のための支援を行うこととなっている。
 まず生産者は、USDAに対し、連邦マーケティングプログラム実施の申請を行う。生産者・流通業者等がプログラム制定を支持する場合、申請は業界の主要メンバーによって構成された委員会によって行われる。申請内容には、業界の連邦マーケティングプログラムに対する支援度合、プログラムにより解決したい事項などが盛り込まれている。AMSによる申請内容の審査後、申請内容が認められた場合はUSDAが公聴会を開催する。公聴会で示された資料や情報を踏まえ、USDAはプログラムの実施について決定を下すか否かの判断を行う。USDAが当該プログラムを有効であると判断した場合、生産者による投票が行われる。投票で、生産者の3分の2(カリフォルニアの柑橘類生産者の場合は4分の3)以上もしくは、3分の2以上の生産量をカバーする生産者からの賛同が得られれば、農務長官はオーダーの発令を行う。なお、アグリーメントの制定を目指す場合にあっては、生産者による投票と同時に流通業者等に対し、アグリーメント賛同の署名が行われる。
 オーダーの見直し等は、生産者からの要請に基づき、最終的には生産者による投票で見直し等の是非が決定される。3分の2の生産者が賛成した場合は見直しや廃止が行われ、これまでの実績ではおおむね5年に一度程度見直しの検討が行われている。
 連邦マーケティングプログラムの運営方針は、業界で推薦され、農務長官より任命を受けた生産者の代表および流通業者等の代表によって構成される委員会(委員会には一般市民を含める場合もある。)によって決定される。また、流通業者等には、委員会で決定される額による該当品目の取扱量に応じた賦課金の支払が義務付けられる。徴収された賦課金はプログラムの運営費となり、調査研究やプロモーションなどを行う費用としても利用される。
 オーダーおよびアグリーメントの規定に従った流通が行われているかどうかは、連邦または州の検査局などによって検査され、規定に反した流通であった場合は、流通業者等に対し違反ごとに50ドル以上5,000ドル以下の罰金が課せられる。

(3)連邦マーケティングプログラムの内容

 連邦マーケティングプログラムは、基本的には以下の5項目のうち少なくとも1項目を盛り込む必要がある。なお、これらのうちのどの項目を取り入れるかの判断は、該当品目の生産者および流通業者等によって協議され、投票を経て決定される。

5つの基本項目
① 流通量、規格等に関する規制
 規制の対象地域内の出荷数量全体の制限、流通業者等ごとの購入数量・販売数量の割り当てや、流通する農産物の等級・サイズ・品質などを制限する。
② 余剰農産物の取り扱いに関する規制
 余剰農産物の処分方法の定めや備蓄に関する取り決めを行う。
③ 農産物の出荷基準検査に関する規制
 規制期間内に生産された農産物について、業界内で統一した出荷基準検査体制を定める。
④ 流通形態の規制
 荷姿等(梱包、輸送、販売、出荷する際に使用する容器そのものや容量等)を定める。
⑤ 調査・研究等の実施
 生産・加工・流通技術の研究、市場調査、宣伝・販売促進、情報収集・提供等を実施する。

 流通量および流通規格等の規制はマーケティングオーダーの基本となるものであるが、調査やプロモーション活動も、重要な取り組みのひとつとされている。調査・研究の中心は病害虫に関する研究であり、資金を提供し大学に研究委託するケースが多い。例えば、フロリダ州ではカンキツグリーニング病への対策について調査研究が行われた。プロモーションでは、国内外の取扱業者拡大を目的としたトレードショーへの参加、消費促進のための宣伝・広告などが行われている。

(4)輸入品に対する規制

 農産物流通協定法は、連邦マーケティングプログラムを実施する地域で、プログラムで規制されている品目を取り扱う輸入業者についても規制の対象となる。したがって、輸入品についても国内産品同様、品質、サイズ、荷姿などの規格に適合する必要がある。なお、現在、たまねぎやトマトなど13品目の農産物で輸入品が規制の対象となっている。
 輸入品も規制の対象としているのは、品質の低い輸入品が出回ることで市場価格が低落することを避ける狙いがあるほか、消費者の満足度を高めることで継続した購入につなげ、信頼性のある市場の発展を促すなど、消費者利益も考慮してのこととなっている。
 なお、規定に違反した輸入業者にあっては、違反ごとに1,100ドルの罰金が課せられたり、該当品目の今後の取り扱いが禁止されるなどの措置がとられる。

(5)流通量が過剰になった際の対応

 連邦マーケティングプログラムでは流通量が過剰になった場合、例えば出荷見合せなどを行うことで流通量を制限する仕組みを導入することが可能であり、加工用チェリー、レーズンおよびクランベリーのオーダーでは量的規制を盛り込んでいる。
 また、農産物の流通量を調整するという機能でみると、農産物の価格が低落した場合に連邦政府が買い入れを行う農産物買い入れプログラム(Commodity Purchase Pro-gram)があり、買い入れられた農産物は学校給食プログラムなどの国内の栄養プログラムを通じて提供されている。
 連邦マーケティングプログラムと農産物買い入れプログラムはともにAMSにより独立して運営されている。そのため、場合によっては両方同時に措置されるケースもあり得るが、これによりマーケットでの流通量が必要量を下回らないようバランスを取りつつ実施される。

4 州独自のプログラム

 連邦マーケティングプログラムとは別に、州においても連邦マーケティングプログラムのようなプログラムの実施を可能とする法律を制定している州もある。州のプログラムは州ごとに独自に定められたものであるため、全国共通の連邦マーケティングプログラムとは内容が異なり、いずれの下でプログラムを実施するかは生産者・流通業者等の判断となる。例えば、生産地域が複数の州にまたがる農産物を規制する場合は、単独の州で制定したプログラムでは対応できないため、連邦マーケティングプログラムを選択することとなるが、単独の州で生産された農産物のみを規制する場合は、取り組みたい事項に合致したプログラムを選択することとなる。
 米国の野菜生産の中心となっているカリフォルニア州では、1937年にカリフォルニア流通法(California Marketing Act) が定められ、現在、51の農産物でプログラムが実施されている。これは、カリフォルニア州の農業生産額の64%をカバーする規模となっている。プログラムの実施内容の中心は消費者を対象としたプロモーション活動や調査研究であり、法律に基づき徴収した賦課金を財源に、全てのプログラムで実施されている。また、流通する農産物のサイズ、規格などを定めているプログラムはあるものの、連邦マーケティングプログラムとは異なり、流通量を制限するなどの供給調整を行わない緩やかな規則となっている。

Ⅳ 分業による効率的な野菜生産

1 広大なほ場での野菜生産

 これまで、米国の野菜産業の概要および産業を支える流通プログラムについてみてきた。それでは、実際に米国ではどのように野菜が生産されているのか、野菜生産の中心であるカリフォルニア州およびワシントン州の生産現場を例に紹介する。
 米国のほ場を訪れてまず驚くのは、その規模の大きさである。広大な農地を所有する米国の多くの農家は経営者であり、農作業の指示は出すものの、実際に農作業に従事するわけではない。多くの場合、安い賃金で雇えるメキシコなどからの季節労働者が労働力の中心となっている。

一面のレタス畑

 今回訪れたカリフォルニア州サリナスバレーのレタス畑では、30~40人のメキシコ人労働者が収穫を行っていた。レタスなど葉物野菜やブロッコリーなど選択収穫となる野菜は、どうしても手作業での収穫に頼らざるを得ないが、広大な畑ではかなりの人手を要する。そこで、少しでもコストを削減するため、低賃金で雇用できる労働者が不可欠となる。米国には植付けや収穫などの作業を行う農作業専門の派遣会社があり、生産者は派遣会社へ作業を依頼する場合がある。手慣れた労働者が作業を行うため、効率良く作業が行われている。実際の収穫作業は、8.5エーカー(約3ヘクタール)のほ場内をパッケージ作業台と荷台が取り付けられた機械が前進し、その速度に合わせて収穫・パッケージ・荷積みの担当に分かれ、流れ作業でスピーディーに行われていた。労働者は、トイレが備えられたキャンピングカーで、収穫する畑から畑へと移動する。
 安い賃金で雇用できるとはいえ、労働者がストライキを起こすこともあるため、労働環境を整えることはもちろんのこと、居住環境を充実させるなど生活環境の整備を含めた働きやすい環境づくりが重要となっている。

ブロッコリーの収穫風景

レタスの収穫・パッケージ作業

 一方、ワシントン州コロンビア川流域の冷凍用グリーンピースの生産現場では、120エーカー(約49ヘクタール)のほ場で大型収穫機による収穫作業が行われていた。収穫機は、刈り取りと同時にさやと実に振るい分けることができ、そのまま加工場へ運ぶことができる。今回訪問した農場では、収穫は買手である冷凍加工業者側が行う契約になっているため、収穫機は加工業者が保有している。収穫機の価格は1台約650,000ドルで、当該加工業者は22台の収穫機を保有している。なお、米国では害虫駆除剤の散布には資格を要するため、散布は専門業者に依頼して行われている。

加工業者による収穫

収穫機でさやと実に振るい分けられる

 今回は、国内向けと国外向けの両方を取り扱う業者を訪問したが、ほ場は国内用と輸出用に区別しておらず、仕向け先の好みに合わせ、収穫時に仕分けられていた。例えばブロッコリーは、国内用は茎を長めに残して収穫し、輸出用は茎を短く刈り取る。また、セルリーの場合、香港や台湾などは大きめの株を好み、日本は小さめの株を好むことから、以前は作付時の間隔を7インチ(約18センチ)にしていたが、現在は5.5インチ(約14センチ)にして、どちらにも対応できるようにしていた。

国内用ブロッコリー

輸出用ブロッコリー

2 野菜生産現場での灌がい

 米国の生産現場で行われている灌がいについては、サリナスバレーではドリップ方式による灌がい、コロンビア川流域ではスプリンクラーによる灌がいが多い。コロンビア川流域でのスプリンクラーによる灌がいの場合、スプリンクラー機1回の標準稼働時間は24時間で、最大100万ガロン(約378万5千リットル)の水を供給することができ、土壌の状態を見て稼働速度を変えたり、稼働日数を2~3日空けるなどして散水量を調整する。また、カリフォルニア州で新規の畑で作物の栽培をはじめる場合、水を管理している州の許可を得て井戸を掘り、水の利用権を取得する必要があり、井戸を掘るためには1,000万円以上の経費がかかるという。いずれも、水の使用には制限があるため、農地を増やしたくても難しい現状がある。

スプリンクラーの灌がい

3 収穫後の野菜の流通

 ほ場で収穫された野菜は、順次、トレーラーに移されて予冷施設や冷凍工場へ運ばれる。サリナスで収穫されたレタスが予冷施設到着までに要する時間は40分以内で、施設ではアンモニアを用いて約35分かけ、華氏34度(1.1℃)に冷却される。また、コロンビア川流域で収穫されたグリーンピースも、数時間以内に冷凍加工されており、新鮮な状態で加工処理されている。
 米国内での流通は、トラックまたは列車により輸送され、西海岸から東海岸までの輸送日数は4日ほどを要する。ワシントン州の場合、日本への輸送コストよりもニューヨークへの輸送コストの方が大きい。国内では、そのまま電子レンジ調理できる冷凍野菜や生鮮カット野菜のニーズが高く、多少高価だが、新鮮な野菜が購入できるファーマーズマーケットも人気がある。
 ワシントン州の場合、製品は冷凍工場からシアトル港までトラック輸送された後、日本へ船輸送される。工場から日本の顧客に届くまでの所要日数は約21日で、このうちシアトルから日本の港までは約12日を要する。カリフォルニア州の場合も同様に、予冷施設からオークランド(港)までトラックで輸送後、日本の港へ運ばれる。予冷施設から日本の港までの所要日数は約10日であるが、関係者によると、流通段階での予冷の方法が、日持ちする最も大きな要因とのことであった。

Ⅴ おわりに

 連邦マーケティングプログラムで実際に対象となっている地域や野菜の品目は野菜農業全体でみると限定的ではあるものの、一定水準以上の野菜を安定した価格で流通させる仕組みとして機能している。また、野菜の主産地であるカリフォルニア州では、レタスなど主要な農産物を対象とし、プロモーション活動や調査研究を中心としたプログラムが実施されるなど、流通に関する取り組みのほか、地域に合った形で野菜産業の振興のための取り組みが行われている。
 米国には生産者や流通業者等による自発的な取り決めに法的な強制力を与え、生産・流通を安定させる仕組みがある。このような仕組みを背景に、米国は世界の主要な野菜生産国のひとつとなっている。



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