調査情報部
2012年1月16日、国家発展改革委員会、農業部は、関連部門と共同で野菜生産の拡大・安定を図る「全国野菜産業発展計画(2011-2020年)」を公表した。かつて農業部は、2009年7月「全国野菜重点地域発展計画(2009-2015年)」を公表し、5の国内供給重点地域(496産地)、3の輸出重点地域(191産地)を選定し野菜農業の振興を進めていた。今回の計画は、農業部(我が国でいう農林水産省)単独の政策から国務院による政府全体の政策として、重要な産業部門となった野菜輸出産業を推進しつつも、国内の野菜供給政策が、国民生活にとってより重要なものとして位置付けられたといっても過言ではないであろう。
このような背景には、生産資材や労働者賃金の上昇による生鮮野菜の価格高騰がある。生鮮野菜の価格は、消費者物価指数でみると、2007年以降に大幅に上昇しており、2011年においても前年並みの水準となり、食品の消費者物価指数の上昇の主な要因の一つとなっている。また、2011年においては、2008年以降の価格上昇による野菜作付面積の増加、主産地の山東省の作柄が良好となったことにより春季には大暴落となるなど、価格の大きな変動も国民生活、農民の経営安定にとって重要な問題となっている。
当該計画では、現在の野菜生産・流通の問題点として、以下の点を指摘し、生産・流通に係る対策が盛り込まれている。
コスト上昇等の影響で、野菜の価格上昇は深刻化する傾向にある中で、気象変動による野菜価格の変動が拡大しており、低温流通の未整備などの流通の問題から産地における価格低迷と消費地における価格上昇という状況の発生。
一定の基準に基づく標準化生産の普及の遅れによる、残留農薬問題の発生。
水利施設の未整備、温室・ビニールハウスの建設基準が低いことによる不安定な生産。
野菜の生産、流通段階における予冷やコールドチェーンの未整備により流通段階でのロス率が20-30%に達すること。
農産物市場のインフラが脆弱であること。
育種の研究開発などへの投資不足による、野菜種子輸入の増加、単位収量の停滞。
当該計画では、今後十年の人口増加、都市・農村住民の生活水準の高まり、農村人口の都市部への流出の加速化に伴う野菜需要量の増加を予測しており、需要増加に対応するため、単位収量の向上、流通段階におけるロス率の低減の必要性を問題としている。
さらに計画の目標として、
作付面積の安定、単位収量の向上、ロス率の削減、品種の多様化による供給量の安定、価格変動の防止。
産地の地域的な分布の最適化による、端境期の供給能力向上、需要に基づく葉物野菜の供給力向上。
野菜の品質安全水準を引き上げ、国の農産物品質安全基準および食品安全基準を満たし、製品歩留まりの向上を図る。
産地・消費地卸売市場などの流通網を整備し、低コストで低ロス率の野菜流通体系を構築。
2015年には、全国の農民の一人当たりの純収入に対する野菜の貢献額を1,000元に到達させ、2020年には更に1,300元まで到達させる(2010年830元)。
を掲げている。
全国の36の大都市(直轄市、省都など)における、野菜、特に葉物野菜の自給率向上(野菜栽培農地の最低保有量の計画・確定)。
地理気候、地域的な優位性などを考慮し、全国の野菜生産地域を、華南・西南温暖地域の冬春野菜、長江流域の冬春野菜、黄土高原の夏秋野菜、雲貴<雲南・貴州>高原の夏秋野菜、北部高緯度地域の夏秋野菜、黄淮海と環渤海の施設野菜という六つの優位性地域に区分し、580の野菜産業重点県(市、区)を構築し、全国的に均衡のとれた野菜供給能力を整える。
露地野菜産業重点県では、水利施設、たい肥場などの整備。
施設野菜重点県では、建設基準を満たす日光温室(北方)、ビニールハウス(南方)を建設。
全国の主要野菜の播種面積、生産量、市場への出荷時期、生産地価格などの情報収集・分析・予測の提供、播種時期、収穫時期の調整により、盲目的な生産を防止し、生産の安定的拡大などを促進。
家畜、バイオガス、野菜の有機的結合による循環農業の構築。
農民合作社や大規模生産者を支援し、集約的育苗、防除などの統一的対策、選別等の施設整備。
卸売市場、小売拠点、コールドチェーン物流、情報モニタリング体制を重点的に支援し、生産と販売の連携により流通の効率化を図りロス率の低減を図るとしている。
その主な対策は、
人口100万以上の大都市における地方政府による冬春野菜備蓄制度の構築。
重要な貯蔵性のある野菜につき、5日から7日分の在庫を確保。
である。
中国の野菜、果実、水産物の国内流通は、流通量の70%以上が農産物卸売市場を経由し、大都市においては多くの農産物が農産物卸売市場を経由すると言われる。農産物卸売市場を中心にコールドチェーンの整備が進められ、流通ロスの削減を図ろうとしている。
また、中国政府は、生産資材や労働者賃金等の上昇による野菜価格高騰を背景に、現在、緑色通道政策により高速道路の通行料を免除し、卸売市場等における増値税(付加価値税)の免除を実施し、流通コスト低減政策も実施している。
一方、中国政府は、2015年までに最低賃金を年平均13%の上昇すべき(「就業促進計画」 2012年2月)としている。
中国国内の需要増加、生産資材価格や労働者賃金などの上昇に加え、ガソリン価格の上昇などによる流通コストの上昇も顕著になっている。今後も、中国国内価格の上昇は継続し、生産コストの上昇は継続すると推察される。
当該計画の生産拡大、流通コスト・ロス率の削減などによる野菜価格安定政策の行方が注目される。
参考資料:国家発展改革委員会 農業部の全国野菜産業発展計画(2011-2020年)
公布に関する通達 http://www.moa.gov.cn/zwllm/ghjh/201202/t20120222_2487077.htm