ラオスの野菜事情
調査情報部 審査役 河原 壽
ラオス経済は順調な発展過程にあるが、農業部門では農村社会が伝統的な自給的農業社会に商品経済の波が押し寄せ変容しつつあること、長期にわたる戦乱により一次加工産業や資材産業は脆弱で多くの生産資材は輸入に頼ることによる高生産コスト体質、輸出食品加工企業に安定して原料農産物を提供する生産体制を組織する農民組織の欠如など多くの問題を抱えている。
このような中、タイとの物流が容易で、土壌が肥沃かつ未開拓地があり、標高の差を利用した栽培が可能なボーラヴェン高原で野菜を栽培・輸出している企業がある。
ラオスの農業は多くの問題を抱えつつも、タイ冷凍加工食品企業への原料供給基地としての産地開発、気象条件を生かした種子産業開発、村を通じた契約栽培で農民グループの形成に成功しキャッサバ生産を行う企業の成長が見込まれ、ラオスはそのポテンシャルを生かした農産物供給国として着実に発展する可能性を持つ。
当機構では、2010年12月において農業開発・食品加工産業分野に焦点をあてた「メコン地域農業・食品加工可能性調査」に参加し、ラオス人民民主共和国の農業について現地調査する機会を得た。本稿では、この調査結果の概要を報告する。
ラオス人民民主共和国(以下、「ラオス」という。)は、東はベトナム、西はタイおよびミャンマー、南はカンボジア、北は中国に囲まれた内陸国である。国土面積は236,800平方キロメートルと日本の本州に匹敵するが、土地面積に占める耕作地の割合は5.4%と少なく、森林が68.9%を占めている。しかし調査によれば、可耕地に対する耕作面積の割合は少なく農業のポテンシャルは大きいとされている。
一方、人口612.8万人、人口密度26人(2009年Statistical Year Book)と人口が非常に少ない(2005年Census:人口562.2万人、人口密度23.7人)。半数以上をラオ族が占めるが、49の民族で構成される多民族国家である。
歴史的には3つの王国からなっており、コーンの滝が船運を拒み、メコン川を通じて外海へつながることが不可能であったことから、北部・中部・南部の各地方の独立色が強く、各地方が独自に近隣諸国との経済協力を進めている。
土地利用
降雨量を基準として5~10月の雨季、11~4月の乾季の2つの季節区分があり、さらに乾季では比較的気温が低くなる11~2月の寒季、暑い毎日が続く3~4月の暑季に区分される。地域別にみた年間降雨量では、北部が比較的少なく、南部に向かうにしたがって多くなる傾向がある。特に中部・南部のメコン河流域では、年によっては雨季の後半に洪水に見舞われることがある。
ラオス農業の多くは天水に依存しており、雨季に稲作を行なうのが普通である。稲作の収穫は11~12月に行なわれ、その後の乾季の裏作として野菜・豆類が栽培される。また、雨季の降雨は激しいものが多く、雨季はビニールハウスなどによる施設栽培には適さない地域もある。
2009年のGDPに占める農林水産部門の割合は30.5%と高く、人口に占める農林水産業の就業人口の割合も78.5%、農業の就業人口でも64.3%(2005年Results from the Population and Housing Census)と農業が重要な産業となっている。また、2008年における耕作地に占める米作付面積の割合は2008年で69.7%(871千ha)と、稲作(水稲および陸稲)が農業の根幹をなしている。野菜は、7.4%(92千ha)にすぎない。
ラオスの農業は、水田と焼畑を基盤とするが、その中で役牛(水牛)は水田の耕起などの作業で重要な役割を担っており、焼畑は役牛(水牛)の放牧に利用されている。しかし、近年では中央政府の土地森林分配事業による農地の確定および共有地の消滅、焼畑農業の制限、商品作物の導入、耕運機の導入により役牛(水牛)は減少しつつあり、農家の肥育牛(4~5頭)は家畜銀行としての役割が強くなっている模様である。
(土地森林分配事業:植生等の土地の状況やその利用目的に応じて国土を線引きし、その区画ごとに管理権限の所在を明確にし、さらに区画ごとの利用と管理方法を明確にする一連の政策。その目的は、潜在的な農地や荒廃地を世帯に分配し、商品作物栽培や植林、畜産を促進すること、村の領域内の森林を村に分配し、持続的な森林管理を推進することである。また、農林政策からみた事業の目的は、自然資源の効率的で持続的な利用と管理、環境保全、焼畑移動耕作の削減と定着型農林業の推進、食料生産の増加、商品作物栽培の促進と世帯収入の向上である。
-JICA専門家 名村隆行 氏、「土地林分配事業をめぐる問題」より-)
部門別GDP
土地の所有権は、憲法において国家にあると規定されており、土地利用は利用権の設定に基づく。ラオス国民は、利用権に対し売買可能な永代使用権が保証され、譲渡、相続も可能である。一方、外国人や外国法人は、土地利用権の取得は基本的に認められず、土地の賃貸契約によって利用することになる。
政府からの賃借・利用承認:最長30年
投資目的による政府からの賃借・利用承認:最長50年
土地利用権は、国への申請により土地証書が交付され、利用権が確定する。開墾地は、開墾者に利用権が付与される。一方、90日以内に事業活動が開始されない場合は文書による警告、その後60日以内に事業活動が開始されなければ国に収容されることとなる(日本アセアンセンター資料より)。現在、多くの土地において土地利用権が確定しておらず、その確定作業が進められている。
ラオスの農業政策の最大の課題は貧困撲滅であるが、①ラオスの農村は、自給的農業を基盤としていることから他の周辺諸国の労働者と比べて労働意欲が低く、また、技術水準が低いことから単純労働にとどまっていること、②人口が少ないことから、国内マーケットの規模は小さく、輸出市場以外にマーケットがないこと、③食品加工企業に安定して原料農産物を提供できる農民組織がないことなども大きな問題となっている。現在、中央および地方政府は、農民が土地や労働力を提供し、企業が資金や技術を提供するとともに、主に海外のマーケットを提供することにより、国内農業の振興を図るという下記の2+3政策と1+4政策を推進している。経済発展が遅れた地域は1+4政策、進んだ地域は2+3政策が導入されることが多い。なお2+3政策は、現段階では成果が得られていないこと、農産物が収穫されるまでの期間において、農家の収入が無くなることが問題とされている。
① 2+3政策
2:農民は土地と労働力を提供
3:企業などは、資金、技術、マーケットを調達
② 1+4政策
1:農民は土地を提供
4:企業などは、労働力、資金、技術、マーケットを調達
このほかには、政府機関を後ろ盾とする、タイ企業などとのContract Farming(契約農場)も推進されている。
ラオスは、1986年11月のチンタナカーン・マイ(新思考)以降、社会主義経済から経済自由化により市場経済が拡大し、2009年のGDP実質成長率は7.5%(2008年7.8%)と経済発展が著しい。また、農林水産業部門のGDP実質成長率も2009年2.8%(2008年3.7%)の成長となっている。しかし、林業部門においては2009年▲23.5%と大幅な減少となっている。
ラオスの農業は、伝統的な自給的農業から商品経済の拡大に直面しており、林業部門においては、土地森林分配事業、森林保護政策などにより厳しい経済環境となっている。また、長期にわたる戦乱により国内産業は脆弱であり、一次加工産業や資材産業の欠如などによる高生産コスト体質や国内流通網の未整備、生産組織の欠如など多くの問題を抱えている。
自給的農業社会を基盤としていることから他の周辺諸国の労働者と比べて労働意欲が低く、また、いわゆる「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)に慣れていないことから作業におけるトラブルの発生が多いといわれている。このような中、南部のチャンパーサック県では、コーヒー生産の拡大などから労働力需給がタイトとなり賃金水準が上昇傾向にあり、ラオス人労働者賃金が1日当たり4$と上昇する中、ベトナム人労働者賃金は、移住者が多いこともあり同1.5$であった(2010年12月現在)。したがって、タイおよびベトナム企業はベトナム人を雇うことになり、さらに、技術者の雇用はタイおよびベトナム人であることから、ラオス人労働者は単純労働だけの担当となり、技術がラオスに移転しない状況である。
多くの日系企業では、種子や生産資材の多くをタイから輸入しているため、ラオス農産物の生産コストは、タイ生産資材価格に輸送等の輸入経費を加えたものがベースとなる。したがって、ラオス農産物価格もタイ生産資材価格の上昇の影響を直接受け、ラオス農産物の国内および海外における価格競争力の低下の要因となっている。
また、国内流通が未整備であり、各地域で通行料が発生し、輸出や輸入の場合は、各国境ポイントでの通関の諸経費が発生することも高コストを招く要因となっている。このため、農産物生産・輸出が盛んなチャンパーサック県の場合では、輸送経費を加えるとタイからの輸入の方が、国内調達よりも安価となっている。
食品産業にとっては、Contract Farmingや契約栽培などによる農民の組織化により、安定した加工原料の調達が重要だが、現在その役割を担う農民組織はない。アジア開発銀行などにより、有機野菜などの国内供給において小規模な農民のグループ化が進められている段階である。
Greater Mekong Sub region Business Forum(東西経済回廊利用促進会議)は、Contract Farmingにおいて、
ア 農民は作柄不良の場合、価格が良ければ商人に売ってしまう。
イ たい肥を他へ売ってしまう
ウ 購入者が契約を守らず、買いに来ない場合がある。
エ ラオスが弱い立場の契約が多い
などの問題点を指摘している。
Greater Mekong Sub region Business Forumは、食品産業が必要とする農産物を供給できる大規模サプライヤーの欠如を指摘している。主要農産物である米でも、広い地域で多種の米を生産しているため、一つの地域で輸出用の米を集荷するのは難しい状況である。一次集荷業者が広範囲に点在する農家から非効率に集荷するのではなく、産地集出荷場等による効率的な集荷・出荷体制の必要性を指摘している。
このような中、一部の地域ではクム・カンカー(商業セクション)と呼ばれる農産物、畜産物、非木材林産物などの販売を取り仕切るNGO組織の構築が進められている。農家の狭小な農地・昆作では作物一種類の集荷は少なく、近隣に市場がない場合は個別の販売はできないが、クム・カンカーが農産物を取りまとめることで取引量を増やし、仲買人の買付を呼び込むシステムとなっている。
Greater Mekong Sub region Business Forumは、タイ企業とサイヤブリ県のトウモロコシのContract Farmingの事例ではサイロがすべてタイ側に建設されていることから、ラオスでは保存ができず出荷調整ができない。結果としてタイが価格を操作している問題を指摘し、加工工場の欠如により、輸出交渉は常にラオスに不利な内容になってしまうとしている。
外国直接投資(コンセッション)を伴う事業とは、ある開発や商業のために、法律に基づき政府の所有権やその他の権利の利用権の供与が許可された投資事業のことであり、土地利用権を伴う投資事業も含まれる(日本アセアンセンター資料より)。
ドイツFederal Ministry for Economic Cooperation and Developmentの「Foreign Direct Investment in Land in the Lao PDR」2009年12月によれば、外国企業の100ha以上のコンセッションでは、タイ、中国、韓国、ベトナム、米国、オーストラリアなどの諸国と、ジャトロファ、ゴム、木材などを主体に実施されている。
しかし、ジャトロファにおいては、当初の開発計画のとん挫による事業活動の停止が問題となっている。また、コンセッションでは、ラオス農民が農地から追い出される事例もあり、雇用される労働力も、ラオスは労働人口が少ないこと、技術水準が低いことから、ベトナムなどからの移住労働者も多く、ラオスの労働者の多くは単純労働に甘んじている事例が多いもようである。
このような中、調査ではタイ砂糖企業が砂糖国際価格高騰を背景に、メコン川流域にコンセッションにより農地を確保し、サトウキビ栽培、精製工場を2012年に稼働する予定であることが確認された。この企業の取り組みはタイ国内では個人、企業による大規模農地の取得が禁止されており農地の大規模開発が出来ないこと、砂糖工場は1工場当たり120万トンの規模でないと生産コストの削減が見込めないことから大規模開発が必要なこと、サトウキビ国際価格が高騰しているもののタイでは労賃や資材の上昇から生産コストが上昇しており、利益率は以前と同水準にとどまっていることなどを背景としている。
当該企業では、ラオスでは労働力が少ないことから機械化を進める一方、コンセッション内への農家の移住・代替地の提供により自給自足を図ることでラオス人労働力を確保し、農業労働者(社員)として栽培技術を移転し、独立志向の強い農民とは契約栽培を推進する計画であった。ラオス農民が農地から追い出される通常のコンセッションではなく、ベトナムなどからの移住労働者によることなく、ラオス農民を育てるものとなっている。
農業省資料によれば、ラオスにおける主要野菜のうち、トウモロコシ、いも類、豆類、野菜の果菜類(トマト、かぼちゃ、きゅうり)は、雨季・乾季の季節区分に基づき栽培され、トウガラシやしょうがなどは周年で栽培可能となっている。しかし、降雨量、気温、標高など、地域によって異なっている。
ラオス 主要野菜の栽培カレンダー
最大の野菜産地は、タイと国境を接する南部のチャンパーサック県である。次いで、北部のウドムサイ県、ウドムサイ県の南東に隣接する北部の中心都市であり、世界遺産としても登録された古都ルアンパバーン市を中心としたルアンパバーン県となっている。
チャンパーサック県においては、標高1,284m、平均気温21度、平均雨量3,600?、県面積の27%(399,100ha)を占めるボーラヴェン高原においてコーヒー、野菜、茶、果実が栽培され、ベトナム国境の平坦地では果実、トウモロコシ、いも類、パラゴムの木が、タイ国境ではキャッサバ、豆類、ジャトロファが、メコン川流域では米、養蚕、漁業が盛んである。特にコーヒーは、ラオスの最大の輸出農産物となっており、キャベツ、はくさいなどの野菜は、首都ビエンチャンへの重要な供給産地であるとともに、タイなどに輸出されている。チャンパーサック県における2009年の農業生産額は、当該県GDPの46%を占めており、農業成長率も4.5%と高い。
野菜の県別作付・収穫面積、生産量、単位収量
中央政府の農業開発計画においては、第7次農林業関係5ヵ年計画(2011年―2015年)の基本となる農業マスタープランおよび投資プランが策定されている。そのドラフトにおいて「商品作物生産」が目標として記載されている。現在も、トウモロコシ、キャッサバ、サトウキビなどの商品作物の生産・輸出が、中国、ベトナム、タイなどの近隣諸国からの外国直接投資(コンセッションなど)により増加しており、野菜も商品作物として生産が奨励されており、北部地域を中心に中国企業と農家との契約栽培などによるトウガラシ等の栽培・輸出が増加している。
野菜製品の輸入額は増加傾向にあるが、農産物に占める野菜製品の輸入額の割合は、加工食品等の増加に伴い2001年30%から2008年18%と減少傾向にある。一方、野菜製品の輸出額は、2009年は減少したが2008年までは増加傾向にあり、農産物輸出額に占める割合は80%程度、2009年は60.4%と重要な輸出農産物となっている。工商業省が2010年に公表したSummary National Export Strategyでは、農薬、化学肥料の使用量が少ないことを背景に有機農産物を輸出戦略品目として掲げており、有機野菜プロジェクトも掲載されている。
2004年からラオス農業省+HELVETAS(スイスNGO)のプロジェクトとして、有機栽培・販売、有機認証の推進を行っている。なお、当該プロジェクトは2011年で終了し、2012年からラオス農業省に継承される予定である。
ラオスの農産物は、安全性の基準により、①一般の農産物、②農薬基準に基づく農産物③GAP、④Pesticide free product(無農薬農産物)に分類される。このうち、⑤のGAPは2010年に、JICAの支援で開始されている。
有機認証を実施する組織(LAOS Certi-fication Body)以下のとおり。
他の団体および政府検査機関への支援、生産支援、ビジネス支援(生産者の紹介やコーヒーのEU認定支援など)を行っている。
Organic Standardは、IFORMの国際基準を採用した認証団体(LAOS Certi-fication Body)を運営している。国際認証機関の認証は得ておらず、タイの認証機関を通じて取得している。
・技術支援および品質管理
(グループ:10名以上、多いグループは500人)
・生産者グループと販売先のリンク(水曜、土曜の有機農産物マーケット開催)
・広告パンフレットの作成・配布
・生産および管理のマニュアルの作成・配布
・技術・管理に関する研修
・説明会の開催
・グループ内での生産方法、販売の研修
土づくり、たい肥(もみ殻や糠、EM菌、砂糖などの原料)の作り方の研修、グループ内における管理方法、マネジメント、検査の研修、グループ同士の交流会(ガソリン代などの諸経費を補助)
製品が出来るまでの支援
殺虫剤(生物農薬:虫が嫌う植物の葉や砂糖で製造)の作り方の研修
なお、有機農産物と一般農産物との価格差は、2~3割程度である。
シェンクワン県の有機野菜農家と有機野菜販売所
既に述べたように、ラオスは、生産資材などの産業が脆弱であること、国内流通の整備が遅れていること、後進国によくある違法な通行料などにより生産資材の価格が高いことなどから国内調達は難しく、多くの生産資材は近隣諸国から輸入により調達されている。しかし、資材の輸入においても、輸入に係る輸送経費に加え各国境ポイントで通関のための諸経費が発生することが多く、ラオス農産物の国内および海外における価格競争力の低下の要因となっている。
このような中、タイとの物流が容易で、土壌が肥沃かつ未開拓地があり、標高の差を利用した栽培が可能なボーラヴェン高原で野菜を栽培・輸出している企業がある。
調査企業は、タイと国境を接するチャンパーサック県の北東に隣接するセコーン県に位置し、野菜栽培に適するボーラヴェン高原の東側に所在する。
2007年にセコーン県から農地60ヘクタールを提供され、同年からほ場整備、道路や電柱の敷設、マーケットの開拓など、ゼロからスタートした。現在、1000平方メートル区画でほ場を整備し100ヘクタールを耕作している。
当該企業では、適切な農薬を予防的に使用するIPMを導入している。また、薬剤散布などの作業日誌(履歴等)の導入によりトレーサビリティに対応しているほか、生育状況の電子化によりグループ企業全体で情報を共有し、効率的なほ場管理を行うID農業を構築している。
ラオス事業の最初の品目として収穫の早いオクラが導入され、タイや日本に輸出されていた。日本のマーケッティングリサーチにより、標準サイズのオクラよりも柔らかく、業務ユーザーの使用用途が多岐にわたり、調理もしやすいミニオクラをターゲットとして、ミニサイズの収穫に適する「開花後5日目収穫」を徹底し、また、1本仕立て(日本では3本)により収量の向上を図るなど、タイ産などとの差別化を図ってきた。しかし、近年の日本における外食産業におけるデフレ傾向、生産資材の高騰などから価格競争力が低下し、現在では、いんげん豆やトウガラシなどへの転換が図られている。
タイ・バンコク市には、タイ北部のチェンマイ産のいんげん豆やとうがらしが出荷されているが、近年の人件費の高騰で産地がチェンマイからさらに北方のチェンライ、さらにはラオス国内の契約農場からも出荷されるようになっている。この2品目は、毎日の摘果が必要であり非常に人件費がかかることから、バンコク市場への輸出可能性が大きくなっている。
特にいんげん豆は、ボーラヴェン高原が栽培に適した気候で、は種から出荷まで60日、収穫期間60日、周年で栽培できることから有望とされている。トウガラシは、日本の外食産業の需要が増加していることから有望とされている。
150センチメートルの深耕が必要だが、10年間は栽培できるのがメリットである。対日輸出はタイ経由の量販店向けとなるが、ラオスでは熟練した技術を有する結束作業の労働者がいないことから人件費の高いタイで行うこととなるためコスト的に難しく、また、結束の最終加工地がタイとなることから日本での通関は難しく、タイ・バンコク市場での販売が計画されている。
ラオスには種子、生産資材の生産が少なく、タイから車で搬入している。肥料は、地元のパクセ市場からも一部調達しているが、農薬は有機リン系が多く、日本のポジティブリストの関係でパクセ市場からは調達できない。この結果、タイからの資材等の購入コストは最終製品の輸出価格に反映されるため、タイの物価上昇がラオス製品輸出価格の上昇を招き、低賃金などのラオスのメリットを生かし切れていない。また、流通においても、2003年10月「ラオス・タイ間トランジット輸送に関する協定」に基づくトラックの相互乗り入れが可能となったが、そのライセンスや複雑な通関手続きを要するなど国境を越えた流通には問題も多い。オクラ輸出では、タイの関連加工企業が国境まで冷蔵車で取りに来る状況である。輸出は、同社がタイに拠点を持っており、資材の調達や輸送などの協力があって可能となっている。輸出はタイ企業が関わっていないと難しい状況であるが、2011年からいんげん豆、トウガラシのタイ輸出を開始し、タイ冷凍加工企業に販売を行っている。原料供給基地としての農場経営の確立を目指している。
ほ場 スプリンクラーの導入 インゲン栽培
チャンパーサック県パクセにて、タイ種苗会社(年間15~20トンの種子輸出)の子会社が、外国企業から親株を預かり交配し、F1種子を採種・輸出している。現在、オランダ、ドイツ、日本、米国などに輸出している。
事業は7年目となり、面積40ヘクタール、標高940~1300メートルに数ヵ所のステーションを建設し採種事業を行っている。日本の種苗会社との提携では、トマトの採種を行っている。
調査によれば、タイ、ベトナムは温暖化による影響があるが、パクセは温暖化の影響がなく、また、当該事業の投資においてはラオス投資法に基づく5年間の課税免除などの特典を活用している。なお、採種するF1はオーガニック種子であり、JASの検査中であった。
トマト:日本(チェリートマト)、米国、オランダ
メロン:オランダ、スペイン
きゅうり;オランダ
かぼちゃ:オランダ
パクセは、野菜栽培においては何でも栽培できる適地であり、低地で20種類栽培できるとすればパクセは200種類栽培可能で、タイは11月~12月が交配時期だが、パクセは周年で交配可能としている。企業は、土地をはじめ全てを準備し、管理も企業が行う。農民は、農場労働者として雇用するが、研修・教育を通じて、農民の独立を促し、苗・種子の販売につなげている。この近隣の農家への種苗販売・技術指導の試みは種子販売促進を目的としているが、野菜栽培のプロフェッショナルである種苗会社による農家の指導は、野菜産業・農家の育成に効果が高く、品質の高い野菜販売による農家収入の向上につながるものとなろう。
国際認証ができるタイ認証機関の有機認定を取得。タイの大学教授が必要に応じてラオスにて検査し証明書が発行される。
ステーション
チェリートマトの採種
現在のラオスの農村では、食品産業が必要とするまとまった農地での栽培による農産物の数量確保が難しい状況であるが、村を通じた契約栽培で農民グループを形成し、タピオカパウダーの加工原料であるキャッサバの確保に成功している民族資本企業(KPN Tapioca Factory)の事例がある。当該事例は、農業開発において農民組織の構築が望まれる中、食品加工企業が契約栽培を通じて農民を組織化して土地集積を行い、原料の安定確保および農民の経営を安定させている。
当該企業は、南部のチャンパーサック県パクセ近郊の平坦地に位置し、農薬工場により資本を蓄積し、原油、キャッサバ由来のエタノールの値上げによるキャッサバ価格の上昇から2008年にキャッサバ生産への参入を決定した。
下記の独自の1+4方式により、村との契約栽培で1日に300~400トンの原料を確保し、タピオカでん粉(パウダー)を生産している。現在のところ、工場の処理能力に原料確保が対応出来ておらず、2011年は6000トン~1万トンのタピオカでん粉の生産にとどまっている。
現在は国内販売(食用ヌードル、団子、ラーメン)だけだが、調査時点(2010年12月)ではタイ、ベトナム、マレーシアのバイヤーからの引き合いがあるとのこと。輸出のためにISOの取得に向けて事務手続き中であった。輸出はこれからだが、主要生産国であるタイにおける害虫による大幅な生産減少によりタピオカ国際価格は高騰しており、輸出に向けての経済環境は良好である。また、国内マーケットを持っていることは、経営の安定にとっては最大の強みでもある。
① 契約面積:1,900ヘクタール(2010年12月現在)
② 契約方法:独自の1+4方式
1:農民が土地を提供し
4:工場が土地整地、苗、雇用機会、買取・販売を提供
農民は土地利用権を剥奪されず、栽培指導により技術を習得でき、栽培リスクは企業が負っていることが特徴である。
③ 契約期間:5年(5年以降の土地利用は農民の意向で決まる)
④ 利益配分:農民20%、工場80%(契約の5年間、6年目以降は全て農民の利益)
⑤ 買取価格:平均55万キープ/トン
⑥ 最低保証価格:30万キープ/トン
⑦ 管理方法:各村長傘下の生産者グループ
栽培管理者は、農業大学卒業生を採用し、タイでの研修により専門家として育成している。栽培管理者はほ場の状況を把握し、その指示のもと、企業の資材を用いて雇用農民(原則として契約している村の農民)が栽培している。ラオス農民は「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)に慣れていないことから作業におけるトラブルの発生が多いといわれる中で、当該企業は農民と一緒に栽培することで農民に対する管理の目が行き届き、生産の安定、技術の普及につなげている。
⑧ 農地の集積
郡を通じて農民に説明し、参加する農家には企業がGPS(全地球測位システム)で各農民の農地を計測・確認し、農家に代わって土地証書の作成・申請を行う。契約栽培に参加することで、農民は土地証書(土地利用権の登記)が取得でき土地利用権を確定できる。
⑨ 雇用労働者
地元の村の農民を優先して雇用。したがって、農民は収穫までの現金収入を得ることができ、技術も習得できる。なお、雇用農民は村長へ派遣を依頼して確保している(村長へは特例手当を支給)。
自社農地の確保(200ヘクタール)は、農家との栽培契約期間満了後に農民がキャッサバ栽培を中止した場合の原料確保および加工工場増設および、エタノール工場新設に備えるためである。また、農薬・たい肥の試験場としても活用されている。なお、農民からの利用権の譲渡は、村民全員の同意を得て行われる。企業は学校などを作り、電気、道路などを整備し、その対価として共有地の提供を受けている。
生育ステージ:3月定植、10月~11月収穫
キャッサバ単位収量:25トン~40トン/ヘクタール(タピオカ歩留り約30%)
苗は2007年にタイから輸入
タピオカ工場:206日稼働、8月~10月の雨季は停止
加工能力:原料1日400トン(24時間稼働、でん粉90トン)
2011年は6000トン~1万トンのタピオカでん粉の生産予定
販売: 250ドル/トンが630ドル/トン(2010年12月20日調査時)と高騰
当該企業は、自己資金のほか、Nayoby Bank(Agriculture Promotion Bank(農業普及銀行(BANK of LAO、アジア開発銀行、国際農業開発基金、EUの出資)から2007年1月に分割された預金を受け入れない政策銀行で47の貧困地域への融資を行う)からの低利政策融資(ツーステップローン、調査では年利8%(通常15%))により資金を調達しているが、より低い金利の金融支援を求めている。海外パートナーが海外銀行から調達する方がはるかに低コストとなる場合が多いことから、ラオス企業が新規設備投資においてラオス商業銀行から借り入れることは多くない(資料:平成16年度財務省委託調査 ラオスの債券市場育成のための調査報告書)。パートナーの日本企業に対しては、投資および調達コストの低い資金を準備することをラオス企業は求めている。
でん粉工場
キャッサバほ場(自社) かんがい試験栽培のほ場 契約農家ほ場
ラオスは、人口が少なく国内マーケットが小規模で輸出マーケットに依存せざるを得ないこと、輸出食品加工企業に安定して原料農産物を提供する生産体制を組織する農民組織がないこと、さらに、近年では、社会主義経済からの移行により市場経済が急速に浸透し、タイ、ベトナム経済の影響が拡大していることなどにより、従来の伝統的な自給的農業の変容を余儀なくされており、農村の人口扶養力が低下し、農村における貧困層が増加傾向にあるとされる。
このような問題を抱えつつも、タイ冷凍加工食品企業への原料供給基地としての産地開発、気象条件を生かした種子産業開発、村を通じた契約栽培で農民グループの形成に成功しキャッサバ生産を行う企業、本稿では紹介していないが輸出の拡大により生産が増加しているコーヒー生産・加工・輸出企業、コンセッションであるがゴム、ユーカリの生産・輸出の拡大が見込まれるなど、ラオスはそのポテンシャルを生かした農産物供給国として着実に発展する可能性を持つ国といえよう。
食料の国際需給のひっ迫が予想される中、ラオスがアジアの重要な食料供給国として発展することは、日本、アジアの食料安全保障にとって重要である。
当該調査結果は、メコン地域の農業開発・食品加工産業分野に焦点をあて、特に投資環境課題解決の余地が大きく残されているカンボジア、ラオス、ミャンマーの3カ国における今後の可能性を探る独立行政法人日本貿易振興機構の「平成22年度メコン地域農業・食品加工可能性調査」に係るラオス人民民主共和国の現地調査に基づくものである。このような機会を与えていただいた独立行政法人日本貿易振興機構に感謝申し上げる。
主要農産物の作付・収穫面積、生産量、単位収量