中国における野菜産地の概況と品目別生産・出荷動向
~野菜の生産コストの動向~
調査情報部
中国での野菜生産コストは確実に上昇している。人件費はもとより種苗代、肥料、農薬代、資材費、包装費など物価の上昇は多岐にわたる。また、人民元の切り上げが進んでいるが、2011年に行われた米中対話の中で中国の王岐山副首相は、今後も人民元の弾力化を引き続き高めることを約束している。このような状況で、今後の日本向け輸出価格は上昇し、中国は野菜の輸出先国の多様化を図ってゆくと思われる。
2010年の日本の野菜輸入量は、249万8千トンとなっており、そのうち、中国からの野菜輸入量は、128万4千トンとなっている。依然として、輸入される野菜の半数を中国に依存している。また、中国の野菜輸出先国として、日本は13パーセントと最も多く重要な地位を占めている(図1)。
中国からの輸入野菜は、2006年には残留農薬がたびたび確認されていたが、中国側の検査体制の強化や日本側のポジティブリスト制度の導入により改善されてきた。しかし、近年、中国の経済発展によって人件費などのコストの上昇、人民元切り上げのリスクなどの要因により、中国からの輸入野菜価格の上昇という新たな局面を引き起こしている。
本稿では、我が国にとって、重要な野菜供給国となっている中国の品目別野菜輸出動向を把握したうえで、生産コストの上昇がどのように推移しているのか。各資料をもとに取りまとめたので紹介する。
2010年のたまねぎの輸出先国の内訳を見ると、日本向けが237,062トンと全体の38パーセントを占め、次いでベトナム向けが19パーセント、ロシア向けが15パーセントとなっている(図2)。前年の日本向け数量は174,537トン、全体の35パーセントとなっており、輸出量・シェアともに増加している。日本では、北海道産たまねぎの不作が続いたため、中国からの輸入量が増加している。
日本への月別の輸出量の推移では、いずれの年も北海道産の出荷量が減少する5月に大幅に輸出量が増加しているが、2010年は、北海道産の出荷が本格化する9月以降増加傾向となっている(図3)。
一方、輸出価格は、5月に入ると主力の山東省や江蘇省産のたまねぎが輸出されるため、価格が安価となっている。しかし、2008年からのデータを検証するとたまねぎの輸出価格は上昇傾向となっている(図4)。
図2 たまねぎの国別輸出割合(2010年)
図3 日本向けたまねぎの輸出量の推移
図4 日本向けたまねぎの輸出価格の推移
2010年のねぎの輸出先国の内訳を見ると、日本向けが40,504トンと全体の90パーセントを占め、次いで韓国向けが8パーセントとなっている。なお、2011年の1~3月の数値を見ると、韓国における天候不順による作柄不良から韓国向け輸出量が日本向けを上回っている(図5)。
日本への月別の輸出量の推移は、2008年の冷凍ギョーザ事件を契機として、残留農薬検査の強化などにより低迷していたが、年々増加傾向にある(図6)。なお、輸出価格は、近年、安定的に推移しており、季節に応じて変動している(図7)。
図5 ねぎの国別輸出割合(2010年)
図6 日本向けねぎの輸出量の推移
図7 日本向けねぎの輸出価格の推移
2010年のにんじんの輸出先国の内訳を見ると、韓国向けが全体の17パーセントを占め、次いでタイ向けが12パーセント、マレーシア向けが12パーセント、日本向けが12パーセントとなっている。そのほかにもロシアや東南アジアなどへ輸出されている(図8)。
日本への月別の輸出量の推移は、2008年の4月には一時的にほとんど輸出されなくなったが徐々に輸出量は増加し、2010年では日本における天候不順による作柄不良から大幅に輸出が増加しており、2011年に入っても夏場の高温などの天候不順の影響を受けて増加している(図9)。なお、輸出価格は、安定して推移している(図10)。
図8 にんじんの国別輸出割合(2010年)
図9 日本向けにんじんの輸出量の推移
図10 日本向けにんじんの輸出価格の推移
2010年のにんにくの輸出先国の内訳を見ると、インドネシア向けが全体の26パーセントを占め、次いでベトナムが9パーセント、ブラジルが7パーセントとなっている。そのほかにもマレーシアやタイなどの東南アジアや中東などを中心に多様な国へ輸出しており、日本への輸出は全体のわずか1パーセントにすぎない(図11)。
月別の輸出量の推移は、2009~2010年の不作の影響から減少傾向にある(図12)。なお、2008年以降の輸出価格の推移を見ると大幅に上昇している(図13)。
図11 にんにくの国別輸出割合(2010年)
図12 にんにくの輸出量の推移
図13 世界向けおよび日本向けにんにくの輸出価格の推移
2010年のキャベツの輸出先国の内訳を見ると、マレーシア向けが全体の28パーセントを占め、次いでベトナムが21パーセント、ロシアが13パーセントとなっている。そのほかにも香港や韓国へ輸出されている(図14)。
日本への月別の輸出量の推移は、2010年10月から曇雨天などの天候不順により日本国内が不作であったことから、急激に増加している(図15)。なお、輸出価格は2008年から比べると上昇傾向で推移している(図16)。
図14 キャベツの国別輸出割合(2010年)
図15 日本向けキャベツの輸出量の推移
図16 日本向けキャベツの輸出価格の推移
山東省金郷県では、にんにくに比べたまねぎの販売価格が安く、生産コストも高いため、たまねぎ生産量は年々減少傾向にある。同県で生産されているたまねぎは、輸出向けは黄皮品種、国内向けは紅皮品種となっている。
一方、江蘇省徐州市豊県では、たまねぎ生産量は増加傾向にある。同県で生産されている品種は、黄皮品種が中心となっており、収穫量の約6割が輸出向けとなっている。
聞き取りによると、2010年のたまねぎ生産コストはム当たり平均2,593元(3万3,605円、1元=12.96円※、1ヘクタール当たり50万4,075円)となっており、前年比107パーセントと増加している。コストの増加要因は、人件費の上昇だけでなく、種子、肥料代などほとんどの費用について上昇している(図17)。また、江蘇省徐州市豊県でもすべての経費が上昇傾向にあるが、特に人件費の上昇割合が高くなっている(図18)。一方、たまねぎの粗収入は年々上昇しており、2008年にはム当たり3,000元(3万8,880円、1ヘクタール当たり58万3,200円)であったが、2010年には4,800元(6万2,208円、1ヘクタール当たり93万3,120円)となっている。
※資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティングの平成23年6月1日の為替相場より
図17 たまねぎの生産コストおよび粗収入の推移(山東省金郷県)
図18 たまねぎの生産コストおよび粗収入の推移(江蘇省徐州市豊県)
2008~2009年にキログラムあたり約0.8~1.5元(10~19円)前後で推移していたたまねぎの国内価格は、2010年には約1.3~2.0元(17~26円)へと上昇している(図19)。2011年に入るとやや軟調に推移しているが、同県のたまねぎ加工企業によると、今後、物価の上昇とともにたまねぎ価格も高騰していくと考えている。近年、中国国内でのたまねぎ販売量は増加傾向にあるが、肉などと一緒に炒めることが多く、個体の大きい紅皮たまねぎに人気がある。このため輸出向けの黄皮たまねぎを国内向けへ仕向けることは難しいと考えている。
図19 中国国内のたまねぎ価格の推移
山東省濰坊市安丘市の2007~2010年のねぎの生産量の推移を見ると、年々増加傾向にある。同市の日本向け輸出企業では、日本の品種を使用しており、ねぎの白い部分は35センチ以上、葉部が3枚などという厳しい規格を求められている。
聞き取りによると、2010年のねぎの生産コストはム当たり平均3,061元(3万9,671円、1ヘクタール当たり59万5,065円)となっており、前年比115パーセントと増加している。生産コストは、すべてにおいて増加しているが、特に人件費は、2008年と比べて約2倍へと増加している。ねぎの粗収入は年々下降しており、2008年にはム当たり5,643元(7万3,133円、1ヘクタール当たり109万6,995円)で、2010年には4,500元(5万8,320円、1ヘクタール当たり87万4,800円)となっている(図20)。
図20 ねぎの生産コストおよび粗収入の推移(山東省?坊市安丘市)
2008年はキログラム当たり、約4.5元(58円)まで上昇したねぎの国内価格は、2009年においてもキログラム当たり、約3.2元(42円)と高値をつけ作付面積は増加した。2010年から価格の低迷が続いており、日本輸出向けの規格が厳しいことから、生産面積は減少傾向になると思われる(図21)。輸出用ねぎのほとんどが日本向けに輸出されているが、2011年の1~3月は韓国が天候不順による農作物の不作により野菜の輸入を増やしているため韓国向け輸出が増加している。なお、韓国向けに輸出されているねぎの価格は安価であることから、日本向けの規格外品を中心に輸出されていると考えられる。
図21 中国国内のねぎ価格の推移
福建省福清市における2008年と2010年のにんじんの生産量を比較すると、大幅に増加している。同市で生産されているにんじんは、主に日本の品種を栽培している。また、収穫量の約65パーセントは国内向けに出荷されており、そのほかに福清市外の輸出企業により加工されて輸出されているケースもあると思われる。
聞き取りによると、2010年のにんじんの生産コストはム当たり平均4,695元(6万874円、1ヘクタール当たり91万3,110円)となっており、前年比158パーセントと大幅に増加している。コストの大幅な増加の要因としては、人件費と搬送費が特に増加している。一方、同市で生産されたにんじんの粗収入は、2008年にはム当たり3,040元(3万9,398円、1ヘクタール当たり59万970円)であったが、2010年には6,000元(7万7,760円、1ヘクタール当たり116万6,400円)となっている(図22)。
図22 にんじんの生産コストおよび粗収入の推移(福建省福清市)
2009年5月にキログラム当たり約2.5元(32円)と高値をつけたが、その後は、にんじんの国内価格は1.5元(19円)前後でほぼ安定して推移している。(図23)同市の加工企業によると2011年の日本向けにんじんのFOB価格は、前年比124パーセントと上昇しており、生産コストの増加により今後も上昇していくと考えている。
図23 中国国内のにんじん価格の推移
山東省金郷県でのにんにくの生産量は、2007~2008年に安値で推移し、2009年には種面積が減少したため減少傾向にある。2009年10月以降価格が急騰したため、2010年のは種面積は増加している。しかし、にんにくの市場価格は変動が激しいため、リスクが高いと考える農家も多く、にんにく栽培農家も土地や労働力の制限や生産コストの上昇により、生産面積の急激な拡大は難しいと思われる。
聞き取りによると、2010年のにんにくの生産コストはム当たり平均3,692元(4万7,848円、1ヘクタール当たり71万7,720円)となっており、前年比136パーセントと増加している。コスト増加の要因としては、種苗代が特に増加している。また、同県で生産されたにんにくの粗収入は、2008年はム当たり1,200元(1万5,552円、1ヘクタール当たり23万3,280円)であったが、2010年には6,400元(8万2,944円、1ヘクタール当たり124万4,160円)と高騰している(図24)。
図24 にんにく生産コストおよび粗収入の推移(山東省金郷県)
2009年以降、にんにくの国内価格は、キログラム当たり10元(130円)を超える価格となるなど大幅に上昇している(図25)。地元輸出企業によると、日本向け輸出の利益率は、生産コストの上昇から減少傾向にある。また、日本向け輸出では、293項目の検疫検査、残留農薬検査があり、トン当たり200~300元(2,592~3,888円)の経費がかかる。今後の為替レートの変動次第では、原価割れする可能性もある。国内のにんにく価格も高く、包装や検査コストが削減できるため、国内向けの販売へシフトしている輸出業者も増加している。
図25 中国国内のにんにく価格の推移
2009年の福建省福清市におけるは種面積は6万ム(4,000ヘクタール、1ム=15分の1ヘクタール)、生産量は、20万トンとなっている。同市で生産されている品種は、国内向けと輸出向けは同じ品種となっている。
聞き取りによると、2010年のキャベツ生産コストはム当たり平均3,342元(4万3,312円、1ヘクタール当たり64万9,680円)となっており、前年比132パーセントと増加している。コスト増加の要因としては、人件費の増加幅が最も大きいが、そのほかのすべての費用が増加している。キャベツの粗収入は2009年にはム当たり3,830元(4万9,637円、1ヘクタール当たり74万4,555円)と高かったことにより、2010年の生産面積は増加し収穫量も増加し、キャベツの粗収入はム当たり2,980元(3万8,620円、1ヘクタール当たり57万9,300円)へと下落した。このため、2010年のキャベツ生産コストは粗収入を上回った(図26)。
図26 キャベツ生産コストおよび粗収入の推移(福建省福清市)
同市の輸出企業は、日本、韓国、ロシアへキャベツを輸出しているが、日本向けとロシア向けを比較すると4つの相違点がある。
・ロシア向けに比べ日本向けは検査項目が多く、通関にも時間がかかるためロス率が高い。
・日本向けコンテナのキャベツの積載量は、1基当たり約25トンであるが、ロシア向けは30~40トンであるため、日本向けの搬送費用は高い。
・キャベツの包装は、日本向けは小包装であるが、ロシア向けはプラスチック製袋を使用している。このため日本向けは、包装資材費や労賃が高い。
・日本向けは、規格の均一性が要求されるが、ロシア向けは、規格に対して厳しい基準がない。このため、日本向けは調製作業にかかる経費が高い。
このようなことから同社は、日本向け輸出利益が低くなれば、ロシア向け割合を拡大することを考えている。
中国の人民元は2005年7月の切り上げに始まり、2011年の米中交渉では、継続的で緩やかな人民元の上昇を約束している。このことから、今後も人民元の上昇は止まらないと考えられる。これに対して、現在、円の対ドルレートは円高で推移しているが、仮に現在のレートが維持されたとしても人民元が上昇すれば輸入品の価格は上昇する。当然、野菜の輸入価格にも影響するだろう。
図27 USドルに対する人民元の推移
中国の野菜輸出先は、日本の占める割合が最も高いが、東南アジア、ロシア、韓国など多様化している。これに比べて日本の野菜輸入先は、中国が半分を占める状況が続いている。
本稿で検証してきたように中国経済の発展により、人件費などのコストは確実に上昇し、市場の動きによっては赤字生産となっている品目も出てきた。このような中で日本向け輸出の野菜価格も多くの品目で上昇している。また、人民元が切り上がる情勢の中でいつまで中国野菜に依存できるのだろうか。
日本の野菜産地は、農業従事者の高齢化、消費者の低価格志向による野菜価格の下落によって厳しい農業経営を迫られている。国内の野菜の安定供給を継続的に図るためには、官民一体となって日本の野菜産地を守ることが重要だと思われる。