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米国における野菜消費の状況
~日本の消費拡大の可能性を探る~

総務部総務課 課長補佐 矢野 麻未子


要約】

 わが国における野菜消費量は年々減少している。一方、米国では、近年やや減少したものの増加傾向にある。その要因として、所得の向上、流通網の確立、啓発活動の成果、教育の向上などが挙げられる。米国における野菜消費拡大の取り組み、消費者の農業へのかかわり方は、わが国における野菜消費拡大の可能性として参考になる点は多いと思われる。

はじめに

 わが国では、すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とすることを目的に「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)の推進について」が厚生労働省により2000年に策定された。そこには、「21世紀において日本に住む一人ひとりの健康を実現するための、新しい考え方による国民健康づくり運動である。(中略)健康に係わる具体的な目標を設定し、十分な情報提供を行い、自己選択に基づいた生活習慣の改善および健康づくりに必要な環境整備を進めることにより、一人ひとりが実り豊かで満足できる人生を全うできるようにし、併せて持続可能な社会の実現を図るものである。」と記されている。これをもとに、2005年には厚生労働省と農林水産省により「食生活指針」が作成され、具体的な行動に結びつけるものとして「食事バランスガイド」が作成された。その中では、野菜摂取量の目標値として1人1日当たり5~6皿が示されたところである。
 しかし、わが国の野菜消費量は、消費拡大のためのさまざまな啓発活動が行われているにもかかわらず、減少傾向に歯止めはかかっていない状況にある。かつては「成人病」と言われていた重要疾患は、長年の生活習慣が深く関わっていることから、1997年以降「生活習慣病」に改称されたが、日々の生活がいかに健康にとって重要かを示している。野菜を適切に摂取することは、健康はもとより、野菜を多く摂取してきたわが国における食文化にもかかわり、ひいては、国民が健康に生き生きと暮らしていくためにも重要なことだと思われる。
 一方、米国においては、1人当たりの野菜消費量は2008年、2009年にやや減少したものの、1970年代以降増加傾向にある。女性の社会進出、食の外部化、軽量野菜への移行など、わが国の野菜消費量の減少要因として挙げられる現象が、米国でも見られるにもかかわらず、野菜消費量は増加している。米国における野菜消費拡大の取り組みに、わが国も学ぶところがあると思われる。

1. わが国における野菜消費の現状

(米国との比較)

 わが国における1人当たりの年間の野菜消費量の推移を見ると、継続的に減少の一途をたどっており、2007年は1975年と比較すると、その88パーセントに減少している(図1)。
 一方、同様に米国における1人当たりの年間の野菜消費量を見ると、近年は若干減少したものの120パーセントと増加しており、1990年代に、わが国の野菜消費量を上回った。さらに、米国農務省(USDA: United States Department of Agriculture)の報告では、今後も消費量は増加すると予測されている。1)

(野菜消費量の減少要因)

 「野菜の消費をめぐる状況について」(農林水産省平成20年10月)によると、わが国における野菜消費量の減少要因は、①「食生活の多様化」として、だいこんやかぼちゃなどの重量野菜で作る煮物などから、レタスやきゅうりなどの軽量野菜で作るサラダなどへ料理の種類が変化している、②「食の外部化・簡便化」として、20代から40代の成人の野菜摂取量が少なく、毎日1回以上外食する人は、外食をほとんどしない人に比べて野菜摂取量が少ない、③「野菜を食べているつもりの意識の蔓延」として、野菜の摂取不足を認識している割合が低い、④「子どもの野菜嫌い」として、子どもの嫌いな食べ物の上位を野菜が占めている、などが挙げられている。
 米国の品目別の野菜消費量の推移(図2)を見ると、サラダ需要の葉茎菜類、特にリーフなどの深緑野菜と呼ばれる野菜の消費量が拡大していることが分かる。また、外食への依存度も、わが国は21パーセントであるのに対して、わが国より女性の社会進出の割合が高い米国では41パーセントと高い。米国においては、わが国よりも女性の社会進出率が高い中で、サラダ需要の増加などにより野菜の消費量は増加しているのである。

図1 日米における1人1年当たりの野菜消費量の推移

資料:USDA/Economic Research Service. Date last updated February 1, 2010.

図2 米国における1人1年当たりの野菜品目別消費量の推移

資料:USDA/Economic Research Service.
    Date last updated February 1, 2010.
 注:深緑野菜…チコリ、ロメインレタス、ほうれんそう、ケールなど
   橙色野菜…にんじん、さつまいも、かぼちゃ、
   でん粉類…ばれいしょなど

2. 米国の野菜生産の概況

(生産概況)

 米国では、野菜を生鮮用と加工用に区分して統計を取りまとめている。栽培面積では、1995年に生鮮用が加工用を上回り、加工用は1995年以降減少に転じているが、生鮮用は2000年まで増加し、その後緩やかに減少傾向にある。生産量も同様に1995年に生鮮用が加工用を上回り、その後はほぼ横ばいで推移している。生産額では、生鮮用は増加傾向、加工用は横ばいで推移している(表1)。

(主要産地)

 米国の野菜産地(図3)は、生鮮野菜ではカリフォルニア州とフロリダ州、加工用野菜では、中央北部のミシガン州やミネソタ州、ウィスコンシン州というように区分ができる。特にカリフォルニア州は、栽培面積、生産量、生産額ともに全米で1位であり、その占める割合も高いことが分かる(表2)。

(輸出入)

 米国は、世界の中でも野菜の生産大国であり、輸出も行っているが、それと同時に輸入国でもある(表3)。特に1992年にNAFTA(North American Free Trade Agreement:北米自由貿易協定)が締結され、カナダ、メキシコとの交易が活発になり、その後継続的に輸入額は増加している。輸入は端境期が多いことから、輸入による周年供給体制も、野菜消費量増加の要因のひとつと考えられる。

(コールドチェーン確立がもたらした消費拡大)

 かつて米国では、西海岸で作られた農産物をいかに東海岸の大消費地へ運ぶかが重要な課題であった。特に野菜は傷みやすいことから、缶詰や瓶詰などの加工品にして遠距離輸送を行っていたが、1990年代からは、冷蔵車や冷蔵コンテナなどの輸送技術の発達によるコールドチェーンの確立により、西海岸の生鮮野菜を新鮮なままの状態で東海岸に運べるようになった。また、米国ではこの時期、好景気にみまわれ、所得の向上が食生活の改善へとつながった。供給サイドの準備と需要サイドの要求がタイミングよく合わさったことも野菜消費拡大の大きな要因といえる。

表1 米国における野菜栽培面積、生産量及び生産額

資料:USDA. Statistics of Vegetables and Melons 各年次

表2 米国における用途別、州別主要野菜栽培面積、生産量、生産額(2009年)

資料:USDA. 2009 Agricultural Statistics Annual

図3 米国における野菜出荷産地の分布図

表3 米国における野菜及び野菜加工品の輸出入

注:2010年は、1月~ 11月の数値である

・米国の野菜主要産地カリフォルニア州サリナスの収穫作業の様子

ブロッコリー畑での収穫風景

米国の農業において、メキシコなどからの安い賃金の
労働力はかかせない。野菜産地では英語ではなく、
スペイン語が公用語。横一列に並んで収穫作業が行われる。

ほ場でセルリーを袋詰めしている様子

収穫と同時にその場で洗浄、カットされ、店頭にならぶ
商品の姿に包装されて、冷蔵庫に輸送される。
このような作業用の機械は、自分たちで工夫して作っていくそうである。

3. 米国における野菜消費量の増加要因

(消費量の増加要因)

 USDAの研究機関であるERS(Economic Research Service)は、米国における野菜消費量増加の要因として、①収入の増加、②国内生産の増加、③便利な商品の開発、④技術革新、⑤健康に向けた啓発運動、⑥高い教育を挙げている。2)3)
 ①の収入の増加は、食生活の改善をもたらした。他の食品に比べ価格が割高な野菜の購入が可能となったことが、消費量の増加につながった。10パーセントの所得増加が、野菜消費量を2.5パーセント増加させるとの報告もある。3)しかし、全体的な食物の摂取量が増加していることから、野菜の消費量が特別伸びたわけではなく、全体的に食べる量が増加したという見方もある(図4)。
 ②の国内生産の増加は、カリフォルニア州における生鮮野菜産地の規模拡大が寄与している。
 ③の便利な商品の開発は、米国では女性の社会進出が進む中で、料理に費やす時間をいかに節約するかは重要である。そのため、皮がむかれている、カットされているなどの野菜の下処理が施された一次加工品の需要が高まった。利用しやすい野菜として商品を供給したことが野菜離れではなく、野菜消費の拡大に貢献したと思われる。米国のスーパーマーケットで売られている商品を見ると分かるように、一次加工が施された非常に多種多様な野菜の商品が並んでいる。特に葉物の種類は、わが国と比べると種類が豊富である。人気があるのは、ロメインレタスであるが、ハーブのようなえぐみがしっかりとあるものや、香りの強い葉物も充実している。茎の根本でカットされ、洗浄されたものがパック詰めされており、必要な分量だけをパックから取り出し、簡単に水洗いした後、皿に盛りドレッシングをかけたらサラダの出来上がりである。
 ④の技術革新では、コールドチェーンとカット野菜の鮮度保持の技術が大きく影響している。鮮度保持のための充填ガスやパッケージ、カット技術において、米国は世界の最先端を走っている。
 ⑤の健康に向けた啓発運動は、米国で深刻化している肥満問題と密接にかかわっている。米国疾病対策センターCDC(Centers for Disease Control and Prevention)の発表によると、肥満が原因の疾病により、米国における医療費、例えば糖尿病など肥満関連の病気に支出される医療費は、10年前と比較して約2倍に膨れ上がったとのことである。大人の3分の2、子供の5人に1人が「太りすぎ」もしくは「肥満」であるとのことである。

(消費拡大に向けた取り組み)

 1986年にカリフォルニア州で、「5 A Day - for Better Health!」運動が行われた。これは、「健康増進のために1日5サービング(皿)以上の野菜・果実を食べましょう!」という運動である。この運動の成功により、1991年には連邦プログラムとなり、全国的な運動となった。また、同年には、PBH(Produce for Better Health Foundation)が設立され、米国における食生活改善の啓蒙活動や呼びかけが行われるようになった。2010年の実績では、26,000店の小売店、50州の果実・野菜栄養コーディネーター、関係団体、300もの企業と連携を取って活動が行われている。
 また、米国では1980年以降、「American Food Guideline」が作られ、5年毎に見直しが行われている。2005年の改訂により、従前は「5 A Day(1日の野菜消費量を5皿)」を目標値としたものが、それまで以上に青果物を摂取する必要があることが示され、2005年より「マイピラミッド」という名称で新たな活動が行われている。さらに、2010年のガイドラインでは、食事の半分を野菜もしくは果実にすることが望ましいと示されている。
 さらに、最近の動向としては、オバマ大統領のミシェル夫人が、子供の肥満問題を重くみて、ホワイトハウス発信による「Let’s Move!」として、食生活改善の呼びかけが発信されている。この活動では、子供の肥満問題と密接に関係している学校における食行動、特に学校給食の改善などが今後図られていく予定である。

図4 米国における1 人1 日当たり食品群別消費カロリーの推移

資料:USDA ERS Food Availability(per Capita)

4. 米国における野菜販売の状況

 食生活の改善に対して、さまざまな取り組みが行われている米国であるが、実際にどのようにして消費者まで野菜が届くのかを見てみる。

① 学校給食における野菜の提供について

 米国の学校給食は、従来は余剰農産物の処分を目的としたものであったが、その後、食事を取れない貧困層に対する支援として行われてきた。しかし、大手ファストフードの学校給食への参入などによる児童の肥満問題が深刻化し、2004年に「Fresh Fruit and Vegetable Program」として、給食に果実もしくは野菜を提供した場合は、実績に応じて国から支援が受けられることとなった。
 また、全国的に行われているわけではないが、サラダバーの設置や有名シェフによる野菜料理の提供など、児童に対する食生活の改善が図られている。しかし、米国では、給食は選択制であり、家から好きなお菓子を持ってくる児童、メニューも児童自身の選択によるものであること、また、学校側もまだ本格的な取り組みに至っていないといった状況にあり、今後、さらに改善していくとのことである。

公立小学校における給食

ピザとジュースを選択した児童。100%果汁ジュー
スも「Fresh Fruit and Vegetable Program」に入る。

公立小学校における給食

「Fresh Fruit and Vegetable Program」の果実
(洋梨、りんご)と野菜(ミニキャロット)

② 小売店における野菜の提供について

 米国もわが国と同様、消費者の野菜購入先の第1位は、スーパーマーケットである。米国におけるスーパーマーケットは、わが国のスーパーマーケットとは異なり、富裕層向け、一般向け、低所得者向けなど階層ごとに分かれている。所得が違えば欲しい商品も異なり、客層に合わせて商品を取り揃えれば、無駄も省けるという米国らしい合理的な考え方のようである。消費者もわが国のように、商品によって店を変えるというような消費行動はせず、自分の生活レベルにあったスーパーマーケットで商品を購入する。また、1週間に1度しか買い物に行かないという購買行動にも要因があると思われる。そういった状況の中で、米国のスーパーマーケットにとっては、いかにして対象とする階層から支持を得るかは非常に重要であり、各スーパーマーケットが特徴を出し合いながら競争が行われている。
 米国のスパーマーケットの野菜売り場に行くと、まず、その色彩豊かな陳列に驚く。彩りよく並べられた商品は、見ているだけで買い物客の気分をわくわくさせる。中には包装された野菜もあるが、葉物も含めてそのままの姿で売られている野菜が多いのが特徴的である。特に、ほうれんそうやケールをはじめとする、緑色の濃い葉物野菜は種類に富んでおり、購入していく人も多い。そのまま刻んで、ナッツ類をトッピングしてドレッシングをかけて食べるそうである。

③ 地域野菜の提供について

 米国における、ファーマーズマーケットに代表される地域野菜の直接販売は、2007年の食品販売の合計のわずか0.4パーセントを占めるにすぎない。しかし、1997年には販売額が5万5千ドルでしかなかったが、2007年には12億ドルまで成長している。USDAは今後この市場は拡大すると報告している。6)

1)ファーマーズマーケット

 ファーマーズマーケットは、特定の地域の生産者が集まり、さまざまな生鮮野菜、果実、その他の農産物を消費者に直接販売する市場のことである。大都市周辺でかつ野菜生産が行われている都市で開催されることが多い。例えば、ニューヨーク州のマンハッタンやカリフォルニア州のロサンジェルスやサンフランシスコなどである。ファーマーズマーケットは、1994年と比較するとおよそ3倍まで成長している(表4)。
 ファーマーズマーケットに出展する生産者の作付規模は小さく、その分生産コストはかかっており、直接販売だからといって価格が安いわけではない。しかし、消費者は、生産者と直に会話を交わすことにより調理方法を教わったり、鮮度が良く安全・安心な農産物を購入することができる。また、消費者は、地域の農業は地域が守ることの重要性を認識した上で足を運んでいる。

表4 米国におけるファーマーズマーケット数の推移

資料: USDA, Agricultural Marketing Service,Farmers Market Survey

ニューヨーク ユニオンスクウェアのファーマーズマーケット
黄色、緑色、黒色、オレンジ色など、さまざまな色
のトマトが並んでいる。

ニューヨークのファーマーズマーケットの開催場所
が記載された地図。毎日どこかで開催されている。

ニューヨーク ユニオンスクウェアのファーマーズマーケット
ばれいしょも10 種類以上が並び、それぞれにあった
調理方法が記載されている。

2)地域サポート農業(CSA: Community Supported Agriculture)

 CSAは、生産者と地域消費者が伴に地域農業を守り、ひいては地域経済を活性化させることを理念としており、地域会員が生産者に代金前払いにより、直接、定期的に農産物を購入する仕組みである。この仕組みにより、消費者は新鮮な野菜を購入することができ、生産者は要求に応じた栽培計画により一定の収入を得ながら、安心して農業ができる。天候不順などの不可抗力な要因により収穫ができなかった場合や希望の品目、数量に満たない場合などにおいても、両者がお互いの痛みを理解し、了承した上で売買が行われている。つまり、生産におけるリスクを消費者も負う仕組みとなっており、あくまで地域の農業を支援するという基本理念に基づいた仕組みである。
 1986年には、2つのCSA運営団体しかなかったが、2005年には1,144団体にまで運営が拡大している(図5)。CSAは、それぞれの地域や団体の特色を生かした運営が行われており、参加している生産者もさまざまである。

図5 CSAを実施している場所の分布図

資料: Local Harvest http://www.localharvest.org/csa/

おわりに

 米国では、American Food Guidelineの2010年ガイドラインの見直しにおいて、食事の半分を野菜もしくは果実にすることが望ましいことが示され、子どもの肥満問題と密接している学校における食行動の改善においては、学校給食の改善が予定されている。
 また、生産者と地域消費者が伴に地域農業を守り、ひいては地域経済を活性化させることを理念とする地域サポート農業(CSA:Community Supported Agri-culture)が全米に拡大しており、それぞれの地域や団体の特色を生かした運営が行われている。米国の消費者は、地域や自国の生産者を守るといった意識も高い。
 米国における野菜消費拡大の取り組み、消費者の農業へのかかわり方は、わが国における野菜消費拡大にとって参考になる点は多いと思われる。
 米国のような食生活全体の改善の取り組みや、消費者と生産者の連携による地域農業の活性化の取り組みが、野菜の消費拡大にとって大切ではないだろうか。

参考文献
1)Fruit and Vegetable Consumption Looking Ahead to 2020_USDA. ERS. 2004
2)Consumer Demand for Fruit and Vegetables: The U. S. Example_USDA. ERS
3)What Determines the Variety of Household’s Vegetable Purchases?_USDA. ERS. 2004
4)米国における果実野菜消費啓発運動 (5 A Day program)
2001年5月17/18日 中川 圭子
5)平成19年度農林水産省貿易円滑化推進事業 調査結果 農林水産省
6)Local Food Systems_USDA. ERS. 2010



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