調査情報部調査課 係長 小峯 厚
世界的な景気後退下において、日本の消費者は、安全より低価格を優先させる傾向がうかがえる。そのような中で、2009年の我が国における野菜の輸入量は、2,185千トンに上り、うち中国産は、1,098千トンとほぼ半数を占めている。
2009年の中国からの野菜輸出状況を見ると、国別では日本向けが全体の11パーセントと最も多いが、品目別では、たまねぎやねぎは、日本向けが主体となっているものの、にんにく、トマト、にんじんなどは、主にアジア各国やロシアなど中国の近隣諸国へ輸出されており、日本市場を重視しつつもアジア各国を中心とした輸出にも力を入れていることが分かる。(図1)
本稿では、このように我が国にとって、重要な野菜供給国となっている中国の日本向け輸出野菜について、各資料をもとに品目・産地別の生産動向を紹介する。
なお、取りまとめは、対日輸出量が比較的多い品目について、現在の対日輸出産地および対日輸出が増加すると見込まれる産地を対象に行った。
1 食用 きのこ、トリュフ、オリーブ、ケーパー、かぼちゃ、なす、スイートコーン、とうがらし属又はピメンタ属の果実、ういきょう、パセリ、チャービル、タラゴン、クレス及びスイートマージョラムを含む。
2 次の品目を除くほか、野菜を乾燥したすべてのものを含む。
(a)乾燥した豆でさやを除いたもの
(b)形状のスイートコーン
(c)ばれいしょの粉、ミール、フレーク、粒及びペレット
(d)乾燥した豆の粉及びミール
3 とうがらし属又はピメンタ属の果実を乾燥し、破砕し又は粉砕したものを含まない
①江蘇省 徐州市豊県(じょしゅうしほうけん)
(1)江蘇省徐州市豊県の概要
江蘇省徐州市豊県は、東部沿岸地域にある江蘇省の北西部に位置し、高速道路や鉄道が四方に発達し、空港も整備されている。年間の平均気温は14度、降水量は1190ミリとなっており、温暖な気候で四季がはっきりしている。
(2)土地の利用状況
2008年の耕作地の利用状況は、小麦やとうもろこしを主体とした穀物の栽培面積が多くを占めている。野菜の栽培面積は、耕地面積全体の約27パーセントとなっている。(図2)
(3)栽培品目
江蘇省徐州市豊県で生産される野菜の主要な品目は、にんにく、たまねぎ、はくさい、トマトなどである。同県農林局への聞き取りによると、たまねぎ作付面積は、2007~2009年の2年間で約1.5倍に増加しており、全生産量の76パーセントが輸出されている。なお、国内向けと輸出向け品種は、同じであり、4~6月にかけて収穫される。(表1)
②福建省 漳州市漳浦県(しょうしゅうししょうふけん)
(1)福建省漳州市漳浦県の概要
福建省漳州市漳浦県は、中国東南の沿岸部にある福建省の最南端に位置し、高速道路や水運が発達し、廈門国際空港などのインフラも整備されている。年間の平均気温は21度、降水量は1,550ミリとなっている。
(2)土地の利用状況
2008年の耕作地の利用状況は、米(36パーセント)および野菜(35パーセント)が大部分を占めている。(図3)
(3)栽培品目
福建省漳州市漳浦県で生産される野菜の主要な品目は、キャベツ、アスパラガス、にんじん、ねぎである。冬季でも10度以上の温暖な気候のため、冬季の主要な産地として山東省と相互補完的な産地となっている。特に東シナ海に面する東部地域の赤湖鎮は、金三角地帯と呼ばれる無霜地帯で野菜栽培が盛んに行われている。
同県の地元輸出企業への聞き取りによると、2007~2009年のキャベツの作付面積は、ほぼ横ばいとなっている。生産されたキャベツの半分が輸出向けであり、うち8割が加工用へ仕向けられた。また、同期間においてねぎの作付面積は、若干増加し、生産されたねぎのうち、国内向けが4割、輸出向けが6割、さらに輸出向けのうち45パーセントが加工用であった。なお、キャベツ、ねぎとも、国内向けと輸出向け品種は同じである。
キャベツは、秋作による生産で、1~5月にかけて収穫され、ねぎは、12~6月にかけて収穫される。(表2)
③山東省 濰坊市安丘市(いほうしあんきゅうし)
(1)山東省濰坊市安丘市の概要
山東省濰坊市安丘市は、沿岸部にある山東省の中部に位置している県レベルの市で、道路網や鉄道網などのインフラ整備が進んでおり、青島港を利用した日本向け輸出も盛んに行われている。年間の平均気温は12度、降水量は646ミリとなっており、春と秋が短く、夏と冬が長い気候となっている。
(2)土地の利用状況
2008年の耕作地の利用状況は、小麦、とうもろこしなどの穀物の栽培面積が多くを占め、野菜は全体の24パーセントと、これらに次いで多くの面積を占めている。(図4)
(3)栽培品目
日本への主要輸出地域である山東省濰坊市安丘市では、ねぎをはじめとして、しょうが、たまねぎ、にんにく、ばれいしょなど多くの作物が栽培されている。
同市農業局への聞き取りによると、2007~2009年のねぎの作付面積は、増加傾向が続いており、生産されたねぎのうち国内向けが3割、輸出向けが7割となっている。一方、たまねぎの作付面積は、同期間中大幅に減少した。生産されたたまねぎのうち国内向けが3割、輸出向けが7割となっている。ごぼう、にんじんの作付面積は、ほぼ横ばいとなっており、生産されたごぼうのほとんどが輸出向け、にんじんは国内向け2割、輸出向けが8割となっている。なお、ごぼうの国内向けと輸出用向けは同じ品種であるが、そのほかの品目は、国内向けと輸出向け品種を分けている。
たまねぎ栽培は、秋作が行われており、5~7月にかけて収穫されている。ねぎは、7~11月に収穫されている。ごぼうは、秋作と春作に分かれており4~8月、7~11月に収穫されている。にんじんは、冬作と秋作に分かれており、5~6月、10~11月に収穫されている。(表3)
④山東省 済寧市金郷県(さいねいしきんきょうけん)
(1)山東省済寧市金郷県の概要
山東省済寧市金郷県は、山東省の西南部に位置し、青島港への鉄道に加えて、北京や上海などへつながる鉄道のインフラが発展している。年間の平均気温は14度、降水量は607ミリとなっている。
(2)土地の利用状況
2008年の耕作地の利用状況は、小麦などの穀物の栽培面積で約40パーセントを占めており、野菜は、全体の35パーセントと穀物に次いで多くの面積を占めている。このほかに、経済作物として綿の栽培面積が全体の25パーセントとなっており、小麦、野菜、綿を主体とした耕作を行っている。(図5)
(3)栽培品目
山東省済寧市金郷県は、中国で最大のにんにくの輸出向け産地で、作付面積は約32,000ヘクタール、生産者は約13万戸ある。日本向けは、青島港より輸出されている。にんにく以外にもほうれんそうやはくさいなど多くの作物が生産されている。
同県農業局への聞き取りによると2007~2009年のにんにくの作付面積は、2008年の価格の暴落により大幅に減少した。生産されたにんにくのうち、国内向けが2割、輸出向けが8割となっている。なお、国内向けと輸出向け品種は同じであり、5月に収穫される。(表4)
⑤黒龍江省 哈爾濱市延寿県(はるびんしえんしゅうけん)
(1)黒龍江省哈爾濱市延寿県の概要
黒龍江省哈爾濱市は、北と東がロシアと国境と接する東北地方の省都である。延寿県は、哈爾濱市に18ある行政区分の一つで市東部にある。哈爾濱市では、西にハルビン太平国際空港や鉄道網などのインフラが整備され、ロシアとの貿易の拠点となっている。季節による寒暖の差が激しく、年間の平均気温は3度、降水量は590ミリであり、降雨のほとんどは6~9月に集中している。
(2)土地の利用状況
2008年の耕作地の利用状況は、米が全体の52パーセント、とうもろこしが13パーセントと両者で栽培面積全体の65パーセントを占めている。次いで豆類が33パーセントを占め、野菜の栽培面積は、全体の1パーセントにすぎない。(図6)
(3)栽培品目
黒龍江省哈爾濱市延寿県は、かぼちゃ、白菜の生産を主として、きゅうり、大根、ナス、いんげん、トマトなどの品目が生産されている。
同県の野菜協同組合への聞き取りによると2007~2009年のかぼちゃの作付面積は減少した。生産されたかぼちゃは、主に国内向けに出荷されているが、現在、かぼちゃの輸出を目指して輸出企業を育成中で、今後は海外市場の開拓を進めていくとしている。なお、哈爾濱市で栽培されている日本種は、冷凍により日本へ輸出されている。
同県で栽培されるかぼちゃは、は種が夏季に行われ、9~10月に収穫される。(表5)
⑥雲南省 楚雄市元謀県(そゆうしげんぼうけん)
(1)雲南省楚雄市元謀県の概要
雲南省楚雄市元謀県は、南西に位置する雲南省の省都昆明の北西に位置し、鉄道により農産物を出荷している。年間の平均気温は21度、降水量は611ミリとなっている。
(2)土地の利用状況
2008年の耕作地の利用状況は、米が全体の25パーセント、小麦が6パーセント、とうもろこしが15パーセントと穀物が全体の46パーセントを占めている。しかし、単品では、野菜が全体の38パーセントと最も多い。(図7)
(3)栽培品目
雲南省楚雄市元謀県では、冬季の野菜産地となっており、たまねぎ、トマトなど多品目の野菜が栽培されている。
2007年から2009年にかけて、たまねぎの作付面積は増加している。また、同県農業局への聞き取りによると、生産されたたまねぎの75パーセントが国内向け、25パーセントが輸出向けとなっている。なお、国内向けと輸出向けで一部同じ品種が栽培されており、12~4月にかけて収穫される。(表6)
(1)たまねぎ
中国におけるたまねぎの主な生産地は、山東省、甘粛省、雲南省、江蘇省などである。
中国国内のたまねぎの価格は、2009年12月に南方の産地での天候不良による作柄不良のために急騰し、2010年に入っても高水準で推移している。(図8)
2009年におけるたまねぎの輸出量は、503,567トン、うち日本向けは174,537トンと、全体の35パーセントを占めた。日本以外では、ベトナム向けが全体の25パーセント、ロシア向けが全体の18パーセントと周辺国が中心となっている。(図9)
地元の日本向け輸出たまねぎ生産契約農家への聞き取りによると、生産コストのうち一番大きいのは人件費で、全体の37パーセントを占めている。また、加工経費のうち、加工労賃の占める割合が大きく全体の42パーセントとなっている。(図10)
(2)ねぎ
中国におけるねぎの主な生産地は、山東省、河南省、河北省、福建省などである。
国内のねぎの価格は、2008年4月の寒波の影響から価格が大幅に上昇している。(図11)
2009年におけるねぎの輸出量は、26,506トンで、このうち95パーセントが日本へ輸出されている。日本以外ではロシア向けが2パーセント、韓国向けが2パーセントとなっている。(図12)
地元の日本向け輸出ねぎ生産契約農家への聞き取りによると、生産コストのうち一番大きいのは肥料代で、全体の28パーセントを占めている。また、加工経費のうち、包装等資材費の占める割合が大きく全体の46パーセントとなっている。(図13)
(3)にんじん
中国におけるにんじんの主な生産地は、山東省、河北省、河南省などである。
国内のにんじんの価格は、2009年5月に干ばつの影響から大幅に上昇して以来一貫して前年を上回って推移している。(図14)
2009年におけるにんじんの輸出量は428,616トンであるが、日本向けはこのうち7パーセントにすぎず、韓国(17パーセント)、マレーシア(14パーセント)、タイ(13パーセント)、ベトナム(12パーセント)とアセアン諸国が輸出の中心となっている。(図15)
地元の日本向け輸出にんじん生産契約農家への聞き取りによると、生産コストのうち一番大きいのは土地代で、全体の39パーセントを占めている。また、加工経費のうち、加工労賃に占める割合が大きく全体の35パーセントとなっている。(図16)
(4)にんにく
中国における主なにんにくの生産地は山東省、河南省、河北省、江蘇省などである。
国内のにんにく価格は2008年、供給過剰のため低迷が続いた。このため、2009年には作付面積が減少した結果、供給が不足し、国内のにんにく価格は大幅に上昇した。(図17)
2009年におけるにんにくの輸出量は、1,518,029トンとなったが、日本向けは、わずか1パーセントにすぎず、インドネシア(25パーセント)、ベトナム(9パーセント)とアセアン諸国をはじめとして、多くの国へ輸出されている。(図18)
地元の日本向け輸出にんにく生産契約農家への聞き取りによると、生産コストのうち一番大きいのは土地代で、全体の28パーセントを占めている。また、加工経費のうち包装等資材費の占める割合が大きく全体の62パーセントとなっている。(図19)
(5)トマト
中国における主なトマトの生産地は河北省、河南省、山東省、江蘇省などである。
2009年のトマトの輸出量は、全体で108,075トンとなっており、57パーセントがロシア向け輸出となっている。そのほかに香港向けが全体の17パーセント、ベトナム向けが全体の11パーセント、カザフスタン向けが全体の9パーセントとなっている。なお、日本向けにはトマトピューレなどの加工品として輸出されている。(図20)
(6)アブラナ属(キャベツ、カリフラワー、コールラビー、ケール、その他)
中国における主なキャベツの生産地は河北省、河南省、山東省、湖北省などである。
国内のキャベツの価格は、2008、2009年はキログラム当たり0.8元前後であったが、2010年に入り、前年を上回って推移している。(図21)
2009年におけるアブラナ属の輸出量は368,161トン、うち日本向けは、2パーセントの7,255トンにすぎない。主要な輸出先を見ると、マレーシア向けが全体の35パーセントを占め、続いて香港(22パーセント)、ベトナム(13パーセント)、ロシア(10パーセント)と近隣諸国が中心となっている。(図22)
中国における野菜の生産コストを見ると、物価の上昇に伴い種子や肥料、土地といった費用が増加している。
また、人件費は、2008年の世界的な金融危機の影響で、中国経済が落ち込み、出稼ぎ労働者が帰郷するといった状況が見られたため、一時、上昇は収まったが、政府の内需拡大政策や地方の開発計画による就業機会の増加により、再び上昇している。特に、沿岸部においては、経済成長を反映して、工業製品などの工場が増加していることから、就業環境の厳しい農産物加工工場での労働力の確保は困難を増し、さらなる人件費の上昇につながっている。