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マレーシアにおける野菜の販売状況および生産動向などについて
~日本産野菜の輸出の可能性を探る~

野菜業務部予約業務課 係長 岸本 真三市



 マスコミなどで日本の農産物の輸出について取り上げられる機会が増えているが、東南アジア諸国の中でも、国民所得が高く、農産物の輸入も多いマレーシアへの日本産野菜の輸出の可能性について調査を行い、その結果をとりまとめたので報告する。

1.日本産野菜の輸出の状況

  • 世界には100兆円を越える農産物の輸出市場があると言われているが、日本の農産物の輸出額は2,800億円程度(平成20年)しかない。
  • 現在日本産野菜の輸出は、ながいも以外は小規模となっており、それだけに伸びる余地があると考えられる。

(1) 農産物の輸出先市場について

 アジアにおける果実および野菜の輸出市場は、表1のとおりであるが、マレーシアはアジアの中でも比較的大きな輸出市場であることがわかる。

表1 果実と野菜の輸入額(アジア)
(億円)

資料:FAOSTAT(2007年)
注:1ドル=90円で換算

(2) 野菜の輸出先市場について

 現在、日本産生鮮野菜の輸出額は、37億円(平成20年)しかなく、そのうち最も大きな割合を占める品目はながいもの20億円(54%)である。中でも、JAとうほく天間農協(青森県)、JA帯広大正農協(北海道)およびJA帯広かわにし(北海道)の事例が有名であり、日本では評価が低い4Lサイズの大きなものが台湾では薬膳料理用などに貴重とされ、売上げを伸ばしている。また、いちごは、まだ2億円(5%)規模でしかないが、輸出額は年々確実に増加している。

表2 生鮮野菜輸出額
単位:千円

(注)-は、データなし(以下同じ)
表3 輸出先の上位3カ国(平成20年)
単位:千円

資料:ベジ探 原資料:財務省「貿易統計」

2.マレーシアについて

  • マレーシアは、将来の日本産野菜の輸出先になる可能性を秘めた魅力ある市場である。

(1) マレーシアの概要

 マレーシアは、マレー半島とボルネオ島の一部から成り、面積は約33万平方キロメートル(日本の国土の約9割に相当)に、マレー系66%、中国系26%、インド系8%の多民族が暮らしている。

 気候は赤道に近いため、熱帯雨林気候に属しており、一年を通じて常夏の気候である。

 マレーシアの人口は2千7百万人と決して多くはないが、2008年と1998年とを比較すると121.7%と増加しており、人口の増加は、市場規模の拡大につながる。また、日本産野菜を購入する者として在留邦人や富裕層が想定されるが、その点、マレーシアには、約1万人の在留邦人が暮らしている。加えて、実質GDP(国内総生産)の成長率が6.3%(2007年)と高く、1人当たりの国民所得は、日本の5分の1程度であるものの、アジア諸国の中では比較的高く、また、増加している。経済の中心は、富裕層である中国系(華人)が大部分を担っており、マレーシアにはヤムイモを食べる習慣があることから、台湾と同様に品質の高いながいもの需要が見込めるのではないかと思われる。

表4 主な野菜の輸入額(マレーシア)

資料:FAOSTAT(2007年)
注:1ドル=90円で換算

(2) マレーシアの輸出入について

 野菜の輸入が少ないアジア諸国の中で、マレーシアは自給率が58%と低く、人口も増加しており、今後も表4のとおり野菜の輸入市場は大きいと考えられる。

 また、日本とマレーシアの間における野菜の輸出入額は、総額で1億2千万円程度と現在は少ない。日本からの輸出では、生鮮野菜は少なく、野菜スープが増加傾向にあり、反対にわが国のマレーシアからの輸入は、生鮮野菜が多くを占めているものの、主たる品目がないのが現状である。

(3) 輸出の手続き

 次に輸出に関する手続きであるが、過去に虚偽申告などの違反がなければ、貨物検査を行わずに通関するダイレクト・リリースシステムや貨物船到着予定日の14日前から輸入申告を受け付ける事前通関制度により、ほかの国と比べると容易かつ迅速化されている(マレーシアの通関制度についての詳しい内容は、2005年3月日本貿易振興機構海外調査部「ASEAN各国における関税・通関制度の実態と問題点」を参照されたい。)。加えて日本からは植物検疫証明書なしで輸出することができる。

 以上のようにマレーシアは、日本産野菜の輸出先としては、魅力的な要素の多い市場と言えるのではないだろうか。

表5 日本からマレーシアへの輸出額
単位:千円

表6 マレーシアからの輸入額
単位:千円

資料:ベジ探 原資料:財務省「貿易統計」
表7 マレーシアとアジア諸国の比較①

(資料)世界の統計2009 *除く(a)~(c)
(a)singapore statistics
(b)Tiwan Statistical Data Book 2009
(注)1ドル=90円で換算

表8 マレーシアとアジア諸国の比較②

(c)農林水産省植物防疫所 ◎…植物検疫証明書無しで輸出可、○…植物検疫証明書必要、P…相手国の「輸入国許可証」が必要、×…相手国が原則輸入を禁止している。

3.マレーシアへの日本産野菜の輸出の可能性

  • マレーシアでは、消費者が安全・安心を求め始めており、有機野菜や生食用野菜の市場が形成されつつある。このため、安全・安心と認識されている日本産野菜の輸出は可能性があると考えられる。

 今回、マレーシア農業局、有機野菜生産者、日系スーパーおよび日本産野菜の輸出業者の協力の下、マレーシアにおける日本産野菜の輸出の可能性について調査を行った。

(1) マレーシア農業省農業局

 マレーシアでは、国産野菜に対する消費者の信頼は低く、日系スーパーでは、野菜を洗う洗剤が売れるとの話もあった。

 そのような状況の中、マレーシアの農業局では、国産野菜の品質と安全の向上のため、GAP注1をモデルとした農家認証制度(Malaysian Farm Accreditation Scheme、以下「SALM」と略記)とIFOAM注2の基準をモデルとした有機野菜認証(Malaysian Organic Scheme、以下「SOM」と略記)に取り組んでいる。

 現在、認証数はSALMが168(日本での同等の制度であるJGAP注3の場合、青果における認証数は63(個人57、団体6)(平成22年1月末現在))、SOMが28となっている。

 認証および登録者の情報は、農業省のホームページで公開されている。

 また、マレーシアは、生産量が需要量に満たないために輸入に依存していることから、国産野菜の生産振興、安定供給を政策の目標としている。特に生産振興を図っている品目は、輸入の依存度が高いほうれんそう、オクラ、とうがらし、いんげん、長いんげん、キャベツ、きゅうり、トマト、とうもろこし、キャッサバ、かんしょ、しょうが、すいか、なす、からしななどである。


SALMのマーク

SOMのマーク

注1)「GAP」とは、Good Agricultural Practice(適正農業規範)のことで、農業者自らが、(1)農作業の点検項目を決定し、(2)点検項目に従い農作業を行い、記録し、(3)記録を点検・評価し、改善点を見出し、(4)次回の作付けに活用するという一連の「農業生産工程の管理」のこと。

注2)「IFOAM」とは、International Federation of Organic Agriculture Movement(国際有機農業運動連盟)のことで、世界の有機農業団体および関連団体により組織され、有機農業の普及、政策提言、意見の反映、生産・加工・流通基準の設定と更新などの活動を行っている。

注3)「JGAP」とは、Japan Good Agricultural Practiceのことで、(1)農産物の安全、(2)環境への配慮、(3)生産者の安全と福祉、(4)農場経営と販売管理の4つの観点から定められた適正な農場管理に関する基準のこと。

(2) 有機野菜の生産法人(Zenxin:ゼンシン)

 Zenxinは、日系スーパーなどに有機野菜を販売しているマレーシアの生産法人である。高地でブロッコリー、キャベツ、トマト、かぼちゃを、低地でちんげんさい、なす、にがうりを、高地と低地でとうもろこしとだいこんなど約20品目を生産している。生産規模は、マレーシア南部のジョホールで66ヘクタール(3カ所)、北西部のキャメロンハイランドで210ヘクタール(開発中のものを含む)(2カ所)である。

 販売先は、マレーシア国内向け7割、シンガポール向け3割であるが、最近香港への輸出を始めたところである。香港を新たな輸出先として選んだ理由は、香港は野菜が生産されるほ場がほとんどないことから、輸入に頼っており、販売価格を高く設定できるためとのことである。

 有機野菜生産の取り組みは2001年からであり、有機野菜の認証は、SOMを2003年(1カ所)と2008年(1カ所)に、NASAA(National Association for Sustainable Agriculture Australia Ltd.,:豪州の認証)を2008年(全5カ所)に取得している。このような認証の取得で消費者に自社の野菜の安全性をアピールできると考えている。また、NASAAを取得したのは、SOMは認知度が低く、特に香港へ輸出するためにはより信頼度の高い証明が必要であったためである。香港へは、豆、キャベツ、ちんげんさい、果物などを輸出している。

 また、Zenxinは、観光農園にも力を入れており、自社の生産を広くマレーシアとシンガポールの消費者にPRしている。

 今後のZenxinの課題は、高地のほ場面積が限られているため、いかにして低地において高地で生産している野菜を生産していくかである。


写真 シンガポールパシャルパンジャ卸売市場内にある店舗

(3) 日系スーパー

 先述したとおり、マレーシアの野菜の自給率は58%と高くはないが、日系スーパーの売り場を調査して驚いたことは、販売されている野菜の原産地を見ると、国産物が9割程度を占めているようであった。ただ、にんじんに関しては、マレーシアの気候が栽培に適していないためか、輸入物(豪州産やニュージーランド産)であった。

 売り場の印象としては、品揃えは日本のスーパーと比較して、さほど違いは感じられなかったが、有機野菜と生食用野菜の売り場面積が広く取られていたことが特徴的であった。有機野菜のコーナーでは、SOMのマークを貼るなどして、国産有機野菜の販売に力を入れていた。

 また、日系スーパーの関係者の話によると、マレーシアは、日本人の国民所得の5分の1程度しかなく、発展途上国に位置づけられており、表9のとおり日本産野菜は、ほかと比較すると価格差が大きくあり、まだまだ購入する消費者は少ないが、日本の県産品フェアなどにより確実にファンは増えているということであった。

表9 野菜の販売価格比


注:1RM(リンギット・マレーシア)=30円で換算

(4) 輸出業者

 現在、日本産野菜の輸出は、図3のとおり、商社などの国内輸出業者を経由することが多い。したがって、国内生産者にとっては、代金決済は国内で完結するためリスクは大きくないが、輸出先国における販売代金の回収や品質管理などのリスクは、国内輸出業者が負っている。

図3 日本の野菜の輸出の経路

資料:農林水産省、第4回今後の野菜政策に関する検討会資料より抜粋

 よって、国内輸出業者が輸出先国を選定する際には、以下の3点の確認が重要となる。

○ 輸出先国に、販売代金の回収が確実にできる輸入会社が存在すること
○ 植物検疫や通関に時間がかからない国であること
○ 生鮮青果物の荷扱いができるお店があること

 また、日本産野菜の輸出には、以下の2点が課題として挙げられた。

○ 輸出コストの低減
○ 調理方法も含めて味や質の良さをアピールするなど、日本産野菜の普及・浸透

(5) 今後の展望について

 現在、有機野菜や生食用野菜といった、これまでにない野菜が市場に出始め、それらがようやく消費者から認知されようとしている段階である(図4)。この背景には、経済成長や認証制度などの野菜政策の影響が考えられる。

図4 マレーシアで日本の野菜市場が確立するまで

 日本産野菜を普及するには、安全・安心など野菜の質にこだわりを持ちはじめた消費者が、高品質で高級品である日本の野菜に関心を持ち、一定の市場を形成する必要がある。

 このためには、県産品フェアなどの日本産野菜のPRは必要不可欠であるが、図5のように消費者が好む野菜の大きさ、種類、色合い、味付けなどを調査しながら販売をしていくことが重要だと考えられる。

図5 日本の野菜を売るためのポイント

(ながいもの輸出事例の詳しい内容は、本誌2006年6月号に掲載した記事「ながいもの生産・輸出の現状と今後の輸出の展望と課題」を参照されたい)

 果物のりんごでは、大きいサイズのものは中国向け、小さいサイズのものは英国向け、その中間のサイズのものは日本国内向けなど、サイズや用途別に細かく販売されている。

 以上のように考えると、日本産野菜の海外における販売は、まだまだ未知数であるが、その分可能性を秘めているのではないだろうか。

5.まとめ

 現在、わが国における野菜の輸出をめぐる状況は、世界的な不況の影響、原油価格の上昇による資材費や輸送コストの上昇、円高など、決して望ましい環境とはいえない。しかし、世界的な日本食ブームやアジアの経済成長などを背景に、海外に野菜の新たな市場を開拓することは、日本の野菜生産を活性化させ、農家経営の安定を図る上で重要であると考えられる。そのような状況の中でマレーシアは、比較的日本に近く、輸送時間や輸送コストが抑えられ、今後の経済成長如何によっては、日本にとって野菜の輸出先として魅力的な国のひとつと考えられる。

 このため、今回の調査をサポートしていただいた多くの方々に感謝しつつ、これらの方々との情報交流を継続し、野菜の生産、販売などに関わる関係者の皆様に少しでも有益な情報を発信して参りたいと考えている。

(マレーシアの地図)

マレーシア州名一覧

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