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豪州の品目別野菜生産・流通事情

調査情報部調査課 課長補佐 平石 康久



 南半球にあり、日本の端境期にたまねぎ、にんじん、アスパラガスを輸出している豪州の野菜生産、流通事情について、各種資料をもとにとりまとめたので報告する。

1.農業と野菜生産の概要

 豪州は広大な面積を有する国ではあるが、そのうち耕地面積は、国土の3.2パーセント(以下、「%」と表記)にすぎず、さらに、野菜の作付面積は、耕地面積の0.5%を占めるにすぎない(表1)。このことから土地利用面では、野菜はきわめてマイナーな作物である。なお、野菜作付面積のうち、9割はかんがいが行われているものとみられる。(豪州の野菜生産におけるかんがいについての詳細は、野菜情報2009年6月号「豪州における野菜生産の現状~かんがいの恩恵で安定した生産を確保~」を参照されたい)

表1 豪州の土地利用の概況(2008年度)
単位:1000ha、%

資料:
ABS(Australian Bureau of Statistics)“Agricultural Commodities, 2007-2008”、およびAUSVEG
注:
かんがい面積はサンプル調査からの推計

 野菜は農家(農業経営体)数でみても畜産や穀物、果実と比較して少数であり、全農家数の3.6%に当たる4,500戸あまりにより豪州の野菜生産が担われている(表2)。

表2 豪州の農家(農業経営体)数(2008年度)
単位:者、%

資料:
ABS“ Agricultural Commodities, 2007-2008”
注1:
穀物等はさとうきびや綿花を含む
2:
果実にはワイン向けぶどう栽培、オリーブや木の実類含む
3:
野菜にはきのこ類を含む

 一方、農業総生産額に占める野菜の割合は7.6%と、作付面積や農家数に比べ比較的高い割合を占めている(表3)。

表3 豪州の農業総生産額の品目別割合(2007年度)
単位:百万豪ドル、%

資料:農畜産業振興機構 野菜情報2009年6月号
「豪州における野菜生産の現状」

2.野菜農家の概要

 サンプル調査による結果ではあるが、豪州の野菜農家における平均的な経営耕地面積は189ヘクタール、そのうち野菜の作付面積が29ヘクタールである。また、野菜農家の経営主の年齢は54歳となっている(表4)。

表4 州別1戸当たり野菜農家経営面積
単位:ha

資料:
ABARE(The Australian Bureau of Agricultural and Resource Economics)“Australian vegetable growing farms: an economic survey, 2007-08”

3.豪州の州別野菜生産状況

 生産額ベースでみると、豪州の中ではクイーンズランド州が一番野菜の生産額が多く、全体の32%を占めている。次いでビクトリア州(23%)、南オーストラリア州およびニュー・サウス・ウェールズ州がそれぞれ15%、14%と続いている。そのほかの州では西オーストラリア州が9%、タスマニア州が6%であり、北部準州においては、ほとんど野菜の生産は行われていない(表5)。

表5 州別野菜生産額(2006年度)
単位:百万豪ドル、%

資料:ABARE“Australian vegetable growing farms: an economic survey, 2007-08”

 クイーンズランド州は、亜熱帯気候を生かして冬季から春季にかけて生産が多く、国内向けの生産が主力ではあるが、一部輸出も行っている。トマト、レタス、かぼちゃなどの産地である。他の州において出荷が行われにくい冬季の産地であることから、有利販売が可能であり、金額ベースに占める割合は高くなっている。


図1 豪州と日本の経度比較図
資料:
機構作成
注 :
図内の日本の図は、同じ緯度で日本をトレースしたもの
略号:
QLD:クイーンズランド州 NSW:ニュー・サウス・ウェールズ州 VIC:ビクトリア州 SA:南オーストラリア州 WA:西オーストラリア州 NT:北部準州(Tas)TAS:タスマニア州 その他、ニュー・サウス・ウェールズ州内の首都キャンベラ周辺がオーストラリア首都特別地域(ACT)として指定されている。

 ビクトリア州は、春季から秋季にかけての生産が多く、ブロッコリー、キャベツ、にんじんなどの主要産地である。同州の旬の季節が日本の旬と逆になる利点を生かし、日本に向けてのアスパラガスの主要産地となっている。また、豪州から日本向け野菜ジュースの輸出は、同州が輸出の主力である。

 タスマニア州は、野菜全体でみた場合は大きなシェアを占める州ではないが、冷涼な気候を生かし、ばれいしょ、たまねぎ、にんじん、グリーンピースなどの主要産地となっている。たまねぎ、にんじんについては、日本の国内産地が切り替わる時期である3~5月に日本向けに輸入が行われる。

 ニュー・サウス・ウェールズ州や南オーストラリア州は、シドニーやアデレードなどの大都市を抱えているため、消費地に近い利点を生かした生産が行われている。

 西オーストラリア州は、豪州全体に占める野菜の生産額の割合は低いが、東南アジア諸国への距離が近いことから、にんじんやいちごなどの品目において、主要輸出州となっている(表6)。

表6 品目別州別の生産割合(2007年度)
単位:%

資料:
ABARE “Australian vegetable growing farms: an economic survey, 2007-08”
注:
生産額ベースの数字である

 各産地の気象条件は図のとおりであるが、冬季が温暖で夏と冬の気温差が小さいうえ、日中の温度差が大きく、降水量は日本と比較して少ないことが特徴である(図2)。




図2 豪州の主要産地の気象と日本の類似地点の比較
資料:
世界気象機関“World Weather Information Service”および気象庁
注1:
日本の地点は同程度の緯度に位置する野菜産地にあるアメダスのデータを選定した。
2:
比較しやすいように、豪州のデータは6カ月ずらしたグラフとなっている。
3:
ブリスベンはクイーンズランド州、メルボルンはビクトリア州、デボンポートはタスマニア州の都市

4.主要品目別概況

 豪州の野菜品目別の生産状況などは表7および表8のとおりである。

表7 豪州の野菜品目別作付面積、生産量、単収

※クリックすると拡大します。
資料:AUSVEG、原資料:Australian Bureau of Statistics
注:ラウンドの関係で計は必ずしも一致しない。

表8 豪州の野菜品目別農家戸数および農家庭先価格

※クリックすると拡大します。
資料:AUSVEG、原資料:Australian Bureau of Statistics
注 :2010年1月末のTTSレート81.97円を利用して円換算

 以上のような豪州の野菜の中で、日本との野菜貿易で関連の深い(あるいは潜在的に関連が深まる可能性のある)品目について、生産、消費、貿易の状況をレポートする。

(1) アスパラガス

①生産概況

 2005年度から2007年度の統計では、作付面積は2005年度に2,000ヘクタール以上あったものが、翌年度には1,300ヘクタール余りに減少するなど、大きく変動している。

 生産量についても、2005年度と2007年度は10,000トン近くであったが、2006年度には5,600トンと大幅に落ち込んでいる。

 2009年の豪州アスパラガス協会のプレスリリースによると、ビクトリア州の生産が全豪の97%を占めており、ビクトリア州南部メルボルン近郊のクーエーラップ(Koo Wee Rup)地域およびダルモアー(Dalmore)地域だけで全豪の93%の生産シェアを占めている。

 主力品種は、カリフォルニアから導入されたUC157系列である。

 ビクトリア州の主な出荷時期は9月から4月である。

②消費

 2008年の資料によると、豪州の生鮮アスパラガスの1人当たりの消費量は、年間0.4キログラムとみられている。

③貿易

 日本向け輸出量は全体の85%を占めていることから、対日輸出量の増減が全体の輸出量の増減に直結している。日本や台湾への輸出単価は若干高めとなっている(表9)。

表9 生鮮アスパラガスの輸出状況
単位:トン、豪ドル/kg

資料:GTI社(Global Trade Information Services, Inc.)“World Trade Atlas”
注:HSコード07031011

 ほぼ全量がビクトリア州からの輸出である(表10)。

表10 生鮮アスパラガスの州別輸出数量
単位:トン

資料:GTI社“World Trade Atlas”
注:HSコード07031011

(2) ブロッコリー

①生産概況

 2005年度から2007年度の統計では、作付面積は6千~7千ヘクタール、生産量は4万トン後半で推移している。主な生産州は、2008年12月の「AUSVEG」(豪州野菜・ポテト生産者協会)のレポートによれば、ビクトリア州が50%以上、次いでクイーンズランド州が20%程度の生産量を占め、両州で70%程度の生産シェアを占めている。

 ビクトリア州の代表的な生産地域は、メルボルン(Melbourne)周辺や東部のベアンデール(Bairnsdale)近郊が挙げられるが、州内の各地域の生産により、周年に近い形での供給が可能であるとされている。

表11 ブロッコリーの生産費
単位:豪ドル/トン、%

資料:ABARE“Australian vegetable growing farms:an economic survey, 2007-08”

②消費

 2008年12月のAUSVEGのレポートによると、1人当たりの消費量は、2004-2006年の3カ年の平均で2.4キログラムと、1997-1999年平均の1.7キログラムと比較して増加している。

③貿易

 輸出はほとんどが生鮮もののブロッコリーであり、主な輸出先国はシンガポール、アラブ首長国連邦、マレーシアである。従来からの輸出先国であるシンガポール、マレーシアにおいては、中国産との競合により、輸出額が減少している。一方、新規の輸出先国であるアラブ首長国連邦への輸出は増加傾向にある(表12)。

表12 生鮮ブロッコリーの輸出状況
単位:トン、豪ドル/kg

資料:GTI社“World Trade Atlas”
注:HSコード07041020

 クイーンズランド州およびビクトリア州からの輸出が大部分を占める(表13)。

表13 生鮮ブロッコリーの州別輸出数量
単位:トン

資料:GTI社 ”World Trade Atlas”
注:HSコード07041020

(3) にんじん

①生産

 2005年度から2007年度の統計では、作付面積は6,314ヘクタールから4,934ヘクタールに減少している一方、単収が増加していることから生産量は26万トン~27万トン台で推移している。主な生産州は、2008年12月のAUSVEGのレポートによれば、南オーストラリア州が24%、タスマニア州が20%、西オーストラリア州が18%、ビクトリア州が16%と各州で生産されている。

 輸出向けの産地は、地中海性気候である西オーストラリア州のパース周辺であるが、日本向け輸出産地はタスマニアであり、同州の主要品種は「ナンテス」や「向陽」などである。タスマニア州北部が産地であるが、冷凍加工用途へのにんじんの生産も多い。

表14 にんじんの生産費
単位:豪ドル/トン、%

資料:ABARE“Australian vegetable growing farms: an economic survey, 2007-08”

②消費

 2008年12月のAUSVEGのレポートによると、1人当たりの年間消費量は2004-2006年の3カ年の平均で11.5キログラムと、1997-1999年平均の11.1キログラムと比較して横ばい傾向である。

③貿易

 輸出のほとんどが生鮮のにんじんであり、主な輸出先はアジア諸国および中近東である。

 シンガポール、アラブ首長国連邦、マレーシア、サウジアラビア、日本が主要輸出先国である。アジア地域の国に対しては、中国産との競合により、輸出が減少している。対日輸出量については、輸出時期の3~5月頃の日本の需給事情に対応した変動がみられる(表15、16)。

表15 生鮮にんじんの輸出状況
単位:トン、豪ドル/kg

資料:
GTI社“World Trade Atlas”
注1:
HSコード07061000
2:
統計データにはかぶを含む

表16 生鮮にんじんの輸出数量
単位:トン

資料:
GTI社“World Trade Atlas”
注1:
HSコード07061000
2:
統計データにはかぶを含む

(4) レタス

①生産

 豪州の主要野菜であるが、2005年度から2007年度の統計では、作付面積は7千ヘクタールから1万ヘクタールまで大きく変動しており、生産量もそれに伴って大きく変動している。主な生産州は、2008年4月のAUSVEGのレポートによれば、クイーンズランド州が31%、ビクトリア州が34%と両州で全国の生産量の3分の2が生産されている。

表17 レタスの生産費
単位:豪ドル/トン、%

資料:ABARE“Australian vegetable growing farms: an economic survey, 2007-08”

②消費

 2008年4月のAUSVERのレポートによると、1人当たりの消費量は2004-2006年の3カ年の平均で6.9キログラムと、1997-1999年平均の6.4キログラムに比較して増加傾向である。流通は生鮮レタスが主力であったが、小袋包装用のカットレタス用途も増加している。

③貿易

 輸出はほとんどが生鮮のレタスであり、主な輸出先はアジア諸国の香港、シンガポール、インドネシア、マレーシアなどである。これらの市場において中国産との競争が激化している(表18、19)。

表18 生鮮レタス等の輸出状況
単位:トン、豪ドル/kg

資料:
GTI社“World Trade Atlas”
注1:
HSコード0705
2:
統計データにはチコリーを含む

表19 生鮮レタス等の州別輸出数量
単位:トン

資料:
GTI社“World Trade Atlas”
注1:
HSコード0705
2:
統計データにはチコリーを含む

(5) たまねぎ

①生産

 2005年度から2007年度の統計では、たまねぎの作付面積は、4,500ヘクタール~5,000ヘクタール前後で推移している。主な生産州は、南オーストラリア州が38%、タスマニア州で30%と両州で全国の生産量の3分の2が生産されている。

 輸出用たまねぎの産地はタスマニア州北西部であり、主要品種は「クリームゴールド」系品種である。

表20 たまねぎの生産費
単位:豪ドル/トン、%

資料:ABARE “Australian vegetable growing farms: an economic survey, 2007-08”

②消費

 2008年4月のAUSVEGのレポートによると、1人当たりの消費量は2004-2006年の3カ年の平均で9.2キログラムと、1997-1999年平均の9.0キログラムと比較して横ばい傾向である。

③貿易

 輸出は、ほとんどが生鮮ものであり、主な輸出先はEU諸国である(表21)。以前は、ベルギーがEU内の輸出先国の1位を占めていたが、これはドイツへの輸出がベルギー経由で行われていたためであり、近年直接ドイツへ輸出されるようになったことから、EU内においては、ドイツが最大の輸出先国となった。

表21 生鮮たまねぎの輸出状況
単位:トン、豪ドル/kg

資料:GTI社“World Trade Atlas”
注:HSコード07031011

 輸出用たまねぎの主力産地はタスマニア州であり、2008年の実績では98%を占めている(表22)。

表22 州別の生鮮たまねぎの輸出数量
単位:トン、豪ドル/kg

資料:GTI社“World Trade Atlas”
注:HSコード07031011

 一方、乾燥たまねぎについては、かなりの輸入が米国から行われている。

(6) いちご

①生産

 生産は、クイーンズランド州のビーワー(Beerwah)地域、ビクトリア州のヤラバレー(Yarra Valley)地域、西オーストラリア州のワナルー(Wannaroo)地域やアルバニー(Albany)地域、南オーストラリア州のアデレードヒル(Adelaide Hills)、ニュー・サウス・ウェールズ州のカムデン(Camden)地域などで行われている(表23)。

表23 2007年度のいちごの州別生産状況

資料:“Strawberry Industry Strategic Plan, 2009-2013”

 豪州の春から秋にかけてのシーズンは、ビクトリア州で生産が行われ、冬に当たる6月から9月にかけてはクイーンズランド州の温暖(あるいは亜熱帯)な地域で生産が行われている(図3)。

図3 いちごの州別収穫時期

資料:“Strawberry Industry Strategic Plan, 2009-2013”

 いちごの苗となるランナーの生産は、ビクトリア州のトゥーランギ(Toolangi)、クイーンズランド州のスタンソープ(Stanthorpe)およびタスマニア州などで行われている。

 品種の多くは米国から導入されたものであるが、一部国内品種が利用されている。

 生産されたいちごは、ほとんどが生食用に向けられている。

②貿易

 主な輸出先国は、アラブ首長国連邦、シンガポールなどである。以前最大の輸出先国であった香港は、2007年以降大幅に減少したため、全体の輸出量も減少している(表24、25)。

表24 生鮮いちごの輸出状況
単位:トン、豪ドル/kg

資料:GTI社“World Trade Atlas”
注:HSコード08101000

表25 生鮮いちごの州別輸出状況
単位:トン

資料:GTI社“World Trade Atlas”
注:HSコード08101000

〈参考〉豪州からの輸送コスト

 豪州からの輸送コストを試算した結果は、下記の表のとおりである(表26)。

表26 豪州からの輸送コスト計算事例

資料:
ビクトリア州東ギップスランドホームページ「オーストラリア連邦 ビクトリア州東部地域、加工食品の事業概要書」より機構作成
注:
ビクトリア州東部ベアンズデールからメルボルン港を経由し、大阪へ輸送した場合

2006年12月現在のデータ

レートは2010年1月末のTTSレートを利用。米ドル90.77円、豪ドル81,97円

40フィートリーファーコンテナで生鮮野菜は13トン~17トン前後積載可能



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