調査情報部調査課
課長代理 谷口 清
調査情報部調査課
藤戸 志保
わが国における野菜の需要は、加工・業務用需要の割合が家計消費用の需要を上回り増加傾向にあり、加工・業務用需要に占める輸入割合も増加傾向で推移している。国内消費仕向け量に占める輸入野菜の割合は、国産野菜の生産動向や為替、輸入野菜に対する消費者の不安感など多くの要素を含みながら、ここ数年はほぼ2割前後で推移している(図1)。
このうち、総輸入量に占める中国産野菜の割合は、2000年代になり約5~6割で推移しており、中国の野菜輸出は、わが国における野菜の需給動向に大きな影響を及ぼすと考えられることから、今後とも、中国における野菜の生産および輸出の動向など注視していく必要がある。当機構としても、加工・業務用需要に国産品を取り込んでいく上で、最大の輸入先国である中国における野菜の生産状況などの動向に関する情報を広く提供することにより、今後の野菜の政策および需給の安定に役立てるべく、先般(2009年2月下旬)中国における主要輸出産地の一つである浙江省および福建省にて、冬春野菜の生産・輸出動向および安全性の確保について調査を行ったので、その概況について報告する。
1 中国における野菜生産の動向
78年末に打ち出された改革開放政策に伴い、中国では80年代半ば以降、都市部を中心に食肉や野菜など副食類の消費が増加した。しかし、一方では、都市部の人口急増などもあって副食類の供給が追いつかず、物価が大幅に上昇することとなった。
このため、従来は穀物(コメ、小麦、とうもろこしなど)の優先生産のために作付けが制限されていた野菜について、中国政府は、86年から都市部近郊における作付けを拡大するとともに、農村部や内陸遠隔地の省・自治区などに野菜産地を形成する政策を導入した。
これにより、野菜の播種面積は、図2のとおり、80年代半ば以降、急速に増加したといわれ、2000年代には農作物播種面積の1割強を占めるに至り、2007年は前年比4.1%増の1,733万ヘクタールとなった。
第二次全国農業センサス(2006年末時点)の実施に伴って2006年のデータが下方修正され、2005年以前と2006年以降とでデータが連続せず、単純な比較はできないが、一つの目安として、95~2007年の12年間における野菜播種面積の年間平均伸び率は5.1%であり、主要農作物である穀物の伸び(マイナス0.3%)を大きく上回っている。
省級行政区(省・自治区など)別には、山東省が170万ヘクタールと最大であり、次いで河南省(169万ヘクタール)、河北省(108万ヘクタール)、広東省(107万ヘクタール)、四川省(105万ヘクタール)などとなっている(図3)。
一方、野菜生産量については、実質的な統計データの公表が95年以降しかなく、長期的な推移を見ることができないが、収益性が比較的高いことなどもあり、2000年以降、穀物生産量を上回って推移し、2007年には前年比4.6%増の5億6,452万トンとなった(図4)。
省級行政区別には、山東省が8千3百万トンと最大であり、次いで河北省(6千4百万トン)、江蘇省(3千3百万トン)、四川省(2千7百万トン)、湖北省(2千7百万トン)などとなっている(図5)。
なお、野菜の栽培時期・品目は地域ごとに差があり、「野菜」として合計された播種面積や生産量が、必ずしも各地域の生産力を反映したものであるとは言い切れない。しかし、中国では「農副産品」または「商品作物」とされている野菜の統計自体が乏しく、特に2007年については、主な栽培品目別の内訳が未公表であることなどもあり、中国における野菜の生産概況の目安として、合計値による比較に頼らざるを得ないことにご留意いただきたい。
また、国連食糧農業機関(FAO)によると、図6のとおり、2007年の中国の野菜生産量(統計の違いにより、中国政府の公表データとは異なる)は第2位のインドの6倍近くに及び、世界の生産量に占める割合は5割を超え、第1位の座を揺るぎないものとしている。
2 日本における中国産野菜の輸入動向
日本への中国産野菜の輸入量は、円高なども追い風となり、80年代半ばから90年代前半にかけ大幅に増加した。その後、為替の影響などから一時的に減少ないし横ばいとなった。
そして、日本の国内生産量があまり振るわなかった90年代末から2000年代半ばにかけ、中国産野菜の輸入量は生鮮品を中心に増加を続け、2005年には、過去最高の165万トン(野菜総輸入量に占める割合=56.8%)となった。その後、2000年代前半に国産価格が比較的高水準で推移した影響などから、特に加工・業務用向けを安価な外国産に求める動きなどを受け、2006年以降は冷凍品や調製品などの輸入割合が増加している(図8)。
このように、広大な国土と南北差を利用した産地リレーにより、安定的かつ膨大な供給力を「最大の武器」とした中国は、①豊富な労働力と低コスト、②90年代から本格化した日本の食品企業・商社などによる開発輸入や種苗会社の進出、③経済の対外開放および積極的な外資導入政策による②の急拡大、③地理条件などとも相まって、野菜の対日輸出を大きく増加させてきた。
しかし、2006~2007年には、生産・輸送コストや為替の関係などによる輸入品の価格上昇や国産品の価格低下により両者の価格差が縮小したことなどから、中国産を含めた野菜輸入量は減少に転じた。そして2007年後半以降、中国産品に対する消費者の不安感が続いていること、一部の品目で中国からの輸出が停止していること、国家質量監督検験検疫総局により一部の食品企業が輸出停止処分を受けたことなども加わり、中国産を含めた野菜輸入量は、2006年から3年連続の減少となった(図7)。
3 最近の中国産野菜の輸出動向
中国農業部によると、最近の中国産野菜の主要輸出地域は山東省、福建省、新彊ウイグル自治区、浙江省、江蘇省、広東省などとされる。輸出額ベースで見ると、図9のとおり、2007年は全国で前年比6.0%増の42億2千万ドル(約4,178億円:1ドル=99円)、山東省が同6.3%増の17億8千万ドル(約1,762億円)、福建省が同3.1%増の4億8千万ドル(約475億円)で、上位2省で全国の5割強を占めている(新彊ウイグル自治区および浙江省については、データ未入手)。
また、2006~2008年の直近3年間における主な中国産野菜の国・地域別輸出量の割合を見ると(図10)、品目によってやや異なる部分はあるものの、概して残留農薬問題などで輸出が不安定となっている日本向けは絶対量・割合とも減少傾向にある一方、ASEAN、ロシア向けなどが増加する傾向にある。日持ちする冷凍野菜では、ASEAN、ロシア、台湾など近隣諸国・地域のほか、中南米を含む欧米諸国やオセアニアなどへの輸出も増加傾向にある。
1 浙江省寧波市内慈渓市
慈渓市は寧波市内の県級市で、北緯30度2分~24分と屋久島以南の緯度に位置する。北亜熱帯モンスーン気候(温帯夏雨気候)に属し、四季が明確で夏は高温多湿、冬は低温乾燥し、年間平均気温は16.0度、年間平均降水量は1,273ミリ、年間日照時間は2,038時間である。土壌が肥沃(ひよく)で、野菜や果実の生産が盛んであり、農産物加工業や工業などが発達し、大規模な企業的農場が多いのも特徴である。2007年の野菜播種面積(2万9千ヘクタール)は、農作物全体の35.8%を占めている。
(1) HF集団公司(慈渓市経済技術開発区)
HF集団公司は、野菜および果実を主とする農産物加工企業で、製品の約8割を日本、欧米、豪州などに輸出しており、ISOやHACCP、AIB食品安全システムなど国際品質保証システムの認証を受けている。また、中国国内でも「農業産業化国家重点龍頭企業」(龍頭企業=農産物加工など農業産業化経営のリーディング企業の総称)、「全国園芸産品輸出模範企業」、「浙江省高新技術企業」などの称号を受けている。
いわゆる冷凍ギョーザ事件後は、消費者向け製品は影響が大きかったが、業務用は比較的回復が早かったという。本事件が故意の農薬混入である可能性が極めて高いことから、同公司では来訪者管理を強化するとともに監視カメラを増設し、総経理(社長)直轄の食品安全グループ内に食品安全防御グループを新設した。また、食品防御システムは年4回の検証を行い、食品事故を想定した自主回収訓練も実施している。さらに、従業員の募集時には経歴を精査し、従業員の不満を吸い上げるシステム構築や福利厚生の充実を図ったほか、工場内の防虫・防鼠は専門業者に委託し、薬剤を工場内にとどめないなどの対策もとっている。
同公司では、原料野菜の収穫前、工場入荷時および出荷時と、製品出荷までに最低3回の検査を行っている。原料野菜の生産農場は、いずれも工場から自動車で1時間以内の地にあり、5,576畝(約371.7ヘクタール:1畝(ムー)=15分の1ヘクタール)の自営農場と約1万5千畝(約1千ヘクタール)の加盟農場(25農場:年間を通じて契約している農場=農産物はすべて同公司が買い上げ)、そして約8万畝(約5千3百ヘクタール)の協力農場(150~160農場:作付品目ごとの契約)からなる。
このうち、加盟農場については、農場管理から農産物の品質に至るまでの内容についてA~Cの3段階評価を行い、同公司が1畝当たり200~1,000元(約2,900~14,500円:1元=14.5円)程度の補助金を農場主に支払っている。評価の成績が高い農場には、付加価値製品の原料手配を優先的に行うなど、ハイレベルな原料水準の維持と農場間の競争意識を通じた栽培・品質管理の向上も図っている。同公司には社員である23名の植保員(フィールドマン)がおり、原料野菜の播種から収穫、農薬管理など、すべての栽培管理・指導を統一的に実施している。
製品販売高の約55%を占める日本向けは、近年は減少傾向にある一方、冷凍野菜(ブロッコリー、カリフラワー、えだまめなど)や冷凍調理食品を中心に欧米向け輸出が増加しているという。日本向けは、可能ならば今後も増やしていきたい意向である。また、最近はASEANやドバイなど中近東へ向けた取り組みも開始し、中国国内市場の開拓(同公司は元来、輸出が主)にも力を入れている。ただし、輸出向けと中国国内向けとでは商品アイテム自体が異なり、同一品目を双方に出荷していることはない。
また、生産コストについては、人件費や肥料・農薬、請負農地の借料の値上がりなどもあり、最近2~3年で15~20%程度上昇している。2008年の売り上げは、上期が前年同期比で約2割増であったのに対し、下期は金融危機の影響で海外からの注文が減少し、前年並みにとどまったという。
なお、同公司は、日本の大手食品企業N社と製造委託契約を締結しており、N社向けの製品は、原料野菜の生産から製造、輸出までのすべての過程に至るまでが、N社制定の厳格な統一基準に基づいて実施されている。原料野菜のほ場についても、N社が日本へ図面を取り寄せ、必要に応じ現地確認をするなど、周辺環境との関係も十分に精査し、総合的に判断の上で決定しているという。
(2) HF集団公司加盟農場(CZ農場:慈渓市掌起鎮)
CZ農場の農地面積は1,100畝(約73.3ヘクタール)で、周辺地域では平均的な規模であるという。農産物はすべてHF集団公司の指示に基づき生産している。従業員は農場長1名と農場管理者2名、そして農場作業者若干名(常時雇用は20名程度)であるが、収穫時には最大で70名前後を臨時雇用する。2008年冬の大雪ではハウスが全部倒壊したほか、積雪で長ねぎの収穫ができなかったという。使用する農薬はすべて同公司が購入し、病虫害の発生・予防などの際に必要に応じて農場に配布するが、各農場における入出庫量や在庫量、用途、使用量、残量などはすべて管理簿に記録され、少なくとも週2回、同公司の植保員による抜き打ちチェックを受けている。
2 浙江省嘉興市嘉善県
嘉善県は北緯30度45分~31度1分と日本の種子島とほぼ同緯度で、杭州市(浙江省の省都)、蘇州市(江蘇省最大の経済都市)および上海市にいずれも100キロメートル以内と、交通の便に恵まれた位置にある。北亜熱帯モンスーン気候(温帯夏雨気候)に属し、四季が明確で、年間平均気温は15.6度、年間平均降水量は1,040ミリ、年間日照時間は1,978時間である。国務院が対外開放を認めた最初の県の一つとしても知られている。2007年の野菜播種面積(1万5千ヘクタール)は、農作物全体の32.7%を占める。
(1) JTL公司(嘉善姚庄鎮工業園区)
JTL公司は日中合弁の農産物加工企業で、野菜加工能力は年間約1万トン、HACCP、AIB食品安全システムなどの認証を受けている。製品の大部分は業務用で、消費者向けの割合は小さい。
取引対象国は日本、欧米、アフリカ、ニュージーランド、豪州などで、一部は上海市、蘇州市、南京市(江蘇省の省都)、無錫市(同省南部)など国内市場にも販売している。かつてはロシアにも輸出していたが、高品質なものを安価で求められるため、現在は出荷していない。また、2007年ころまでは、日本と欧米などへの仕向比率は4対6程度だったが、2008年以降は金融危機などの影響から欧米向けの注文が減少し、比率が6対4程度に逆転したという。
パートナーである日本企業の指導もあり、すべての原料野菜は自営農場で栽培している。董事長(会長)も、原料野菜の生産基地を最重要部門ととらえ、自営農場における土壌、大気、水質、栽培・農薬などの管理を徹底しているとしている。工場内で使用する水は地下200メートルの水源からくみ上げ、杭州市の検査機関による年2回の検査に加え、週1回の独自検査を実施している(前述のHF集団公司工場は水道水を使用)。
農薬検査は、原料野菜の収穫1週間前に自営および周辺農場で使用された可能性がある物質を対象に自主検査するとともに、近隣の検査センターでも外部検査を実施している。このほか、工場入荷時および加工終了時に自主検査を行い、輸出に際しては嘉興市政府の品質管理部門(CIQ)の抜き取り検査も実施される。
冷凍ギョーザ事件発生後は、CIQが原料野菜生産基地を毎月巡回監督し、栽培管理簿や生産状況、農薬使用状況などの関係を考慮し、不審な点があればほ場の作物サンプルを持ち帰って検査しているほか、製造工場にはCIQの抜き打ち検査が入るという。また、同公司の工場では、同事件後、消毒用アルコールや試薬をはじめとする全薬物についての管理を強化し、使用申請に基づく入出庫管理を徹底するとともに、工場内への人の立ち入り管理を強化した。
生産コストについては、労働契約法施行に伴う従業員の福利厚生や最低賃金の引き上げなど労働コストの上昇に加え、物財費や為替の影響などもあり、2008年は前年比25%増になった。その一方で販売価格が上がらないため、品質を維持しながらのコスト削減に特に心を砕いているという。
なお、冷凍野菜の普及は、中国国内ではまだこれからの段階であるが、夫婦共働きが一般的となっている都市部のホワイトカラー層は、今後の重要な販売ターゲットであるという。
(2) JTL公司自営農場(嘉興市内平湖市新倉鎮)
工場が所在する嘉善県に隣接する平湖市(嘉興市内の県級市)に、4つの自営農場が散在する。面積はそれぞれ258畝(約17.2ヘクタール)、300畝(約20.0ヘクタール)、260畝(約17.3ヘクタール)および250畝(約16.7ヘクタール)の合計1,068畝(約71.2ヘクタール)で、いずれも工場から自動車で1時間以内の距離にある。4農場とも、地元の村民委員会から請負経営権を20年契約で借り受けたものである。年間平均借料は1畝当たり600元(約8,700円)で、収穫時には近隣農民などを臨時雇用するが、その時給は3元(約44円)程度である。
JTL公司では、各農場長(かつて請負経営権を有していた元農場主)について1~3等の3段階評価をしており、各農場間の差が大きくならないよう作付品目などを適宜調整しているという。3等と評価されると改善指導をすることになっているが、現在まで3等評価は出されていない。
農薬は同公司が一元購入し、その使用に際しては、農場側で予防・治療が必要な病虫害を特定し、どの農薬が必要であるのかなどを公司の植保員または基地栽培管理員(自営農場を含めた周辺農場は浙江省の指定生産基地で、村級政府職員が生産基地の管理員となっている)を通じて公司に申請し、必要と認められた場合のみ使用を許可している。各農場における入出庫量や用途、使用量、残量などはすべて管理簿に記録され、公司の植保員のほか、地元の農業行政部門やCIQなどの抜き打ちチェックなども受けている。
3 福建省廈門(アモイ)市
廈門市は北緯24度26分付近の台湾対岸、日本の八重山諸島とほぼ同緯度にある福建省南部の副省級市で、中国五大経済特区の一つでもある。南亜熱帯モンスーン気候に属し、年間平均気温は21度前後、年間平均降水量は1,200ミリ前後、年間日照時間は2,234時間である。毎年7~9月を中心に平均2~3回ほど台風の影響を受けるが、全体に年間を通じて温和な気候条件にある。
(1) ALI公司(廈門市翔安区馬巷鎮亭洋工業区)
ALI公司は、中国のXI集団と日本のA社およびL社の出資による野菜加工を主力とする日中合弁企業である。その工場は、HACCPおよびISOの認証を受けている。
同公司と資本関係にあるXI集団は、種子から販売までの全工程を自社管理しており、HACCPやISOなど国際品質保証システムの認証のほか、中国国内でも「農業産業化国家重点龍頭企業」、「全国園芸産品輸出模範企業」、「福建省人民政府重点保護企業」などの称号を受けている。また、同集団の野菜栽培および加工技術の一部は、福建省または廈門市の輸出産品地方標準の制定にも貢献した。
同公司は、XI集団の自営農場(栽培管理は同集団内企業であるXK農業開発公司が実施)を、同公司の基準によりすべての管理を行う自社管理農場として原料野菜を調達している。また、XI集団企業内で発生した野菜くずなどを、同集団内のXI農業高科技公司が引き取った上でたい肥化し、自営農場で使用するほか、近隣の農家にも安価で販売している。
XI集団は、自営農場または集団内企業工場における地元住民への雇用創出、安全・衛生面について徹底的に配慮した野菜の栽培・加工、循環型農業への取り組みなどが福建省や廈門市から高く評価され、廈門市政府などから育苗・栽培設備への補助などさまざまな支援を受けている。
同公司の正規従業員は約120名で、このほかに約400名(時期により変動がある)を工場内作業などで臨時雇用している。XI集団の臨時雇用者の月給は約110元(約1千6百円)で、廈門市翔安区の最低賃金70元(約1千円)に比べ5~6割程度高い。
同公司で製造される商品の大部分は日本向けであるほか、量は少ないが中国国内にも販売している。
また、同公司では、農薬検査を原料野菜の収穫、工場入荷時および加工終了時の3回実施しており、輸出時には別途CIQの検査がある。冷凍ギョーザ事件の発生を受け、廈門市CIQから要求された事項については、その要求時にはすでにほとんどがクリアされていたが、事件発生後は、工場内の手洗場にカメラを設置し、作業場への物品持ち込みなどの監視を強化した。
生産コストについては、最近2~3年で、人件費の上昇に加え、電気代が約1割、水道代が約2割上昇するなどし、同公司全体として1割以上上昇しているという。
さらに、同公司工場では、商品の包装用ビニール袋や梱包用段ボールについて、その1枚1枚に至るまで目視でゴミやほこりなどの混入の有無を確認して記録するほか、照明器具・窓ガラスなど割れやすいものは個別にナンバリングした上で作業終了後に検査員がチェックし、製品への異物混入があったときの追跡ができるよう配慮している。
(2) XI集団自営農場
ALI公司に原料野菜を供給しているXI集団自営農場は、同公司はじめXI集団の工場が集中する廈門市翔安区馬巷鎮亭洋工業区から自動車で1時間以内の距離に約50カ所、合計約1万畝(約667ヘクタール)が散在している。
各農場長および農場を毎日巡回する植保員は、ともにXI集団の社員で、収穫時には近隣の農民などを臨時雇用するが、その時給は2.5~3元(約36~44円)程度である。
農薬はXI集団が一元購入・管理し、病虫害発生時またはその予防が必要なときには、農場長が植保員にその旨を報告する。植保員は病虫害の状況を調査・把握の上、XI集団に農薬散布申請書を提出、使用が適当と判断された場合のみ、XI集団から必要量の農薬が出庫される。農薬の入出庫状況はすべて記録に残され、マニュアルに沿った希釈・散布が行われる。散布量は栽培管理表に記録され、農薬の残量や散布機の使用・洗浄状況についても記録される。農薬の空容器についても回収して記録を残し、入出庫や使用などの諸記録と照合の上で適正に廃棄される。
また、原料野菜の収穫・工場搬入までの管理については、以下の手順により実施される。
中国では、野菜の需給・価格に関しては市場に委ねられ、各企業の戦略もあって、「中国」としての動向を一概に語ることは難しい。最近は、輸出野菜生産基地が山東省およびその周辺を中心とした地域から、夏季に涼しく病虫害の少ない遼寧省や河北省などへ、あるいは冬季に暖かく暖房を必要としない福建省や広東省などへとシフトしつつあり、また、インフラ整備の進展もあって、内陸部にも輸出野菜の産地が形成されつつあるといわれる。このような状況変化と産地の拡大なども踏まえ、穀物などに比べ収益性が高い野菜生産量が、今後も中国で増加し続ける可能性が高いと考えられる。
しかし、中国農業部の関係者によると、世界一厳しいとも例えられる日本の要求に対応できる企業は限定されるため、中国全体として見た場合、日本向け野菜輸出は、増やしたくとも増やせない状況にあるともいわれる。
こうした中、中国の野菜輸出企業の一部には、不安定な日本向け輸出の回復の可否を見据えながら、自由貿易協定(FTA)や消費経済の成長などを見込んでASEAN諸国や中近東などへ、あるいは日本向けほど製品基準が厳しくなく、製品の歩留まりも高い欧米諸国(中南米を含む)やオセアニアなどへの輸出を拡大しようという動きも見られる。
野菜の需給については、天候や輸出入国の政策、消費者需要、為替、企業戦略などさまざまな要素が複雑に関係し、単純には議論できないため、ここでは中国の日本向け輸出の今後の動向についての要因提示にとどめたい。
(1) 減少要因
ア 安全・衛生に対する日本の消費者の不安感
残留農薬問題や冷凍ギョーザ事件、生乳へのメラミン混入事件などを通じた中国産品全体への安全・衛生面に対する不安感が払拭し切れず、日本の消費者の中には中国産を忌避する動きもあり、一部の日本企業では、その輸入ニーズを中国以外の国・地域や国産品にシフトとさせるところも見られる。
イ 中国側の輸出基準・検査強化
世界的な中国産品への不信感の増大などを受け、中国政府は自国産品の安全・衛生水準の向上に力を入れ、生産基地や製造工場などに対する要求を厳格化してきている。このため、一部の中国企業では輸出許可の取り消しなどを受け、結果的に輸出可能な企業・農場が限られてくる傾向にある。また、限定基準値を超える残留農薬などが確認された場合、中央・地方政府の品質管理部門(CIQ)による検査が強化され、必要に応じ輸出停止措置がとられることもある。
ウ 日本以外の国・地域への輸出拡大
中国企業がリスクヘッジの意味も兼ねつつ、ASEAN、台湾、ロシア、欧米諸国、オセアニアおよび中近東など、製品基準や価格など取引条件が有利な国・地域への輸出を増加させ、不安定な日本向け輸出が減少を続ける可能性もある。
エ 中国国内需要の拡大
中国における冷凍野菜など加工品の普及は、上海市や北京市など大都市でも、まだこれからという状況にある。今後、共働きが一般的な中国都市部のホワイトカラー層を中心に、水洗いやカットが不要で調理の手間が省け、かつ廃棄物の発生量も少ない(中国では、都市部を中心に生活ゴミ収集の有料化が進んでいる)冷凍野菜の利用が進展するなど、内需が大きく拡大する可能性がある。
(2) 増加要因
ア 安全・衛生水準の向上
特に輸出企業を中心に、中国国内での野菜調達は、トレーサビリティシステムが構築され、かつ栽培や農薬などの管理が徹底できる契約農場・自営農場からのものに切り替わってきており、野菜加工場における安全・衛生管理も、非常に細かい部分にまで配慮されている。また、中国においても、消費者の食の安全に対する関心や要求などが高まっており、全体としての安全・衛生水準は確実に高まってきている。
イ 安定的かつ膨大な供給力
中国の野菜生産量は世界の過半を占めており、かつ広大な国土と南北差を利用した産地リレーにより、安定的かつ膨大な供給力を誇っていることから、アとも相まって、特に業務用を中心に日本向け需要は徐々に回復しつつあるともいわれる。
ウ 豊富な労働力と低コストによる強い競争力
食品工場は細かい手作業と単純労働が主であり、かつ一定以上の品質水準と供給量を保つことが要求される。中国の工場では、寮への住み込みによる大量雇用が一般的であるため、豊富な労働力を背景に、日本人の細かい要求に低価格で対応できるという利点がある。近年、生産コストは上昇傾向にあるものの、いまだ強い競争力を有している。
われわれの現地調査個所は、あくまで中国国内の点と点でしかなく、これをもって「中国」を語ることは到底できるものではない。ただ、今回の調査において実際に目で見た中国の野菜輸出企業および原料野菜供給農場における品質衛生管理は、非常に細かい点にまで配慮されたものであり、これを維持するために相当の労力とコストを費やしていることは十分に理解できた。
今回、調査を行った企業・農場は、中国でも優秀な部類に属するものであり、すべての企業・農場が同じようなレベルにあるわけではない。しかし、中国の研究者によると、調査対象企業・農場のような管理水準は、中国の食品企業では標準化されつつあるとされる。実際、日本に輸入される食品のうち中国の違反率が際立って高いわけではないということにも、冷静に留意する必要があるだろう(表)。
中国をはじめとする途上国は、先進国が長期間かけて築いてきた最新の技術・制度などを短期間で一挙に導入できるという強みを持っている。こうしたことを背景に、中国産農産物・食料などの全体的な衛生水準が、いずれ世界標準に達する日はやってくると思われる。
世界の食料生産量に占める輸出量の割合は、品目によって異なるものの、おおむね1~2割程度の「薄い市場」でしかない。一方で、2008年の日本の主な輸入食料の相手国別内訳を見ると、①野菜:中国5割、米国2割、②牛肉:豪州8割、米国1割、③豚肉:米国4割、カナダ2割、デンマーク2割、④鶏肉(ブロイラー):ブラジル9割などとなっている。世界の食料事情が大きく変化する中、食料輸入相手国の偏りや中国など新興国内における食料の需要拡大・食生活の変化などを考慮すると、日本の食料自給力の向上が急務となっていることを改めて認識することができるだろう。
末筆となったが、今回の調査において、ご多忙中にもかかわらず多大なご協力をいただいた日本国内および中国現地の関係者の方々に対し、深く感謝申し上げる。
なお、調査・執筆に当たっては、下記の資料(統計を除く)を参考としたので、さらに詳しいことを知りたい方はご覧いただきたい。