野菜業務部契約取引推進課 課長補佐
吉田 由美
英国の大手スーパーマーケットでは、世界に先駆けて二酸化炭素排出量表示(カーボンラベリング)の試みがスタートしており、日本でも大手量販店などで導入の指針作りが始まっている。
今回、2008年11月にベルギーのブリュッセルを中心にロンドン(英国)・フランクフルト(ドイツ)における野菜・果実の販売および表示の動向について調査を行い、その結果をとりまとめたので報告する。ベルギーは、樺太と同緯度の北緯50度48分に位置し、年間の平均気温は10.2度と冷涼な西岸海洋性気候の国である。言語はフランス語、オランダ語およびドイツ語が使用され、国際機関や世界遺産もある、フランスの片田舎といわれている落ち着いた雰囲気の国である。
景観を非常に大切にしているため、派手な看板やネオンは見当たらず、また、敬虔なカトリックの国でもあり、日曜日や夜間は、ほとんどの商店においては、営業が行われていない。そのため、週末に開催されるマルシェ(市場)は非常ににぎわっている。
(1) ベルギー最大のスーパーマーケット「デレーズ」
ベルギー最大のスーパーマーケットチェーン店の「デレーズ」は、コンビニエンスストアに近い業態も展開している。また、米国東部を中心に1500店舗、さらに東南アジアにも進出しており、世界的な事業展開を行っている。
「デレーズ」で販売している野菜のほとんどは、契約栽培により納品されている。
数世代にわたる生産者との長い付き合いにより、栽培品種や数量、納入時期について臨機応変な対応・調製が可能である。また、クレソンなどの軽量な野菜やハーブ類などは、1軒の農家で対応しているものもある。
「デレーズ」で取り扱っている青果物を栽培方法で分類すると、大きく3タイプに分けられる。
①オーガニック(輸入品も含む)
=Organic/BIO 注1)
②特別栽培=Integrated
③慣行栽培=Conventional
このうち、①のオーガニックが占める割合は全体の6.5%程度で、割合としてはさほど多くはないが、安全基準に関してはEUの基準よりも厳しい自社の基準を設け、生産者への指導も徹底しており、特に食肉に関しては定評がある。
(2) 独自の国産品のマークを使用している「カルフール」
世界第2位の売上げを誇るフランス資本のスーパーマーケットの「カルフール」は、「everything-under-one-roof(ワンフロアーですべて購入)」を目指した郊外型の巨大店舗方式により、ベルギー国内で119店舗(2008年6月末)を展開している。
特徴的なのは、独自の「ORIGINE BELGIQUE」という表示を付けてベルギー産(国産)であることをPRしていることである。ここでもEUの基準はあくまでも基本であり、企業が独自に表示や基準を設けている。
(3) マルシェと野菜直売所
ブリュッセル市内にあるイクセル湖畔で週末に開催されるマルシェは、生産者自らが野菜や果実を持ち込んで販売しており、市民に人気がある。
このマルシェに農産物を出しているある農家の直売所も見学することができたので紹介する。農家の敷地内の直売所では、冬場ということもあり、ハウス栽培物が中心であったが、主食のばれいしょや各種野菜が豊富に販売されていた。
直売所の販売価格は、市内スーパーマーケットの半額ほどで、平日にもかかわらず車で大量に購入していく一般市民の姿が見られた。
英国では、近年、高付加価値商品への需要が高まっており、特に2007年夏に米国の高級食材店「ホールフーズマーケット」注2)が進出してから、高付加価値商品への人気に拍車がかかっている。
一方で、割安なPB(自主企画)商品の企画・販売も盛んであり、主要小売店で販売されている食品の約40%はPB商品であるという。
このほかに、オーガニックやフェアトレード、地域特産品といった分野も伸びている。
また、自宅まで配送してくれるという利便性から、インターネットによる販売も成長している。
(1) 野菜消費拡大運動と環境に配慮した取り組み
英国では、子供の肥満問題を背景に、学校給食で果実や乳製品を配布するなど食育への取り組みが盛んに行われており、小売店では「5 A DAY(ファイブアディ)」という消費拡大運動の表示がほとんどの野菜に添付されていた。また、英国内で31.4%のシェアをもつ英国最大のスーパーマーケットであり、国内に2000店舗(2007年4月現在)を展開している。「テスコ」では、二酸化炭素排出量を足跡のデザインで表示した「カーボン・フット・プリント」の表示を2008年の夏から開始した。
他のスーパーマーケットにおいても、土壌管理基準や有機栽培のマークを付すなど、健康や環境に配慮した取り組みが随所で見られた。
(2) 英国産農産物の統一マーク
「Red Tractor」(レッドトラクター)
英国では、英国産農産物をPRする目的で2008年に「Red Tractor(レッドトラクター)」という表示制度が導入された。
「レッドトラクター」の認証を受けるためには、商品ごとの品質基準をクリアする必要がある。野菜と果実の場合は、「環境に配慮した総合的な栽培管理(Integrated Crop Management)」、「肥料」、「灌水」、「収穫」、「貯蔵」などの項目が適切に行われていることが条件となっている。
(1) 野菜の販売について
ドイツの食品小売業の中で、売上高第5位を誇るスーパーマーケットの「METRO」では、野菜は陳列棚にコンテナやケース単位で並べられており、ケース単位の販売も行われていた。また、コンテナの野菜は、産地から直接仕入れており、「METRO」に限らず、ドイツの小売店では、産地から直接仕入れる仕組みができあがっている。
一方、町の広場では、古くから市民に親しまれている「市場(ベルギーのマルシェに相当)」が開かれている。そもそも無駄を嫌うドイツの国民性から、「野菜は地域内のものを消費するのが基本である」との考え方があり、「市場」で売られている野菜などの農産物には、スーパーマーケットで見られる原産地表示や有機認証マークの表示は付されていなかったが、安心して野菜を購入する一般市民の姿が見られた。
(2)ドイツにおけるオーガニック事情
「薬局がつぶれない国」といわれるドイツでは、健康に対する国民の意識は高く、オーガニックも伝統となっている。
「安くて品質が良い」ことを売りにしたディスカウントストアの「Aldi」は、オーガニックの野菜も取り扱っている。ドイツでは、低迷する経済の中にあってディスカウントストアは急成長しており、この購買力がオーガニック商品の拡大を後押ししたとも言われている。
また、オーガニック100%の商品を取り扱うオーガニック系スーパーマーケットの「ALNATURA」は、野菜のほか、化粧品、コットン製品と幅広く取り扱っており、この5年間で45店舗を展開するなど、ドイツ国民のオーガニックに対する人気の高さがうかがえる。
ドイツのオーガニック食品は、世界的にも信頼が厚いが、生産、規格認証、販売に関しては「Demeter」、「Bioland」、「Naturland」の3社が認証を行っている。
また、そのほか、DLG(ドイツ農業協会)が農産物全般の有機認証を管理している。
【主要オーガニック認証機関】①Demeter(http://www.demeter.net/)
1954年設立。ルドルフ・シュタイナーの思想に基づいた『バイオダイナミクス農法』を実践した農作物を取り扱う。“生物の潜在的な力を引き出し、土壌に活力を与える農法”で特に土作りを重視している。
②Bioland(http://www.bioland.de/bioland/startseite.html)
1971年設立。メンバーはドイツとオーストリアのチロル地方を中心に4558名いる。“Organic -biological farming”という手法を取っているのが特徴である。
③Naturland(http://www.naturland.de/welcome.html)
1982年設立。世界有数のオーガニック農業団体で森林管理、有機灌水などに取り組む。2007年現在、ドイツ国内に1860以上の農場を保有し14万4千ヘクタールの敷地を保有する。
EUの中でも北部に位置するベルギー・英国・ドイツにおける野菜の表示を含む販売形態の調査を行ったが、野菜の販売において、特に環境に配慮した取り組みが印象的であった。
青果物の生産・流通・販売における環境問題への取り組みは、日本でも重要視されていくテーマであり、今後とも動向を追っていきたい。
最後に、今回の現地における調査に際してご協力をいただきました全国農業協同組合連合会デュッセルドルフ事務所および日本貿易振興会(JETRO)ロンドンセンターの皆様に改めて感謝を申し上げます。
○参考資料
「ジェトロセンサー」 2008年10月号