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日本産生鮮青果物輸出先国などにおける
流通業者の輸入・販売事業の特徴
~ 台湾、タイ、シンガポールを対象として~

鹿児島大学 農学部 准教授
豊 智行



1.はじめに

 日本産生鮮青果物の輸出先国などでは、日本からの生鮮青果物がどのように輸入され、販売されているのか、その特徴を現地の取り扱い実績のある輸入業者、小売業者への聞き取りを踏まえて報告する。調査対象国はすでに輸出実績のある台湾、まだ台湾と比べると少額ではあるものの、増加傾向にあるタイとシンガポールである。なお、調査した時期は台湾が2007年11月、タイが2007年9月、シンガポールが2008年1月である。これらの国々の流通業者の輸入・販売事業の状況から、日本において生鮮青果物を輸出する際に考慮すべき点を考察した。

2.生鮮青果物の輸出動向

(1) 台湾
  台湾への生鮮青果物の輸出の推移を金額ベースでみると、2000年の11億6千7百万円から2007年には107億9千3百万円に増加している。特に生鮮果実の伸びが著しい(図1)。また、輸出金額に占める品目構成をみると、2000年(図2)は「さといも、ながいも等」、「りんご」、「なし、マルメロ」で全体の84%を占めていたが、2007年(図3)には、それらに加えて「きのこ」、「桃」、「ぶどう」、「キャベツ」、「いちご」、「レタス」などが加わり多様な品目が輸出されるようになっている。このうち「さといも、ながいも等」については、2000年には5億3千百万円と輸出額の半分近くを占めていたが、2007年には全体に占める割合が15%程度となったものの輸出額は15億6千4百万円と3倍近く伸びている。

図1 台湾への生鮮青果物の輸出金額の推移

資料:ALICホームページ『ベジ深・統計データ検索システム・輸出情報』をもとに作成
図2 台湾への生鮮青果物輸出金額の品目構成
(2000年次)(11億6千7百万円)


資料:図1と同様
図3 台湾への生鮮青果物輸出金額の品目構成
(2007年次)(107億9千3百万円)


資料:図1と同様

(2) タイ
  タイも生鮮青果物の輸出額が2000年から2007年にかけて1億2千万円から2億2千万円に増加しているが、2000年には生鮮野菜の輸出はほとんどなかった(図4)。2000年(図5)に輸出された品目は「りんご」、「柿」、「なし、マルメロ」、「さといも、ながいも等」の限られた品目であったが、2007年(図6)にはわずかではあるが「ぶどう」、「いちご」、「桃」も輸出されている。統計によると、2000年以降にこれらが初めて輸出された年は、「ぶどう」が2004年、「いちご」が2005年、「桃」が2006年である。2007年の生鮮野菜の内訳をみると、「さといも、ながいも等」と「いちご」であるが、「さといも、ながいも等」が270万円と実績のほとんどを占めている。

図4 タイへの生鮮青果物の輸出金額の推移

資料:図1と同様
図5 タイへの生鮮青果物輸出金額の品目構成
(2000年次)(1億2千万円)


資料:図1と同様
図6 タイへの生鮮青果物輸出金額の品目構成
(2007年次)(2億2千万円)


資料:図1と同様

(3) シンガポール
  シンガポールへの輸出金額は台湾やタイのように継続的に増加しているわけではなく、2000年の1億7百万円から2003年の2千6百万円まで減少した後、再び増加に転じ2007年には1億2千4百万円に達している(図7)。また、シンガポールは野菜の輸出割合が高いことも特徴である。2000年(図8)には輸出金額に占める「柿」のシェアが21.8%と「なし、マルメロ」に続く品目であったが、2007年(図9)にはこれがなくなっている。2007年には2000年に輸出のなかった「ぶどう」が16.9%と第3位の輸出品目となった。また、新たに「メロン」、「桃(含むネクタリン)」、「いちご」が輸出されるようになっている。生鮮野菜の輸出額は2000年が2千7百万円であったが、2007年には6千6百万円と2倍以上に伸び、新たに輸出品目に加わった「メロン」は420万円の輸出額である。

図7 シンガポールへの生鮮青果物の輸出金額の推移

資料:図1と同様
図8 シンガポールへの生鮮青果物輸出金額の品目構成
(2000年次)(1億7百万円)


資料:図1と同様
図9 シンガポールへの生鮮青果物輸出金額の品目構成
(2007年次)(1億2千4百万円)


資料:図1と同様

3.消費者への販売形態

(1) 台湾
  百貨店(フェアー、常設コーナー)での販売、スーパーでの販売、果実専門小売店での販売、輸入業者によるギフト販売、輸入業者によるインターネット販売、輸入業者によるテレビショッピングなどの多様な販売形態がある。テレビショッピングでの購入が多く、専用のチャンネルがあるほどである。

 購入するのは所得の高い消費者が中心であるが、りんごとなしは平均的な消費者にも、これらをターゲットとしたスーパーなどで販売されている。

(2) タイ
  百貨店(フェアー、数は少ないが常設コーナー)での販売、小売業者によるギフト(法人用が多い)販売がある。百貨店における日本産果実の小売価格は台湾、シンガポールと比べても高いが、日本人は日本における小売価格を知っているため、購入するのは所得の高いタイ人である。

(3) シンガポール
  百貨店(フェアー、常設コーナー)、スーパー、果実専門小売店での販売がある。需要者は所得の高い消費者であるが、果物の需要はシンガポール人、野菜については日本人に多い。この国は農産物の生産がなく、世界各国から農産物を輸入しているが、在留邦人は日本産野菜の安全性への信頼が高いといわれている。

4.流通チャンネル

(1) 台湾
  ①輸入業者-小売店(百貨店、スーパー)のみならず、②輸入業者-卸売市場卸売業者-果実専門小売店-の流通量も多い。①の流通チャンネルにおいて輸入業者1社が多くの流通量を取り扱っているように見える。輸入業者は小売店に納入する業者と卸売市場卸売業者に販売する業者に分かれる傾向が見られた。

(2) タイ
  ①輸入業者-小売店(百貨店)、②輸入業者-小売店(百貨店)-飲食店-のチャンネルが確認できた。関係する輸入業者、小売店(百貨店)ともにごく少数であると見られる。

(3) シンガポール
  ①輸入業者-小売店(百貨店、スーパー、果実専門小売店)、②小売店(輸入業者兼小売業者)-の直接輸入がある。日系輸入業者は買い取りを行う日系の百貨店を中心に販売し、シンガポール資本の輸入業者は、百貨店、スーパー、専門小売店などの多様な販路を持ち、後述するが小売店によって買取り販売と委託販売(コンサインメント)のどちらにも対応していた。

5.流通業者の商活動

(1) 小売店の商活動
1)商活動のタイプ
  台湾、タイ、シンガポールにおける小売店の商活動には、①小売店による買取り販売、②小売店から輸入業者への委託販売(コンサインメント)、③小売店における業者のテナント販売-が見られた。

 ①の買取り販売は小売店が輸入業者から生鮮青果物を買取り、自己の計算により小売価格を設定するなど、小売店が責任を持って販売する方法である。買取り後には、商品の所有権は小売店に帰属するため、売れ残りなどのリスクは小売店が負っている。

 ②の委託販売は小売店が一定の売場区画での販売を輸入業者に委託しており、小売店はそこでの輸入業者の売上金額の定率を徴収している。小売店頭の商品の所有権は輸入業者にあり、輸入業者が主体となって販売活動を行っている。ただし、小売店側の収入は輸入業者の売上金額に左右されるため、そこでの販売の成果とリスクを両者で分担していると考えることができる。

 ③のテナント販売は小売店が業者に売場を貸し、業者から売場に応じた定額の賃貸料を徴収している。

2)台湾
  日系百貨店における委託販売、台湾資本の百貨店(ただし、食品部門担当者は日本人)による買取り販売が見られた。ただし、この台湾資本の百貨店はフェアーの際は輸入業者に委託販売を行うこともある。

3)タイ
  百貨店のテナントである果実専門小売業者の買取り販売がある。ながいもに限っては、小売店頭での損耗などが少ないことから買取り販売もあるが、百貨店のほとんどは輸入業者へ委託販売している。

4)シンガポール
  日系百貨店による買取り販売がある。また、百貨店とは資本の異なる小売店がその食品売場を営業し、輸入業者に委託販売する形態もある。この小売店は買取り販売から輸入業者への委託販売に変更しているが、自己の販売により生じるリスクを負いきれなくなったためではないかと考えられる。日系百貨店が撤退したが、そのもともとの食品売場で小売を開始した日系小売店もあり、そこでは買取り販売を行っている。


台湾の百貨店食品売場における
日本産常設販売
(小売店による買取り販売)



タイの百貨店食品売場における
日本産フェアー(輸入業者への委託販売)

シンガポールの百貨店食品売場における
日本産いちごフェアー
(輸入業者への委託販売)

(2) 輸入業者の商活動
  3カ国とも輸入業者の多くは日本の輸出業者からC&F価格(Cost and Freight Pricing)注1)で買取っているのがほとんどである。これに保険料を加算したCIF価格(Cost, Insurance and Freight Pricing)による買取りは台湾のりんごに見られたが、生鮮食品の貿易には保険を掛けることができないことが多いため、CIF価格が採用されるのは稀なケースといえるであろう。

注1)C&F価格は、FOB価格(Free on Board Pricing:輸出国の本船渡し価格)に輸入国の買主の港までの船賃を加算した価格

 買取り後は自己の計算により小売店に販売する形態、小売店において自己で販売する形態がある。前者は小売店が買取る場合であり、後者は小売店からの委託販売である。

 タイにおいては「定率口銭」とよばれる独特の形態も見られた。これは小売業者がC&F価格で日本の輸出業者から買取るが、その小売業者と輸出業者を仲介する輸入業者が三者間で取り決められたC&F価格の定率を収入とするものである。

6.日本からの輸出価格

 上述したC&F価格から船賃を引いたものがFOB価格(Free on Board Pricing)となるが、これら3カ国への日本におけるFOB価格がどの程度の水準にあるのかを2007年1月~2008年10月までのFOB価格と輸出数量の推移をこれまで輸出実績のあるりんご、近年になって新たに輸出が開始されたいちごについて、それぞれ図10、11に示した。

図10 りんごのFOB価格と輸出数量(2007年1月~2008年10月)

資料:財務省『貿易統計』をもとに作成
図11 いちごのFOB価格と輸出数量(2007年1月~2008年10月)

資料:図10と同様

 これらを見るとどの品目も台湾へのFOB価格は低く、タイへのFOB価格は高い。タイまでの輸送距離は台湾より長いため、船賃を含むC&F価格のタイと台湾の差はさらに広がると推察される。シンガポールのいちごのFOB価格も台湾と比べると高いが、同様のことがいえるであろう。このことから、タイにおけるりんご、いちごとシンガポールのいちごは相当に高い小売価格とならざるを得ず、これらを購入するのはごく少数の最も所得の高い消費者に限られてくると考えられる。仮にこれらのFOB価格が台湾と同じ水準に下がれば、輸出先国などでの小売価格も低下し、購入できる消費者も増え、輸出量はさらに伸びるかもしれない。

7.おわりに-輸出において考慮すべき点の考察-

 輸出を安定継続さらには拡大させるためには、小売店が買取りをする場合は、遅くとも輸入業者が小売店と販売価格(小売店の仕入価格)を交渉する前に輸出価格(輸入業者の仕入価格)を固定化し、それを基に販売価格が決まる方がよいのではないかと考えられる。販売価格が決まった後に輸出価格が上がると、輸入業者のマージン(販売価格-仕入価格)が減少するリスクを回避するためである。

 一方、小売店による販売委託の場合は、輸入業者と連携して消費者への販売を促進できるよう、小売店頭において商品の内容の説明やその魅力を宣伝することができるデモンストレーター注2)(マネキン)を養成するなど、小売支援を拡充することがあげられる。

 注2)商品の販売促進のために、商品説明や実演宣伝をする人。マネキンともよばれる

 いずれにせよ、このような輸出先国の流通業者との一層の連携強化が不可欠であろう。

付記:
本稿で取り上げた海外の流通業者への聞き取りは、農林水産省から委託された「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業:電磁波殺菌とナノミストを用いた高鮮度輸送技術の開発」の研究項目のひとつである輸出対象国の流通事情調査により実施しているものである。
ここに今回の寄稿に際してご協力いただいた関係者の皆様に深く感謝の意を表します。


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