[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

海外調査報告


台湾における野菜生産・輸出の動向と 日本産野菜輸出の現状(その2)

国際情報審査役付上席調査役 河原  壽
野菜業務第二部指導助成課 菅原 麻美


 2007年11月下旬~12月上旬に行った現地調査に基づき、今月号では、台湾政府における輸出入農産物の検査体制と日本産野菜の輸出の現状及び今後の日本産野菜の輸出拡大の可能性を報告する。 

11 輸出農産物の検査体制
  (行政院農業委員會農糧署の輸出農産物検査体制)
  農糧署は、行政院農業委員會の所属機関で、台湾の農産物の生産と販売を指導している。近年は、農産物の安全管理、特に輸出農産物の指導に力をいれている。

  日本向け輸出農産物については、2006年5月に日本で施行されたポジティブリスト制度に対応できる高品質の農産物を生産するため、輸出業者や農家に安全な農薬使用を指導し、また残留農薬検査体制の強化を図っている。
 
【日本向け輸出農産物における農薬使用管理システム】
① 輸出向け産銷班(集落の生産・出荷組織)の指導、輸出業者の登録
  輸出業者は、日本輸出向け産銷班のリスト、資料等を県政府へ提出し、県政府はそれらを農糧署へ提出しなければならない。

  県政府や地域の農業改良場、農糧署支所は管内の農会、合作農場等の農家団体に輸出向け産銷班の指導を行い、農糧署は、専門家及び農業薬物毒物試験所等を集め、輸出向け産銷班を審査し、選定する。選定された輸出向け産銷班は、ホームページに登録・公開される。現在、果物62社、野菜37社、茶26社が登録されており、選定された産銷班の農家には個別コードがふられる。

② 輸出向け産銷班農家の指導、統合的生産
  農糧署は登録された輸出業者や産銷班を指導し、産銷班農家を統合する。農産規範に基づき、全行程の品質管理・生産記録を適切に行い、契約に基づき購入・輸出する。

  日本輸出向け冷凍えだまめの例では、冷凍業者と農家が毎年約6,500haの栽培面積を契約・輸出している。大規模栽培は、生産コストを減らし、圃場を他の作物から隔離しやすいため、農薬の安全使用が可能であるとしている。

③ 生産販売に関する安全な農薬使用管理モニタリングの強化
  輸出業者は、収穫前、農業薬物毒物試験所にサンプルとともに生産履歴、農家個別コード等の資料を提出し検査を受け、日本側の農薬基準に合格したものが輸出できる。

  農業薬物毒物試験所は、検査結果を集荷場、検疫処理場、防検局、国際処、農糧署に通知する。また、輸出業者または農家団体は、検査の資料を試験所のシステムに入力しなければならない。

  輸出業者は、検疫場に農家個別コード毎の日本の基準に適合した残留農薬基準証明書を提出し検疫を受ける。証明書がなければ検疫を受けることができない。

④ コード追跡
  検疫が不要な場合、農産物は集荷場で等級毎に包装され、箱に農家個別コード番号が貼られる。検疫が必要な場合、集荷場で容器に農家個別コードが記載されたカードを置き、検疫後、包装された箱にコード番号が貼られる。これにより、輸出向け農家の追跡を実現する。

  また、このコードには、生産者電話番号、輸出向け集荷場、輸出業者、薫蒸処理場、生産履歴コード、農産物の名称等が含まれており、生産者の遡及を行うことができる。日本で残留農薬が検出された場合は、当該業者は優良品質輸出登録取消及び指導を行う。また、日本側に該当農家及び輸出業者のコード遡及情報を提供することで、その責任を明確にすることができる。

⑤ 生産履歴の内部監査
  農糧署は、輸出向け産銷班に、病害虫種類の防除、薬剤名称、希釈濃度、使用量、使用者名等、農薬使用時期の適切な記録の指導を行っている。輸出業者、輸出向け産銷班の指導は、農會、合作農場が共同で監督し、生産作業や記録を監査している。農糧署支所、県政府、地域の農業改良場は不定期に審査を実施している。

⑥ 輸出業者の規則強化
  輸出業者は自主的な規則を制定しており、残留農薬適合規範に合格した農家は、その自主的な規則を守らなければならない。輸出農産物が日本の検疫で不合格が出た場合、登録はすぐに取り消され、不合格リストが日本に提出される。


図10 輸出農産物検査体制の流れ


図11 産銷履歴制度/追跡システムの概要

12 輸入農産物の残留農薬検査体制の概要(経済部標準検験局)
  検験局第二組は、衛生署の規定に基づき輸入農産物等の検査をおこなっている。2007年7月1日に輸入食品査驗法が改正され、輸入農産物の残留農薬検査体制は以下のような流れになった。

(1) 輸入農産物残留農薬検査体制
  輸入農産物のサンプリングは、農産物が到着する前に、輸入者が検査要求を提出し、農産物が到着後、検査日時を決め、輸入者、検験局立ち合いのもとに行う。サンプリング割合は、野菜2.5%、水産物2%、その他5%、野菜や果実などの生鮮品の場合、検査に要する日数は通常3営業日、米、加工品、冷凍食品は、5営業日である。それ以上の日数を要する場合、以前に不良記録があれば、輸入農産物は移動できないが、不良記録がなければ、輸入者の指定場所へ移動が可能である。ただし、検査を受けるまでは販売できない。税関の冷蔵、冷凍費用は輸入業者負担である。検査は国際的に認可されている方法で実施されており、検査項目以外の未知の農薬についても詳しく検査している。

  重点検査薬品は、有機リン、有機窒素、有機塩素、二硫代 基甲酸塩(Dithiocarbamates)、腐絶(Thiabendazole)である。

(2) 改善計画命令
  1つの国の輸出農産物が、6ヶ月以内に3回不合格の場合、対象国に対し改善要求をする。改善するための改善計画の提出を求め、改善計画が提出されるまでは、衛生署が指定した検査機関で1ロット毎すべて検査を実施する。費用は輸出者が負担。検査でさらに不合格があった場合、衛生署は、その国からの不合格となった農産物の輸出禁止の処置をとる場合がある。また、改善計画を提出期限である1か月半以内に提出しない場合、或いは提出しても再度不合格と判定された場合、衛生署はその国からのその農産物の輸入を禁止する権利を持つ。輸入禁止措置の解除には改善計画の提出が必要である。

(3) 日本の検査実績
  2007年1月~10月の日本から台湾に輸出された野菜・果物4,875ロットからサンプリング114ロットが抽出され、不合格は4ロット(果物3ロット、野菜1ロット)と良好な結果であった。


図12 残留農薬検査体制の流れ


13 日本産野菜の輸出の可能性
  台湾のGDP(名目)は、2006年の一人当たりが15,482ドルと、日本(34,252ドル)の45%であるが、2002年以降の経済成長率は3.5%~6.2%と安定した成長となっている中、購買力平価でみれば、一人当たりGDPは2005年28,161ドル(日本30,793ドル)と高く、国民1人・1年当たり供給純食料も110.2㎏と多いことから、高い台湾輸入関税等の問題もあるが夏季における野菜の輸出の可能性は少なくないと推察される。

表22 国民1人・1年当たり供給純食料
(単位:kg)

※クリックすると拡大します。
注1:食料自給表の子仁及油実類は、豆類、みそ、しょうゆの計
注2:食料自給表の野菜類は、野菜ときのこ類の計
注3:食料自給表の卵類は、鶏卵
注4:食料自給表の水産物は、魚介類と海藻類の計
注5:食料自給表の乳品類は、牛乳及び乳製品
資料:糧食供需年報、台湾行政院農業委員會
資料:食料需給表、日本農林水産省

表23 野菜及びその製品の月別輸出輸入数量
(単位:t)

※クリックすると拡大します。

(1) 台湾における野菜輸入動向
  野菜の生産量は、冬季にあたる11月~1月が多く、夏季にあたる7月~10月は気温が高く、また、台風等の災害も多いことから作柄変動が大きく、さらに、近年では高冷地における栽培が環境対策により制限されていることから、夏季の国内需給がタイトであり輸入量が増加している。

  2007年には10月の台風が農産物に大きな被害をもたらし、国内価格が暴騰したことから、ベトナム、インドネシア、日本からの輸入が急増した。

  2007年における日本からの主な輸入品目は、キャベツ、はくさい、にんじん、レタスであったが、キャベツ、はくさいは、ベトナム及びインドネシアの作柄が不良であったこと、また、にんじんも台風による不作、及び通常輸入量の多いオーストラリアの干ばつによる不作により日本からの輸入も増加した。

  台中市仲卸業者によれば、キャベツの価格は冬季では5元/㎏~20元/㎏であるが、夏季には60元/㎏(203円/㎏)を超えることもあり、2007年10月には群馬県から180トンを緊急輸入した(高雄港CIF400元/10㎏(135円/㎏))。

  一方、たまねぎ、その他生鮮野菜の輸入は増加傾向にある。

  たまねぎは、台湾産の出荷期間である2月~9月まで生鮮・冷蔵により国内出荷され、10月~翌年2月はアメリカ等から輸入されるが、2007年では北海道産たまねぎが輸入され、品質の高さから好評であった。また、近年、統計では品目分類されていないその他生鮮野菜も増加傾向である。

  日系の百貨店及び量販店の調査では、ともに高所得者層が居住する地域であるが、台湾において作柄変動の大きな時期である夏季の輸入を主要輸入期間としながらも、台湾にない、または、品質の高い野菜の取扱いを希望している。

  また、高所得者は日本産を好み、日本産は生で食べることができ、おいしい、品質が良い、安心・安全と認識されている。

  近年、中国との相互貿易が促進されており、中国産農産物の輸入が増加しているが、小売では安全性の信頼がなく販売は限定されている。貿易会社の組合によれば、中国産は主に加工業務向けで輸入されている。




資料:行政院農業委員會統計室


図13 野菜の月別輸出入数量






資料:農業統計月報、行政院農業委員會農糧署


図14 キャベツ、はくさいの農場出荷価格






資料:農業統計月報、行政院農業委員會農糧署


図15 にんじん、たまねぎの農場出荷価格



表24 日本からの生鮮野菜の輸入数量
(単位:t)

※クリックすると拡大します。
注1:2007年は速報値
注2:山芋は薯類に分類され、生鮮野菜には含まれていない。
資料:海關進出口資料整理統計而得


※クリックすると拡大します。
資料:海關進出口資料整理統計而得

図16 キャベツ、はくさい、レタス、にんじん、たまねぎ輸入先国別輸入数量

(2) 日系百貨店、量販店調査結果
① 日本産野菜の購買層
  百貨店:日本人、外国人、台湾の一般人 量販店:日本人、台湾高所得者・高齢者、外国人、少数の台湾人

② 端境期で需要が見込める野菜
  はくさい、キャベツ、かぼちゃ、たまねぎ等

③ 日本産野菜の輸入ルート
  台北市:日本人オーナーによる日本での仕入・輸入
  台中市:日本に設立した商社により仕入・輸入(海運、空輸)

④ 日本産野菜に求めるもの
   品質に問題はない。ただし、輸送の日数で品質劣化。ほうれんそうは、航空便でも品質劣化となる。基本的に、葉物野菜の航空便では地元の高品質野菜に価格的に勝てない。流通経費の圧縮が課題。

⑤ 主要外国野菜
   貿易会社を経由し、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナムから輸入。
  アメリカ:紫キャベツ、ブロッコリー、ローメインレタス、かぼちゃ、セルリー
  オーストラリア:にんじん
  ニュージーランド:たまねぎ
  ベトナム(夏季):えんどう豆、きぬさや

⑥ 中国野菜
   一般的に、安全性の信頼がなく扱い量は少ない。業務用での扱いが多い模様。

⑦ 地元栽培の日本品種等
   きゅうり、にんじん等は、日本の種子を用いて台湾で栽培している。品質は高く価格は地元野菜に比べ30~50%高いものの、日本産野菜より安く、よく売れている。
   また、ローカルの有機栽培も安全性が高く信頼があり、また、日本産より安価であることから人気がある。

⑧ 日本産野菜の問題点
・ 害虫の薫蒸による品質劣化。
・ 輸送日数がかかり販売日数が短い。
・ 日本国内の価格とCIF価格の乖離が大きい。
・ 農家と直接に契約を締結し流通経費を削減する努力もしているが、自社だけでの扱いでは量が少なく仕入価格が高くなる。
・ 台湾の輸入関税が高い。(5~25%)
http://web.customs.gov.tw/public/Attachment/6121911364671.pdf

【量販店】






【百貨店】





(3) 輸出入会社調査における日本産野菜輸出の可能性
  調査では、7月~10月における、キャベツ、はくさい、レタスの輸入を望む会社があった。7月~10月は台風等の気象災害が多い期間であり、大きな台湾輸入会社では、ベトナム、インドネシアにおける契約栽培を行っている期間であるが、品質が優れている日本産の取り扱いを希望する輸入会社もある。

  問題点として挙げられたのは、当該期間における安定した日本からの輸入量の確保と、価格を抑えるための産地直接取引きの必要性であった。

  消費量の多いキャベツ、はくさい及び消費が拡大しているレタスの夏季における輸出は、価格、規格などにおいて解決しなければならない問題はあるが、その需要は少なくない模様である。

  調査では、7月~10月における国内産の作柄の不安定に対応するため、規模の大きな輸出入企業及び野菜加工企業では、ベトナムやインドネシア等と契約栽培を行い、台風の被害等による国内の不作に備えている。

  ベトナムの産地開発は、現在は南部のダラット高原が主体であるが、ダラット高原はホーチミン市の主要供給産地であることから価格変動が大きく、また、台風等による作柄変動が大きいことから北部地域の産地開発が進められている。一方、インドネシアの産地開発は、北スマトラ島のメダン市の西部のブラスタギ等における契約栽培が行われている。

  キャベツ、はくさい、レタスの夏季における台湾への輸出は、まとまった量の取引が期待できると推測されるが、日本産より価格の安いベトナム、インドネシア、米国(レタス)との競合を前提として、品質等で差別化するマーケティングが必要である。また、キャベツ、はくさい、レタス以外の品目では、台湾にない、または、品質の高い野菜が求められているが、日本野菜のフェアなどを通じた着実な消費拡大策を講じてゆく必要がある。

  さらに、輸出経費を削減するため、台湾輸出入業者との情報交換により輸出品目・量を取りまとめ、また、台湾における販売ルートを整える必要があると推察される。

  なお、仲卸売業者の聞き取りによるキャベツ、はくさい、レタスの規格は以下のとおりであった。

・ キャベツ輸出規格
  量販店等小売店:春系品種、大玉 (2㎏/個)
・ ぎょうざ等加工用:冬系品種、大玉
  (2㎏/個)
・ はくさい輸出規格
   大玉(2~3㎏/個)、黄芯系も可
・ レタス輸出規格
   重量500~600g/個(個別ラップ包装)

(4) 日本国内の問題点
  日本産野菜の調達は、日系の台北市百貨店及び台中市量販店とも日本国内での独自の取引産地の開発によるものであった。効率的な日本産農産物の調達・輸出拡大のためには、一元的な日本側の品目別産地情報の整備が必要と思われる。

  系列店舗だけでの取扱量は限られ、混載で輸出されているのが現状であり、輸送コストの縮減のためにも、台湾側の貿易会社組合との情報交換の整備により輸出量をまとめることも視野に入れるべきと思われる。

  また、輸出のための荷姿(空輸の場合はダンボールを密封)や害虫の対処方法などの基本的知識の普及も必要である。

  さらに、現在の日本産農産物に対する安心・安全の信頼を維持し、特に、残留農薬対策は万全を期して行わなければならない。現在の確たる信頼を損なえば、大きな影響を被ることとなる。

(5) 輸出と日本国内の産地形成
  輸出は相手国の品質等のニーズに対応することが不可欠であるが、レタスのように国内マーケットにおいて、小売市場では巻きの弱い柔らかいレタスが求められ、業務用では歩留の高い巻きが強く硬いレタスが求められる品目では、海外マーケット需要が国内業務用需要と合致すれば、国内業務用と海外マーケットが必要とする同一の品種・規格を栽培することにより、国内業務用及び海外ニーズにも対応する新しい産地形成が可能となる。

  家計需要がほぼ飽和状態であり業務用需要が拡大している日本のマーケットにおいては、輸出を視野に入れた日本国内の生産対応は、新たな産地形成モデルの可能性を示唆するものではなかろうか。ながいもにおいては、国内の需要は少ないが海外の需要が多い大きなサイズが農家収入及び生産の安定に寄与している。

  購買力のある輸出相手国のニーズが国内の業務用需要と合致すれば、輸出は、国内業務用生産と海外輸出を組み合わせた生産・出荷体制を構築する機会を提供するものとなりうると推察でき、今後の日本産野菜の輸出の拡大に期待したい。

表25 日本産野菜の販売例(現地での聴き取り調査による)

※クリックすると拡大します。


(参考)台湾農産物輸入制度関連HP 台湾の輸入関連制度(農林水産省):
  http://www.maff.go.jp/yusyutsu/database.html
生果実、果菜類等の品目で輸出できないものはないが、植物検疫証明書の添付の義務のある品目等を細かく解説

中華民國輸入植物或植物産品檢疫規定:
  http://210.241.119.250/upload/news_file/200823115036.doc
品目別国別に、輸入禁止品目や植物検疫証明書の添付義務などを規定

殘留農藥安全容許量
  http://dohlaw.doh.gov.tw/Chi/NewsContent.asp?msgid=1564
台湾の残留農薬基準を掲載

輸入食品査驗辧止法修正條文:
  http://www.doh.gov.tw/CHT2006/DM/SEARCH_MAIN.aspx?keyword=%u8f38%u5165%u98df%u54c1
輸入食品の検査規定を掲載



元のページへ戻る


このページのトップへ