国際情報審査役付上席調査役 河原 壽
野菜業務第二部指導助成課 菅原 麻美
台湾はかつて日本の主要な野菜輸入先国であったが、経済発展による生産コストの上昇や台湾資本の中国投資の拡大により中国冷凍野菜工場等が増加し、中国から日本への輸出が増加すること等により、日本への野菜輸出は大幅に減少した。
しかし、台湾は現在も冷凍えだまめ等の冷凍野菜の主要な輸入先国であり、近年は12月から翌年4月における生鮮レタスが主要な輸入先国となっている。
最大の野菜の輸入先国である中国が残留農薬の問題により日本への輸出が不安定になるなか、台湾の今後の野菜生産・輸出の動向についても注視していく必要があるが、台湾の野菜生産・輸出の状況について2007年11月下旬~12月上旬に行った現地調査に基づき、今月号と次月号にかけて調査結果を報告する。
今月号においては、台湾の野菜生産・輸出の現状を、次月号においては、政府における輸出入農産物の検査体制と、ながいもなど日本産野菜の主要な輸出先国である台湾への日本産野菜の輸出の現状を報告するとともに、今後の日本産野菜輸出拡大の可能性を考察する。
要 約
1 台湾の農業は、零細で兼業農家が農業の主体となっている、また、高齢化も進行している。農業就業人口も減小する中、活力のある農家への農地の集積が大きな課題となっている。
2 野菜は、主に中部と南部地域において生産されている。野菜の栽培・収穫期間は、水田裏作の11月~1月、一期の2月~6月、二期の7月~10月の3期に大別され、生産量は、11月~1月が多い。7月~10月は台風等の災害も多く輸入が増加している。
3 主な輸出野菜は、えだまめであり、日本が最大の輸出先国である。野菜の主な輸出期間は野菜生産が多い3月~7月であり、主な輸入期間は作柄の変動が大きい7月~10月である。
4 えだまめは、さとうきび畑の借地による団地化された大規模農場において機械化された効率的な作業体系と安全性管理により生産・輸出されている。
5 台湾の冷凍野菜輸出会社は、中国における生産コスト上昇により、台湾国内における生産・加工への回帰、第3国への投資により、中国への一極集中体制からのリスク分散を図っている。
6 台湾のレタスは、ファーストフード店の増加及び食生活の洋風化の進展にともない若者層を主体に消費が増加し、生産が増加した。近年では輸入増加のなか生産量は減少傾向であったが、政府の支援により「輸出用結球レタス生産モデル地区」が中部地域の雲林県に設置されて輸出産地が形成され、日本、東南アジア諸国へ輸出が増加している。
7 日本産野菜の調査は、高所得者層が居住する地域であったが、生で食べることができ、品質が高くおいしい、安心・安全と認識されていることから多くの品目が受け入れられている。
特に作柄変動の大きい夏季において輸入野菜が増加しており、2007年では台風により価格が高騰し、日本野菜の輸入も増加した。
8 しかし、輸送日数やコスト、日本国内における調達・価格等の問題も多い。
9 日本産野菜の輸出促進のために相手国の品質等のニーズに対応することが不可欠であるが、海外マーケット需要が国内業務用需要と合致すれば、国内業務用と海外マーケットが必要とする同一の品種・規格を栽培することにより、国内業務用及び海外ニーズにも対応する新しい産地形成を構築する機会となると思われる。
1 台湾の農業
台湾は、面積が3万5563km2と日本の九州地方(3万9907km2)とほぼ同程度であり、中部地域に北回帰線が通っており、気候は、おおまかに分類すると北回帰線以南が熱帯、以北が亜熱帯気候となる島国である。
人口は、2000年の22,216千人から2006年の22,790千人と増加傾向であるが、農家人口は2000年の3,669千人から2006年の3,233千人、農林漁業の就業人口は2000年の74万人から2006年の555千人と減少傾向である。
このようななか、GDPに占める農林水産部門の割合は、サービス部門の増加傾向により2000年の1.98%(日本1.77%)から2006年には1.53%(日本2006年1.46%)に減少した。
台湾の農業は、2006年で一人当たり耕地面積0.26ha(日本0.59ha)、農家1戸当たり耕地面積1.1ha(日本1.65ha(2005年))と零細で、兼業農家が78.5%(日本53.4%)を占め農業の主体となっている。また、高齢化も65歳以上の締める割合が16.3%(日本57.8%)と年々増加しており、農業就業人口減、高齢化、兼業農家が増加する中、活力のある農家への農地の集積が大きな課題となっている。しかし、農家人口が減少するなか農家戸数は増加傾向にあり、経済発展等により農地が資産化し農地の集積は進展していない。
2 農業生産構造
2006年の耕地面積83万ha(日本467.1万ha)のうち、水田が51%の42.4万ha(日本254.3万ha、54.1%)、畑地が49%の40.6万ha(日本212.8万ha、45.6%)を占め、中部地域及び南部地域が耕地面積の71.8%の59.6万haを占めており、中・南部地域が農業の中心となっている。
農畜林業産出額では、畜産物が40%強、果実が20%、野菜が15%となっている。一方1968年に自給を達成した米は、現在では生産過剰となっており、さらに2001年WTO加盟によりミニマムアクセスの輸入が開始され、減反政策と食生活の変化にともなう消費量の減少傾向により、農業産出額に占める割合は10%を下回っている。
このようななかで、稲作転作等による農業生産構造調整が実施されるとともに、蔬菜、果実、花卉、水産物、豚、肉鶏、鶏卵の7部門が重点部門として振興されている。
3 野菜生産構造
野菜生産は、2006年の作付面積では中部地域が46.4%、南部地域が36.0%、生産量では中部地域が54.5%、南部地域が30.6%を占め、主に中部と南部地域において生産されている。また県別に見ると、中部地域の雲林県が葉茎菜類を主体に作付面積の25.5%、生産量の28.6%、南部地域の屏東県が豆類(えだまめ)を主体に作付面積の10.7%、生産量の8.7%となっており、次いで南部地域に位置する嘉義県、中部地域に位置する彰化県、南部地域に位置する台南県がつづいている。
野菜の栽培・収穫期間は、水田裏作の11月~1月、一期の2月~6月、二期の7月~10月の3期に大別される。生産量は、冬季にあたる11月~1月が多く、過剰生産となっており、政府も11月~1月における需給対策及び輸出振興政策を実施している。一方、夏季にあたる7月~10月は、気温が高く、台風等の災害も多いことから作柄変動が大きく、さらに、近年では高冷地における栽培が環境対策により制限されていることから国内需給がタイトとなっている。
4 農産物の貿易
台湾の農産物貿易は1976年以降入超が継続しており、近年ではほとんどの農産物において輸入額が増加傾向となっている。一方、輸出額は、茶葉、たばこ、肉類等及び乳製品が増加傾向であり、野菜の輸出額は変動が大きいものの2005年以降では減少傾向となっている。
5 野菜の貿易
野菜の貿易額は、輸出額が減少傾向のなか輸入額が増加傾向となっている。
2006年における主な輸入野菜は、ばれいしょが輸入総金額の29.7%を占め、次いでスイートコーン13.3%、アスパラガス6.4%、カリフラワー及びブロッコリー5.3%、えんどう4.8%、たまねぎ3.8%、トマト3.7%、キャベツ3.4%、レタス2.5%などである。
主な輸入先国(金額ベース)は、アメリカが37.7%(ばれいしょ、スイートコン、カリフラワー及びブロッコリー、たまねぎ、レタス等)を占め、次いで中国14.3%(きのこ、トマト、いんげん、カリフラワー及びブロッコリー、たけのこ、えんどう等)、タイ13.5%(アスパラガス、スイートコン、たけのこ、えんどう、たまねぎ、トマト、レタス、えんどう、はくさい、キャベツ等)、ベトナム6.0%(キャベツ、はくさい、きのこ、えんどう、たけのこ、きゅうり、しょうが、スイートコン、たまねぎ等)となっている。日本からの野菜輸入は2.0%と少なく、主要品目は、ばれいしょ、えんどう、きのこ、たまねぎ、キャベツ、レタス、にんじん及びかぶ、しょうが、スイートコン等となっている。
一方、2006年における主な輸出野菜は、えだまめが輸出総金額の47.7%を占め、次いでその他きのこ類5.8%、しょうが5.5%、たけのこ2.6%、にんじん及びかぶ1.5%、レタス1.3%等となっている。
主な輸出先国(金額ベース)は、日本が最大の輸出先国であり、野菜輸出総額の67.3%(えだまめ、しょうが、レタス、たけのこ)を占め、次いで米国13.7%(きのこ類、えだまめ、たけのこ、きゅうり等)、シンガポール3.6%(トマト、きのこ類、レタス、きゅうり等)、香港3.6%(にんじん及かぶ、きのこ類、きゅうり)、中国大陸2.8%(たけのこ、トマト、きゅうり、えだまめ等)となっている。
台湾の野菜輸出において、日本へのえだまめ輸出金額は、野菜輸出総額の43.9%を占め、台湾の野菜輸出の中核となっている。
野菜の主な輸出期間は、野菜生産が多い3月~7月であり、主な輸入期間は、作柄の変動が大きい7月~10月である。
(2) 国内需給調整政策
現在は、野菜生産が冬季に過剰となり夏季に不足するとういう構造的な問題に対処するため、農業委員会は、県政府による生産・輸出計画に基づく全体の国内販売・輸出ガイドラインを作成し、農会(農協)及び生産法人の生産・出荷・輸出の調整政策を実施している。強制力はないが計画実行により、選果機、包装機、作業機への優先補助(農会・生産法人:1/2、個人1/3)により、需給調整を実施している。
特に生産過剰になることが多い7品目(たまねぎ、にんにく、果実5品目)は生産申告制度により生産地域、面積、作季を把握し、生産過剰が予想される場合は、作付の自粛等を求めている。
また、国内対策では、生産過剰となる冬季の価格安値対策として、キャベツ、はくさい、カリフラワー、ブロッコリーの価格低落時に、農協が農家から野菜を買入・冷蔵し、価格上昇をまって市場販売するための補助(冷蔵庫への輸送運賃1元/kg)を実施している。回復しない場合は、加工用仕向けや肥料原料などで処分する。
(3) 野菜輸出拡大政策
一方、輸出野菜の生産においては、上述のガイドラインに沿って生産・輸出する生産者(農会の産銷班や生産法人など)に対して、選果機、包装機、作業機への優先補助とともに、輸出レタス栽培においてはフェロモントラップ及びその薬剤等の生産資材などに対する支援(低価格での販売)等も実施されている。また、海外での輸出プロモーションに対する補助も実施されている。
7 えだまめの生産・輸出動向
主要栽培地域は、台湾南部に位置し、台湾第2の都市である高雄市に隣接する屏東県及び高雄県であり、2006年では作付面積の59.7%、生産量の55.3%となっている。
えだまめ栽培は、2001年以前は、冷凍輸出会社と農家との契約栽培による生産と国内販売される農家による生産の二つの類型により行われていたが、2002年以降は、冷凍輸出公司が製糖会社からさとうきび畑を借地し団地化された大規模農場で生産が開始されており、現在はこれらの三つの類型により栽培されている。
冷凍輸出公司7社によるさとうきび畑を借地した団地化された大規模農場の作付面積は、春作(3,500ha)と秋作(2,500ha)の6,000haであり、全国作付面積の73.1%を占めている。
(1) 大規模農場の生産状況
輸出用えだまめの85%以上は、団地化された大規模農場で栽培されている。機械化された大規模農場の生産コストは安く、国内販売された場合、農家の栽培に大きな影響を与えることから全量輸出される。
作型は、播種:9月~10月、収穫:11月~12月及び播種:1月~2月、収穫:4月~5月の年2作で、その間の5月~7月が飼料用コーン、7月~9月は休耕である。7月~9月は、雨が多く、台風の被害が集中する時期であることから休耕としている。
単収は、平均8t/haで、輸出規格では5t/ha、工場仕入価格は1.5~1.6米ドル/kgである。
(2) 栽培管理
冷凍輸出会社の場合、会社が農民を雇用し、会社の管理者の指示に基づき栽培され、大型の定植及び収穫機が導入され、機械化された農場経営が行われている。農薬管理・散布も管理者の指示のもと実施され、収穫20日前以降の農薬の使用は禁止され、栽培履歴も2010年までに完全実施を義務付けた2007年1月27日付「農産物生産及び検証管理規則」に基づき整備されている。
一方、水利施設等の土地改良などは、雇用されている農民の計画に基づき、冷凍会社の投資により実施されている。
また、冷凍工場は屏東県と高雄県に集中しており、収穫2時間、輸送1時間、工場処理2時間と、収穫後の糖度劣化に対応した生産体制を確立している。
(3) 農薬等の検査体制
ほ場の土壌及び地下水検査では、残留農薬、重金属などの検査を行い、使用農薬では、日本ユーザーとの協議で決め、購入した農薬は台湾の研究機関で成分検査を行い確認後使用し、使用後の農薬は専門の業者により回収・処理されている。
また、輸出会社ではガスクロマトグラフィーの自主検査施設を整備し、政府はサンプルを3日間で農薬検査を実施する体制を整備している。
(4) 品種改良
品種改良は、行政院農業委員会高雄区農業改良場を中心に行われており、2~3年で新品種が提供され、台湾産えだまめの強い競争力の一因となっている。近年では高雄9号が開発され、日本での品種登録により中国からの違法栽培・輸出に対応する方針であった。
高雄9号(現在の輸出主力品種)の特性
・収量が高い(7t/ha→9~10t/ha)
・高糖度
・イソフラボン含有量が多い
・昼夜の温度差で緑色が濃くなる。→秋作は濃い緑となる。
(5) 今後の輸出動向
えだまめの生産輸出は、台湾冷凍野菜企業が中国に進出したことにより大幅に減少した。中国産は、収穫(手もぎ)から冷凍加工にいたる過程での劣化により品質は台湾産に劣るものの、その価格の安さにより1993年以降増加傾向となり台湾産は減少傾向となった。
また、日本における台湾産えだまめの輸入価格は、中国産の輸入増加等により200円/kg前後と為替変動を考慮すればほぼ一定価格で推移しており、生産コストの上昇のなか、収益の減少も輸出減少の一因と考えられる。
このような中、えだまめ栽培に特化している生産を改善する試みが出ている。
2008年には試験栽培であるが、中部から南部地域においてスーパースイートコーンを導入している。さとうきび畑の借地による大規模農場において、米国製のハーベスター等を導入して栽培を行い、冷凍加工工場の稼働率の向上を図るとともに、冷凍えだまめに特化した経営の改善を図る予定である。
さとうきび畑の借地による大規模農場では、米国式大規模機械化栽培が可能であり、台湾のほ場は工場との距離が近く、5時間以内での冷凍加工が可能である。また、えだまめ冷凍加工の技術的蓄積があることから、徹底した選別と低い異物混入率が期待できる品質が高い生産が可能とされている。
一方、中国における冷凍えだまめ栽培・加工は、台湾資本の流入により大きく発展したが、中国の経済発展等による労働者不足や、政府の輸出企業優遇政策から労働者保護政策への転換による労働者賃金及び労働者の社会保障経費の上昇、労働契約法や残留農薬等による経営リスクの拡大、中国民族資本企業の発展による中国国内における競争の激化などにより、台湾資本による中国における経営は転換点を迎えており、台湾国内における生産・加工への回帰、インドネシアやベトナム等の諸国への投資により、中国への一極集中体制からのリスク分散を図っている。
台湾国内における冷凍野菜の生産・加工・輸出は、さとうきび畑の借地・大規模農場の形成及び品目の多様化を図り、今後も安定した冷凍野菜の供給基地として、維持・発展するものと予測される。
8 レタスの生産・輸出動向
レタスは、ファーストフード店の増加及び食生活の洋風化の進展にともない若者層を主体に消費が増加し、輸入量及び国内生産量が増加傾向であったが、1999年以降アメリカからの輸入の増加に従い国内生産は減少傾向に転じた。しかし、冬季における日本のファーストフードへの輸出が開始された2002年には再び増加傾向に転じている。
政府の支援で「輸出用結球レタス生産モデル地区」が設置され、病虫害管理・厳格な残留農薬検査・鮮度保持輸送方法などの開発・強化が行われ輸出産地が形成された。
主要栽培地域は中部地域の雲林県で、2004年では作付面積の69.4%、生産量の73.7%を占めている。これに次ぐ台北県のシェアは作付面積が7.2%、生産量の6.3%でありレタス産地は雲林県に集中している。2002年以降の作付面積の増加は、ほぼ雲林県における増加であることから、輸出用レタスは雲林県が主体となっており、雲林県のなかでは、二崙、西螺鎮、崙背が主産地となっている。
表18 レタスの作付・収穫面積、単収、生産量
(1) 輸出企業+生産公司の生産状況
2000年のシンガポールへの冬レタス輸出を契機に台湾レタスの品質が評価され、2001年12月から日本のファーストフード向けの輸出を開始した。当初、輸出企業は国内販売の商人を通じて集荷を行っていたが、その後、害虫対策や農薬管理を進めるため農業委員会を通じて産地の害虫・残留農薬対策や予冷等の整備を進めるとともに、産地のリーダー(農民)の育成を行い、農民間の借地による土地集積を行い農場経営による産地形成を進めた。
現在では、農場による生産・農場管理、台湾行政院農業委員会の支援によりパッキングハウス・予冷・輸出の体制を整備し、12月~4月に輸出している。
農場は、所有面積10haのほか近隣の10農家から借地しており、現在のレタス作付面積は50haである。農場は、雲林県の西北部の台湾海峡に近くに位置しているが、冬季の作物は落花生や雑穀が主体であるため、農地の借地は比較的容易な地域である。
作型は、播種が9月~3月、収穫が12月~5月で、後作は米や落花生、休耕などである。
アメリカの品種を栽培し、単収は平均25t/ha、輸出価格(FOB)は国際相場の1.0~1.5米ドル/kgである。輸出規格は、害虫対策で外葉を2~3枚切り取るため500g~600gである。巻きが硬いことから歩留が高く、業務用に適したレタスを栽培・輸出している。
(2) 栽培管理
レタス輸出において重要となる害虫対策は、台湾行政院農業委員会によるフェロモントラップ機材とその薬品等の支援を受け50mに1本設置するとともに、レタスほ場の回りにはレタスの害虫が飛来しない作物を栽培するなど、ほ場隔離に努めながら栽培されている。
また、輸出公司は、5年前から栽培履歴、農薬等の指導を行っており、現在では、栽培履歴を整備し、農薬の使用・管理の徹底を図っている。
農場主は、耕作を請け負う農民のほ場基本台帳を作成し、農民ごとにほ場の場所、面積(地図、土地の登記)を管理している。
また、農薬は、農場が購入し必要に応じて農民に販売している。農場は農薬管理者を配置し、農薬保管庫の管理、購入記録、出庫記録、農民ごとの使用記録を作成している。
(3) 検査体制
輸出農産物のほ場では、政府が定植2週間後から害虫や農薬のチェックを実施している。フェロモントラップでは毎週持ち帰りチェックし、適切な防除の指導を行うとともに、農薬検査では政府の農薬検査機関が1ヶ月に1回のサンプリング検査を実施している。
また、独自に285種の残留農薬の有無を確認する簡易農薬検査施設を持つ生産組織もある。残留が確認されると、政府の検査機関が詳しい分析を行い指導が行われる。
農薬は、収穫前の最低10日間は散布を行わず、さらに、出荷の3日前には政府の農薬検査機関による残留農薬検査が実施され、残留が確認されると焼却処分される。
(4) 今後の輸出動向
現在は主に日本への輸出であり輸出マーケットが小さいこと、輸出期間は5ヶ月と短いことから大規模な生産体制を確立することは難しい状況である。
しかし、2007年にはシンガポールへの輸出が増加しており、また、2008年ではマレーシアへの輸出も開始している。品質が高いことから、購買力のある東南アジア諸国のマーケットが拡大しつつある。
また、えだまめと同様に、さとうきび畑の借地による大規模農場の構築により、冬季のレタス生産の拡大も政府により計画されている。
レタス生産は、ファーストフード及び家計における国内需要が拡大するなかで、日本への輸出を基盤として購買力のある東南アジア諸国におけるマーケットが確立されれば、今後も大きな発展が可能である。
9 たまねぎの生産・輸出動向
主要栽培地域は、屏東県の南部であり、2006年では作付面積の64.7%、生産量の68.8%、次いで彰化県で作付面積の23.1%、生産量の22.4%となっている。
たまねぎの生産は1997年までは、台湾国内の需要が少なく冬季における日本への輸出を主体に栽培されていたが、経済発展による生産コストの上昇等により日本輸出が大幅に減少し生産量は減少した。しかし、その後、台湾国内の需要が増加したことのより栽培面積も増加傾向に転じた。2006年糧食供需年報(生鮮重量ベース)によれば、2005年では、生産量54,000トン、輸入量38,316トン、輸出量656トン、自給率58.9%となっている。
台湾産たまねぎは2月~3月に収穫され9月まで冷蔵により国内出荷され、10月~翌年2月は、アメリカ、ニュージーランド、タイ、オーストラリア等から輸入されている。
表20 たまねぎの作付・収穫面積、単収、生産量
(1) 屏東県南部の農会(農協)の生産状況
台湾のたまねぎは、ほとんどが水田裏作で栽培されている。調査農協では、かつては生産量の99%を日本に輸出していたが、現在は国内販売が主体で、生産量の0.2%が沖縄に輸出されている状況である。
栽培面積は、700ha、単収は平均60t/haで、農家の高齢化により減少する中、農会が中心となって形成された生産者グループによる高齢農家等からの借地により3haを基準とした農地の集積を行い、定植機等の小型機械の導入・作業受託により栽培面積の維持を図っている。栽培面積の30%が生産者グループにより栽培されている。
販売は、80%が商人の買付け、20%が農会の買付(8台湾元/kg)である。商人への販売価格が農家生産コスト6台湾元/kgを上回るように農会が買付けている。
品種は米国種であり、作型は播種・定植11月~12月、収穫:3月収穫、稲作、休耕である。
(2) たまねぎ輸出の取り組み
農会では、国内の量販店への直接販売の取り組みを行うとともに、再度、たまねぎ輸出の取り組みを開始している。
日本の量販店をターゲットとして、原体のネット包装輸出を試みている。通常の沖縄輸出では、産地→高雄港のFOBは10台湾元/kg(2006年)、日本CIFは20台湾元/kgである。価格が高かった2006年のFOBは15~18台湾元/kgであった。
(3) 栽培管理
農会では、農薬、肥料使用の栽培履歴を作成している。農家が記録を農会に提供し、農会が入力しインターネットで公開している。農会へは、政府からPC等への補助が出ている。
(4) 今後の輸出動向
一方、たまねぎ輸出においては、台湾国内の労賃が高いことから剥玉の輸出は困難で原体の輸出となること、日本CIFも20台湾元/kgと高く、また、国内の量販店販売価格も20台湾元/kgで販売されていることから、日本国内の価格高騰が無ければ輸出は難しいと推察される
10 今後の野菜産地開発と輸出動向
―さとうきび畑の借地による団地化された大規模農場形成の可能性―
台湾では、農地の資産化によりその流動化が進んでいないのが現状であるが、政府の計画で台南県及び嘉義県ではさとうきび畑の借地による大規模農地でのレタス栽培を検討中である。この背景には、農地の流動化と農薬管理体制の確立及びコスト対策を推し進める狙いがある。
今後は、農地の集積が可能なさとうきび畑を活用した大規模な園芸農業の発展の可能性がある。現在は冬季のレタス栽培の拡大の計画であるが、他品目への拡大の可能性もある。
以下、次号で政府における輸出農産物の検査体制と輸入農産物残留農薬検査体制、今後の日本産農産物の輸出拡大の可能性をさぐる。