国際情報審査役補佐
平石 康久
米国の下院は7月27日、2007年度農業法の下院案(H.R.2419.EH)を下院本会議で可決した。その中で、今までの農業法の中で取り上げられなかった園芸作物(Specialty Crop:野菜、果樹、ナッツ類、苗木など)が、園芸作物を取り巻く情勢の変化から、園芸作物業界・団体が一丸となって連邦政府等に働きかけを行った結果、はじめて農業法(下院案)の中で各種支援策が明確に規定されたことから、その内容を簡単に紹介する。
1.今回の農業法下院案成立の背景と意義
米国のほとんどの州で多種多様な園芸作物(300種類以上)が生産されていることや、関係団体が多数存在していることから利害関係が複雑で、今までは園芸作物業界が一体となった要請行動が取りにくい状況にあった。また、産業としても穀物などの連邦補助金に大きく依存するグループと異なり、園芸作物業界はこれまで、補助金を受けない自立発展性が高い業界であった。
しかしながら、近年海外からの園芸作物の輸入が増加し自給率が低下する一方、他国への輸出が伸び悩み、園芸作物業界の危機感を増していた。
このため、2年ほど前から関係団体や業界が2007年農業法改正に向けて連帯を深めて、政府への要請行動を強めた結果、このたび農業法の下院案に、園芸作物に関する支援策を盛り込ませることに成功した。その内容は以下のとおりであるが、支援策の内容は生産者への直接支払いの形態をとらず、園芸作物の栄養・消費改善、食品安全、環境保全のための助成や研究費補助、青果物の安定的な生産のための病害虫対策と輸出先国の検疫措置に対処するための技術支援等と、現行の園芸作物業界が抱える個別問題の解決にプラスとなる支援策が盛り込まれたといえる。
このため、園芸作物業界は今回の下院案を大きく歓迎している。
2.農業法下院案における園芸作物関連施策の内容
米国生鮮青果物協会の会報によれば、20億ドル近くが予算枠として確保されている。
これらのプログラムの特徴は、米国の補助金対象作物(Program Crop)に対する各種プログラムと違って、生産者の直接の収入に充てられるものでなく、園芸作物生産、販売、輸出を側面から支援するプログラムとなっていることである。
3.園芸作物の作付制限※)について
米国の穀物などの生産者に支払われている直接支払いについて、園芸作物が生産されている面積は、支払額を計算する対象面積からはずされてきた。これは、多額の補助金を受けている穀物生産者が直接支払いを受けつつ園芸作物の生産に参入することを防ぎ、穀物生産者に比較して規模の小さい園芸作物生産者を保護する役割を果たしてきた。
一方でブラジルによるWTOパネルへの提訴によりこの作付制限が違法とされたため、2007年農業法における扱いが注目されたが、下院の法案の中では輪作により園芸作物生産が行われている事例について若干の修正を加えただけで、引き続き制限は残されており、今後の扱いが注目される。
※)この作付制限は米国では作付柔軟性(Planting Flexibility)と名づけられている
4.今後の動向
農業法が正式に制定されるためには、今後、上院による別途法案の提出を待ち、その後、両院合同で法案の調整を行った後、大統領により承認されることが必要である。