国際情報審査役
調査情報部調査情報第二課
2006年の野菜の輸入数量は、年明けから春先における低温傾向、春季から夏季の日照不足、梅雨明けの遅れ等による天候不順により第3四半期までの国内産の野菜価格は総じて堅調に推移したが、中国からの輸入が、山東省等における天候不順により一部品目が作柄不良になったこと、生鮮野菜の一部の品目において5月29日のポジティブリスト制度実施により輸入が減少したこと、米国からの たまねぎ等の輸入が干ばつ等による作柄不良により大幅に減少したこと、さらに、第4四半期では気温が高温傾向となり価格が大幅に軟調となったことから、生鮮野菜輸入量は大幅に減少し、冷凍野菜及び半製品が主体のその他調製野菜が増加したものの、2006年輸入数量全体は2,787,105トンと対前年比96%の減少となった。
一方、輸入金額は、総じて円安基調であったことや主要輸入先国である中国や米国等における一部の品目の作柄不良による輸入価格(CIF)の上昇から3,973億円と対前年比106%の増加となった(表3)。
1 生鮮野菜の動向
生鮮野菜では、2006年生鮮輸入数量の30%を占めたたまねぎが主要輸入先国である中国及び米国の、同じく輸入数量の10%を占めたかぼちゃが主要輸入先国であるニュージーランドの作柄不良等により大幅に減少した。また、残留農薬等の安全性の問題により、キャベツ等あぶらな属などの葉物野菜、えんどう等の豆類が減少し、生鮮野菜全体で対前年比86%の956,169トンと大幅に減少した。(1)たまねぎ
近年では輸入数量の半分以上のシェアを占める中国産の輸入量が、主産地である山東省の作柄が育苗期の多雨、生育期の干ばつ等の天候不順により、また、主要出荷期間が10月~翌2月の甘粛省が多雨等による天候不順により作柄不良となったことから対前年比94%の207,388トンと減少し、中国に次ぐ輸入先国である米国も近年の作付面積の減少と干ばつによる小玉傾向から同64%の52,742トンと大幅に減少したことにより、たまねぎ全体の輸入量は、対前年比81%の291,072トンと大幅に減少した。一方、輸入単価は作柄不良等から、中国産が対前年比148%の43円/kg、米国産が同144%の40円/kgと前年を大きく上回った。
(2)にんじん
1998年以降輸入数量が増加傾向にあるにんじんは、2005年の日本国内の天候不順による作柄不良から急増したが、2006年においても日本国内の天候不順による作柄不良から前年並みの104,115トンと、かぼちゃを上回る輸入量となった。主な輸入先国は中国で、2006年輸入量の91%(2005年90%)を占めた。
にんじんは、日本国内の作柄により輸入量の変動が大きな品目であったが、秋台風により野菜価格が高騰した1998年以降、中国からの輸入量が増加傾向となっており、契約に基づく輸入が増加している。
(3)かぼちゃ
2005年以前では、たまねぎに次いで輸入量の多いかぼちゃも、最大の輸入先国であるニュージーランド産が干ばつ等による作柄不良から同71%の59,352トンと大幅に減少し、ニュージーランドに次ぐ輸入先国であるメキシコ産が対前年比152%の32,059トンと大幅に増加したものの、かぼちゃ全体の輸入量では同85%の103,273トンと大幅に減少した。一方、輸入単価は、品質の高いメキシコ産が対前年比147%の82円/kgと前年を大きく上回ったが、ニュージーランド産は同81%の78円/kgと前年を下回った。
(4)ねぎ
輸入の大部分を占める中国産において残留農薬が確認され、2006年10月に命令検査となったが、白ねぎとは栽培方法の異なる青ねぎ(小ねぎ)で確認されたこと、中国産白ねぎの日本国内需要は業務用を中心であり契約に基づき輸入されていること等から、前年並みであるが過去最高の71,816トンとなった。
(5)しょうが
輸入の大部分を占める中国において、干ばつ等により作柄不良であったこと、収穫後の貯蔵過程における農薬使用により残留農薬が確認され2006年11月に命令検査となったこと、その後の中国国家質量監督検査検疫総局(以下、CIQという。)における残留農薬検査強化等により、輸入量は対前年比91%の34,973トンとなった。
CIQは農薬残量検査を強化するとともに、自社生産基地で栽培したもの、自社貯蔵庫で貯蔵しているもの、2006年産ものについて輸出許可を与える方針で安全性の確保を図った模様である。
(6)にんにく
輸入の大部分を占める中国産において、堅調な中国国内需要と韓国等への輸出が増加したこと等により輸出価格が上昇し、輸入量は対前年比87%の26,217トンと大幅に減少した。
(7)しいたけ
輸入の大部分を占める中国産において残留農薬が確認され、2006年8月に検査命令となった。CIQはこれを重く見て、8月25日から1ヶ月間の輸出停止措置を実施するとともに、その後のCIQにおける農薬残留検査も強化された。このこため、輸入量は対前年比73%の16,394トンと大幅に減少した。
(8)キャベツ等あぶらな属
(キャベツ、はくさい)
輸入の大部分を占める中国産において残留農薬が確認され、2006年1月に検査命令となったこと、日本のポジティブリスト制度導入によりCIQにおける葉物野菜の残留農薬検査が強化されたこと、秋季以降の日本国内の価格低迷したこと等により、輸入量は対前年比51%の34,805トンと、日本国内産が天候不順による不作から輸入が急増した2005年を大幅に下回った。
(9)ジャンボピーマン
輸入の大部分を占める韓国産において残留農薬が確認され、2006年1月に検査命令となったことから、輸入量は対前年比88%の22,803トンと大幅に減少した。
一方、韓国政府は、ごく少数の農家の安全性違反により韓国産全体が命令検査となる既存体制を克服するため、輸出業者と該当契約農家が一つのグループを形成し、責任を担い、安全性を管理することにより、今後の安全性違反時に違反原因に基づき制裁範囲(農家、輸出業者、韓国産全体)を決定する「輸出業者単位安全性管理体制」を導入し、現在では、主に当該制度に認定された生産者及び輸出業者により対日輸出されている。
(10)アスパラガス
アスパラガスの輸入量は、2001年以降減少傾向にあり、2006年輸入量も対前年比86%の14,998トンと大幅に減少した。
これを国別にみると、日本国内の需要が堅調なミニアスパラガスの輸入が主体のタイ産は安定した輸入数量となっており、価格の安いフィリピン産が減少傾向から増加傾向に転じているものの、メキシコ産、オーストラリア産、アメリカ産、ニュージーランド産は減少傾向となっている。
一方、国内産の生産動向を東京都中央卸売市場の入荷量でみると、3月~4月及び7月~9月における国内産入荷量が増加し外国産入荷量が減少している。
これは、国内産において長期収穫が可能となる栽培方法が導入されたことにより、5月~8月であった国内産の主要出荷期間が現在では3月~9月に拡大したことによる。
近年のアスパラガス輸入量の減少傾向は、国内産の出荷期間の拡大が背景となっている。
2 冷凍野菜
冷凍野菜では、ほうれんそうが、2002年から残留農薬問題で輸入自粛措置がとられていた中国産が2004年6月17日付けで、新たな安全対策に基づき栽培され安全性が確認された山東省27公司で栽培・加工されたもの、かつ、2003年11月以降に収穫・加工されたものについて輸入自粛措置が解除されたこと、さらに、2005年8月10日付けで新たに18輸出公司について輸入自粛措置が解除されたことにより、中国産は対前年比124%の14,732トンと増加し、中国産の大幅な減少により増加していた台湾、ベトナムなどからの輸入が減少し、ほうれんそう全体では前年並みの21,585トンとなった。また、ファーストフード等の需要減少から輸入量が減少傾向であったばれいしょが、近年、増加傾向に転じており同107%の301,326トンと増加した。主要輸入先国は米国であるが、国内のファーストフード市場の拡大で加工工場の整備が進んでいる中国からの輸入も増加している。
一方、生鮮での輸入が減少したさといも、ブロッコリーは、各々対前年比108%、107%増加の51,471トン、24,949トンとなり、えだまめは、同97%の66,875トンとほぼ前年並みとなった。
この結果、冷凍野菜全体では、同105%の857,098トンと増加した。
3 塩蔵等野菜
塩蔵野菜の主要輸入先国は輸入量の90%程度を中国が占めるが、中国産しょうが・れんこん・ごぼう及びタイ産しょうがの輸入量が増加したものの、きゅうり及びガーキンなどの漬物原料が減少し、塩蔵等野菜全体では、対前年比92%の158,389トンと減少した。4 酢調製野菜
しょうがが対前年比120%の14,323トンと増加し、酢調製野菜全体では、同106%の38,019トンと増加した。酢調製野菜全体では、輸入量の80%程度を中国が占める。5 その他調製野菜
製品・半製品での輸入が増加傾向となっているしょうがが対前年比107%の31,094トンと増加し、にんじんジュースが同138%の43,632トン(アメリカが同131%の24,095トン、オーストラリアが同107%の16,178トン)、野菜ジュースが同147%の4,681トン(中国が同161%の1,520トン、チリが同116%の1,515トン)と増加したこと等により、その他調製野菜全体では、同103%の489,719トンと増加した。6 トマト加工品
缶詰用のホールトマトが主体のその他のトマト加工品が対前年比96%の92,072トンと減少し、トマト加工品全体では、同98%の211,090トンと減少した。7 乾燥野菜
中国産乾燥だいこんが、対前年比69%の4,288トンと大幅に減少し、また、残留農薬の安全性等の問題からしいたけが同95%の7,949トンと減少したこと等により、乾燥野菜全体では、同93%の51,007トンと減少した。8 その他(かんしょ)
かんしょが、芋焼酎の消費拡大により加工用需要が引き続き堅調であること等から、対前年比103%の25,613トンとなった。9 ポジティブリスト制度と中国野菜輸入の動向
2006年の中国からの野菜輸入数量を類別にみると、生鮮野菜が前年比91%の604,173トンと大幅な減少となったが、冷凍野菜は同108%の396,372トン、その他の調製野菜が同102%の331,291トンと増加し、全体で同98%の1,621,670トンと前年並みとなった(表4)。2001年12月に農薬残留問題がクローズアップされ、ほとんどの類別の輸入量が大幅に減少した2002年と比較すると、2006年では生鮮野菜は大幅に減少したが、冷凍野菜やその他調製野菜は増加したところに大きな違いがある。
(1)冷凍野菜
冷凍野菜やその他調製野菜が増加した背景には、2002年8月12日に施行された「輸出入野菜検査検疫管理弁法」による輸出野菜に対する安全性の向上対策、2003年食品衛生法の改正によるポジティブリスト制度導入のための法整備から2006年5月29日の同制度実施までの間における中国輸出公司の同制度に係る情報収集と対応体制の整備があるが、冷凍野菜やその他調製野菜を生産する輸出公司は総じて規模が大きいことから、輸出公司による自営農場の拡充や原料野菜の栽培、加工工程、製品の各段階における自社検査体制の整備、自社検査体制の強化など、生鮮野菜に比べ生産地域などのより集中した安全対策・管理が可能で、また、実施されていることが背景にある。
このようなことから、生鮮とともに冷凍の輸出量が多いブロッコリー、さといもでは、生鮮が減少し冷凍が増加しており、また、えだまめでは生鮮が大幅に減少し冷凍が前年並みとなっている。
(2)生鮮野菜
一方、生鮮野菜においては品目により輸入状況は大きく異なっている。
輸入量の多い生鮮野菜を、土物類、葉茎菜類、豆類で分類すると、農薬残留の可能性が比較的少ない土物類では、主産地である山東省、甘粛省が多雨等による天候不順から作柄不良となったたまねぎが対前年比94%の207,388トンと減少したものの、日本国内の作柄が不良であった、にんじん、ごぼうが各々同104%の94,509トン、同109%の56,076トンと増加した。
他方、葉茎菜類では、業務用が中心で契約に基づき輸入されている白ねぎの輸入量は前年並みとなったが、キャベツ等あぶらな属やえんどうは大幅に減少し、ブロッコリーは生鮮から冷凍にシフトしている。
以上の背景には、日本における残留農薬の確認や、中国国家質量監督検査検疫総局(CIQ)における葉物野菜等の残留農薬検査の強化がある。
(3)今後の中国野菜輸入の動向
中国農業部、中国商務部、CIQ等の政府機関は、日本のポジティブリスト制度の対応策として、輸出公司における自営農場の導入・拡充及び自社検査体制の整備の推進、また、農産物品質安全法などの法整備を進めているが、2006年の日本におけるしょうが、しいたけ等における残留農薬の確認の状況を考慮するとき、中国野菜輸出にとって、今後も残留農薬等の安全性が重要な課題となると推察される。
中国からの輸入の多い生鮮野菜と国産価格の動向