農林水産省 農林水産政策研究所 国際政策部
アジアアフリカ研究室長 會田 陽久
2.韓国の野菜需給
韓国の食料供給量は、かなり速いペースで上昇してきた。日本の経験と比較するとなかなか量的飽和に至らないといった印象を受けているが、漸く最近伸びが鈍化したようである。野菜について言えば、「食品需給表」を見ると、日本の供給動向は1969年の数値を最高に停滞ないしは漸減しているのに対し、韓国では2000年頃をピークとして幾分減少している状況にある。食生活の洋風化で野菜消費も多様化しつつあるのであろうが、キムチ消費が持つ意味は現在も無視できないものがある。
韓国の野菜需給は、特定の野菜に大きな比重があったが、現在多様化しつつもその傾向は残っている。国内の野菜供給量に占める上位5品目の重量割合は、85年では、79.5%であったが、05年には56.8%となっている。はくさい、だいこん、たまねぎ、すいかといった伝統的野菜が現在も上位を占めているが、それにトマトが加わっていたのが5品目である。一方、日本では85年、03年の両年とも上位5品目で40%代後半を示している。国際化の進展は、野菜の貿易にも結びついているが、農産物の純輸入国である韓国の野菜の自給率は、2005年段階で94.5%である。以上のように総体的に概観できるが、2006年を中心に最近の動きを見ると種類別に品目毎にはその特性を反映した動向の違いがある。以下、品目別にそれぞれの需給動向を把握することにより、今後の変化を占う一助としたい。
3.葉菜類
1)はくさい
はくさいの作付面積は、長期的には減少傾向にあるが、06年の国内生産量は、268万3千トンであり、輸入による増加分34万トンを加えると供給量は、対前年比21%の増加となる。秋はくさいの作付面積は、前年の価格上昇の影響で、4万2千haと前年に比較して13%増加した。
1990年代と比較した2000年代の特徴は、春はくさい生産の増加と高冷地はくさいの減少であり、前者の価格停滞と後者の価格上昇が結果としてみられる。1人当たりのはくさい消費量も年平均2%の割合で減少しているが、06年についてみると前年より多い33.7kgが消費されている。はくさい消費には、はくさいキムチの消費量も含まれるが、こちらも年平均3%ずつ消費量は減少している。しかし、06年については対前年比16%増加し、21.4kgが消費された。
以上の消費量は、マクロベースで見た供給純食料を用いている。傾向的な減少と共に、前年度の価格動向等を反映した作付面積の増加もよく見られ、韓国では、品目により純供給量が大きく上下に動くことが『食品需給表』で確認できる。以下の作目についてもこの点を留意していただきたい。
はくさい消費については、キムチの消費動向の把握が不可欠であるが、農水産物流通公社の調査により06年のキムチの入手経路を見ると、家庭で漬ける割合が61%、家族や知り合いからもらう割合が35%、残りが加工品(製品)の購入によるもので、94年の数字である家庭で漬ける89%、他からもらう7%、加工品を買う3%と比較すると急激な変化が起こっていることが分かる。日本では、家庭で漬物を作ることはもっと早い時期に急速に衰退したと思われるが、韓国でのキムチ消費の変化が、今後のはくさい需給に影響するものと推察される。
貿易概況を見ると06年には、キムチを含めて5万6千トンのはくさいを輸出し、39万6千トンを輸入している。輸出入とも生鮮物の4倍内外の規模でキムチの形態で扱われている。将来予測としては、今後10年間について国内生産量、総供給量ともさらに減少することが見込まれている。
2)キャベツ
キャベツの作付面積は単純な傾向的変化が見られず、価格の騰落によって変化しているようである。06年は、国内生産量33万5千トン、輸入量600トン、輸出量2千200トンであった。総供給量は対前年比22%の増加であり、卸売価格は11%下落している。05年の価格が良かったため、作付面積は、17%増加した5千789haであった。90年代までは、価格変動に従い3~4周期で作付面積は大きく変化していたが、2000年代に入って所得の増加と食生活の変化により、変化の幅が縮小し安定してきている。
消費量は、96年まで急増していたが、アジア通貨危機で外食需要が減少したため98年には、96年に比べて33%減少した。その後の景気回復で消費量は増加し、06年には前年よりもさらに増加し、1人当たり年7kgに達している。
輸出量は、生産量の2~3%に過ぎないが、06年には、国内価格が良かったため大きく減少している。07年には、国内生産量、供給量とも大きく減少することが予測されており、10年後の推測値は、増加傾向にあるものの06年水準までには回復しないと予想されている。
1人当たりの消費量は、97年まで増加したがその後3kg前後で停滞していた。しかし、最近健康に良いという認識が高まり、06年には4.1kgに達すると推定されている。消費者の選好としては、土付きを好む者88%、洗浄したものを好む者12%という結果が出ており、土付きは国産であり安全性が高いという消費者意識を反映しているようである。将来的には、供給量の停滞、輸入量の増加、国内生産量の減少が予測されている。
5.果菜類
すいか、うり、きゅうり、かぼちゃ、青とうがらし、トマト、いちごについてみると、作付面積については、すいか、うり、きゅうりは減少傾向にあり、かぼちゃ、青とうがらし、トマトは増加傾向にあり、いちごは停滞気味である。葉・根菜類が作付面積、供給量が低下傾向の中、06年には前年を上回ったのに対し、すいか、うり、きゅうりは前年を下回っている。その分、07年には、作付面積は、全体で06年を2.8%上回る6万3,700haに達すると予想されている。しかし、そこを頂点に10年後には、5万9,700haにまで減少していくと推定されている。
今後10年にわたる予測では、すいか、うり、きゅうりが、作付面積、供給量等で減少していくと推定されているのに対し、かぼちゃ、青とうがらし、トマトは、作付面積、供給量、1人当たり消費量で増加が見込まれている。いちごは、作付面積の減少と単収の増加があり、供給量は停滞傾向にあると推定されている。
6.調味野菜
代表的な品目であるとうがらし、にんにく、たまねぎ、ねぎについてみると、06年の作付面積は、前年比11%減少し、11万6千824haであった。07年の予測では、面積比重の大きい、とうがらし、にんにく、ねぎの作付面積は前年より4%減少し、たまねぎは小幅増加すると予想されている。
将来的には、やはりたまねぎのみが作付面積、供給量の増加が見込まれ、とうがらし、にんにくの減少傾向とねぎの停滞傾向が推測されている。
7.施設野菜の輸出動向
前述したとおり、90年代に入って政府は農産物輸出を積極的に推進した。輸出額は、2000年代には年平均6%の成長率を示している。農林畜産物の中では、農産物の年平均増加率が最も高く8.5%であり、畜産物の2.6%、林産物の-9.7%とは、対照的である。しかし、06年の対前年比増減率を見ると、農林畜産物全体が3.9%の増加率であるのに対し、生鮮農林畜産物は、-11.8%と減少している。野菜類は比較的減少率が小さく、-3.5%であるが、キムチは-24.4%と大きく減少している。
韓国から輸出される野菜類は、パプリカ、トマト、きゅうり、いちご等主に施設野菜が多く、その他では野菜種子が目立っている。また、これらの輸出先は日本が突出している。
野菜の対日輸出については、02年に日本で原産地表示制度が施行されたことにより、トマト、きゅうり、いちごの輸出額が一時的に減少したが、パプリカ輸出が好調であったため、全体では、05年まで増加傾向が続いていた。06年には、野菜の輸出額は1億3千万ドル、対前年比3.5%減少した。施設野菜の中では輸出量が増えたのはいちごだけであり、パプリカを中心に、トマト、きゅうり、メロンの輸出量額が減少した。
06年の野菜輸出減少の理由としては、石油価格の上昇、円安により輸出採算性が悪化したことが考えられる。さらに05年末に韓国産パプリカで残留農薬が検出され、ポジティブリスト制度が施行される中、日本の輸入
業者が輸入を控えたことも原因と見られる。
農林畜産物輸出の将来予測としては、石油価格、為替レートが現状以上には悪化しないという仮定の下で、07年度以降回復し、10年間、年平均5.6%ずつ増加すると推定されている。野菜類についていえば、トマト、きゅうり、なす等の伝統的品目の増加は期待できないが、パプリカ、メロン、かぼちゃ等の増加により年平均3.9%の増加があると予測されている。