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ベトナムにおける「安全野菜」と加工野菜の生産事情

~一部品目で中国を補完する野菜供給地~

調査情報部長 加藤 信夫
調査情報第二課 高田 直也


はじめに
 野菜(トマト加工品を除く)は、比較的早い段階で輸入が自由化されたものの、野菜の自給率は1980年代前半までは概ね95%以上の水準を保っていた。しかし、1985年のプラザ合意による円高基調への転換、高齢化や後継者不足による労働力不足などに起因する国産野菜の供給条件の悪化、輸送・保存技術の飛躍的な進歩などの複合的な要因により、野菜の自給率は年々減少に転じ、2004年には80%となった。

 輸入野菜は生鮮野菜と加工野菜に大別されるが、加工野菜は冷凍野菜、乾燥野菜、塩蔵野菜、調製野菜、トマト加工品など多様な形態で輸入されている。生鮮野菜の輸入量は、1995年には737,842トンであったが、2005年には1,114,274トンと51.0%増加し、加工野菜の輸入量も1995年の1,385,755トンから2005年には29.3%増加し1,792,055トンとなった(表1)。

 一方、加工野菜に占める中国産の割合は極めて高く、1995年には635,185トン(輸入量全体の45.8%)、2000年には811,917トン(同49.7%)、2005年には990,613トン(同55.3%)となっている(図1)。


図1 中国・ベトナムからの野菜輸入数量の推移

 こうした中国への集中が強まる一方で、一部のASEAN諸国は、野菜供給の一層の安定化を図るため、または特定の顧客ニーズに対処するため、中国の補完的な野菜の供給先として注目されつつある。特に本年5月29日のポジティブリスト制度の施行に伴い、供給地の分散化傾向はさらに強まると考えられる。

 この点においてベトナムは、タイに次いで注目を集めてきており、表1から読み取れるように、中国からの生産シフトという段階ではないものの、近年日本に輸入されるベトナム産の加工野菜は1995年の5,993トンから年を追うごとに増加し、2005年には15,668トンへと10年間で3倍近い伸びを示している。

 今回の調査(昨年10月の調査に次いで2度目)は、2006年6月16日から6月28日にかけて野菜の3つの主要生産地域すべてを訪れ、安全性と対日輸出向け加工野菜に着目した調査を実施したので、概要を以下のとおり報告する。

 要約
(1)ベトナムにおける野菜の主産地は、北部のハノイ周辺の紅河デルタ、南部のラムドン省(ダラットが中心)とホーチミン近郊のメコンデルタ地域であるが、日本向け加工野菜の生産が行われているダラット(高原地帯で冷涼な気候)を除いては、基本的にハノイ、ホーチミンといった大都市向けの野菜生産地域となっている。

(2)調査先の地区の農家は、いずれも家族ぐるみで早朝から夕刻(時には夜間)まで熱心に農作業や生産物の輸送・販売を行っているのが印象的であった。

(3)両デルタ地帯では、早期にかつ年に複数に分けて現金収入を得ることに農家の関心が高く、作期の短い種類の異なる葉菜類(空芯菜、ちんげんさい、ペパーミントなど)を中心に栽培している。このため、市場への出荷が大半を占めており、量販店等への出荷は代金回収の問題があるため事例は少ない。
一方、豆科野菜類、果菜類などの栽培は農薬使用量も多くなることもあり限定的。葉菜類中心の傾向はラオスのビエンチャン近郊の野菜産地でも見られる。

(4)紅河デルタではかつては、旧ソ連へにんじんを輸出していたが旧ソ連の崩壊後は輸出されなくなった。また、豪州向けにキャベツを輸出したこともあったが、品質の問題から中止された。
メコンデルタでは、アンザン省で日本向けの冷凍えだまめ(日本の品種)が生産されている。また、ダラット高原で栽培されている野菜の一部(だいこん、トマトなど)も栽培されるようになってきている。

(5)冷涼な気候に恵まれ、かつてのフランスによる野菜の栽培技術指導の経験を有するダラットでは、7社の工場で日本向けの加工野菜(冷凍、乾燥、装飾野菜等)の生産が、一部工場を除き農家との契約ベースで行われている(農家にとっては安定収入が確保)。主な製品は、冷凍ほうれんそう(中国産からシフト)、かぼちゃ、かんしょ、なす、オクラなど。

(6)ダラット高原は観光開発と野菜生産(花き生産も有名)の主要産業を環境面に配慮してどう振興していくかが課題(実際に土壌浸食の問題も指摘)。さらには、高品質な輸出向けの加工野菜の原料をどう確保していくかは工場にとっての課題の一つ。

(7)今回訪問した対日輸出の主力3工場(ダラット2、ホーチミン近郊1)においては、工場の技術者の巡回指導を通じて、農薬管理や農家を単位とするトレーサビリティが徹底されていた。ただし、HACCP、GMP といった製造過程での認証制度を導入している工場でも、契約農家の生産段階におけるGAPの導入はなかった。

(8)本年5月29日にわが国で導入されたポジティブリスト制に対する訪問先の工場での対策は、例えば、農薬検査員と検査サンプル数を増やしたり、圃場の周囲にネットを張りドリフトによる農薬の飛散を防ぐ工夫が行われており、技術的に自ら対処できる範囲のことは実施されているように思われた。しかし、その分、生産費の上昇を招いているのも事実(農家の原料買入価格は据え置き)であり、影響は小さくない。

(9)ベトナム政府の安全性の取り組みについては、農業農村開発省による使用禁止農薬リストと野菜栽培用の農薬リストの公表や「安全野菜」の栽培などの研修が実施されている。しかし、「安全野菜」の定義は、地域によってばらつきがあり、全国レベルの認証や表示制度は未整備となっている。また、農家での野菜の取引は専ら重量をベースで価格が決まっている。

(10)東西経済回廊のベトナム部分(国道9号線)を実際に走行したが、思ったより高低差もなく、道幅もあり、トラックによる物流にはほとんど支障がないと思われる。ダナン港についても、5~6万トン級、3,000TEUのコンテナ船の入港が可能となる港湾整備計画(申請中)があり、その他、南部のバリア・ブンタオ省カイメップ・チーバイ地区では、コンテナ及び一般貨物ターミナルと関連施設の整備が計画され、完成予定は2011年である。今後、タイなどで生産された野菜加工品が東西経済回廊(ラオスとタイを結ぶ第二メコン橋は本年12月に完成予定)、ベトナムの港を利用して、わが国などの海外に輸出される可能性がある。

(11)ベトナムは中国と比較して日本までの物流コストや加工野菜の生産コストの面で厳しい状況にある。このため、単に冷凍のカット野菜を生産するに留まらず、より加工度を高めた製品を生産し、中国との差別化を図れるか、そのための原料をいかに安定的に確保していくかが、加工野菜の対日輸出動向を左右するカギになりそうである。


1.投資環境
(1) 比較的好条件が揃う投資環境
 ベトナム政府は、外国からの投資を優遇しており、特に以下の分野への投資が奨励されている。

① 輸出型製造業
② 農業、林業、水産養殖業
③ 山岳地帯など貧困地帯への投資
④ 高度な技術、知識が必要とされる産業
⑤ 環境保護
⑥ 労働集約型産業
⑦ 天然資源の有効利用となる産業
⑧ 基幹産業育成につながる事業

 経済の自由化と市場経済の導入に対応するため、ベトナムでは1990年から様々な税法上の対策が講じられている。現在の主な税金としては、法人税、付加価値税、特別消費税、契約税、輸入・輸出関税、土地税・土地利用料、個人所得税などがある。

 法人税は、ベトナムにおけるすべての事業形態に適用され、税率は国内企業、外資系企業を問わず、標準税率である28%が適用される。ただし、外資系企業については、その投資事業が①投資奨励事業分野、②投資奨励地域、③一定の従業員数の条件を満たすかどうかにより、10、15、20%の優遇税率などの優遇措置が決定される。

 わが国との関係では、日本企業のベトナムへの投資を促進することを目的に、「競争力強化のための投資環境改善に関する日越共同イニシアティブ(日越共同イニシアティブ)」が2003年4月の日越首脳会談で署名された。日越共同イニシアティブにより、ベトナム政府は、日本の支援を得て、外国投資促進戦略の構築および実施と投資に関する全ての規則の見直し、投資に関連する政府機関の能力向上など44項目の投資環境の改善に取り組んでいる。

 農林水産業の投資件数は全体の約1割を占めており(表1)、台湾、韓国およびタイが主な投資国となっている。



 外資に対する耕作権(土地の使用権)の許可期間は50年で、70年まで延長可能である。設備などの初期投資に課される輸入関税は免税され、種子や農薬などの生産資材は最初の5年間は免税となる。外国投資を行う場合には投資ライセンスが必要であるが、資本金や品目などの制限はなく、フランス、タイなどの資本が農業生産に進出している。なお、野菜分野については、ハノイ近郊やホーチミン近郊への加工野菜工場などの投資もあるが、中部の高原地帯に位置するダラットへの投資が多い。

 日本企業が関係する農業分野における最近の案件では、ハノイ大学と京都大学の開発したタピオカを原料としたプラスチック製造技術の実用化に日系企業が取り組む事例がある。ベトナムの労働党大会でも環境対策の充実をアピールしており、石油製品は高く環境汚染につながるのに対し、タピオカでんぷんから作れば安く、しかも環境にやさしい。また、一次加工する工場は農村で建設されることから、雇用拡大効果も期待されている。

(2) 豊富な若年労働力
 表2には、ベトナムにおける人口構造を示した。2005年におけるベトナムの人口は8,424万人、生産人口の割合は63.0%となっているが、注目すべきは年齢中央値が24.9歳と極めて若いことである。また、15歳未満の割合も29.5%となっており、労働力予備軍層が非常に厚いというのが特色となっている。このことは、今後の内需の伸びが期待できることを示唆している。



(3)WTO加盟とFTA交渉の推進
 2006年5月31日、ベトナムと米国の両国政府は、ベトナムの世界貿易機関(WTO)加盟につながる二国間貿易交渉の合意書に正式署名した。ベトナムはこれで28カ国との二国間協議をすべて終え、本年10月にジュネーブで開催されるWTO一般理事会でベトナムのWTO加盟が承認される見込みである。

 一方、ASEAN自由貿易協定(AFTA)については、ベトナムはASEAN後進4カ国の中では先陣を切って、2006 年1月1日から共通特恵関税(CEPT)が完全適用となった。これにより、CEPT対象品目の関税がベトナム-ASEAN先進国間で0~5%へと引き下げられた。

(4)道路・港湾の整備
 ベトナムの幹線道路はほぼ舗装されているものの、幅員や舗装の状況などには問題も多い。また、都市部では自動車や二輪車の増加により、時間帯によっては相当な渋滞が発生している。

 主要な交通網としては、ベトナムを南北に縦断する国道1号線、ハノイとハイフォン港を結ぶ国道5号線、ベトナム中部のダナン港とミャンマーのモーラミャイン港を結ぶ東西経済回廊がある(図2)。
ベトナムの物流インフラは主に、1992年に再開された日本のODAを活用して整備が進んでいる。特に改善が進められてきたのは、中越国境ルート、国道1号線、東西経済回廊である。

 華南経済圏と北部ベトナムを連結する陸上輸送ルートについては、雲南省とベトナム・ラオカイ省を結ぶラオカイルート、広西チワン族自治区とベトナム・ランソン省を結ぶランソンルート、そして同自治区とベトナム・クァンニン省を結ぶモンカイルートがある。
国道1号線は、ハノイ-ヴィン間とホーチミン-カントー間が世界銀行、ホーチミン-ニャチャン間がアジア開発銀行による融資を受けて整備され、また日本の国際協力銀行(JBIC)の円借款により、ダナン-フエ間のハイバントンネルが建設されるなど、インフラ整備が進んでいる。

 東西経済回廊は円借款により建設中の第二メコン橋が2006年に完成する予定であり、開通すればダナン-バンコク間(1,000km強)が結ばれることになる。

 一方、ベトナムの主要港の多くは河川港のため水深が浅く、大型コンテナ船が寄港できない。このため、周辺のハブ港である香港、高雄、シンガポールなどまでフィーダー輸送し、そこで積み換えて日本、欧米へ輸送しているため、輸送期間が長くなり、輸送費も割高となっている。
こうした状況を改善するためにJBICの円借款を利用した港湾整備が進められている(図2)。南部のバリア・ブンタオ省カイメップ・チーバイ地区では、コンテナ及び一般貨物ターミナルと関連施設の整備が計画され、完成予定は2011年である。カイメップ・チーバイ港の整備によって5万トン級以上の船舶の入港が可能となる。したがって、長期的には国際ハブ港としての役割も期待されている。

図2 ベトナムのインフラ整備の状況

2.安全な野菜生産を目指して

(1) 「安全野菜」とは
 農業農村開発省から「使用禁止農薬リスト」と「野菜栽培用の農薬リスト」が公表されており、使用禁止リストの中には中国やインドで使用が認められているものも含まれている。

 また、安全野菜(ベトナム語で「Rau Antoan」という)の栽培を取り組む地域も増えてきた。例えば、ドンナイ省では、法律に基づき「安全野菜を栽培する条件を満たす地域(Du dien kien saw suat rau an toan)」を指定し、証明書を発行している。具体的には、生産量を増やしながら安全な野菜を作れるよう農家を訓練し、訓練を受けた後、栽培品目、場所、面積などの農家の栽培情報を登録し、普及センターから派遣する職員が土壌、灌漑水中の重金属や農薬の残留などを検査する。これらの検査で合格すれば証明書が発行されるが、合格しないところには改善指導がなされる。

 これらの検査には厚生省も参加しており、食品衛生の観点から、細菌、重金属などを定期的に検査している。

 なお、ベトナムにおける「安全野菜」の定義は、地域によってばらつきがあり、全国レベルの認証や表示制度は未整備となっている。また、野菜の取引は専ら重量ベースで行われており、庭先価格では慣行栽培品との価格差はないのが現状である。しかしながら、農薬を使う農家の間でも残留農薬は健康に悪影響を及ぼすものとの認識が広まっており、農薬管理は改善されつつある。


(2)原子力研究所における残留農薬検査体制
 原子力研究所(Nuclear Research Institute: NRI)は、科学技術省に属する原子力エネルギー委員会(Vietnam Atomic Energy Commission: VAEC)傘下の組織である。VAECの傘下には、首都ハノイに原子力科学技術研究所(Institute for Nuclear Science and Techniques)や放射性・希土類元素研究所(Institute for Technology & Radioactive and Rare Elements)などが、南部の中心都市ホーチミンには原子力技術センター(Center for Nuclear Techniques)や放射線技術センター(Center for Radiation Technology)という原子力関連施設がある。NRIには他の施設にはない研究用原子炉があり、原子力研究の中核的存在である。

 NRIは1960年にダラットに開設され、ベトナム戦争時に一時閉鎖、1984年に再開している。原子炉についての研究、放射線関係の研究、放射線の測定などが業務の中心ではあるものの、農業分野(残留農薬検査、バイオテクノロジーなど)、環境(土壌、水の分析)、医療、石油工業関連の研究部門もある。
残留農薬検査を担当する部署(Center for Analytical Techniques)の主な業務は、環境関係の重金属、放射線などの検査、実用研究であり、残留農薬検査のウェートは小さい。しかし、残留農薬検査の目的には、①国民への安全な農産物の供給、②輸出先国による残留農薬を理由とする輸入禁止措置の回避、が含まれている。

 サンプリングは契約農家の圃場で収穫前と加工後の製品に対して行っている。検査対象の大半は輸出向け(日本向け加工野菜)であるが、国内向け産品の検査も行っている。工場によっては、自前で分析設備を保有し、工場内で分析する会社もあるとのことである。
 分析は、①野菜を細かく裁断、②アセトンなどの有機溶媒で処理、③ホモジナイズ(粉砕)、④ろ過、⑤水に溶ける分と有機溶媒に溶ける分を分離、⑥有機溶媒の溶液を濃縮、⑦濃縮液を分析という手順で行われる。

 分析結果は、サンプルの提出から2日後に依頼者に通知される。収穫前の分析で基準を超える農薬が検出された場合には、収穫しないように工場へ通知し、加工後の製品の分析で基準を超える場合には、輸出しないよう通知をする。

 残留農薬の検査対象として最も多い野菜は、日本向けのほうれんそう(写真1)であり、ほとんど毎日検査している。その他の検査対象野菜には、ばれいしょ、かぼちゃ、なす、オクラなどがある。また、灌漑水が許容範囲内の水質かどうかの検査など、安全な野菜栽培のために必要な検査を行っている。これらの検査料金については、非公表とのことであった。

 残留農薬の分析機器としては、日本製のガスクロマトグラフ質量分析計(写真2)、高速液体クロマトグラフなどが導入されている。1年間に約3,000~5,000のサンプルを分析しており、検査件数は年々増加している。こうした分析に必要な試薬類は、日本、米国、中国などから輸入している。分析能力は、国際基準ISO17025を取得しており、農薬検査分野での実績が評価され、2004年には科学技術大臣から表彰を受けた。
なお、2006年5月29日に日本で導入されたポジティブリスト制度に対応するため、新機器(ガスクロマトグラフ質量分析計)を2006年7月に追加で購入する予定とのことであった。



写真1 検査用ほうれんそう(農家番号06F77B)
写真2 日本製のガスクロマトグラフ質量分析計(さらに最新機種が導入される予定)


3.紅河デルタ地域の野菜生産(ハノイ市向け)

(1) ギアラン県 バンドック地区
 この野菜産地は、ハノイ中心部から紅河を隔てた対岸(車で約40分)にあり、ハノイとフェリーで行き来が可能なため、ハノイへ提供する野菜を以前から作ってきた(図4)。地区の総面積は665.5haであり、そのうち農地面積は286.7ha、野菜栽培は約150haである。この地区で栽培される野菜は全量が「安全野菜」であるとのことであった。

 農家1戸あたりの農地面積は約20aであり、平均的な農家は農地面積の半分に相当する約10aで野菜を栽培しており、残りの土地でコメ、食用とうもろこしの栽培を行っている。

 年間の野菜生産量は7,000~8,000トンであり、品目としてはキャベツ、にがうり(写真3)、きゅうり、にんじんなど約30品目である。表3には、この地区における主な野菜の作付時期、単収、庭先価格を示した。野菜の価格は一般にシーズン中には安くなる傾向にあるが、早生期にはその約2倍で販売されている。
この地区の農協の職員数は1,060人であり、地区ごとに19のグループ(Doi)があり、各グループは40~70人の規模である。グループ化によって、バイヤーに対しての交渉力をつけているとのことである。農協への参加は出資金の拠出により認められるので、組合費を払う必要はない。


 

図3 紅河デルタ地域の調査地

表3 バンドック地区における主な野菜の作付時期、単収および庭先価格





写真3 にがうりの栽培
写真4.なすの栽培

 農協の役割としては、生産計画の作成、電気、水、農薬、肥料、種子などの提供、生産物の規格の徹底、農業技術の普及などがある。以前は、農協組合員は生産物のすべてを農協経由で販売していたが、現在では農家が自分で販売するのが一般的となっている。

野菜の出荷と輸出
 出荷先はハノイが中心であるものの、野菜のシーズンには大量に生産するため、ダナンなど中部にも出荷している。ハノイへは各個人がバイクなどで出荷し、遠方(ダナン、フエなど)へは、買い付けに来るトラックで出荷するのが一般的である。ハノイへ出荷する野菜はキャベツ、はくさいなどの葉物が中心である。遠方へ出荷する場合、午後4時に集荷したものが、翌朝8時にはダナン、フエ方面に到着することになる。

 過去には、フランス種のにんじんを栽培し、生鮮品を旧ソ連へ輸出していた事例があったが、旧ソ連の崩壊によって現在は行われていない。また、キャベツを豪州に輸出した時期もあったが、品質面での問題から取りやめとなった。

 にんじんについては、日本の会社の技術支援を受けて日本の品種を栽培した時期があったが、日本の要求を満たす品質でなかったため、この会社は撤退し、現在では農家自身が栽培したものを国内市場に出荷している。日本のにんじんは色、味が良いため、国内でも高く売れる。

農薬管理と安全野菜
 農家の農薬使用について散布指導する農協の農業技術普及チームが巡回し、野菜に応じた散布時期や散布手順、農薬ごとに違う使用手順を指導している。農協が作成した安全野菜栽培の手順書に沿った栽培を行っている場合には、証明書が発行されている。地区内には2つの農薬販売店があり、農業農村開発省のリストにある農薬のみを販売している。この産地は、昔から野菜の栽培をまじめに取り組んできており、産地の名前で安全性の高い野菜であるとベトナムでは認知されている。そのため、普通の野菜との価格差は、種類と時期にもよるが概ね1.5~2倍であり、品薄な時期には3倍になることもある。

(2) ビンフク省 メイリン県 ダイティン村
 ハノイ中心部から北西に約20kmのところに位置するこの村の野菜の栽培面積は、150~200ha(年によって作付の変更もある)である(図4)。主な品目としては、うり、にがうり、なす(写真4)、いんげんが挙げられ、冬期にはたまねぎ、カリフラワーなども栽培される。この村では、野菜専業農家が多いが、近隣にはコメの2期作と冬期に野菜の栽培を行っている農家もある。

 農家は30代が中心である。農家の平均的な家族数は4人が多いが、中には5~6人の家族もいる。平均的な耕作面積は、農家1戸あたり約20~30aであり、ほとんどの農家は家族経営である。この地域では、後継者問題は今のところほとんどないとのことである。
栽培技術は付近の農家で共有し、互いに教え合っている。販売方法は、トラックが畑まで集めに来るのが一般的ではあるものの、直接販売する農家も存在する。

 表4には、この地域で栽培される主な品目の作付時期、単収および庭先価格を示した。なすの単収は、病害虫のため1ヘクタールあたり5トンであり、日本に比べてもかなり低い水準にとどまっている。また、なすは価格の変動が激しいこともあり、栽培農家数はそれほど多くはない。

表4 ダイティン村における主な野菜の作付時期、単収および庭先価格


4.メコンデルタ地域とホーチーミン市近郊の野菜生産
 Sub-NIAPP(国立農業計画研究所ホーチミン支所)での聞き取りによれば、ベトナムでの温帯野菜の産地は、北部は標高が高く冷涼な気候であるサパ、南部はダラット高原である。メコンデルタのテンザン省やアンザン省では以前は熱帯地域で栽培される野菜が中心であり、温帯野菜の産地はなかったが、近年ではダラットを補完するため、一部の温帯野菜が栽培されている。また、ドンナイ省は大消費地のホーチミンに近いため、野菜栽培が盛んである。しかし、ほうれんそうなどの特定の野菜はダラットでしか栽培できず、温帯野菜はダラット産が一番おいしいと言われている。

(1) メコンデルタ地域
 メコンデルタ地域は、雨期の8月から11月には総面積の約3分の1が洪水のため水没する。しかし、農業を営む上で洪水は必要であり、昔から肥沃な土壌が醸成されている。メコンデルタにおける農業は、稲作(2~3期作、場所によっては4期作)が中心である。
テンザン省は、メコンデルタ最大の野菜産地であり、とりわけチュータン県は省内でも一番の野菜産地である。ホーチミンからの距離は南西に約70km、車で約2時間のところに位置する(図4)。
 栽培されている主な野菜は、キャベツ、きゅうり、すいか、マー注1など約30種類である。県内の農地面積は約20,000haであり、農地面積のうち、果樹が一番大きく、次いで水田、野菜栽培面積(約1,500ha)となっている。この野菜栽培面積には、稲作の裏作と年間6~8回の栽培される合計面積がカウントされていないが、これらを考慮すれば、延べ面積では野菜栽培面積が一番多くなるとのことであった。


図4 メコンデルタ地域・ホーチミン近郊の調査地

注1 ベトナム語では「Ma」(マー)と表示し、「野菜の母」を意味する(写真5)。乾燥して粉にし、ジュースにして飲む。熱射病などの予防のため、現地では暑い日に摂取するとのことであった。約35日ごとに収穫でき、1度植えれば5~6年栽培が可能であるが、洪水には弱いため、低い土地ではなく、やや高い土地で栽培する。

 県内の農家1戸あたりの平均農地面積は約20~30aであり、野菜専業か野菜栽培と魚の養殖を行う農家が多い(写真6)。野菜生産量は年間10万トン以上であり、このうち7割以上をホーチミンへ出荷し、残りはメコンデルタで消費している。県では、農業農村開発省植物防疫局ホーチミン支所の指導で安全野菜の栽培に力を入れているが現時点では、野菜を直接輸出する事例はない。

 チュータン県でも安全野菜の栽培グループが存在しているが、取引は「量」に基づいて行われており、安全野菜だからといって高い価格で買い取られるわけではない。ただし、ホーチミン近郊の高級スーパーには安全野菜コーナーがあり、小売価格はやや高く設定されている。
肥料は、有機肥料と化学肥料の両方を使う農家が多く、有機肥料は購入するのが主流であり、有機肥料を自分で用意できる農家もいるが少ないとのことである。

 県内での家畜は、牛(約5000頭)と豚(若干)であり、牛糞の堆肥を肥料にするところが多いが、豚糞は肥料に向かないためバイオガスとして利用している。なお、牛は標高の比較的高い土地で個別に飼育されている。


チュータン県 タンビン村 タンチュウニガ地区
 安全野菜グループ(22戸の農家)のリーダーR氏(家族構成は表5)は、70aの土地を保有しているが、このうち、家屋・庭が6a、野菜栽培面積は20a、残りの34aは1kmほど離れたところにある水田である。この地域ではコメの3期作が可能であるが、3期目がやや不作なため、現在は2期作しかしないとのことである。

 R氏は、1998年に県の農業普及予算を使った安全野菜プログラムで実施されたトレーニングコース(このほかに省や国のプログラムが別にある)を受講した。これにより、安全野菜の栽培は、自分の健康にも良いし、ユーザーの健康にも良いなどのメリットを認識した。県のプログラムは2年間で終了したが、その後はそれぞれの農家ごとに取り組んでいる。

 ここでの安全野菜の定義は、①残留農薬、残留重金属、細菌を科学技術省が定める残留基準以内にコントロールすること、②新鮮かつ安全な野菜であること、の条件を満たす野菜である。検査は保健衛生センター(厚生省傘下にある各県の厚生局の組織)で行い、この地域の場合は、約10km離れているミト市の保健衛生センターで収穫前にサンプルを検査している。また、村の別のグループでも安全野菜の栽培に取り組んでいる。



写真5.マー(Ma)の栽培
写真6. メコンデルタのほ場(マーと魚の養殖)

表5 R氏の家族構成

 この地域では、約50年前から野菜を栽培しており病害虫の発生も多い。病害虫防除のため、農薬の散布を実施するが、ベトナム農業農村開発省の登録農薬リストに基づいた農薬使用を徹底している。特に野菜の収穫に近い時期には農薬を使わず、天敵の利用などで対処しているが農薬散布などの記帳はしていない。

 R氏の栽培する品種は、インゲン、うり、ねぎ、だいこん、トマト(栽培可能だが病気が多い)、カイサイ(ベトナム全国でほぼ一年中栽培される葉物野菜。わさびのような食味がある。)などであり、雨期も乾期も同じような作付けをしている(写真7)。なお、乾期の方が全体的に野菜の生産性は高いが、たくさん作ると価格が低下するため、収入は乾期でも雨期とそれほど変わらないとのことである。1年間のR氏の農業収入(経費を差し引いたもの、ただし家族労働費は経費として差し引いていない)は、野菜で約2,000万ドン(約15万円)であり、コメでは約500万ドン(約4万円)である。


写真7.カイサイの栽培

 野菜の取引については、収穫後、道路の決まった場所へ出しておくとコレクターがきて、市場へ持って行き、コレクターに納めてから1~2日後に農家が代金を受け取る仕組みとなっている。R氏はたいてい決まったコレクターに出しており、収穫の際には、畑からコレクターのところまで人を雇って運んでもらっている(運搬料金は1kgあたり60ドン)。

 農作業については、灌漑、施肥、農薬散布は自分で行い、除草(1ヶ月に2回)や収穫などには人を雇っている。農作業は、毎日午前7時から11時までと午後1時から4時までが通常であり、収穫時や作付け時には長時間働いている。灌漑は雨の日を除き、午前9時と午後2時の2回行っている。また、耕耘機、脱穀機、収穫機などはレンタルしており、それぞれの10aあたりのレンタル料金は、耕運機が40,000ドン、脱穀機は35,000ドン、収穫機は72,000ドンである。

 R氏の場合、肥料は有機肥料と化学肥料の両方を使っている。この地域には家畜がほとんどいないため、有機肥料は購入している。有機肥料の価格は1袋(50kg)で8万~10万ドンであり、化学肥料の価格は尿素肥料で1kgあたり5,400ドン、N,P,Kの三要素肥料で1kgあたり 5,600ドンである。

 肥料価格はこのところの原油高の影響もあり上昇しているが、農産物の販売価格は変わっていないとのことである。野菜栽培のための肥料代はコメよりも高くつくが、収入はコメの約5倍になる。しかし、コメを作る土地と野菜を作る土地は土壌が違うため、水田ではマーという野菜しか作れない。

 前述したように、この地域では量での取引が一般的であるため、安全野菜を栽培することによって得られる経営メリットはほとんどない。しかし、R氏の場合は過去に野菜の栽培に農薬を多用し、庭で飼っていた鶏が野菜を食べて死ぬこともあり、その後、安全野菜の研修を受けたことにより農薬の危険性の認識を高めたのである。安全野菜の栽培手順に従うと生産性が低くなり(慣行栽培と比べて生産性は約1~2割低くなる)、見栄えも悪くなりがちである。それでも安全野菜の生産に取り組むのは、安全野菜の栽培は、消費者だけでなく作業を行う農家の健康にとっても良いからだとR氏は力強く語った。

その他のメコンデルタ地帯における野菜生産・輸出
 アンザン省には、5年前にベトナム資本の冷凍野菜工場が建設され、冷凍えだまめ(日本の品種)を生産している。そのうち約6割は日本へ輸出しており、残りの約4割は国内向けである。日本へはメコン河の河川港であるカントー港を利用して輸出している。カントー港まで入港できるのは2~3万トン級の船であるため、積み替えが必要となる。

(2) ホーチミン市近郊の野菜産地
 ドンナイ省の農地面積(水田、野菜、果実などの合計)は約10万haであり、このうち野菜栽培面積は6,000ha、果実の栽培面積は約5万ha、水田面積は約6万haとなっている。しかし、ドンナイ省の水田は山間部の谷間に散らばっており、コメは太宗ではない。省内で生産する野菜や果実は、品質の問題に加えて、生産地が集約されておらず一定の量が確保できないことから、ほとんどが国内向けである。
 農産物の安全性の問題については、約10年前から取り組み改善に努めてきた。ベトナム政府からの指導に加え、ドンナイ省による農家への指導を通じ、安全な農産物が栽培できるよう努めている。



写真8.ネットを利用した栽培の様子
(栽培区画は細分化)

写真9.自家製の堆肥

ドンナイ省 ビェンホア市 タンポン地区
 ホーチミン中心部から約50kmに位置するこの地区には、ベトナム北部からの移住者が多い。ビェンホア市内にあるため、農業経営としては兼業農家が太宗を占めている。地区の農地面積は約37ha、農家数は約100戸であり、主な品目はちんげんさい、レタス、キャベツ、かぶ、ペパーミント、こしょうなどである。農業の中心的な担い手の年齢は35~40歳となっている。主な出荷先は、ビェンホア市内とホーチミンである。出荷形態としては、ホーチミンから業者が買い付けに来る場合と、農家が自分で売りに行く場合の2通りが一般的である。

 灌漑水は地下水を利用しており、約10mの井戸を掘って水をくみ上げている。農業技術普及員の指導などにより、雨による被害を抑えるためのネットが2000年から普及している(写真8)。まず農業技術普及センターが3~5戸の篤農家でデモンストレーションを行い、そこから地区の農家へ普及していった。

 ネット、肥料などの生産資材は各個人で購入している。ネットの価格は1.8m×100mで27~30万ドンであり、耐久年数は約4年である。この地区は市街地にも近いため家畜が少ないことから、有機肥料は購入している。25kgあたりの購入価格は豚糞由来のもので10,000ドン、鶏糞由来のもので15,000ドンである。この他、圃場に土と収穫後の残渣、除草した雑草などを山状に盛り、5~6年寝かせたものを肥料として利用している農家もあった(写真9)。こうして作った自家製の堆肥を使った場合、野菜の味が良くなり、生産量も多くなるとのことである。農薬の使用は、雨期に比べると乾期の方が害虫の発生が多くなるため、使用量も乾期の方が多くなるが、収穫の15日前以降の農薬使用は控えている。この地区でも安全野菜の証明を有す農家もあるが、考え方が各人で違い、また慣行栽培品との価格差はないため、多くの農家が取り組んでいるわけではない。表6には、この地区で栽培されている主な品目の庭先価格を示した。

 栽培する区画は約0.2aと細分化されており(写真8)、それぞれの区画では播種時期をずらして栽培しており、これにより収穫作業が分散化され、かつ収入も断続的に得られるメリットがある。 

表6 タンポン地区における主な野菜の作付時期、単収および庭先価格


 作付けは葉物野菜が中心であり、例えばちんげんさいを2回栽培した後、ペパーミントを2回栽培し、続いて別の作物の栽培を行っている。作付けの前には、有機肥料を施肥するが、石灰を殺菌のために入れるということである。なお、ちんげんさいは定植から15~20日で収穫できる。

 このように、果菜類やマメ科の栽培がほとんど行われていない理由には、葉物以外では栽培期間が長くなるため、回転が良く継続的に現金収入の見込める葉物中心の作付けを行っているとのことである。また、マメ科、果菜類は農薬の投入量が多く栽培に手間がかかる問題もある。この葉物中心の傾向は、この地区だけでなくベトナム全体に言えることである。

 N氏は、13aの畑で野菜栽培を行っている。家族構成はN氏、妻、子供5人であり、農業後継者を含めて3人の子供が農業を手伝っている。ほとんどの農作業は家族で行うが、まれに非常に忙しくなった場合には、人を雇うこともある。N氏によれば、野菜栽培で重要なことは、第一に「品種」、第二に「水」、第三に「肥料」(特に有機肥料)である。

 苗の価格は、ちんげんさいで1kgあたり9,000ドンであり、パチ(香菜の一種)で100gあたり50,000ドンである。このため、ちんげんさいの苗は購入し、パチは自前で用意している。N氏は定植の3日前に有機肥料と石灰を散布する。購入する有機肥料(写真10)の価格は1kgあたり4,500ドンであり、0.2aあたり500gを施肥する。有機肥料によって土壌が改善され、生産高も上昇したとのこと。

 1区画0.2aあたりの収量は、ちんげんさいで15kg~25kgであり、パチは15~40kgである。販売価格は、ちんげんさいで1kgあたり2,000~2,500ドン、パチは5,000~20,000ドンである。

 農作業は、毎日午前7時から夕方まで行っており、収穫した野菜は奥さんが毎晩0時ごろ出発しホーチミン市の市場へ野菜を運搬する。過去に大型スーパーにちんげんさいを出荷したこともあったが、代金回収に1ヶ月ほどかかるので停止し、すぐに現金化の可能な市場での販売に一本化した。N氏の経費を差し引いた手取りは年間約3,000ドルであり、家族を養うには十分である。

 この地区では、農家の集会(セミナー形式)が年に4回あり、農業技術普及センターなどで開催している。2000年から始まったこの取り組みを通じ、新しい農業技術の講習を受けたことにより生産コストが削減されるなど、農業経営が改善した。


写真10.有機肥料


5.中国の補完的産地として注目されるダラット高原などの野菜の生産・加工
(1) ダラット高原における野菜の生産・加工
 ダラットは標高約1,500メートルの高地にあり、ベトナムとしては比較的冷涼な気候(平均気温は約19℃)に恵まれた地域である。このため、野菜の周年栽培が可能な地域であり、周囲には冷凍野菜、乾燥野菜などの加工工場が進出しており、加工された野菜の一部は、日本へも輸出されている(ダラットの基本情報については、「野菜情報」2006年2月号を参照)。

 ダラット周辺には、日本向けの冷凍野菜を生産する工場が7社あり、合計で年間約5,300トンを輸出している(訪問先の工場での聞き取り)。

A社
 A社は、日本向けのシェアーが75~80%の冷凍野菜工場(ベトナム資本)である。2005年の売り上げは約900億ドン(約7億円)であり、2006年には新規需要も増加していることから1,200億ドン(約9億円)の販売を計画している。

 日本に輸出している主な冷凍野菜は、ほうれんそう、ばれいしょ、てんぷら用カット野菜(かぼちゃ(皮あり)、かんしょ(皮なし))である。表7に示すように、ほれんそうの生産実績は2,500トン(2005年)であり、2006年には3,000トンの生産を計画(2006年6月までに1,600トンを生産)しており、このうち500トンは野菜輸出入公社を通じての輸出を予定している。ほうれんそうの生産が増加した背景は、既報(「野菜情報」2006年2月号)のとおり、2002年に中国産の冷凍ほうれんそうから日本の基準を超える残留農薬が次々に検出されたことで、中国産のイメージが低下したことが契機となっている。

表7 A社の冷凍野菜生産能状況

 年間を通じての輸出価格はほぼ一定であり、CIF価格で1kgあたり1.1ドルである。これは、中国産のCIF価格とほぼ同じである。競合産地としては、中国の山東省、江蘇省などが挙げられる。A社では、冷凍ほうれんそうを1年中生産、輸出しており、月間1,000~1,200トンの原料から300トンの製品を製造する能力がある。A社は農家と年間契約を結んで原料の調達をしており、農家からの買い付け保証価格は1kgあたり2,000ドンである。経営者によれば、中国産の単価が上昇してきたため、今がビジネスチャンスであるとのことである。

 最近ではてんぷら用の需要が増えており、これには日本のユーザーが調達先を中国からのシフトしてきた分もあると経営者は分析する。てんぷら用のカット野菜は雨期(6~11月)には、品質が低下(糖度の低下)するため輸出は行わない。糖度は14~15度(乾期)、9~10度(雨期)となっている。かぼちゃとかんしょを合わせた製造量は150~200トン(2006年)、2007年には600トンの受注を見込んでいる(表7)。かぼちゃとかんしょは、CIF価格で1kgあたり1.1~1.2ドルで販売している。乾期に収穫となるよう、かぼちゃとさつまいもは9~10月に播種し、11~5月に収穫する。また装飾野菜(かぼちゃ)も生産しており、日本に輸出している。

 ばれいしょ(冷凍:8~10g、丸型皮むき)は最低でも年間200トンの注文を見込んでいる。レトルトカレー用として長期契約をしており、1kgあたり0.85ドルで販売している。

 日本で2006年5月29日に施行されたポジティブリストへの対応については、それまで2年にわたり日本の厚生労働省の残留農薬検査情報のホームページを頻繁に閲覧するなど、日本の残留農薬検査制度を注視してきた。2年間の準備を経て、農家への農薬管理の指導を厳しく行うなど、ポジティブリスト制度にも合致する製品の生産に努めている。

 具体的な対応としては、HACCPを取得(2005年末)、その後6ヶ月毎に検査を受けることに加え、農薬検査員と検査サンプル数を増やし、ほうれんそうの前作の土壌や灌漑水のチェックも実施している。さらに、ほうれんそうの周りにネットを張り、ドリフトなどがないよう細心の注意を払っている。なお、ポジティブリストの対策により、コストアップとなったが製品価格が据え置かれていることもあり、農家との契約価格は変えていない。

 日本以外の輸出先としては、豪州(冷凍キャッサバ、冷凍バナナ)、台湾(パッションフルーツジュース)などがある。以前は、シンガポールにキャベツ、はくさい、さつまいもを生鮮で輸出していたが、到着時に品質が悪化している問題があり、2004年から中断した。ただし、シンガポールとは政府間で貿易協定を結んでおり、また双方の野菜協会間での協定もあることから、取引再開を目指して対策を講じているところである。具体的には、生鮮野菜の品質を維持するため、米国製のバキュームクーラー(真空冷却装置、A社では1.8トンの生鮮野菜を20分で冷却するものを購入予定)を導入してシンガポールまで運ぶ計画である。

 A社の工場は、標高約900メートルに位置し(ダラット空港とダラット市街の中間)、敷地面積は5,000㎡である。以前はダラット市内に立地していたが、1999年に大型トラックの通行が規制されたため、300万ドルをかけて新工場として建設され、1日の生産能力は6~7トン(製品ベース)となった。約500人の従業員が雇用されており、8時間労働の2交代制であるが、繁茂期にはさらに臨時雇用者が加わる。工場周辺では、労働者が付近で不足しており、北部などから連れて来ることもある。このため、工場のそばには360~370人の収容可能な寮がある。なお、工場労働者の給与(1ヶ月)は概ね110万~140万ドンである。

 A社の工場には3つのラインがあり、このうち野菜では、ほうれんそう(1年中稼動)といも類(かぼちゃ、かんしょ)のラインがある。

 冷凍ほうれんそうのラインでは選別の精度を高めるため、2006年6月から原料をチェックする台を改良し、下から光を当てて選別できるようにした。ほうれんそうの洗浄、煮沸、冷却には地下水を地下80mからくみ上げて利用しており、1日あたり1,400~1,500?の水を消費する。冷凍ほうれんそうの製造は、①原料の選別、②洗浄、③選別、④2回目の洗浄、⑤煮沸、⑥冷却、⑦選別、⑧冷凍(2時間半かけて1トンの冷凍が可能なものと1時間に2トンを冷凍する能力のある設備)という過程で行われる。

 また、この工場では装飾かぼちゃ(写真11)の生産も行っている(乾期に注文が多い)。装飾かぼちゃラインには150~170人の熟練労働者が配置され、1日あたり200kgの装飾かぼちゃを生産する。装飾かぼちゃの価格は1kgあたり2.5~3ドルと高値で取引されているが、色、形、傷の有無など顧客の要求が非常に厳しい。

 工場の製品は輸出用が主流であるが、近年ではベトナム国内でも需要が伸びており、国内向けのシェアは全体の12~15%となっている。特に、冷凍えだまめは、以前は国内でほとんど売れなかったが、今はホーチミンの居酒屋などからの需要があり、輸出するよりも国内向けの価格が良くなっている。このため、えだまめは全量国内向けとのことである。国内向けの製品には、スープ用のミックス野菜、スイートコーン、ほうれんそう、えだまめがあり、ほうれんそうは日本向けと同じものである。国内向け製品は冷凍トラックでホーチミンやハノイへ運送される。

 輸出用製品は、週に2~3回大型トラック(40フィートコンテナに20~22トンの製品を積載)によりサイゴン港まで運搬し、輸出する。石油価格の高騰により、サイゴンまでの運送料は2005年には1コンテナあたり520万ドンであったものが、2006年には600万ドンと上昇した。
トレーサビリティは、すべての輸出用製品で採用しており、製品の小袋に記載した番号でどこの農家から来た原料であるかを判別できるしくみとなっている(写真12)。

 今後について経営者は、なすの素焼き、油で揚げたかぼちゃ、カットしたオクラなどの冷凍野菜とともに、日本の顧客から生鮮野菜の関心が寄せられているので、導入予定のバキュームクーラーを活用して輸出したいと話していた。なすはハウス栽培を行うことで増収が見込めそうとのことである。他方、経営者は装飾野菜、味をつけたもの、揚げ物などのより加工度の高い商品の生産を伸ばしたいと考えている。このため、より高度な加工に対応できるよう、2007年から現工場の隣接地を活用して拡張工事にとりかかる予定である。

 A社では、約200戸の農家と契約しており、契約農家の平均面積は約1haであるが、中には3haの大きな農家も含まれている。農家の平均年齢は約45歳である。契約農家のほとんどは、栽培品目が少ない方が管理しやすいため、ほうれんそうが主体の経営となっている。このため、ダラット高原には、ほうれんそうの栽培地域が半径約12kmに広がっており、A社の工場までは遠いところで約1時間(32km)の距離にある。

 A社には、巡回指導員が10人おり、ひとりの指導員は約20戸を担当し、毎日巡回している。巡回は農繁期には朝5時から夜9時までとなることもあり、天候などの問題があるとさらに長時間の巡回になる。



写真11.装飾野菜(かぼちゃ)
写真12.生産履歴の確認のため農家番号の
記載されたパッケージ

 ほうれんそうの単収は、乾期は40トン、雨期は25トンである(キャベツの単収:50~60トン)。ほうれんそうは、定植から収穫まで35~40日かかり、農薬は定植から10日目と20日目に散布するのが一般的である。ほうれんそうの苗はハウスで育苗(育苗期間は15~20日)されている。収穫はA社の社員が行い、箱に詰めた後工場へ運搬する。収穫してから工場までの所要時間は約1時間半とのことである。

 農家からのほうれんそう買い上げ価格は、一律1kgあたり2,000ドンであり、1週間に2回代金が支払われる。契約農家には後継者のいる場合が多く、大学卒業後、都会で働いたものがUターンする事例もある。
葉物ばかりの作付けだと土壌が悪くなるので、年に1回新しい土に入れ替えている。肥料は化学肥料が多いが、有機質の肥料もときどき使うとのことである。
契約農家では、ほぼ5戸で1台の割合でトラクターを保有している。トラクターの価格は日本製の中古品で約6,000万ドンである。


写真13.契約農家のほうれんそう

契約農家
 D氏は20年前に北部から移住し、A社が冷凍ほうれんそうの生産をはじめた2003年からほうれんそうの契約栽培を行ってきた。主として家族経営であるが、収穫などの農繁期には臨時に人を雇うこともある。収入の約90%はほうれんそうからのものであり、ほうれんそうを年に5回栽培し、残りの期間にサラダ用の野菜を栽培し、市場へ出荷している。

 地元の農協との関係は希薄であり、契約しているA社の技術指導を受けるが、周囲にある他の契約農家とも協力している。農薬使用に際しては、A社の指導員から細かい指導を受けている。病気は雨期(6~8月)に出やすいが、病気などが発生した場合には、A社へ通報する義務がある。栽培履歴書には農家自らが記帳し、A社からのチェックを受けるシステムになっている。なお、気象などの情報は、テレビやラジオなどで収集している。台風のシーズンは5月~10月のため、この期間の天気に関する情報収集は特に重要である。

 契約により、基準に合うものを栽培するよう厳しい指導をA社から受けている。2006年3~4月は降雹により品質が低下したため、品質低下時の特例として国内向けとしてホーチミンなどの市場へ出荷したことがある以外は、全量をA社が買い取っている。契約農家になるには、契約前にA社の行う研修に参加し、A社の示す手順に従って栽培を行わなければならない。肥料、農薬などの農業資材は、A社を通じて入手する。

 D氏がほうれんそうの契約栽培を続ける理由として、以前栽培していたキャベツは市況により価格が乱高下(1kgあたり500~3,000ドンの幅)し、収入の見通しが立たなかったため、安定した収入が得られる道を選んだとのことであった。


写真14.巡回指導員(左)と契約農家(右)

B社
 B社は1999年に創業した冷凍野菜加工工場(資本は100%日本企業)であり、農薬を極力使用せずに栽培できる、かんしょ(雨期)とかぼちゃ(乾期)の生産を行っている。製品はすべて日本向けに輸出されている。

 契約農家数は1,000戸以上あり、工場からバイクで30分から2時間の距離が多い。農家との契約前には、過去に何を作った土地か、周囲に何を作っているか、川の上流には何があるかなどを調べ、問題のない土地で栽培された原料のみを工場で利用する。契約農家の平均面積は1.5~2haであり、作付の形態としては、かんしょとかぼちゃの両方を栽培する農家、かんしょだけを栽培する農家、かぼちゃだけを栽培する農家がある。契約農家数が多くなると、それだけ管理も難しくなり必要な原料を調達するのに困難な時もあったとのことである。進出当初は、作付する品種の選定と、それを安定的に栽培する農家を探すのに大変な苦労があり、定着するまでに2~3年かかったとのことであった。

 契約農家のほとんどの圃場は、標高1,000メートル前後にある。農家との契約はスペック買い契約(保証価格はない)であり、スキン・ダメージ、糖度、スチームをかけて中のよごれなどをチェックした上で品質・規格に応じた価格での原料調達(原料は農家が工場まで運搬)を行っている。なお、工場で買い入れるのは、A級品のみであり、B級以下のものは買い入れを拒否している。

 農家への支払い方法は、月曜から土曜に工場へ入ったものを次週の金曜日に農家へ支払っている。また、年に1回農家会議を開き、成績の良好な50人を表彰するなどの工夫もしている。

 工場は毎朝6時に労働者が出勤し、6時15分に点呼を取り、6時30分から作業を開始する。その日にカットしたものは、その日のうちに加工するようにしており、概ね15時ごろにはその日の作業は終わる。工場では、原料部が1ヶ月のスケジュールを決定し、植えてから収穫までの指導を6人でこなしている。各農家は1ヶ月に2~3回の巡回指導を受けることになる。

 工場労働者の年齢は20代が中心である。役割を帽子に色をつけて区別しており、例えば赤帽は班長、ピンクは副班長などとなっている。班長は、ノギスでカッティングのチェックをしていた。

 生産した製品は毎日検査を行っており、また各農家には番号が割り当てられているため、問題があれば農家まではトレースできる。また、ユーザー側の希望で金属探知機を2回通し、異物混入のないよう努めている。工場全体の製品管理はHACCPに類似したシステムと言えると考える。

表8 B社の冷凍野菜生産状況(2005年)

 生産能力は、かんしょ製品の場合で1日あたり最大26トンであるが、通常は1日24~25トンの生産を行っている。2005年の実績は1,600トンであった(表8)。かんしょ製品の歩留まりは約30%であり、残渣は肥料販売店などに引き取ってもらっている。かぼちゃ製品の生産能力は1日あたり12~13トンであり、2005年は1,000トン強の実績であった(表8)。

 かんしょ製品では、甘露煮(500gのパック)、ペースト(1kg)、一袋10kgの味付けしていないものなどがある。ペースト状のものは糖度11~12度であり、菓子などの原料として利用されている。かんしょは色と味が良いため、ユーザーからベトナム産が指定されることもあるし、中には工場の指定を受けることもある。

 製品は、サイゴン港まで冷凍コンテナで運び、香港など経由して日本へ輸出している。最近は、原油高の影響などもあり、輸送コストはやや上昇しているが、中国との競争もあり製品価格には転嫁できていない。ベトナムからのフレートは中国の約2倍であるため、中国産との差別化(付加価値をつける)努力をしており、電熱器を利用した焼き芋、焼きかぼちゃ機を導入するなどの対応をしてきている。

 B社の契約農家の圃場では、有機肥料の利用を積極的に行っている。圃場内に掘った穴にビニールシートを張り、牛糞、わら、水を入れ、液肥として利用している。

 かんしょでは、直播は雨で被害を受けてしまうため、親芋からつるを取り、つるを植えて栽培している。農家はつるの供給を受けてから1週間以内に植えないとペナルティを受けることになる。畝幅は約50cm、株間は約25cmで植えており、単収は10トンを目指している。生育期間は約45日である。畝幅をできるだけ狭くして単収を上げる工夫をしており、10~12トンとなるよう日本の大学へ栽培技術の照会を行っている。

 B社によれば、工場周辺でなすの栽培を試みたがうまくいかず、またオクラは気候が冷涼なため、発色が悪いとのことである。他方、ほうれんそうはベトナムではダラット高原(標高約1,500メートル)でしか栽培できないとのことであった。

ダラットにおける野菜生産の課題と今後の展望
 国立農業計画研究所(NIAPP)ホーチミン支所副所長のDr. Binhによれば、ダラットでは外資系やベトナム資本の企業により、野菜・花きの栽培が拡大しているとのことである。野菜については、台湾やシンガポールなどの外資やベトナム資本による投資が盛んになっており、台湾や国内(主にホーチミン)向けの生産が行われている。

 しかしながら、ダラットにおける野菜生産を持続可能なものとするためには、土壌浸食の問題と農薬使用量の削減に取り組む必要があると指摘する。特に、土壌浸食については多くの報告がなされており、森林を農地化する計画がストップした事例もあるとのことである。調査の際にわれわれもダラットの所々で土壌浸食の現場を見かけた(写真17)。農薬使用量の削減については、野菜を輸出する上では避けて通れない課題である。

 こうした問題点を抱えつつも、ダラットは気候、灌漑条件など自然条件に恵まれた野菜産地であり、またダラット空港の拡張(工事中)やホーチミンからダラットまで高速道路(建設中)などダラットと外をつなぐインフラの整備も進んでいること、NIAPPによるダラットを含むラムドンにおける野菜・花き栽培の産地化計画があること、この他にラムドン省による外資の誘致などが行われていることから、2010年には野菜生産はさらに広がると分析している。


写真15.ダラットのキャベツ畑と農家の作業風景



写真11 ダラットの野菜畑と土壌浸食(点線内)
写真17.ダラットの野菜畑と土壌浸食(点線内)

(2) ホーチミンにおける野菜の加工
  X社は1978年に設立された国営企業であるが、2006年に株式会社化する予定である。会社設立から1993年までは貿易業務のみであったが、1993年にホーチミン市に工場を建て、えびを中心とする冷凍水産物の加工を始めた。その後、2001年には冷凍野菜の生産を開始、2004年には工場を現在の場所に新設し、同時に旧工場から新工場へと生産を集約させている。現在は冷凍水産物の他に、冷凍野菜(なす、オクラ、いんげんなど)、冷凍果実(マンゴー、パパイヤなど)の加工も手がけている。

  工場では、現在、水産物加工品ではなく冷凍野菜と冷凍果実の加工に力を入れている。この背景としては、2004年に米国からえび製品がダンピングの指摘を受けたことから、米国への冷凍水産物の輸出環境が厳しくなったことが挙げられる。このため、米国向けの冷凍水産物を日本、韓国、台湾などへ振り向けるとともに水産物の取扱を縮小した。現在では、冷凍水産物は数量(製品ベース)の約50%であり、冷凍野菜は約30%を占めている。2005年の冷凍野菜生産量は約1,300トンであったが、2007年には製品ベースで年間1,000トンの冷凍水産物と3,000トンの冷凍野菜の生産を目指している。

  冷凍野菜部門の生産能力(製品ベース)は、最大で1日あたり5~6トンである。2005年にはなすは約1,200トン、オクラは約100トン生産した実績があり、2006年にはなすは2,000トン、オクラは400トンの生産を予定している(表9)。

表9 X社の冷凍野菜生産状況輸

 工場に運ばれてくる野菜は、なす(日本の品種)が1日あたり約2トン、オクラ(日本の品種)が約2トン、いんげんが約500kgである。契約農家からの原料調達は、各農家からX社の集荷ステーションに集まった野菜を自社のトラックで工場に運んでくる。集荷ステーションは現在2箇所あり、それぞれ7人のスタッフ(2人はX社社員で、5人は現地採用)が所属している。契約農家は、メコンデルタ地帯、ホーチミン近郊、ダラットにまで分散しており、最大の契約農家は4ha、最小は0.2haの規模である。契約農家は野菜の他に、コメ、マンゴー、アセロラなどを栽培している。

 具体的な製品としては、「なす」の場合は、素揚げ、ダイスカット、かなこカット、焼きなす、えびなす、てんぷら用なす)、「オクラ」の場合は、てんぷら用オクラ、陸揚げ、蒸しオクラ、「いんげん」の場合はてんぷら用を生産している。中国との競争に太刀打ちするため、水産物を混ぜた野菜の加工品を提供することで差別化を試みている。

 揚げなすの場合、洗浄、カット、油で揚げる(190度)、冷凍(約10分)、袋詰めという過程をたどるが、途中で何度も色、大きさなどのチェックを経ている。

 X社製品の主な輸出先は米国、日本、韓国、カナダ、欧州、シンガポール、香港である(表9)。輸出金額は、2005年の実績は2,000万ドル(水産物、果実を含む)であり、2006年は4,000~5,000万ドル(同)を計画している。日本向けには、1994年~2004年は水産物の輸出が多かったが、このところの市況悪化により、野菜と果実の輸出を伸ばし、野菜ではなす、オクラが主力となっている。製品の輸出は工場から約2時間のサイゴン港のみを利用している。日本へは、香港または台湾経由で1週間に2回(水、金)輸出し、日本到着は約10日後となる。

 従業員数は約1,300人であり、このうち約300人が冷凍野菜部門に所属している。従業員の年齢は18~25歳が中心である。8時間労働の2交代制だが、忙しい時期には3交代制とし、24時間フル稼働する。
残留農薬の検査は、サンプルをホーチミンの政府機関(Center of Analytical Services and Experimentation, Department of Sciences and Technology Center for HCM city)へ送り検査している。また、食品の安全性を高めるため、トレーサビリティは農家ごとに追跡可能なシステムとなっている。ポジティブリスト制度への対応は、販売先などを通じて情報を得ながら、契約農家への農薬管理を徹底させている。

 冷凍野菜の生産工程は、GMP(Good Manufacturing Practice)、HACCP、SSOP(Sanitation Standard Operating Procedures)の認証を取得し、衛生管理の徹底に努めている。



写真18.冷凍オクラの加工
写真19.冷凍の素揚げなす


7.ベトナムの港湾施設と道路インフラ事情
(1) ダナン港
 ダナンは、ベトナムのほぼ中央部に位置する港町である。1858年フランスの植民地時代に河川港の部分が開港された。現在は、貨物港のほか、旅客港としても機能している。

 ダナンは、ラオス、タイとつながる東西経済回廊の終点でもあることから、地理的条件に恵まれている。ダナンから中国の海南島までは海路で約18時間であり、また陸路ではタイ東北部まで約500kmという距離で、これはタイ東北部からバンコクの約1,000kmの半分である。

 現在の港湾設備(2つのメイン港)は河川港と海港の2つに区分される。河川港部分は、5,000t級が入港可能である一方、海港(ティエンサ地区)は1966年に米軍により開港された水深12mの港であり、45,000t級、2,000TEU(コンテナ)、客船では定員2,000人級の入港が可能である。

 ダナン港に入港するコンテナ船は日本向けの荷を運搬する場合、香港または台湾経由で、欧州向けの場合にはシンガポール経由となり、経由地で本船への積み替えが必要となっている。現在、日本便(2,000TEU級以下)は週に2~3便であり、所要日数は約12日となっている

 港湾設備の整備は、東西経済回廊の整備の進捗にあわせ、港への取り付け道路、ハイバン峠を貫通するトンネル、港湾の設備などのインフラ整備を日本の国際協力銀行(JBIC)の融資で行ってきた。港湾の整備はフェーズⅠとフェーズⅡからなる。フェーズⅠ(1999~2005年)ではティエンサ地区に岸壁、道路、防波堤(250m)を建設し、フェーズⅡ(申請中)ではティエンサ地区の防波堤の延長(200m)、700mの岸壁、13~14mの水深、14haのヤード、その他関連の設備を整備する計画である。フェーズⅡ完了後は5~6万トン級、3,000TEUのコンテナ船の入港が可能になり、日本への直行便の就航が可能となるため、日本までの日数は現在の約12日が1週間に短縮される見込みである。

 港での取扱量(輸出、輸入の合計)は毎年8~10%の増加を示しており、現在、国際積替港にしようと申請中である。

 農産物の取扱数量は、輸出入合計で年間約20万トンである。主な輸入農産物は麦であり、輸出農産物は、コメ、タピオカでんぷん、乾燥タピオカスライス、冷凍海産物(日本企業もある)である。港の責任者の話では、以前は果物の輸出も行っていたが、最近は少なくなっているとのことである。また、年間約3,000万トンの木材チップが日本へ輸出されている。また、ダラットからの輸出は、サイゴン港経由で行われるため、ダナン港は利用されていないとのことであった。表10には、ダナン港における主要輸出入品目を示した。輸出に占める農産物の割合は低いが、タピオカ注2の乾燥スライスが中国、韓国向けに輸出されており、今後も増加が見込まれている。また、中国からの野菜、果物などの輸入は、ダナン港ではなく、陸路経由が多いとのことである。

表10 ダナン港における主要輸出入品目



図5 東西経済回廊地図(ベトナム側

注2 タピオカの栽培は、沿岸部のほか中部の高原(コーヒー価格が低迷したため、栽培の簡単なタピオカに移行)ダナンから約200kmのコンタムなどが栽培適地である。

 ダナン港では現在、1時間あたり15~20TEU(コンテナ)の積み込みが可能であり、木材チップでは、1日7,000トン、普通の貨物では1日5,000トン、人力を必要とする貨物では1日2,000トンを積み込む能力を備えている。2005年の取り扱い量は約235万トンであった。なお、ダナン地区の港全体(ガソリン港、水産用港など合計7港)では約400万トンの実績であった。

 なお、ハイフォン港、サイゴン港は1,000TEU級以下のみの入港が可能とのこと。港湾管理の責任者は、ダナンの工業団地には日系企業の進出も進んでおり、将来は日本便も増加するとの見解を示している。


(2)東西経済回廊
 今回の調査では、6月18日(日)にダナンから国道1号線を利用してドンハまで北上し、ドンハから西に進路を変え、国道9号線(東西経済回廊の一部)にてラオス国境のラオバオまでベトナムを横断実走した(図5)。以下はその記録である。

5時15分 ダナン市街                    
6時00分 ハイバン峠北側(休憩30分)
7時45分 フエ(給油5分)
9時15分 ドンハ交差点
10時20分 ラオバオ経済商業地帯ゲート
11時00分 ラオバオ国境着(写真20)



写真20.ラオバオ国境(ベトナム側)
写真21.国境の検疫所(ベトナム側)

 まず、国道1号線はハイバン峠を除いてはほぼ平地で直線の道のりとなっているが、橋梁の工事やフエなどの主要都市では若干の渋滞に遭遇した。JBICの円借款で整備されたハイバントンネル(写真22)の物流上の効果は大きく、それまで峠越えに約1時間かかっていたのが、約10分に大幅に短縮された。

 アジア開発銀行の融資によって整備された国道9号線(写真23)は多少の高低差やカーブはあったものの、道幅もあり道路舗装もしっかりしており、大型トラックの交通にも支障ない。したがって、タイなどからの物流が今後拡大する下地は用意されている。



写真22.ハイバントンネル
写真23.国道9号線

 ラオスとの国境の手前約25kmからは経済商業地帯(保税地域)となっており、この地域内では外資による投資への優遇政策が適用されている(タイ資本などが進出)。ベトナムの出入国管理事務所では検疫所(写真21)もあったが、手荷物等の検査は行われていない。車でのラオス入国は車両検査等があるため、手続きに時間を要することから、車を降りて出国手続きを済ませて、徒歩で10分程度離れたラオスの出入国管理事務所で入国手続きを行い、再度、ベトナムに入国して車に戻った。

 ベトナムとラオスの管理事務所が離れていること(バイクでの移動サービスあり)、かつパスポートコントロールやビザの確認に時間がかかったため、単純な往復だけで約1時間を要した。

 ベトナム-ラオス間の通関手続きとしては、①輸出国側の税関検査、②貨物の積み替え、③輸入国側の税関検査となっているが、メコン河流域国が「ワンストップ通関」制度を導入する動き(JETRO)もあることから、今後は簡素化される可能性がある。




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