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EUの野菜の生産・流通の概況と青果物共通市場制度について

国際情報審査役補佐    平石 康久
調査情報部調査情報第二課 吉田 由美


 現在、EUでは1960年代から続いていた青果物制度の見直しが行われており、今年度中にも大幅な改正が行われる見込みである。共通農業政策による直接支払いと現行制度との整合性の問題、野菜の需給不均衡による過剰問題、生産者団体による供給の組織化や集中する小売業界に対する施策等、日本の野菜関係者の興味を引く点も多く含まれていると思われるため、いままで取り上げられる事のなかったEU野菜をめぐる事情も含め、現行のEUの青果物共通市場制度及び今後の見直し方向について2回に分けて紹介を行う。ただし当機構ホームページで追って全体版を掲載する予定であるので、必要な場合は参照されたい。
 なお、この記事については、第1章の執筆は吉田が、第2章以降の執筆は平石が担当した。

1 EU野菜産業の概況
 EUは面積398.2万km2(日本の10倍)の広大な地域に北極圏から温暖な地中海までと多彩な気候条件が分布している。産業別の傾向としては、極めて概括的な分け方をすると油田がある北海周辺およびスカンジナビア半島をはじめとする北部の工業・ハイテク産業、南部の農業という地域性がみられる。

 野菜生産は地域により様々な品目が栽培されているが、トマトの生産が全体の25%を占め主産国のスペインとイタリアが野菜の2大生産国となっている。

 また、民族構成も多様であり、食生活・食習慣にあわせ小売形態もスーパーから市場までバラエティに富んでいる。最近の傾向としては、健康志向の高まりからオーガニックの普及があげられる。

 なお、この章の野菜流通、消費にかかる部分の記述については“EU Market Survey 2005, Fresh Fruit and vegetables”に多くを依ったことを申し添える。


1.EUにおける農業生産の概況
 ~畜産が盛んな北部地域と果樹園芸が盛んな南部~


(1) 農業人口
 農業人口が多いのは中欧から南欧にかけてのポーランド、イタリア、スペイン、ドイツ、フランスである。
 就労者に対する農業従事者の割合を見てみるとポーランドで2割、ギリシャ、ポルトガルでは1割以上なのに対し北部のベルギー、英国などでは1%台とEU内でも地域による格差が大きい。

表Ⅰ-1 各国の農業人口(2003年)

 

(2) 土地利用面積
 農業用地の面積をみると農業人口同様、中欧から南欧に集中しており、上位5ヶ国はスペイン、フランス、ドイツ、英国、ポーランドとなっている。農業用地の種類をみてみると、デンマーク、ハンガリー、リトアニア、ポーランドなど北中欧では単年性の作物が主体である耕作地の割合が高い。

 一方、南部のスペイン、イタリアはぶどうオリーブなどの果樹に代表される永年作物、また北部の英国、アイルランドは永年牧草地の比率が相対的に多い。

表Ⅰ-2 各国の土地利用状況(2003年)


2.EUにおける野菜生産の概況
 ~スペインとイタリアが2大生産国~

(1) 品目別
 2004年の品目別生産量を見ると加工用が主体のトマトが1,583万トンでEU25カ国総生産量の約25%を占め主要産物となっている。次いでレタス・キャベツ(795万トン)、たまねぎ(シャロット含む)(473万トン)、にんじん(469万トン)の生産が多い。

表Ⅰ-3 品目別野菜生産量

(2) 国別
 トマトの2大生産国であるイタリア、スペインの両国でEUの野菜総生産額の42%を占め、主要産地となっている。特にイタリアは全生産量の半分近くがトマトであり、同国がEU第1位の野菜生産国となる主因となっている。また、ギリシャもトマトの生産量が全生産量の約半分を占めており野菜生産量第6位となる要因となっている。

 イタリア、スペインはメロン、すいか、レタスの生産量も多く、温暖な気候を生かしたこれら露地生産が両国をヨーロッパの野菜生産基地としている。

 生産量第3位のフランスはEUで最も広い耕作面積を持ち、北から南まで国土が広がっていることもあり、各品目まんべんなく生産している。

 ポーランドはキャベツ、にんじんに集中しており、特にキャベツの生産量はイタリアの約5倍と他の品目に比べて突出している。

 さらに施設園芸に特色をもつオランダではきゅうり、マッシュルームの生産が多くなっているのが特徴的である。耕作面積ではフランスの120分の1にすぎない同国がトマト生産量ではフランスを上回っているのも生食用施設栽培が盛んであるためと考えられる。

表Ⅰ-4 国別野菜生産量



表Ⅰ-5 主要国における品目別生産量(2005年)


3.EUにおける野菜流通の概要
 ~特徴的な小売店展開。北部はチェーン店、南部は市場~


(1) 卸売レベルの業態
 EUにおける生食用青果物の主要経路を図1-1に示すがEUでは日本とは異なり、民間業者や輸入業者、代理店などが集出荷・価格形成機能を担うケースが多い。

 彼らの多くは輸入手続き及び商品の納入を行うだけでなく、バナナの追熟やセルフサービス用カットおよびパッケージング、サイズごとの並べ替えなどの作業も行う。

 また、多くの輸入業者はサプライヤーとの間に密接な関係を持っているため品質やサイズ、パッケージなどの知識が豊富であり、なかにはその国における代理店になっているものもある。

 一方で、ヨーロッパでは巨大小売チェーンの成長により生産者から小売への直販という流れができつつあり、このようなルートはEU諸国で増えている。このような状況下でも輸入業者は相手国の出荷者と連携して流通、品質管理など商品の流れをコントロールし、集荷担当として不可欠な立場を保ちサプライチェーンの中で明確な役割を果たしている。

図Ⅰ-1 EUにおける生鮮青果物フロー図

 主要な流通業者(distributor)の例を挙げると以下の通りである。
● Fyffes(英国・アイルランド)
● Scipio/Atlanta Group(ドイツ)
● Dole Fresh Fruit Europe(ドイツ)
● Pomona(フランス)
● The Greenery(オランダ)
● Del Monte Fresh Produce(ヨーロッパ)

(2) 小売の実態
 消費者が生鮮野菜を入手するルートとしては主として専門小売店(グローサリー)、スーパーマーケット、青空市場、生産者から直販という4タイプがある。

 特にイタリアやスペインではEU北部ほど大きなスーパーマーケットが発達していないので青空市場やグローサリーがいまでも主流である。

 一方フランスと英国では複合スーパーの割合が伸びている。スーパーマーケットの包装された野菜は種類も豊富になっており売り上げが伸びている。

 また、ミニ野菜、例えばミニパプリカ、ミニカリフラワー、ミニきゅうりなどに代表される新たな野菜により家庭の食卓に変化がもたらされており、このような新製品の開発のために小売業者と種苗会社はコラボレーションを進めている。

 さらに、消費者へのアピール力を増すために小売業界では利便性と多様性を高める努力をしており、スーパーマーケットは自前の集配センターを設置するなどして、独自のルートも築いている。それとは別に、店の特徴を強く打ち出す専門店も一方で伸びてきている状況にある。

(3) 市場の特色
 EUのマーケットの特色として以下の3点があげられる。
(1)消費先により多様な需要が存在すること
 生鮮青果物のマーケットは次の3つに分類されている。
 (1) 一般消費者向け(小売・スーパーマーケット・青果小売店)
 (2) 外食(out-of-home)
  (レストラン・売店・ガソリンスタンド ・給食・ファーストフード)
 (3) 加工業務用向け

 オランダでは(1)一般消費者向け市場が(2)外食(out-of-home)の約2倍の規模となっている。加工業務用向けのシェアに関するデータはないが、高齢化に伴う一人暮らし世帯の増加に伴い成長が見込まれており、この傾向はEU諸国内で共通である。
 加工業務用にはベビーフード、冷凍食品、調理食品、缶詰向けなどが含まれるが、小売向けや外食向けよりも規模が大きく、品質は生鮮ほどこだわらないという特徴がある。

(2)オーガニックへのニーズが高まっている。
 EUの青果物マーケットの特徴としてオーガニック青果物の存在があげられる。EUにおけるオーガニックフードへのニーズは高く、重要性が高まっており、まだ全体に占める割合はそれほど多くないがここ数年で大きな伸びを見せている。特に英国、フランス、スイス、イタリアで急激に広まっており、2002年のオーガニック青果物の成長率はイタリアで20%、スイスでは15%となっている。
 特にイタリアではニーズが高く、青果物のオーガニック食品全体に占めるシェアは30%となっている。

(3)社会経済的要因により消費の特徴が分かれる。
 食品の消費傾向は民族、年齢、性別、教育レベル、経済レベル、職業など様々な要因により影響を受けるが、生鮮青果物のマーケットに関しては、特に地域により特徴が分かれている。
 南部(ギリシャ、スペイン、イタリア)では生鮮果実・野菜は日常生活に欠かせない食材となっており買い物や調理に費やす時間が長く、出費も多い。これらの国では物価上昇と収入減という状況下にも関わらず青果物の売り上げは安定している。
 一方、北西部ではカット野菜やパック詰めなど利便性のある商品とその価格に焦点が当てられている。経済活動の低下傾向・物価高騰といった背景から、生鮮青果物の価格に対して消費者が非常に敏感になっており、購入行動にも影響を与えているとされている。しかし、オーガニック野菜に関しては高価格でも購入する傾向がある。


4.EUにおける野菜消費動向

(1) 自給率
 野菜は生鮮流通主体という特色から地域内で自給される傾向が強く、EUの共通農業政策による保護措置もあって域内の自給率はほぼ100%である。ただし、品目別・国別に見ると格差がみられる。

図Ⅰ-2 一人当たり供給量(2003年)

(2) 消費傾向
 EUにおける2003年の一人当たり生鮮野菜消費量を見るとギリシャ、ポルトガル、イタリア、スペインといった地中海沿岸諸国の消費量が多い。どの国もトマトの消費が多いことが特徴である。

(3) 主要国における消費動向
(1) イタリア
 2003年のイタリアにおける生鮮野菜の消費は金額で57.4億ユーロ、数量で375万トン、2002年と比較すると金額で7%、数量で6%の減少となっている。一人当たりの年間生鮮野菜消費は178.3kgと多く、品目ではトマトの消費が非常に多い。
(2) スペイン
 2003年の生鮮野菜の消費量は約240万トンで年間一人当たり消費量は143.3kg、イタリア同様トマトの消費が一番多く総消費量の1/4を占める。その他、たまねぎ、レタス、エンダイブの消費が多い。
(3) ギリシャ
 一人当たり消費量がEU諸国内で最も多く、年間消費量は日本の2.6倍の275.7kgである。
 ギリシャといえばトマトのサラダやばれいしょを使ったタラモサラダなど野菜を使った料理が豊富なことでも有名である。トマト、たまねぎ、メロン、すいかは生産も多いことからこれら野菜の消費が多いと思われる。
(4) 英国
 政府は肥満予防と健康増進のために2003年に青果物の消費拡大運動である5 a dayに着手した。しかし、人口の約25%しか目標量である1日5サービングに達しておらず、特に収入が低い世帯、若い世代で野菜の摂取不足が顕著である。
 また、他のEU諸国と比較しても英国の一人当たり消費量は多くはなく2003年の消費量は91.5kgであった。
(5) フランス
 消費量第5位のフランスにおける2003年の1人当たり消費量は142.9kgで日本の約1.5倍である。生鮮野菜ではトマト、にんじん、エンダイブの消費が多い。
 フランス料理で重要なフォン・ド・ボー(子牛の出汁)にはトマトやセロリ、たまねぎなどを大量に使用すること等、料理の材料に野菜を多く利用することが摂取量を引き上げる一因となっている。


5.EUにおける野菜価格
 ~高価格の北欧~


 野菜価格について、EU諸国の生産者価格と日本の価格を比較してみると日本の価格は概して高い傾向にある。品目別にみるとトマトはベルギーとスウェーデン、フィンランドが非常に高く、一番低価格のポルトガルの約4.4倍にもなっている。
 また、なすはギリシャがイタリアの約4倍、カリフラワーではベルギーがフランスの約3.6倍とEU内でかなりの格差がみられる。

表Ⅰ-6 EUにおける生産者価格と日本の卸売価格の比較


6.EUの野菜貿易(域内貿易含む)
 EUで流通する青果物の中にはEU域外産のものも多く流通しているが、野菜に関しては主としてEU域内の青果物によって供給されている事がわかる。
 2003年のEU域外からの輸入金額は14億ユーロ、輸入数量は149万トンに上る。また、2001年から2003年の推移をみると輸出入量、金額ともに増加傾向にある。

(1) 輸入(域内貿易含む)
 EU諸国で輸入が多い国はドイツ、ついで英国、フランスである。ドイツはオランダやスペインからトマト、ピーマンを輸入している。英国はスペイン、オランダ、アイルランドからトマト、マッシュルームを、またフランスもスペイン、モロッコ、オランダからトマト、ピーマンをそれぞれ輸入している。

 EU域外の輸入先国としてはモロッコやトルコからの輸入が伸びている。ケニアからの輸入も多い。
 輸入数量の多い品目としてはトマトが223万トンの輸入数量となっており、その他に、たまねぎ、にんじん、レタスがあげられる。域外からの輸入割合が高い品目としてはアスパラガス(域外比率29%)、たまねぎ(同27%)である。

表Ⅰ-7 品目別輸入状況(2003年)


(2) 輸出
 スペインとオランダが2大輸出国である。生産量で第6位のオランダが供給国として大きなウエイトを占めているのは施設野菜生産が盛んな同国の特徴を表している。
 輸出品目は多いものから金額ではトマト、ピーマン、レタス、たまねぎの順でピーマンは供給国が限られている。また、数量ではトマト、次いでたまねぎ、にんじんの順となっている。

図Ⅰ-3 EUにおける生鮮青果物の輸出入の状況




表Ⅰ-8 生鮮野菜の国別輸入金額・数量



表Ⅰ-9 EU向け生鮮野菜の国別輸出金額・数量



図Ⅰ-4 EUの輸出量に占める品目別割合 (2003年) 



表Ⅰ-10 EUの国別輸出金額・数量



表Ⅰ-11 EU25 ヶ国による生鮮青果物の品目別輸出金額・数量


(3) 対日貿易
 EUから日本への野菜の輸出量ではイタリアが78,089トンで一番多く、そのほとんどはトマト加工品である。次いでオランダ7,160トンでこれは生鮮のパプリカ(ジャンボピーマン)が多い。その他シャロットや芽キャベツ、リーキ、トリフなどが主なEUからの輸入品である。しかしながら、EUからの野菜輸入は数量的にも金額的にも中国と比べるとかなり小さく総じて日本国内への影響はさほど大きくないといえる。

表Ⅰ-12 日本の輸入品目(2005年)



2 EUの青果物共通市場制度について


1.歴史的経緯と概要
 青果物に対するEUの制度は、青果物共通市場制度(Common organization of the market in fruit and vegetables, CMO)と呼ばれており、生鮮青果物のための制度が1962年に、加工用青果物に対する制度が1968年に創設された。当時はEUの共通農業政策が発足してまもなくの時期であり、農産物の域内自由流通を図るための単一市場の実現や,農業生産力及び農家の所得の向上を目的とした当時の政策に合致したものであった。

 しかし、1996年には、GATTウルグライラウンドの合意を踏まえ、生産者団体(Producer Organisation)の役割の強化、相殺課徴金(Countervailing charge)に代えて参入価格システム(Entry Price System)の導入が行われるとともに、介入措置の利用制限、品質向上への補助導入といった大幅な制度改革が行われた。また、2000年末には、特に輸出補助金の管理や、加工用青果物に対する措置について修正が加えられた。

 これらの変更により現在の制度は
1.青果物の共通の規格の設定
2.生産者団体による供給サイドの統合、事業プログラムによる各種支援、青果物に対する介入措置(市場隔離措置及びそれに付随する補償)による生産者への支援
3.参入価格制度、関税割当、セーフガード措置による国境保護措置
4.輸出補助金
5.青果物加工品に対しての生産助成金と加工用青果物に対する最低価格保証
を柱として成り立っている。
 
 しかし主な政策の枠組みはほぼ創設された当時のままとなっており、後述のように改革された共通農業政策やWTOルールとの不適合性、域内での需給バランスの不均衡、より強く求められるようになった環境や消費者のニーズに対する配慮に必ずしも応えることができないとの認識から、制度の大幅な見直しが予定されている。


2.対象となる品目
 制度がカバーする品目は貿易統計で利用されるCNコードにより指定されており、表2-1のとおりである。EUでは野菜及び果実の両方が同じ制度の対象となっている。

表Ⅱ-1 制度の対象となる青果物


3.生鮮青果物を対象とする制度の概要
(1) 青果物に対する規格
 野菜についてはアーティチョーク、アスパラガス、なす、アボカド、えんどうまめ、芽キャベツ、キャベツ、にんじん、カリフラワー、セルリー、チコリー、ズッキーニ、きゅうり、にんにく、リーキ、レタス、たまねぎ、いんげんまめ、ほうれんそう、ピーマン、トマトについてCMO付属表1によって規格が定められている。この規格は域内での流通や域外と貿易に係る産品に対して強制力を持つ規格であって、国連ヨーロッパ経済委員会(UN/ECE)の定めた規格と整合性を持つものであるとされており、事実、内容はほとんど一致している。ただしこの規格は加工向原料や、供給不足時には適用されない。

 代表的な規格には品質規定(最低基準と3段階程度の等級区分)、サイズ規定、許容範囲、包装も含めた外観の規定、表示(出荷者、内容、産地、等級等)に関する規定が定められている。

(2) 生産者団体(Producer organisations)
a)生産者団体の概要
 生産者団体の目的は、供給側の集団化を図ることによって、集中化した需要者側に対抗して、生産者の地位を高めることを目的としたものである。

 生産者団体は加盟国政府によって承認された法人である必要があり、承認されるに当たっての最低限の条件が定められている。条件にはメンバーの数や取引金額の多寡が含まれる。団体(柑橘の団体を除く)に最低必要な生産者数は国によって5~40まで差があり、最低取引金額にも10万ユーロ(1400万円)~300万ユーロ(4億2000万円)と差がある。一般にギリシャ、イタリア等の地中海沿岸諸国は必要な生産者数が多く、最低取引金額が少なくなっている傾向がある。

 なお、新規に登録された団体(承認期間中団体、pre-recognised organisation)は、移行期の援助として5年間、資金援助を加盟国から受けることができる。また、加盟国の生産量のうち、生産者団体からの出荷量が15%未満であって、青果物の生産が全農産物の生産の15%以上占めている国については、更にEU委員会から援助の上乗せを受けることができる。

 生産者が生産者団体に属するときは、青果物(果実及び野菜)、果実、野菜、加工用産品、柑橘、ナッツ、きのこのいずれかのタイプの団体に属する事になる。なお、流通専門業者は対象とならない。

 生産者団体の加盟者は、団体によって採用された規則を守り、いくつかの例外を除いて販売物を全て当該団体を通じて販売し、また当該団体の事業資金(Operational Funds)の一部を負担しなければならない。

 所属する生産者団体を通さずに販売できる例外措置については、消費者への直売(総量の20%または25%以内)及び他の生産者団体を通じて販売する場合に限定されている。

 生産者団体の数はEU15カ国ベースで1327団体であるが、生産者団体を通じて出荷される農産物は全体の40%(金額ベース)を占めるに過ぎないうえ、加盟国間でバラツキが見られる。また生産者団体1団体の平均の出荷額は加盟国間で大幅な差がある。生産者団体のタイプでは数の多いものから青果物(果実及び野菜)、果実、野菜の順となっている。

表Ⅱ-2 各国の生産者団体数(1999年)



グラフⅡ-1 生産者団体の類型(200-2002年平均、スペインを除くEU14ヶ国)

ⅰ.果実及び野菜、ⅱ.果実、ⅲ.野菜、ⅳ.加工向青果物、ⅴ.かんきつ、ⅵ.ナッツ類、ⅶ.きのこ類
資料:“Commission Staff Working Document” September 2004, SEC(2004)1120, Analysis of the common market organisation in fruit and vegetables

b)事業資金(Operational Funds)について
 事業資金は、市場隔離措置や事業プログラムに利用される。また、事業資金の負担割合はEUと生産者で50:50となっている。この比率は移行期間中生産者団体や団体間にまたがる活動に対してはEUの負担率を60%まで引き上げることができる。ただし、EUからの資金は生産者団体を通じて出荷される品目の金額の4.1%を超えない額という制限がついている。

 生産者団体によって賄われる事業資金は、生産者団体を通じて販売された品目の価額や数量に応じて生産者から徴収される。

 事業資金は次に述べる事業プログラムの財源として利用されるが、市場隔離措置の補償の上乗せや、CMOの付属表2にのっていない品目の市場隔離措置の補償に対しても利用することができる。市場隔離に利用できる資金の割合は生産者団体に認められた資金のうち、団体設立1年目は60%、2年目55%、3年目50%、4年目45%、5年目40%、6年目以降は30%までとされている。

c)事業プログラム(Operational programmes)
 このプログラムは、生産者団体により事業資金を利用して行われるプログラムであり、生産者の農産物の品質や価値を向上させ、環境に優しい農法を推奨し、植物防疫上の基準や規制を遵守することを促進させることが目的とされている。プログラムには、必ず供給や価格管理、流通プログラム、品質向上、環境保護的な手段の促進などを含まなければならないが、生産者団体はこれらのトピックのうち集中したいものを選択することができる。プログラム期間は最低3年間、最長5年間必要とされている。

 生産者団体や生産者団体協会は加盟国に対して、団体や協会が設定した規則を団体に加盟していない生産者に対しても適用するよう求めることができる。

 事業プログラムの内容は表2-3のとおりの内容である。
 上記の表によって明らかなとおり、事業プログラムは、生産者団体に対する一般的な援助の他に、環境保全的な活動、品質向上に資する活動、施設の更新、品目の需要促進にかかる活動となっている。またこれらの資金については前払いが可能とされている。

表Ⅱ-3 事業プログラムの内容

 事業プログラムの支出内訳はグラフ2-2のとおりである。年によってバラツキがあるが、生産支援(防除、灌漑、機械、温室、研究等)、流通技術支援(土地、不動産、貯蔵庫、包装、流通、研究等)に対する支出が大きい。

グラフⅡ-2 事業資金の活動向け支出割合(2001-2003年)

(3) 連携組織と組織間の取り決め(Inter-trade organisations and agreements)
 連携組織とは、CMOが対象とする品目について、生産、流通、貿易、加工など幅広い関係者を包括した組織である。この組織が行う活動については、消費者団体の利益も鑑みたものである必要があり、活動内容についてはEU委員会に通報する義務がある。また連携組織自体は直接生産・加工・流通に携わる事を禁じられている。この組織は川上から川下まで大きなシェアをもっていることが必要であるため、現在のところフランスのInterfel(生鮮果実・野菜),Anifelt(加工用果実・野菜)、スペインのAipema,Ailimpo,Intercitrus(全て果実関係)ギリシャのEdova(果実)の6団体のみが承認されている。

 この組織によって定められる組織間の取り決めについては、加盟国の承認により、当該分野に関連する関係者全てに強制力を発揮でき、関連する活動のための経費も徴収することができる。
 
Interfelの例(ホームページによる)
 1975年に承認された、生鮮青果物の生産及び流通(小売を含む)関係機関の利益を代表する組織である。
原則
(1) 決定は全ての分野の代表者の参加を得て行われる
(2) 生産と流通にそれぞれ等しく議決権を与えている
(3) 満場一致の原則により、少数派にも配慮する

役割
 > 異なる利害を持つ組織間での議論を発展させ、青果物の品質向上のための組織間取り決めを提供する
 > 消費者の要求への対応を推進する
 > 域内及び域外市場において、数量の安定性や品質水準の観点において向上させ、販売促進活動を行うことによって経営改善や事業の発展に資する
 > 食品の安全性について特にトレーサビリティーを通じて強化する
 > 産業全体に共通する利益を代弁する

活動内容
 > 青果物市場を発展させるため、大規模な消費促進プログラムによって消費拡大を行う
 > 輸出市場でのシェア拡大
 > 組織間取り決めの締結。それにより生産物やサービスの質の向上を保障するとともに、業種の異なる利害関係者(筆者注:生産者と流通関係者)の間で協調のためのルールを策定(筆者注:ルールの内容は不明であるが、これにより小売業者が一方的にbuying powerを発揮することがないよう制限しているものと思われる)
 > 調査研究や訓練の促進
 > 消費者に対する啓蒙活動

構成員
生産者側:FELCOOP(フランス青果物協同組合連合会)、FNPF(フランス果実生産者連盟)、FNPL(フランス野菜生産者連盟)、8つの地域代表
流 通 側:ANEEFEL(青果物出荷・輸出協会)、UNCGFL(青果物卸売同盟)、UNFD(青果物小売業協会同盟)、FCD(スーパーマーケットチェーン連盟)
協力組織:AFIDEM(フランス加工兼用青果物組織間協会)、BIN(ウォールナッツ組織間協会)、BIK(キウィ組織間協会)、CSIF/FFIFL(フランス青果物輸入同盟/フランス青果物輸入連盟)、ANIAIL(にんにく組織間協会)

(4) 介入メカニズム
 青果物は、生鮮品であり貯蔵が難しいという性質を持つ。このため、供給過剰の時には隔離措置により供給を調整することによって需給バランスを調整する必要性から、隔離措置を行う介入メカニズムが定められている。

 対象品目は青果物共通市場制度に関するCMO規則付属表2の中で定められているとおり、果実を含めて16品目が対象とされている。カリフラワー、トマト、なす、アプリコット、もも、ネクタリン、レモン、西洋なし、ぶどう、りんご、みかん(satsuma)、マンダリン、クレメンタイン(柑橘の一種)、オレンジ、メロン、すいかである。トマト以外は一定の規格(class2)を満たすものでないと補償の対象とならない。

 この措置は短期的に供給を安定させるための措置であり、市場の(販売先の)代替となってはいけないとの記述が法律にあるが、この規定は96年の改定以前に、隔離措置を目的とした出荷が行われたこと(モラルハザード)に対する反省からきたものであると思われる。

 生産者団体は加盟国に市場隔離を行う前に通知を行い、通知を受けた加盟国は期限内に文書や実際の調査を通じて事前にチェックを行う。これは対象数量全ての確認を行わなければならないが、社会福祉施設や給食以外の用途として学校に配布される場合のみは10%の確認を行えばよいとされている。また同時に、加盟国は生産者団体に属していない生産者にも隔離措置を行うことによって利益を受けることができるよう担保しなければならない。この確認作業が行われた生産者団体に対して隔離の許可がなされる。

 隔離された農産物は、無料で社会福祉施設に配付する、蒸留原料として使用する、飼料用あるいは非食用用途に利用する、環境に負荷のない方法で廃棄する等のいずれかの方法で処理される。

 市場隔離される数量についてはそれぞれの品目ごとに数量制限が課せられている。隔離の対象数量は、柑橘については生産者団体から出荷される全数量の5%、りんごやなしは8.5%、その他品目の場合は10%に限定される。この制限は1997年に大幅に引き下げられたものである。

 市場隔離された生産物への補償については一律の単価が定められているが、生産者団体の事業資金を利用して単価を上乗せすることもできる。基本の補償単価及び上乗せ単価の上限は表2-4のとおりである。更に社会福祉施設等への配布については、輸送費への補助が表2-5のとおり行われるとともに、選別・包装作業が発生した場合、1トン当たり132ユーロ(18,480円)の一律補助が追加される。

表Ⅱ-4 EUによる市場隔離措置に対する補償額単価(ユーロ/100kg、円)



表Ⅱ-5 EUによる市場隔離措置に対する輸送費補助単価(ユーロ/トン)

 生産者団体に属していない生産者も隔離措置に対する補償を請求することができる。この場合、補償単価は10%低く設定されるとともに、その生産者が販売している数量の10%が対象数量の上限となる。その際には生産者は、生産者団体に管理コストに見合う金額も支払わなければならない。

(5) 貿易
 EUは青果物についても各種国境措置を講じている。
 ライセンス制度による貿易業者及び輸出入数量の管理をEU委員会が行うとともに、輸入については参入価格制度によりコントロールを行っている。その他にも、一定の輸入数量を超えたとき発動する特別セーフガードや、いくつかの品目に対して関税割当数量の設定を行っている。

 輸出については、一部品目について輸出払戻金制度(輸出補助金)を利用する事ができる。

a)参入価格システム
 対象品目は生鮮の青果物であり、なす、ズッキーニ、きゅうり、トマト、りんご、アプリコット、さくらんぼ、もも及びネクタリン、西洋なし、プラム(すもも)、ぶどう、クレメンタイン(柑橘の一種)、レモン、マンダリン、オレンジである。

図Ⅱ-3 参入価格システムの仕組み

 システムの仕組みは、ある製品の輸入価格(CIF)が参入価格(entry prices)より高い場合には通常と同じように関税(tariff、従価税)が課せられるが、輸入価格(CIF)が参入価格以下で参入価格の92%より高い場合は、関税の他に輸入価格(CIF)と参入価格の差を埋めるための関税相当額(tariff equivalent)が課せられる。参入価格の92%より更に低い場合は最大関税相当額(MTE, maximum tariff equivalent))が課せられ、事実上輸入ができなくなる。これらのことから事実上参入価格が輸入青果物の最低価格となるものである。

 なお、参入価格や関税相当額はGATTの削減対象となっている。
 関税、参入価格、最大関税相当額は季節により変化する。多くの品目では参入価格は域内生産者による供給が行われているときのみ適用されている。最大関税相当額は輸入をシャットアウトするに充分なほど高い水準である。

 GATTウルグアイラウンド合意後の主要な変化は、比較される輸入価格が、一国全体の輸入価格ではなく、個別の出荷ベースによる比較(Consignment base)が可能になったことである。これにより旧システムの際起きていた相殺賦課金(countervailing charges)のように、ある国からの品目全てが罰則の対象とされてしまい、高品質、高価格の輸入も一括して罰則の対象とされてしまうような事態を防ぐことができるようになった。
 貿易関係者は参入価格と輸入価格の比較に当たって3つの手法のうち1つを選択する事ができる。

 *輸出国のFOB価格を利用する方法
   輸出国でのFOB価格に加え、EU国境までの輸送コスト(フレートや保険)を加えたもの。正確な価格は通関時に判明することになる。ただし、その価格が標準輸入価額より8%以上高ければ、申請者は保証金を納める必要がある。保証金の額は標準輸入価額を選択したときに支払うべき関税額と同額となる。

 *概算価額を利用する方法(英国ではMethod4(b)と呼ばれる方法)
   申請者は輸入時に保証金を納めることによって、通関を行うことができる。保証金の額はやはり標準輸入価額を選択したときに支払うべき関税額と同額である。その後9割の数量の販売が終わった時点(3ヶ月以内)で、販売伝票のコピーを送ることによって精算を行うことができる。

 *標準輸入価額を利用する方法
 標準輸入価額SIVはEU域内の輸入市場において収集された代表価格(representive prices)の加重平均によって計算される。代表価格は加盟国によって輸入業者-卸売業者、卸売業者-小売業者のそれぞれの段階で区分されて収集されるが、代表価格はデータが収集された市場に応じて、流通経費を考慮して、8~15%低い価格で設定される。例えば、卸売業者-小売業者の場合、価格は9%を差し引かれる等の調整が行われる。また、参入価格から固定的に5ユーロ/100kgが差し引かれている。標準輸入価額は毎日官報によって告示されている。

 なお、この方法では、従来の参考価格システム(reference price system)と同じく、参入価格と標準輸入価額SIVとの比較については一国の輸入全ての価格と比べる仕組みとなっている。
 (HM Revenue & Customs資料による)

表Ⅱ-6 標準輸入価額が計算される期間(野菜のみ抜粋)



表Ⅱ-7 代表価格を算出するための市場一覧

b)特別セーフガード
 参入価格制度により、輸入価格が参入価格を下回った際に追加的な関税が課せられるが、そのほかにも特別セーフガード措置として、定められた期間中の輸入数量が一定数量を超えたときに、最大関税相当額が課せられる。対象としては表2-8の品目及び期間のとおりである。

表Ⅱ-8 特別セーフガードの対象品目、期間、輸入数量レベルの一覧表(野菜のみ抜粋)

c)関税割当
 いくつかの品目については、関税割当数量(もしくはそれと同等の働きをする割当数量)が設定されている。例えばモロッコからのトマトの輸入については、無税の関税割当数量が月別に設定されている。

 関税割当数量の配分方法は1先着順、2請求のあった数量の比率割、3従前の貿易量に基づく、との方法があるが、例としてあげたモロッコからのトマト輸入については先着順に割当が行われている。

 青果物共通市場制度は輸入青果物が域内市場をかく乱しているときに関税割当を設定できるとしており、中国からのにんにくの輸入に対して月1,000トンの関税割当数量が設定された実績があった。

d)輸出払戻金
 生鮮青果物については、トマト、殻つきアーモンド、ヘーゼルナッツ及びハシバミの実、ウォルナッツ、オレンジ、マンダリン、クレメンタイン、レモン及びライム、ぶどう、りんご、もも及びネクタリンが輸出払戻金の対象となっている。
 輸出払戻金は輸出ライセンスに基づき次の3つの仕組みにより支払われる。

 A1:事前払戻金固定型の標準システム:払戻金は輸出ライセンスの発行日に基づく。
 A2:事前払戻金固定型の特別システム:払戻金はあらかじめ設定された数量・金額に基づく。
 B:事前に払戻金を固定しないシステム

e)特恵的貿易慣行
 代表的なものとしてはEuro-Mediterranean Partnershipがあり、地中海沿岸国10カ国(アルジェリア、エジプト、イスラエル、ヨルダン、レバノン、モロッコ、パレスチナ、シリア、チュニジア、トルコ)と条約を締結している。
 この中で青果物に関して、無関税での輸入枠や、低い参入価格等の特恵的な待遇を対象国に提供している。

f)参入価格制度を始めとする各種貿易措置がEU野菜流通に与える影響について
 参入価格制度の前身である相殺課徴金制度は、EU域外国からの無秩序な輸出により輸入単価が下落した結果、相殺課徴金が課せられることによって一国全ての輸出を不可能とする働きがあった。そのため輸出側は管理を強めて相殺課徴金の発動をなくし、保護されたシステムの中で利潤を最大化させるように働いていた。

 参入価格制度によって、出荷単位ごとの価格の計算が可能になったことから、この問題については解消されることとなった。しかし、特別セーフガード措置により設定されたトリガー数量や、特恵的待遇によって一部途上国に対して与えられた関税割当数量を超過する事により課せられる追加課税を避ける必要があることから、品目や輸出国によっては依然として供給管理を行う必要が生じている。

 Cioff氏及びdell’Aquila氏の論文において、輸入が行われた日(標準輸入価額が計算された日)と参考価格を下回った日を比較されているが、一時期を除いて標準輸入価額が参考価格を下回った日は少なく、輸出側に貿易量をコントロールし、最大関税相当額MTEを避ける能力があることを示している。

 また、輸出国は輸出した品目の市場価格が参入価格を下回らないようにするため、EUの市場には高品質のものを販売しなければならないとも指摘している。

 その他、Chemnitz氏及びGrethe氏による別の論文では、フランスの植民地であった歴史的経緯から、フランスと強い関係を有し、ヨーロッパ=地中海諸国間の合意(Euro-Mediterranean Agreement, 後述)で特別なアクセスを持つモロッコからのトマト輸入の状況について分析されている。

 この論文中の表によると、一般の関税が5月から10月まで高くなっている一方、参入価格は同期間に低く設定されているという、やや複雑な実態が見て取れる。

 この実態について論文によれば、夏季はEU域内ではトマト生産のシーズンであることから、EU域内の生産物の価格が安く、モロッコ等の域外国が比較優位性を発揮できないため、参入価格が低く設定されているとしている。反対に従価税である関税が高めに設定されていることから、高単価の輸入品に対しては不利に働くことになる。

 一方で冬季のトマト輸入に対しては参入価格は高く設定されており、気候条件から生産の比較優位性を持ったモロッコ産トマトに対して、安値で輸出することを難しくするとともに、数量制限に基づく特別セーフガード措置、関税割当数量による数量の制限、低い従価税等によって輸出国は高品質・高単価のトマトを輸出し、利潤を上げるとのインセンティブが働くことになる。

 すなわち、参入価格制度によって、EU域内産の普及的な価格で販売されるトマトが優勢な夏季の市場と、高価格で販売されるスペイン産ハウストマトに加え、廉価な輸入品の輸入を防ぎつつ、限定された数量の高品質のモロッコ産トマトが流通する冬季の市場が別々に形成されているといえる。

 以上のように、EUの野菜貿易は参入価格制度や特別セーフガードにより強い管理下に置かれており、品目にもよるが、EU域内市場を保護するための巧妙な仕組みとなっている。

表Ⅱ-9 モロッコからのトマト輸入における標準輸入価額の計算回数と参入価格との比較


表Ⅱ-10 トマト輸入における関税、参入価格、関税割当数量等の例(2004年の例)

 

4.加工用青果物を対象とする制度の概要
 いくつかの加工用青果物は、特に地中海沿岸諸国にとって重要な産品であり、その重要性とそれら諸国での価格が第三国の価格と比較して高値である事実を鑑みて、いくつかの対策が講じられている。原料となる青果物生産に対する補助や、安定的な供給を保証する契約に基づいた加工品の生産補助と、それと引き換えとなる原料作物に対しての最低価格を保証する制度が存在する。

(1) 生産者団体に対する原料用青果物生産補助
 補助は加工用トマト、加工用もも、加工用洋なし(William & Rocha種)を供給する生産者団体が対象である。このシステムは生産者団体と加工業者との契約に基づいて行われるが、契約書には数量、供給加工業者への供給スケジュール、生産者団体への支払価格が含まれている必要がある。

 生産者団体に対する補助額は表2-11のとおりであり、生産者団体からの要求があったときには加盟国の関係機関から直接生産者団体に支払われるが、対象となるには、定められた品質基準を満たしている必要がある。

表Ⅱ-11 加工用青果物生産に対する補助単価

資料:Council Regulation(EC)No 2201/96 of 28 October 1996, on the common
organization of the markets in processed fruit and vegetable products (各
種修正反映版)

(2) 最低生産者価格とリンクした青果物加工品生産補助
 このシステムはプルーン、干しいちじく、干しぶどうを製造し、原料となる青果物の生産者に対する最低生産者価格を保障している製造業者が対象となる。最低価格は毎年変更されるが、シーズン前には決定される。最低価格の計算は、前年の最低価格、直近の価格の動き、需要先のニーズ等を踏まえて決定される。

 加工品の生産補助については、域内の生産者に対する最低価格と主要輸出国内での原料用青果物の価格との差額を超えないこととされている。

(3) 生産の制限を行う境界システム(threshold)
 加工用トマト、加工用もも、西洋なしには境界システム(threshold)という生産の制限が存在する。EU全体での境界システムの他、加盟国単位での境界システムも導入されており、基準を超えると援助額が減額される(表2-12参照)。トマトについては加盟国単価に関して若干の柔軟性が与えられており、トマトの範囲であれば、剥皮トマトとそれ以外に分ける事ができる。

(4) その他の補助について
 > 干しぶどう用ぶどう(currants, sultana, Moscatel種)の生産については、面積あたりで固定的な補助を行っている。最大生産可能面積は53,000haとされており、この面積を超過すると補助額が減額される仕組みとなっている。
 > 出荷期間の最後の2ヶ月間において、貯蔵機関によって干しぶどう(currants, sultana種を利用したもの)や干しいちじくの買い入れを行うことができる。干しぶどうの出荷期間は9月から8月まで、干しいちじくの出荷期間は7月から6月までとなっている。
 > 特定の地域において非常に重要な作物であるホワイトアスパラガスについて、第三国との競争に対応するため、特定の手段をとることができる。その手段とは、加工適性の向上、品質向上、コスト削減のための技術的な改良、新製品・新用途の開発、市場調査、消費拡大に関連した活動に対する補助を行うことである。面積あたり固定的な補助を行うことも可能であり、500ユーロ/haで9,000haが上限とされている。
 > ぶどうのフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)耐性品種への転換に対する助成が行われている。
 > 加工用柑橘生産についての各種補助が存在する。

表Ⅱ-12 各品目ごとの加工品生産限度(threshold, 原料換算)


3 生鮮及び加工向け青果物に関するEUの予算
 EUの青果物関連予算は米国のアタッシェのレポートによれば表3-1のとおりとなっている。

表Ⅲ-1 EUの青果物関連予算の内訳

 青果物関連の予算はEUの農業関連予算の3.4%を占めているとされている。2004年に比べ2005年は予算枠が12%増加しており、この増加分のうち半分はナッツ類生産者に対する新たな支援策にむけられる。その他の増加分は生産者団体への事業資金となっており、各種プログラムの充実を図るものと思われる。

 このほかにもEUの青果物生産・流通事業者は内部市場及び域外国に対する販売促進援助や、地域開発政策に関連する補助も受け取る事ができるとされている。


4 現行の青果物の共通市場制度(CMO)の問題点と今後の改革に向けての動き
 EU委員会は2006年5月18日付でEUの青果物の共通市場制度(以下CMO)について、「生鮮及び加工向け青果物産業のための共通市場制度の改革に向けて」“Towards a reform of the common market organisation for the fresh and processed fruit and vegetable sectors”European Commission 18 May 2006という文書を発表した。

 この文書は今後想定される制度改革に対する影響評価作業についての協議文書と位置づけられており、2004年から始まった制度改革の議論の結果を盛り込むとともに、関係者に対してEUが想定しているいくつかの選択肢に対して、意見を求めるものとなっている。なお、この協議に対して、各業界の代表者からなる横断的グループは2006年10月にレポートを提出するとしている。当該レポートを踏まえ、2006年中にEU委員会は正式な改革案を提示したいとのことである。

 文書の中では、現在のCMOを取り巻く情勢を分析した上で今後採り得る選択肢を提案しているので、その概要を紹介する。

1.現行の青果物の共通市場制度を取り巻く情勢
(1) 消費の減退
 青果物の摂取の重要性は一般に認められているにもかかわらず、ヨーロッパでの消費は減少している。消費水準はWHOが推奨する水準以下であり、更に低下するとの専門家予測もある。健康の観点から望ましいレベルに消費を拡大する事が重要である。

(2) 供給サイドと需要サイドのパワーバランスの不均衡
 大規模小売業を始めとする川下の集中化が進んでいる。このため、小売店の購買力は強化されている。一方で生産者団体の供給量に占めるシェアは主要国においては30~50%程度が多く、期待されていた60%水準よりも低水準であり、さらに低下する可能性が指摘されている。

図Ⅳ-1 川下産業の集中化

資料:“Major features of the sector of fresh fruits and vegetables in the EU”ヨーロッパ委員会
注:手前の棒グラフは廉価販売店のシェア、奥の棒グラフは大規模小売チェーン店のシェア
  DK:デンマーク、FI:フィンランド、FR:フランス、DE:ドイツ、IT:イタリア、NL:オランダ、
  SP:スペイン、SE:スウェーデン、UK:英国、PL:ポーランド、CZ:チェコ

(3) 生産者団体によるカバー率が限定的であること
 生産者団体に加入していない、もしくは加入できない生産者が多数存在する。例えば主要産地以外の生産者、都市近郊生産者、遠隔地の生産者、有機農産物生産者、直販を行っている生産者、市場に直接出荷している生産者などである。

 またいくつかの加盟国では農業生産において園芸部門が大きな役割を果たしているにもかかわらず生産者団体が発達しておらず、多くの生産者がCMOの支持の枠組みから外れざるを得ない実態がある。

(4) 新共通農業政策やWTOとの適合性
 CAP改革の中で導入された直接支払いは、最低限の収入保証を農家に与える一方、市場原理を働かせるというものであった。しかし現在、新しい共通農業政策の下では、一般的には青果物の生産者は直接支払いの対象とされていない一方で、青果物の生産者を潜在的な競争から保護するため、直接支払いを受けている土地については、青果物を作付することが禁じられている。(ただし、直接支払いのオプションの1つで地域別支払いを選択した場合は、野菜作付農家を支払いに含めることができる。地域別支払とは国別に割り当てられた予算を地域の制度の対象となる農地の総面積で割ることによって統一的な単価を算出し、一律に支払いを行う方法)

 単一直接支払いからの果実・野菜生産者の除外は公正性の観点からも疑問が提起されており、制度の複雑性を増加させている。(筆者注:WTOの米国綿花に関しての上級パネルで、直接支払いの対象から野菜を除くことについて市場歪曲的であるとの判断が出たことによって、将来提訴される危険性を排除する必要もあると思われる。)

 更に地域開発援助がCAPの主要な政策手段となってきており、この地域開発援助と青果物の共通市場制度との整合性を図ることが重要である。

 また、現在のCMOは生産量、輸出量、隔離数量に基づいて補助が行われており、WTOの削減対象になっている。

(5) 短期的な危機(価格低迷)
 需要と供給のバランスの乱れにより、価格が再生産可能なコストを下回る事態が生じている場合がある。

 これに対して従来のCMOの手法(市場隔離措置)では部分的にしか対応できず、より適切な対応が求められている。特に生産者に対する収入補助の欠如や、近年行われた市場隔離措置に対する補償額の大幅削減は、より果実・野菜生産者に痛みを強いるものとなっている。

(6) 環境に与える影響
 環境保護的な対策は、現在の改革されたCAPよりも早くからCMOに含まれており、既に1996年より生産者団体の補助に対する条件とされていた。

 一方で、青果物産業が環境に負荷を与える可能性があることにも留意しなければならない。もとより大量の水資源の利用者であり、非効率的な灌漑システムにより水資源を浪費する場合がある。また、温室栽培やトンネル栽培等により石油燃料を消費し、農薬や窒素肥料の使用により土壌や地下水の汚染、更に農業者への健康被害を引き起こすこともある。

 通年供給や遠隔産地からの出荷などによりエネルギーを大量消費する傾向もあり、直接的な包装や輸送による環境負荷に加え、品種の単一化の進展による、生物資源の多様化に対する逆行も課題である。

 これらの懸念に対し、どのような環境措置を採用するか、どのようなターゲットに的を絞るかが重要である。

(7) 規格に対する疑問
 CMOが定める規格は国際規格と適合している。規格により市場での透明性が高まり、取引コストが軽減されている。また、規格により生産者は市場が求める生産物の基準をより明確に認識することができる。また近年は、味覚や栄養に関する基準も考慮に入れる例も出てきている。

 また更に、差別化を図ることを目的とした多様な規格の設定に対する要請も存在する。栄養的な基準を重視する消費者、直販を行う生産者、有機農業の生産者等によるものである。

 ただし一方で、現在の規格に対してより簡素化を図るべきという意見もある。

2.改革の方向性について
 制度改革のための選択肢や課題については次のような観点から検討が行われる見込みである。
 > 流通チャンネル間の各関係者に対して、より良い利益配分が行われるかどうか
 > CMOと地域開発政策との連携を深めることができるかどうか
 > CMOを改革されたCAPに適合させることができるかどうか
 > 園芸産業における短期的な危機の解決に資するかどうか
 > 栄養のバランスのとれた食生活を促進しつつ、果実・野菜の消費を促進できるかどうか
 > CMOと環境保護的な手法の連携ができるかどうか
 > 果実・野菜の生産・流通によって引き起こされる環境問題について、CMOがより良いアプローチを行えるかどうか
 > 規格の簡素化を行うとともに、規格が品質の向上や安定的な青果物産業の発展に資するよう導くことができるかどうか
 > 川上から川下までの協調関係について監視することができるかどうか


3.具体的な改革に関するオプション
 以上のような分析を踏まえ、今後の制度改革についてはそれぞれの観点において今後検討すべきいくつかの選択肢を示している。

表Ⅳ-1



(参考)EU加盟国一覧


 

資料
Council Regulation(EC)No 2200/96 of 28 October 1996, on the common organization of the market in fruit and vegetables(各種修正反映版)
Council Regulation(EC)No 2201/96 of 28 October 1996, on the common organization of the markets in processed fruit and vegetable products(各種修正反映版)
Commission Regulation(EC)No 3223/94 of 21 December 1994、“detailed rules for the application of the import arrangements for fruit and vegetables”(各種修正反映版)
Commission Regulation(EC)No 1555/96 of 30 July 1996, on rules of application for additional import duties on fruit and vegetables
Commission Regulation(EC)No 2190/96 of 14 November 1996, on detailed rules for implementing Courcil Regulation(EC)No 2200/96 as regards export refunds on fruit and vegetables(各種修正反映版)
Commission Regulation(EC)No 412/97 of 3 March 1997, laying down detailed rules for the application of Council Regulation(EC)No 2200/96 as regards the recognition of producer organizations(各種修正反映版)
Commission Regulation(EC)No 609/2001 of 28 March 2001, laying down detailed rules for the application of Council Regulation(EC)No 2200/96 as regards operational programmes, operational funds and Community financial assistance and repealing Regulation(EC)No 411/97
Commission Regulation(EC)No 103/2004 of 21 January 2004, laying down detailed rules for implementing Council Regulation(EC)No 2200/96 as regards intervention arrangements and market withdrawals in the fruit and vegetable sector
“The horticulture sector in the European Union”June 2003,European Commission
“Major features of the sector of fresh fruits and vegetables in the EU”, European Commission, presentation paper
“Report from the Commission to the Council”January 2001, COM(2001)36 final, on the state of implementation of Regulation(EC)No 2200/96 on the common organisation of the market in fruit and vegetables
“Report from the Commission to the Council and the European Parliament”August 2004, COM(2004)549 final, on the simplification of the common market organisation in fruit and vegetables
“Commission Staff Working Document”September 2004, SEC(2004)1120, Analysis of the common market organisation in fruit and vegetables
“Towards a reform of the common market organisation for the fresh and processed fruit and vegetable sectors”18 May 2006, European Commission
“Common organisation of fruit and vegetable markets”EU委員会ホームページ
“European Union, Agricultural situation, EU Fruit and Vegetables Regime 2001”May 2001, GAIN Report, USDA FAS
“EU-25, Agricultural Situation, EU Horticultural Budget-Financial Year 2005”March 2005, GAIN Report, USDA FAS
“The effects of trade policies for fresh fruit and vegetables of the European Union”2004, Antonio Cioff and Crescenzo dell’Aquila,(Food Policy 29(2004)169-185)
“EU Trade Preferences for Moroccan Tomato Exports-Who benefits?”August 2005, Christine Chemnitz and Harald Grethe
「フランス・オランダにおける生鮮野菜等の規格、検査及び認証制度について」平成9年度生鮮野菜国際規格対応実態調査報告書 野菜供給安定基金
“Valuation of imported goods for customs purposes, VAT and trade statistics”HM Revenue & Customs
“Customs Procedures and Terminology “Broadside Customs Clearance Agenc

 




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