調査情報部長 加藤信夫
調査情報部 調査情報第二課 田淵照子
平成18年2月19日から3月1日まで実施したラオスにおける農産物加工の実態調査を報告する。なお、誌面の都合上要約版として掲載し、当機構のホームページには、全体版を掲載するので、参照願いたい。
はじめに
インドシナ半島に属するラオス人民民主共和国は、内陸国で港がないため、物流面での制約があったことから、これまで農業地帯として注目されることはなかった。しかし、①ラオス始めミャンマー、カンボジア、ベトナム等がASEANに加盟したことによりインドシナ半島全体が一つの地域としての価値が出てきたこと、②タイを中心として周辺4カ国(ラオス、ベトナム、ミャンマー、カンボジア)が新たな地域協定(Ayeyawady-Chao
Phraya-Mekong Economic Cooperation Strategy:ACMECS)を結んだこと、③海上輸送が中心であったインドシナ半島の輸送形態が道路インフラの整備により陸上輸送への移行が進みつつあること、④2005年4月より日本はASEAN地域全体と国別に経済連携協定(EPA)交渉を開始したこと等により、今後日本国内においてもラオス農業に多少なりとも目を向けられるのではないかと考える。
その中でも、ラオスはメコン川とその支流流域に広がる平野、高低差・温度差のある自然環境が特色となっており、米作中心の伝統的な農業が行われていたが、最近では換金作物として安全な野菜生産を政策として進める動きがある。
このような背景の中、ラオスについては昨年7月に野菜の生産・流通事情に関する現地調査を実施し、「野菜情報」などで調査結果を公表したところ、この調査結果が 外部公的機関により評価され、同機関の依頼により平成18年2月から3月にかけてラオスにおける農産物加工の実態調査を行った。
具体的な依頼を受けた調査結果についての報告書は、3月末までに既に提出したところである(畜産については機構シンガポール事務所が調査担当)。この度、依頼先の了承のもと、調査結果の一部を当機構の情報誌でも紹介することとした。本稿ではこのうち野菜生産・加工と投資についての実態調査結果を報告する。
ラオス人民民主共和国の概要
国土面積: 23万6,800k㎡ 人口: 583万6,000人(2004年推計)
首都: ヴィエンチャン 言語: ラオ語
宗教: 仏教(上座部) 政体: 社会主義共和制
財政年度: 10月1日~9月30日
通貨: キープ(1米ドル=10,751キープ:2005年9月現在)
キャベツやコーヒーなどの外国輸出産品の多い南部のチャンパサック県農林事務所によると、パクセーから商品を外国へ出す場合のラオスの国境は、タイなら16号線上ヴァンタオ(Vang
Tao)-チョーン・メック(Chong Mek)、カンボジアなら13号線上ウンカム(Veun Kham)-ダンカラー(Dong Calor)にあるとのこと。ベトナムの支援により今年度中にセコン県→アタプー県→クェアントン県(べトナム)→キノン(Qui Nhon)港へ抜ける路線(16号線と考えられる。)が完成予定とのことであった。
通関手続きについては、インドシナ諸国の中でタイ、ラオス、ベトナムは国境で通関手続きが完了するが、タイを除き貨物は全量検査を受けることになっている。このため、通関手続きの簡素化目的として、メコン川流域国が「ワンストップ通関」制度を導入する動きがある。従来であれば、国境を越えるのに輸出国と輸入国で2回の通関手続を行わなければならないが、ワンストップ通関とは、これを1回で済ませるもので、実現すれば時間と経費の節約となる。
インドシナ諸国では、他国の車両が自国領域内に入ることを原則として認めていない。このため、互いに貨物を積み替えた後、それぞれ自国領域内に戻っていく。
こうした障害を排除するため、タイとラオスの両政府は、2004年3月から、予め登録された相手国の車両の自国内乗り入れを認める「トラックパスポート」制度を導入した。しかし、2005年3月現在、ラオスの登録台数はゼロであり(タイは131社、5,317台)、これは保有トラックを国際物流に充てる余裕がラオスの運送業者にないことが原因である。
さらに、ラオスとベトナムの国境(ランバオ・デンサワン)では、2005年7月以降、ワンストップ通関制度の施行が行われている。
2.ラオスにおける農業の一般概況
最近6年間の推移を見ると、米の生産量は220万トン~257万トンと年々上昇傾向で推移し、野菜の生産量も最近3年間で662.7千トン~774.5千トンと年々増加傾向にある。
また、各県の主要作物の生産量では、中部における米、とうもろこし、野菜・豆類の生産量が多い。しかし、農林省等からの情報によれば、商品作物としての野菜やコーヒー等はサバナケート県やチャンパサック県(ボロベン高原等)が有力とのことであった。
3.農畜産物の貿易
(1)輸出入事情
主なラオスの農畜産物輸入品目は、調製食料品、飲料、アルコール、食酢、たばこおよび製造たばこ代用品であり、過去4年間でその割合は、年々増加している。生鮮野菜・果実・穀物を含む植物性生産品も毎年輸入額は大きい。なお、前回の報告書において、農業局長や計画局次長からのヒアリングを基に、ラオスは制度上野菜の輸入は禁止されていると記載したところであるが、今回、農林省のPermanent
SecretaryであるParisak氏からのヒアリングによると、輸入は禁止されてはいないとのことであった。しかし、いずれにしてもラオスの国境貿易では、正式に国境を通っていないものもあることから、統計上の数値が必ずしも貿易の実態を反映しているわけではない。
(2)主要農産物の関税率
ラオスの主要農畜産品に係る関税率は表3-3のとおりである。生鮮野菜や果物、加工品に対しては、比較的高関税(30~40%)をかけている。ただし、表3-3は基本税率であり、ASEAN域内で今後決められる域内関税率については、現在調整中であり決定していない。
(3)タイからみた野菜および野菜製品の輸出入状況
参考に、野菜および加工品その他について輸出入量が大半を占めると推察されるタイ政府の統計により、タイ・ラオス間の野菜の輸出入状況を概説する。このタイの統計によれば、タイのラオスからの野菜輸入(=ラオスからタイへの野菜の輸出)については、年により差は大きいものの、キャベツ等あぶらな属、ばれいしょ、にんにく、しょうがが大部分を占める。
一方、タイのラオスへの野菜および野菜製品の輸出(=ラオスの野菜輸入)は、ばれいしょ等一部品目で生鮮の輸入がみられるものの、大部分を占める品目は、トマトジュースやトマトソース、塩蔵からしな等の加工野菜製品である。
4.野菜生産地チャンパサック県の概要
チャンパサック県は、サバナケート県に次いで2番目の米の生産地であるとともに、コーヒー、キャベツ、ばれいしょ、ハヤトウリのラオス最大の生産地である。
チャンパサック県北東部に位置する標高1,100mほどのボロベン高原の気候は、最低10℃、最高でも30℃と他地域に比べ冷涼であるため、雨期・乾期を問わず、野菜栽培が可能な利点を持つ。
野菜の主要産地は、パクセーから約50kmに位置するボロベン高原にあるパクソン郡である。パクセーからパクソン郡までの道路は舗装されていて、傾斜が緩やかで、ほぼ直線状に延びている。
パクソン郡では、キャベツ、ばれいしょ、ハヤトウリ、しょうがなどが栽培されている。パクソン郡はコーヒーの産地としても有名で、各農家の庭先では、小規模ではあるが栽培が行われている。また、パクソン郡からサラワン県のラオガーム郡にかけての地域では、スイートコーンが栽培されている。
パクソン郡だけで13の川があり、化学肥料が河川に流失しないよう指導しているため、水質は良い。また、県としても有機農法に着目しており、パトンポーン郡では、質の良い土壌に鶏糞、こうもりやねずみの糞等をまぜた有機肥料をつくり、ゴム農園に供給している。
表4-1では、チャンパサック県における主要作物の動向を記載する。
2001年から2005年の主要野菜の生産量については、主要輸出品であるキャベツの生産量が2001年11,235トンから2004年に22,800トンへ増加し、2005年の暫定値においても24,411トンと、この5年間で約2倍に増加している。輸出先であるタイでも、ラオスのボロベン高原のキャベツは、品質が良い(サクッと切れる)と評判であるとの情報もある。また、しょうがも大きく、味も良いと評判であるが、しょうがは年により生産と価格の変動が激しい品目であるため、しょうがのみを生産している農家はほとんどいない。
また、パクソン郡のほとんどの農家では、庭先でコーヒーを栽培しており、コーヒーはパクソン郡の主要な農産物となっている。野菜や果物、畜産は補助的な産物である。パクソン郡農林事務所から聞きとったパクソン郡における生産面積を表4-3に記載する。これによると主要輸出野菜でもあるキャベツの生産面積は1,271haと比較的大きい(注2 ))。
パクソン郡農林事務所によると、パクソン郡の農家の栽培面積は平均2~3ha/戸で、大きい農家だと20ha程とのことである。パクソン郡の農家所得は、380ドル/人・年である。
注2)ラオスでは、統計情報が未整備であるため、情報源の違いにより数値が異なる場合がある。よって、この場合もチャンパサック県事務所とパクソン郡事務所の数字に整合性はない。
5.市場での取引
概要は前報(「野菜情報 2005年12月号」)のとおりであり、市場であるタ・ラートでは、卸売りと小売りの区別はなく、大量に買い付ければ価格は安くなるものの、開設中は、いつでも卸売業者・消費者の区別なく、誰でも同一価格で購入することができる。チャンパサック県農林事務所によれば、タ・ラート等での取引方法は、表5-1のように3つに分類されるとのことであった。
野菜については、一般的に雨期の間は品薄傾向になるため市場価格が高くなり、乾期の間は比較的安くなる傾向がある。雨期の間に野菜類が市場で品薄になるのは、主として①農家の多くは雨期に米を栽培し、乾期にその裏作として野菜を栽培している、②雨期は気温が比較的高く、野菜栽培における病虫害のリスクが増す、といった理由により栽培農家が少なくなるためである。
6.ラオスの投資環境
(1)外国投資促進法
外国投資者へは2004年改正された「外国投資法」により、税制面、土地賃貸面等優遇措置があり、その制度は整いつつある。以下、外国投資法の概要である。
外国投資の窓口は、基本的には中央政府機関である投資促進委員会( CPI :Committee for Promotion and Management
of Investment)の管轄である。ただし、投資金額により、CPI管轄ではなく、県にある県投資委員会の管轄となることもあり、額は、県により異なる。参考に、チャンパサック県農林事務所によると、この県の場合200ドル以下であれば、県の管轄とのことであった。投資委員会への申請後は、関係機関へ調整後、最大45日以内で投資家へ外国投資ライセンスが発行されることとなる。その他の特記事項としては、外国投資期間は最大75年とのことであったが、土地の借用期限はラオス人からは20年、政府からは50年が最長である。社会主義国であるため、土地は国家所有であるが、その使用権は、個人・組織に認められている。チャンパサック県農林事務所により入手した説明文によると産業用の土地価格は表6-2のとおりである。チャンパサック県の場合、土地のコンセッション(土地使用権)価格は8~12ドル/haとのことであった。
(2)外国投資の動き
CPIから入手した資料によると、最近の分野別外国投資額と数の推移は表6-3のとおりである。
これによれば、農業分野の投資額は増加傾向といる。
また、国別に外国投資の状況を整理した表は表6-4のとおりである。
これによれば、タイが最大の投資国となっている。日本の投資額は増加傾向にあるものの、低位にとどまっている。
なお、表6-5は農産物加工等にかかる具体的な投資事例を整理したものである。
いわゆる「食品」加工と言われる投資で順調なのは、地域農民、農村社会の発展を目的として、ラオス人経営者による一村一品的な生産体系の中で、Fair
Trade Networkを使って付加価値を付した形で外国に輸出しているA社およびB社の事例くらいである。他の工場は、C社を始め原料調達や資金繰りで苦労しており、経営は行き詰っているか、停止状態にある。
他方、原料調達型の投資については、E社のポテトチップス用のばれいしょが順調な事例として挙げられる。これは、タイ資本による大規模な投資(センター・ピボット式スプリンクラー等)と技術導入、並びに地域農家へ生産を委託せず自社生産システムによる生産の効率化を図っている点が成功の鍵となっている。
また、新聞等の報道による最近の投資の動きとしては、タイ東北部の加工トマト会社がヴィエンチャン郊外にてペースト用トマトの栽培を始めたとのことがある。報道によると2005年に1,600haのプランテーション栽培から始め、各農家に2.0~2.5ライ(1ライ=0.16ha)の契約栽培を行うとのことである。2006-2007年乾期には計3,200ha、2007-2008年乾期には計4,800ha、2008-2009年乾期には計6,400haと拡大する予定でいる。
なお、FAOラオスの野菜・果樹の改善・発展プロジェクトのリーダーから、ラオスにおける農産品加工業への外国投資の状況等を聞き取りした。概要は以下のとおりである。
① ラオスの農業は、粗放的農業であり、農家に技術がないことから加工向けの原料調達が困難であることは事実である。
② 食品加工向きの果樹や野菜の投資は難しい。なぜなら、ラオスで缶詰等に加工する場合、缶はタイから持ってこなくてはならない。このような生産資材に加えて、缶・原料輸送費などを入れると、タイで生産するよりかえってコスト高になる。
したがって、品目としては、とうもろこし、さとうきび、ゴム等が投資に向く。
7.調査先の概要(野菜関係のみ)
(1)C社
①会社概要
C社は、ヴィエンチャン市から車で1.5時間弱の場所にあり、当地での工場立地には、非農林産物であるたけのこ、シュガーパーム(さとうやし)があり、土地や森も豊かである。会社は操業10年であり、土地は、4~5haですべて工場所有地となっている。
資本金は42.5万ドルで、タイ70%、ラオス30%(隣接する材木加工会社の社長:ラオスの農産物を海外に輸出することが目的)の内訳である。現在売上高は、120万ドル/年で、将来は2倍にしたいと考えているが、ここ5~6年は、累積で30万ドルの赤字を抱えている。
製品の出荷先は、英、仏、蘭、露向け70%、ベトナム、タイ向け27%(全てシュガーパーム)、残り3%がラオス国内向けである。
EUへ出荷していることもあり、GMPをラオスで初めて取得した。また、HACCPは申請中で本年取得予定である(農地を所有しているわけではないので、GAPの取得はない。)。GMPやHACCPは保健衛生省(Food
and Drug Department) へ申請し、品質チェックは会社内のQC部門が担当している。
②生産状況
工場の生産状況は以下のとおりである。(缶詰ベースの重量)
操業当初は、1種類100トン程度の生産であったが、7~8年かけて1,000トンほどに伸ばした。マンゴーは、ラオスに奨励品種が少ないため、タイの東北部ローイエット県、カラシン県から輸入し加工している。
シュガーパームを例にした、生産コスト内容は以下のとおりである。
原料価格 40~50%
缶代 25~30%
労賃 10%
輸送費 10% (タイのラッカバンというコンテナーヤードまで)
つまり、利益3~5%の薄利であり、大量生産しないと利益は上がらない。採算ベースの理想的な原料受入量は現在の2倍必要であり、会社の製造能力では5,000トンまで受入可能である。
③工場の概要
工場には大きい缶詰充填機が1台、小さいもの2台あるが、機械の能力は不明である。すべてタイから新規購入したものであり、価格は大きいもの4万ドル、小さいもので2.5万ドルである。工場内では、その他、煮詰めるための大型鍋、殺菌機があるが、集荷後の選別や製造前のナトリウム溶液での貯蔵は、工場外の庭で行われている。
殺菌は、たけのこは128度で22分間、シュガーパームは60分間行う。充填後は、隣の倉庫にて缶詰のラベルを手作業で貼る。
④農家との関係
当初は、ベビーコーンやしょうがの栽培を農家に委託したが、農家に技術的理解がなく、良いものが作れなかったとのことである。そこで、今は、農家が生産する必要のないたけのこやシュガーパームを利用して製品を作ることとした。
たけのこおよびシュガーパームの収穫等を行っている農家は約1万家族で、モン族が多く、焼畑や稲作に携わっている人もいれば、工場との契約のみの人もいる。会社では50万ドルが原料購入費に当てられており、1農家の1品目あたりの収入は500~1,000ドルとなっている。
原料は、約50村が1地域となり村長などの代表集荷人により集められ、これを集荷会社が集め工場に運ばれる。(よって会社は農家の実態を把握していない。)
特に最低価格は決めていないが、おおよその価格は表7-2のとおりである。
(1)-② バンコクにあるC社の出資会社
①会社概要
当社は、工場はタイのランパン県にあり、バンコクに本社をもつ。設立は1990年、資本金は4億バーツであり野菜や果物の缶詰や瓶詰め、レトルトカレー製造を業務としている。年間3億バーツの売上高を持つ。
製品の90%は、輸出しており、輸出先は、米国、EU、シンガポール、日本、豪州である。また、製造製品はスウィートコーン缶詰が主でその他、カレースープ、ライチ、りゅうがん、カレーペーストなどである。
なお工場は、GMP、HACCP、ISO他、EFSIS(欧州食品安全検査機関)の認証を受けている。
②ラオスへ出資した理由と経緯
当初のラオスへの投資の理由は、① 自然的資源が豊富、② 地理的にラオスがタイに近い(製品の輸送が便利)、③ タイとラオスの言語が似ているため通訳が不要の3点にあり、タイ農業協同組合省のサポートの下、ラオスの研修生を受け入れたり、専門家を派遣したり、種子の供与等を行った。しかし、この政府プロジェクトは失敗したため、企業としての取り組みも失敗、方針の転換を行い、ベビーコーンの委託栽培を行うこととした。
理論上、ベビーコーンは植えてから45日で収穫可能となり年間栽培できることから、年5回ほど栽培が可能である。長期ローンを組むことができないラオスでも、ベビーコーンならば、長期借り入れが必要ないことから、製造が可能と考えられた。しかし、5~6年の期間操業したものの、農家のインセンティブや技術面の理解が乏しかったことから、委託栽培も失敗し、現在のようにラオスの天然植物であるたけのこやシュガーパームを単に収穫してそれを原料として加工する方法に転換した。
③今後の可能性
ラオスでの工場の再生産を確保するため規模拡大の必要性に迫られているが、資金調達が困難なため、このまま経営を継続するかどうかの岐路に立っている。ラオスには、金融面、制度面、生産面等様々な問題があり、資金はすべて自己資金で賄う覚悟が必要である。
しかし、タイは製品の原料が足りないことから、良いものができれば受け入れる体制にある。なおラオスからタイへ輸出する際には、「One Way Free
Trade」として、ベビーコーン、スイートコーン、飼料用とうもろこし、大豆、油料専用種子、ばれいしょ、カシューナッツ、紙パーム専用のユーカリの8品目が関税0%となっている。
(2)TANG Freres
①会社概要
ラオス初のスーパーマーケットとして、2004年12月にオープンした。概要は前報のとおりであるが、取り扱い製品は、生鮮では、肉類(豚肉、牛肉、鶏肉)、野菜、果物(年間オレンジ、マンゴーなどがある)、魚、その他、乾物(インスタント乾麺)調味料、飲み物、乳製品、日用雑貨品を売っている。また、ラオスの食品加工会社であるA社のワインやジャムも扱っている。その中でも、売れ行きが良いものは、豚肉、乾麺、調味料や飲み物である。
豚肉などの肉類はラオス産、野菜もほぼラオス産であり、果物は輸入と国産が半々である。日用品を含めた全体では、国産の割合は20%ほどであった。
スーパー等の部門の所長の考えでは、ヴィエンチャンのスーパー経営は将来性はあるものの、他の事業とジョイントする方が成功するとのことであった。理由は、輸入関税、所得税が高いためである。ちなみに、果樹、野菜は30%、缶詰は40%の関税がかかる。AFTAでは、ラオスは2008年から段階的に関税を引き下げ2015年以降は自由化されることになっているが、どの品目が撤廃されるかはわからない。今後については、関税が高いので将来が見えてこない、厳しい状況にあるとのことであった。
②TANG Freresの原料調達方法と価格
TANG Freresでは、同じ建物内にある会場ITECCでイベント等あるとき(毎月1回、10日間程度)は、多く買付け、そうでないときは少なく買い付けるなどをして、売り上げを分析して商品のロスが少なくなるよう原料調達を行っている。野菜などの生鮮品の買い付けは、原料チームが回って調査して、村の仲買人から買い付けた集荷段階のミドルマンが選抜したものを買い、不ぞろい品を除くことによってコストダウンを図っている。野菜のミドルマンは2人(商人)であり、小規模である(従業員がいるかどうかもわからない。)
買い付けに当たっては、毎日事前に価格を確認して買っている。
(3)D社
概要は前報において缶詰工場として報告したとおりであるが、今回の調査では操業を停止中とのことであった。
製品製造に必要なベビーコーンは2,000ha(500ha4回生産)であったが、試験栽培として50ha分を確保したものの、20ha分の原料しか集まらなかった。
今後は他の地域で、現金収入の少ないところ(ボリカムサイ県)を狙い、郡を通さず直接農家と契約する方向を検討している。現在(2006年2月)、農林省へ計画を申請中である。
将来は、ラオスから直接バンコク経由で缶詰を輸出することを考えている。
(4)E社 (ボロベン高原にあるタイ資本のばれいしょ生産輸出会社)
①会社概要
E社は、タイ資本100%、資本金800万ドルの1990年設立の会社である。始め、1,300haの土地の利権を得た。現在は、飛び地になっているものの、ボロベン高原にⅰ)標高1,200mの地に1255ライ(201ha)のカリビアン松の植林地、ⅱ)標高1,100mの地に1,943ライ(311ha)のばれいしょ等栽培地、ⅲ)標高1,200mの地に475ライ(=76ha)の将来観光を目的とした土地、 ⅳ)標高1,300mの地に14,768ライ(2,363ha)のコーヒーのアラビカ種、松、マカデミアナッツの栽培地、ⅴ)1,100mの地に937ライ(=140ha)のさとうきび栽培地を持っている。
この地を選んだ理由は、冷涼な気候で年間ばれいしょ栽培が可能な土地であること、輸送費が高いものの、常に大量生産が可能であること、労賃が安いこと(最低賃金はタイの約半分)がある。
現在の収入源は、ばれいしょの生鮮販売で、販売先は全量タイチェンマイのポテトチップス会社(ペプシコーラの子会社。商品名「レイ」)へ出荷している。タイのポテトチップスの需要は増えており、生産が追いつかない状態である。売り上げは、生産量によってばらつきがあるものの、3,000万~4,000万バーツ(240トン)である(チェンマイでの工場価格18バーツ/kg)。最近、開墾に投資が必要となっているものの、初期投資の回収段階にあり経営は黒字で推移している。
従業員数は、タイ人8人、ラオス人の技術指導者20人(チャンパサック農業大学などによる教育を受けた者)、ばれいしょの栽培労働者150~200人(農繁期は400人)ほどである。労働者は、通常コーヒーなどを栽培している周辺農家で、余った時間にここで働いている。15日に1回給与を支払い、賃金単価(最低賃金)は12,000キープ/日(約122円)で専門性・経験を加味して賃金を上乗せする。
現在、上記ⅱ)のばれいしょ等栽培地では、ばれいしょ470ライ(75ha)、いちご7~8ライ(1.1~1.3ha)(今年から生産)、松1,000ha、その他計画中のコーヒー10,000ライ(1,600ha)を栽培している。
品質、安全性の管理については、IPM (Integrated Pest Management)を導入しており、何種類かの菌を使って害虫駆除しているものの、規模的に農薬を使用しなくてはならないため、有機のレベルには達していない。トレーサビリティについては、すべて記録(植え付け時期、施肥など)をとっている。
設備投資として、半径650mまで同時に水を撒くことのできるセンターピボット式スプリンクラーを1,000万バーツで投資した。河川の水に水利権はなく無料で利用できる。年間水の涸れない川が近くにあり、ポンプによるくみ上げを行っている。
②ばれいしょの生産状況
ばれいしょは輪作栽培しており、種芋はカナダ品種アトランティック種を利用している。栽培期間は4ヶ月であり、年中収穫が可能である。単収は平均で2.1~3.0トン/ライ(13~18.8トン/
ha)(雨期:2.8トン/ライ 乾期3.0トン/ライ)。ロス率は15%以下で、規格外は種芋利用か廃棄する。将来的には、家畜も飼育することを考えている。土壌Phは4~5で、ばれいしょの場合、5.5~6.0に調整(ドルマイトという薬剤を使用)。土壌の有機含有率はタイで3~2%、ラオスで8~12%となっており、この地の土壌は有機分を多く含んでいる土壌と言える。その他の利点としては、火山灰土で排水性が良い。
③輸送
タイの国営トラック会社の12トン車を利用しているが、将来は民間の車も使用する予定でいる。輸送コストはチェンマイの工場まで、20トンの原料で24,000バーツ必要となる。
通関の書類審査時間は平均で2時間(30分が理想)。パクソンを7時に出発すると9時に国境に達し、そこで2時間程度の書類審査を受けることとなり、産地からチェンマイの工場まで総輸送時間は30時間かかる。梱包形態は1トンのプラスティック容器である。
植物検疫については、パクセーの県農林事務所の検査官を迎えにいって、倉庫で検査を受け、証明書を発給してもらう。検査は収穫時期に行い、およそ3ヶ月に1回程度であり、検査に不合格になったことはない。タイへは無税で輸出できる。
④課題
ばれいしょは親会社が買い取ってくれるため問題はないが、他の種類(いちご、お茶、アスパラガス、ピーマンなど)についてはいろいろ試作してみたものの、低価格でいい物を作っても国内でのマーケットがないため、うまくいかなかった。
⑤今後の方針
ア.フライドポテトの加工の可能性については、アトランティック種の品種は向かないものの、マーケットがあれば、他の品種の栽培も可能である。
イ.アタプー県と協議して土地の譲渡を受け、次年度はばれいしょとさとうきび(タイの製糖工場で砂糖及びエタノールを生産)を生産する計画となっている。
(5)G社 (パクセーにある輸出入会社)
①会社概要
ラオス政府と民間の合弁会社である。栽培を委託している農家は、パクソン郡に150家族、他15人が事務職に従事している(そのうち10人がパクセーの事務所、5人はパクソンからの運搬等に携わっている)。取扱品目は、キャベツ、しょうが、大豆が主である。
基本的には、生産・輸出業務が主体である。種子や農薬、肥料を輸入購入し、農家に渡し、一部余ると店頭で販売する。
②農家との関係
種子、農薬、肥料等は、一括購入し農家に渡す。しかし、基本的には有機栽培なので、農薬はほとんど使用しない。
150家族ほどの委託農家とは、最低価格と最高価格を定めた契約を結んでいる。3ヶ月に1度栽培開始前に価格を設定し、契約を行う。輸出先のタイの需給は予測可能なので、価格の変動はさほど問題ない(雨期にはタイの生産が増え、輸出量が減少するため、買い取り価格は下落する。)。技術指導は、県農林事務所に依頼している。
契約価格と委託栽培量は表7-4のとおり。
③栽培品目について(すべて有機栽培)
ⅰ)キャベツ
パクソンのキャベツの品質は良く、腐りにくいのが特徴である。見た目はタイの方が良いが、味はパクソンのほうが甘いと評判である。この会社は、パクソンの生産量の約85%を扱っている。
キャベツは、3ヶ月の栽培期間で年3回栽培する。乾期の1~3月は、生産量が増えることから価格は下落する。輸出向けの単収は、150~200トン/ha。農家は、出荷前に3枚外葉を剥き、袋詰め前にまた3枚剥く。買取の基準となる重さは、500g以上、1kgあればよいキャベツといえる。有機認証を取得するため農薬は使用しない。農家が勝手に農薬を使用したら、買取を拒否する。
ⅱ)しょうが
タイより品質が良く、大きく味も良いと評判である。すべて有機栽培である。2005年は価格が下落して、2.5バーツ/kg程。昨年は香港やマレーシアに輸出したので20バーツ/kgの値がついた。しょうがの栽培は、雨水に頼るしかないので、雨期に栽培する。栽培は、4~6月、7~10月の年2回行う。
ⅲ)大豆(油用)
ラオスの大豆は豆が小さいのが特徴である。有機で味が良いと評判のため、作った分だけ売れる。
④原料調達
ミドルマンを使わず、職員が直接買い付ける。5人がパクソン常駐し、袋に入れて買い付けして、ラオスの運送会社(個人経営)が国境まで運ぶ。パクソンから国境までの輸送費は、3トンのキャベツの場合150バーツ。会社が4バーツ/kgでキャベツを購入した場合は、国境でタイの業者に8バーツで販売する。
たい肥はパクソンで不足するため、チャンパサック県の畜産農家から購入する(30kg入りで2万キープ)。籾殻なども混ぜて施肥する。
⑤通関手続き等
植物検疫は、パクソンで収穫時に農地単位で検査する。証明書発行には、1農地あたり2,000バーツが必要となる。通関で要する時間は、前日書類を準備すれば翌日トラックで運ぶことが可能。通過時間は15分ほどで、タイの車がラオスの国境に入って積み替える。
タイに売る場合は、基本的にバーツ立てバーツ支払いである。農家へは、3日後にバーツで支払い、種子等もバーツ立てバーツ支払いである。
8.新しい動き
(1)農家の組織化(生産組合設立)の動き
チャンパサック県農林事務所によれば、最近、コーヒー、キャベツ、バナナ、飼料用とうもろこし、落花生、大豆、タマリンドの7つの生産組合が設立されたとのことであった。
例えば、キャベツ組合は組合員が生産したキャベツをパクソンの市場に出荷する(年間2万トン)とともに、輸出向けのものは国境まで運ぶ。また、生産量と納期、品種などを管理する。最低価格も設定している(2B/kg)。
なお、同じくパクソン郡農林事務所によると、パクソン郡では105村のうち25村で組合が試験的に結成されている。
(2)情報提供
今回2006年2月の調査でチャンパサック県農林事務所を訪れた際に、ルアンパバーン県で農家等に市場などの情報を提供する取り組みが始まったことを聞いた。さらにチャンパサック県でも2006年に実施予定とのことである。対象になると思われる情報は、商務省による価格情報、県農林事務所による原料価格、量、作付け時期、借入情報、肥料価格、ガソリン価格等であり、配信方法としては、農家がよく聞いているラジオ、掲示板、組合を通じて行う方法が考えられる。
(3)有機制度
2005年8月16日付の英字紙「ヴィエンチャン・タイムス」の報道によると、他のASEAN加盟国とオーストラリア政府による国際協力の一環として、オーストラリアのRMIT大学の講師2名を招いて、2005年8月15日から、ラオス全土から召集された農林省の担当者に対して、食品安全性に関する研修が実施されているとのことである。
チャンパサック県農林事務所では、有機の証明書(すべての農産物が対象)を2000年から発給している(発給可能な自治体は、ヴィエンチャン特別市、チャンパサック県、サバナケット県、アタプー県に限られている)。また、AISP(アセアン原産地証明書)は、商務省から出す。
2004年10月13日付の英字紙「ヴィエンチャン・タイムス」の報道によると、現在、国内には有機栽培製品であることを保証するための認証機関があるが、その費用に年間3,000米ドルかかる。そのため、ラオスの農家や生産者にとって認証を得ることが事実上困難になっている。したがって、農産物の品質向上のためには、簡素な手続とリーズナブルな費用によって認証が受けられるような制度の確立が不可欠であると指摘している。
しかし、ラオス政府はすでに、主要輸出農産品であるコーヒー豆に対しては、高品質であることを証明するシステムを確立し、実施している。
また、一方では、ラオスにおける野菜の有機栽培については、東北タイに比べて肥沃な土地に恵まれており、伝統的に行なわれてきた土着農法に合致していることなどから、将来性が見込まれると指摘する有機野菜栽培の専門家もいる。専門家の指摘する今後の課題として、①法整備を踏まえた契約栽培スキームの開発、②輸出入のための等級づけシステムの確立、③検査・認証システムの整備、④有機栽培農家向けの金融支援策の拡充、⑤ 輸送コスト削減のための交通網の整備等を挙げている。
おわりに
ラオスについて知見を持つタイの関係者によれば、ラオスには、農産物の生産に関し魅力がある。例えば、有機栽培の米を生産するのはタイでは難しいが(減農薬で売るのに、これまでの土の状況から少なくとも3年はかかり、ビジネスにならない。)、ラオスの土壌はこれまで化学肥料や農薬を使用していないことから、安心して有機栽培を行うことが可能である。アジアで有機米を生産できるのはラオスしか思い当たらないとのことであった。
貧困で農薬を購入することが不可能であったため、これまで農薬を使ってこなかった経緯があるものの、タイからメコン川を越えた対岸は害虫が極めて少ないことも事実である。
また、インフラの整備も急速に発展している。第2友好橋が完成し、国道9号線が開通したら、ベトナムダナン港へのアクセスがはるかに良くなる。日本への流通を考える場合、有利になることは確実である。第2友好橋が架かるサバナケートは、東北タイコーンケン県とも近い。コーンケンには大学もあり、ラオスへの技術の移転も図れる。サバナケートには工業団地建設が計画されている。
上記のような恵まれた土壌や自然環境、インフラ整備の進展がラオス農業を変貌させる可能性があるが、一方で伝統的な農法、農家の意識を変えるのは容易なことでない。また、ラオスは国際的な自然環境団体の活動も活発であり、開発を進めるに当たっては環境や地域コミュニティーとうまく調和をはかりながらの投資が望ましい。
野菜について言えば、中国における生産コストの上昇、日本におけるポジティブリストの施行等から、より低コストで安全性の高い産地を求める動きが活発化しているように思われる。タイ、ベトナムは日本向けの加工野菜が生産・輸出されているが、既に「コストの問題」を指摘する声もあり、このような中でアセアン新加盟国であるラオスについても、今後徐々に関心が集まり、「可能性」にかかる調査などの動きが出てこよう。
われわれとしても、我が国への加工野菜の供給事情はインドシナ半島を中心としたアジアで大きく変貌すると見ている。国内の野菜の価格安定の観点からもこれらの動きについては今後とも継続的にフォローしていきたい。
・ (独)農畜産業振興機構「野菜情報」2005年12月号、2006年1月号:「ラオスおよびタイにおける野菜の生産、加工および流通の実態」
・ ジェトロセンサー2006年2月号:「メコン流域がインドシナ物流を変える」
・ Lao P.D.R Committee for Planning and Cooperation
「Statistical Yearbook 2000、 2001、 2002、 2003」
「Statistical Yearbook 1975-2005」