企画調整部 関口 和広
平成18年2月28日~3月1日に行われたABARE(豪州農業資源経済局)主催OUTLOOK 2006の「園芸」セッションで得られた情報や豪州の野菜関係団体等からの情報をもとに、豪州の野菜生産・貿易の概況を報告する。
1.OUTLOOK 2006
ABARE主催のOUTLOOKは、豪州の農業及び天然資源産業に関する観測及び市場評価のためのフォーラムである。首都キャンベラで開催されたOUTLOOK 2006では、世界的な原油需給のひっ迫等が世界の経済やエネルギー政策等に影響を及ぼす中にあって、WTOドーハ・ラウンド農業交渉の状況、二国間のFTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)の進展、豪州の経済見通し、農業及び天然資源の短期・中期の予測等を含め、牛肉、乳製品、羊毛及び羊肉、穀物、園芸等20のセッションに分かれて活発な報告や質疑が行われた。
2.農業の概況
1.農業生産の概要
(1) 農業の位置づけ
2004/05年度(2004年7~2005年6月。以下同じ。)の豪州の国内総生産(GDP)8,304億豪ドル(70兆5,800億円、1豪ドル=85円。以下同じ。)に占める農林水産業の比率は3%程度であり、また、総就業人口に占める農業就業人口の割合は4.4%(44万人、2003年FAOSTAT)となっている。同年度の総輸出額に占める農林水産品の割合は24%で、特に牛肉、小麦、羊毛・羊毛製品、ワイン、乳製品の輸出額が大きい。
(2) 国土と農用地の特徴
豪州の国土面積は日本の約20倍の7億6,900万ha、その約6割に当たる4億3,950万haが農用地で、日本の約85倍に相当するが、農用地の約9割が放牧等に利用される永年採草地で、耕地面積としては4,760万haに過ぎない。
豪州の農用地は一般的にリンと窒素が欠乏しており、特に牧草地と穀物畑では、リン酸、窒素肥料が広く使われている。もろい土壌構造と集中豪雨による洪水の発生は豪州の大地の特徴であり、何年かに一度襲ってくる大干ばつに耐えるため、水の確保は農家の土地利用に決定的な影響を与える。
耕地の利用状況をみると、野菜や果実に適した降雨量が充分で温暖な農地が限られているため、小麦の作付面積が全体の約6割を占め、大麦、カノーラと続く。
2.全農業生産に占める野菜の位置づけ
2003/04年度の豪州の農業生産額369億2,740万豪ドル(3兆1,400億円)のうち野菜の生産額は6.4%を占め、牛肉、小麦、牛乳、羊毛、に続く第5位となっている(図2)。
同年度の野菜生産量を品目別にみると、ばれいしょが1,310千tで最も多く、続いてトマト474千t、にんじん303千t、たまねぎ233千t、レタス127千tとなっている。生産額では、ばれいしょ、トマト、マッシュルーム、たまねぎ、にんじんの順となっており、それぞれ、ばれいしょ4億8,100万豪ドル(408億8,500万円)、トマト2億8,000万豪ドル(238億円)、マッシュルーム2億1,900万豪ドル(186億1,500万円)、たまねぎ1億5,300万豪ドル(130億500万円)、にんじん1億5,000万豪ドル(127億5,000万円)となっている(図3)。
3.生産構造
(1) 生産地域
主たる生産地域は、加工用野菜がタスマニア州北部、ビクトリア州、生鮮野菜がクイーンズランド州の南東部、ウェスタンオーストラリア州の南西部である。豪州の加工業者は多国籍企業による経営体が多く、加工設備への継続的な投資、業者の統合等を行い、労働生産性を高めている。(図4)
(2) 栽培農家戸数
野菜の栽培農家は2004年の豪州全体で4,297戸あり、州別ではクイーンズランド州(QLD)が29%、ビクトリア州(VIC)が21%、ニューサウスウェールズ州(NSW)が18%、タスマニア州(TAS)が12%、ウェスタンオーストラリア州(WA)が10%、サウスオーストラリア州(SA)が9%となっている。(図5)
(3) 品目別生産状況
主要品目の2003/04年度の州別生産状況は以下のとおりである。
(1)ばれいしょ
生産量は前年度比5%増加し1,310千tとなった。これは主に、ビクトリア州で25%増加し338千tとなったことが寄与している。生産量において減少が報告されている唯一の州はニューサウスウェールズ州である(11%減、119千t)。作付面積については、ビクトリア州、タスマニア州、ウェスタンオーストラリア州とクイーンズランド州で作付面積が増加したが、サウスオーストラリア州とニューサウスウェールズ州の減少で相殺され、全体の作付面積は、36,100haで安定したままだった。
(2)トマト
生産量は、ビクトリア州(28%増、270千t)、クイーンズランド州(33%増、125千t)、ニューサウスウェールズ州(40%増、67千t)の3州で大きな増加があったため、全体では30%増加し474千tとなった。作付面積については、ウェスタンオーストラリア州以外の全ての州で増加し、16%増の8,500haとなった。
(3)にんじん
生産量は、サウスオーストラリア州とタスマニア州以外の全ての州で減少した結果、全体でわずかに減少し303千tとなった。作付面積は、サウスオーストラリア州とタスマニア州で増加したものの、ビクトリア州、ウェスタンオーストラリア州、クイーンズランド州の減少で概ね相殺された結果、2%減少し7,200haとなった。
(4)たまねぎ
生産量は、タスマニア州、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州及びウェスタンオーストラリア州で増加したものの、サウスオーストラリア州、クイーンズランド州の減少で相殺され、233千tとわずかな増加にとどまった。作付面積は、クイーンズランド州以外の全ての州で増加し、6%増の5,600haとなった。
(5)レタス
生産量は、クイーンズランド州、ウェスタンオーストラリア州、サウスオーストラリア州で増加したが、ビクトリア州、ニューサウスウェールズ州、タスマニア州で減少し、全体では5%増の127千tとなった。作付面積は、6,100haで横ばいだった。
対日輸出量の多い品目は、アスパラガス、たまねぎ、にんじん、かぼちゃ、ブロッコリーであった。2003/2004年度の統計では、それらの州別生産量は、アスパラガスがビクトリア州で9千t、たまねぎがサウスオーストラリア州で81千t、タスマニア州で65千t、にんじんは、ウェスタンオーストラリア州で78千t、ビクトリア州で63千t、かぼちゃは、クイーンズランド州で45千t、ニューサウスウェールズ州で21千t、ブロッコリーは、ビクトリア州で17千t、クイーンズランド州で13千tとなっている(表1)。
3.貿易の状況
野菜の生産額及び輸出入額(1999年~2003年平均)をみると、生産額22億2,000万豪ドル(1,887億円)に対して、生鮮品輸出額2億1,000万豪ドル(178億5,000万円)、生鮮品輸入額3,000万豪ドル(25億5,000万円)、加工品輸出額7,000万豪ドル(59億5,000万円)、加工品輸入額2億5,000万豪ドル(212億5,000万円)となっており、生鮮野菜を輸出し、加工野菜を輸入している豪州の構造が浮かび上がってくる。生鮮と加工の合計では輸出入同額でバランスしている。OUTLOOK
2006で、ABAREのカレン=シュナイダー氏は、貿易に影響を与える重要な要因として、(1)為替レート、(2)関税、(3)自由貿易協定、(4)各種補助金、(5)SPS協定を指摘した。
1.輸出の状況
豪州の農業は、広大な農用地があるが国内市場が小さいことから、一般的には輸出依存度が高い。野菜については、生産量の過半が輸出に向けられる畜産物や穀物ほどではないが、2002年では主要輸出品目のうちアスパラガスの45%、にんじんの23%、たまねぎの13%が輸出に向けられた。生鮮野菜の輸出額は、2002年の2億3,400万豪ドル(198億9,000万円)をピークに年々減少している。一方、輸入は2,400~3,200万豪ドル(20億4,000万円~27億2,000万円)程度でほぼ横ばいとなっている。(図6)
HALによる2002/03年度の生鮮野菜の輸出額をみると、マレーシア等に輸出しているにんじんが47,477千豪ドル(40億3,600万円)と最も多く、主に日本に輸出しているアスパラガス、オランダ、英国等に輸出しているたまねぎ、マレーシア等に輸出しているカリフラワーと続いている。(表3)
日本は豪州の最大の野菜輸出相手国であり、直近の2004/05年度では野菜輸出額2億3,100万豪ドル(196億3,500万円)のうち5,700万豪ドル(48億4,500万円)、24.7%を占める。生鮮野菜輸出額1億6,200万豪ドル(137億7,000万円)のうち、日本へはアスパラガス、にんじん、たまねぎ等3,600万豪ドル(30億6,000万円)、22.4%を輸出している。調製野菜については輸出額4,200万豪ドル(35億7,000万円)のうち、日本への輸出がにんじんジュースを中心に1,900万豪ドル(16億1,500万円)、44.5%と特にシェアが高い。
2.輸入の状況
野菜輸入額は、ニュージーランドから輸入しているとうがらし等ピメンタ属とトマト、中国からの輸入が多いにんにく、タイからの輸入が多いアスパラガス等がある。
なお、豪州の2004年の農林水産物輸入額は、44億7,000万USドル(62億500万豪ドル、FAOSTAT)で、総輸入額のわずか4.6%となっている。これは、国内市場が小さいことが主な要因と考えられる。しかし、近年は移民の増加等により輸入は増加してきている(表5)。
4.野菜の輸入に係わる豪州の関心国
1.加工用野菜の輸入-イタリアとニュージーランド
豪州市場における輸入品シェアは、生鮮野菜で5%、加工野菜で16%となっており、輸入圧力を感じているのは加工野菜の分野である。この加工野菜の輸入額は増加傾向にあり、2004/05年度には270百万豪ドル(229億5,000万円)を超えている。一方、輸出は74百万豪ドル(62億9,000万円)程度で横ばいになっている(図7)。
加工野菜の輸入の内訳をみると、ミックス・ベジタブルが最も多く、続いてトマト加工品、えんどう豆、冷凍ばれいしょとなっている(図8)。
トマト加工品はイタリアからの輸入が圧倒的に多く、冷凍ばれいしょの輸入はニュージーランドがほぼ独占している。しかし、2005年12月のWTO香港閣僚会議で2013年までに輸出補助金の撤廃が合意されたことを受けて、豪州のトマト加工品市場でのイタリアのシェアに影響が及ぶ可能性もある。(図9、図10)
2.中国の脅威
豪州における中国からの輸入は急激に増加しており、それまで2位であったイタリアを抜きニュージーランドに次ぐ野菜の輸入相手国となった。豪州での中国から野菜輸入額は2005年の合計で45.7百万豪ドル、うち加工野菜が26.8百万豪ドルと、50%以上を占めており、加工野菜の輸入額のうち中国は15.2%のシェアを占めている。また、冷凍野菜輸入の中国のシェアも、2005年では10.0%以上を占めるまでに増加してきている(表6・図11)。
中国と豪州の生産コストを比較すると、加工用ばれいしょの生産コストにおいて中国のコストがタスマニア州北部の半分程度であることが分かる(図12)。
現在では、野菜の輸出入がほぼ同額で均衡しているが、今後移民の増加、コストの安い中国からの輸入増加等によって、これまでの豪州国内の需給構造が徐々に変化していく可能性がある。