国際情報審査役付 上席調査役 河原 壽
調査情報部 調査情報第二課 吉田 由美
日本とASEAN諸国との間では、2005年4月から経済連携協定(EPA)交渉が開始されている。このため、国産野菜の価格安定と今後のEPA交渉の推進などに資するため、カンボジアにおける野菜の生産・流通・貿易等に関する基礎調査を平成17年12月12日~17日にかけて実施した。今回は野菜生産の盛んなシェムリアプから国道6号線、国道1号線を南下するルートで調査を行った。
1 自然環境
カンボジアは、西はタイ、東はベトナム、北はラオスに接し、南西でタイランド湾に面した国土面積181,035km2(日本の約半分)、人口1,310万人、人口密度73.5人/km2と他のインドシナ諸国に比べ人口希薄であるが、その人口分布は、トレンサップ湖とメコン河・支流の低地に集中している。
気候は熱帯モンスーン気候に属し、季節は4月~5月初旬から11月まで続く雨季と12月から3月~4月までの乾季に大別される。
雨季の5月~10月にかけては約半分の日数で降雨があるが、時として3週間以上にわたって雨が降らないことがある(小乾季)。この時期に灌漑による灌水を行わなければ、作物の生育は難しい。通常11月末の降雨で雨季が終わり、乾季が始まる。乾季の後半にかけて土壌水分は急速に蒸散し、作物の植付けはほぼ不可能となる。
また、降雨の分布は各地域の地形によって影響される。南西部のDangreg山付近の海岸では年間4,000mmもの降雨があり、北東部の山岳地帯でも年間2,500mmの降雨が観測されている。また平地では、年間1,250mmから1,750mmの降雨がある。
2 国土と農地制度
(1) 土地利用
カンボジアの土地利用に関するデータは乏しく、農林水産省の年次報告でも、稲作、工芸作物などの主要作物の耕地面積しか表示されていない。そのため土地利用状況については1996年の森林利用にかかる土地区分統計に拠らざるを得ない。このデータではカンボジアにおける耕地面積は391万ha、そのうち67%に相当する264万haが稲作となっている。
なお、カンボジア開発協議会(CDC)が2004年11月に報告した資料では、2003年における耕地面積が270万ha、そのうち78%に相当する210万haが稲作(うち43万haが灌漑)、6%が食用作物、4%が工芸作物、6%が果実やその他作物であるとしている。
(2) 農地制度
土地はカンボジア人にとって最も重要な財産で、主要な生産源となっている。一般のカンボジア人農家は、自分の土地を利用して自家消費のための食糧、主に米をつくり、余剰米は換金して生活の糧としている。
一方、2002年8月31日に制定された森林法により、農民が勝手に森林地帯を耕作することが難しくなり、これによって土地無し農民が12~15%に増加した。
3 農業をめぐる現状
(1) 国民経済における農業
近年の国民経済における農業部門は、2004年GDPで30.9%を占める重要な部門であり、1993-2004年における平均増加率は3.3%と増加傾向となっている(表1)。
しかし、カンボジアのリーディング産業である縫製業を含む繊維・衣料・靴の部門の増加率が41.8%と非常に高く、農林水産業のGDPに占める割合は減少傾向となっている。カンボジアの産業構造は、縫製業の発展により第一次産業から第二次産業を主体とする構造に移行しつつあるといえる。しかし、稲作を主体とする農業部門も依然として重要な産業部門となっている。
また、農林水産業のGDP平均増加率は、農作物が4.9%と最も高く、次いで漁業が2.9%、畜産業が1.7%となっており、林業が0.1%と停滞している。
また、労働者人口に占める農業部門の就業者割合は約70%と高く、農業部門が依然として重要な産業であることがわかる(表2)。
(2) 主要作物
391万haの耕作面積のうち、264万haはトレンサップ湖やメコン川及びバサック川流域の沖積地帯に拡がる低地の稲作地帯であり、残りの128万haでは1年性の雑穀や野菜、果樹、タバコなどの工芸作物、ゴム、ココヤシ、砂糖ヤシ等の多年性作物の栽培に利用されている。1年性作物は、全て一期作である。
現在、約18万haに、トウモロコシ、大豆、マングビーンズ、ピーナッツ、キャッサバ、カンショ、野菜などの畑作物が栽培されている。また、商品価値の高い永年性工芸作物(砂糖ヤシ、ココヤシ、胡椒、コーヒー、カシューナッツ)も以前より多く栽培されている。
1996-1997年から2004-2005年の8年間における作付面積の平均増加率は、ゴマ23.1%、大豆14.4%、トウモロコシ7.9%、キャッサバ6.3%、ピーナッツ6.2%が増加傾向であり、逆にタバコ-23.0%、ジュート-11.7%、かんしょ-5.0%、野菜-4.2%が減少傾向となっている。輸入が増加している品目が面積減となっている傾向である(表3)。
4 野菜生産と流通
野菜は、米、トウモロコシに次ぐ作物であり、2004-2005年の作付面積は32,604ha(雨季20,621ha、乾季11,983ha)で、生産量は179,050tであった。
また、商務省の調査によると農村部における収入の85%は、野菜・果実部門が占めているが、トマト、キャベツ、はくさいは通年輸入されることが多く、野菜の生産量が少ない雨季、端境期となる乾季の後半にはその他の野菜の輸入も多い。
(1) 主要野菜の作付け体系
11月から2月の乾季前半は、気象条件が野菜の生育にとって良好なことから野菜栽培が盛んに行われるが、水資源が豊富なトレンサップ湖およびメコン川流域の限られた土地での栽培となる。乾季後半の3月~4月は、全土にわたり気温が非常に高く乾燥することから、野菜はすいか、豆類以外の生産は難しくなる。
5月から11月の雨季は、米の生産がメインだが野菜栽培は乾季に比べると広範囲で行われる。雨季前半はまだ湖、池などの水源の水量は不足しており、一方、集中的な洪水に見舞われることもあり作柄が不安定な時期である。
8月~10月の雨季後半は、商業ベースの野菜生産はほとんど見られず、収穫までの日数が短い作物が栽培され、ヒルガオ、葉野菜、きゅうり、ささげなどが家庭菜園レベルで作られる程度である。
(2) 主要野菜の栽培地域
野菜も含め園芸作物の生産は一般的に人口の多い都市近郊で行われ、メコン川流域のカンダル州、コンポンチャム州、コンポンチュナン州が中心であるが、プノンペン近郊のカンポット州及びシエムレアプ州でも生産は多い。とうもろこし、野菜、マングビーン、大豆、キャッサバ等である。その他の作物では、かんしょ、さとうきび、タバコ、ごま、うり等の生産が多い。
野菜についてはキャベツ、チンゲンサイ、クウシンサイ、レタス、ケール、カリフラワー、トマト、それに豆類などが多く生産されている。その他、根菜類のしょうが、タロイモ、果菜類のとうがらし、メロン、きゅうりなどの他、果樹、ハーブ類、スパイス、薬草なども栽培されている(表4)。
首都プノンペンの消費者がよく食べる野菜としては以下のものが挙げられる。
トウガン、きゅうり、トマト、キャベツ、カンコン、なす、はくさい、ケール、だいこん、ユウガオ、カラシナ、ねぎ、カリフラワー、にがうり、タマアリンド、にら、アマランス
(3) 野菜の流通フロー
カンボジアでの野菜流通には様々の経路がある。一般的な野菜流通経路は、生産者又は集荷業者から小売業者に販売し、小売業者が消費者、ホテルのレストラン等に販売するレートである。しかし、生産者、卸業者、集荷業者は販売し切れなかった分がある場合、この残る分を小売業者に売り、小売業者が消費者に販売する。また生産者の規模は一般的に小さいので、消費者に直売されることもある。
集荷業者は一般に野菜生産者から直接、購入するが、場合によって他の野菜集荷業者から購入することもある
5 輸出政策農産物の貿易状況
(1) 農作物輸出政策
現在、カンボジア政府は農業開発と貧困削減という二つの柱を国の重要政策(2006-2008)と位置づけている。
特に農作物の増産と生産の安定は輸出戦略のひとつとして重要であるため、効率的な技術の普及、小農に利便性のある灌漑設備などインフラ整備による農業生産性の向上、生産費を抑制できる生産体系の確立などに力を入れている。
農家の所得を向上させ、貧困層の栄養状態を改善するための具体的な国家戦略としては、農業経営者の能力強化と作物の多様化、農民の組織化を掲げ、現場における農家間の連携を容易にし、効果的な行政サービスを農家に提供することを目指している。このような政策の推進は、環境保全に寄与することも期待されるほか、農産物加工産業、アグリビジネスの分野への波及的な効果も期待できるとしている。
カンボジア農林水産省では、野菜、果樹部門の戦略的重要性と問題点を以下のように整理している。
<戦略的重要性>
・国内における農村人口の85%の人々の重要な収入源である。
・野菜・果樹は輸出作物として大きな潜在性を有しており、国の社会経済開発に寄与し得る。また、農村の振興にも直接影響する有効な作物であり、国の長期的な貧困対策への貢献も期待できる。
・国内外で有機野菜・果樹の需要が高まってきている。
<問題点>
・タイ、ベトナムという近隣の2大農業大国との競争。
野菜生産の取り組みにおける第一目標は、まず国内需要を満たすことであり、次の段階において、EUなどへの輸出である。しかし、それ以前に近隣国との競争に勝ち残る必要がある。現段階では、国内需要を満たしている米が重要な輸出農産物として位置づけられている。農薬等の使用量が少なく有機農産物を奨励しやすい環境にある(政府見解)ことから、EUなどへの農産物輸出を推進する方針である。
(2) 主要貿易品目
カンボジア農林水産省調査によると、主な輸出品目は、米、大豆、緑豆、ピーナッツ、ゴム、カシューナッツで主要輸出先はタイとベトナムである。主要農産物である米は、1995年に生産量が国内需要を満たす水準にまで回復し、2005年では100万トンの輸出余力を持つにいたっている。現段階では、3~4社がEU、米国、香港に輸出しているものの、品質が低いため、ベトナム、タイへの密輸出が主体となっている。
しかし、輸出量は非常に少なく、その主な要因は、(1)伝統的な方法で栽培されており品質が低い、(2)米においては多くの品種を保有しているが輸出需要に合致した品種がない、(3)品質を保証する認証制度を行うための技術・技術者が欠如している、(4)鮮度保持技術及び加工技術が欠如している等、であるとしている。
(3) 野菜の輸出入
カンボジアは農業国でありながら野菜を本格的に輸出しておらず、多くの野菜を近隣諸国(ベトナムとタイ)からの輸入に頼っている。これは、多くの農家が乾季に野菜を生産し、雨季は稲を栽培するという体系をとっているため、野菜生産は期間が限られ、また、変動が大きいことにより価格が比較的高いからである。
主な輸入先国は、2003年まではタイであったが、2004年にプノンペン~コンポンチャム州に通じる国道6号線の補修でベトナムからシエムレアプ州までの農産物の輸送インフラが大幅に改善したことにより、ベトナム野菜の輸入が急増し、現在ではタイからの輸入量を大きく上回っている。輸入の多い品目は、きゃべつ、しょうが、ばれいしょ、にんじん、豆類、トマト、きゅうり、はくさい、とうがらしである。
商務省国内流通局の調査では「2004年にはベトナムから1日当たり150t、多い日で200tの野菜が輸入され、プノンペンのDoeum Kor市場にて販売された」という結果がでている。
カンボジア産野菜がベトナム産野菜に対して競争力がない原因として、以下の4点が指摘されている。
(1)栽培技術が低い
(2)種子、農薬・肥料の生産資材、機械を輸入に頼っていることから生産コストが高い
(3)ほとんどがトラック輸送であるが、道路が未整備で石油価格も2倍と輸送コストが高い
(4)品質等を検査する人材がなく、品質の低いものも流通している。
一方、野菜輸出に関しては、乾燥とうがらしをタイ、インドネシアに輸出しているが、公式なデータは存在しない。
(4) 対ベトナム野菜貿易
2005年11月に商務省から公表された「National Export Strategy 2006-2008」によると、タイからの輸入野菜は、プノンペン、シエムリアプ、シアヌークビルに出荷されているものの大幅に減少している。野菜需要量の70%がベトナムから輸入されている。カンボジア国境付近のベトナム農民にとっては、自国の農村の市場(産地市場)に出荷するより簡単で利益があるという状況である。
ベトナムから輸入されている主な品目は、トマト、キャベツ、はくさいである。トマトの場合、2002年には国内取引量の91%、2003年には60%がベトナムから輸入されたものであった。残りは主にカンダル州、プノンペン、コンポンスプー州等の国産である。キャベツでは2002年には国内取引量の99%はベトナムから輸入され、2003年も86%が輸入品であった。また、はくさいでは、2002年、2003年を通じてほぼ100%がベトナム産となっている。きゅうりも輸入されているが、2002年2%、2003年7%と量は少ない(資料1)。
(5) 対中国野菜貿易
中国への輸出実績はないが、中国からカンボジアへはにんにくが輸入されており増加傾向となっている。また、量は少ないがたまねぎも輸入されている(表7)。ただし、ベトナムを経由しての中国産野菜輸出は密輸を含めると相当な量になっていると推測される。
現地調査においても、シエムリアプとプノンペンを結ぶ国道6号にあるKampong Thumでは中国北方地域の甘粛省産タマネギが流通していた。また、プノンペン小売市場での調査では、ベトナムから輸入されているとされるにんにくは全て中国産であると証言する業者もあった。
(6) 輸出戦略
カンボジア商務省がEU援助のもと作成した「National Export Strategy 2006-2008 Working
Draft」によれば、有機米、有機野菜・果物、シルク・シルク製品、淡水魚の養殖、観光開発を今後の課題として位置づけており、有機野菜・果物においては、「観光産業との連携及び園芸部門の生産性と品質の向上と通じて、農村地域の所得確保、雇用創出、貧困の軽減」を戦略目的として掲げている。
また、商務省の担当者によると、価格情報、価格交渉力、輸送手段が不足しているためにブローカーによる農家庭先での「買い叩き」が行われていることから、日本の農協のような農民の組織化の必要性を指摘し、輸送環境の改善、産地市場の創設を目標に掲げているという。
特に、輸出に関しては、過剰生産による国内価格の低落を防ぐためにも、海外からの輸入代替と平行して必要であると認識している。
主要な野菜栽培適地としては、標高約1,000m、冷涼な気候で地下水位の低い東部地域(コンポンチャム州、モンドルキリ州、ラタナキリ州)としており、これらを野菜開発の中心地域と位置付けていた。
カンボジア農林水産省によると、主な輸出品目は、米、大豆、リョクトウ、ピーナッツ、ゴム、カシューナッツなどで、特に米は2005年現在、100万トンの輸出余力があり、EUなどへも輸出を試みている。しかし、現段階では、品質や品種、鮮度の問題からベトナム、タイへの密輸出が主体となっている。
6 政府研究機関の概要
(1) シェムリアプ州農業局試験研究所
シェムリアプ州は、プノンペンの西北部に位置し、面積10,296km2で農地面積がその19.2%を占める。また、世界遺産アンコールワットがあることから観光と農業が主な産業となっている。主な栽培品目は、米・果実・豆・とうもろこし・ごま・さつまいも・野菜・大豆、落花生・さとうきびで、にんじん、ばれいしょ、はくさい、トマト、サラダ菜といった野菜はタイ及びベトナムから輸入されている。
州政府は、オーストラリアの援助により17haの米や野菜等の試験場を建設した。現在では、オーストラリアの援助は終了しているが、観光ホテルに供給する野菜の栽培試験を行うとともに、稲の品種の選定などを行っている。また、有機野菜の栽培技術試験を行い、栽培した野菜をホテル向けに出荷するとともに輸出も視野に入れて振興につとめている。
現在、当該州で実施されている援助プロジェクトは、ベトナム政府の化学肥料の支援、タイ政府のカンボジア国内向け及びタイ輸出用のパームオイル、とうもろこし(飼料用)、大豆種子生産の農家指導、化学肥料の援助であった。
(1)有機野菜栽培試験
ILO(国際労働機関)からの派遣職員の指導により、ハウス5棟、研修用施設1棟、および圃場を用いて、観光ホテルに供給する野菜の栽培試験を行っている。栽培品目は、オクラ、バジル、レタス、サラダ用リーフ野菜等である。
また、IPMの導入、EM菌・コンポスト等を用いた有機栽培の研究も行っている。
(2)農家教育プログラム
NGOの支援により運営されている施設で、20歳以下の若者を集めて無償で農業指導を行っている。トレーニングコースは3ヶ月の泊まりこみで研修を実施している。
現在、60人ほどの研修生が近隣の村から集まっているとのことであった。
(2) Kamporg Chunnang州:ベジタブルリサーチステーション
Kampong Chunnang州はプノンペンの北西部にある農業が盛んな土地である。1985年設立のカンボジア農林水産省付属機関である。4haの試験ほ場でスタッフ19人により米、野菜、果実の輸入・国産種子の選別・普及、天敵やIPMによる防除の研究・普及を行っている。台湾のAVPRC(Asia
Vegetable Development Research Center)や世界銀行の支援を受けている。1,000以上の米の品種を保有管理している。
<研究内容>
(1)種子(国産・輸入)の研究
豆、キャベツ、トマト、ナス、唐辛子、とうもろこし、
(2)種子の選定・増殖
グリーンビーン、大豆、とうもろこし、マスタード、小松菜、ささげ、ナス、アマランサス、とうがん、唐辛子
(3)天敵の研究
コナガに対する天敵の研究を行っている。BT剤は価格が高いうえに、保存状態が悪いと効果が薄いことから、2種類の昆虫を使って天敵防除の研究を行っている。
(4)農家への指導
地方の農民への指導を通じ、技術や優良種子の配布を行っている。1995年から2005年の10年間で1500人に対し改良品種導入などの指導している。
ただし、天敵利用に関しては、1998年にシェムリアプで天敵の配布を行った実績はあるが、その後、資金不足で研究・普及活動は一時停止し、2005年に再開したものの、適正な防除技術開発と指導の充実が今後の課題となっている。
7 NGOによる農家援助の概要
ポル・ポト政権時代の強制的な共同耕作の(クロムサマキ)の嫌悪感から、組織化された農民集団は見られない(資料3)。
一方で外国援助機関や外国の援助によるNGOの援助プログラムがカンボジア各地で行われている。これらNGOでは効率的に農産物の栽培、輸送、販売を行う組織作り、また、農民を取りまとめる経営者の育成を目指した活動が行われている。
(1) Agriculture Quality Improvement Project(AQIP)
オーストラリアのNGO組織で、農民が農村をベースにしたグループを結成し、各農民が技術のコース(伝統的栽培、有機栽培、IPM、パッケージング)の中から選択しその技術を習得する。また、グループを統括するリーダー(経営者)を育成するため、ビジネススキルトレーニングを行い、グループを統括するGroup
Marketing Agent(GMA)を育成する。
<事業内容>
1)灌漑施設の整備
2)高品質な野菜生産を実現するためのスクール
(伝統的栽培・有機栽培・IPM・パッケージ技術の習得)
週に1回、期間は12週間で費用は30$。
これまでに、生産者20~30人×24グループ、計500農家への実績がある。
3)Group Marketing Agent(GMA)
の育成
ビジネススキルトレーニング(6日間)を通し産地リーダとなるGMAを育成している。)
カリキュラム内容
・アカウンティング(会計学)
…野菜購入と販売
・農家への指導方法
・ネットワーク構築(生産者と小売のネットワークを広げる)
・意志決定
・マーケティング
現在、8人のGMAが各地で活躍している。
4)Market Information Serviceの実施
GMAを通じて市場情報(入荷量、価格等)を農家に伝達し、有利販売のできる作物などの情報を農家に提供し経営の安定を図るもの。
AQIPによれば、本サービスにより卸売市場への販売価格が、2004年対比で14%上昇した。
(2) Cambodia Country Program
(Svay Rieng事務所)
Catholic Relief Services(CRS)による実施されているNGO援助プログラム。
当該NGOは、主に米国USDAの支援のもと、(1)健康増進活動、(2)HIV患者への差別をなくす活動、(3)平和活動、(4)融資、(5)農業支援などを行っている。
CRSの農業関係のNGO活動状況
(1)1996年~2003年
農業生産の地元協力者の知識向上
(2)2003年~2005年
農産物のマーケティング
1)農家の経済的支援・食糧の確保
2)マーケット情報提供
3)協力NGOと地元協力者の知識向上
(3)2004年~2007年
マックナイト基金とUSDAおよびCRSの資金で運営し、5000戸を対象として下記事業を行っている。
1)魚の養殖
2)米生産向上
単収向上を目指した、技術指導と種子の提供を行う。
3)畜産の技術指導
4)獣医育成
5)果樹栽培の指導
マンゴの単一栽培から、苗木の育成・配布による他品目栽培への転換
(9ヶ所で実施)
6)野菜生産の振興
青菜、空芯菜、香菜、ひょうたん、ひゆななどを伝統的な方法で栽培していることから収量が低い。このため、技術指導、土地改良、水の確保、マーケティング調査の実施と結果の農家へのフィードバックを行っている。
※マーケティング調査の実施
プノンペン市場の価格を毎週公表するとともに、農家を販売価格の高い野菜栽培に誘導する。
7)水などの自然資源の保護活動
8)水路等の灌漑施設の整備(援助資金の誘引など)
9)プノンペン市場の価格情報の収集・配布
10)パッキングセンターの建設を計画(2006年に着手する予定)
個々の農家は、経営規模が小さく生産量が少ないため地元市場での販売以外は難しい状況にある。このため、少量であっても多くの農家が出荷することによりまとまった量として販売できるパッキングセンター(担当者の説明)を建設し、共同販売により有利に販売できる産地市場の建設を計画している。
まとめ
カンボジアでは雨季の豊かな水資源を使った米生産とトウモロコシ生産が盛んで、特に米では4毛作が行われ消費を上回る生産量となっている。
一方、野菜生産は4~5月から約半年続く雨季の洪水と40℃にも達する気温、また、乾季の旱魃といった厳しい自然環境のなかで生産できる品目が限定される。また、価格の変動が激しいため、一年を通して近隣のタイ・ベトナムからの輸入に頼らざるを得ない現状である。さらに、加工技術が未発達なため、生鮮野菜以外の加工食品も輸入している。
農家の所得向上と栄養状態の改善を目標にしているカンボジア農業で特徴的なのは各国のNGOや国際援助機関を受け入れていることである。灌漑事業の他、優秀な農業経営者の育成、作物の多様化、有機栽培技術の普及など数々の活動が行われている。特に、農民への教育に重点を置き、生産者組織による価格競争力のある農業経営と効果的な行政サービスの提供を目指している。若い労働力が豊富ということも有利な条件である。
農業開発と貧困削減というカンボジア政府の政策は輸出戦略とも合致しており、特に、米を重要輸出品目と位置付けている。また、もともと、金銭的な問題から農薬が使えなかったという事情があり、有機農産物を奨励しやすい環境である(カンボジア政府見解)ことから、近年はIPMや有機栽培技術の普及に力を入れている。現在はEUへの農産物輸出とアンコールワットなどの観光部門を視野に入れた生産の振興に努めている。
以上、カンボジアにおける農業を見てきたが、プノンペン近郊への米国の繊維産業の進出などガーメント産業界から多くの注目を集めているのが現状で農業国である割には農産物輸出国としては注目されていない。
野菜の栽培おける、生産者の意識も変わりつつあるが、道路や冷蔵施設といったインフラ整備など残された課題も多いのが現状である。
参考文献
資料1:CIRAD(カンボジア開発研究所)
「VEGETABLE MARKET FLOWS AND CHAINS IN PHNOM PHENH ―SUSTANABLE DEVELOPMENT
OF PERIURBAN AGRICULTURE IN SOUTH-EAST ASIA PROJECT―
資料2:カンボジアの農民─自然・社会・文化─
J・デルヴェール著/風響社
資料3:アジア農業基礎調査(農民参加型水管理)調査報告書
2004年3月 独立行政法人 国際協力機構