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ミャンマーにおける野菜の生産・流通・貿易の現状

国際情報審査役付 上席調査役 河原  壽
調査情報部 調査情報第二課 吉田 由美


はじめに
 日本とASEAN諸国との間では、2005年4月から経済連携協定(EPA)交渉が開始されている。このため、国産野菜の価格安定と今後のEPA交渉の推進などに資するため、ミャンマーにおける野菜の生産・流通・貿易等に関する基礎的な調査を平成17年12月1日~9日にかけて実施した。本稿では、この調査の概要について報告する。

1 自然環境と気候
(1) 自然環境
 ミャンマーは、インドシナ半島の西部に位置し、西部はバングラディシュ、西北部はインド、北部は中国雲南省、東部はラオス、タイに囲まれた、国土面積676,577m3(日本の1.8倍)、人口53.22百万人(2002年10月現在)の国家である。

 その国土は、南北の三つの山々(アラカイン山脈、バゴー山脈、シャン高原)と南北の三つの川(エーヤワディー川(イラワジ川)とその支流チンドウィン川、シッタン川、サルウィン川)で区切られており、気候及び地理的には、西北高原地帯、シャン高原、中央、アラカイン及びタニエダーリ(テナセリウム)沿岸地域の四つに区分される。

 2004年の耕地面積は、1,079万haで国土の15.9%を占めるが、そのうち657万ha(国土の9.7%)が耕作可能な荒廃地となっており、開発の潜在力は大きい。
 また、エーヤワディー川、シッタン川、サルウィン川の三大河川の包蔵水量は大きく、現在不足している電力の水力発電による開発の潜在力も大きい。

(2) 気 候
 ミャンマーの三気候は、熱帯モンスーン気候に属し、夏季(2月末~5月中旬)、雨季(5月中旬~10月末)、冬季(11月~2月末)の三つの季節がある。
 降水量は、中部の沖積平野の低地で750mm、東部及び西部の山岳地帯で1,500mm、沿岸地域で4,000~5,000mmである。
 平均気温は、沿岸部及びデルタ地帯で摂氏32度、北部平野で摂氏21度である。

3 人 口
 人口は2002年10月時点で52,170千人で、その69%がビルマ人、シャン族やカレン族等の少数民族が25.7%、インド・パキスタン系が1.3%、中国系が0.7%、ヨーロッパ系等が3.3%となっている。宗教は、仏教が89.4%、キリスト教が4.9%、イスラム教が3.9%、ヒンドゥー教0.5%である。

 1983年の人口センサスによれば、ヤンゴン管区を除いた全ての州・管区において、70~86%の人口が農村地域の居住者となっている。

 また、人口増加率は、2002-2003年で2.02%であり、人口規模及び増加率からも国内需要をベースに経済発展が期待できる国である。

ミャンマーの人口

Source:Department of Population.

州・管区別人口(1983年人口センサス)

Source:Department of Population.

4 国民経済における農業
 近年の国民経済における農業部門は、農業灌漑省によれば、2002/2003年の総生産額では、畜産、漁業、林業を含む農業が55%を占め、労働力人口の約58%、農村人口の3/4が従事している主要産業となっており、輸出額の29%を占めるにすぎない。

 ミャンマーの産業構造は、稲作を中心とする農業が中心であり、貿易構造も、米などの一次産品を輸出し工業製品を輸入する段階にとどまっている。

産業部門別実質生産額
(1985-86~2000-2001年:1985-86=100、2001-2002~2002-2003年:名目)

(単位:百万チャット、%)

*At 2000-01 Constant Producers' Prices. Source:Planning Department.


国内総生産の成長率 (%)

Source:Planning Department.

(1) 国土利用
 国土面積6,766万haのうち、15%の1,027万haが農業用耕地として使用され、0.8%の51万haが休耕地、国土の半分を占める森林では、23%の1,529万が保護林、27%の1,816万haがその他森林、10%の657万haが政府開発計画の対象となっている荒廃地である。

 休耕地の一部は、地力維持のため輪作体系の一部として休耕されるが、現在では大幅に減少している。また、耕作利用可能な荒廃地も1980年代前半には耕作地面積とほぼ同程度の面積であったが、現在では大幅に減少している。このことは、人口の多くが農村部に居住しているため人口増加の多くが農村人口の増加につながっていること、作付け・農産物取引・価格の自由化による農家の価格インセンティブが活性化したため土地利用の拡大が進展したことが要因として推測される。
 一方、森林面積は、一時、外貨獲得のためチーク材が乱伐されたが、保護政策が実施され、増加傾向となっている。

土地利用  (単位:千ha、%)

p.a.=暫定地
出所:Settlement and Land Records Department.(1985-2003年)


(2) 農業就業人口
 1983年人口センサスでは人口の75.2%が農村部に居住しているが、労働省の労働力調査により部門別就業人口をみると、農業部門の就業者の割合は1990年で56.47%、2004年では65.87%と農業部門の割合は高い。また、農業部門の就業者割合は増加傾向であることから、人口増加分のほとんどは農業部門で吸収されている。

部門別就業人口
 (単位:千人)

Source:Department of Labour.
Source:Ministry of National Planning Economic Development, Review of The Financial,
Economic and Social Conditions for 1994/95

5 ミャンマーの農業
(1) 主要作物
 ミャンマーの主な農産物は、多様な気候と地形において、多様な熱帯・亜熱帯植物が栽培されている。
 主要穀物は、主食である米、麦、コーン、きび等の雑穀、輸出作物であるヒヨコマメや鳩豆などの豆類、ピーナッツ、ゴマ、ひまわり等の油糧種子、工業用作物では、綿、ジュート、ゴム、コーヒー、桑、パーム油などである。また、園芸作物は、熱帯・亜熱帯以外の地域で主に栽培されている。

 主要作物の中では、主食である米が減少傾向であるものの主要作物播種面積の40.2%を占め、主要輸出作物である豆類が18.9%、油糧種子が12.3%となっている。また、とうがらし、たまねぎ、にんにくを加えた野菜類は増加傾向であるが3.4%となっている。

主要作物の播種面積 (単位:千ha、%)



作物分類
穀  類:米、小麦、とうもろこし、きび
油糧種子:落花生、ごま、ひまわり、せいようあぶらな、からしな
豆  類:ブラックマッペ、緑豆、インゲン豆、ささげ、ヒヨコマメ、大豆など
飲料作物:コーヒー、さとうきび、くじゃくやし
香辛料及び調味料:とうがらし、たまねぎ、にんにく
野菜及び果実:じゃがいも、野菜類、バナナ、果実類
繊維作物:綿、ジュート、ケナフ
その他 :ゴム、ココナッツ、薬草、飼料など

(2) 経営規模別農家戸数
 1952年の「土地国有化法」によりすべての土地の所有権は国家に属するが、1963年の「小作人法(賃貸地法)」により、実際に耕作している者に耕作権が与えられた結果、地主・小作関係の一掃が図られ大規模経営農家が大幅に減少し小規模経営自作農家が増加した。特に、イギリス植民地時代にインドからの移住民により大規模稲作経営が行われていたエーヤワディー管区において多くの自作農が誕生した。

 しかし、「国家法・秩序回復評議会(SLORC)」政権下で市場経済化が進められた1989-90年以降の農家数及び経営面積をみると、人口増加にともなう休耕地、荒廃地の開発により全ての経営規模において農家数、経営面積は増加しているが、1989-90年から2003-2004年の14年間の全体の平均増加率(農家数0.9%、経営面積1.1%)を超える増加率を示している階層は、5エーカー未満及び5-10エーカーの階層、そして、50-10エーカー及び100エーカー以上の階層である。

 SLORCの市場経済化政策のもとで、作付け・農産物取引・価格等の自由化により農家の価格インセンティブが活性化した1988年以降においては農民層の分解による農民間の格差が拡大している、といえる。
農業灌漑省によれば、2003-2004年における耕作地1,027万haでは、約48千万戸の小作農等が平均耕地面積2.3haの規模で、また、総農家戸数の87%にあたる約42千万戸の農家が、耕作地面積の59%にあたる耕地において4.1ha以下の規模で農業を行っている。


農家戸数と規模別経営面積  (単位:千戸、千ha、%)

出所:Department of Planning, Ministry of Agriculture and Irrigation



6 野菜生産状況
 野菜の主要産地は、中部に位置するシャン州、マンダレー管区、マグウェ管区及び北部に位置するサガイン管区である。

 1996-1997年~2002-2003年における野菜播種面積は、全国ベースの平均増加率が9.5%と増加傾向である。地域別では、マンダレイ管区で微減となったものの、他の州・管区においては全て増加傾向である。

 最も増加率が大きい地域は、ラカイン州(23.4%)、次いでエーヤワディ管区(18.6%)、マグウェ管区5(15.6%)、カチン州(14.7%)、モン州(13.4%)、サガイン管区(13.0%)、カヤー州(11.4%)等である。特に、ベンガル湾に面したラカイン州の生産が急増しており、マグウェ管区に次ぐ産地となっている。

 注目されるのは、稲作の中心地であり1996-1997年現在で全国農産物播種面積の30%以上を占めていたエーヤワディ管区が、首都ヤンゴン(2005年11月ピンマナーへ移転)の発展を背景として、稲作の作付面積が減少し野菜及び果実の作付面積が大幅に増加していることである。エーヤワディ管区で増加している主な野菜は、トウガラシ、たまねぎ、アスパラガス、ユウガオ、すいか、だいこん、トマト、きゃべつ、カリフラワー、レタスなどである。

 品目別の播種面積の増加率をみると、ユウガオ、だいこん、レタス、すいか、カラシナ、アスパラガスなどが大きい。
 一方、単位収量の増加率が大きい品目は、レタス、たまねぎ、トマト、にんにく、だいこんである。


州・官区別野菜播種面積(含む、ばれいしょ) (単位:ha、%)

Myanmar Agriculture Service


主要野菜の収穫面積 (単位:ha)
出所:Settlement and LandRecords Department, 2005.

7 野菜輸出状況
 開放政策により、輸出額、輸入額は増加傾向となっているが、一次産品の輸出、工業製品や機会部品などを輸入する構造に変わりなく、慢性的な赤字構造となっている。

(1) 主要農産物の輸出入
 主な輸出品目は、米を主体とする農産物、近年では乱伐による資源の枯渇・森林保護政策への転換から減少傾向であるものの木材、豆類、水産物の輸出である。
 また、主な輸入品目は、工業製品や機械等の生産資材であり、農薬、肥料も中国やタイからの輸入されている。

 一方、国境貿易も増加傾向となっている。
中国雲南省との国境貿易は、ミャンマーの町ムセ(Muse)と雲南省の瑞麗(ruili)田宛町(wanting)などと、タイとの国境貿易は北はミャンマーの町タチレイとタイの町メーサイ(Mae Sai)、中部のミャンマーの町ミャワディ(Myawadi)とタイの町メソット(Mae Sot)、南部のミャンマーの町コートウン(Kawthoung)とタイの町ラノン(Ranong)などを通じて行われている。

 中国雲南省からは、繊維製品、農機具、医薬品、農薬、肥料などが輸入され、ミャンマーからは、米、海産物、果実、木材などが輸出されている。
 また、タイからは、家電、農薬、肥料、菓子類などの加工食品などが輸入され、ミャンマーからは、木材、海産物などが輸出されている。


(2) 対中国野菜貿易
 国境貿易が主体となっている中国との貿易は、統計が整備されていないこと、密貿易が多いことからその全容は把握できないが、中国海関統計を用いて生鮮野菜の輸出入動向を考察する。

 中国からのミャンマーへの輸出は、にんにく、ばれいしょが主体となっている。
 にんにくは、中部ミャンマーのシャン州タウンジー周辺が主産地となっているが、品質及び価格において優位性を持つ中国産ニンニクの流入により、ミャンマー産ニンニクの価格低下が大きな問題となっている。現在のところ、ミャンマー産の作柄により中国からの輸入量は多く変動しているが、現地調査では、中国産の流入により価格低下の影響が大きく今後の対策に苦慮していた。ニンニクの播種面積・生産量は増加傾向であるものの、価格低下により、今後、減産する可能性が大きい。

 また、中国産ばれいしょの輸入量も増加傾向にあり、にんにく同様に価格低下の影響は強く現れている模様であった。

 一方、中国への生鮮野菜輸出は、品目及び量は非常に少なく、中国輸出の主体であったミャンマー品種のたまねぎ(小たまねぎ)の輸出も、雲南省においてミャンマー品種のたまねぎが導入・輸出されるに従い、大幅に減少している。

中国の対ミャンマー生産野菜輸入数量・金額 (谷:t、千米ドル)

中国海関統計


中国の対ミャンマー生産野菜輸出数量・金額 (単位:t、千米ドル)


8 農業投資政策
(1) 農業部門への投資環境
 社会主義政権による中央計画経済の30年の後、ミャンマーは1987年に農産物の国内売買・加工・輸出の自由化を行った。主要農産物である米や砂糖、ゴム、綿、ジュートを除き、ほとんどの農産物は民間部門に自由化された。自由化の諸規定は、外国直接投資の流入を促進するための1988年「外国投資法」により定められており、当該法規で、初めて、100%出資の外国企業を認められた。

 また、1989年にタイとの国境貿易も合法化し、その後中国、インドとの国境貿易の合法化を経て、1994年にはバングラディシュとの国境貿易を合法化した。

 外国投資法においては、外国人の100%出資企業及び個人や公共法人との合弁企業が認められている。最低外国投資割合は合弁企業の場合では総資本の35%、また、最低投資額は、工場投資の場合は50万米ドル、サービス業の場合は30万米ドルである。

 主な優遇政策は、
(1) 法人税を生産開始から3年間免税
(2) 工場建設に関連して輸入する機械・部品に係る関税及び国税の免除または減税
(3) 工場完成後の3年間における商業用輸入原材料の関税及び国税の免除または減税
(4) 輸出で得た利益に係る所得税への最大50%の免除または減税
(5) 固定資産の加速度償却
(6) 課税所得からの調査開発に係る支出の控除の保証
(7) 損失が継続している3年間における繰越及び相殺損失の保証
である。

 また、外国投資法の発布に続き、ミャンマー投資委員会は、外国投資法の管理・運用諸規定を発布した。これにより、ミャンマー投資委員会は、外国投資の促進、外国投資の認可、外国投資計画への評価と助言、事前に決定された諸項目と条件の緩和と改正を行うこととなった。

 農業部門においては、経済全体の自由化に沿って、国により統制されている肥料や農薬などの農業資材の輸入・流通の統制が緩和され、民間の役割を拡大するため国からの農業資材への補助金が大幅に削減された。

 その輸入規制緩和の一つとして、肥料、農薬、種子、農業機械などへの輸入関税をなくした。加えて、外国投資家を含めた民間部門の参入が許可されただけでなく、開発可能な耕地の大規模造成が奨励された。

 外国投資法により、外国投資家は、政府から安価な金額により30年(協議により延長可能)の借地が可能である。

(2) 農業灌漑省における投資・貿易政策
 政府の市場優先政策に沿って、農業灌漑省は、農業部門において、民間部門(100%外国、または、政府や民間部門との合弁において相互に有益な貿易を可能とする投資を推進する外国投資家を含む)の参入を最大化するための政策を取っている。
 民間部門が投資できる分野は、次のとおりである。
・民間部門による、農業生産と輸出を促進する土地開発
・付加価値を高めた農産物工場の建設
・小規模な農業機械・機具工場
・肥料、種子、農薬などの農業資材や関連物資の生産、販売の推進
 農業部門への投資家は、企業及び農業灌漑省の傘下の農業計画局を通じて関連する部局と契約を締結することとなる。

(3) 農業生産と輸出促進のための土地開発
 農畜産業及び関連する企業の観点から、国有企業、合弁企業、協同組合などの組織や個人は、申請に基づき休耕地、荒廃地を耕作する権利が認められる。
 農業灌漑省の傘下の中央耕地管理委員会は、農畜産物の生産を目的とする耕地利用の権利取得のための手順を次のように定めている。

(1)外国投資家は、農業灌漑省を通してミャンマー投資委員会へ土地利用の申請を行う。
(2)中央耕地管理委員会は、規定された上限面積までの耕地利用の権利の認可を行う。
(3)50,000エーカーを超える耕地は、農業灌漑省を通じて内閣により承認される。
投資タイプ別耕地保有面積

(a) 農業
(1)プランテーション
5,000エーカー(2,023ha)
(2)果樹園 3,000エーカー(1,214ha)
(3)季節農産物 1,000エーカー( 405ha)

(b) 水産養殖、畜産
(4)水産養殖 12,000エーカー( 809ha)
(5)畜産
(aa)水牛、牛、馬 5,000エーカー(2,023ha)
(bb)羊、山羊 1,000エーカー( 405ha)
(cc)鶏、豚 500エーカー( 202ha)

(4)利用期間
 耕地利用期間は、当初から30年間の最長期間が認められる。この期間は、計画のタイプや活動状況に基づき、協議により延長可能である。

(5)年間レンタル料
休耕地での多年生作物 US$8-15/エーカー
湿 地        US$8-20/エーカー
乾燥地における休耕地 US$15-40/エーカー

注:上記のレンタル料は、所在地により変動し、申請された投資計画のタイプにおいても異なる。
 以上の他に、輸出する手続きとして商務省への申請(農業灌漑省の許可書の添付と輸出数量の届出・許可)に基づく輸出許可書の取得も義務付けられている。
 また、土地開発を行う場合においても、商務省が開発地域の斡旋を行うなど、商務省と農業灌漑省の業務が重複している模様である。

9 ミャンマーの輸出政策
 輸出は、米・豆が中心で、日本への輸出はゴマでは第1位、豆類が第3位となっている。
 中国、タイ、インドなどの大きなマーケットを背景として、長期的に計画生産を行う計画である。

 中国向け輸出にはすいか・マンゴー、インド向けには小たまねぎ・豆の輸出が多い。中国向けに関しては2006年1月から87の品目で関税が撤廃され、現在、砂糖とシルクの輸出を計画している。

 日本向けに関しては、マンダレーの新空港からボーイング747型機が飛行開始する予定で、日本まで6時間で結ばれることから、マンダレーからメロン・マンゴー、メイミョーから切花、特に菊の輸出を考えている。

 ミャンマー農業の比較優位性は、安価な労働力、豊富な土地や水であり、投資さえあれば開発が拡大する可能性が大きいことであるとしている。

 一方、最大の問題点はロジスティクスであるとして、パッケージングや輸送に関するノウハウ、冷蔵設備がないこと、リーファコンテナ設備がないこと等から、継続的に低コストで輸出できる環境にないとしている。また、日本への輸出に当たっては、インドネシア、シンガポールでのトランジットが必要なのが最大のネックとなっている。

 このようななかで、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの5ヶ国によるACMECS(エーヤワディ・チャオプラヤー・メコン経済協力戦略)が推進されている。

(1) ACMECS
 ACMECSは、タイ・タクシン首相の呼び掛けで加盟国間の経済格差の縮小や所得向上等を目指し、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーの4カ国で2003年11月に発足し、2004年4月にベトナムが加盟した経済協力集団である。

【ACMECSの戦略】
・参加国の国境地帯の経済的発展と成長のために競争力を強化する。
・農業関連産業(アグロインダストリー)及び製造業を比較優位性のある地域に移転させることで、自然資源を可能な限り活用されるよう支援する。
・雇用機会を創出し、所得格差を縮小する。共同で持続的な平和と安定、繁栄を促進する。
 現在、以下の六つの分野で協力事業を進めている。

(1) 貿易と投資の促進
 タイと加盟国間の貿易を促進し、加盟国の経済格差を是正する。
 タイは、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムから輸入される大豆、コーン、ばれいしょ、ユーカリ材などの農産物の輸入関税を免除。

(2) 農工業分野での協力契約農業プロジェクト
 タイ民間部門がカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムにおける農産物生産に参加し、公正価格での買取を支援するとともに輸入品への税制上の優遇を付与する。
 例:タイのウボンラチャタニ県―ラオスのチャムバーサック、サバナケートの契約栽培(きゃべつ、バナナ、トウゴマ、大豆、コーン、ピーナッツ、タマリンド)
 タイは、今後、キャッサバ、さとうきびなど、タイ国内でのバイオエネルギー生産用の原料となる経済作物の栽培を進める計画である。

(3) 道路等交通インフラの連結
 タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーの4カ国域内でのトラックパスポート(国境での貨物の積替をなくす制度)、ワンストップ通関(輸出入通関を1ヶ所で可能とする制度)などの輸出入手続きを簡素化する制度の導入、東西回廊・港湾整備による域内流通を整備

(4) 観 光
 シングルビザプロジェクト制度の導入
域内を観光する外人観光客を対象にした、5countries one destination projectによる域内観光の移動の円滑化。

(5) 人的資源開発
 奨学金制度などの創設

(6)保健衛生
 感染症の域内での流行防止と解決に関する協力

(2) タイのミャンマー、カンボジア、ラオス、ベトナムに対する投資の概要
ア 対ミャンマー
 中国が最大の投資国であるが、タイからは、石油・天然ガス・漁業・ホテル(観光関連)及びサルウィンダム開発の投資が行われている。

イ 対カンボジア
 エネルギー分野での協力が推進されており、両国国境を流れるサトウンナム川におけるダム建設が計画・調査されており、カンボジアのコッコン県とタイのトラート県に電力供給される予定である。

ウ 対ラオス
 輸出向け農産品加工原料用のトマト、さとうきび等の栽培。

エ 対ベトナム
 ホーチミン市を中心に、観光・ホテル、化学薬品、農産品加工工場、家畜飼料等への投資である。

(3) ACMECSとミャンマー農業
 2005年12月2日に開催されたタイとの協議において、農業分野では、タイ向けの農産物輸出を拡大するため契約栽培の導入を提案した。

 飼料用トウモロコシや大豆、落花生などをタイが優遇関税で輸入し、周辺国の契約農家の所得向上を狙う。タイ側は省エネルギーを推進するため、バイオ燃料の原料となるタピオカやパームの栽培も働き掛ける方針であった。

 ミャンマーで契約栽培される予定品目は、豆(マペ・大豆)、飼料用とうもろこし、さとうきび(エタノール・砂糖用)、キャッサバ(タピオカ)、さといも、パームヤシである。
 現在、ミャンマーとタイの国境付近における適地を調査中であるが、4~5万エーカー(1.6~2万ha)規模となる計画であった。

(4) 輸出手続制度
 ミャンマーの輸出管理制度は、国民生活にとって重要な品目では国内需給バランスを前提にして厳しく管理するものとなっている。

(1) 1997年から実施されている「Export First Policy」と呼ばれる制度に基づき、輸出を行う者は外貨預金残高を持つ者でなければならない。したがって、外貨預金残高を持たない者は利用料を支払って外貨預金残高を持つ者の名義を借りて輸出を行っている。
(2) 関係省庁の推薦状取得の義務。
(3) 関係省庁の推薦状に基づき商業大臣の許可証申請(生産計画と出荷量の確認等)・取得の義務
(4) 輸出税10%(FOB価格の10%(所得税2%+商業税8%)が課税される。
 このほかに、米、米ぬか、くず米、豆、竹など国内価格と国際価格に大きな価格差がある主に農産物は過剰輸出を防止するために輸出関税が課税される。
(5) 輸出入手続きは、1つの取引ごとの許可制であり、煩雑な手続きを繰り返す必要がある。

 なお、農産物の場合、(2)の関係省庁の推薦状取得は農業灌漑省となるが、農業灌漑省は、既存耕地で栽培された農産物は、国内供給向けとして出荷され、需給の安定に不可欠との考えから原則的には推薦状を出さない(許可しない)。輸出できるのは、森林伐採あとの荒地などの新規開発耕地で栽培され国内需給に影響が少ない産物とされている。

10 ミャンマーにおける農業開発の問題点
(1) 道路等の交通インフラ
 交通インフラは、英国植民地統治時代に比較的整備されたが中国との貿易を目的にした整備であったことから、比較的南北インフラは整備されているものの、東西インフラは貧弱なものとなっている。

 しかし、南北の幹線道路も山道などでは道幅も狭く、簡易舗装であることから補修が必要な箇所も多い。

 経済発展にしたがい、道路インフラが産業発展のボトルネックとなることは確実であり、老朽した設備のリハビリ、東西道路インフラの整備拡充が急務となっている。

 特に、タイとの農産物原料の輸出は拡大が期待される中、東西回廊(ベトナム・ダナン~ラオス~タイ~ミャンマー・モーラミャイン、全長約1,500km)整備を最優先とした東西道路インフラの整備拡充が急務である。
 また、村単位などでの交通料金の徴収があり、輸送経費が割高となる問題がある。

(2) 輸出入制度
 「Export First Policy」やライセンス取得など、輸出入制度が煩雑で、制度変更が頻繁に行われる。

(3) 多重為替制度
 ミャンマーは、1977年以降、チャットをSDR(IMF特別引出権)に固定(1SDR=8.50847チャット)でリンクさせ、意図的にチャットの過大評価政策をとっている。これは、国営企業が多くの資本財や部品を安価に輸入するための保護政策が背景となっている。

 現実には、実勢レートが闇市場で形成されており多くの貿易は実勢レートで取引されている。
 しかし、外国資本が投資をする場合、ミャンマー投資委員会へ認可申請を行うことになるが、その出資額は公式レートに基づいて算定されるため実勢レートとの乖離(公式レート1$=約6チャット、実勢レート1$=900~1,000チャット)が追加費用として発生する。

 現在の海外投資は、チャットを介せず、直接ドル収入が得られるホテル、天然ガス、水産業などの資源開発が中心である。
 
 外国投資を促進させるためにも、チャットの実勢レートに基づく切り下げ、もしくは、公式レートの廃止が重要な政策課題となっている。

(4) その他の問題点
 企業経営における最大の問題点は、コスト価格計算が難しいことであろう。
 国内流通は、道路インフラなどの問題を抱えながらも主要野菜産地である中部地域―ヤンゴン間等においては活発である。

 しかしながら、2005年10月20日、原油価格高騰から政府はガソリン公定価格を1ガロン(約4.5リットル)180チャットから1,500チャットへ8倍以上に引き上げ、また、水道料金も約10倍に値上げされるなど、予告なく実勢される重要な政策が多い。

 原油は、外貨準備残高を考慮し輸入されており年度末はタイトになる傾向がある。価格上昇も企業経営にとって問題だが、その調達も難しく、電力供給が不安定な中で、自家発電用ディーゼル燃料の量的確保が難しい、などの問題がある。

11 主要産地の概要
(1) メイミョウ(MAYMYO)農家の事例
ア 農家の概要
 親戚や近所の遊休地を買い上げて農場を拡大しており、さらに近隣の高地にある荒廃地への拡大を行っている篤農家。経営は、母親と兄弟の3人で行っており、長男が農業を担当し、次男が運送・ブローカーを担当し、母親はパッケージを担当している。年間の純利益は$5,000(一人$1,670)と一人・月当たりの純収入では約140,000チャット(実質レート換算)となり高収入を実現している農家である。

経営規模:9エーカー(相続農地7エーカー+新規購入2エーカー(村人、ヤンゴン在住の妹))
家族労働力:3人(母親=パッケージ担当、兄=農業、弟=運送、ブローカー)
雇用労働:20人/日(年雇、1人=1,000チャット/日)
栽培品目:菊の花、たまねぎ、はくさい(年5作)など

イ たまねぎ栽培の概要
品 種:スーパーレックス(日本種)
生育ステージ:播種 11~12月、定植 12月下旬~1月、収穫 3~4月
単位収量:15t/エーカー(3.7t/ha)
生産コスト:$120/エーカー(うち種子代$40)
輸送経費:メイミョウ→ヤンゴン75チャット/kg(輸送時間:24時間)
ヤンゴン卸売価格:450チャット/kg スーパー小売価格:1,000チャット/kg



たまねぎほ場(水不足で定植が遅れる)


菊ほ場



(2) チャウセ(KYAUSE)近郊小たまねぎほ場
播種:10月中旬 定植:12月5日 収穫:3月下旬 単収:20t/エーカー



播種:10月中旬 定植:12月5日 収穫:3月下旬 単収:20t/エーカー


(3) KUME近郊ミャンマーたまねぎほ場
ア 農家の概要
経営規模:10エーカー(相続農地+購入農地)
家族労働力:姉弟の2人(弟は村長)
雇用労働力:20人/日(定植などの臨時雇用、1人=300チャット/日)
栽培品目:12月~3月たまねぎ、4月~7月黒ゴマ

イ たまねぎ
品 種:小たまねぎ(自家採取)
生育ステジ:播種 10月、定植 12月5日、収穫 3月末
単位収量:20t/エーカー(4.9t/ha)
損益分岐点:120チャット/kg
ブローカーへの販売価格
2004年150チャット~240チャット/kg
2005年350チャット/kg



たまねぎほ場


定 植


(4) AUNGBAN産地集荷場
 シャン高原の南西に位置する標高1,320mの野菜産地。たまねぎ、キャベツ、ブロッコリー、ネギ等を栽培している。少数民族ポポ族が生活する地域。



しょうが:買付価格500チャット/kg
ヤンゴン販売価格700チャット/kg


じゃがいも:買付価格250チャット/kg
ヤンゴン販売価格:300-320チャット/kg


(5) PINDAYA キャベツ産地集荷業者
 シャン高原の南西、AUNGBANの北に位置する標高1,176mの産地で、キャベツの周年栽培、ゴマ、小麦等が栽培される地域。
 調査を行ったキャベツ産地集荷業者は、農地1エーカーで農業を営むとともに、種子・肥料を提供し栽培を依頼・買付ける兼業農家。
・品 種:タイ・チャタイの558等、購入価格10,600チャット(約318円)/100g
・生育ステージ:播種8月末~9月 定植10月 収穫12月
播種4月定植 5月 収穫7月末~8月
・農家損益分岐点:70チャット/個(1.8~2.5kg)-種子+肥料15チャット=55チャット
・AUNGBANブローカーへの販売価格
 2005年5月:150チャット/個(農家買付価格100チャット/個)
→ヤンゴン価格200~300チャット/個
 2005年12月:50チャット/個(農家買付価格35チャット/個)
→ヤンゴン価格100チャット/個
・ヤンゴンへの流通経路
 PINDAYA→AUNGBANブローカー→YANGON(16~18時間)
経費:2004年ガソリン値上げ前40チャット/個→2005年12月75チャット/個
 AUNGBAN全体では、最盛期にはトラック20台/1日(トラック1台8,500個)出荷される。



ブローカーによる農家からの買付け


トラックによる買付け・集荷


(6) PWELAキャベツ産地集荷業者
 シャン高原の南西、AUNGBANの北、PINDAYAの南に位置する標高約1,200mの産地で、キャベツの周年栽培、小麦等が栽培される地域。
調査を行ったキャベツ産地集荷業者は、種子・肥料を提供し栽培を依頼・全量買付けるブローカである。
・単 収:7,000~8,000株/エーカー(10,000株/エーカー)
・2005年販売価格40チャット/個(農家買付価格:15(S)~30(L)チャット/個)
・流通経路
 PWELA→YANGON(トラック輸送18時間)
経費:70チャット/個



日本の中古トラックが多い。故障が少ないので人気がある。
巻きのしまった硬いキャベツが好まれる。


(7) AUNGBAN近郊キャベツほ場
買付価格が安く、廃棄される予定であった。



YWANGAN Village キャベツほ場


KYONE Village キャベツほ場


(8) Lake INLEトマト水上栽培
 シャン州の省都TAUNG GYIの南、標高1328mに位置する、南北22km東西12km(乾季:南北15km東西6km)の湖で、水深は深くても6m(乾季:2m)と浅く、アシなどの水草が繁茂している。
 Lake INLEでは、1,000戸以上の農家が、水草を培地としてトマト、キュウリ、ナス、豆類などを栽培している。Lake INLEでは、在来種の栽培が主体であったが、現在ではタイ・チャタイなどの海外のF1品種による栽培である。
 農薬販売店の調査では、F1品種の栽培の増加にともない農薬・肥料使用量も増加している模様で、深刻化する害虫被害、収量の減少、水質汚染が深刻な問題となっていた。
 また、トマト栽培農家の調査では、害虫防除のために一週間に1回は農薬を散布しており、また、使用する農薬も、海外からの輸入農薬を有効成分の確認なく使用されている状況である。調査時において一番売れている農薬の有効成分は、CHLORPYRIFOS 20%、PHOSPHOROTHIOATE 80%であった。
 地方政府も、この事態を重く見て、研修会による農民指導を行っているが、農薬知識は浸透しておらず、近隣の農家が散布すれば自分も散布せざるを得ない状況であった。

【トマト栽培】
・生育ステージ:4月播種→6月~10月収穫 / 11月播種→1月~5月収穫
・品 種:Seminis vegetable seed F1.5g=3200チャット
 CHAI TAI HERICANE6465g=2900チャット
 CHAI TAI TXPHOON387.5g=2900チャット
(農民が導入しやすい5gパック)
・輪作体系:トマト→きゅうり→豆→とうがらし→なす→ニンニク→菊



水上トマト栽培


(9) TAUNG GYIたまねぎ、にんにくほ場視察
TAUNG GYIは、標高1,430mのシャン州の州都。ミャンマーの最大のニンニク産地であり、生産量は全国の70%を占める。



高温対策として藁を敷き詰める


播 種


(10) YANGON市内のバザール



ミャンマー各地から豊富な野菜が入荷している。


 



(参考文献)
1)桐生稔・西澤信善「ミャンマー経済入門」日本評論社 
2)井田浩司「ミャンマーの産業発展の可能性と課題」アジア経済研究所
3)井田浩司 「アジ研選書No.1メコン地域開発 残された東アジアのフロンティア」第9章 アジア経済研究所
4)ジェトロセンサー「特集 メコン開発がインドシナの物流を変える」2006年2月号
5)桐生稔「ミャンマーの農業」(社)国際農林業協局協会 1996年2月
6)「ミャンマーの農業と農業諸機関の現状」(社)国際農林業協局協会 1993年3月
7)Central Statistical Organization“Statistical Yearbook 2003”
8)Ministry of Agriculture and Irrigation“Agri-Business Opportunities[2005]”
9)Ministry of Agriculture and Irrigation, Market Information Service Project“Agricultural Marketing in Myanmar”
10)Ministry of Agriculture and Irrigation“Myanmar Agriculture in brief”
11)Ministry of Agriculture and Irrigation Department of Agriculture Planning“Myanmar Agriculture 2005 AT A GLANCE”




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