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中国上海市、浙江省、雲南省、福建省
における野菜生産・輸出動向

国際情報審査役付 上席調査役 河原  壽
野菜業務第二部契約取引推進課 課長補佐 田崎 剛毅


 平成17年11月3日(木)~16日(水)において行った、上海市、浙江省、雲南省、福建省におけるたまねぎ等の野菜生産・輸出動向、労働者賃金をめぐる生産コストの動向および輸出公司における対応状況の調査結果を報告する。
 
 1 要 旨

1 労働者賃金および生産コストの動向と輸出公司における対応状況

(1) 労働者賃金の動向
 1億3千万人とも言われる中国の余剰労働力問題は解決してはいないが、沿海部においては、近年の中国経済の急成長にともない工業製品等他産業の工場が増えており、食品加工工場や農場における労働力確保が課題となっている。

 さらに、経済発展により生活水準が上昇するとともに、政府が定める最低賃金の上昇、失業保険・医療保険・傷害保険・養老保険(4金)への加入の厳格化・料率アップなど、政府における従来の輸出企業優遇政策から労働者保護政策への転換により労働福祉面でのコストも上昇している。

 また、賃金は、地域の産業の発展状況、労働者の移動状況によってもその差異は顕著となっている。

 様々な産業の工場が建設され、かつ、地方からの労働者が流入している地域では、賃金の上昇とともに労働福祉面及び労働調達コストの上昇が顕著にみられる。一方、他地域からの労働力の流入が少ない地域では、農業労働者(播種~収穫)及び加工工場労働者賃金の上昇が大きい。

 中国農業部農村経済研究中心の 光明 科研管理所長によれば、「これからも人を集めるのは厳しい。「一人っ子政策」で適齢人口が減少しており、また、農民も子供を中卒から高卒にするなど長く学校へ行かせるようになっている」状況であることから、職場環境が他産業より厳しい農産物加工工場の労働者賃金は、西部地域を中心とした豊富な労働力があるとはいえ、工業化が急激に進行している南部地域の電化製品工場等に比べ「労働者の吸引力が劣る」ことから、今後も上昇傾向となると推測される。

 なお、労賃の安価な中部・西部地域における新たな産地開拓は、道路などのインフラ整備、ほ場の管理・運営に係る人的資源開発等の大きな問題があり、現段階では、生産体制の効率化の方が優先されている。

(2) 生産コストの動向
 経済発展に加え、原油価格の高騰により、包装資材、ハウスのビニール資材等の価格が上昇しているが、中国国内の競争が激しく、農産物の価格に転嫁するのは困難な状況にある。販売高が横ばいで推移している中での生産コストの上昇は、利幅がますます圧縮され、輸出公司の淘汰も進むと推測される。

 一方、電力の状況は、季節により異なり、冬季は、暖房用として主に石炭が用いられることから電力供給は安定しているが、夏季は、冷房用の需要が多く不安定になる傾向がある。

 電力供給は地域的格差が大きく、水力発電は主体である福建省や雲南省では、旱魃による水不足により電力不足が発生するものの比較的安定している模様であり、また、電力不足が顕著な浙江省慈渓市では発電所が建設されるなど、停電が多かった2004年と比較すると2005年は安定している模様である。

(3) 輸出公司における対応状況
 一方、輸出公司では生産コストの上昇に対して、
・出荷調製作業の機械化による労働者の削減・製品率のアップ
・出来高払と作業グループの連帯責任による作業管理面での効率化
・電力が安価で安定している時間帯への作業時間のシフト
・付加価値の高い製品の導入
などにより、生産コストの抑制を図っている。

 なお、江蘇省たまねぎ輸出公司では、たまねぎの出荷調製(皮むき)作業において、従来、採用していた圧搾空気による皮むき作業は、「手むき」に比べ歩留まりが低いこと、また、調査地点の電力供給が不安定で作業効率が落ちるリスクが大きいこと、労働者賃金と同様に電力料金も上昇していることから、手作業に戻すことでコスト削減を行っている。このように品目や電力等の状況により、コスト削減への対応は異なっている。

2 「元切り上げ」の影響
 2005年7月21日の米ドルに対する元の切り上げは、上げ幅が「2.1%」と小さく、また、調査時期は円安が進行していたこともあり、調査先では「元切り上げ」に対する差し迫った意識は小さく、むしろ円安の影響が大きいとしていた。

 しかし、今回の切り上げで利幅の小さな品目では赤字となるとも聞かれ、また、いずれの調査先でも切り上げが「2.1%」でとどまるとは考えていない。今後、輸出企業の淘汰等影響が出てくるものと推測されていた。

 一方、浙江省の大規模冷凍食品公司では、10%以上の切り上げとなると輸出企業に対して短期的な影響があるが、長期的にはコスト削減や為替変動リスクヘッジにより克服できるとの見方もあった。

3 輸出国の分散化
 近年では、日本で残留農薬が確認された場合、中国国家質量監督検査検疫総局(CIQ)は、中国全土の輸出公司に対し、CIQの支局を通じ、農薬管理強化の指示と各地方CIQにおける検査強化を行うのが通常となっている。また、時には輸出停止を指示する。

 従って、自社における農薬管理・検査体制の強化を推し進めても、他の省の輸出公司において残留農薬が確認された場合でも、同様の措置をうけることとなる。

 このことから、調査を行った多くの輸出公司では、日本への輸出を主体にしながらも、米国、韓国、東南アジア諸国への輸出を拡大させ、輸出の安定を図っている。

4 たまねぎ生産状況(福建省・雲南省)
(1) 福建省
 浦県における2005年たまねぎ作付面積は、2004年産の国内価格及び輸出価格の暴落により、2004年10,000ムから3,000ムと大幅に減少している。調査を行った赤湖鎮は、たまねぎの主産地であるが、2005年は栽培を行っていなかった。

 福建省産たまねぎは、水分が多く形状も悪いことから、近年、福建省産に比べ価格が安く品質も良い雲南省産が増加している(2005年は同様の原因から作付面積減少)。福建省産は、甘粛省と雲南省の端境期となる1月~2月の出荷を主体にした栽培に移行している模様。今後の冬季の主要産地は、福建省から雲南省に移行することも考えられる。

(2) 雲南省
 楚雄市元謀県における2003年、2004年の播種面積は38,000ムであったが、ブローカー買付価格が2003年の8.0元/kgから2004年には2.2元/kgと暴落したため、2005年の播種面積は11,000ムと大幅に減少している。

 国内出荷および輸出ルートは、農家が搬入する地元の自由市場におけるブローカーの買付けが主体となっており、ブローカーの農家直接買付けは少ない。

 輸出は、主に山東省の輸出公司による産地買付け、山東省輸出公司への鉄道輸送・再選別にて日本等へ輸出されている。近年では、水分の多い福建省産に代わる産地として輸出も拡大傾向の模様である。

5 白ねぎ生産状況(上海市、福建省)
(1) 上海市
 2005年8月、9月に上陸した台風によるほ場の冠水により、一部のほ場で生育のばらつきがみられるが、全体の収穫量への大きな変化はない模様。むしろ、2005年の輸出価格低迷により作付面積の減少し生産量が減少することが懸念されていた。

 今回の台風による影響は、むしろ安全対策において大きい。

 即ち、浙江省に隣接する上海市南部の稲作地帯においては、病虫害が多く発生したため広範囲において農薬が多量に散布された。このため、上海市国家質量監督検査検疫総局では輸出野菜ほ場への影響の懸念から、残留農薬検査回数を増やすなど、検査体制を従来より厳しく行っている模様であった。

(2) 浙江省杭州市簫山区
 調査公司では、ほ場が地方政府による排水設備が整備された地域にあること、有機肥料に切り替えることで生産の安定につながったこと、補植を行ったことにより平年の収量を確保した模様であったが、白ねぎは、台風による倒伏の対処を行う必要が生じたとのこと。

 しかし、地域全体では害虫の発生、白ねぎでは倒伏などにより20%以上の減収となった模様である。

(3) 福建省
 浦県における2005年ねぎ播種面積は、2004年産の国内価格及び輸出価格の暴落により、2004年50,000ムから30,000ムと大幅に減少している。また、作柄は、一部ほ場の冠水による被害が発生したが、補植により収穫量は平年並みが予想されている。しかし、収穫時期は、その後の高温の影響もあり、平年の20日~1ヶ月の遅れが見込まれ、12月初旬からの出荷は12月末まで遅れる見込みであった。

 浦県におけるねぎ生産は、主に民間公司の大規模な産地開発により行われていることから、今後も、冬季の主産地として安定的に輸出される産地であることに変化はないと推測される。


2 調査結果の概要

1 上海浦東区輸出公司
 上海浦東区は、長江の中流・下流の平原の一部に位置し、耕地面積約17.7万ム、12の鎮の地域。主要作物は、水稲、小麦、綿、搾油用の作物、野菜であり、上海市内や全国の主要な農作物の供給産地となっている。また、区政府は、稲、麦等の食糧生産から野菜生産の推進等の構造調整を進めている。

 調査公司は、上海浦東区、上海市の東南に位置する上海市浦東臨空輸出農業園区に位置し、2002年に3,000万元の出資(食品加工を行う親公司51%、当該公司総経理49%)により設立された。

 調査公司では、浦東新区内に位置する借地農場(鎮政府仲介)と合作農場(栽培委託農場)及び浙江省・遼寧省に建設した自社生産基地からなる生産基地8,000ムにおいて、キャベツ、白ねぎ、ブロッコリー、レタス、青ねぎ、輪作のための水稲を栽培しており、夏季においては東北地域での栽培・上海市での販売、冬季においては上海市・浙江省での栽培・東北地域での販売と、輸出向けに加え国内販売も行っている。

 日本向(2,000ム)では、キャベツ、ブロッコリー、青ねぎを栽培・輸出している。
なお、合作農場では、安全性を確保するため種子・農薬・肥料・農業資材等を供給し輸出用野菜を栽培するとともに、国内販売用の有機野菜を栽培している

(1) 白ねぎの生産の動向
 2005年8月、9月に上陸した台風によるほ場の冠水により、一部のほ場で生育にばらつきがみられるが、全体の収穫量への大きな変化はない模様。むしろ、2005年の輸出価格低迷により作付面積の減少による生産量の減少が懸念されていた。 一方、長江の河口部に位置する崇明島における台風の影響は他地域とくらべ軽微である模様であった。

 今回の台風による影響は、むしろ安全対策において大きい。

 即ち、浙江省に隣接する上海市南部の稲作地帯においては、病虫害が多く発生したため広範囲において農薬が多量に散布された。このため、上海市国家質量監督検査検疫総局では輸出野菜ほ場への影響の懸念から、残留農薬検査回数を増やすなど、検査体制を従来より厳しく行っている模様であった。

(2) 労働コスト等の上昇と対策
 労賃は、上海市労働法で定められた最低賃金の上昇、上海市における生活水準の上昇を背景として毎年20~30%上昇し、また、工場労働者が他産業へ吸収されていることから労働者を集めるための宿舎や食堂等の設備充実への投資も必要になっている。

 さらに、近年は、上海市政府の輸出企業の優遇政策から労働者保護政策への転換により、失業保険・医療保険・傷害保険・養老保険(4金)への加入の厳格化、料率アップなど、労働福祉面でのコストも上昇している。

 一方、その対策は、「白ねぎ」などでは、出荷調製作業の機械化による労働者の削減、製品率のアップにより対応するとともに、出来高払の採用と作業グループによる連帯責任による作業管理面での効率化、電力が安価で安定している夜間に作業をシフトする、付加価値の高い製品の導入などにより単位当たり人件費の抑制を図っている。

 また、労働者の確保では、過去に雇用したことのある労働者のリーダーに電話をする勧誘、公募や労働仲介所により確保している。なお、労働仲介所の仲介料は、一人当たり10~100元と、仲介する人数等により開きがある。



生育ステージ
播種:3月中旬~4月中旬 定植:5月下旬~6月下旬 収穫:11月中旬~3月下旬
平年収量:2~3t/ム

2 浙江省慈渓市
(1) キャベツ、ブロッコリー産地
 浙江省の北部、杭州湾に面するキャベツ、ブロッコリー等の産地で、大規模冷凍工場があり、その原料野菜を契約栽培等により供給するとともに、地元ブローカーにより省内外から買付けに来る公司へ販売(輸出用も含む)されている産地である。

 しかし、調査を行った鎮では、2004年から鎮政府が16,000ムの農地に位置する4公司に対し、農家への種子などの資材提供(販売)、技術指導、買付け・販売を行うことを条件に、加工場、保冷施設の建設に助成金を交付するとともに、1,000万元以上の売り上げを達成した公司には3%の税金を1.5%に減免する振興策を行っている。このことから、従来の地元ブローカー主体による集荷・販売から、鎮政府が助成している公司による集荷・販売が主体になっていた。

ア キャベツ・ブロッコリーの生産動向
 2回上陸した台風の影響により収穫が半月程度遅れ、キャベツの単位収量(規格品)も通常2~3t/ムから1.5~2t/ムに減少し、ブロッコリーの単位収量は補植により平年並みの0.8t/ムが見込まれていたものの、収穫が2月以降になるほ場では、害虫の発生が多くなることから、規格品の単位収量は20%程度の減収が見込まれていた。一方、冷凍用ブロッコリーの主産地で日本輸出向けの約50%を占めるとされる浙江省臨海においては、台風の影響により40%程度の減収が見込まれていた。
 また、ブロッコリーの補植が一斉に行なわれたことから、種子価格が3倍強にまで上昇したとのこと。

イ 浙江省慈渓市野菜産地の安全対策
 当該産地における残留農薬への対応は、地元鎮政府の農業公室が行っている。
 地元鎮政府農業公室は、村の幹部や生産規模の大きな専業農家を参集し、講習会を開催することにより、禁止農薬等の指導を行っている模様である。一方、村の幹部は、村民小組(村の自治組織)の組長を指導し、村民小組長が農民を指導するとのことであった。



キャベツの生育ステージ
播種:8月下旬 定植:9月中旬 収穫:11月中旬~3月中旬
平年収量:4~5t/ム

 
 


ブロッコリーの生育ステージ
播種:8月 定植:9月 収穫:11月下旬~3月下旬
平年収量:0.8t/ム

(2) 浙江省慈渓市冷凍野菜輸出公司
 冷凍、乾燥、調理食品を生産・輸出(2005年見込み$5,000万)する公司。2003年までは製品の80~90%が日本に輸出されていたが、残留農薬等の安全性等の問題から安定した輸出を行えない状況から輸出国を分散化させており、2005年では輸出金額の60%が日本、30%が欧米、10%が中東・韓国であった。

 また、2001年までは600ムの直営農場(自社生産基地)と買付けにより原料を調達していたが、安全性の確保のため、2002年から公司が防除担当者を雇用し農薬供給・利用の管理を行う6つの加盟農場(契約栽培)を立ち上げ、2003年は近隣の鎮政府が経営規模50ム~100ムの大規模農家へ貸し付けていた旧開拓地4,000ムを借地期間15~30年、地代200元/ムで借地し、300万元の投資で水路、電源、道路、建物などのインフラを行い自社生産基地を拡充している。

 2005年現在では、自社生産基地5,000ム、公司職員が農薬等の栽培管理を直接行う契約栽培基地45,000ム、加盟農場20,000ム、郷・鎮の傘下の農業技術普及ステーションに栽培を委託する契約栽培25000ムの大規模冷凍食品公司となっている。

ア 安全対策
 当該公司では、農薬の管理を可能な限り直接公司が行う体制を確立している。
 加盟農場では、調査公司への加盟に当たり

 ・団地化された300ム以上の農場
 ・契約文書の内容が理解・履行できるなどの能力
 ・公司の導入する新しい技術等への対応力
 ・公司に対する協力の履行義務能力
の審査が行われる。

 生産に当たっては、加盟農場では、生産計画(品種、数量、価格、規格、購入時期等を決めた1年契約)に基づき、種子、農薬、肥料等が供給(販売)され、公司が雇用した防除担当者(500~600元/月の給与)による農薬・散布の管理及び栽培マニュアルに基づいて栽培される。さらに、公司食品安全弁公室(検査・監督・栽培指導の責任部署)の下、大学農学部卒業生によるマニュアルに基づく栽培記録を、毎日、又は、1日おきに現場で作成するとともに、定期的な農民の研修が行われる。

 また、栽培実績の評価制度により改善指導や場合によっては除名もある。

 現段階では、公司全体で使う原料の90%は公司が直接・間接に管理された農場から集荷出れるが、10%はスポットでの買付けである。これはリスクが高く、検査を増やす必要もあるため、今後は減少させる方向である。

イ 労働コスト等の上昇と対策
 労賃は、最低賃金が12%(500元/月から560元/月)上昇したこと、当該地域では産業が発達し兼業が増加していることなどを背景に農民人口が減少しており労働条件を改善(自宅・工場間の交通費の支給等)しなければ労働者が集まらないことから、対前年比25%の上昇となっている。

 また、エネルギーと原材料価格も上昇している。対前年比で、エネルギー関連が20%、ダンボールが5~10%、ビニール等包装資材が20%上昇したとのことであった。

 一方、生産コスト上昇に対する対策は、エネルギーと原材料価格の上昇に対して、工場事務室の温度を上げること、電気代が時間帯により異なる(0.6元/kwh~2元/kwh)されているなかで従業員の食事時間を午前にシフトさせ電気代の安い11~13時に工場を稼動させること、などにより生産コスト上昇を10%に抑えている。

 また、労働賃金の上昇に対する対策は、職員の研修による労働者一人当たりの生産性向上、可能な限りの機械化、レトルト食品等の加工度が高く付加価値の高い製品の開発である。



【加盟農場の事例】
 農場主は、農業のかたわら電気技師を行う兼業農家であったが、1999年に村が他の地域の農民に貸与していた100ムの農地を貸与期間終了にともない、地代150元/ムでこの土地を借地し農場経営を開始した。そのさい、慈渓市・地元鎮政府から200元/ムの補助金が支給されており、現在までの自己投資額はハウス10ムの建設費800,000元だけであった。なお、営農に必要な流動資金は20,000元とのこと。

 現在の経営規模は650ムまで拡大しており、雇用は多い時で50~60人、調査時では20人で、安徽省からの出稼ぎ労働者であった。賃金は、2004年の25元/日から30元/日に上昇しており、農繁期には40元/日~50元/日となる。食費以外の住居や電気代は農場主が支払っている。

3 浙江省杭州市簫山区公司
 調査を行った地域は、浙江省の省都である杭州市の区に属する鎮に位置し、杭州市の工場等に勤務する兼業農家が多い都市近郊農村地域である。また、当該鎮は20年前の国営干拓事業により造成され、農家は干拓地に入植し生産を請け負っている。このことから個々の経営規模は50~100ムと大きい。

 さらに、当該地域では、1997年、1998年の農産物価格低落により小規模農家の生産意欲が低下、農家間の賃貸借が進行し特定の農家に農地が集積されたことから、現在の大規模化した農家の経営規模は800~1,000ムとなっている。

 一方、調査公司では、区政府の指導により村単位で集積・団地化された農地を、村から請負期間15年で合計8000ム借り受け自社生産基地を建設している。

 品  目  播種面積  単位収量
アスパラガス  2,000ム  1,000kg/ム
白ねぎ     1,500ム  4,000kg/ム
キャベツ    1,500ム  4,500kg/ム
ブロッコリー  1,000ム  2,500株/ム

(1) 生産動向
 調査公司では、ほ場が地方政府による排水設備が整備された地域にあること、有機肥料に切り替えることで生産の安定につながったこと、補植を行ったことにより平年の収量を確保した模様であったが、白ねぎは、台風による倒伏の対処を行う必要が生じたとのこと。
 しかし、地域全体では害虫の発生、白ねぎでは倒伏などにより20%以上の減収となった模様である。

(2) 労働コスト等の上昇と対策
 化学肥料と労働コストが上昇している。
 2004年との比較では、複合肥料が33.3%(2004年90元/袋(50kg)→2005年120元/袋)、ビニールが66.7%(9,000元/t→15,000元/t)上昇し、労賃が、夫婦長期雇用のほ場作業労働が33.3%(45元/日→60元/日)、日雇ほ場作業労働が女性で60%(25元/日→40元/日)、男性で71%(35元/日→60元/日)、出荷調製労働者で33.3%(3元/時間→4元/時間)と上昇している。

 また、福祉面においては、労働環境の改善や食事手当の支給など、実質的な賃金上昇となっている模様であった。

 一方、対策としては、国内の競争が激しく価格への転嫁は難しく、利益幅の少ない品目から大きい品目への転換を考慮するものであった。



白ねぎ 
播種:4月、定植6~7月、収穫11月末、品種:元藏

 
 


ブロッコリー 
播種:8月初旬、定植:9月、 収穫:11月 品種:緑雄95(日本品種を改良)

 


キャベツ
播種:7月末~8月中旬、定植:9月初旬~中旬、収穫:11月~、品種:美貌

4 雲南省楚雄市元謀県産地(村)
 雲南省の省都である昆明市の北部に位置し、中国国内の冬季の野菜・果実の産地として全国に出荷されるとともに、ロシア、日本、韓国などに輸出している。

 冬季の野菜作付面積は200,000ム、出荷量は15~20万t、金額1.2~1.8億元で、雲南省から出荷される50%が元謀県から出荷されている。

 トマト、たまねぎ、いんげん、きゅうり、竜眼、ざくろ、なつめの生産基地においては無公害野菜の認証を得ており、2006年からは北京市中関村と無公害農産物を出荷する契約を締結している。

 また、近年、山東省輸出公司による「ごぼう」の産地開発・輸出も増加している。

(1) たまねぎ生産動向
 2003年、2004年の播種面積は3.8万ムであったが、ブローカー買付価格が2003年の8.0元/kgから2004年には2.2元/kgと暴落したため、2005年の播種面積は1.1万ムと大幅に減少している。

 国内出荷および輸出ルートは、農家が搬入する地元の自由市場におけるブローカーによる買付けが主体となっており、ブローカーによる農家買付けは少ない。

 輸出は、主に山東省の輸出公司による産地買付け、山東省輸出公司への鉄道輸送・再選別にて日本等へ輸出されている。近年では、水分の多い福建省産に代わる産地として輸出も拡大傾向の模様である。

【たまねぎ栽培農家】
・1農家当たり経営耕地面積:6~8ム
・1農家当たり人員    :4~5人
・一人当たり純収入:3,000元(県平均2,500元)
  野菜収入(主にたまねぎ)60%、
  米収入40%
・たまねぎ生育ステージ
 冬たまねぎ
  播種:1月下旬~2月中旬 
  →保管→ 定植:11月上旬~下旬、
  収穫:12月下旬~2月中旬
 春たまねぎ
  播種:7月下旬~10月初旬、
  定植:50~70日後、
  収穫:翌年2月下旬~4月中旬
 品 種:Super502、太陽1号・2号(アメリカ種)
・単位収量:4t/ム
・輸出流通ルート:
 農家→自由市場→ブローカー買付け→貨車→山東省青島→再選別→輸出



車→山東省青島→再選別→輸出
 

(2) ごぼうの生産動向
 山東省輸出公司により開発され、秋蒔き(2月~4月収穫)を主体に栽培されている。

 当初、柳川理想(日本品種)が栽培されていたが、2005年より台湾品種(新峰)に切り替えられたとのこと。

 長さ120cm規格の収穫も可能であるとのことだが、山東省青島までのトラック輸送で5日を要し、輸送コストも1000元/t以上と高く、山東省産のリスクヘッジのための産地である模様であった。

・単位収量:1.6~1.8t/ム
・輸出流通ルート:農家→輸出公司買付け→トラック→山東省青島→再選別→輸出

(3) 安全対策
 当該県の安全体制に関する指導は、県政府の指導・管理のもと、個別農家に対して整備されており、土壌、肥料・農薬検査が雲南省農業科学院傘下の農産物品質検査センターにより、肥料・農薬等の指導が県農業局傘下の農業生産弁公室により行われている。

 農薬管理においては、使用許可農薬のリストに基づき、一括購入による流通段階での規制によりリスト以外の農薬は流通しない仕組みをとっている。

 土壌検査、緑色食品等の品質検査は、雲南省の農業科学院傘下の農産物品質検査センターが行い、雲南省CIQもその検査結果を使用している。

 当該県では、2001年より無公害農産物基準に基づいた栽培を導入するとともに、緑色食品基準も導入しており、2005年には中央政府農業部に対し緑色食品農産物生産基地モデルの申請している。すでに、主要野菜13品目については緑色食品農産物生産マニュアルを作成・配布し、それに基づき指導を行っており、栽培履歴作成の導入も準備しているとのことであった。また、雲南省の国家質量監督検査検疫総局の担当者を交えた研修会を行っているとのこと。

5 福建省州市浦県
 浦県は、州市に属する、人口80万人、耕地面積3.4万ha、20郷鎮の県で、気候は亜熱帯海洋性気候に属し温暖で無霜期間は350日である。特に、無霜地帯で「金三角地帯」と呼ばれている東シナ海に面する東部地域の赤湖鎮では、耕地面積2,500haのうち1,300~2,000haにおいて日本種のねぎ、にんじん、だいこん、にんにく、はくさい、豆類、たまねぎなどの野菜が栽培されている。

 また、鎮政府からの借地による産地開発が地元民間公司により行われ、堆肥の鋤き込み等による土壌改良、灌漑用パイプが敷設された大規模産地が形成されている。

(1) たまねぎの生産動向
 浦県における2005年たまねぎ作付面積は、2004年産国内価格及び輸出価格の暴落により、2004年10,000ムから3,000ムと大幅に減少している。調査を行った赤湖鎮は、たまねぎの主産地であるが、2005年は栽培を行っていなかった。

 福建省におけるたまねぎは、水分が多く形状も悪い。近年、福建省産に比べ価格が安く品質も良い雲南省産が増加していることから、福建省では甘粛省と雲南省の端境期となる1月~2月出荷を主体にした栽培に移行している模様。今後の冬季の主要産地は、福建省から雲南省に移行することも考えられる。

(2) ねぎの生産動向
 浦県における2005年ねぎ作付面積は、2004年産国内価格及び輸出価格の暴落により、2004年50,000ムから30,000ムと大幅に減少している。

 作柄は、台風で冠水したほ場においては補植を行ったことにより、全体の収穫量は平年並みが予想されていたが、その後の高温の影響もあり、20日~1ヶ月の生育遅れが見込まれ、12月初旬からの出荷は12月末まで遅れる見込みであった。

 浦県におけるねぎ生産は、主に民間公司の大規模な産地開発により行われていることから、今後も、冬季の主産地として安定的に輸出される産地であることに変化はないと推測される

(3) にんじんの生産動向
 浦県における2005年にんじん作付面積は、2004年産国内価格及び輸出価格が良好であったことから、他品目からの転換により2004年15,000ムから2005年20,000ムと増加している。このため、種子価格が1.4倍程度まで高騰したとのこと。なお、台風による影響は軽微であった模様。

(4) 浦県赤湖鎮公司
 調査公司は、買付時期・規格・数量を決めた契約をブローカーと締結し2000ムに相当する栽培面積を確保するとともに、ブローカーによる集荷の不足時に対応するため2000年に村から期間50年で借りた自社生産基地800ムで白ねぎ、にんじん、だいこん、キャベツ等を輸出している公司。一方、ブローカーは、公司から種子のみの提供(販売)を受け、農家と買取契約(口頭)により集荷・納品している。

ア 栽培状況
ねぎ
・生育ステージ:は種:7月上旬~、
 定植:9月上旬~、収穫:12月~4月
・品 種:金長3号、天光1号、長葉1号、天宝、元蔵等の11品種。
・単位収量:5.0t/ム


にんじん
・生育ステージ:播種8月~10月、
 収穫12月下旬~4月
・品 種:黒田五寸、紅桜2号(米国種)など
・単位収量:5~6t/ム


イ 公司の安全対策
 ブローカーが買付ける農家における残留農薬対策は、ブローカーによる管理・指導によって行われ、検査は、当該輸出公司は行っておらず、収穫前に州市国家質量検査検疫総局(以下、「州市CIQ」)へ提出されるサンプル検査によって行われている。

 また、調査公司では、州市CIQの職員と輸出検査に係る事務手続き等の委託契約(1万元/年)を締結しており、その指示に従い、輸出基地登録、サンプル提出等の検査手続・検査が行われる。

 なお、州市CIQの残留農薬検査費用は、380元/コンテナとのこと。

ウ 労働コスト等の上昇と対策
 加工工場の事務職の賃金は上昇していないが、近隣の工業団地の建設により、出来高払いで働く工場労働者の賃金が上昇している。

 また、資材価格の上昇も大きく、3kg箱で2003年0.9元/箱が2004年1.2元/箱に、5kg箱で同期間に1.3元/箱が1.6元/箱となり、2005年も上昇する見込みとのこと。

 調査公司は、輸出公司に納品する中小の生産公司ということもあり、生産コスト上昇に対する対策は明確でない。生産コスト上昇は、販売価格への転嫁が可能としながらも、2004年は利益がない状況となっていた。

6 福建省福州市公司
 1993年に資本金138万元で設立され、1998年に資本金3,138万元に増資して集団公司となり、自社農場、食品加工公司(たけのこ水煮・真空パック、乾燥野菜等)、輸出入公司、国内卸売・小売公司、子供服公司を経営している。

 野菜栽培は1992年と1993年に浙江省金華県で日本の会社と協力し日本種子で栽培を開始したのが最初で、現在では緑色食品の認証を取得している。従業員は、全国の工場、農場を含めて1,300人。
 生鮮野菜のほ場は、基本農業田保護区(注:転用制限等がある。)に位置し、省が2,700万元を投資し農道や灌漑設備を整備した約3,000ムの農場。ブロッコリー、キャベツ、だいこん、セロリ、にんじん、たまねぎ、白ねぎ、きぬさや、しょうが等を栽培し、生鮮、加工品を主に日本に輸出している。



だいこん
播種:10月15日、収穫:12月末(1粒蒔き)
品種:春雷、単位収量6~7t/ム

(1) キャベツの生産動向(甫田市産地)
 日本向け輸出の産地であるが、キャベツは中国国内での需要も多いことから、日本の市況が安いときは中国国内に出荷される。2005年は、台風の被害により再定植を行ったため、12月15日から収穫を開始する計画が1月中旬に遅れるが、再定植により収穫量の減少はない見込みであった。

 栽培している品種は、寒玉系の四季宝(日本種)であり、輸出規格は1.5~2.5kg/1玉で、輸出の荷姿は加工ユーザー向けが15kg/ケース、量販店向けが10kg/ケースである。

・生育ステージ:
  播種9月、
  定植25日後、
  収穫12月中旬~
・品 種:四季宝(日本種)
・単位収量:5~6t/ム

(2) しょうがの生産動向
 2005年産は、低温、多雨により作柄悪く、品質も良くないものが多い模様。
 作付面積は、福建省全体で3万ム以上であり、現在の主要産地は州市であるが、連作による品質低下により、龍岩市に移動しつつあり、栽培地域も、近年の高温傾向から、標高600~800m(従来は400~600m)の地域となっている。また、日本へは、主に加工用として輸出されている。

・生育ステージ:
  種芋植付2月~4月初旬、
  塩蔵等の収穫7月~9月、
  生鮮の収穫10月~1月

・ 品 種:台湾種
・単位収量:4t/ム(規格品2.5t/ム)

(3) 労働コスト等の上昇と対策
 福建省への出稼ぎ労働者は、主に四川省、広西省、貴州省からやってくるが、電化製品等の他産業の発展による農業部門の労働者吸引力の低下や農民の生活水準の上昇等により、労働者は集まりにくくなっている。また、野菜加工業は、同業者の工場稼動期間が集中することも、労働者不足、賃金上昇の要因としている。

 ほ場労働者賃金も18元/日から25元/日(対前年38%の上昇)、工場労働者賃金は30元/日(対前年15%の上昇)に上昇している模様。

 一方、その対策としては、出来高払と作業グループの連帯責任(10人1組)による作業管理面での効率化、HACCP導入を通じての社員教育(グループリーダー教育)である。




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