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ラオスおよびタイにおける野菜の生産、加工および流通の実態

独立行政法人 農畜産業振興機構 調査情報部長  加藤 信夫
調査情報第二課 田淵 照子


(単位:百万バーツ)

はじめに
 日本政府は、2004年2月からタイとの間で経済連携協定(EPA)交渉を開始し、一方、ラオスを含むASEANとの間では本年4月から交渉が開始されており、ASEAN全体での交渉と各国との物品の貿易等にかかる個別交渉が並行的に行われているところである。



 個別交渉については、すでにEPAを締結し発効しているシンガポール、二国間レベルで交渉が開始されているタイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア(以上、先行5カ国)に加えて、後行5カ国(ラオス、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ブルネイ)が、このASEAN包括的連携協定の対象となる。

 一方、ASEANと中国との間のEPAについては既に締結・発効しており、中国側が関心を示した農産物については関税撤廃・削減の前倒し(アーリー・ハーベスト)が実施されている(概要後述)。例えば、中国とタイとの間では、野菜と果実のアーリー・ハーベーストが2003年10月から施行されており、中国から一部野菜の輸入が増加している。

 このように、ASEAN、中国等アジア地域における野菜生産、流通、貿易事情は、各国のEPAの推進やコスト・安全性等の理由から、産地・加工地変動を伴う国境を越えた物流や当該地域内での開発輸入の動きが活発化しており、わが国の国産野菜の需給安定のために、当該地域の野菜の生産・流通事情を的確に把握することが肝要となっている。

 このような中、今年度は国産野菜の需給やEPAの円滑な推進に資するため、後行5カ国を中心に野菜事情に関する調査を行うこととしている。

 今回の調査については、平成17年7月10日から7月22日にかけてラオスとタイを訪れ、野菜に関する生産から加工・流通に関する基礎調査を実施したので、その概要を本稿にて報告する。

Ⅰ.ラオス

1.自然環境と農業事情
(1) 自然環境
 ラオス人民民主共和国(Lao People’s Democratic Republic)は、首都をビエンチャン(Vientiane)とする国土面積23.7万km2、人口560.9万人(2005年)の国家である。北は中国、ミャンマー、東はベトナム、西はタイ、南はカンボジアと、四方を国境で囲まれている。国土の約20%が海抜70-200mの低地で、残りの80%が海抜200-2,820mの山岳地帯である。チベット高原を源流とするメコン川流域とその支流に平野が広がる。

 一般的にラオスの季節は、雨期(4月~10月)、乾期(10月~4月)に区分される。1年を通じて熱帯モンスーン気候で、年の平均降水量は1,000~1,500mmであるが、ほとんど雨期に降雨は集中する。ラオスの気候を地域的に分類すると、ルアンパバーン県(Luang Prabang)やシェンクアン県(Xieng Khouang)が含まれる「山部山岳地帯」とビエンチャン特別市(Vientiane)やサワンナケート県(Savabannakhet)、チャンパサック県(Champassak)が含まれる「南部メコン地帯」となる。どちらも、熱帯モンスーン気候であり、一年を通じて日中30℃以上の高温となるものの、山部山岳地帯では、朝夕の寒暖の差が大きい。首都ビエンチャンでの2003年の年間平均気温は26.5℃、降水量は1,481mm、湿度は74%である。

(2) 農業事情
 FAOSTATによると、2002年のラオスの土地面積(国土面積から水面を除いた総土地面積)は2,308万ha、そのうち耕地は92万ha、永年作物地8.1万haであり、農業用地は併せてわずか4.3%にとどまっている。

耕地利用別保有地面積1)

出典:日本工営譁、譁コーエイ総合研究所 
   「ラオス国総合農業開発計画調査主報告 平成13年10月」
原資料:農業センサス1975-2000、農林省

 ラオスの主要農業は稲作であり、全農用地に占める稲作地の割合は約65%であり、大部分がもち米である(上記表より計算)。しかしながら、1999年には米の自給率100%を達成したものの、地域によっては自給率が半分程度のところがあり、24県で完全自給がなられておらず(FAO)、地域間でのアンバランスが生じている。

 農業は、ラオスにとって主要な経済活動であり、その活動範囲は自給農業から農業関連産業まで多岐にわたる。1999年の国内総生産(GDP)に占める農業部門の割合は53.4%であった2)。人口の8割以上が農村部に居住し、農業に従事している。農業部門の中でも米が最も重要な作物で、GDP割合では全体で20.5%、農業部門だけでは、38.5%にも及ぶ。それに続くものが畜産部門であり、全体で18.2%、農業部門のみでは34.1%となっている。

1999年の国内総生産3)(GDP)

出典:「ラオス国総合農業開発計画調査」
原資料:第7回ラオス援助国円卓会議資料

 農業部門の中では、米のGDPに占める割合は、その時の気象条件などで一定していない。しかし、コーヒー、さとうきび、タバコ、落花生・綿などの商品作物は、収量、作付面積など増加傾向をみせ、最近はその付加価値も増加し、年間成長率は増加している。

 地域別の農業事情をみると、北部の山間地は移動焼畑耕作が主となっている。この移動式焼畑は南部ベトナム国境に近い地域でも行われているということであった。2000年時点では、移動性焼畑耕作に携わっている世帯は、約34万世帯、人口では206万人とされ、この数値は総人口の39%に相当する。現在、焼畑耕作の定住化促進を目指して、さまざまなプログラムが計画実施されている。

 野菜は、ビエンチャン、パクセーなど都市近郊やメコン川流域を中心に栽培されている。また、既報によれば、半数以上の農家が家畜の販売収入があるとされている。

(3) 土地事情
 社会主義国であるラオスでの土地制度は、1991年の憲法において、土地は国家に帰属するが、個人にはその使用を保証するという原則が明確化され、その後、1996年に森林法、1997年に土地法が制定され、基本的に全て国家所有となっている。すなわち農民は、土地の耕作権に基づき農地を利用している。土地は法律に基づき登記され、税金が支払われている限り、土地使用権は相続・譲渡・貸与可能である。

 近年、政府は個人に土地所有権を配分する試みを行っている。政府は、土地配分を含める土地管理の権限を農林省、郡行政局(District Administration Authority/DAA)など関係諸機関に委譲しており、これら機関は土地配分と暫定的土地使用証明書の発行の責任を担っている。暫定証明書は3年間有効とされ、3年後登記簿の目的どおりに土地利用が確認されれば、その土地の使用者は土地利用権を申請することが可能で、それが発行されれば半永久的にその土地の使用を認められる。

(4) その他
 農民組織については、以前は協同組合を形成しており、1985年には2,900団体が存在し、政府が肥料などの支援をする見返りに、生産のノルマを課していた。しかしながら、1987年からは個人経営を重視し、生産ノルマも廃止し、2004年10月現在では協同組合はない。

 また、政府は、これまで米の自給達成のために、灌漑施設の整備に力を注いできたが、近年、灌漑施設の所有権を受益者である農民に委譲し、受益者自身で施設の維持管理をするよう指導している(Irrigation Management Transfer)。

 農民金融については、融資率は全体の11%であり、口座所有者はわずか1%。農業振興銀行は唯一の農村金融機関であるが、融資は政府対象プロジェクトとなっている。
 既報によれば、加工施設については、精米工場がいくつか存在する他は、ほとんどみられないとのことである(今回の訪問先の工場は除く)。


2.ラオスが抱える基本的問題
 ラオスの最大の問題点としては、貧困問題が挙げられる。FAOの報告書によると、国民の4分の3以上が1日2ドル以下で生活しており、半数の子供と13%の大人は、慢性的な栄養失調に陥っている。ラオスは稲作中心の農業国であり、既述のように、国としての米の自給率は100%に達したものの、地域間のアンバランスが生じている。とはいえ、ここ10年でラオスの貧困レベルは改善されてきており、政府は2020年までに後発発展途上国(Least-Developed Countries/LDC)から抜け出すことを約束している。

 国内成長及び貧困撲滅計画(National Growth and Poverty Eradication Strategy/NGPES)は、政府によって作成された最初の貧困削減計画である。当該計画は、住民参加型プロセスを基本とし、持続的な経済成長と貧困削減にとっては重要なステップである。しかしながら、ラオスのキャパシティ上の制約、弱い統治能力、目的を具体的行動に変換する困難性などがこの改革計画実施上の主な障害となっている。

 NGPESは、(1)農業・森林、(2)教育、(3)健康、(3)インフラ(特に農村インフラ)の4つから構成されている。そのうち、貧困に焦点を当てた農業開発計画は、(1)食料安全保障と食料自給率(食料生産計画)、(2)脆弱層の削減、(3)商品価値の向上(商品生産計画)、(4)貧困農民による付加価値生産割合の増加、が取り上げられている。

 ラオスは、1997年にASEANに加盟したことにより、AFTA(ASEAN Free Trade Area/ASEAN自由貿易地域)実現に向け動いていくこととなった。その一環として、CEPT(Common Effective Preferential Tariff/共通有効特恵関税)スキームが開始され、1998年12月のASEAN首脳会議において、ラオスは、2005年までに域内で生産された全ての工業製品と農産品(ただし、一般的除外品目、一時的除外品目、センシティブ品目の3種の例外品目がある)の関税を、0~5%に引き下げることとなっている。しかし、ラオスを含むASEAN新規加盟4ヶ国(ラオス、ミャンマー、ベトナム、カンボジア)に対するスケジュールについては、「努力目標」的な色彩が強く拘束力が弱いものとなっており4)、また、関税引き下げリストには大半の野菜が含まれているものの、キャベツとたまねぎは除かれている5)。(関税引き下げの実施状況については不明。)ラオスの開発政策の関係では、地域格差等の問題も注目されている。特に現行のAFTA/CEPTによる国境措置の削減、数年先を目指すWTO加盟交渉問題等による市場開放の進展は、農業セクターの競争力の向上、新たな市場開発、付加価値産品の輸出増加を図る必要性に迫られている。

 しかし、(1)不十分なインフラと適当なテクノロジーの欠如、(2)市場アクセスの限界、(3)社会サービスへのアクセス制限、(4)中・短期信用貸し(credit)の欠如、(5)技術・人数などの人的能力の限界、(6)不十分な農林省から地方への政策などの情報提供、などが農業と地方の発展努力を制限している。


3.農業政策等(農林省でのヒアリング結果)
(1) 計画局次長
 これまで、2000年までに米の自給を達成できるよう灌漑施設の整備に力を入れてきたが、その結果、1995年には25,000haであった天水田が、灌漑施設を整備し、面積の拡大を図った結果、2004年には4倍の100,000ha(乾期でも栽培可)まで増加した。

 しかし、灌漑は主に灯油ポンプを使うが、その燃料代が上昇したこと、トラクターの台数が増えたがやはり燃料代の問題があること、米の値段が低迷していることから政府としては、作物の多様化を進め、たばこ、野菜などの作付けを振興している。これまでは、米単作が中心であったが、有機農法を取り込み、野菜、とうもろこし(食用、飼料用)、家畜などを組み合わせた複合農業がベストであると考えている。

 野菜については、乾期作に焦点を当てているが、肥料代が高いこと、キャベツ、たまねぎ等の種子が輸入種子であるため、その入手が難しいことなどの問題がある。しかし、ビエンチャン近郊の缶詰工場(後述)では、たけのこ、ベビーコーン等の缶詰を生産してタイに輸出する準備を進めている。この生産に当たっては、農林省としても技術的な支援を行っているという話であった。また、2年ほど前に、北部(M.Sing)では、中国人による約110haのかぼちゃ栽培を始めている。

 現実問題として、輸出政策はあるが、米にしろ野菜にしろ、なかなか実績に結びつかないのが現状である。ボロベン高原では、コーヒー以外に、キャベツを8,929トン、じゃがいもを468トン、タイへ輸出している(2004年10月~2005年5月)。しかし問題は、タイで野菜が不足する乾期(需要期)だけ輸出されるため、それ以外の時期は価格が大きく暴落するのが悩みの種であるとのことであった。
 その他の輸出作物としては、しょうが(全国栽培)が742.5トン、ごま、ピーナッツ等がある。

(2) 農業局長
 ラオスにおいても人口が増加しており、水などの環境の悪化が懸念される。農産物の中では、米が最も重要であるが、野菜も重要であると考え、これまでも、自然環境に対応した農業生産が行われてきており、きれいで安全な農業生産(野菜を含む)を目指している。これまで、外国の専門家の指導により、農薬などの農業資材の利用が奨励されてきたが、コストアップの要因ともなっている。

 野菜について言えば、(1)IPM(総合的病害虫管理)、(2)有機栽培、(3)病害虫フリー地域、(4)GAP(農業局所管)がキーワードである。市場に安全な野菜を安定的に供給しなければならない。

 ラオスは高度な生物多様性があり(FAOによれば世界でトップ10に入る)、気象条件も整っており、様々な作物を効率よく生産できるポテンシャルがある。
 また、輸出促進のために、パッキング施設建設等のための企業誘致を推進したい。輸送問題も課題である。


 (参考)国営食料公社(State Foodstuff Enterprise)による価格統制

国営食料公社は、ビエンチャン市商務課に属している、1998年に設立された政府資金100%の公社である。従業員は、公務員2人、その他の職員は公社の職員である。米、肉、魚の価格統制を行っている。資金とスタッフ不足のため、野菜や果物の価格統制は行っていない。

(1)米の価格統制
 公社は、全国の62精米工場に資金援助や運営費を補助する。精米工場は農家からもみ米を購入し公社はこの援助している精米工場から米を購入し、販売する。ただし、全国のもみ米が300万トン/年であるのに対し、公社で買い取る米はもみ米ベースで6,000トン/年に過ぎないため、価格の統制が行き渡っているとは必ずしもいえない。

 公社から販売する米は、市場価格で2,800~3,000キープ/kgのものを2,600キープ/kg(市場価格の1割安)で販売する。公社内で袋詰をし、1階で小売店を営業しており、市場から買いにくることもあれば消費者が購入する事もある 。これまでは、袋はタイなど海外のものを使用していたが、最近は公社のロゴの入った5kgのオリジナルの袋で売り出すことも始めた。 

(2)食肉の価格統制
食肉に関しては、牛、水牛、豚を扱っている。

<公社の絡む食肉の販売ルート>


 食肉の場合、公社がと畜場を経営している。地方には、県が管理すると畜場があるが、ビエンチャン市には公社経営のものしかなく、ラオスではと畜場において衛生検査証明書が出るので、ここでと畜しないと市場での販売は不可能。

 この公社経営のと畜場と契約している登録業者(6~10社)が地方のミドルマンから買い上げた家畜を、と畜場に持ち込み、証明書付きの食肉を市場で販売する。当該市場販売価格については、登録業者が粗利を稼がないように上限価各が公社によって設定されており、需給が逼迫したときを除き、当該上限価格以下での販売を強いられる。なお、この上限価格は、ビエンチャン市の商務課による市場調査結果を基に決められる。

現行の食肉の上限価格

※公社にて聞き取り
  1円=98キープ換算


4.野菜の位置づけと生産状況
(1) 野菜の位置づけ
 農村の所得向上等を通じた貧困問題の解決や国民の栄養改善のため、米中心の生産体系ではなく、野菜、果実、畜産などの「新たな」セクターの果たす役割は大きい。このため、ドナー国、国際機関等による相当数の関連プロジェクトが実施されており、農業予算が極めて限定される中、農業政策を実施する上で、海外支援は重要な柱となっている。

 以下、参考までにFAOの野菜に関するプロジェクトの概要を紹介する。

・Promotion of Home Garden for Improved Nutritional Well-being
 4村で実施されたパイロットプロジェクト(2002-2004年)で、野菜、果実、家畜を農家の裏庭で生産するとともに、栄養教育や食品加工のデモンストレーションを実施。成果としては、野菜・果樹の生産が35%増加し、市場購入が15%減。国民1人あたりの1日の野菜の摂取量が245gに増加(ラオス平均64g)。

・Improvement and Development of Fruit and Vegetable Crop Project
 イタリア政府の協力を得て実施(2004-2007年)。ルアンパバーン県とチャンパサック県において、ねぎ、ペパーミント、コリアンダー等の改良品種を使った栽培や繁殖技術等の技術支援を農家に実施。

・Vegetable IPM program
 IPM(Integrated Pest Management)のネットワークが6県において稼動中であり、その概念としては「野菜農家ほ場学校」を通じて、いんげん、きゅうり、トマト、キャベツに焦点を当てて、単に害虫管理だけでなく、土壌生態学を含む作物管理上の問題を取り上げて、強く生産的な作物が生長する上で必要・適切な栄養管理技術を伝達している。

 ラオス人にとって、特に麺類等と併せて食べるハーブ等の葉菜類は食生活上、重要なものとなっていると思われる。実際、首都のビエンチャン近郊では、ハーブ、コリアンダーなどが多く栽培されており、ビエンチャンの市場は葉菜類中心と言っても過言でない。しかしながら、上記のようにラオス人全体の野菜摂取量は勧告水準に遠く及ばない水準となっている。

 野菜の産地としては、メコン川流域は雨も降り、土壌は比較的肥沃であり、葉菜類中心の栽培が行われている。ビエンチャン市やルアンパバーン市、パクセー(Pakse)市などの主要都市近郊でも、野菜栽培が行われているが、パクセー市近郊のボロベン高原が農産物の最大の輸出産品であるコーヒーの産地であるとともに、キャベツ(多くをタイに輸出)の大産地となっている。
しかし、葉菜類以外の、しょうが、ばれいしょ、トマト、にんじん等の野菜は、コストの問題から適切な肥培管理を行えないことや栽培技術が未熟であること等の理由から、品質は悪く、サイズもきわめて小さい。一方、コリアンダーやミントなどのハーブ類はそれほど見劣りするものではなかった。



ラオス産ばれいしょ
タイ産ばれいしょ
(タイ産のほうが大きい)

 また、ラオス農業の特徴として、肥料代や農薬代が高額であるため、農家が使用したくても使用できずに、図らずも「有機栽培」となっていることが挙げられる。以前は、肥料の大部分は、日本の支援(2KR)により供給されていたが、これも打ち切られている。

 農林省としても“安全性が高い”というクリーンなイメージを打ち出し、輸出に向けた農産物の生産に力を入れようとしている。


5.野菜の輸出入
 ラオスでは、国内生産の保護と安全性の観点から野菜の輸入を制度上禁止している。しかし、市場ではタイやベトナム、中国からの野菜が売買されており、事実上輸入は黙認されている状態である。検疫についても、友好橋など限られたポイントでしか行われていない。

 特に雨期になると、乾期より多くの野菜が輸入される。正式に輸入されているわけではないので、その数量を把握することは困難であるが、今回の調査で市場を見渡す限り、トマト、にんじん、しょうが、ベビーコーン、たまねぎなどの品質の良いものはタイ等からの輸入品で、おおよそ市場全体の半分程に及ぶものと推察される。

 タイからの正式な入国ルートとしては、飛行機でビエンチャンに入る、タイ東北部ノンカイ市からメコン川に架かる友好橋を渡って入る、その他、陸路で開かれた国境を通って入る方法があるが、密輸でしか輸入できない野菜はこれらの正式ルートをほとんど通らない。すなわち、メコン川を船で渡ってくるか、陸路の国境脇を通ってくるかなど、方法はまちまちである。事実、ビエンチャンのワッタイ国際空港には検疫所はなく、南部チャンパサックの陸路国境地帯では、国境ゲート前を堂々と野菜の籠を持った仲買人(ミドルマン)が通り、ゲート脇の柵の方へと消えていったのを目撃した。


タイからの野菜の密輸状況(円内)
(柵の手前がタイ)


 逆に、野菜の輸出は許可されているものの、競争力があるものとしては、ボロベン高原等で生産されているキャベツ、タイ資本でボロベン高原で生産されているばれいしょくらいである。


6.植物検疫
 コーヒーなどをタイ等へ輸出する際は、ラオス国内にて植物検査を行い証明書及びインボイスをつけ輸出する。植物検査の担当は県の農業課である。

 チャンパサック県の農業課(Provincial Agriculture Section)の建物の一室では、コーヒーの植物検疫を行っていた。部屋で作業をしている職員は1人、器材は顕微鏡、パソコン各1台であった。
 また、国境の植物検疫所への訪問も行った。検疫には検査官2人(県農業課、フォントン郡から各1人)で行うという。輸出入品の検査を行っているが、分析機械はないのでルーペによる目視検査のみである。

検査料金表(証明書付)

※検疫所職員からの聞き取り
 1円=98キープで換算

 タイへの輸出は、バナナ、ピーナッツ等の検疫には厳しいが、キャベツについてはあまり厳しくない。そのため、キャベツについてはルーペによる目視検査により害虫を見つけたら、その旨のメモをつけるのみであるため、検査料は無料であるという。キャベツの場合は、5~6月頃にkgあたり2~3匹の害虫がついていることが多いとのことであった。タイ側では、分析機器により検査を行っているという。

 ばれいしょについては、パクソン郡に倉庫があり、そこに検査員が赴き検査、バナナの場合はパクセーに運んできた車の上で検査するが、いずれもルーペによる目視検査である。

 野菜は輸入禁止であり、かつ密輸すれば高く売れるので、検疫所を通ることはまずない。反対に、輸出については検疫で不合格となることはなく、国境で価格が決まるので、必ず検疫所を通る。


7.園芸研究
 ビエンチャン市郊外のハドケオ郡には、国の所管のハドケオ園芸研究所がある。野菜・果実・花きの研究機関として1998年に設立されたこの研究所は、現在、職員数24名、うち研究者は8名(野菜は4名)により品種改良や技術開発の研究を行っている。

 品種改良の研究では、遺伝資源(種子)の収集・選抜・保存を行っており、野菜の保存コレクション数は約600とのことで、種子保存にはドイツの技術的支援を受けている。また、生産や収穫、加工調製についての技術開発も行っている。特に野菜については、トマト、空芯菜、豆類、とうがらしなどでビタミンAやCの強化を図るなど栄養不良対策に取り組んでいる。また、輸出促進による農家所得の向上を目的として、野菜・果実・とうもろこし・米など商品作物の開発・安全性の向上にも取り組んでおり、野菜ではキャベツ、えだまめ、ベビーコーンなどを研究対象としている。その他の課題として、ベビーコーンの長さを揃えることや高たんぱく質のえだまめ、家庭消費向けにだいこんのピクルスの研究に取り組んでいるとのことであった。

 研究所の敷地内のほ場では、花きの試験研究の他に薬草の試験栽培、トマトの試験栽培などが行われていた。


8.野菜産地の状況(ヒアリング調査結果)
(1) ビエンチャン近郊
(1) ビエンチャン特別市の農業事情(ビエンチャン市農業課/Agriculture and Forestry Office oF Vientiane Capital Section of Agriculture)

 農業課の主な任務は、以下のとおりである。

ア.地方自治体レベルにおける、農業生産のマクロ・マネージメントにおける責任者
イ.ビエンチャン市の植物検疫
ウ.農薬、肥料、添加物等の安全基準並びに品質・規格基準および検査
エ.ビエンチャン市における農産物生産分野での投資プログラムなどの専門家との協力等である。

 ビエンチャン市の農用地は、合計89,886 haあり、そのうち野菜栽培地は8,576haとなっている。農業課長によれば、ここ数年の野菜の栽培面積は、増加傾向にあるという。この地域の農家は、雨期に稲作、乾期に川沿いや家の近くで野菜栽培をすることが多いということであった。ビエンチャン市内におけるラオス国産野菜の供給元は、キャベツ、ばれいしょ、ハヤトウリなどは南部ボロベン高原から運ばれてくるものが多いが、その他多くの野菜はビエンチャン特別市及びビエンチャン県である。

ビエンチャン特別市の農業事情

出典:ビエンチャン市農業課

 ビエンチャン特別市の5年計画では、生産面積の30%は良品生産を目指し、また、タイのオーガニック基準と同じレベルのラオス版を農林省規則として公表するとのことであった。野菜の消費についても、現在ラオス人が食べる野菜の量が70kg/年・1人(FAOのデータとは若干異なる)であるのに対し、5年間で80kgまで増やす計画であるとのことであった。

 今回調査したハドケオの栽培地(ビエンチャン中心部から車で約30分の場所にあるメコン川流域の村)では、こねぎ、ミント、コリアンダー、トマト、バジル、ざぼんを栽培していた。村には200戸以上の農家が存在し、農家あたりの所有面積は、平均2ライ6)であり、そのうち、家畜(水牛、鶏、あひる、豚)を飼養している者は5%ほどということであった。
 訪問した農家の庭先価格は以下のとおりである7)。

ハドケオ村における農産物農家庭先価格(例)

※農家から聞き取り結果

 産地へ同行したハドケオ園芸センターの担当者の話では、このあたりの1農家あたりの平均所得は年間500~1,000ドル8)であり、農家の中では比較的裕福な層に入るという。1農家あたり1~6人の家族で、年齢層は18~50歳とのことであった。繁農期には午後のみ近所の学生や子供、年寄りなどを収穫のため雇用することもある。農家の後継者問題も多くはないが存在し、教育を受けた若者は都会に出て行き、戻らないこともあるという。

 コリアンダー、ミント、こねぎの栽培には、日よけ兼雨よけネットが使用されていた。黒いビニール製のもので種を植えたばかりのときは直接土の上に、生育するにつれ、ネットを上にあげていく。激しい雨には耐えられないが、雨期に毎日降る程度の雨には対応可能といい、タイ製のもののほうが中国製より耐久性があり、1シーズンの使用が可能とのことであった。


ハドケオでのコリアンダー栽培
(ビエンチャン近郊のメコン川沿いではハーブ類の栽培が盛ん)

 また、トマトについては、病気の問題はあるものの5年前から栽培を手がけており、雨期はタイの品種を、乾期は在来種を成育し、品種を換えて1年中栽培している。種子はタイ産のハイブリット種を利用し、ビエンチャン市内の輸入会社を通じて購入している。


ハドケオでのトマト栽培
(東北タイと同様に支柱栽培が行われている)

 収穫物は、村のコレクターが集めに来て、全てビエンチャンの市場に出荷している。
なお、コレクター(collector)とは、仲買人(ミドルマン)であるが、農業と仲買業の両方を営む者であり、仲買業のみを職としているブローカー(broker)とは区別されている。

<仲買人の区分>

(2) ボロベン高原
 ラオス南部のボロベン高原は、コーヒーやキャベツの産地として有名である。ボロベン高原は、チャンパサック県、サラワン(Saravan)県、セコン(Sekong)県、アタプー(Attapeu)県の4県にまたがる標高1,000-1,500mの高原である。

 チャンパサック県農業課長によれば、コーヒー農園は60,000ha以上、そのうちチャンパサック県が最も広い(約29,000ha)という。チャンパサック県はタイと国境を接し、陸路での越境が可能という立地条件もあり、コーヒーやキャベツを輸出している。輸出量が最も多いコーヒーは、フランス、ドイツ、オランダなど主にヨーロッパ向けに輸出しており、2004年からは日本へも輸出されたが、日本の規格が厳しいためモデル村で生産された少量(約7トン)を輸出している。

 コーヒーに次ぐ輸出品としてキャベツがある。農業課長によれば、チャンパサック県全体の栽培面積は約800~900haであり、ボロベン高原のキャベツの収量は30トン/ha (日本は約40トン)であり、休耕をしながら年間3回の収穫が可能とのことであった。農家1戸あたりの栽培面積は平均1~1.5ha、大きな農家では5~6haの栽培面積を所有しているという。

 収穫されたキャベツの約90%はタイへ輸出され、残りはビエンチャン市やサワンナケート市の市場等に出荷する。ただし、1個1kg以上の状態の良いキャベツはタイへ出荷されるため、国内用は極めて小さなサイズのキャベツとなる。

 タイ向け、国内向け問わず、種子はタイから供給されたものを使っている。具体的には、タイのミドルマンが、チョーン・メック(Chong Mek)の国境にてラオスのミドルマンに種子や肥料を売る。タイのミドルマンによる技術的指導などはない。肥料については、N:P:K=16:20:0の化学肥料を、1haあたり30~50kg使用し、1袋(50kg)あたりの価格は180,000キープとのことであった。

 タイ以外では、若干量台湾に輸出している。その場合、バンコクまで陸路で運び、そこから冷蔵コンテナーで台湾まで運ぶ。ただし、年間、1回につき1~2コンテナーを2~3回運ぶのみである。

 農業課長によれば、農家の抱える問題としては、農家は市場情報の入手が困難なため、ある農家が特定の作物を栽培して高い利益を得ると、皆それに追従する傾向があり、生産が見通せないことである。また、その結果として、価格が乱高下する問題が常に起こる。

 このように、生産に関しては、隣人をみて真似をしながら栽培しているため、供給量が多くなり過ぎたり、逆に少なくなり過ぎたりし、その都度価格が大きく変動してしまい、特に雨期と乾期の格差は極めて大きい。

 パクソン郡トンセット村の栽培地において、女性のコレクターと農家にヒアリングをした。トンセット村には258戸の農家、人口約1,480人、そのうち50人のミドルマンがいるという。以下、トンセット村の農家の概要である。


※農家からの聞き取り結果

 コレクターは、毎日もしくは2日に1回の割合で農家からキャベツを買い付け、タイとの国境まで運ぶ。1回の買付け量は2.5トン。この日の買付け価格は、1,200キープ/kgで国境での売り価格は、5バーツ(=1,325キープ)/kgであるという。しかし、1ヶ月前の6月の買付価格は150キープであったことから、価格が短期間で大きく変動していることを表している。また、この日のマージンはわずか125キープ/kgであることから、コレクターにとっては車代にもならないくらいである。乾期は雨期より価格がよいので、年間を通して何とか収支がプラスになっているのではないかと推察される。

 種子は、国境であるチョーン・メックにてタイのミドルマンから購入し、肥料はパクセー市で購入してくる。キャベツの肥料価格は、150,000キープ/50kgで年間この肥料を10袋購入し、1本500gの種子の入った製品の価格は150,000キープ/500gで、雨期は1haあたり500本、乾期は1,000本撒く。種子500gあたり1kgの収穫が見込めるため、1haあたり10トン、年2~3回収穫をする。キャベツは農薬を年2回使用する。種子を撒く時は、村人を1日20,000キープで雇うが、その後の作業は家族のみで行い、収穫時期は近所の人と助け合いながら行なう。耕運機は村に3台あり、借りる時は1,000,000キープ/ha支払わなくてはならない。

 農業課で説明されたとおり、市場情報が少ないため生産量を調整できず価格は乱高下を繰り返し、平均するとキャベツの価格は年500キープ/kgほどであり、生活は苦しくもないが、潤っているわけでもないという。ヒアリングをした農家によれば、この村の中でも価格変動の大きさについての問題意識はもっており、生産調整や機械の共有化のためにグループ化を検討しているとのことであった。

 村には、家畜を飼育している家族が5世帯ほどある。1家族あたり60頭~200頭と大規模に飼育(放牧)しているため、これら家畜農家は手間のかかるキャベツ栽培は基本的に行っていない。

<ボロベン高原のキャベツの輸出ルート>


 国境でパッキングをしていたラオスのミドルマンの話によると、1袋(10kg)のパッキングを行うことで1バーツが収入となる。荷車1台で20袋運べることから、荷車1台につき20バーツ(5,300キープ)の収入となるといい、そこから計算すると、2トントラック1台につき200バーツ(53,000キープ)が入ることとなる。作業は、朝6:30から始め11:00頃には翌日の買付けのためほ場に戻るとのことであった。


ポロペン高原のキャベツ畑
(タイの開発輸入)

 なお、ラオスのトラックの多くは積載オーバーであるため、このような国際物流要件に合致しない車両の通行は、タイでは認められていない。したがって、タイの物流ではタイ政府が指定するタイの運送業者を利用することになり、国境でラオスのミドルマンは積載し直す必要が生じている。


9.野菜の流通
(1) 市場(タ・ラート)について
 ラオスには、各都市に市場(Talat)が開かれており、早朝から夕方までにぎわっている。首都ビエンチャンには食料品を扱う大きな市場は(1)トンカンカン市場(Talat Thongkhankham)(2)クワディーン市場(Talat Khuadin)(3)タートルアン市場(Talat Thad Luang)の3箇所である。このうち、最も食品の取扱量が多いのは、トンカンカン市場である。

 (社)国際農林業協力・交流協会による「平成16年度アジア農業生産性向上事業協力委託事業報告書(2005年3月)」によると、「タ・ラートは卸売市場機能を持った市場」であり、「早朝3~4時という早い時間から、一般消費者が来る6時頃までの間が、卸売市場となっている。」と記載されている。しかし、我々の聞き取り調査では、タ・ラートには卸売・小売という概念はなく、開設中は、いつでも卸売業者・消費者の区別なく、誰でも同一価格で購入は可能とのことであった。

 市場へは、産地から直接販売にくる農家9)やミドルマンから購入し販売するもの、他の市場で買付け、それを売るもの等、様々な販売者がいる。ラオスは、小売が未発達であるため、どの市場も基本的に卸売と小売の区別はなく、いつ誰に対しても、同一人物が同一価格・同時販売をしている。タラートは、同じ市場や他の市場の販売製品調達からレストランや屋台の食材調達一般家庭の食材調達まで全ての食材調達を一箇所で行う場所といえる。

(1) ビエンチャン市トンカンカン市場
 トンカンカン市場は、野菜のみでなく、肉、魚類、穀物などの取扱量も多いが、屋根は簡単なトタン屋根であり、衛生的に優れているとは言いがたい。鳥・牛・豚などの肉類は、その場で店員により部位に分けられ常温で並べられており、魚類は水をかけながら売られていた。肉・魚・野菜の売り場は、まとまってはいるものの仕切りがあるわけではなかった。野菜に関しては、種類も豊富であったが、輸入の禁止されている海外からのものも多かった。

トンカンカン市場での野菜の価格(午後3時)

※トンカンカン市場における聞き取り調査より
 1円=98キープで換算

(2) ビエンチャン市クワディーン市場
 クワディーン市場は、ビエンチャン市の中央にあるため多くの人が集まり、価格も比較的高いといわれている。しかし、衛生状態は悪く、舗装されていない赤土が剥き出しの地面にビニールシートを敷き、その上に直接もしくは簡単な籠に入れ野菜を販売していた。屋根もほとんどなく、地面に敷いてあるビニールシートと同じシートをつるしてあるのみのところも多かった。そのため、雨上がりなどは上からも下からも雨水が商品にかかる状況であった。ここでも、野菜以外にも肉・魚などその他食品も販売していた。



トンカンカン市場の様子
クワディーン市場の様子
(雨上がりということもあり、ビニール屋根から水が滴り落ちる)

※クワディーン市場でのいんげんの売り子からのヒアリング
 自分で栽培したいんげんと近隣の4~5農家から4,000キープ/kgで購入したいんげんをほぼ毎日販売している。値段は前の日の値段を参考にして決めるという。
※クワディーン市場での野菜の売り子からのヒアリング
 この店は、キャベツ、はくさい、コリアンダーなどを売買していた。キャベツは、毎日夜中の2:00~3:00頃南部からのミドルマンから購入する。このミドルマンは、パクセーから乗合バスにキャベツを載せビエンチャンまで運搬しているが、2,500キープ/kgで購入し3,000キープ/kgで販売しているとのこと。はくさいも同じくパクセー産であり45,000キープ/12kgで購入し50,000キープ/12kgで販売している。

(3) ビエンチャン市タートルアン市場
 タートルアンは小ぶりであるが、市民の人気が高い市場である。

※早朝タートルアン市場入り口でパクセーからキャベツを運んできたミドルマンからのヒアリング
 ビエンチャン市民であるが、2~3日に1回パクセーまでキャベツやはくさいを買出しに行き、1回の運搬で2トン~2.5トン運搬する。キャベツはパクセーの市場から1,500キープ/kgで購入し、ここでは2,500キープ/kgで販売。市場の中に店舗を出しているわけではないので、市場への使用料等は徴収されていない。レストランや市場の中の店舗が販売先である。ただし、トラックの荷台には屋根があるわけではないので、途中雨が降ると痛む割合が大きい。家族の食事を含めた運賃は往復80万キープほどであり、この時期利益は少なく60~70万キープなので、生活は楽ではないという。雨期・乾期を通じて、利益をみており、収支は年間でみるとトントンであるという。

(4) パクセー市ダオファン市場
 パクセー市にある生鮮食品主体の市場である。建物の外の地面は舗装されていないものの、建物はコンクリート製のしっかりした建物で、中央には子供の遊び場もあり、ビエンチャン市の市場に比べれば衛生的な市場である。いつ誰に対しても、同一人物が同一価格・同時販売をしていることについては、ビエンチャンの市場と共通している。しかし、ビエンチャンより衛生的とはいえ、肉・魚を常温で販売している様子は変わらなかった。

ダオファン市場での野菜の価格(午前9時)

※ダオファン市場における聞き取り調査より1円=98キープにて換算

 ビエンチャンの市場と比較すると、キャベツやはくさいなどの産地が近いため、それらを販売する店舗が多かった。また、店舗脇でキャベツを袋詰にしていた姿を頻繁に見かけた。これは、市場横にあるバスターミナルで待っているビエンチャン行きの乗合バスにビエンチャン市場向けのキャベツを載せる準備をしているとのことであった。

(2) TANG Freres
 TANG Freres10)は、ラオス初のスーパーマーケットとして、2004年12月にオープンした。店舗は2004年11月に行なわれたASEANサミット会場であり、現在は月に1度の展示会場ともなっているInternational Trade Exhibition and Convention Center(ITECC)の一角にある。創業者は、ITECCの持ち主でもあるLao World Group Co., Ltd.19)社長である。ビエンチャン市外から車で10分弱、広い駐車場を備えているが、車を持っている市民でないとなかなか買いには来ないと推測される。

 対象は、公務員や会社員というような中級階級以上の市民である。
 店舗の広さは、3,000m2程あり、シャンプーや石鹸などの雑貨から牛乳、アイスクリーム、インスタント麺、調味料、野菜や肉と販売商品の幅は広い。米や多くの野菜、肉、卵などはラオス産であるが、にんにくや牛乳や雑貨は輸入品でその割合は3:7という。TANG Freresアシスタントマネージャーによると、新設の施設という事で政府から優遇措置を受けており、輸入製品を安く提供できているという。肉は市場で野ざらしで売られているようなものではなく、白いトレーに綺麗にパッキングしてあった。また、トムヤムセットのような鍋セットなどもパッキングされ販売されていた。パッキングもこの施設内で行っているとのことであった。また、隅の一角には、日本のスーパーでもみられるようなその場で作る総菜売り場が併設されており、ガラス張りの調理室で作業の様子がみられ、市内の市場とは違いクリーンな環境を作り出していた。

 野菜の仕入れについては、農家から直接購入するものやミドルマンを通すもの、市場から購入してくるもの等がある。販売の仕方は、日本のようにいくつかの袋詰にされているのではなく、ばら・はかり売りである。品質は市場のものとそう変わりはないが、価格はやや高めである。

TANG Freresの野菜価格一例

※TANG Freres店舗にて、マネージャーから聞き取り1円=98キープにて換算

 調査当日は、ASEAN外相会議前で会議開催中は店舗を閉鎖する必要があるため、特に生鮮商品の品数は少なく、午後2時の訪問時には客の姿は全く見られなかった。


10.輸出会社の概要
(1) A社(食品加工会社)
 製造製品は、ココナッツ、パッションフルーツ、タマリンド(熱帯性のマメ科の植物)などを使用したジャム、ジュース、ワイン、各種米などである。

 原料は国内で調達し、製品はヨーロッパ(フランス、ドイツ、スイスなど)やベトナムなどへ輸出するものと国内用のものがあり、日本へも輸出したいと考えている。

 原料であるパッションフルーツやタマリンドなどは国内の山岳民族への経済的および教育的支援から、彼らから調達するものが多い。

 海外への輸出方法は、ビエンチャンより車でメコン川に架かる友好橋を経由しタイのノンカイ県に入る。このとき国境にて、積荷をタイの車に積み替える必要がある。その後、バンコク市までトラックで輸送する。ヨーロッパへの輸出の場合はバンコクから船で運ぶ。ヨーロッパまでの輸送費は1コンテナ(40フィート)あたり約2,600ドルである。

 主な製品であるジャムのうち、特にEU向けのものは、各国のNGOが参加して行っている「Fair Trade Network」を利用して輸出している。「Fair Trade Network」とは、1960年代にヨーロッパから始まった、経済的・社会的に立場の弱い生産者に対して通常の価格より高めに設定した価格によって農産物や手工業品を取引し、生産者の自立を促すという社会運動(=Fair Trade)を基本とした、多くの小規模生産者グループや貿易会社、消費者グループ等が組織化した貿易システムのことをいう。

 以上のように、当該工場は、ラオスの自然条件を活かした山岳民族への支援を国際的なNGOネットワークを利用して進展させている土着型の加工工場である。

(2) 缶詰工場
(1) 会社の概要(缶詰工場の工場長からの聞き取り)
 当社は、ビエンチャンで初めてのスーパーマーケット「TANG Feres」の経営や、ASEANサミットの会場である「ITECC」を建設などを手がけている会社と同じグループであり、タイの大手の食品会社とも関係ある。1~2年程前、ビエンチャン市長の親戚がラオスの振興のための施設を作るよう依頼し、ビエンチャン特別市に本格的な缶詰工場を建設した。本格操業は今年からで、現在試験を始めたところである。工場長は、タイから派遣されたタイ人で、その他の従業員(約40名)はラオス人である。
 製品は、たけのこの缶詰(水煮)、スライスたけのこの缶詰(水煮)、ベビーコーンの缶詰(塩茹)の3種から始める予定である。

(2) 原料調達について
 たけのこは、北部ルアンパバーン県やシェンクワン県、ビエンチャン市近郊などのラオス国内から調達する。また、ベビーコーンも同様であり、これは、ラオス政府から依頼され製造する。原料は、農家からコレクターを通じて工場に運ばれる。ベビーコーンは、栽培面積500ha、1日1トン以上の工場への運搬がないと採算が取れないが、実際は20ha程しかなく、特に今は雨期であるので、たけのこ製品を製造せざるを得ない。必要量の原料を安定的に確保することが最大の課題である。

(3) 工場の概要
 タイでの加工食品工場と同様、HACCP基準に則り、手洗い、消毒槽を設けている。缶詰充填ラインが3ライン、高圧殺菌機が4基設置されていた。機械は、タイの会社で使用していたものを運んできたといい、多くは中古品であった。外部に配置されていたボイラーの原料は、廃材を燃やして利用するという。また、工場横には広い浄化槽もあった。出荷保管場所を含め、工場のスペースとしてはまだ余裕があった。

(4) 製品の輸出について
 工場では缶詰の中身を充填し、ラベルを貼らずタイへ輸送して、タイでラベルを貼ってタイブランドとして出荷する。缶は工場で生産できないため、タイから取り寄せることになるが、これがコストアップの要因の一つとなる。製品の販売はタイをターゲットする。タイへの輸送は、20トントラックを約20台用意している。タイの運送会社でもある当社は国境でのトラックの乗換えを行う必要はないという。工場長は、輸送費は往復25,000バーツ/カートンになろうかと予測していた。

(5) 中国との関係
 特に、たけのこは中国製品が安価である。タイでは、中国ほど安価な価格では製造不可能である。そこで、隣国ラオスにおいて開発輸入という形をとることとした。ラオスは、労働費も物品費も安価である。また、その他の利点として、工場長曰く、タイからEUやアメリカへ輸出する場合は、10%の関税が課せられるが、ラオスから輸出する場合この関税がかからないという。ラオスで製造することで、これまでより20%のコスト減が図られると試算している。

(6) 今後の方針
 今年は、挑戦の年でとにかく結果を出すことを目標としている。これから数ヶ月の間に製品をトライアルとして製造して、詳細な生産費を算出して親会社の了承をもらえば、翌年から本格的な製造を行う予定である。また将来的には、たけのこ、ベビーコーン以外の食品も製造したいと考えている。
 タイでは、以下のような周辺国との合意事項を活用して、中国に対応した開発輸入を進める動きが活発化している。

 (参考)タイ・ラオス・ミャンマー・カンボジア高級事務レベル会合
2003年11月に、タイと周辺3カ国(ラオス、ミャンマー、カンボジア)との高級事務レベル会合において、(1)貿易と投資の促進、(2)農業と産業の協力、(3)輸送関連、(4)観光事業の協力、(5)人材開発、の5つの政策についての貿易障害の低減や移動に係る障害の改善に努めることに合意。タイが中国を意識して周辺国での開発輸入を進める狙いがあると言われている。



Ⅱ.タイ

1 自然環境
 タイは、首都をバンコク(Bangkok)とする国土面積5,108.9万ha、耕地面積1,586.7万ha、人口6,346万人(2002年)の国家である。国土は、行政区分上、北部、東北部、中央部、南部の4つの地方に分類され、南はタイ湾、アンダマン海に面しているものの、西はミャンマー、北東はラオス、南東はカンボジアと3方を国に囲まれている。気候は熱帯に属しており、南部のマレー半島を除き、熱帯モンスーン気候である。雨期・乾期があるため、あらゆる野菜の栽培が可能といわれ、タイの野菜の種類は豊富である。北部のチェンマイ(Chiang Mai)などは、チャオプラヤ川の源流をなすピン川、ヨム川、ナン川、ワン川の4つの川が流れ、肥沃な土壌地帯を形成し、ミャンマー、ラオスと国境を接する県は山岳部が多いため、比較的冷涼な気候であり、加えて寒暖の差もあるため、日本で見られるような温帯野菜や果実の栽培が盛んである。また、バンコクが含まれる中央部も、チャオプラヤ川がもたらす肥沃な土壌で、ナコンパトム県・カンチャナブリ県周辺などは盆地状の地形で寒暖の差もあり野菜栽培も比較的盛んに営まれている。また、バンコクに近いという事もあり、インフラが整備されている点も、近郊野菜の栽培地に適しており、野菜加工工場も多い。


2.農業事情
 GDPに占める農業部門の割合や輸出に占める農林水産品の割合は、工業・サービス業等の発展に伴い、年々減少してきている。

GDPに占める農業部門のシェア (単位:百万バーツ)

出所:国家経済社会開発庁(NESDB)
注:2003年数値は暫定値

総輸出額に占める農業部門の輸出額
(単位:億ドル)


出所:輸出額は農業経済局、為替レートはタイ中央銀行

 しかし、タイは農業を経済の基盤として発展してきた国であり、GDPや輸出額に占める割合のみでその重要性を推し量れるものではない。実際、タイの労働人口の約半数は農業従事者であり、地方での主要産業は農林水産業である。さらに、農林水産業分野の輸出の場合、原材料及び中間財を輸入に依存している部分が少ないため、重要な外貨獲得産業となっている。それ故、農業はタイ経済の主要な位置にあり、政府としても、農業・農村及び食品関連産業の振興を最も重要な政策課題と位置付けている。
 タイの農産物の生産・貿易状況は、容易に入手できるので、このレポートでの掲載は割愛する。


3.野菜の輸出
 野菜の輸出傾向は金額ベースでも数量ベースでも増加傾向で推移している。輸出形態も、以前は冷凍野菜が多かったが、ここ数年は生鮮での輸出が多くを占めている。

野菜の輸出傾向(金額ベース)
(単位:百万バーツ)

出所:商務省「Foreign Trade Statistics of Thailand」各年版(関税局の貿易統計より編集)

野菜の輸出傾向(数量ベース)
(単位:トン)

出所:商務省「Foreign Trade Statistics of Thailand」各年版(関税局の貿易統計より編集)


4.自由貿易協定(特に対中国)の影響
 ASEAN・中国間でのFTAの枠組みでは、アーリー・ハーベスト(早期関税削減)として、ASEAN原加盟国と中国で関税番号HS01~08類の品目の関税が2004年1月1日から段階的に削減され、06年内には撤廃されることとなっている。

 タイは、2003年6月にこの枠組みの下、二国間協定で野菜・果実のアーリー・ハーベストに調印し、HS07類(野菜類)、08類の全ての品目を同年10月1日から関税撤廃した。これによって対中貿易に大きな変化をもたらし、02/03年と03/04年の10月~8月期を比較した場合、キャッサバを除く野菜類(HS07類)で全体としてタイの赤字額が増加している。一方、キャッサバ製品群(HS0714)で輸出が50%増加している。

 ロイヤルプロジェクトの栽培アドバイザーである、Maejo大学のNipon助教授により提供を受けた資料 によると、野菜については、種類によってはアーリー・ハーベストによりかなりの影響が出ており、2003年には野菜の輸入額が約8.4億バーツであったのが、2004年には14.4億バーツに増えている。

対中国アーリーハーベストによる中国からの輸入額の変化

※Maejo大学Nipon助教授より資料提供
 1バーツ=2.7円換算

主要輸入野菜の金額の変化

※Maejo大学Nipon助教授より資料提供
 1バーツ=2.7円換算

 2004年の輸入金額14億バーツのうち、最もウエートが高かったのがにんじんで約3.2億バーツ、にんにくが約2.8億バーツであり、特ににんじんは、前年度の輸入額が約1億バーツであったのが、約3.3億バーツと約3倍に急増し、北部のメーホンソン県のにんじん栽培農家(約200戸)全員がにんじん栽培から手を引き、壊滅的な被害を受けた。にんじんは、冷涼な気候のもとで栽培される野菜であるため、元来タイの生産量はあまり多くなく、北部で一部生産しているのみであった。

 しかし、中国産のにんじんは、現在、残留農薬の問題から、輸入を禁止しており、現在は不足している。
 その他、ブロッコリーの輸入も2,000万バーツ程あるが、生鮮野菜は輸送期間が長い(船で約8時間かかる)と品質に影響するため、ロイヤルプロジェクトなどの産地には影響はないとのことであった。ただし、中国との間では道路整備が進んでおり、整備されればわずか3時間程度で運ばれることになる。一方、レタスは冷蔵して輸入されるので、品質が保持された状況で輸入されている。

 その他、中国以外の国からは、豪州、NZから冷凍えだまめ、冷凍さやえんどうの輸入が増えている。
中国では雲南省が野菜栽培には恵まれている。標高が1,900mで、年平均気温が15~20℃で、年中野菜栽培が可能であり、乾期の3ヶ月だけしか野菜を栽培できないタイを比べれば、大変恵まれた環境にあるとの話であった。 なお、にんにくについては、以下のようなFTA対策を講じている。


5.にんにくに対するFTA対策
(1)転作奨励政策
 農業協同組合省は2003年10月から、にんにく以外の野菜や果樹などへ転作するにんにく生産者に対して、1ライあたり1,500バーツの奨励金を支払うことを発表した。これにより、約2万ヘクタールの栽培面積のうち8,000ヘクタールの作付転換を行う予定である。しかし、これを利用するには、農家が事前登録した上に、生産物を販売した後に領収書で請求する必要があるため、現時点では登録者が少ないとのことであった。

(2)価格保証
 前述のNipon助教授によると、中国産にんにくのCIF価格が約5バーツ/kgと低いため、農業協同組合が国産のにんにくを保証価格(18バーツ/kg)で買い上げる制度である。しかし、転作奨励と逆行する制度であることから、この制度は2005年限りとなっている。


6.安全性への取組み 
 タイ政府は、タイを「世界の台所」とすべく、国内で生産、消費される食品に世界水準の安全性を持たせることを目的に、2003年3月「食品安全戦略計画」を策定し、2004年を「食品安全元年」として、食品安全環境の改善や食品検査の強化など各種キャンペーンを展開している。そのコンセプトは、畑からテーブルまでの管理と監視の制度、つまり原材料・生産・加工・販売のすべての過程の安全性の検査を可能とするというものである。
 食品安全性管理の中心責任機関は保健省と農業協同組合省であり、農産物の食品安全性を管轄する農業協同組合省の部局は、①農産物食品基準局(ACFS)、②農業局(DOA)、③農業普及局(DOAE)の3局である。


7.調査先の概要
(1)ロイヤルプロジェクトおよびチェンマイパッキングハウス
(1) ロイヤルプロジェクトの概要
ア.目的
チェンマイ、チェンライ、メーホーソン、ランプーン、パヤオ県等の北部に住む山岳少数民族の健全な生活、教育等の支援のため、特にケシ栽培から換金作物栽培への転換を目指すプロジェクトであり、1969年にタイ王室が立ち上げた。

イ.事業内容
・ 研究分野の業務
・ 開発に関わる業務(野菜の栽培技術指導を通じた生活、教育の向上、病気の予防活動の推進)、
・ 栽培した野菜の物流に関わる業務(収穫から加工包装および集出荷の改善)

ウ.所有施設と関連施設
・ パッキング工場(主要な工場は8ヶ所)、
・ 研究所(4カ所):高地農業研究所など
・ 開発センター(36カ所)
・ 販売事務所
・ チェンマイ大学(チェンマイ市)
・ カセサート大学(バンコク市)

エ.財政
・ 政府からの予算(3億バーツ/年、Royal House予算)
・ 一般からの寄付金
・ 利息及び利益

利益には、生産した野菜や果実の販売利益の他に、野菜生産地が北部の冷涼な山    
岳地に位置するため、現地山岳民族の生活と組み合わせた観光事業収入も含まれる 。

オ.運営
1992年、国王は「ロイヤルプロジェクト」を「ロイヤルプロジェクト財団」へ組織化し、経営はこの財団により行われており、国内外から広く支援されている。

 ロイヤルプロジェクト財団の職員には、約1,200人の有給スタッフとボランティ   アスタッフがいる。職種は公務員ではなく、財団職員となる。また、研究事業に携わっている者等には、プロジェクトごとに雇用される契約職員もいる。また、栽培指導等にはチェンマイ大学やカセサート大学などの専門の先生がボランティアとして監督にあたっている他、農業省の職員も300人程度派遣されている。

(2) 野菜事業
 野菜のプロジェクト としては、ア.食品安全、イ.有機食品、ウ.ハーブ類、エ.市場開拓、の4本柱で進めているとのことであった。野菜の栽培サイトは34ヶ所、農家戸数3,000戸、生産野菜の種類は約50種である。

 現在市場に出している野菜は、レタス、はくさい、スイートコーン、ロメインレタス、かぼちゃ、ほうれんそう、きゅうり(日本種)、トマト(桃太郎)などであり、きゅうりとトマトは国内及びシンガポール向けに生産している。販売価格は、一般野菜よりも高いため、市場ターゲットは中間層以上である。安全性への取り組みも評価され、国内販売先は確保されている他、海外販売にも力を入れ始めており、3~4年前からシンガポールや日本への輸出を始めたところである。

 日本へは、3~4年前からスイートバジルやほうれんそう、レモングラス、ブロッコリーなどを冷凍で輸出している。ロイヤルプロジェクトには冷凍工場は所有していないため、関連会社に依頼をして冷凍処理をしてもらっている。これらの輸出は、中国のリスクヘッジとして、日本側からのオファーを受けたもので、05年8月初め頃にはJASを申請し、大手の日本の冷凍食品会社と契約することになっている。

<生鮮野菜の流通の流れ>

(3) パッキング工場の概要
 チェンマイ大学内にあった工場を3年程前にチェンマイ市郊外に移転し、野菜及び花きの集荷後のカッティングや包装、出荷を行っており、野菜については4ラインからなる。生産物は、タイ航空のファーストクラス向け機内食やオリエンタルホテルなどの高級ホテル、特に日本ねぎはバンコクの日本食レストランや中華レストランへ出荷している。

 周辺産地で集めた野菜を包装した後、チェンマイ市内へは常温トラック、その他の地域へは冷蔵車を利用して出荷する。工場の稼働時間はお昼から半日で、午前中は集荷作業にあたる。集荷及び出荷トラックは、財団の所有で30台以上の冷蔵車があり、そのうちバンコク専用が10台以上である。工場は、GMP及びHACCPを取得済みである。


ロイヤルプロジェクト チェンマイパッキング工場

(4) 安全性への取り組み
 ロイヤルプロジェクトの野菜は、「ドイ・カム(DOI KHAM)」ブランドとして、市場に出回る。「ドイ・カム」ブランドの最大の特徴は安全性であり、生産から販売まで一貫した取り組みを行っている。生産レベルでは、有機栽培及びGAPをプロジェクト職員による指導の下で徹底し、工場レベルではGMP及びHACCPに基づいた生産管理を行い、「ドイ・カム」製品には、保健省の「毒素検査・品質保証」認定マーク及び農業協同組合省の「Qマーク」が添付される。

 Qマークは、製品の安全を確保するために、農水産物及び食品の安全基準である統一的な認証ラベルとして導入されたものである。このように、「Qマーク」は、野菜・果実の衛生検査、GAP、有機野菜、GMPやHACCPのような認証検査に合格したものにも記載することができる。

(5) GAPの取り組み
 農家レベルでのGAPの管理は、直接プロジェクト職員の管理の下で行われる。基本的に、プロジェクトの野菜を生産する農家とは委託契約を結び、農家はロイヤルプロジェクト用の野菜のみ生産している。集荷の箱に農家の名前が記入されているため、農家レベルまでのトレーサビリティーが実行されている。

 農薬検査は、収穫前、集荷後、出荷前の3回行われることになっており、検査には簡易キットを使用するほか、ガスクロマトグラフィー、高速液クロマトグラフィーを利用する。

 また、農家への支払は週一回、タイ農民銀行を通じて支払われるが、農家への支払価格は品質監査、重量、残留農薬検査の結果を踏まえて決定される。

(6) 野菜生産地の一例(チェンマイ県メーリン郡ノンホイ村)
 チェンマイ県に位置するノンホイ村は、農家数106世帯(うち専業農家が約100世帯)、のモン族の村である。元々、ケシ栽培を主に行っていたが、15年程前から70家族ほどがロイヤルプロジェクトに参加している。山の頂上一帯に位置する村は、冷涼な気候と恵まれた自然環境に囲まれている。生産品目は、レタス、にんじん、カリフラワー、はくさい、トマト、アボガド、パセリなどのハーブ類である。1世帯あたりの野菜農地は、約2ライである。連作障害を防ぐため、土地は1ライづつローテーションをしながら、野菜栽培を行っている。
村には、集荷所兼規模の小さなパッキング工場(ノンホイパッキング工場)がある。野菜のパッキングについては、簡単なものはこの場所で行い、それ以外はチェンマイパッキング工場で行われる。農家は、集荷所まで自分のトラックで運搬する 。集荷所には、一時貯蔵用の冷蔵庫も付設されていた。チェンマイへの輸送には、プロジェクト所有の保冷車にて運送する。

ノンホイ村における野菜の収量と庭先価格(例)

※ノンホイ村民からの聞き取り調査
 1バーツ=2.7円で換算

 村の周辺では米の栽培は行われていない。村民の中には山の麓で土地を購入し、うるち米の栽培をしている農家もいるとのことであったが、ほとんどの農家は野菜栽培に携わっているとのことであった。この村のトマトは、タイ東北地方で栽培できない時期に収穫することが可能であるため価格は良い。また、日本で8ヶ月トマト栽培の研修を行った者もおり、村ではビニルハウスで栽培を行っている。しかし、トマトの栽培は手間がかかるため(2ヶ月栽培し、1日おきに収穫)、栽培する農家は多くないとのことであった。

 野菜及び果実の栽培については、現地滞在のロイヤルプロジェクト指導員が11名常駐している。そのうち、野菜普及に携わる者が4~5名、果実普及が1名、残りは村にあるノンホイパッキング工場の事務関係に携わっている。野菜の指導員は、農薬などの技術指導を行なっており、病気などが見つかれば検査所へ品物を送る。村では、同じ野菜を作る生産農家がグループに分かれていて、グループごとに指導員が入り、栽培についての情報交換やミーティングを行っている。

 この村では、全農家が畑ごとにGAPを取得して2年目となる。日々の栽培記録は、現在プロジェクト職員が手伝っているが、これからは子供に研修させ記帳させる予定とのことであった。栽培計画に則った記録の具体的内容としては、種子蒔き、肥料撒きなどの時期、種類、量、モニタリング結果などであり、記帳の負担は大きい。栽培から収穫まで1品目につき4ページほどにわたり、最も栽培に手のかかるトマトではそれ以上であるという。

 ロイヤルプロジェクトでの農薬検査は、前述のように3回行われる。この村でも、第1回目の農薬検査はパッキング工場に付設された検査室で、プロジェクト職員が、収穫1週間程前に簡易検査キットによるサンプリングを行う。それに合格した後、収穫・ノンホイパッキング工場へ運搬され、ここで2回目の農薬検査が行われる。合格するとチェンマイへ運ばれ、3回目の検査を行い市場へ出される。

 ロイヤルプロジェクトにより、村民は豊かになった。村長によれば収入は増加し(中には倍に増えた者もいるという。)学校も作られ、スポーツ用品等の支給やモン族の文化保護のなされ、教育・文化環境も充実した。また、植林などの森林管理費も補助されている。しかし、教育を受けた子供たちは都市へ出て行き戻らない者もいるため、現在この村では後継者問題が表面化しつつあるとのことであった。



ロイヤルプロジェクト製品
(はくさい)
ロイヤルプロジェクト産地
 

ロイヤルプロジェクト産地
 

(2)B社(冷凍野菜加工会社)
(1)会社の概要
 B社は、チェンマイ市に2つの工場と1つの貯蔵倉庫を持ち、株式上場を果たしている、1988年設立の冷凍野菜会社である。野菜の取扱い品目は、えだまめ、いんげん、ベビーコーン、スイートコーン、にんじん、ブロッコリーやたけのこなどが入った野菜ミックスであり、その他、冷凍果実も製造している。工場作業員も含めた従業員数は2,000人強である。第1工場では、スイートコーン、フルーツを製造し、処理能力は日量80トン、また、第2工場ではいんげん、えだまめ、その他一般野菜を製造し、処理能力は日量120トンである。工場は、24時間・3交代で稼動しており、繁忙期以外は日曜日が休日となる。
 製品の80%は日本向け、15%は米国・カナダなどその他外国、5%が国内用ということであった。生産された全てのえだまめ、いんげん、スイートコーンが日本向けに輸出されている。
 原料は全て農家との契約栽培により調達している。産地は、チェンマイ、チェンライ、ランパンなどタイ北部である。冷凍方法は、液体アンモニアを用いたIQF(Individual Quick Frozen)製法である。

B社契約農家の栽培状況

※会社からの聞き取り調査
 いんげんについては、注文が少ない事から雨季の栽培は止めたとのこと

(2)安全性への取り組み
 日本のみならず、ヨーロッパへも輸出する当社は、安心・安全を常に心がけている。工場は、GMP、HACCP、BRC(British Retail Consortium) 、ISO9001-2000を取得済みである。残留農薬管理は、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーで分析する。以下は、その分析頻度である。タイの残留農薬基準は、約90種類ほどであるのに対し、日本の基準は714種類であるため、ヨーロッパ向けについても最も厳しい日本の基準を採用している。日本の詳細な残留農薬基準は、案の段階のものも含め、日本の顧客や日本の厚生省のホームページから入手しているとのことであった。

B社の残留農薬分析

※ 会社提供資料より

 また、農家とはコレクター を通じて契約をしている。会社はコレクターと作付面積を基に契約し、コレクターが各農家と契約する。当社が契約しているコレクターは、30~50人いる。肥料、種子、農薬は全て会社が供給し、コレクターへはそれら代金を差し引いた額を支払う。現地滞在の農家指導員は35名で、生産から収穫までの計画・指導・調整・管理を行っており、指導員は末端農家の指導まで行う。

B社農家保証価額

※会社からの聞き取り
 この額には、農薬代等が含まれている。

 トレーサビリティーについては、バーコードによる管理を行っている。コレクターが各農家から生産物を集荷した段階でこのバーコードを付けるため、コレクターが集荷する農家グループ単位までトレースすることが可能。このバーコードによる管理は、日本等海外からの要請ではなく、’05年6月から始めたシステムで、農業協同組合省のモデル工場になっているとのことであった。

<B社におけるトレーサビリティーシステム>

ⅲ)今後の方針
 中国との関係としては、当社の製品と重複は少ないと考えられるため、影響は大きくないが、品質や残留農薬の問題については、中国は改善されつつある。しかし、日本向け商品は競争が激しい。品質管理、残留農薬などを今後もしっかり管理し、安全・安心を心がける。また、アメリカ向け製品として、いんげんなどの冷凍野菜にソースをつけて販売することを考えている。調理段階で和えるだけというような製品であるという。


(3)C社(冷凍野菜加工会社)
(1) 会社の概要
 C社は、タイ北部ランパン県に工場をもつ、1989年設立の冷凍野菜及び果実の会社である。資本金は60,000バーツで、タイの会社と日本の会社の合弁会社である。工場従業員450名、事務スタッフ50名の約500人の従業員を抱える。処理能力は、日量30トン、工場は3交代で24時間稼動している。凍結方法は、液体アンモニアを使用したIQFと急速凍結(Air Blast)で、それぞれの処理能力は、1.2~1.5トン/時間、5トン/日である。

 主な冷凍野菜の製造品目は、えだまめ、いんげん、ベビーコーン、カリフラワー、きぬさやである。原材料の90%を契約栽培により調達している。製品の輸出先は、日本60%、アメリカ・ヨーロッパ30%、台湾+タイ国内10%である。日本への主な輸出製品は、いんげん(1,800トン/年)、えだまめ(1,300トン/年)、きぬさや、いちご(50トン/年)、マンゴーである。

 契約農家の平均栽培面積は1~2ライであり、栽培は、米と野菜をローテーションしながら栽培している。えだまめといんげんの両方を栽培する農家はいない。タイ北部において、えだまめは年3回収穫可能であるが、1農家はローテーションをしながら栽培するので年1~2回の収穫となる。えだまめの栽培は、水、土の管理が重要となり、それには用水路が必要であるため、ある程度大きい農家が栽培している。えだまめの利益としては、3,000~7,000バーツ/ライ、いんげんの利益は2,000~4,000バーツ/ライであり、このくらいの利益があれば農家は辞めることなく、再生産可能であるレベルと考えている。種子や肥料・農薬は工場が供給する。えだまめに関して、これら費用は5,000~6,000バーツ/ライ程必要とし、いんげんより投資が必要であるとのことであった。

(2) 安全性への取り組み
 海外輸出が大半を占める当社も、GMP、HACCP、ISO9001-2000の認証を受けている 。また、契約農家はGAPを取得している農家も多い。残留農薬に関しても、生産から出荷までに計4回行うとのことであった。農薬基準は、日本の基準を使用している。輸出先である日本の企業と逐一農薬リストの確認・了承をとる。

 当社は、農家との契約はブローカーを通して、栽培前に各原料別に契約する。ブローカーとは、一般的には商売人であり農家ではない。えだまめには15人のブローカー、いんげんには8人のブローカーがいる。当社とブローカーとの間で、面積、予想収量、保証価額、時期、品質等について契約し、えだまめであれば年3回の収穫ごとに契約を交わす。当社にはスーパーバイザーといわれる、農家指導員が12名いる。スーパーバイザーは一人あたり50~100農家を担当しており、その役割はGAP・農薬管理及びモニタリングである。スーパーバイザーと農家は月1回収穫量や歩留まりについてミーティングを持つ。

 この場合も、コレクターとは、農家であるかまたは村のリーダー的存在の者であるとのことであった。収穫時は、1ライあたり30人の労働者を必要とするため、農家グループの中で助け合う。収穫物はコレクターのところに集め、ブローカーがそれをとりに行くという流れである。ブローカーはコレクターを管理しているが、ブローカーとコレクターの間の契約はないという。1ブローカーあたり、3~5名のコレクターを管理している 。
当社でのトレーサビリティーシステムでは、ブローカーコードとエリアコードまで把握可能とのことであった。

<Cにおける農家管理システム>

ⅲ)問題点
 えだまめについては、経営規模が小さいため生産管理が大変であり、コスト高となってしまうことである。具体的には、台湾は1農家あたり20ライの面積を持つのに対し、タイでは1~2ライと極めて小規模となっている。加えて、タイでは収穫から加工までに約12時間を要し(中国も同じ)、えだまめの色が薄くなる傾向にある。台湾では、収穫後約6時間で工場に搬入される。理由は、台湾は農地が広いため機械収穫が可能であるが、タイではまだ手収穫であるからだという。原料を運ぶ時間も、ランパン県では2時間、チェンマイでは3時間かかる。このような問題を解決する必要がある。 
 その他、なす、わさび、ほうれんそうなどの新製品の開発を考えている。


(4)D社(チルド野菜加工会社)
(1)会社の概要
 D社は、タイ中央部ナコンパトム県に位置する、1993年に設立されたチルド野菜及び果実の輸出会社である。年商4億バーツ、臨時職員を含め300人の従業員を抱える。製造品目は、空芯菜、アスパラ、ピーナッツのもやし、マッシュルーム、ブロッコリー、ベビーコーンなど多岐に渡り、その他マンゴーやマンゴスチン、パインアップルなどの果実も取り扱う。製品の90%は輸出向けで、そのうち75%はヨーロッパ、15%は日本向けである。日本向けの主な品目は、アスパラガス、マンゴー、マンゴスチン、ベビーコーンである。日本へは、バンコクの商社と日本の商社を通じて福岡に空輸して、その後東京・大阪に流通させている。

 原料は、ナコンパトム県の農家と契約の下に生産したものを調達している。産地にも小さなパッキング工場があるところもあるが、基本的には収穫された野菜はD社の冷蔵車で工場へ運ばれ、工場にて残留農薬等の検査、くん蒸処理、カッティング、パッキングを行い、2~6℃の空間で発泡スチロールに入れ、空輸で輸出する。日本へは夜行便(約6時間)を利用するため、早ければ前日の朝収穫したものが、夕方工場から出荷され翌朝には日本に到着することとなる。アスパラガスを例にとると、日本への輸出は、通常3~4回/週、1回300kgを運ぶ。日本向けの飛行機代は、おおよそ60バーツ/kgである。

(2)安全性への取り組み
 ヨーロッパ向け輸出が多いこともあり、民間会社SGS認定のEurep GAP、BRC、HACCP、ISO9001-2000を取得している。

 農家との契約は、農家グループのリーダー、つまりコレクターと行う。契約内容は1日の納品量である。契約の前に、当社のスタッフが土壌などの条件を調べ、適合した地域と契約を交わす。肥料は農家が購入するが、種子と農薬は会社が提供する。収穫した野菜は、袋や箱に入れて、リヤカーやトラック、バイクでコレクターの家まで運び、そこからD社の冷蔵車で輸送する。現地には、D社の指導員が常駐し、栽培指導にあたっている。

 <D社における農家管理システム>

※ 生産グループからのヒアリング
 グループには、52家族おり、ヨーロッパ輸出向けの空芯菜と日本輸出向けのアスパラガスなどを生産している。1農家あたり最低3ライの農地を所有しており、ほとんどの畑には、スプリンクラーがある。水は、池、地下水を利用しているが、その他カンチャナブリのダムからの用水路を政府が整備し、その使用料は無料であるため、問題はない。グループ設立は、11年前でD社との契約は10年目ということであった。D社が契約を交わしているグループリーダーは、グループの中で時間的に余裕のあり、熱心な人が選定されており、コレクター自身はボランティア、つまりコレクターとしての収入はない。グループリーダーの家の敷地にも、パッキングを行なう小さなスペースがあった。

 グループは、会社の方針で2004年に半年をかけて(申請資料作成に3ヶ月)Eurep GAPを取得した。農薬計画などは、D社から提供される。GAPの日々の記録は大変であるが、常駐の会社職員が主に記録している。
 空芯菜の栽培は、1年中行っている。1日2回朝・夕の水遣りを行い、収穫はグループで協力して行っている。1ライを4日間かけて収穫をするので、4日置きに栽培を行っている。空芯菜は、特に雨期に病気に気をつけなくてはならないものの、収穫が短く価格が良い(11バーツ/kg・グレードは関係なし)ので、栽培しやすい。空芯菜の純利益は、おおよそ10,000バーツ/月である。

 また、アスパラガスの栽培も1年中可能で、ここでは8~9年前から行っている。1日の収穫量は15~25kgで、Aグレードであれば85バーツ/kgである。アスパラガスの栽培は空芯菜よりも虫の管理が大変である。アスパラガスは、年4回栽培が可能(2ヶ月かけ生産し、1ヶ月休耕)で、最低5,000バーツ/週、3ヶ月で50,000~60,000バーツ/3ヶ月の純利益をもたらす。
会社からの支払いは週1回、グループリーダーの銀行口座に振り込まれる。

農家グループの概要

※ 1バーツ2.7円で換算

(3)今後の方針
 会社としては、来年からフルーツを中心としたマーケットを中国、インドに広げる予定でいる。ミニアスパラガスの需要は増大しており、生産余力はまだ十分あるので、日本向けもさらに増やしていきたいと考えていた。

(5)E社(缶詰加工会社)
(1) 会社の概要及び工場の生産能力
 当社は、1988年にタイ東北部ノンカイ県に設立された、加工トマト製品製造が中心の会社である。資本金は、5,225,000USドルで、日本と台湾(2国で95%)、タイ(5%)の会社が出資している。

 品種の栽培比較試験などの試験ほ場を7カ所持ち、農家への技術指導員も30名を有し、肥料(4回施肥等)、農薬使用基準(殺虫剤不使用等)の設定を含むGAPや日本の顧客ニーズに合致した栽培指導の徹底等、農家への技術的支援体制は確立されているといってよい。加えて、農家への融資(農民銀行を通じて)、農業資材、支柱の調達まで行っている。このように、当社では全体のパッケージとして農家と伴に歩む姿勢を貫いている。

 従業員は450名で、このうち正社員が150名、パートが300名となっている。1日の生産実績は、口頭での説明によれば、650トン程度で最大生産能力の60~70%であり、生産物のうち6割が日本向けとなっている。ペーストとダイスの割合はそれぞれ40%、60%の割合で日本のユーザーに供給している。また、加工工場では異物混入など品質管理面での配慮も比較的なされている。日本以外の輸出先としては、東南アジア諸国や台湾が占めており、その他豪州やニュージーランドが若干ある。

 この工場での取扱製品(2004年)は、トマトペースト(20kg角缶)、ダイストマト (4.5kg缶、2005年から200kg缶も始める予定)他、ホールトマト、ジュース、ビザソースとなっている。

(2) 農家の生産能力
 東北地域の約8,000農家のうち約2,500農家がトマトを栽培している。労働力は農家の夫婦2人で、支柱の準備などの忙しい時期には雇用労働を使う(日当20バーツ程度)。

 メコン川流域の生産地の単収は、1ライ(=0.16 ha)あたり10トン以上で、米の後作栽培では6トン以上、優良農家では15トン以上であるとのことであった。
 栽培形態としては、米の後作としてトマトを栽培するのが一般的である。しかし、当社としては、トマトの病気対策のため、トマトの後作としてスィートコーンやベビーコーンを栽培するよう指導している(実際はトマトの栽培後期の段階で、トマトの株間にとうもろこしを播種する)。また、タバコとトマトを隔年で栽培する農家もいる。

 トマトの栽培開始時期は、10月、11月、12月の3段階。支柱栽培を行い播種から収穫までは約4ヶ月となっており、播種や収穫作業の機械化は行われていない。価格は気温による品質格差から10月栽培のものが最もよい。グレードはA、Bの2種類で、Aは完全な状態で、色が良く、重量(10g以上)のもの。サイズ、水分、成分はグレードには無関係とのことであった。

 品種は、米国、インド、日本、台湾のものなどを使用している。
 東北地域は確かに出稼ぎが多いが、若者がバンコクなどに出稼ぎに行くため、農業生産自体に影響はない(農業を支えているのは両親)。トマト栽培による年間収入(諸経費を差し引いた後の純利益)は1ライあたり4,000バーツ程度という。

 当社としては、年間6,000ライから8,000ライの栽培面積を必要としている。契約農家ではトマト専用の畑として最低2ライ、多い者で10ライ程度を所有しているとのことで、夫婦2人では、2~3ライの面積のトマトを栽培・収穫管理するのが限界と言われる。中には10ライの面積を有する農家もいるが、契約農家は「夫婦」で登録されるため、実際には近所に住む子供や親戚を労働力として使用して、大きな面積での栽培・収穫を可能としている。

 しかし、過剰生産を避けるため、一定数量以上は買い入れしていない。
 買い入れ価格については、毎年、農家への契約説明を行う際に最低価格を決定しているが(推定kg当たり2バーツ以下)、市況が暴落した時でも農家の信用を確保するため、最低価格で全量を買い入れなくてはならないので、この点が最大の悩みだと言う。


東北タイでの加工用トマト栽培の様子(支柱栽培)
間作としてとうもろこしを栽培


 契約農家は、所持する農機具(トラクター等)、水の供給設備(給水ポンプ等)を有すること、農民銀行の会員であること、等が条件となる。新規参入には研修が課せられる。

(3) 今後の見通し
 当社によれば、生産拡大の可能性は日本の需要次第という。すわわち、注文に応じて栽培面積の拡大等が可能という。その背景としては、日本のユーザーからは、残留農薬の関係でタイ産の製品の方が中国産より評判が良いと言われていることが原因という。また、ダイストマトについては、人手を使い丁寧に処理しており品質に自信を持っている。しかしながら、日本のユーザーの話では、タイ産のトマト(ペースト用)は色等の問題があり、評価は低いとのことであった。なお、タイ加工食品協会の野菜部会長も、ペーストは中国産、ダイストマトはタイ産の方が優れているとの意見であった。また、工場の設備も古い上に、面積が限られており、かつトマト以外の製品(きのこ、ベビーコーン、アロエ、ジャックフルーツ、ミックスベジタブルなど)を多数生産している。実際に、トマトの売上は大きいものの、収益性はジャックフルーツの方が上という。

 多品目生産のためか、4ヶ月のトマト製品の製造期間だけでなく、工場は年間300日稼動している。工場のメンテナンスの期間を考慮すると、現状の生産状況は、最大生産能力のかなりのレベルまで到達しているのではないかと思われた。

 また、訪問したトマト栽培農家(女性 53歳)は、2品種・4ライを栽培しているが、生鮮トマト(マレーシア向け)も生産をしており、これらは緑のうちに早取りして加工トマト(kg当たり2バーツ)より良い価格(kg当たり3バーツ)で取り引きされる。この農家は米は作っておらず、今月(1月)末に「とうもろこし」と「とうがらし」を間作する。支柱の準備(糸結びを含む)の際はパートを雇う。トマト栽培歴は10年以上で2人の子供を大学へ行かせたとのことであった。さらに、当該地域では複数のトマト会社が競争しており、実際、会社の色によって区分されているいくつかのコンテナーが畦道に置かれており、トマト加工会社間での競争は相当厳しいとの話があった。

 ここで、当該栽培農家を例にとり、東北地方の農家の加工用トマト収入を試算してみると、約80,000バーツとなる 。『Statistical Yearbook Thailand 2003』によれば、タイ国全体での1家庭あたりの平均月収は、13,376バーツ(年収換算160,512バーツ)、東北タイでは9,279バーツ(年収換算111,348バーツ)である。加工用トマト栽培のみで、東北タイ平均月収の約7割を占めることになる。また、1999年におけるタイ国の平均農業所得は、26,882バーツであり、農外所得を含めた農家所得は79,198バーツというデータがある 。物価上昇分を考慮しても、80,000バーツという当該収入は多いと考えられるため、収入面のみでは、加工用トマト栽培は、東北地方農家にとり魅力的な労働と言えよう。


(6)F社(缶詰加工会社)
(1) 会社の概要
 F社の会社グループは4社で構成され、トマト製品を生産する当社はグループ内で最大規模を誇る。
 トマト工場の設立は、1978年で、タイで最初のトマト加工工場である。5年程前に機械更新等を行い、生産能力を2~3倍に増強。工場内の面積にも余裕がある。工場の生産実績は400トン/日で、最大で500トンとのことであった。

 トマトペースト等の製造期間は1~6月の6ヶ月間。トマトペーストは4,000トンの生産実績であるが、能力としては5~6,000トン程度ある。その他、ダイストマトが4~50コンテナー、トマトジュースが1,000トン、ホールトマトを5~6コンテナー製造している。

 販売は60%が国内、40%が海外向けである。輸出先としては、豪州、NZが主で、その他台湾、香港、シンガポール、サウジアラビア、クウェート等である。しかし、輸出する際は別の海外ブランド名でトマトペーストを輸出している。日本への輸出は行っていないが、在タイ日系企業にスパゲッティソース用にダイストマトを販売している。
 従業員は、総勢4~500名で、うち常勤は5~60名。臨時雇用者は工場で半年働き、残りは米作に従事している。

(2) 農家の概要
 契約農家は現在4,000戸で、産地はノンカイ、ウドンタニ、サコンナコン、サコンパノム、カラシンとなっている。契約農家の平均面積は4~5ライで、単収は6~10トン。栽培開始時期はE社の場合と同様10月、11月、12月の3段階に分かれており、農家との契約は7~8月頃に1年契約で行う。保証価格はkg当たり1.8バーツ(4.86円)で収穫終了後支払う。生産現場では病気よりも気候(雨、あられ)の問題が大きい。

 調査を行った栽培試験場では、生食用の品種である「カメロン」(豪州育成)を4ライ栽培していたが、この生産コストが1ライ当たり25,000~30,000バーツと非常に高く、種子1粒につき2.5バーツで購入しているとのこと。本品種(ハイブリット品種)はブローカーの紹介で導入したが、種子がなかなか手に入らないのが難点である。しかし、販売価格は10バーツ(270円)/kgと高値で売れるのが魅力であり、ブローカーを通じて海外に輸出している。

 栽培期間は3ヶ月であるが、水と肥料の要求量が高いこと等から、農家ではまだ栽培していない。
 また、訪問した契約農家(56歳 女性)では母と祖母と2人で5~6ライ栽培しており、収量は1ライ当たり10トンとのことであった。トマト以外にはスイートコーンを栽培している。ここでは加工用トマトを緑のうちに収穫し、南部のハジャイやバンコク近郊の卸売市場にも出荷している(価格はkg当たり3バーツ)。基本的には家族で作業を行うが、支柱を立てる作業を行う時に1日5~6人臨時で雇っており、その日当が1日20バーツとなっている。パートにはラオスから来る人もいる。また、このメコン川流域の土壌は川の氾濫によりプランクトン等が豊富に含まれることから、タイの中でも肥沃である。潅水はメコン川の水を利用して、週2回行われている。訪問農家の近くでは7~8名のパート(女性)による草取りが行われていた。


(7)G社(缶詰製造会社)
(1) 会社の概要
 1990年にタイ北部ランパン県に設立された。従業員は60~70人(常勤)であり、3月~5月のシーズンは100名程度を臨時雇用(基本的に日曜のみ休業)している。

 当社は、ランパン県で唯一のトマトペースト工場で、主な製品は、ベビーコーン(ペースト状含む)缶詰(80%)、トマトペーストと若干のトマトジュースで、今年はホールトマトの製造はない。その他、グリーンピース、ベビーコーン、レッドビーン等の缶詰である。以前は、スウィートコーンと乾燥冷凍いちご(チョコレート用)を対日輸出していたが、需要者のサイズ、重量に対する厳しい注文と低価格により取り引きを停止したとのことであった。その後、対日輸出は行っていない。

 輸出は7割で、残り3割は国内向けである。主な輸出先は韓国、マレーシア、シンガポール、中近東であり、近年、マレーシアへのスウィートコーンの輸出が伸びている。
 トマトペーストの輸出は中国産の輸入が増加しているため、減少傾向とのことであった。タイ国内の大きな工場が中国からトマトペーストを輸入しているが、ペーストを輸入し製品に加工して輸出する加工貿易の場合には、40%の関税相当額は後で払い戻しされる(注:大使館の話では、水産物等でも同様の措置を講じている)。

 中国産のペーストは、供給者と時期により品質が大きく変動する。中国産のホールピューレトマトの品質は悪いが、非常に安価である。24缶(スーパー等で販売されている小売用サイズ)入り1箱で1USドルの価格差がある。中国産のペーストのCIF価格はキロ当たり6~7バーツ、タイ産の価格は27バーツである。

 当工場のトマト原料の処理実績は1,000~1,400トンで、最大2,000トンまで加工した実績がある。加工期間は3月から一ヵ月半。加工トマトの主な生産地は、ランパン(最も大きい)、ランプン、チェンライ県。4つのブローカーを通じて農家と契約栽培をしている。保証価格も農家とブローカーの間で決定され、現在はkg当たり1.7~1.8バーツ、工場の買入価格は2.4バーツで、この価格では輸出は困難であるとの見解であった。

(2) 農家の概要
 この地域のトマトの生産は年々減少傾向にある。農家は、もち米の後にトマトを栽培し、調査したブローカー兼農家によれば、彼は全体でトマト畑を40ライ管理しており、労働力は一般的に夫婦2人であるという。平均年齢は35~45歳で、単収は1ライあたり5~10トン。農家は10年以上のトマト栽培経験があり、水田作との輪作をしっかりやっているため病気の問題はない。収穫前の農薬管理には特に気を使っているとのことであった。
 この地域は工業用水との競合がないため、地下水をふんだんに使えるメリットがある(工場も同じ)。畑には、ブロック等を使用した簡易な明きょ排水の施設もみられた。


北部タイでの加工用トマト栽培の様子
(支柱はない)

(8)H社
(1) 会社の概要
 バンコクから東の海岸沿いに車で1時間半の距離にある、Amata工業団地(約140工場)内に新設されたペーストを原料としたトマトケチャップを生産し、輸出する唯一の工場である。当該工業団地は、近い将来新設される予定のタイ国際空港(現行のドン・ムアン空港は貨物専用空港となる予定)から1時間程度、ランチャバン空港からは10分程度と地理的に大変恵まれている団地である。
 2004年10月から工場内の設備のインストールを開始し、2005年1月時点で100%完了。来月には一部製品が市場に出回る予定であるとのことであった。

 工場の職員は常勤の30名のみで、うち20名が製造に関与し、大部分はパッケージ作業に従事している。パートの利用は町との距離が40kmも離れているため困難のため行っていない。

 製品としてはトマトケチャップ(最終製品)を集中的に生産する予定でる。荷姿は、300グラムのボトルが12本入ったダンボール箱で輸出する。主な輸出先は、ヨーロッパで、ドイツ、フランス、イタリアである。しかし、注文に応じていかなる製品(バルクも含む)も製造可能とのこと。

 日本は現時点では輸出先としては考えていない。対応者によれば、注文に応じどんなスペックでも対応できるが、日本のケチャップの味が大変ユニークであることがネックという。

 これに比べて、欧州は、人口も多く、特に夏場の消費量はバーベキューやビール祭などで大変多い。イタリアは自国産のトマトを利用してケチャップを利用する一方で中国からペーストを輸入している。ドイツでは高品質のものは自国産のトマトを、一般的なものは輸入原料を使用している。

 欧州全般に言えることであるが、生産コストが高く、特にパッケージコストが年々上昇している。当工場の能力は1時間あたり2.5トンでマス・プロダクションのメリットを生かす市場としては、現時点では欧州しかないと考えている。

 当工場の原料は東北タイ(シーチェンマイ)の工場で生産されたペーストを利用するが(北部だけでは量的に不足)、不足する場合には中国産や欧州産のペーストを使用する。品質を考え、中国のサプライヤーは1社のみと契約している。中国からの輸入価格は最近安定している。国産か外国産のいずれを使用するかは価格により決める。ペースト輸入には、具体的には覚えていないが、1kgあたり20バーツ程度の関税がかかるが、製品加工して再輸出される場合には払い戻しされる制度を利用している。

 その他、マスタード、マヨネーズ、ステーキソース、バーベキューソース、カクテルソース、ドレッシングなどのソース類のほか、わさびやテリヤキソースも製造予定。
 GMPは既に取得しており、HACCP等も近々取得予定でいる。新しい工場であり、適度な大きさの工場であるため、注文に対してフレキシブルに対応できるのが利点と社長は述べていた。


Ⅲ まとめ

(1)ラオス
(1) 野菜の位置づけと特徴
 米中心の農業政策から、貧困・栄養改善等の解決に結びつく野菜(商品作物のひとつ)は多様化政策の中で、重要な位置付けがなされている。日常生活の中でもハーブなどの葉菜類は日常的に摂取されているが、国民の必要摂取量には遠く及んでいない。

 一方果菜類はラオスでも生産されているものの、品質(大きさや見た目)がよいタイ産のものが、特に雨期に多く輸入されている。野菜は、農家保護と安全性の問題から輸入禁止とされているが、密輸が横行しており、市場でもかなりの外国産野菜が取り引きされている。
 野菜価格も生産行動が利益に左右されること(利益性が高い野菜に生産が集中する)、気象条件の類似性からタイ等周辺国からの輸入時期と国内での生産時期と重なることなどから生じる価格の急落(不安定性)が野菜生産上の最大の課題となっている。

(2) 野菜生産・加工・流通上の制限要因
 現時点では非常に多くの制限要因が存在する。例えば、野菜(原料)の安定供給面での不安定性、市場で小売と卸売機能の未分離、道路、加工施設等のインフラ整備の遅れ、不透明性な税制問題(通行税など)、政府のガバナンスの問題(政策実行力の問題)等が挙げられる。

 このような問題の中での対処としては、ボロベン高原など行われている開発輸入のように、生産段階から品質・衛生問題も含めて特定企業による丸抱え方式を採らない限り、第三国に広く受け入れられる産品の生産は相当な困難を伴うと考える。

(3) 野菜生産上の好条件
 先ず、経済的理由から農業資材のインプットを抑制せざるを得なかったこと、未開拓地が多く自然環境面での「イメージの良さ」があることから、アジアモンスーン地域であっても、低農薬や有機栽培を行いやすい環境にあると言える。

 次に、ラオスでは物価水準の低さから生産コスト面の利点ある。
 野菜の産地としても、メコン川流域やボロベン高原など一部の地域では、水や土壌などの自然条件が整っていること、農民の栽培技術等の意識が高いことから、今後の可能性を秘めている。

 また、かなり長期的な展望であるが、高い生物多様性を活かした、遺伝資源の保存とこれらを活用した品種開発の面でも期待が持てると考える。

(4) 今後
 現在中国との競争を視野に入れたタイの開発輸入拠点として、ラオスが注目されつつある。事実、たけのこなどの缶詰生産の動きも、今回の調査で確認できた。このように、ラオス農業省もアピールする「クリーンなラオス農業」のイメージを活用して、特定産品レベルで付加価値をつけることとなる。

 ただし、上記のような問題があり、短期的に周辺国(特にタイ)以外の国に対する野菜の輸出が伸びる可能性は低いと考える。


(2)タイ
(1) 主な野菜の加工場での品質・衛生管理の水準
 対日向け輸出を行っている複数の加工場(トマト、冷凍野菜等)を訪れたが、HACCP、GAP、トレーサビリティについては、各工場での実施の程度差は見られたものの、工場の責任の下で100%実施されていた(一部、仲買人を通して実施)。トレーサビリティについては、バーコード方式によるもの、または、製品への番号記載によるものがあり、残留農薬等の問題があれば仲買人が収集した農家レベルまで、もしくは、コレクターによる集荷段階までトレースすることができる。

 また、輸出先によっては、高水準なBRCやEurep GAPを取得している工場もあった。
 GAPについては取得までの申請書類の作成等の苦労もさることながら、詳細な各農家での栽培管理等の記録が求められるが、工場のスタッフが記録をサポートしている。

 工場では農業技術者を雇用しており、彼らが農家に対して農薬や栽培・収穫管理等の技術指導をしているが、特に異物混入や残留農薬の検査は徹底していた。種子、農薬、肥料等の農業資材についても工場で一括購入して、農家に配布している。

 以上のことから、最も品質・衛生管理要求が厳しいと言われる日本の市場と取り引きをしている工場の品質・衛生管理水準は、国際的にも相当なレベルに達していると言える。

(2) トマト加工品について
 タイからわが国へはトマトペースト(ピューレも含む)が毎年1,000トン程度(2004年実績:855トン)輸入されており、わが国は関税割当で保護していることから、センシティブな品目の一つである。

 主に調査したのは、東北タイの工場であるが(本年1月に実施)、対日輸出を行っている工場の契約農家のトマトをみると、熱帯性気候のためか色づきが良くなかった。このため、タイでは、トマトペーストよりは、人手によりカッティングを丁寧に行うことができるダイストマトの競争力があると言われている(ペーストの品質と価格競争力は中国産の方が上と言われている)。

 また生鮮トマト(色づき前に出荷)の価格の方がよいこと、加工工場間での農家確保の競争が激しいこと、契約農家となる要件が厳しいこと(ポンプなど水管理等の施設を有すること等)から、当該工場でのトマト栽培の面的拡大は容易なことではないと思われた。
 ただし、加工トマトの栽培のみで東北タイの平均月収の約7割を占めることから、加工トマトの栽培は農家にとって魅力的といえる。

 なお、最近のラオス国ビエンチャン市における報道によれば、我々が調査した東北タイの工場が原料トマトの確保のために、ビエンチャンにおけるメコン川沿いの肥沃な土地を活用してトマト栽培を始めるとのことであった。2005年11月に播種して、当該シーズンは1万トンのトマトを生産し、栽培面積は、当初1,600haから2008年には6,400haまで拡大する予定とのこと。これも、ラオスでのタイ資本による開発輸入の一例となろう。

(3) 冷凍野菜等
 2004年のタイから我が国への冷凍野菜の輸入量は30,817トンと、初めて30,000トンを超え、ここ数年は冷凍野菜の輸入量は増加傾向にある。品目では、いんげんやえだまめが大きな割合を占めている。

 タイからの冷凍えだまめの輸入量は、台湾、中国についで3番目を占める重要な品目である。しかし、タイのえだまめ生産は台湾・中国と比較すると小規模であることから機械化が進んでいない。そのため、収穫から製品になるまで時間を要することから、他国の製品に比べ色が薄いと言われることもある。また、中国と比較するとコスト面でも劣るなど、常に台湾・中国と競合関係にある。

 冷凍野菜会社は、日本を重要な市場と捕らえてはいるものの、日本の品質・規格に対するニーズが厳しいことから、EUやアメリカへも市場を広げつつある。   

(4) ロイヤルプロジェクトでの野菜栽培
 レタス、スイートコーン、ほうれんそう、トマトなど約50種類の野菜を栽培。当該プロジェクトによる支援を受けている村の農家はGAPを取得し、パッキング工場ではHACCPやGMPを取得していた。また、プロジェクト職員による厳格な農薬検査や農家の栽培指導を実施しており、高品質で安全性の高い野菜を生産し、日本にはスイートバジル、ほうれんそう、ブロッコリーなどを冷凍輸出している。
 生産規模が小さく、輸出が大幅に増加する見込みは低いが、ロイヤルプロジェクトが山岳民族支援の観点であることから、当該プレミアム野菜への関心が少しずつ広まる可能性を秘めている。

(5) AFTA(アーリーハーベスト)の影響(特に中国からの野菜の輸入状況)
 本文で触れたように、ロイヤルプロジェクト指導員Nipon助教授によれば、中国からの野菜の輸入が増加しており(2004年の中国からの野菜の輸入金額は約14億バーツで前年比172%増)、特ににんじんの輸入の急増(金額ベースで324%増)により、北部タイのメーホンソーン村では壊滅的な被害を受けた。また、にんにくについては、タイ政府によるFTA対策(転作奨励金等)が講じられている。

 一方で、タイからの中国への野菜の輸出はわずか1,000万バーツのみであり、野菜について見る限り、大きな貿易収支のアンバランスが生じている。
 また、現在、北部タイと中国との間では道路整備が進んでいるようであり、完成すれば現在影響が少ないと言われている生鮮野菜への影響が懸念されるとのことであった。

 なお、トマトペーストについては、加工貿易制度を利用して、安価な中国産ペーストの輸入が相当増加しているようであり、特に我々が調査した北部タイのトマト産地はかなりの影響が出ているとのことであった。この輸入者は、工業団地等に立地する大企業といわれ、安価なペーストを中国から輸入して、トマトケチャップ等に加工して欧米に輸出されている。


(参考)主な面談者リスト
(ラオス)


(タイ)




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