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韓国の野菜生産、流通、消費の動向

農林水産省 農林水産政策研究所 国際政策部
アジアアフリカ研究室長 會田 陽久


1.はじめに
 韓国の農政は、1990年以前は、国内問題を解決することに手一杯であり、またそれで大過なく政策運営が可能であった。しかし、ガット・ウルグアイラウンドの妥結から韓国農業は、急激な国際化の中に押し出されることとなった。さらに、近年にいたって国際化の流れの一環として、2国間でのFTA締結が世界的に進められることとなった。韓国は、昨年4月に農業サイドからの強い反対を押し切ってチリとのFTA締結に踏み切った。また、日本とのFTA交渉は現在足踏み状態にあるが、年内の交渉再開、進展が予想される。

 韓国チリのFTA締結においてチリは、生鮮果実を主力輸出品とする農産物輸出国でありながら、米、りんご、なし等を関税化除外品目にすることを認めた。その他の果実生産等については韓国では、国内生産の構造調整政策が実施されている。韓国政府は、それでも貿易による経済的利益が大きいと判断し、FTA締結に向かったと見られる。一方、チリにとっては農産物貿易という点では不十分の感が否めないが、アジアとの協定締結の足がかりとしたいという思惑があったようだ。

 韓国農業は、国際化の中で競争力強化にまず力を入れ、生産性の向上を目指したが、貿易自由化と国内生産の伸びが農産物価格の低迷を引き起こした。その後、家族経営を中心とした経営安定政策に向かい、2000年頃からは、所得政策にも力点を置くようになった。しかし、1990年代に入ってからの農業構造改善政策による生産性向上の流れは続いている。そのため国際化に対応した農業政策の一環として国外市場を開拓し韓国農産物を競争力のある輸出産品として育てるという施策にも力が注がれている。韓国にとっての有力な国外市場としては、まず日本が挙げられる。労賃水準も上がり、1経営体当たりの耕地面積も広くない韓国農業は、価格競争では優位に立ちにくいが、日本との距離の近さが青果物等においては有利に作用している。近年、韓国産の生鮮農産物で日本市場への輸出が多いものに、パプリカ、きゅうり、トマト、なすといった果菜類がある。生鮮野菜の対日輸出国を見ると、アメリカ、オランダ等の生産性に優位性を持った国、オーストラリア、ニュージーランドのように国内生産の端境期に出荷してくる国があるが、韓国をはじめとする東アジア諸国は鮮度と輸送費用の低廉さに有利さを持っている。

 現在、東アジアにおける農産物輸出の流れは、大きな国内農産物市場を持ち、しかも農産物の純輸入国である3か国が中心である。このうち中国は、日本と韓国に輸出し、韓国が日本に輸出するという構造になっている。韓国の対日一次産品の輸出は、加工食品類が主なものである。

 日本と韓国のFTA締結は、日本から見ると農産物輸入がさらに増加する可能性をはらんでいるが、一方では、最近、日本の農産物の輸出可能性も探られており、相手国の経済成長に伴う消費需要の増大が、高級、高品質農産物を中心に今後輸出が可能となる局面も考えられる。したがって、韓国の野菜の生産、流通、消費の全体を把握することは、日本の農業、農産物市場の今後を考える上で留意する事項の一つといえよう。


2.生産
 韓国の農産物作付面積は、1990年代初頭は230万ヘクタールを超えていたが漸減し、2003年には、200万ヘクタールを割り、193万6千ヘクタールとなっている。一方野菜の栽培面積は、90年代前半に増加傾向を示しその後は若干減少しながらも安定的に推移している。90年代初めには、34万ヘクタールであったが、95年には40万3千ヘクタールに達し、その後減少し、03年には32万8千ヘクタールとなっている。全作付け面積に占める野菜の割合は、03年で16.9%(日本における全作付面積に対する野菜作付面積の割合02年13.2%)であり、91年の14.6%から若干増えている。そのうち、施設栽培面積は、91年の4万700ヘクタールから2000年の9万600ヘクタールまで増加し、03年では8万3400ヘクタールとなっている。野菜作に占める施設栽培の割合は、25.4%に達している。

 野菜の種類別作付け面積では、果菜類が、全体の17.9%、葉菜類が21.3%、根菜が11.7%、調味野菜が39.0%、その他野菜が10.0%をそれぞれ占めている。調味野菜という分類は、韓国の食料消費の特徴を反映したものであり、とうがらし、にんにく、ねぎ、たまねぎ、しょうがからなっている。果菜類の作付面積は、90年代前半に伸びたが、その後減少している。ウルグアイウラウンド対策としての財政投融資は、野菜作の施設建設に多く投資されたとされるが、果菜類で施設栽培の増加が顕著であり、94年に施設栽培面積が露地栽培面積を上回り、03年では、栽培面積の76.6%が施設栽培となっている。葉菜類の作付面積は幾分増加傾向にあり、根菜類は若干の減少傾向にある。調味野菜は安定していたが、ここ1、2年で減少している。果菜類において施設栽培の面積が大きいことを示したが、それ以外の野菜での施設栽培の占める割合は、葉菜類が19.0%、根菜類が14.9%、調味野菜が4.2%、その他野菜が42.4%となっている。融資を受けて施設栽培に向かった農家は、経営者の年齢が比較的若く、経営規模も大きく営農に積極的な農家が多かったが、97年の通貨危機に遭遇し、これらの農家で負債の累積が経営を圧迫する状況となっている。それに伴う倒産、離農もあり、負債問題が農政での重要課題となっている。

 農業粗収入に占める野菜類収入の割合は、03年で24.2%を占め、34.1%を占める米に続く存在で、畜産収入の21.4%を上回っている。91年には16.7%であったが、上昇傾向を示している。元来、農村での兼業機会が乏しい等の理由で専業農家率が高かった韓国であるが、03年での専業農家率は64.3%まで下がっている。したがって、平均的農家での農家所得に占める農業所得の割合は、03年で39.3%であり、野菜作の農家所得に占める相対的地位も低下してきているが、作目の中では依然として比較的重要な位置を占めているといえる。

 野菜の生産量で見ると、65年の157万7千トンから作柄の豊凶により変動しながらも上昇傾向を示し、01年の1,147万トンまで7倍を超える生産増加があった。03年では、1,024万8千トンであった。一方、日本の野菜生産量は比較的安定しており、1960年の1,174万2千トンから82年の1,686万3千トンまで増加し、その後緩やかに減少し、03年には1,285万7千トンとなっている。韓国での野菜生産は、国内消費を反映して特定の作目に集中している。伝統的に野菜の消費がキムチという形態で多くなされてきたので、03年の統計について果実的果菜を除いて比較的生産量の多いものを列挙すると、はくさい、だいこん、たまねぎ、ねぎ、きゅうり、にんにくの順になり、総てキムチの原料となる品目である。これら5品目が野菜全体の生産量に占める割合は、61.9%になる。しかし、これでも、食料消費の多様化により5品目の占める割合が低くなってきている。(85年の5品目が野菜生産に占める割合は、79.8%。)

 韓国においても食生活は洋風化、多様化してきており、きゅうり、かぼちゃ、トマト、いちご、青とうがらし、メロン、セロリ、レタス、ピーマン等の急速な生産増に結びついている。この中には、90年代の国際化対応で増加した施設栽培による果菜類のきゅうり、トマト、ピーマンが含まれている。また、以前は、日本を中心に輸出に向けられた農林水産物である、まつたけ、ふぐ、うなぎ等は、国内経済の成長につれて国内消費に向けられるようになったが、パプリカ、ミニトマト、きゅうり、なす等は、輸出向けとして生産され、国内需要に振り向けられるという兆候が今のところ見られないところに従来の輸出農産物との違いがある。

表1 韓国の野菜生産の推移


3.流通・貿易
 韓国での野菜を含む農産物の流通は、最近まで伝統的な市場を通じて行われるものが重要な位置を占めていた。しかし、ソウル市についていえば、現在は85年に開設された可楽洞市場という卸売市場が流通の中心となり、ソウルで流通する農産物の90%がここを経由するといわれている。ウルグアイウラウンド妥結以降の農政で流通基盤の整備方策として、卸売市場、共販場、総合流通センターの拡充が行われた。卸売市場は91年から02年の間に6か所から30か所に増えた。また、共同出荷や直販の比重が急激に拡大し、97年から01年の間に、共同出荷は35%から60%に、直販は5.0%から29.8%に増えている。農産物についていうと、等級化が進み、包装出荷の割合が増加している。流通体系については卸売りから小売というシステムが明確ではなく、自然発生的な市場が卸し、小売の機能を担うという、前近代的な形態を保ってきたが、国際化が進むことにより、92年に流通の開放がなされたと捉えられる。上記のように、流通基盤の改善では施設面での急速な改編が見られるが、過渡的な構造上の摩擦も存在する。

 食品スーパー等の新しい流通形態の進展もここ数年顕著である。卸売市場を経由する市場流通に対し、市場外流通は主に農協が主体となる経路であり、産地での共同施設を経て、消費地での総合流通センター、ハナロクラブ、ハナロマートで農産物が販売されている。農協系列によるこの経路は、急速に伸びて農産物流通に占める割合は30%に達するともいわれている。農協系スーパーであるハナロクラブは、国産農産物に限って販売をしている。小売での外資導入も始まっており、流通業がこれに対してどのように対応するかが今後の問題となっている。国際化の進展で増大した施設野菜についていうと、卸売市場を経由せず、農家が共同で大型小売店に出荷したり、農協の直販経路を利用することが増えている。

 野菜の貿易について見ると、輸入の増加と併行して輸出の増加が見られる。野菜の自給率は、03年で94.6%を維持しており、日本の82%と比較するとまだかなり高い水準を保っている。野菜については純輸入国であるが、64万トンの輸入量に対し、7万5千トンの輸出実績を持っている。03年で多くの野菜は輸出と輸入が併存しており、輸入量の方がほぼ総てで優っている。輸出向けの高品質品を生産すると同時に大衆向け品質のものを輸入するという図式になっているといえよう。たとえば、キムチが典型的な例で、白菜の輸出入は、02年までは輸出量の方が多かったが、03年には輸出入がほぼ拮抗してはいるものの輸入量の方が多くなっている。日本に国産品を輸出する一方で中国産の製品を輸入しているという関係が示されている。

表2 韓国の主要野菜輸出入


4.消費
 かつて、ほとんどの国が欧米の文化圏に属していたOECD加盟国の中で日本の食料消費形態は、特異な特徴を示していた。米に代表される穀物の消費量が多く、青果物消費においては、野菜が非常に多い反面、果実の消費量が少ないという特徴などがあった。相対的に野菜の消費量が多いという特徴は、現在台湾を除く東アジア諸国に共通してみられる特徴のようである。前述したとおり、生産量の急激な伸びと輸出量の増大から分かるように韓国での野菜消費量は、統計的には非常に多い量となっている。

 フードバランスシートの計算方法は国により違いがあるので比較は難しいが、FAOに申告した1人1日当たりの供給粗食料で見ると、日本がかなり長期に渡り300グラム前後で推移しているのに対し、韓国では500グラム後半の水準と計算されている。

 2002年において国内向けの供給純食料の数値は、400グラムとなっており、65年の128グラムや70年の180グラムから見ると大きく上昇している。日本の食料消費が70年代にほぼ量的に飽和水準に達したのではないかとされているのに対し、韓国の食料消費量が急速に減少しだしたのはここ数年のことである。野菜消費についても2000年の1人1日当たり455グラムを頂点に減少し始めたと見ることができる。

 品目別の消費量については、生産で見たように、キムチの消費が多いことによると見られる特定野菜の消費量が多く、果実的野菜を除くと1人1日当たり供給量の多い方から、はくさい、だいこん、たまねぎ、ねぎ、きゅうり、にんにくの順となる。これらの全体に占める割合は58.6%であり、生産量において占める割合よりは若干小さくなっている。90年の数値は74.9%であったことから、近年急速に従来の消費形態が変化し消費が多様化していることがうかがえる。これらの品目の中で、消費の増加傾向が見られるのはきゅうりで、キムチ以外のサラダ等による生食が増えていることが反映されている。その他、消費量の水準自体はあまり多くないものの、消費量が傾向的に増加しているものに、トマト、マッシュルーム、いちご、なす、メロン、洋風レタス等があり、伝統的な消費パターンにかなり堅固な安定性を持ちながらも、食生活の多様化、洋風化の影響を受けていると考えられる。

 政策的な補助を受け生産量が増加した施設栽培の野菜は、国内消費で徐々に消費量を伸ばしているが、消費水準の低さからまだ需要が定着したとは判断できないと思われる。

 野菜の供給量の多さは確認できるが、消費の場面では、韓国では習慣的に廃棄量が多い点や外食の急激な伸びがある点など野菜消費と結びつけて正確には捉えきれないことがらも残されている。一般に、外食比率が高まると野菜消費は低迷する関係にあるとされるが、韓国の家計で食料費支出に占める外食費の比率は、01年で41.1%に達している。食の外部化という点ではかつては常に先行していた日本の数値が、04年で18.0%であるのと比較してもかなり高い状況を示している。ただし、韓国の家計調査は品目分類が日本ほど詳細ではないため中食に分類されるものも含まれるようである。


5.おわりに
 韓国の野菜の需給は、キムチという伝統的食品の消費と深く結びついており、米の消費量が多いことと併せて安定した組み合わせとなっていた。統計的には野菜の生産量は増えてきたが、最近漸く安定期を迎えつつあると考えられる。一方では、農業が経済の国際化にさらされる中、政策的に農業の生産性向上による競争力強化対策が実施されたが、その代表的な結果が野菜作での施設栽培の進展であり、主に果菜類の生産が大きく伸びた。

 伝統性、継続性の色彩が強い野菜需要の中で、漸く消費の多様化の動きが見られ、生産増加に対応する変化として捉えられる。また、野菜輸入の増加も需要変化に対応した動きといえる。しかし、野菜生産の増加や変化への対応は国内市場だけでは十分でなく、当初から日本市場への進出を想定したものと考えられる。今後のFTA締結や国際化の進展の中で、韓国の野菜生産がわが国へ及ぼす影響を考える上で、需給を全体的に把握して検討する必要があるといえる。

参考文献
[1]韓国農林部(2004)『農業・農村総合対策』、韓国農林部
[2]韓国統計庁(2002)『韓国統計年鑑』、韓国統計庁
[3]韓国農村経済研究院(2004)『2003年食品需給表』、韓国農村経済研究院
[4]農林水産省(2004)『平成15年度食料需給表』、農林水産省




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