独立行政法人 農畜産業振興機構 調査情報部 部 長 加藤 信夫
調査役 前川 久
2 主な加工工場と生産農家の概要
(1) 冷凍野菜
(1) A社(サンティアゴ市)
ア 会社の概要
国内マーケットにおいて冷凍野菜を販売し、国内小売シェア約30%を占める国内最大の冷凍食品会社である。生産量の50%が国内向けで、残りを輸出している。
主要製品は、多い順にとうもろこし、グリーンピース、ミックスベジタブル、アスパラガス、そら豆である。
工場はサンティアゴ、チジャン、サンフェルナンドの3ヵ所にあり、サンティアゴはパッキング工場で、その他が加工場である。
イ 工場の稼動状況と労働力
アスパラガスについてはフル稼働の状態であり、ピーク時には3交代制で24時間稼動している。とうもろこしとグリーンピースについては、まだ余裕がある。
パッキング工場でのロス率は、1~5%、平均3%程度である。処理能力は1日50トン、月1,500トンである。加工場で冷凍処理されたものをパッキング工場で再選別を行う。
労働力については、3工場合わせて最低600人雇用し、10~3月のピーク時には季節労働者を含めて最大1,500人となる。
ウ 輸出状況
全生産量の50%が輸出向けでヨーロッパ50%、日本25%、北米・南米など25%の割合で輸出している。品目別には、ラズベリー50%、アスパラガス20%、とうもろこし、そら豆、グリーンピースがそれぞれ10%となっている。
対日輸出については、15年前から日本の商社とタイアップしてアスパラガスの輸出を開始した。現在、日本の冷凍食品会社2社に10kgカートンの荷姿で500トン輸出している。一部輸出相手企業からの要望により、日本でそのまま販売できる小売用パッケージでも輸出している。
また、アスパラガス取扱商社の見解は、日中の温度差があり、味・品質ともに良いことから、現在は、価格が安い中国になどのアジアへシフトしているが、安全面を含めてチリ産の方が優れているとのことであった。
また、中国などのアジア地域などには価格で対抗することはできないことから、品質、安全性などに力を入れており、中でも安全性については、HACCPの導入などを行い、品質の向上に努めている。
エ 冷凍原料の栽培などについて
主要輸出品目であるアスパラガスについては、20の農家と契約を行っており、全体の作付面積は500haで、平均では20haである。品種はカリフォルニア大学育種品種(UC157)である。
契約方法は、数量、品質ごとの価格および栽培方法を決定し、工場に搬入された時に品質検査を行い、そこで価格が決まる方式である。
栽培については、日本などの品質に対する要望が厳しいため、HACCPおよび生産から製造、輸送、販売先までのトレーサビリティを導入するとともにSGS(スイスのトレーサビリティ)やAIB(米国向け)の認証も導入している。価格としては、中国産の2倍程度かもしれないとのことであった。
栽培方法は、会社が農薬、殺虫剤の種類および使用時期などを決めており、自社の8人の農業技術者が、栽培期間中週1~2回の割合で全ての圃場を回り、生産者に対して農薬の種類、使用量・使用時期などきめ細かな指導を行い、安全性の向上を図っている。
アスパラガスの生産農家の収入は、単収6トン/haで4千ドル/haであることから、農家の平均面積20haとして計算すると、8万ドルとなる。アスパラガス以外にビート、ベリー類も作っている。
(2) B社(ブイン市、サンティアゴから南へ40km)
ア 会社の概要
1978年に設立された食品加工会社で、冷凍食品については1981年から製造を開始し、冷凍野菜の国内マーケットにおける小売シェア約22%を占め、A社に次いで国内第2位の冷凍食品会社である。
国内の大手スーパーおよびレストランチェーン、企業食堂のチェーン会社に販売している。生産量は果実および野菜の冷凍食品で年間16千トン程度であり、とうもろこしが全体の生産量の60%を占める。
主要製品は、果実ではアプリッコト、ラズベリー、ミックスフルーツで、野菜ではとうもろこし、そら豆、グリーンピースである。
イ 工場の稼働状況と労働力
果実および野菜を含めての生産処理能力は、100~200トン/日であり、12月末から3月にかけてのピーク時には100%稼動するが、8~9月の果実がないときには工場がまったく稼動しない時もある。
生産物は年1作であることから、収穫期に製品を作り、それを貯蔵、その後、相手先の需要に合わせて国内への出荷および輸出を行う(収穫→冷凍→包装→冷凍庫→出荷)。製品ができるまでのロス率は、機械が古いこともあり、15%程度と高い数値となっている。
従業員の数は常勤150人、ピーク時には2交代制で、非常勤の季節労働者を含めて最大600人となる。非常勤のうち90%が女性で、主に選別作業を行っている。また、HACCPを導入したことから、従業員の再教育が必要となった。
季節労働者の賃金は、平均すると13~14万ペソである。
ウ 輸出状況
現在の輸出状況については、日本向けにはいろいろ努力しているが、非常に特殊なスペック要望や極端に高い品質要求のため、現時点では対応できていない。主な輸出先は、南米と米国である。
エ 冷凍原料の栽培について
契約農家数は、15の固定農家と年によって変わる10~20農家である。果実、野菜を含めた全体の面積は年により変動するが、1,800~2,000haである。
同社の農業部に農業技術者が5名常勤し、常時契約農家の圃場に出向きその土地にあった作物や品質の決定、農薬の指導などを行っている。
契約方法は、A社同様に、数量、品質ごとの価格および栽培方法を決定し、工場に搬入された時に品質検査を行い、そこで価格が決まる方式である。
栽培については、HACCPおよびGAP(チリでは最近導入されたばかりである)を導入し、トレーサビリティについてはスーパーからも求められるので100%実施している。
会社が種子の選定から播種期、農薬、殺虫剤の種類および使用時期などを決めており、種子、農薬などは同社で全て購入し、農家に配布して代金の支払時に精算している。
また、農薬の使用については、使用時期、使用量、残留農薬量を国に報告する義務があるので、検査結果などを随時報告している。
(2) 加工用トマト
(1) C社(テノ市、サンティアゴから南へ170km)
ア 会社の概要
トマトペーストの2004年の生産量は、6万トン(チリ全体の48.5%)とチリ国内で一番の生産量である。また、トマトペーストの対日輸出量(7~8千トン)においても一番多い。
主要製品は、トマトピューレのほか、果実ではりんご、アプリッコト、ラズベリー、キウイ、ピーチなどのペーストである。
工場はテノ市の1ヵ所である。
イ 工場の稼働状況と労働力
トマトの生産処理能力は、最大5,500トン/日であり、年間約90日操業している。他の果実では、年間15万トンを処理し、5ヶ月間稼働している。
従業員の数は常勤180人で、2月中旬~4月上旬のピーク時には季節労働者を含めて最大1,200人となる。
ウ 輸出状況
チリ全体でのトマトペーストの輸出先は、南米(60%)、中米(13%)、アジア(13%)、北米(8%)、その他(6%)となっている。同社では、現在米国と日本を中心に輸出をしている。
南米のシェアが多いのは、メルコスールにより関税がゼロであるため、チリの競争力が強いからである。また、アジアについては、チリが南半球で作型が反対であることから、北半球の補完的産地として確立されている。
米国、ヨーロッパについては、現在関税が高いことから輸出量が少ない。しかし、米国については、現在の11.5%が2012年にはゼロとなり、ヨーロッパは18.5%があと2年でゼロになることから、その時が輸出量を伸ばすチャンスと考えている。
南半球で栽培するメリットは、北半球の収穫が始まる前の2~8月までの期間と考えている。
エ 農家との契約方法など
毎年約500の小規模な農家(平均作付面積5~7ha)と契約している。小さい面積で契約をするのは、農家のコントロールがしやすいというメリットがあるからである。
農家との契約は、面積ベースで行う。加工工場に農家が直接生産物を搬入し、その時点で量と品質をチェックし、品質が悪いものは受け取りを拒否する。
オ 加工用トマトの栽培について
栽培については、特に重要と考えているのはHACCPである。また、GAPおよびトレーサビリティについては100%実施している。
作型は、定植時期が(1)9/20~10/5(早蒔き)、(2)10/10~10/20、(3)10/25~11/5~10の3種類あり、収穫については、1/12~4/9となっている。
栽培品種については、世界的に使用されている品種を導入している。すなわちペトシード社製のハインツ、キャンベル、セミニスなどである。
栽培方法は、会社が種子の選定から播種期、農薬、殺虫剤の種類および使用時期などを決めており、16人の農業技術者が、全ての圃場を回って生産者に対して農薬の使用量・使用時期など細かい指導を行っている。また、種子、肥料、農薬などは同社で一括購入し、農家に配布して代金の支払時に精算している。一般的に農家はトマト→小麦・とうもろこし→野菜の3年間の輪作を行っている。
農家の労働力については、農家の規模にもよるが収穫期に季節労働者を雇用している。収穫方法は、95%の農家が手収穫で、残りの農家は機械収穫を行っている。収穫機械は企業がリースしたものを貸す場合と、収穫作業全てを業者に委託する場合がある。今後、同社としても収穫の機械化を検討している。
加工トマトの収量については、平均すると単収76~78トン/haで栽培管理の良い農家では100トン、多い農家で中には120~130トンと日本(65トン程度)に比べて高く、農家収入については、優良農家で1,200~1,600ドル/haである。
カ 生産農家の状況
C社と契約している中堅農家の2004年における生産などの状況(聞き取り調査結果)は、次のとおりである。
栽培面積150haのうち、自己所有は60haで残りが借地であり、土地も散在している上、借地代も年々上昇していることから、規模拡大の意志はない。収入については、品目別には加工用トマトが一番良く、小麦、ビートに関してはドルとの為替の関係であまり良くない。
労働力は、主に家族8人と4人の常勤を含め12人である。季節労働者は、収穫作業時に雇用(トマトでは20名程度、1日500kgの収穫で25ドル)している。常勤の賃金は、月12万ペソである。
加工用トマトについては、6年前から契約生産を始め、栽培面積も当初3haから30haと年々拡大し、2004年の出荷量は2,150トンであった。
栽培方法などについては、C社との契約書の中で締結している内容で行っており、病気などの問題が発生しても、C社から農業技術者を派遣してもらっているので、問題はない。また、契約単価についても、現在のところ現行の契約単価で経営していられる。
農家全体の収入については、トマトなどの栽培のほかに、他の農家から作業を受託しており、その収入が全体の50%を占めている。
(2) D社(ブイン市、サンティアゴから南へ40km)
ア 会社の概要
チリにおける食品会社の最大手であり、主要製品は、トマトペースト、フルーツのピューレ・ペーストおよび冷凍食品である。
2005年のトマトペーストの製造実績は3工場合計で57,000トンであった。
工場はサンフェリプ(San Felipe)、ブイン(Buin)、キンタ(Quinta)、クリコ(Curico)、テルカ(Telca)の5ヵ所にあり、ブインが最大の工場で本社が併設されている。サンフェリプが一番古い工場でフルーツの缶詰を製造し、キンタ、クリコ、テルカの3工場でトマトペーストを製造している。
工場があるサンフェリプからテルカまでは約400kmあり、その間にトマト、野菜、果実の産地がある。果実については、サンティアゴからランカグア(Rancagua)にかけて大きな産地があるため、ブインの工場で果実を中心に取り扱う。また、加工用トマト産地は南へ移動している。
イ 工場の稼働状況と労働力
最大生産処理能力については、トマトペーストは3工場合計で60,000トン/日であり、果実類のペーストは6,500トン/日である。
トマトペーストの稼働期間は1~4月で、特に2~3月に集中している。主要果実の桃については、2~6月の間で均等に稼働している。
工場におけるロス率は3%程度である。圃場での機械収穫によるロスは5~10%であり、全体で8~13%となっている。手作業によるロスも近年機械収穫と同等程度か、それ以上である。
従業員の数は常勤220人で、季節労働者は平均で800人/月である。トマトペーストの処理が行われる1~4月は2,500人/月となり、その他の月は平均250人/月である。
ウ 輸出状況
トマトペーストの主な輸出先は、ベネズエラ、メキシコであり、ヨーロッパには輸出をしていない。
輸出の時期は早くても3月からスタートして12月まで行っている。対日輸出は、全体の5~10%程度であるため、もっと増やしていきたいと考えている。
輸出品のスペックは、どの国でも基本的には同じであるが、相手方の要望により糖度を変えることもある。
エ 農家との契約方法など
2005年シーズンの契約農家数は500農家で、作付面積は農家個々で違うが、5~40haで平均すると10ha/農家であることから、全体では5,000haとなる。その中心は、30年近く契約を継続している農家である。近年農家数が減っており、継続する農家は全体の80%となり、残りは新規農家である。契約農家数も近年減少してきているが、個々の農家の作付面積拡大と単収のアップにより、全体では同じ程度の収穫量を確保してきた。
単収の平均は70~75トン/haであり、近年10トン近く上昇した。これは、同社が農家への教育を行い、農家の技術的向上を促して単収を上げた結果である。
農家との契約は、面積ベースで行う。単価は今までの実績を考慮し、農家ごとに決定をしている。加工工場に農家が直接生産物を搬入し、その時点で量と色、糖度などをチェックしてその結果をもって単価を最終決定している。
農家の土地所有については、平均すると自己所有40%で、残りが借地となっている。テノ市付近の借地料も年々上昇しているが、収入の少ない品目から加工用トマトの栽培に移行して、収入を上げることによって借地料の上昇分を吸収している。
オ 加工用トマトの栽培について
最近、加工トマトの産地が南に移動しているが、これはサンティアゴ周辺の産地が宅地化により少なくなったことに加えて、収入が増えるぶどう栽培に移行したことが原因である。また、サンティアゴ以北のトマトは糖度が高いものが取れるが、現在では生産量を確保することが難しくなってきている。
全体の栽培の流れは、定植は9~10月で、定植後2ヶ月はスプリング灌水、その後は畝間灌水を行い1月20日以降収穫が始まる。農薬は、9月末から12月にかけて状況に応じて散布する。
栽培については、C社と同様にHACCP、GAPおよびトレーサビリティを導入して高品質の加工用トマトを栽培しており、栽培品種については、世界的に使用されている品種のハインツ、キャンベル、セインを導入している。
栽培方法は、会社が栽培に関する内容を契約時に決定して、苗の定植時期、農薬、殺虫剤の使用時期などを決め、22人の農業技術者が、全ての圃場を回って生産者に対して細かい指導を行っている。また、苗、肥料、農薬などは同社から全農家に配布し、代金の支払時に精算している。苗については、自社で栽培しており、機械定植用のポット苗は外部に委託して生産させている。その量は、全体の苗の25%程度である。
農家の労働力については、農家の規模にもよるが収穫期に季節労働者を雇用している。収穫方法は、大半が労働者による手でふるい落とす手収穫である。また、賃金は収穫量で決まるが、平均すると15ドル/日とかなりの高収入である。
3 関係政府機関および関係団体
野菜の輸出などに関係する政府関係機関などを訪問したので、その概要を以下に記す。
(1) PROCHILE(プロチリ)
(1) 組織の活動概要など
外務省に属する機関(職員は外務省職員)で、チリで生産される産品の輸出振興を行うことが目的であり、主な活動は、世界中で開催されている国際見本市(フーデッテクス)の開催と、チリの企業に対する世界主要都市のマーケット情報などの提供である。
その具体的な内容は、各種の協会(チリ食品企業協会、ワイン・肉関係団体など)と連携して、各国の最新のマーケット情報の収集・提供、企業と視察団を組んで各国の状況を把握することである。食品部門(生鮮、加工、冷凍など)においても、民間企業と協力して広い範囲で活動を行っている。
重要な分野については、協会と協力して1年の活動計画をたてて、その実施をプロチリがフォローする。
(2) 情報の収集について
海外の情報の収集方法は、チリの輸出相手国の中で情報が欲しい国に事務所を設置し、企業の関心のある品目別の情報収集などを行う。海外事務所は、約50あり、収集内容は、その主要国の輸入量、関税率、輸入条件(衛生検査、証明書の有無)、輸入業者などである。輸入価格については、その時々で変動があるのでそれ程重要視していない。
情報の提供方法は、海外事務所からの情報などのうち一般的なものについてはwebサイトに掲載し、品目ごとの情報は各協会へメールで送り、協会から各会員企業に送信している。
(2) チリ食品企業協会(Asociacion de Empresas de Arimentos de chile)
(1) 組織の概要
民間の加工食品企業の集まりで、強制加入ではなく、企業自ら参加をする団体である。現在の会員は約60社、80工場である。主に果実を中心とした缶詰食品、乾燥食品、冷凍食品を取り扱っており、野菜の取り扱いは少ない。
野菜の輸出では、トマト加工品以外あまり多くなく、ほとんどが国内市場向けである。日本はトマトピューレの重要な輸出先である。
主な取扱品目は、以下のとおりである。
(2) フレートについて
1996年のアジア経済危機以降、投資も低調で経済の活性化にも時間がかかった。2004年3月以降特に船の確保が厳しく15日から1ヶ月遅れた。今年に入っては問題なく、一度も遅れることはない。
フレートが高いのは世界的なことであり、チリは生産量も少ないので、それほど大きな問題ではないが、輸出量の多いブラジル、オーストラリアなどは深刻な問題であろう。
世界経済も回復してきたことに伴い、チリの製品単価も上昇したことから、フレート分を吸収することができると考えている。
一方、日本の商社によれば、フレートは2004年から高騰し、3年前と比べると雲泥の差で、ドライコンテナで約2倍となった。また、現状中国が食料のストックヤードとなっていることもあり、中国向けが多くなったことから価格だけの問題でなく、船のスペースの確保が難しかったが、今年に入ってからは少し落着いてきている。
日本までの輸送日数は、直行便で1ヶ月、北米およびパナマで経由する場合は40~45日かかってしまうとのことであった。
(3) GAP(Good Agriculture Practice)について
GAPを含む品質管理の動きは比較的新しい課題であるが、ほとんどの(輸出)企業で導入されており、定着への努力がなされている。
品質への要望が高まれば高まるほどチリの各企業も積極的な投資を行い、製品の差別化が行われ、他国よりも有利となる。
4 植物検疫
野菜貿易に影響を及ぼす植物検疫の実情について調査したが、対応者が輸出検疫担当であったため、報告内容はこの部分を中心にとりまとめた。
(1) 組織の概要
農業省傘下の組織であるが、検疫措置の決定は農業省農牧サービス局(Servicio Agricola y Ganadero)(以下「SAG」という。)のみで行うことができる。
SAGの局長の下に13の州の支局長、その下に62の支部があり、輸出検疫を実施している(国内防疫は厚生省が所管している)。本部の中に農業保護部があり、その下に輸出検疫、輸入検疫、農薬、ミバエ・フリーなどの部署がある。
(2) 輸出検疫
(1) 産地検査
現在では、輸出のうち96~97%が産地検査で対応している。検査から証明書の発行までの流れは、次のとおりである。
生産者(輸出業者)によるSAGへ検査依頼→検査官による倉庫内での検査→検疫証明書発給に必要な書類作成→港での必要書類の確認→税関からSAGへの貨物の船積み連絡→検疫証明書の発給
産地検査を受けるためには、(ア)梱包工場内に倉庫内に冷蔵庫があること、(イ)検査対象農産物を箱に入れ、パレットに並べておくこと、(ウ)箱に生産者名、産地名、品目名、梱包業者名、輸出業者名などを記載したラベルを貼っておくことが条件となる。
(2) 米国向け農産物の検査
第6州とサンティアゴ市西部には1980年から、米国向け農産物のみを対象とした検査所がある。これは、SAGとUSDA(米国農務省)との間で、輸出検査と輸入検疫証明書の一本化が図られたことを受けてのことである。
野菜は空輸が多いので、空港での検査が多い。
(3) 対日輸出の可能品目(果実)
ぶどう、キウイは輸出が可能である。チェリーは日本の輸出検査官立合いの下、くん蒸処理を行った上で輸入ができる。現在、桃、りんごの輸出は認められていない。
(4) 輸出検査のピークと体制
輸出検査のピークは、11~6・7月で、この時期はSAGの検査官のみでは対応しきれないので、臨時雇用によって検査体制を補強している。具体的には、大卒の農業技術者、高卒レベルの技師を雇用する。
(3) 野菜の検査
アスパラガス、トマト、ピーマン、セルリーについては、収穫後に洗浄・選別して、箱詰めの上、パレットに積んだ状態で検査を受ける(果実も同様である)。
一方、たまねぎ、にんにくは冷蔵施設が必要ないこともあり、生産者のセメント床の倉庫で袋または箱詰めの状態で検査を行う。
なお、野菜については生産する際の水(以前は地下水を利用)に気を付けており、灌漑用水の検査を各地で実施している。
(4) 輸入検疫(輸入承認手続き)
チリでまだ栽培、流通されたことがない産品を輸出したい場合、SAGの農業保護部長あてに輸出したい産品の学名などを記載したレターを出す。SAGから当事者に対して必要な情報提供を求め、回答のあった情報を基に技術的な検討を行い、検討した結果に対してパブリックコメントを求めて、WTOのSPS協定に基づいた通知などの手続きを経て、輸入条件の決定を行い、申請者に通知する。通常は申請から決定まで半年から1年程度を要する。
チリは、豪州に対してぶどうの輸入解禁要請をしてから既に8年が経過しているが、未だに結論がでていない。チリでは豪州のような非関税障壁的行為が採られることはない。
5 おわりに
今回の調査は、現在進行中の日・チリの経済連携協定交渉にかかる共同研究会の進展に資することを念頭に置きつつ、チリにおける野菜生産事情についての基礎的な情報収集を行った。
チリは、恵まれた気象条件、病害虫の制約を受けにくいという利点、顧客ニーズへの真摯な対応、HACCP・GAP・トレーサビリティなどの生産から最終製品までの徹底した安全性などの管理の実施、中南米では珍しい投資環境の安定性(内外無差別行政組織と制度の安定性)など、高品質な野菜の生産・加工を行ういくつかのメリットを兼ね備えている。
したがって、ニーズがあれば、安全で付加価値の高い製品の生産は可能であるが、以下のような生産基盤の面的な拡大の制約などがあるため、中国などのような大生産・輸出国などのような大量生産は困難であり、チリ関係者が言及したように「北半球に対する補完的な供給国」という位置づけである。
今回面談した関係者は、日本・チリEPAへの期待は高く、日本は「安定的な」マーケットとして魅力的であると述べていた。この背景には、韓国とのEPA交渉に相当苦労したにもかかわらず、検疫手続をはじめ非関税障壁などの問題で野菜・果実などの輸出が思うように進んでいないという不満があることも一因と思われる。また、実際に日本に安定的に輸出されているトマトペースト、アスパラガスなどの日本のユーザーの評価に自信を持っていることも期待値を高め、自信につながっている。
一方、野菜全般についていえば、果実と比べると小規模農家が多く、関係団体も果実の生産・輸出振興に力を入れており、団体が行う組織的な振興策や宣伝活動が不十分であり、野菜は果実の弟分とも言われている。
対日輸出の関係で大きな制限要因となるのはフレートであり、日本のニーズとして緊急を要するものは、供給力と輸送時間がネックとなる場合も考えられる。いずにしても、フレートの水準いかんでは、産品によって日本のユーザーはチリに関心を示し、輸出が増加する可能性がある。
(参考)
主要な政府関係機関などの訪問先