財団法人 アジア農業協同組合振興機関 前 事務局長 髙木 時三
4.中国の種子の生産と販売
2)種子の流通
(1) 種子の流通システム
中国の種子の流通システムはおおよそ2つのパターンがある。1つは独占的な流通システム、もう1つは市場型の流通システムである。
1978年までの、中国の種子の流通システムは、基本的に独占的な流通システムであった(図3・4参照)。長期的な計画経済体制の下、種子を扱う機関は全て行政機関であり、また、各レベルの種子関連部門は、全て農業行政機関の直属の外郭団体として行政の権力と手法および種子部門の技術指導により優良品種の普及を行っていた。
主な穀物と搾油作物および綿花の種子は、農家の自家採種を基本としながらも、国が過不足を適時調整していた。国の調整する分の種子は、指定された種子部門が独占的に支配していた。
また、国は食糧、搾油作物、綿花について、統一購入・統一販売政策を取っていたため、種子部門の種子の生産、購入、供給、調達もまったく市場を経由しなかった。
すなわち、国が権力で種子の流通を独占しており、種子流通システムは図3のように、すべて縦割りの構造であった。また、各レベルの種子公司は経営者であると同時に行政部門でもあり、さらに上級・下級の種子公司および郷レベルの種子ステーションの間にはビジネスの関係もあり、加えて行政の従属関係もあった。
こうした独占的な経営による、種子流通システムの効率は、非常に低かった。
しかし、1978年以降、種子の流通システムは、統一購入・統一販売の政策から次第に市場型の流通システムへと変化した。
また、全国の行政と関係のあった種子部門が種子公司に整備されたことで優良品種の普及を図るようになった。こうした種子商品化の進展にともない、流通が活発になった。
さらに、県レベルの種子公司の直販店、郷・村の種子供給ステーション、代理販売店と種子販売員によって種子の販売網が整備され、特に『種子法』が発布されてからは、種子の流通ルートは一層多様化した。
『種子法』によって、種子経営は許可制となった。『種子法』では経営者は事前に種子経営許可証を取得して、工商行政管理機関に営業免許書を申請または変更するように規定している。また、国として科学研究機関・学校・研究者の研究開発と合法的な経営、農産物新品種の普及と林木優良品種の普及活動を提唱している。
現在では、種子の経営条件に合う法人と個人は誰でも種子経営許可証への申請が可能である。
他方、種子市場が開放されるにつれ、種子産業の競争も日増しに激しさを増した。県レベルの種子公司が独占していた時代より、種子市場シェアの縮小と経営利潤の激減に直面し、一部の県レベルの種子公司が相次いで倒産したが、そこから分化した数多くの中小規模の個人種子企業が現れたためである。
一方、経営状況のよい郷レベルの種子ステーションが次第に発展し、種子流通における有力なプレーヤーに成長した例もある。これと同時に、専門的な種子公司と地域・業種・業界を跨る連合会社や外国との合弁会社も新たに現れた。
こうした流れの中で種子の経営方式も変わり、株式会社方式が種子の流通業に導入された。株式会社は、種子流通の中で影響力がますます大きくなりつつあるとともに種子の生産・流通・販売(産業化経営)の一体化も、種子の流通を促進している。
一方、会社と農家の間では、種子の委託栽培契約を通じて、リスクを分担し、利益を共有する者も現れ、お互いに契約の制約を受けることにより、種子のスムーズな生産と流通を保証している。
現在、種子公司を始め、集団・個人・外資企業(中国と外国の合弁・合作企業)などさまざまな経営体が種子経営に参入し、種子市場流通システムを形成している。そのうち、国営の種子公司は3,000社を超え、主にトウモロコシや水稲など大粒の種子の経営に従事し、その生産量は全国の90%以上を占める。
種子の対外貿易も拡大し、すでに50余りの国や地域の種子公司と貿易関係あるいは業務関係を結んでいる。
総じていえば、目下の種子流通システムは、今までの国の縦割り管理体制から脱皮し、多様な経営体が種子の流通システムに現れつつある。県レベルの種子公司、個人企業、株式会社の共存により、多様な営業販売ネットワークが形成され、種子の流通期間の短縮と交易コストを低減させた。
5.種子の対外貿易
1)種子の輸入状況
中国農業の市場化の進展と生産性の向上に伴い、この2年来、中国における種子の国際貿易は拡大しつつある。輸出入額から見ると、輸入は5,542.42万USドルであり、2000年における中国の種子の輸出入貿易総額は8,135.42万USドルである。飼料作物の種子の輸入金額とシェアは、輸出よりはるかに多く、搾油作物の種子の輸入金額とシェアも輸出より多い。穀物種子の輸出金額とシェアは、輸入よりずっと多く、豆類の輸出額とシェアは輸入より多い。
(1) 中国の輸入する種子の品種構成
輸入量から見る主要農産物は、飼料作物の種子・野菜の種子・搾油作物の種子と花卉の種子および豆類作物の種子である。
輸入額では、野菜の種子・飼料作物の種子・搾油作物の種子と豆類作物の種子およびスイカ・メロンの種子である。輸入価格から見ると、豆類、飼料作物の種子の輸入価格は下落する傾向があるが、搾油作物、スイカ・メロンの種子の価格は上昇傾向にある。また、穀物、草本の花卉類、野菜種子の価格は変動が大きい。
(2) 中国の輸入種子の仕入先地域分布状況
・野菜の種子
中国の野菜種子の主な輸入先はタイ、オーストラリア、日本、ニュージーランド、アメリカ、韓国である。2000年と2001年の2年間、これらの国から輸入した種子は、全輸入量のそれぞれ95.34%と96.39%を占める。特にタイ、オーストラリアと日本の3カ国から2000年と2001年の2年間に輸入した種子は、全輸入量のそれぞれ82.64%と85.64%を占める。
その他、オランダ、ベトナム、フランス、デンマーク、イタリア、メキシコ、チリ、南アフリカなども、中国の野菜種子の仕入先である。
・飼料作物の種子
中国の西部大開発、退耕還林還草、農業構造調整、農民の所得向上など一連の政策実施に従い、中国の農業のなかで飼料作物の役割は徐々に認められ、牧草と畜産業が近年大きな発展を遂げており、牧草産業の発展は特に重視されている。
中国の輸入する飼料作物の種子は、主に紫花のアルファルファの種、クローバーの種、ウシノケグサの種、草原ブルーグラスの種、ホソムギの種、オオアワガエリの種などである。
主な輸入先としてアルファルファの種は、カナダ、アメリカ、ウシノケグサの種は、アメリカ、デンマーク、オランダ、ホソムギの種は、アメリカ、オランダ、デンマーク、草原ブルーグラスの種は、アメリカ、デンマークが挙げられる。
・大豆の種子
大豆種子の主な輸入先はカナダである(2000年は96.12%、2001年は99.999%を占める)。その他に、ロシア、日本、アメリカからも少量輸入している。大豆は、重要な搾油作物とたんぱく質源であり、重要な位置にある。しかし、長期間食糧作物とされていたことと、食糧不足の時代には大豆の単収が低かったこともあり、育種と生産を重要視してこなかった。
ここ数年、国は大豆の育種と生産を重要視し始め、短期間で生産性を高め、品質を改善し、国際競争力を強化しようとしている。
・綿花の種子
中国の輸入する綿花種子の輸入先は、アメリカとイスラエルの2カ国である。1999年と2000年は主にアメリカから輸入していたが、2001年には主にイスラエルからの輸入に転じ、輸入量も増加した。
・スイカ・メロンの種子
中国の輸入するスイカ種子は、主にタイ、日本などからであるが、2000年ではこの2ヶ国で92.8%を占めた。
メロン種子の主な輸入先は、日本であり、2000年では種子の90.91%を占めている。
また、スイカ種子の輸入量(2000年86.66トン)はメロン種子の輸入量(2000年2.64トン)より多い。
工商管理機関の調査によると、外国資本あるいは中国と外資との合弁による種子公司はすでに60社余りあり、中国での法人登録をし、生産と経営を展開している。これらの種子公司の経営内容はほとんど野菜と花卉など経済性の高い種子を選び、中国の大きな種子市場に参入するために、ほとんどが安価な価格設定と多様な経営方法を採用している。
これらの会社は生産経営の中で、先進的な経営ノウハウ、生産技術、生産設備を有し、優秀な品質保障と統一した商品包装を行っている。
これらの優位性により、外資の種子公司は、中国の沿海部地域と農業の発達している地域の種子市場において一定のシェアを確保している。
中国政府はWTOに加盟後、経営許可証制度を徐々に廃止し、品種の審査制度をも緩和させることで貿易障壁を徐々に撤廃する予定である。
このことは外資系種子公司に中国でのビジネスチャンスを与えるとともに、中国の種子市場にも大きな影響を与えるものと思われる。
2)輸入種子の流通システム
『種子法』の規定によると、商品種子の輸出入業務を行う法人とその他の組織は、まず種子経営許可証を取得してから、国際貿易の関係法律、行政規定に従って、種子輸出入の許可権を取得すれば、種子の輸出入貿易に従事することができる。目下、政府は一時的に外国投資の経営販売型の農作物種子公司と外国単独資本の農作物種子公司の設立を許可していない。従って、中国との合弁・合作などの形でのみ種子の開発・生産経営が許可されている。中国との合弁の形で種子の株式会社を設立する場合、中国側は過半数の株を持たなければならない。外資単独、あるいは中国と外国と合弁した種子公司は中国で60社余りが法人登録し、野菜と花卉など経済性の高い種子の生産と経営を展開している。
種子経営許可証と輸出入権を持つ中国の種子公司が、まず外国の種子公司と契約を結び、外国の某農産物の品種の種子の販売代理権を取得する。それから国内の種子公司が、商業信用状(LC.)で種子販売の決算を行う。
外資系種子公司は、中国の種子公司の代理販売を促進するために、技術的、資金的な援助を与え、一定の価格優遇をも行っている。
(図5参照。)
種子輸出入会社は、外国の会社から種子を輸入後、国内の大手農産物市場で輸入した種子を各卸商に販売し、卸商は直接種子を小売商社に販売する場合もあるとともに、卸問屋に販売することもある。
各レベルの卸商、小売商が、国内販売ネットワークを形成しており、小売商が農家と接している。流通の過程で、小売商が農家に一定の技術と情報を与え、農家の種子栽培についての問題に応じている。
種子産業は特殊な産業であり、種子は特殊な商品である。従って、外国の種子公司が中国に進出しても、中国の文化、習慣などの違いにより、直接中国で自分の基地、ネットワークを確立するのが困難である。このため
、ほとんどの場合で中国の人材、基地を用い、現地のビジネス習慣に従って種子の流通販売を行っている。
また、水稲、小麦、大豆などの主要穀物の種子販売には、外資系企業の参入を国が禁止しているため、輸入穀物種子の流通販売のほとんどは国内の種子公司が行っている。
6.四川種都種業有限公司の概要(個人会社)
四川種都種業会社は、野菜の新品種の開発(栽培)と種の生産・加工を専門とし、高度な技術を持つ民間会社である。
広漢市野菜研究所が1995年に、1999年には四川野菜研究所が設立され、その後の中国のWTO加盟に伴って、種都会社は成都高度技術公園/四川省(50ha)内に本社「種都高度技術農業公園」の建設をはじめ、2002年の新会社設立以降、種都(会社)は近代的な企業として発展の道を歩んでいる。(原形は1987年創業)
会社の登録商標は種都である。2002年末までに国内種子産業の中でも7大商標(会社)の1社となり、同時に「種都」は国際的な商標になるまでの成功を収めてきた。会社の銘柄商品であるレタス(白)、唐辛子、なす、きゅうり、はくさい、セロリ、トウモロコシ(食用)他、20種類、150品種、300トンの種子が、1,000万ムー余り(0,067ha×1,000万ムー=67万ha)の土地で生産されている。(*原文では1,000余万ムー、英訳では53億3,280万平米=533,280ha)注.67万haは国内全体の生産基地面積。種都本社は6.6ha
四川省では、種都の種は「最高商品」としての称号を得て、さらに30の省、市、自治区においても、その知名度は高い。品種によっては非常に高い市場占有率を誇るものもあり、中国南西地域においては、「種都」は野菜種子の最大供給会社になっている。
会社は「種都高度技術農業公園」を新品種、新技術の研究と展示検証の拠点にしている。加えて、四川野菜研究所と種都野菜研究所とその他、主要10品種の種子の研究施設を国内各地に持っている。会社内組織としては、研究部、種繁殖部、品質管理部、販売部、人材開発部、IC部(企画部)、その他の部があり、職員は90名で繁殖、栽培、販売、管理などの専門職員を含み、主に10大学(南西農業大学、北西農業大学、新彊農業大学、四川農業大学など)から集まっている。平均年齢は32歳である。
「種都」は、1998年に「四川省農業重点企業」の一つとして選ばれ、また2002年にも同様に選ばれた。現在、会社は主に新品種の研究と普及、品質管理体制の確立と運用、検査体制の確立と運用、中国の有名銘柄としての地位確立などを事業活動の重点としている。
-開発・・20種類の開発、150の品種登録(過去10年間に1,000万元以上の投資をしている)。
-流通について
・種都会社は四川の代表的な会社であり、30省に4,000の代理店を持つ(省・県・郷・鎮・村に販売)。
・四川省内では、農業技術センターを通じ7,500戸の農家に販売されている。また2,500戸の農家へ直接販売も行っている(地方郵送)。
-技術教育
・師範農場(試験農場・展示ほ場)において開発した種子の試験栽培を行い、2002年には1,000人の農民に教育を行った。 また、対病性の実証も行っている。農家所得については、3年を目標に1戸当たり1,000元/年の収入を高めることができるとも述べていた。
・33戸のモデル農家を選び、無公害野菜(汚染のない)を10万ムー作付した(成都)。モデル農家に対する奨励金として40,000元を準備している。(’03.11.現在 1元=13.45円)