財団法人 アジア農業協同組合振興機関 前 事務局長 髙木 時三
2.中国の種子産業の特徴
中国種子産業の市場構造は二重性格をもっている。つまり、零細型完全競争市場という特徴と独占市場という特徴を兼ね備えている。種子は農業生産資材であり、季節性が強く、生産と販売の時期がずれているので、投機性が大きい。現在では種子の公司が多くあるが、ほとんどは規模が小さい。
中国の種子公司は現在行政区画を単位に設立されている。国有の種子公司だけでも2,700社を超えている。また主要農産物の市場独占と市場閉鎖の歴史が長いので、青果の種子市場だけに頼って成長してきた民間種子公司は規模が小さく、種子の生産・加工・販売関連企業(公司・会社)の平均年商はわずか450万元(2003年11月 1元=13.45円)、利益が20%余りである。
種子販売企業の平均年間売上高はわずか30数万元である。年間売上高が2,000万元を超える種子企業は100社にも満たない。年間売上高が1億元を超える企業は7社しかなく、2%以上の市場シェアを占める企業は1社もない。
1999年、農業部の種子公司ベスト100社を見ると、上位85社の売上高は39.17億元で、種子の売上高全体の15.73%しかなく、また上位10社の総売上高は11.24億元で、総売上高の4.5%しか占めていない。
しかも、種子市場は1.8億戸の農家に対応し、商品の差別化があまりされていない。このように、現在では中国の種子市場は零細型で、完全競争市場となっているといえる。
3.中国種子産業の市場
中国は世界で最大の種子消費国の1つである。毎年、種子の総所要量は約125億kgであり、優良品種の供給量は約35億kgである。
種子の年間売上高は約200億元であり、世界の総売上の約8%を占める。
種子の市場は種子の商品化率の向上にしたがって、拡大していくであろう。
目下、中国の種子価格と穀物価格の価格差は約2~8倍であるとのことで、国際的な20~25倍のレベルよりはるかに低い。
種子の新品種の育成と種子の品質の向上にしたがって、価格が4~5倍高くなったとしても、1,000億元以上の市場拡大の可能性がある。また、ハード面の産業拡大の潜在力以外に、種子産業の科学研究体制の改革と種子企業の競争などソフト面の行動も、中国の種子産業の成長に大きな影響を及ぼす可能性がある。
また、国有科学研究機関の市場化改革によって、種子の新品種開発の能力が強化され、新品種の更新と普及を加速した。一方、種子公司の競争によって、企業の制度改革・合併・立て直しなどを促進して、販売ネットワークとサービスの改善を促し、農家の種子コストを大幅に低減させ、品種更新の頻度を高めた。種子業界の関係者は、中国の種子市場で1社独占ということはありえず、7社か8社あるいはもっと多くの大手企業が中国市場の覇を争うことになるだろうと見ている。
また中国はWTOに加盟してから、国際市場の多国籍企業との激しい競争において、中国の国内種子市場を拡大する3つのチャンスがある。
・第1に中国は一部の種子において価格面での比較優位性を持っている。
例えばさまざまな種類の豆類(エンドウを除く)、小麦、大麦、水稲、高粱(コーリャン)の種子について不完全な統計によると、一部の品種について外国の育種コストは中国より平均2.5倍以上も高いと言われている。
・第2に中国は品種資源が豊かで、整理された目録には160種類の作物、38万個の品種資源があり、国のジーンバングに入った品種は31.8万個ある。
その多くは中国特有の珍しい品種であり、大きな開発の潜在力がある。
・第3に種子産業の関連産業、例えば種子の加工設備、製造薬剤(コーティング剤や攪拌剤など)は成長の可能性が大きい。現在、約80%の種子の加工設備は国産の機械であるが、中核的な部品や技術はやはり外国の先進的な製品と技術を必要としている。ここにも大きなビジネスチャンスがあると見られる。
中国の種子産業は、穀物の種子管理と体制の制約があること、農家の自家採種も多いこと、品種の更新期間が長いことから、中国の巨大な種子市場、特に穀物の種子市場では長年取引の場はあるが品物がない状態が続き、潜在的な需要が現実的な市場需要につながらない状況であったが、種子プロジェクトを繰り広げる中で、中国の種子供給量が大幅に増加している。
全国の販売用種子の生産能力、種子の加工能力、種子の貯蔵能力は、それぞれ1995年より25%、52%、22%増えている。
全体から見ると、主な農産物の種子の需給はほぼバランスが取れ採算ニーズを満足させている。
目下、中国の主要穀物である水稲・トウモロコシ・小麦の基本的な品種構成について、水稲はハイブリッドと普通種がほぼ半々で、ハイブリッド種子は45%を占める。トウモロコシはハイブリッド種が多く、全体の75%を占める。小麦はほとんどが普通種である。
(表1参照)。
4.中国の種子の生産と販売
1) 種子の生産
現在、中国の地区(市)級以上の農業科学研究機関は1,100以上ある。
研究者は12万人余りいるが、そのうち育種専門の研究所は400余りある。
中国では植物育種研究に従事しているのはほとんど各級の政府に所属する農業科学研究機関であり、わずかの大手国有種子公司と大手種子会社も育種研究を行っている。
まだ始めたばかりであるが、国有の種子公司を中核に、県の原種ほ場(あるいは優良品種の栽培ほ場)と契約種子生産地を基盤として、郷村の種子供給ステーションと農業技術サービス組織に依拠した優良品種繁殖普及システムが構築されつつある。全国に各レベルの原種ほ場および優良品種の栽培圃場が約2,000箇所あり、国有種子公司(ステーション)も約2,700社、スタッフが約8万人おり、そのうちの約600社の県種子公司が一定の規模を有する。全国6万の郷鎮のほとんどに種子供給ステーションがあり、優良品種を取り扱っている。
(1) 優良品種の普及
全国の主要農作物の優良品種使用率は90%以上に及んでおり、10万ムー以上栽培されている優良品種は、全部で24作物の1,327品種である。
普及面積が500~1,000万ムーの品種は8作物の26品種で、そのうち、ハイブリッドライスは3品種、冬小麦13品種、春小麦1品種、ハイブリッドトウモロコシ4品種、甘藷1品種、綿花2品種、ピーナツ1品種、緑肥1品種である。
普及面積が1,000万ムー以上の品種は8作物の21品種である。そのうち、ハイブリッドライスは5品種、普通種稲1品種、冬小麦5品種、ハイブリッドトウモロコシ5品種、甘藷4品種、綿花1品種、大豆1品種、菜種2品種である。
(2) 品種保護
1997年3月20日、中国は『中華人民共和国植物新品種保護条例』(以下は『条例』に略す)を正式に発布し、植物の新品種保護の法整備を行った。
農業部は、『農業植物新品種保護条例実施細則』、『農業部植物新品種再審議委員会審理規定』、『偽品種案件を検査・処分する権限に関する規定』などの規則を相次いで整備し、植物新品種保護業務の展開に歩調をあわせ、ここから完璧な法律環境を整備し、比較的完全な植物新品種保護システムが一応整備された。
さらに、農業部は農業植物新品種保護事業をスムーズに推し進めるため、相次いで農業部植物新品種保護オフィス、農業部植物新品種再審議委員会、農業部植物新品種繁殖材料保存センター、農業部植物新品種測定センターと支所を新たに設立した。また、農業部植物新品種再審議委員会の設立準備作業はすでに終了している。
品種権の申請者を見ると、農業部で受理されている492件の申請のうち、科学研究機関の申請が352件、企業の申請が120件、外国企業の申請が4件、個人の申請が13件である。その他外国人の申請などが3件ある。企業と個人の品種権申請の積極性は国有の研究機関よりずっと高い。
(3) 種子生産機構
『中華人民共和国種子法』は、「国家が計画的に種子生産基地を作り、専門的に種子生産を行う」、「国家は法人と個人が行う、品種改良と開発を歓迎し支持する」、「主な農作物と主要林の種子の販売を目的とする生産は国の許可が必要である」と定めている。
このような規定は中国の種子生産の体制と構造を明らかにした。
中国では、目下、通常の種子の生産は、普通、県以上の各級種子管理機構が計画的に行っており、ハイブリッド種子の生産計画は省、自治区、直轄市の農業主管部門が各地の計画に基づき、統一的に作成されている。2つの省の間で種子の繁殖を行う場合は、両方の省級種子管理機構の許可を得なければならない。
表2 農作物品種保護申請者
資料:中国農業部
今、中国の種子生産は専門的な生産が主である。種子基地には種子生産を専門とする技術者がおり、同時に、各級の政府はみな種子基地の建設を重視しており、選抜された種子基地はほとんど種子生産に必要な隔離と栽培条件を備えている。
国営の原種(良種)生産基地に大規模な投資をすると同時に、特約種子基地にも補助的な投資を行っており、また種子生産の技術者を派遣し、種子生産における技術面の指導を担当させ、専門的な種子生産を行っている。
(参考)1ムー≒6.667アール
誌面の都合上、次号で「4.中国の種子の生産と販売 2)種子の流通 5.種子の対外貿易 6.四川種群業有限公司の概要」について掲載します。