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中国上海市・福建省・山東省の野菜生産、輸出等の動向

農畜産業振興機構 調査情報部 調査情報第二課
課長 河 原  壽


1 上海市、山東省おけるキャベツ、ねぎの輸出動向

 2004年10月の台風災害などによる日本における野菜価格の高騰から、キャベツのスポット野菜輸出では、10月から11月中旬において、上海市の調査輸出公司では1週間に30~60コンテナ、山東省の調査輸出公司では1日に60~70コンテナを輸出したとのことであった。しかし、調査時点(11月中旬~下旬)においては、日本への輸出急増による日本の港での輸入手続の滞り・過剰在庫の発生、滞留による品質劣化などから輸出価格が暴落したこと、また、中国からの輸出コンテナの日本の港における滞留から、輸出コンテナの不足が生じ、輸出コンテナの船賃が山東省では通常だと$1100/コンテナであるものが1週間の間に$2200~$2500/コンテナにまで上昇したことなどにより、山東省からの輸出量はかなり抑制されたとの見方もあった。

 一方、上海市の輸出公司の例では、事前の契約による安定した輸出が確保されており、通常の輸送コスト$1000~$1200/コンテナが調査時点では$1100/コンテナであった。この額は、コンテナ不足で輸送価格が上昇した2003年の$1400に比べても安定している。山東省などの輸送経費の大幅な上昇を考えると、上海市における輸出経費は安定している。このため一部公司では、輸出港を中国国内の陸送運賃が上昇するにもかかわらず上海港に変更し輸出した模様である。


 

キャベツの搬入

白ねぎの調整作業



2 福建省おける ねぎ、たまねぎの輸出動向

 ねぎの作付面積は昨年の1.5倍程度と推測されているが、8月の台風、天候不順のため一部地域では定植遅れが生じていることから、昨年に比べ1月の輸出量は多くなるが2月中旬~3月上旬は減少すると予測されている。さらに、12月以降の低温から2週間程度の生育遅れとなっている。

 一方、たまねぎは、主産地である●1浦市赤湖鎮の作付面積は、多いときは1万ムであったが、今年は8000ム程度と減少しているようである。また、古くから主産地の一つである厦門市同安区の作付面積も厦門市の工場の移転増加により減少傾向となっている。作柄は、調査時点では一部地域で8月の台風、天候不順のため収穫期は遅れる見込みであるが総じて順調なようであったが、ねぎと同様に低温から生育遅れが生じている模様である。

 また、福建省のたまねぎ産地は、北上し一部では湖北省との省境にまで達するなど、分散化の傾向がある模様である。ただし、北部産地は山間部の産地であることから集団化された産地とはなっていないようである。


 

ねぎほ場(品種:長悦、播種:7月、定植9月、収穫:1月)

たまねぎほ場(米国品種:641,604、播種:7月、定植9月、収穫:1~2月)



3 山東省の残留農薬検査体制

 法令の整備などにより残留農薬の検査体制は確実に進展しているが、現段階においても地域的な格差がある模様である。中国国家質量監督検査検疫総局(以下「CIQ」という。)により2002年8月12日に施行された「輸出入野菜検査検疫管理弁法」では、輸出野菜産地の最低登録面積が300ムとなっているが、今回調査した公司によれば、山東省●2坊市地域では100ム以上、烟台市地域で200ム以上が暫定的に適応・運用されている模様である。なお、農場経営が多い上海市、産地規模の大きい浙江省、福建省では規定どおり300ムが適用されている模様である。

 このような中で、2004年12月に「きぬさや」において残留農薬が検出された。これに対しCIQは全国の輸出公司に「日本向けの未成熟豆類及びその加工品の検験検疫の強化に関する通知」を発布し、その管理体制を強化した。

 中国の残留農薬の検査体制は、公司独自の残留農薬検査体制を有するとともに、中国検査室国家認定委員会(中国実験室国家認可委員会(CNAL))の認証を受けている公司では独自の検査結果による輸出が認められている。ただし、同時に、検査サンプルをCIQにも提出し、CIQでその確認を行う仕組みになっている。一方、独自の残留農薬検査体制を持たない輸出公司は、CIQ化学検査センター、または、CIQが民間公司に検査機器導入経費などを補助し検査体制を確立した公司に依頼して検査を行っている模様である。

 また、2004年8月以降においては、「冷凍ほうれんそう」は全てCIQの化学検査センターの検査を受けなければ輸出が許可されないとのことであった。


 

冷凍用ほうれんそう ほ場(防虫ネットを使用)


4 労働者賃金の動向


 上海市、山東省、福建省の事例では、「出来高払」賃金の場合は、その上昇が軽微となっているが、労働福祉面でのコストとともに他省からの労働力調達コストが上昇しており、「時給制」を採用している場合は、賃金上昇が10%以上となっている模様である。

 また、地域の産業の発展状況、労働者の移動状況によってもその差異は顕著となっている。上海市、山東省の事例のように色々な産業の工場が建設され、かつ、地方からの労働者が流入している地域では、主に労働福祉面でのコストおよび労働調達コストが上昇している。また、福建省のように他地域からの労働力の流入がなく、かつ、色々な産業の工場が建設されている地域では、農業労働者(播種~収穫)、加工工場労働者賃金のいずれも上昇している。

 地域の産業の発展状況および他地域からの労働者の流入状況により、労賃の上昇は異なっているのである。

 職場環境が「きつい、きたない、さむい」農産物加工工場の労働者賃金は、西部地域を中心とした豊富な労働力があるとはいえ、工業化が急激に進行している南部地域の電化製品工場に比べ「労働者の吸引力が劣る」ことから、今後も上昇傾向となると推測される。

(1)上海市公司の事例

 上海市の事例では、調査した輸出公司が上海市のなかでも開発が進行中の浦東区に位置していることもあって、従来、工場周辺の村から労働者を雇用できていたものが、近年、安徽省、湖北省で募集して労働力の確保を図らなければならないことから労働調達コストが生じている。賃金は出来高払いであり賃金単価は上昇していないが、食事、住宅などの労働条件の面での労働コストが上昇している。

(2)山東省公司の事例

 時給制を採用している公司では、ほ場労働者の賃金は上昇していないものの加工工場(出荷調整)の賃金は、2003年比較で10~15%上昇している。加工工場(出荷調整)の労賃で出来高制を採用している公司では、2/3は山東省の西側の省からの出稼ぎで、労働者予備軍も多い状況の中で、地方政府から福祉関係の充実を求められ、その結果、労働福祉関連のコストが上昇している。

(3)福建省公司の事例

 福建省の輸出公司の事例では、農業労働者(播種~収穫)の賃金が2003年に比べ10~15%、加工工場労働者賃金も30%上昇したとのことである。当該地域の雇用環境は、野菜加工工場以外にも、他産業の工場があることから就業機会に恵まれている反面、他地域からの労働者流入がなく労働力需給環境はタイトとなっていることが背景となっている。

5 北京市における日本産農産物の輸出可能性

(1)市民の購買行動

 北京市のスーパーや自由市場では、午前中は「高齢者」による家族用食材の買い物客、お昼~夕方は幅広い客層、夕刻は共働きやキャリヤウーマンが多い。一方、富裕層は「家政婦」を雇用しており、雇い主は、普段、買い物には行かない。従って、富裕層における日常の買い物の購買者は、必ずしも高所得層ではない。

 「家政婦」の購買行動は、肉類はスライスされているスーパー(手間がかからない)、青果物は鮮度が良く価格の安い自由市場が一般的である。しかし、SARS以降ではパック野菜が衛生的とされ浸透してきたことから、今後は、共働き家庭などを主体に青果物もスーパーでの購入が増加すると推測される。

(2)安全・安心への関心

 中国では、「偽物」がマーケットに多く出回っており、消費者(「家政婦」も含む)の自己防衛感覚が浸透しており、「自分の目で見て購買する」のが基本である。「騙されるのは自分が悪い」のが一般的な認識である。中身が見えない缶詰は、品質が保障されていないことから、信用がなく売れない(価格が高すぎる、との意見もあり)反面、中身の見えるビン詰はフルーツを中心に良く売れている。

 安全・安心、健康への関心の高さは日本と同じであり、また、北京市の食品衛生に対する要求も強い。

 一方、中国農産物の品質の向上は著しく、有機(価格は通常の2~3倍)、減農薬減化学肥料も増加している。

(3)在留邦人の購買動向

 北京市での「在留邦人」は約2万人、流動人口を入れると3~4万人であるが、その居住区は集中していないことから、日本人向けだけでの販売は考えにくい。

 必需品(醤油、みそ、ポン酢など)の多くは日本の家族から郵送されている。お菓子、ラーメンなどの加工食品は、輸入した場合、関税と付加価値税により販売価格が日本の価格の2~3倍となるので在留邦人は日本産加工食品を購入していない。また、高級食材としての輸入食材店は、チーズ、調味料、お菓子などは西欧や日本から輸入しているが、野菜は自由市場から仕入れたものを販売している。

(4)北京市における消費の新しい動きと輸出可能性

 北京市では、子供向けの菓子(ラーメン菓子)が日本と同じ価格でよく売れ、外国産チョコレートも良く売れ、また1食25元以上のとんこつラーメン店が繁盛している。

 これは、中国産小麦の質が悪いこと、中国産チョコレートのカカオ含有量が少なく味が悪いこと、これまで食べたことがない味であることなどの理由による。

 一方、北京市民の平均所得は2000元/月程度であり、米国と同様に、所得階層のばらつきが大きいことから、日系量販店の話では、可能な限りの購買層を拡大した品揃えにより集客力の確保を図らなければ経営を安定させることはできないとしている。このように、まとまった取扱量にならない日本食材を大型量販店で取り扱うことは難しい状況であるが、2004年12月にコンビニエンスストアーのフランチャイズが解禁され(具体的な法律は、まだ公布されていない)急激に市場が開拓されてきている。このように新しいニーズを反映しているコンビニエンスストアーを通じて、「中国にない味」、「新しい食べ方の提案」などにより、新しい食材、消費形態としての日本農産物を中国市場で位置づけることが重要と考察する。捕らえどころがない消費者をどう捕らえるか、が重要で、その後コンビニエンスストアーの活用は不可欠と考える。

 なお、外食産業が伸びているなかで、油の使用量の少ない日本食に人気が集まっているが、現在のところ日本食レストランは高級レストランとしてみなされているようである。

(参考)
 1元≒15円
 1ム≒6.667a


 

北京市日系量販店内の牛丼店
 

北京市日系量販店内のラーメン店



1  さんずいに右側が章という漢字
2  さんずいに右側が維という漢字


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