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米国の野菜事情

中川マーケティング
中川 圭子


 米国は世界有数の野菜生産国である。国連の食料農業機関(Food and Agriculture Organization/FAO)収集統計によれば、2003年の米国野菜およびメロン類(いも類除く)総生産量は同年世界総生産量の4.4%に匹敵する3,704万トンであり、中国、インドに次ぐ、世界第3位の野菜生産国として位置づけられている。この米国の野菜産業は、最も多様性に富み、最も政府干渉が少なく、なおかつ顕著な経済繁栄をおさめている農業部門のひとつである。野菜は、作物保険、輸出振興事業、あるいは自然災害などを背景とした一時的公的救済措置の対象となることはあっても、穀類や綿の業界に存在する「生産規制とそれに伴う助成金支給」などの政府による恒常的所得支持政策の対象とはなっていない。米国の野菜産業は原則として自由経済の法則にゆだねられており、それゆえに、市場動向に敏感に反応して変転し続ける農業分野であると言える。

 以下は、各種連邦農務省発刊資料を主要な拠り所としてまとめられた、生産、消費および貿易の側面からみた米国野菜産業の概況である。

1 生産概況

生産農家

 本年6月に発刊された米国最新農業センサスによると、2002年のメロンおよびいも類を含む全国野菜生産農家数は59,044戸で、これは同年全国農家総数の2.8%を占めるにすぎなかったが、その販売総額127億8,600万ドルは同年全農産物総販売額の6.4%、同作物総販売額の13.4%を占めた。農業センサスによって明らかにされたメロン、いも類を除く全国野菜生産農家数、収穫面積および1農家当り平均野菜収穫面積の推移は表1に示されている。センサスデータ収集にあたっての基準が2002年版で大きく改訂されたので、これらの数値を単純比較することは適切ではないが、過去20年間に、農家数が減少方向を示した一方で、収穫面積は増加、結果として1農家当り平均野菜収穫面積が増加したという一般傾向が読み取れる。2002年のメロンといも類を除く全国野菜生産農家の数は54,391戸、その収穫総面積は1,496,882ヘクタール、そして1農家当り平均の野菜収穫面積は27.5ヘクタールであった。

表1 米国の野菜収穫農家数および収穫面積の推移(1982~2002)1/

1/ 2002年版において統計収集基準が大幅修正された為、2002年データは、修正された1997年データとのみ比較可能で、それ以前に編集されたデータとの比較は不適切である。
2/ 2002年版での統計収集基準変更を反映していない従前データ。
3/ 2002年版での統計収集基準変更に基づいて修正されたダータ。
  出所:U. S. Department of Agriculture. National Agricultural Statistics Service. 2002 Census of Agriculture.

主産地

 米国における商業野菜生産は全国50州内で営まれているものの、その主要な産地はロッキー山脈以西の西海岸および北西部地区、大西洋側の東海岸、メキシコ湾岸地区、五大湖周辺北東部地区などに分布している(図1および2)。一般に、主要な馬鈴薯産地は北西部3州と中北~北東部地区に、馬鈴薯を除く加工用野菜の主産地は西海岸、北西部地区および五大湖周辺に、そして生鮮市場向けのそれはカリフォルニアからフロリダに至るサンベルト地帯および大西洋岸部にその多くが結集している。

 これらの産地の中で全国随一の野菜生産拠点となっているのはカリフォルニア州で、馬鈴薯を除く主要生鮮野菜品目全国総生産量の約半数、同加工野菜品目全国総生産量の約6割が、同州1州によって供給されている。馬鈴薯を除く主要野菜品目の2003年生鮮/加工仕向け用途別、主要生産州別収穫面積、収穫量、収穫額の内訳比率は表2に示された如くであり、生鮮用、加工用いずれの分野においても、カリフォルニア州が第2位に大差を付けて断然首位の座を揺るぎないものとしている様子が明らかである。

表2 米国の用途別、州別主要野菜収穫面積、収穫量、収穫額内訳比率*(2003)

* いも類除く。
出所:U. S. Department of Agriculture. National Agricultural Statistics Service. Vegetables 2003 Summary. January 2004.

図1 米国の野菜収穫面積分布図(2002)*

* 1ドット=1000エーカー(407ha)
出所:U. S. Department of Agriculture. National Agricultural Statistics Service. 2002 Census of Agriculture:Agricultural Atlas. NASS Homepage(www.nass.usda.gov)より転載。

図2 米国のばれいしょ収穫面積分布図(2002)*

* 1ドット=1000エーカー(407ha)
出所:U. S. Department of Agriculture. National Agricultural Statistics Service. 2002 Census of Agriculture:Agricultural Atlas. NASS Homepage(www.nass.usda.gov)より転載。


主要生産品目

 米国で商業生産される最も主要な野菜品目は馬鈴薯、レタスおよびトマトである。連邦農務省経済研究局によって集計された主要品目別全国野菜生産額は表3に示されたごとくであり、2003年の全国生産額は馬鈴薯が25億6,700万ドル、レタスが21億300万ドル、そしてトマトが18億6,600万ドルで、これら3品目の合計が全品目生産総額の37%を構成している。上位3品目のうち、馬鈴薯に関しては総生産量の約3分の2、またトマトに至ってはその80-90%という多大な数量が冷凍、缶詰などの加工用として使用されていることから、生鮮市場向けのみに限定した場合は、レタスが米国で生産される最も主要な野菜品目として位置づけられている。

表3 米国における主要品目別野菜生産額(2000-2003)

*試算値
1/ 結球およびリーフレタスの計。 
2/ なす、エスカロール、ハネジュウメロン、乾燥ピース、キャッサバメロン、ほうれんそう、スクワッシュ、ラディッシュ、タロ、ビーツ、芽キャベツその他を含む。
出所:U. S. Department of Agriculture. Economic Research Service. Vegetables and Melons Yearbook. July, 2004.

2 消費概況

消費量、消費形態


 近年における米国住民一人当たりの野菜消費量は大勢として拡大の方向にあり、1980-84~2000-04年間に157.4キログラムから193.7キログラムへと23%の増大を示した(図3)。2000-04年間の年平均住民一人当たり野菜消費量内訳は、生鮮として消費されたものが全体の51%にあたる98.0キログラム、残る49%に相当する95.7キログラムが冷凍、缶詰、乾燥などの加工が施された製品として消費されたものであった。図3に示された過去20年間の住民一人当たり野菜消費量推移を形態/品目別に比較すると、生鮮消費が明瞭な右上がり傾向にある一方で加工消費は停滞気味であること、加工品目全体が不調な中で、馬鈴薯製品に関しては拡大傾向が認められること、生鮮品目の中では馬鈴薯を除くその他の品目の伸びが目覚ましいことなどがわかる。近年における米国住民一人当たり野菜消費量の増大は、主に、馬鈴薯加工製品と馬鈴薯を除く生鮮品目の消費拡大によってもたらされたものである様子が明らかである。米国で最も多量に消費される野菜品目は馬鈴薯、トマトおよびレタスの三大国産品目であり、これらが住民一人当たり平均野菜総消費量の約60%を構成している。

図3 米国住民一人当たりの形態別野菜消費量の推移(1980-84~2000-04)

*かんしょ、きのこ類、乾燥豆類を除く主要野菜品目の合計

出所:U. S. Department of Agriculture. Economic Research Service. Vegetables and Melons Yearbook. July, 2004.掲載資料をもとにNakagawa Marketing作成。

 近年米国で消費が伸びている馬鈴薯加工製品の主体は、冷凍フレンチフライポテトである。第一次世界大戦中にベルギーに駐屯した米国兵士達によって発見された珍味なフライドポテトが、米国における冷凍フレンチフライポテト産業発祥の起源であったと伝えられている。ベルギーの街角でこのフライドポテトの路上販売をしていた人々がフランス語を話していたことから、GIの間で「フレンチフライ」と呼ばれるようになり、彼らが米国に帰還した後に、米国内レストランのメニューに取り込まれるようになった。フレンチフライが冷凍食品として米国市場に登場したのは第二次世界大戦後のことで、大手冷凍食品メーカーによって加工工程の原型が確立され、時を同じくして成長し始めたファーストフードレストランの躍進とともに、ハンバーガーと並ぶ典型的アメリカンフードとしての地位が確立された。現在米国で消費される馬鈴薯加工製品の約半数は冷凍フレンチフライポテトである。

 馬鈴薯を除く生鮮野菜消費量拡大傾向を支える最も根本的な要因は、消費者の健康意識高揚であると見る向きが多い。果実野菜の摂取量拡大が様々な慢性疾患の予防に役立つことを立証する科学的データを拠り所とし、「健康増進の為に、1日5単位以上の果実野菜を食べよう」と呼びかける連邦栄養政策、ファイブアデイ事業が始まってすでに10年以上が経過したが、この官民連携の啓発運動が消費者の健康意識を触発し、青果物一般、特に生鮮果実および野菜の消費拡大に貢献したことは、業界内の多くが認めるところである。さらに近年米国では、住民の肥満化傾向が「甚大な社会問題」として大きく取り上げられ、肥満予防の一対策としての果実野菜摂取量増大も連邦政府によって奨励されている。こうした政府の「お墨付き」と青果業界による積極的なバックアップを背景に、米国市場における野菜消費は、今後さらに拡大するものと予測される。

フレッシュカット製品

 また、近年における米国野菜消費動向を語る上で見逃せない今ひとつの側面として、フレッシュカット製品の著しい市場浸透があげられる。生鮮野菜にカット加工を施して出荷するというビジネス形態は、米国では1960年代に業務用市場向けを目的として発達したが、1980年代後半にこのアイデアが小売向け商品にも適用され、現在につながる業務用/小売用量市場を包含するフレッシュカット産業の誕生を促した。業界内組織である国際フレッシュカット青果協会(International Fresh cut Produce Association)によると、米国内のフレッシュカット青果物市場規模は過去10年間に50億ドルから100~120億ドルへと急成長し、現在国内青果物総販売額の約10%が各種フレッシュカット製品であるとされている。様々なカット加工が施される青果物は、レタス、ブロッコリー、カリフラワー、人参、セルリー、玉葱、キャベツ、ほうれん草、メロン、りんごなど実に多彩である。これらの中で最も頻繁に加工される品目はサラダミックス用のレタス類であり、今や米国内で流通する生鮮レタスの約半数はフレッシュカット工場向けであるとするのが業界内一般の認識である(図4)。

 女性が社会の隅々に進出し、余暇を十分楽しむ風潮が一般化した米国では、外食頻度が高まると同時に、ペースの早いライフスタイルに合致した「簡易食品」への需要が増大している。そのままで料理の一品となるサラダミックス、包丁を使うことなく、袋を開けるだけですぐに料理できる洗浄済み、カット済みブロッコリーなどは、分刻みのスケジュールに追われる米国消費者にとって、魅力的な代替食品である。最近は、さらに新たな簡便性を付加した商品、例えばサラダドレッシング、クルトン、ハムなどが付加されたプラスチック容器入りシングルパックサラダ、袋ごと電子レンジに数分間放り込むだけですぐに食べられる洗浄、不可食部除去済みアスパラガスといった新商品も続々と導入されている。限られた時間の中で最大限の余暇を楽しみたい、食事の準備に時間はかけたくない、がしかし健康的な食生活を送りたいと望む現代消費者のニーズと目覚まし加工技術革新を背景に、米国のフレッシュカット野菜製品消費量は今後とも継続的に増大するものと予測されている。

図4 小売店の冷蔵展示棚に所狭しと並んだサラダミックス製品

出所:Nakagawa Marketing(ワシントン州内のウォールマートスーパーセンターにて2004年8月撮影)

3 貿易概況

貿易収支


 米国は、世界有数の野菜生産国であると同時に、主要な野菜および野菜調製品貿易国でもある。米国の野菜および野菜調製品輸入額と輸出額は数年前までは肩をならべて拡大し、貿易収支は黒字の状態にあった。しかしながら1990年代後半に入り、輸出が伸び悩む一方で輸入が急増したが為に1998年に赤字に転落し、2003年には、輸出総額48億1,300万ドル、輸入総額63億9,100万ドル、差し引き15億7.800万ドルという空前の入超が記録されるに至った(図5)。この赤字拡大傾向はその後も継続しており、本年の野菜および野菜調製品貿易収支赤字幅は昨年実績をさらに上回るレベルに達する見通しである。

図5 米国の野菜および野菜調製品貿易収支の推移(1989-2003)

出所:U.S. Department of Agriculture. Foreign Agricultural Service. U. S. Trade Internet System(www.fas.usda.gov/ustrade)よりのデータをもとに、Nakagawa Marketing作成。

主要貿易品目

 米国から輸出される最も主要な野菜商品は各種生鮮野菜であり、レタスを筆頭に、トマト、玉葱、ブロッコリー、メロン、にんじんなどが上位にランクされている。これら青果物の輸出は1990年代半ばに大きく増大したものの、その後主要な外国市場における他国産との競合が激化し、これが野菜類全体の輸出不振を引き起こす主要な背景となった。典型的な事例はアスパラガスで、本品目は1990年代半ばには国内総生産量の4分の1に相当する2万t以上が輸出に仕向けられていたが、90年代後半以降、日本をはじめとする主要市場での他国産との競合が高まり、現在の年間輸出数量は1万t強、総生産量に占める比率も8%前後にまで下落している。連邦農務省収集統計によれば、米国産主要生鮮野菜全体の輸出比率は、2000年以降、7.5~7.7%の範囲で推移している。米国から輸出されるその他の主要な野菜品目は、冷凍フレンチフライポテト、冷凍および缶詰とうもろこし、缶詰トマト製品、乾燥玉葱などである。

 輸出が伸び悩む一方で米国内への野菜品目輸入が拡大していることの主要な要因は、 周年で切れ目のない供給と多様な商品を求める消費者需要にあるとみられている。米国市場に輸入される野菜品目の主体は生鮮野菜であり、トマト、ピーマン、きゅうり、とうがらし、スクワッシュ(カボチャの部類)などの温暖な気候を好む野菜がその最大部分を占めている。米国市場においては、一般に、レタス、ブロッコリーなどの冷涼な気候を好む野菜に関してはカリフォルニア州内で周年生産が可能であり、カリフォルニアでの出荷が減退する冬期にアリゾナを筆頭とする南西部で不足分が補填される一方、トマト、ピーマンなどの温暖な気候を好む野菜に関しては、夏場は全国各地、冬場はフロリダ州産およびメキシコからの輸入品によって国内需要が満たされるという供給パターンが形成されている。主要生鮮野菜国内消費量に占める輸入品比率は、品目によって大きく異なる。輸入依存率が特に高い品目としては、アスパラガス73%、きゅうり及びなす47%、スクワッシュ38%、トマト35%などが着目されるが、生鮮野菜全体としての輸入比率は、現在16%前後であるものと連邦農務省では推定している。米国に輸入される主要な野菜調製品は、トマト、アーティチョーク、きゅうり(ピクルス)を含む各種缶詰製品および冷凍ブロッコリーである。

主要貿易相手国

 米国の最主要野菜および野菜調製品輸出相手国はカナダ、日本およびメキシコであり、これら3国への輸出額の合計が輸出総額の3分の2を占める構成となっている(表4)。カナダは米国にとって最大の野菜類輸出市場であり、過去10数年来首位の座を不動のものとしている。これに対し第2位の日本向け輸出額は1990年代半ば以降明らかに停滞しており、2004年のカナダに次ぐ輸出市場の座はメキシコにとってかわられる見通しである。カナダおよびメキシコは米国市場に近接するという地理的優位性を有していることに加え、1994年をもって発効となった北米自由貿易協定(NAFTA)による貿易自由化が両国市場への農産物輸出をさらに促進したことは明らかである。

 今日米国から日本向けに輸出される主要な野菜品目は冷凍フレンチフライポテト、生鮮ブロッコリー、生鮮および乾燥玉葱、冷凍および缶詰とうもろこしなどである。これらの中で、冷凍フレンチフライポテト、冷凍とうもろこしおよび缶詰とうもろこしの3品目分野では、日本は今なお、世界最大の輸出市場としての地位を維持している。

 米国産野菜品目輸出市場としての日本の相対的地位が徐々に低下している一方で、近年その成長ぶりが着目されるのは中国である。中国向け輸出は一昔前までほぼ皆無に近いものであったが、1990年代半ば以降顕著な拡大を示し、現在、韓国に次ぐ世界第5位の米国産野菜および野菜調製品輸出市場として位置づけられるに至っている(表4)。米国から中国に輸出される主要な品目は、冷凍フレンチフライポテトおよび冷凍とうもろこしを含む各種野菜調製品である。

 米国の最主要野菜および野菜調製品輸入相手国はメキシコおよびカナダであり、現在、両国からの輸入額合計が、野菜および野菜調製品輸入総額の約3分の2を占める状況となっている。これらNAFTA同盟2国、特にメキシコのシェアは圧倒的で、冬期に輸入されるトマトなどの生鮮野菜と冷凍ブロッコリーの最主要供給基地として揺るぎない地位を築いている。冷凍ブロッコリーは、かつてはカリフォルニア州内で幅広く生産されていたが、1980年代に労働者賃金が安価なメキシコに製造拠点が移動し、以降、米国冷凍ブロッコリー市場の大半がメキシコ産によって供給される仕組みが確立された。カナダから米国市場に輸入される主要な野菜品目は温室栽培された野菜、缶詰トマト、冷凍フレンチフライポテトなどである。

 近年米国野菜市場での存在感が高まった輸入元としては、中国およびペルーが上げられる。中国から輸入される最も主要な野菜品目は生鮮にんにくであり、ここ数年の間に急増し、2002年以降、メキシコにとってかわる世界最大の生鮮にんにく輸入相手国としての地位を確立した。中国からは、マッシュルーム、タケノコなどの各種缶詰野菜も輸入されている。米国市場に導入されるペルー産野菜商品の主体は生鮮野菜である。特に着目されるのは生鮮アスパラガスで、2002年にメキシコを抜き、現在ペルーは米国市場における最主要輸入相手国としてランクされるに至っている。

表4 米国の主要相手国別野菜および野菜調製品貿易額の推移(1990-2003)

1/ 2003年の貿易額による順位。
2/ 属領を含む。
出所:U.S. Department of Agriculture. Foreign Agricultural Service. U. S. Trade Internet System(www.fas.usda.gov/ustrade).



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