[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

海外情報


中国野菜の最新情報

中国研究家 白石 和良


はじめに

 中国の野菜に関しては、既に本誌の創刊号等にあらかたのことは紹介されているので、本稿はできるだけ重複を避けることを基本とし、最新の中国の野菜生産に関する統計、今年の中国の野菜の生産、価格、輸出状況等を報告する。

1.最新の野菜生産統計

 中国の野菜の品目別生産統計については、本誌創刊号に掲載された「中国における主要野菜の生産・出荷動向(その1)」(農畜産業振興機構調査情報部)にも記載されているが、2000年までの統計に止まっている。これは、中国農業部『中国農業統計資料』が2001年版以降野菜の品目別生産統計を記載しなくなったためである。このため、2001年、2002年の野菜の品目別生産統計は把握できない状況が続いていた。

 ところが、今年8月に発行された『中国農業統計資料2003』では、野菜の品目別生産統計が復活しており、さらに、単にこれまでの品目だけの復活ではなく、品目数も大幅に増加し、かつ、類別の数値も加えられていた。そこで、この最新の野菜生産統計を紹介することとした。

 最新の統計数値は表1~表4にまとめてあるが、以下、表1~表4を利用する場合の注意事項等を述べておく。

(1)品目数の増加

 2000年まで公表されていた品目は、(1)白菜、(2)大根、(3)キュウリ、(4)ネギ、(5)トマト、(6)茄子、(7)辣椒の7品目であったが、今回は、これらに加えて、(8)ほうれん草、(9)芹菜、(10)キャベツ、(11)油菜、(12)ニンジン、(13)ニンニク、(14)インゲンマメ、(15)ササゲ、(16)レンコンの9品目が加わって、合計16品目となっている。また、品目の増加に加えて、類別の合計数値も公表されている。具体的には、(1)葉菜類、(2)瓜類、(3)根菜類、(4)果菜類、(5)ネギ類、(6)野菜豆類、(7)水生野菜、(8)その他野菜の8類別である。

(2)中国語の日本語訳の問題

 中国語の野菜名を日本語に訳す場合は問題が生ずる危険性が高いので、以下、上記の日本語の原語に当たる中国語を付記し、注意点も併記しておく。

1)品目関係

 ア.(1)白菜=大白菜、(2)大根=●1卜、(3)キュウリ=黄瓜、(4)ネギ=大葱、(5)トマト=番茄、(6)茄子=茄子、(8)ほうれん草=菠菜、(12)ニンジン=胡●1卜、(13)ニンニク=大蒜、(14)インゲンマメ=四季豆、(15)ササゲ=●2豆、(16)レンコン=蓮藕については、問題はないと思われる。

 イ.(7)辣椒=辣椒(含柿子椒)。「辣椒」はトウガラシと訳すのは普通であるが、トウガラシという訳語では狭過ぎる感じがする。このように感ずるのは、表3、表4に見るように、2002年、2003年の生産量、作付面積は2000年までのものに比して格段に減少しているからである。「辣椒」の定義が変わったとしか考えられないが、確認できていないので、中国語をそのまま使ってある。なお、「(含柿子椒)」は「ピーマンを含む」という意味である。

 ウ.(9)キンサイ=芹菜。辞書にはセロリに似たセリ科の植物とあるが、セロリを含んでいる可能性が高いと思われる。

 エ.(10)キャベツ=甘藍。キャベツの訳語では狭過ぎる懸念がある。カリフラワーを含む可能性もある。

 (11)油菜=油菜。アブラナ、チンゲンサイの訳語があるが、中国語のままにした。

2)類別関係

 (1)葉菜類=叶菜類、(2)瓜類=瓜菜類、(3)根菜類=●3根、●3茎類、(4)果菜類=茄果菜類、(5)ネギ類=葱蒜、(6)野菜豆類=菜用豆類、(7)水生野菜=水生菜類、(8)その他野菜=其他蔬菜となるが、(6)野菜豆類とは未熟の莢ごと食べるものであり、(7)水生野菜には、レンコンの他に、里芋やクワイなどが含まれる。

(3)数値の根拠

 表1、表2については、2003年の数値はそのまま転載してあるが、2002年の数値は2003年の数値の対前年増減の数値から逆算したものである。表3、表4については、利用者の便宜を考えて、1995年~2000年の数値も併記した。前述したように「辣椒」の数値は、内容的に異なっていると思われるので、注意が必要である。

2.今年の野菜の生産状況等

 本節では、中国農業部のホームページに掲載されている「2004年上半期野菜市場形勢分析」(公開日は8月13日付け)から、中国の今年の野菜の生産状況を紹介する。

(1)作付状況

 今年の野菜の作付面積は、基本的には昨年と同水準とされている。省段階では、増大しているのは、安徽、江西、河南であり、減少しているのは、吉林、黒竜江、江蘇、山東、湖北、湖南、四川、新疆とされているが、具体的な増減の状況については紹介されていない。「2004年第1四半期野菜市場形勢分析」(公開日は4月21日付け)では、今年の野菜作付面積を前年比3%程度の増大と予測していたことと比較すると、相当な下方修正である。また、省段階では、山東、河南、江蘇、湖北、広東、四川、河北、湖南の各省の作付面積の増大を予測していたが、これら増大予測の8省のうち、山東、江蘇、湖北、湖南、四川は増大予測から減少予測へと転じており、増大予測が継続しているのは河南だけとなっている。

 今年の野菜の作付面積の予測が3%の増大から昨年並に下方修正されたのは、今年大々的に推進されている食糧(米、麦、とうもろこし、豆類、いも類)増産運動が影響しているものと思われる。中国では、1990年代の後半食糧増産が行き過ぎて、過剰生産、過剰在庫となったため、2000年から食糧の生産調整が推進されてきた。ところが、昨年はこの生産調整が進み過ぎて、中国政府が目安としていた4億5千万tのラインを大きく割り込み、4億3070万tにまで落ち込んだ。一昨年より2,636万tも減産したのである(表5参照)。原因は食糧作物の収益性が低いことである。

 中国政府は、4億5千万tラインは維持するものと考えていたと思われるが、実際にはこの線を2千万tも下回ってしまった。そのため、慌てて今年から食糧増産政策へ転換することとなった次第である。

 その政策手法は次の2点がある。第1点は直接補助の実施等農家に対する経済的メリットの大幅な供与である。第2点は、食糧作物作付け確保の行政指導の強化である。端的に言えば面積の割当である。今年の食糧作物の作付面積の確保目標は1億ha、前年より59万haの増大である。行政指導の強化によって、1億haの食糧作付面積は是が非でも達成しなければならないのが中国の農村の実情である。

 このような中国政府をあげての食糧増産運動が展開されている状況の中では、野菜の作付面積を増大させたり、あるいはこっそりと増大させても、それを喧伝するわけにはいかないのである。野菜の作付面積の下方修正には以上のような背景があると思われる。

 なお、食糧増産政策の展開状況について付言しておくと、食糧増産政策の効果は既に現れている。冬小麦を中心とする夏収作物は既に豊作が伝えられている。今年の目標(表5参照)の達成は容易であろう。筆者は行政指導が効き過ぎて、過剰状況への逆戻りを懸念しているほどである。

(2)価格状況

 第1四半期の価格は、前年同期の水準より低位であった。第2四半期に入っても、季節的要因の影響によって、全国的に野菜価格は低下傾向を示している。6月の主要野菜の価格は、引続き、前月より下落しているが、前年同月比では依然として相当な高位水準となっている。

 今年上半期の突出した特徴は、生姜の価格が暴騰していることである。6月の生姜の卸値は1kg当たり6.22元となっているが、これは前年同月比360%増の水準である。生姜価格が暴騰した原因としては、ここ数年生姜の作付面積が逐年減少を続けてきたこと、昨年から生姜の加工輸出量が激増したこと、特に韓国への輸出量が10倍近くにまで増大したことが挙げられている。ただし、下半期には下方に向かうと予測されている。

(3)貿易状況

 今年1~5月の累計野菜輸出量は218.55万tで、前年同期比10.6%増、輸出額は14.16億ドルで、同26.3%増であった。種類別には、(1)生鮮冷凍野菜が121.87万t(同8.98%増)、4.93億ドル(同23.25%増)、(2)加工保存野菜が82.59万t(同17.55%増)、6.47億ドル(同32.31%増)、(3)乾燥野菜が14.09万t(同8.86%減)、2.75億ドル(同18.53%増)となっている。

 また、1~5月の累計での主要野菜輸出省としては、(1)山東4.25億ドル(同30.7%増)、(2)福建2.97億ドル(同21.2%増)、(3)浙江1.14億ドル(同14.5%増)、(4)広東0.97億ドル(同10.2%増)、(5)新疆0.61億ドル(同24%増)が挙げられている。

 輸出先国については、日本が依然として中国の野菜輸出の主要な国であることに変わりは無いが、韓国、アメリカへの野菜輸出が急速に増大したとしている。数値的には、1~5月の累計で、日本輸出は57.84万t(同6.9%増)、アメリカ輸出14.21万t(同40.6%増)、韓国輸出17.8万t(同42.8%増)であった。アセアン諸国への輸出は、1~5月の累計で、37.86万tで、中国の総輸出量の17.32%を占めた。アセアン諸国の中で、中国の主要な輸出先国はマレーシアとインドネシアであり、マレーシアは中国のアセアン諸国への輸出総額の38.4%を占め、インドネシアは26.4%を占めている。中国とタイは、昨年の10月1日から野菜と果物について「ゼロ関税」制度を開始している。この結果、中国からタイへの野菜輸出は急速に増大しており、今年1~5月の累計で0.23億ドルに達しており、前年同期比187.5%の増である。

 なお、今年上半期の野菜の輸出は、輸出量が263.5万tで、前年同期比8.6%増、輸出額が16.9億ドルで、同24.8%増となっており、輸入は、輸入量が5.2万tで、同19.9%増、輸入額が0.43億ドルで、同27.6%増となっている。

3.無公害農産物、緑色食品、有機食品の関係

 無公害農産物、緑色食品、有機食品については、前述の本誌創刊号で調査情報部から報告されているが、その後の状況の進展や筆者の理解と若干異なる点もあるので、重複する部分もあるが、筆者のこれら3制度に対する理解の内容を紹介しておきたい。

(1)無公害農産物制度

 無公害農産物制度は、2002年4月から開始した制度であり、農業部の直属機関である農産物品質安全センターが「無公害農産物管理弁法」(農業部と国家品質監督検査検疫総局の共同規則)に基づいて認証している。この認証制度の目的は、消費地へ搬入される生鮮食品の安全性を基本的に確保することであり、行政が直接推進している制度であるため、認証は無料で行われている。認証の有効期間は3年間であり、認証を受けた生産者は無公害食品マーク(図1)を付けて販売することが認められている。2004年4月7日現在で、無公害農産物の認証を受けたのは全国で2,838の生産者、品目数は3,344となっている。

(2)緑色食品制度

 緑色食品制度は、3種類の制度の中では最も歴史が長く、1990年から開始している。この制度は、中国緑色食品発展センターが「商標法」に基づいて商標登録した「緑色食品」マーク(図2)の使用を一定の基準を満たした生産者に認める仕組みであり、対象は加工食品にまで拡大されている。緑色食品には、A級とAA級の2ランクがあり、AA級の基準の方が厳しい基準となっている。

 この制度の特徴は、安全性のほかに品質の確保が加わっていることである。認証の有効期間は3年間であるが、認証は有料である。2003年末現在で緑色食品の認証を受けたのは全国で2,047の生産者、品目数は4,030となっている。

(3)有機食品制度

 有機食品制度は、1994年に国家環境保護局(当時)に有機食品発展センターが設置されたことから始まっている。当時、既に農業部サイドが緑色食品制度を推進していたので、環境保護局系統が“殴り込み”を掛けた形である。この“殴り込み”を可能にしたのは、農業部サイドが「緑色食品」という言葉を使い、「有機食品」という言葉を使わなかったことである。緑色食品制度と有機食品制度は2003年初頭まで併存してきたが、食品の品質、安全問題に本腰を入れなければならなくなったことから、両者の調整が図られた。

 調整の結果は、有機食品の認証制度は存続させるが、有機農産物の輸出促進を主たる目的とする、所管は農業部に委譲するというものであった。

 この調整の結果、2003年に有機食品の認証機関である中緑華夏有機食品認証センターが設立されている。制度の主要な目的が有機農産物の輸出促進であるため、認証基準は外国の有機農産物基準に合せており、認証の有効期間は1年間、認証は有料である。認証を受けると、有機食品マーク(図3)を表示して販売することができる。2003年に有機食品の認証を受けたのは全国で102の生産者、品目数は231となっている。

(4)3制度の位置付けと相互関係

 3種類の認証制度の概要と相違は以上のとおりであるが、農業部の3制度の位置付けは、無公害農産物が基礎であり、この基礎の上に、緑色食品と有機食品を発展させるとしている。つまり、最低限の安全性は国費負担による無公害農産物の供給で確保し、それ以上の要求に対しては、価格転嫁による消費者負担も求めるということである。

4.中国の野菜生産量の公式統計の公表

 中国の野菜生産量については、これまで公式の統計が公表されていなかった。ここでいう「公式の統計」とは、政府機関の一つである国家統計局が公表したものという意味である。野菜の作付面積については、これまで国家統計局が公表してきたので、公式統計が存在するが、生産量については公式統計が存在しないという変則的な状況が続いていた。ところが、今年2月26日に国家統計局が突然野菜の生産量統計を公表したのである。公表に至った理由は定かではないが、これで、野菜の作付面積、生産量とも公式の統計が揃ったことになるわけである。

おわりに

 本稿では、最近の中国の野菜に関する状況を報告したが、残された課題も多い。例えば、野菜を含めた食品の安全性の問題、野菜消費の問題などである。また、状況の変化も大きいので、機会があれば、改めてこれらを紹介することとしたい。



1=草冠に四の下に夕の漢字
2=豆偏に工という漢字
3=土偏に快の右側の漢字




元のページへ戻る


このページのトップへ