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韓国における野菜種子産業の動向(その1)

財団法人アジア農業協同組合振興機関 深町 茂


1 野菜種子産業の発達

 韓国の野菜栽培の歴史は長く、地方ごとに白菜、ダイコン、カエルウリ、虎ウリなど長い間適応してきた在来種があるが、韓国で種子会社が本格的に近代的な会社の姿を備え始めたのは1960年代初めであり、種子産業は40年余の歴史に過ぎない。

 このような状況において、韓国種子会社の発展の主要段階は一般的に1960年以前までが胎動期、1961年から1988年までが発展期、1989年から現在までが開放化時代と区分されている。胎動期には日本資本の種子会社が何社かあったが、韓国資本による会社は小規模な種子商の水準であった。この時代は主に系統分離育種による固定種が販売され、地域に優秀な固定種があればそれを買い入れ、一部は自らが直接採種して販売する程度であった。

 胎動期においては、興農種苗を設立した「李春燮」が1922年に舍利院で種子業を開始し、中央種苗の「朴甲洙」が1946年に種子事業を創始しており、その時代から韓国では在来種や外国からの導入種の中で優良な系統を選抜し固定した品種を利用していた。白菜ではチャンバンコクン、京都3号など、ダイコンでは宮中チョンテなど、トウガラシでは天安在来、タマネギでは天主黄、貝塚早生など、キュウリではソンホウォン、ソウルタタギなど、スイカではシンデフォアなどが代表的な品種であった。

 野菜種子の輸入自由化が始まった1989年から現在までは、国際化と開放化の時期とされている。

 種子輸入の自由化は1989年に始まり1991年にはすべての種子が自由化された。また、1991年からは韓国内で育成した品種を海外で採種するようになり、海外での採種量が急増した。現在では韓国の野菜種子生産量の65%以上が海外で採種されている。

 特に韓国野菜産業の転機をつくった品種は白菜園芸1号と2号で、自家不和合性を利用した1代雑種の生産が可能となった。

 この期間には、平地夏ダイコンや晩夏白菜が真夏にも平地で栽培ができるようになり、大型春ダイコンが育成されて春栽培を可能とした。また、雄性不捻を利用したタマネギの1代雑種、園芸1号と2号、最初の種間雑種によるブルアムサチャルエカボチャ、種間雑種によるツルの長さが短い矮性の生カボチャとエカボチャ、糖度が高いクムサラギウリなどが次々に育成された。

 また、野菜種子産業界の国際化でとられた画期的な措置は、外国資本の韓国進出の許容であった。

 1996年に国内市場規模3位のソウル種子社(株)がスイスの多国籍企業ノルバティス社に売却されて以後、市場占有率1位と2位の興農種苗社と中央種苗社が多国籍企業である米国・メキシコ系のセミニス社に売却され、ドラゴンタキイも1996年12月に韓国支店を開設した。最近ではリマグレイン社、アグレボ社も韓国進出を摸索中である。

 現在、韓国種子市場の60%以上が多国籍企業の経営下に置かれているが、純粋な韓国企業では農友種苗と東部韓農種苗、そして30余の群小種子会社が残っている。外国資本の進出を契機に韓国の種子産業界は初めて国際化と開放化時代の激しい流れを経験することになった。

2 野菜種子市場の現状

 現在、韓国の野菜栽培農家は、特定の野菜でわずかではあるが自家採種する事例があるが、多くは必要とする種子を毎年種子商から購入している。

 韓国の野菜種子の市場規模は、年間約1,500億ウォン程度と推定されている。その内訳をみると全体の24%がトウガラシ(342億ウォン)、次いでスイカ(14%、206億ウォン)、白菜(11%、153億ウォン)、ダイコン(10%、148億ウォン)の順である。その他の種子は10%未満である。



 最近の生産額をみると、葉菜類は露地栽培、施設栽培のいずれもが増え、果菜類はナスを除いて施設栽培の比率が次第に増えている。調味野菜では、ニンニクやトウガラシは生産額が一定水準を維持し、タマネギは5年前に比べて急速な増加傾向にある。

 野菜種子市場の規模は、第3表に見られるように大幅に拡大されてきたが、その主な要因は、種子輸出量や国内需要の増大にあるものと見られる。



 一方、野菜種子会社の現状をみると、韓国内種子会社全46社の従業員は1,450人、そのうち育種研究員は10%未満の139人である。研究員不足の現状にあり、従業員1人当たりの売上額も1.1億ウォンで、他の一般的な製造業の平均売上額3億ウォンに比べ30%と低い。また、トウガラシ、ダイコン、スイカ、白菜を除き市場が零細なため民間種子会社が莫大な開発費を投入するのは難しい状況である。

 しかし、韓国は種子産業の環境変化に対応するため、これまでの種子の輸入販売、委託採種事業、流通種子の管理業務といった消極的な経営から積極的な育種事業への転換を図っており、優良な新品種開発の基盤を造成するため育種専門家を発掘するなど種子産業の競争力向上のために施策を構築しており、不利な状況にも拘わらず1999年に1,700万ドルの種子を輸出している。これは種子従事者1人当り1万2千ドルであり、今後韓国の努力如何によっては種子産業が高付加価値産業に発展する可能性が十分ある事を示していると判断される。1990年代前半までは国内自給のために品種開発が行われ、種子会社も国内市場だけで競争してきたが、1990年代後半に入り、多国籍大企業が参入し、生命工学技術を活用し、品種保護権など知的財産権を強化する情勢にある。

 しかしながら、1997年に種子生産業を開放してから外国企業の参入が著しく、外国企業と韓国係種子会社の売上額を比較すると大きな差がある。セミニス社400百万ドル、ノルバティス社384百万ドル、サカタコリア社183百万ドル、ドラゴンタキイ社170百万ドルに対し、韓国最大の売上会社の農友種苗は28百万ドルに過ぎない。

 また、外国企業の興農、ノルバティス社の韓国野菜種子輸出額は各々56.8%、19.8%で、2社で76%を占めている。

3 野菜生産費における種子投入額

 300坪(10a)当りの種子投入額が10万ウォンを上回っている作物は、細ネギ(17万ウォン)、ミニトマト(16万ウォン)、キュウリ(12万ウォン~17万ウォン)、半促成スイカ(13万ウォン)、施設トウガラシ(15万ウォン)、トマト(11万ウォン)などで、種子の代金が生産費全体に占める割合は10%未満となっているが、細ネギ(16%)、タマネギ(13%)、春ダイコン(11%)は10%以上となっており、特にミニトマトの場合は10a当りの種子代金が28万ウォンと大きい。

 一方、種子投入額の農家粗収益及び農家所得に対する割合は、ミニトマトの場合で粗収益に対し2.3%、所得に対し5%程度で、これは他の作物も同程度となっている。

種子の価格が高い品種は所得も多いことから農家負担はそれ程大きくはないと見られるが、タマネギの場合は種子所要量が多いことから、種子投入額が農家所得額の10%以上を占めることもある。

 第6、7,8表は韓国の代表的な価格の高い種子であるニンジン、タマネギ、ミニトマトの300坪当り粗収益と種子所要量及び種子代金をみたものである。

 



 韓国で使用される野菜種子は国内で生産するものと、海外で採種して国内に輸入するものとに分けられが、海外採種は1990年代から本格的に始まっており、1991年には野菜種子の海外採種は総生産量の12%(22万リットル)であったが、それ以後急激に増加して99年には73%の286万リットルが海外で採種されている。



 種子会社が各種野菜種子を海外で生産して韓国に輸入する主な要因は、交配事業に係る人件費等の上昇にあり、生産費を節約することが目的である。また、白菜、キャベツ、ウリなどは韓国では採種期に降雨があり、採種効率が低いため海外で採種を行っている。しかし、海外採種には種子の品質管理の困難性と、韓国品種の海外流失といった深刻な問題がある。

 1999年の主要な野菜種子のうち、韓国国内需要の90%以上を海外で生産している作物はトウガラシ、トマト、スイカ、ネギ、ニンジン、レタス、ホウレンソウである。レタスとホウレンソウの場合は韓国では特定種の採種が不可能で、海外採種が不可避である。

 輸入種子への依存度が高い作物としては、トマト(26%)、タマネギ(37%)、ニンジン(31%)、ホウレンソウ(51%)がある。トマトは韓国の市場が狭く種子会社が投資し新しい品種を開発する条件がない反面、外国の品種は各種病害に強い抵抗性があり糖度と完熟性が高いので、トマト栽培農家が導入している。特に、ミニトマトはほとんど100%日本の種子を使用する現状にある。ニンジンとタマネギについては済州道と南海岸地方で栽培する極早生品種を主に日本から輸入している。

4 野菜種子の輸出入

 公式統計によると、1970年~1999年において総額7,980万ドル相当の種子を輸入した反面、総額1億2,050万ドル相当の種子を海外に輸出しており、総額4,070万ドルの輸出超過となっている。

 1991年以後、国内の種子会社が海外で採種し再び国内に輸入した種子量は1991~1999年で総量1,672万リットル、7,083万ドル相当であり、種子1リットル当り単価は3.98ドルと計算される。また、純輸入は1991~1999年で総量739万リットル、7,692万ドルで単価は10.49ドルである。一方、同期間の総輸出量は400万リットル、8,884万ドル、種子輸出単価は22.38ドルで、輸入単価より約2倍以上高く販売されており韓国の種子産業は付加価値が高いことがわかる。

(1)野菜種子の輸出状況

 品目別に主な野菜種子の輸出状況を見ると、ダイコンが1990年211千リットル、1991年206千リットル、1992年354千リットル、1993年178千リットル、1994年194千リットル、1995年152千リットル、1996年236千リットルと総輸出の50%以上を占め輸出の中心となっており、その他に白菜、キュウリ、ネギ等の種子が輸出された。 

 現在、韓国の主な輸出種子は、ダイコン、白菜、ニンジン、トウガラシ、ホウレンソウ等であり、1989年と1999年を比較すると全体として増加傾向となっている。なお、ニンジン、タマネギの種子は日本から輸入する一方、東南アジアなどに7万リットル以上輸出している。

 また、1989年と1999年の輸出額を見ると、トウガラシは1989年には10万ドルであったが1999年にはインド、東南アジアなどへ387万ドル輸出し38倍の増加であった。キャベツは50倍、ニンジンは145倍に急増したが、一方、キュウリ、ウリなどは急減している。過去の種子輸出は国内消費の余剰分で限界があったが、最近では輸出対象国の消費者や産地の要求に応える品種を開発し輸出を増やす努力をしている。

 日本との関係を見ると、トウガラシ種子は相当量がアジア地域へ輸出されているが、主な輸出市場は日本であり、1994年以前にはトウガラシ種子の約90%が日本へ輸出されていた。また、ダイコンをみると、一時、日本の栽培面積の10%程度が韓国産のダイコン品種で占められていた。

 日本では韓国の野菜種子が日本名に変えられて流通しているため、韓国種子の日本市場での占有率を把握することは困難であるが、韓国が日本から野菜種子を輸入する場合には、品種の名前は韓国名でなく日本名をそのまま使用している。日本の野菜農家は韓国種子が粗雑であるという先入観を持ち、反面韓国の農民は日本種子を実際より高く評価する傾向がある。

(2)野菜種子の輸入状況

 1999年に韓国が外国から輸入した主な種子は、ダイコン(海外採種を含む種子総輸入量の30%)、ホウレンソウ(24%)、ネギ(9%)、ニンジン(6%)、タマネギ(4%)である。タマネギとニンジンの場合、済州道で栽培する極早生種はほとんど海外から輸入したものである。

 また、1995年以降においては、韓国野菜種子輸入の様相は大きく変化している。

 野菜種子の国内採種量を1998年と1999年で比較すると、ダイコンは100万リットルから半分に減って約50万リットルとなり、その他、白菜、ネギ、ニンジン、タマネギなども60~80%以上国内採種が減少している。その主な要因は、採種期の降雨など栽培環境と国内交配事業の人件費上昇の影響と考えられる。

 1989年から1999年まで10年間の韓国の野菜種子輸入量をみるとホウレンソウが46万リットルで3.2倍、主に日本から輸入するタマネギが5万6千リットルで38倍、ダイコンが134倍に増えたが、キュウリ、白菜、スイカの増加は少ない。




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