平成13年度から15年度にかけて行った中国における野菜の生産、流通、輸出等の動向に係る調査結果の概要を取りまとめたものである。
なお、今月号では「1.農業の概要」、「2.野菜生産の動向」、「3.野菜流通の動向」について、次月号では「4.野菜輸出の動向」、「5.野菜産地の動向」、「6.野菜消費の動向」について掲載させていただく。
要 旨
1 農産物の播種面積は、食糧生産の過剰基調や環境保護の対策として退耕還林政策(過度な開墾、干拓地を計画的に林、草地、湖に戻す政策)、農地転用などを背景として、近年では減少傾向にある。その中で、野菜の播種面積は、米、麦等の食糧作物からの転換により増加傾向が続いており、2002年では農産物播種面積の11.2%を占めている。
2 野菜生産を地域別にみると、山東省などの東部地域が面積及び生産量において4割程度を占めるが、夏季の東北地域、冬季の南部地域への拡大、日光温室と呼ばれる施設等の増加により、周年供給・輸出がなされるに至っている。現在では、地元で栽培できない時期の他省の公司からの買付け、契約栽培等により、品質・安全性を確保しつつ周年輸出を行う大規模輸出公司も登場している。
3 経済発展に伴う所得向上と野菜・果実等の需要増加から、品質・安全性への要求が高まり、2000年から「無公害農産品計画」が本格的に実施され、産地及び消費地の卸売市場において残留農薬等の検査機を導入による検査体制を確立する「市場准入制度」が実施された。本制度によって、「無公害野菜(放心菜)」(「無公害野菜」として定められている規準をクリアした野菜)として認証されない野菜は、卸売市場に出荷できないこととなった。従って、今後、本制度に対応できない産地は淘汰されることとなる。
4 また、1990年代後半に大きく発展した輸出野菜産地は、輸出公司の野菜調達経路により、輸出公司による農家からの直接買付や卸売市場・産地商人を経由した買付けにより形成された産地、輸出公司との契約栽培により形成された産地、輸出公司による直営農場経営により形成された産地に大別される。
5 残留農薬問題に対処するため、国家質量監督検査検疫総局は、「輸出入野菜検査検疫管理弁法」(2002年8月12日施行)を発布した。当該弁法により、野菜輸出(生鮮・加工用)公司は、検査検疫機関に「輸出野菜栽培基地」に定められた要件(300ム=20ha(15ム=1ha)以上の栽培面積、管理者の設置、農薬の管理・使用状況の記録・検査の義務等)を充たしていなければならないとしている。従って、輸出野菜産地においても、今後、「輸出野菜検査検疫管理弁法」に対応できない産地は淘汰されることとなる。
6 他方、土壌やほ場における農薬検査等は「ほ場単位」で行われることから、経営規模の大きな公司などでは検査コストを抑制するため耕地の集積を行い野菜産地の団地化を推進している。
安全性への対応においても野菜産地の再編が推し進められている。
7 以上のように、残留農薬検査制度の導入は、流通・生産コストの上昇要因となっており、野菜輸出価格は残留農薬の検査費用によるコストアップにより上昇せざるを得ない状況である。
しかしながら、一方で、1億を超える「余剰労働力」が存在しており、この膨大な「余剰労働力」圧力は、契約栽培における買付け価格、出荷調整における労働賃金に対する下方圧力となる可能性がある。
1億を超える「余剰労働力」が、残留農薬の検査費用によるコストアップを吸収する可能性も否定できない。
はじめに
日本が輸入した野菜の数量・金額に占める中国野菜の割合は、1992年の数量及び金額の32%から大幅に増加し、2002年には数量で51%、金額で47%を占めるまでになっている。その内訳を類別でみると、従来から高い割合を占めてきた塩蔵・乾燥・その他調整野菜の加工野菜に比べ生鮮野菜及び冷凍野菜がより増加し、輸入量の半分以上を占めるまでになっている。このよな状況の中で、2001年には本発動には至らなかったものの生鮮ねぎ等3品についてセーフガード暫定措置が発動され、日中両国における大きな問題となった。また2001年末には中国における野菜残留農薬検査結果の中国新聞記事が大きく取り上げられ、中国輸入野菜に対する残留農薬検査の強化、中国冷凍ほうれんそう輸入自粛要請が行われ、現在に至っている。中国における野菜の輸出は、その豊富で安価な労働力を基盤として、栽培方法等の技術移転、低温冷蔵庫の拡充、リーファコンテナや高速道路の普及などインフラ整備などにより拡大してきたが、近年の中国国内・国外の残留農薬問題に対処するため、中国野菜産地は輸出産地のみならず国内出荷産地も大きく変貌しつつあるようにみえる。
このような状況を踏まえつつ、本稿では、中国農業における野菜生産の位置づけを概観し、流通と輸出の動向を分析し、今後の中国における野菜生産を展望する。
表1 中国類別輸入数量
表2 輸入数量・金額に対する
中国の輸入割合
資料:財務省「貿易統計」
(注)1998年以降に「ごぼう」(生鮮、冷蔵、塩蔵等)が集計対象となったことにより、1998年以降の数値と1997年以前の数値は連動しない。
図1 2002年中国からの野菜の輸入数量
図2 1992年中国からの野菜輸入数量
1.農業の概要
(1)耕地面積と農業労働力人口
日本の耕地面積の約18倍となる中国の耕地面積は、1980年の9,931万haから1994年には9,491万haと増加している。その後の1997年から2000年にかけての統計数値が発表されていないため明らかではないが、2001年には9,656万ha(期首耕地面積に期間増減面積を加えて推計)となっていることからこの間は増加傾向であったと推測されるが、他方、農産物の播種面積をみると、1980年14,638万haから1999年15,637万haに増加したものの同年をピークとして減少傾向となり、2002年には15,464万haへと減少している。このことから、耕地面積は、食糧生産が不足基調から過剰基調となったこと、環境保護のための退耕還林政策(注1)が推進されていること、農地転用などを背景として、播種面積がピークであった1999年前後を境として減少傾向に転じていると推測される。
一方、農業労働力(林業、牧畜、漁業を含む)は、農村人口が1980年の81,096万人から2002年の93,503万人、農村労働力人口が1980年の31,840万人から2002年の48,527万人と増加傾向が継続しているものの、1990年代後半からの郷鎮企業の発展・拡大等により減少傾向となっている。
他方、農家経営規模を農業労働力一人当たり耕地面積と耕地利用率でみてみると、農業労働力一人当たり耕地面積では、農業労働力人口が1980年29,808万人から2001年の32,451万人(2002年では31,991万人)と大幅に増加していることから1980年の33.3aから2001年の29.8aへと減少しており農家経営規模はより零細なものとなっているが、耕地利用率では、野菜栽培の増加や野菜栽培における日光温室と言われる施設の増加などにより、1980年の147%から2001年の161%と増加している。
(2)農林牧漁業の総産出額
農林牧漁業の総産出額及び部門別の生産額の推移を見ると、総産出額は1985年から1995年の10年間で大幅な増加を見たが、1995年以降は緩やかな増加で推移している。
生産額の分野別構成比では、農産物1980年では全生産額の75%であったが、2001年では55%と低下し、畜産物が18%から30%、水産物が2%から11%へと増加しており、所得向上による消費構造の変化がうかがえる。
一方、野菜・瓜類の総産出額は、1992年の13.2%から2001年の14.8%と増加傾向にあり、上海市農業科学院の兪菊生氏によれば、2001年の野菜生産高は2800億元で、農産物(米、麦、とうもろこし、豆類、薯類、油料、綿、麻、糖料作物、煙草、野菜)としては「糧食」(米、麦、コーン豆類、いも類)の4,600億元に次ぐ第二の生産額」(注2)となっている。
表3 耕地面積と農業労働力
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
(注1)2001年耕地面積は当初耕地面積から年間増減面積を加えて算出したため、農業部の発表すうち(13.00百万haとは異なる。また、2002年耕地面積は発表されていない。
(注2)1ム=6.667a (1ha=15ム)
表4 部門別生産額
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」、「中国農村統計年鑑」
図3 部門別生産額の推移
(3)農作物の播種面積・生産量
食糧作物の播種面積は、1995年から増加に転じたが、食糧生産の過剰基調、環境保護のための退耕還林政策の推進などを背景として1998年の114百万haをピークに減少にてんじており、2002年は104百万haとなった。
その内訳を見ると、米及び小麦の播種面積が減少したことによる穀物全体の減少が著しい。また、食糧作物の生産量についても同様の傾向が見られる。
また、経済作物(表5注2を参照)の播種面積は、1992年以降増減を繰り返し、2002年2001年とほぼ同水準の22百万haとなっている。
表5 食糧作物、経済作物及び野菜の播種面積と生産量
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」、中国農業部「中国農業統計資料」
注1:野菜生産は1994年から統計がとられるようになった。
注2:食糧作物:米、小麦、とうもろこし、きび、こうりゃん、豆類、薯類等
経済作物:油料作物(菜種、落花生、ひまわりの種等)、綿花、麻、糖料作物(甜菜、さとうきび等)、煙草、薬用作物等
注3:野菜は果樹及び茶等とともに「その他の作物」として位置づけられている。
図4 食糧作物、経済作物及び野菜の播種面積の推移
2.野菜の生産動向
野菜の播種面積は、1978年の農業生産請負責任制導入、自由市場再開、1986年の青果物流通統制廃止、1988年の菜藍子行程開始などの市場経済体制の整備及び近年行われている農業構造調整による水稲作等から野菜などは他作物への転換の推進等により増加が著しく、1980年の316万haから年々増加し、1990年は634万haと倍増、2000年は1,524万ha、2002年には5倍を超える1,735万haまで増加した。また、野菜播種面積の農産物播種面積に対する割合は、1980年の2.2%から1990年の4.3%、2000年の9.7%と大幅に増加し、2002年は11.2%となった。
表6 野菜等の播種面積の推移
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
元千葉大学園芸学部永江弘康教授は、中国の野菜生産地帯を、①東北単作地域(黒龍江省、吉林省、遼寧省)、②華北ニ作地域(華北地方、山東省、華南地方、江蘇省と安微省の北部)、③華中三作地域(湖北省、湖南省、浙江省、江西省、上海市~江蘇省と安微省の南部、福建省南部)、④華南多作地域(広西省、広東省、福建省~雲南省南部)、⑤西北ニ作地域(山西省、陝西、甘粛省中部、寧夏南部、西寧)、⑥南西三作地域(四川省、貴州省、雲南北部、西陝、甘粛省南部)、⑦青蔵高原単作地域(青梅・西蔵地域、四川省と新疆地域の一部)、⑧菜新単作地域(内モンゴル、新疆、寧夏と甘粛省の一部地域)に分類されている。(注3)
2002年の主要な野菜生産地域を省別にみると、2002年では全国野菜播種面積の11%を山東省が、同8%を河南省が、同7%を江蘇省、広東省が占めている。山東省の野菜播種面積は、1993年では四川省、広東省に次ぐ64万haであったが、2002年では3.1倍の197万haとなり、河南省、湖北省、広西省、河北省も1994年に比べ2倍以上に増加している。
これを生産量でみると、はくさい、キャベツ、だいこん等の重量野菜の栽培が多い河北省が山東省に次ぐ生産量となっている。
1994年以降の主要野菜産地をみると、夏季における東北部、冬季における南部地域の播種面積が拡大するとともに、施設面積も1981年の0.73万haから1999年には179万ha、その内、温室施設面積(日光温室、加温・無加温温室)は1991年の3.0万haから2000年の40.8万ha(農業部資料)と大幅に拡大し、野菜生産の周年化が進展している。
図5 野菜播種面積の上位10省の推移
(1994年~2002年)
野菜生産量の上位10省の推移
(1994年~2002年)
表7 野菜播種面積・生産量の上位10省
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」、中国農業部「中国農業統計資料」
近年の野菜播種面積の増加を品目別にみると(1995年と2000年対比)(注4))、中国農業部統計資料によれば、きゅうりが207%、長ねぎが199%、トマトが180%、はくさい、なす、とうがらしが160%弱、だいこんが132%と増加しており、他の品目をFAO統計によれば、キャベツ、にんじん、レタス、カリフラワー、えんどう、いんげん豆が200%を超えて大幅に増加しているが、さといもは微増となっており、にんにくも5割程度の増加にとどまっている。
表8 品目別野菜播種面積及び生産量の推移
資料:中国農業部「中国農業統計資料」
表9 品目別野菜収穫面積・生産量の推移(FAOSTAT統計)
資料:中国農業部「中国農業統計資料」
3.野菜流通の動向
現在の中国の主要な野菜流通経路は卸売市場が担っており、「全国の野菜の6割以上は卸売市場を通じて流通して」おり、「大都市ではこのを割合はさらに高くなり、上海などでは9割を超えている」(注2)
1949年の中華人民共和国成立後、国営広司による卸売り業務が開始され「統制購入・販売制度」(注5)と言われる統制が実施されたが、1978年の改革・開放政策以降、管理品目・数量の自由化、農村部自由市場の進展、1986年の流通・価格自由化の開始、卸売市場開設推奨政策、1988年の菜藍子工程(国民の食生活を豊かにするための国家的取り組み)開始など市場経済体制の整備により自由市場流通体制となった。上海市農業科学院の兪菊生氏は、野菜をめぐる流通体制の変遷を以下の「3つの改革・発展期」として分析されている。(注2)
①1978~1984年、野菜の生産・販売の「大管小活」(一部を国が買い上げ、一部は市場で自由販売する)期。これは都市近郊で生産し地場向けに供給した。野菜の生産・販売は依然として統制購入・販売制度が中心であり、次第に開放されていく農産物市場を補った。
②1985~1989年、発注・統制販売期。この時期、政府は野菜、水産物などの食品の生産・販売、価格の開放を決定。野菜を取り扱う国営企業と生産農家の間で、生産と買い取り契約が結ばれた。国は主要製品の買い取りについてその数量、品質、価格を取り決め、その他の品種については開放という管理方法を採った。
③1992年以降、商品としての野菜が市場で自由に流通。「菜藍子工程」の進展と野菜流通条件の改善により、全国の大中都市では1992年から野菜の生産・流通の計画経済的統制から自由市場流通体制へと移り変わった。
また、卸売市場の開設数をみると、1990年以降では1980年代からの増設傾向から1998年の89千市場をピークに減少傾向となっている。その主な減少は農村部においてであるが、その農村部では三東省寿光市のような産地市場から大都市などの消費市場に集出荷・転送する集散産地市場が形成されるなど市場の集約が進行している。しかし、他方、市場の取扱金額は増加傾向が継続しており、現在も卸売市場が主要な流通経路となっている。
表10 市場数及び取扱金額の推移
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
(1)野菜の主要国内流通経路
野菜の主要な流通経路である卸売市場では、主に農民が流通の主体となっている。
野菜流通に詳しい中国農業大学 安 玉発助教授の山東省寿光卸売市場についての詳しい研究(注6)によれば、「野菜農家の出荷形態は個人出荷」で、「寿光市場周辺10km範囲内の農家は寿光市卸売市場に出荷」し、「それ以外はほとんど近隣の郷鎮・村市場に出荷」しており、産地仲買人は。「農繁期には農業に従事し、農閑期には仲買に従事する産地農家」、または、「家族労働力に余裕のある農家」であり、「農外兼業の性格が強い」。一方、域外市場に転送する移出仲買商人は、その出身地から産地移出仲買人と消費地移出仲買人に分類される。産地移出仲買人は、「寿光市卸売市場で買付ける」ほか、近隣産地の野菜出荷の最盛期では「村・郷鎮市場でも買付け」て、域外へ搬出する。消費地移出仲買人は、「大都市・中都市の卸売市場で野菜販売経営をする業者」で、地元野菜の「品薄期に寿光市卸売市場で買付け」て域外へ搬出する。2001年調査では、山東省寿光市卸売市場における産地仲買人は、
①自家農産物及び近隣農家からの買付けて農産物を販売する農家(産地仲買人の90%)、②産地集荷商人(産地仲買人の10%)であり、これに
③公司の依頼により農家から直接買付ける買付人(産地集荷商人、農家)がおり、この3者により農家から集荷・販売されていた。
図6 国内流通の概略
(公司等の聞取及び安玉発氏「中国野菜産地における仲買商人の性格と機能」により作成
このように産地における野菜集荷においては、一部の産地農家、産地集荷商人がその主な担い手となっており、産地卸売市場から郡市部への国内流通においては大・中都市移出仲買人がその担い手となっている。
近年の産地卸売市場から大都市卸売市場への転送機能を担う大都市移出仲買人については、中国人民大学 王 志剛氏の北京市大鐘寺卸売市場の研究(注7)によれば、「地縁・血縁などの社会関係で結ばれた個人経営の生産者や仲買人が、合同で出資し、経営管理と労働を共同で遂行するための共同組織である「運搬・販売連合体(中国語で「運銷聯合体」という。)」が卸売市場の大量流通の主役として機能し、卸売業務を担うようになって」いる。また、産地卸売市場に集荷された野菜は、地元小売商により消費者のもとに届けられる。
なお、同氏によれば、中国卸売市場は、「卸売市場に関する管理弁法」(1994年12月国内貿易)において、「売買双方に商品取引をさせるために提供される経営・公開・規範の場所であり、情報と決算及び運輸などの必要な一連のサービス機能を有するもの」として定義されており、「政府及び集団または民間公司が国の許可を得て投資・開設」できる。その開設に当たっては、中央卸売市場では、省級人民政府の許可及び国内貿易省の許可が必要であり、地方卸売市場では、開設団体の所在の省級人民政府の商品流通主管部門の許可を受け、国内貿易省への登録届の提出が必要となっている。また、その管理者は、公営中央卸売市場では、国内貿易省、地方政府の関係部門、卸売市場専門家により構成された卸売市場管理委員会、民営中央卸売市場では、国内貿易省、地方政府の関係部門、出資者であり、その組織の運営は、公営中央卸売市場では政府、取扱業者代表による理事会、民営中央卸売市場では公司法に基づく株主総会である。取引規制は、相対、入札、せりが見とめられており、全量即日上場・即日販売、市場外物品の卸売禁止、買い受けの原則禁止はなされていない。
一方、中国の自由市場(集貿市場)は、「商品取引市場の登録管理に関する弁法」に基づき、工商行政管理によって管理され、工商行政管理局への登録が必要である。当該市場における取引業者は、農村末端組織お農民の場合は、末端行政組織の証明書と工商行政管理局の批准が必要であり、長距離流通業者の場合は、工商行政管理への登録と販売地税務署への税金の納付が義務付けられている。
(2)輸出野菜の主な流通経路
中国の対外貿易は、法律により海外と直接輸出入契約を締結できる公司(「輸出入権(輸出入経営権)」(注8)を有する公司(企業))に限定されている。輸出野菜も同様に、「輸出入権」を有する公司における、自社生産基地栽培、契約栽培、産地商人等の買付人からの買付け、農家からの買付け(農家の栽培加工工場搬入も含む)などにより集荷・輸出される。しかし、輸出公司による産地商人等の買付人からの買付けは、産地商人等が卸売市場において買い付けている場合も多いことから卸売市場も主要流通経路の一つとなっている。
他方、輸出権を持たない公司においては、「輸出入権」を有する公司の買付けに対する販売、「輸出入権」を有する公司への「輸出委託」などの経路により輸出されている。
【輸出用野菜の主な流通経路】
①農家からの買付け(農家の栽培加工工場搬入も含む)
②産地卸売市場等からの買付け
③産地商人等の買付人からの買付け(買付人は、農家や産地卸売市場などから農産物を買付けている。)
④契約栽培(農民は、種子や栽培技術等の提供を受ける場合が多い。)
⑤自社生産基地(公司が農民などから土地を借り、職員や臨時雇用者などにより栽培する農場。)
⑥同業者間取引(不作等による原料不足などの場合、同業者から原料野菜を買付ける。)
⑦「輸出権」を持つ公司による「輸出権」を持たない公司からの「買付け、契約栽培等」
⑧「輸出権」を持たない公司から「輸出権」を持つ公司への委託輸出
なお、「輸出入権」の取得はWTO加盟のために順次緩和されてきており、中国企業に係る「対外貿易権は、経営資格により審査許可制と登録制の二つの申請方式が実施」されており、外資企業の場合は、「法人設立申請時の定款に「自社製品の製造と輸出入」という経営目的が記載されていれば、自社製品の輸出入に限って対外貿易権は付与されていたが、2001年7月18日付対外貿易経済合作部の通知により、更に対外貿易権が拡大」され、「年間1000万ドル以上の輸出を行っている企業」等の条件を充たしていれば「自社製品以外の品目についても、輸出可能」となった。(注8)
しかし、近年の野菜の流通は、国内流通、輸出の両方において残留農薬をめぐる安全性問題に対する対応のため、契約栽培や自社生産基地の割合が高くなりつつある模様である。
一方、輸出に伴う、輸出公司と輸出先との契約形態は、大きく分類して四つの形態に分類される。
①栽培開始前に発注があり、発注に基づき栽培計画が策定され、輸出が開始される前に輸出価格が決定されるもの。
②輸出開始の1週間前~1ヶ月前など、輸出が開始される前の生育期間中に輸出数量・価格等が一方的に通知されるもの、または、輸出数量・価格(原料価格・加工賃・減価償却等のコスト等+利潤)等が協議の上決定されるもの。
③3ヶ月ごと等の一定期間、または、生育状況に応じて輸出数量・価格等が決定されるもの。
④主用出荷期間中に日本国内の需要動向に応じて数回に分けて輸出数量・価格等を決定し輸出するもの。
また、市況変動に対する輸出価格の対応は、
①シーズン期間中は当初の取り決め価格で取引され、価格は変更されないもの
②中国国内または日本国内での大幅な変動がない限り変動しないもの
③輸出価格が、日本の市況、現地の作柄・市況により変動するもの
などが一般的である。
中国の生産者にとって安定した輸出、経営の安定が図れる栽培開始前の事前契約による輸出契約形態は、日本国内・中国国内の価格変動リスク回避などのために、年々減少している模様である。
(3)安全性をめぐる国内野菜流通環境の変化
(農産物流通における安全性認証制度)
経済発展に伴う所得向上と野菜、果物などの副食品需要の増加により中国国民の野菜に対する品質・安全性への関心が徐々に高まる中で、2000年5月から農業部が実施している「無公害農産品行動計画」が本格的な安全対策の始まりとなっている。「無公害農産品行動計画」とは、播種から収穫まdの生育期間の全過程における残留農薬等の安全性を高めるものであり、全国において、8年間で無公害・安全性を高める目標を設定しおり、北京市・天津市・深圸市の都市においては2年~3年の期間内に基本安全性システムの構築を目標としているものである。この計画に沿って、2002年より、中央農村工作会議により策定された「無公害農産品計画」が、「無公害農産品管理弁方」(2002年4月29日)に基づき北京市・天津市・上海市・深圸市の都市において試験的に実施され、2003年には本格的に適用され、計画の全国的展開、市場管理監督強化、統一された検査システムの整備が進められることとなった。具体的には、このような安全性確保に係る政策に基づき、中国国内流通においては、産地卸売市場及び消費地卸売市場で残留農薬等の検査機を導入し、農薬安全性検査を実施することをなどを義務付ける「市場准入制度」(注9)の導入である。「無公害食品」認証制度(注10)に基づき「放心菜(無公害野菜)」としての認定を受けると卸売市場へ出荷することが出来るが、産地卸売市場及び消費地卸売市場における残留農薬検査に違反すると「放心菜」の認定が取り消され、卸売市場に出荷できなくなるというものである。(放心菜工程)。
全国で6割以上の野菜が流通し、大都市ではこの割合はさらに高くなり、上海などでは9割を超える(注2)青果物の主要流通経路である産地・消費地卸売市場の残留農薬検査体制を通じ、安全性の確保を図ろうとしているのである。
なお、他に、安全性の高い農産物認証制度として、「緑色食品認証制度」が中国農業部により、「有機食品認証制度」が中国国家環境保護総局傘下の有機食品認証中心により運営されている。(注11)
上海市の「上海市農産物品質認証中心」が行っている「緑色食品認証制度」の認証手順は、以下のとおりである。
図7 上海市における安全・衛生・有料品質農産物(緑色食品)認識申告手順
(上海市農産物品質認証中心資料より)
【上海市農産物品質認証中心】
生産者の申告に基づき、検査・測定機関(市の品質技術監督管理局の認可を得ている。)に委託して、その農産物に対し検査・測定を行う。また、専門家を集めて、その農産物の成長環境、生産過程、流通プロセスに対し新さ・評価を行う。専用優良品質農産物の安全・衛生基準に符合していると見とめられたものに対しては証書を発行し、有効な証拠(標識)を提供する。
政府主管部門の依頼を受けて、安全・衛生農産物の発展に関する方針、政策及び計画を提供し、上海市の安全・衛生農産物管理方法を策定すると共に、技術監督・管理部門を制定し、完備する。また、安全・衛生農産物の標識の管理に責任を負い、安全・衛生農産物に関する普及や関係者の育成に取り組む。さらに、国際認証機関との協力を強化し、基準や市場参入において国際社会との一致を図る。
(4)安全性をめぐる野菜輸出環境の変化(輸出入野菜検査検疫管理弁法の施行等)
野菜輸出公司を日本企業との関係で見ると、大きくは、①日本企業100%出資による「独資」企業、②日本企業と中国公司(企業)の出資による「合弁」公司、③中国公司による出資、日本企業の栽培技術、生産資材等の提供などの「合作」公司等に分類されるが、輸出公司の輸出野菜及び輸出加工野菜原料の調達方法においては、概ね、①自社生産基地、②契約栽培、③卸売市場、④産地商人、⑤農家からの直接買付、⑥同業者からの買付けに分類される。
この内、①自社生産基地は農民等から土地を借り上げ、公司が直接栽培管理を行うものであり、②契約栽培は色々な形態があるが、概ね公司が種子や生産資材を提供(販売)し、公司による指導により農民が栽培、公司が買い取るものである。なお、契約栽培においては、初期の段階では公司による栽培技術指導が行われるが、技術習得後は農民に栽培管理を委ねる場合もある。
この他の③卸売市場、④産地商人、⑤農家からの直接買付は、農民が農民の意思・技術により栽培している農産物を、産地卸売市場で買い付ける、産地商人が産地卸売市場や農民から直接買い付けた農産物を買い付ける、直接農民の庭先で買い付けるものである。
このように、一部輸出公司の中には①自社生産基地及び②契約栽培を導入していたが、この方式は、安全性を求められる有機農産物や緑色食品農産物の栽培以外では、品質(輸出規格等)の維持、数量確保を目的とするものであり、残留農薬等の安全性確保を目的とするものは少なかった。
また、冷凍野菜加工工場においては、工場設備、作業工程における衛生管理は、一部大規模公司でHACCPが導入されるなど、先進的な設備・作業工程が導入されていたが、原料農産物の安全性にまで踏み込んだ公司も少なかった。
このような状況下で、中国野菜の残留農薬検査結果の中国新聞記事に端を発した中国農産物残留農薬問題が日中間の大きな問題となり、現在に至っている。
この問題に対し、中国政府は、国家質量監督検査検疫総局から「輸出入野菜検査検疫管理弁法」(2002年8月12日施行)を発布し、輸出野菜(生鮮・加工用)は「検査検疫機関に登録した輸出野菜栽培基地」でなければ輸出を許可しない、また、基地登録申請を行う公司等は、「輸出野菜栽培基地登録管理細則」に基づき、以下の要件を備えていなければならないとした。
【基地登録申請を行う企業】
①法人資格を有する企業であること。
②基地の合法的管理権限を有すること。
③基地の業務に相応の管理能力を有すること。
食物保護管理制度を有し十分な食物保護管理者がいること。
④基地について、農薬の購買、保管、配給、使用、残留などの管理制度を有すること。
⑤法律、法規及び国家質量検査検疫総局が規定するその他の条件を備えていること。
【企業が登録申請を行う野菜基地】
①野菜基地の周辺の環境に汚染源がないこと。
②野菜基地の栽培面積は300ム以上であること。
③野菜基地は専門の食物保護管理者を1人以上有し、食物保護管理者は関係部門の教育を受け、農学、食物保護、農薬使用の基本知識を有すること。植物保護管理者は野菜基地の病害虫防止農薬の安全使用、農薬残留について統一管理を行うこと。
④健全な農薬管理制を有し、専任者が農薬の保管、配給、使用に責任を持ち、農薬残留の管理・監督措置、専用の農薬保管場所、農薬使用と関係ある全ての情報、記録を有していること。
⑤厳格な田畑管理制度を有していること。
⑥野菜の病害虫発生とその対策、予防措置の報告制度、関連記録を有すること。
また、野菜基地登録を申請する企業が提出しなければならない資料として
【登録申請企業提出資料】
①企業の書面による申請書。
②公証を得た基地使用または請負証明、土地賃借契約、または農家との間で交わした野菜栽培契約のコピーなど、企業の合法基地管理権限を証明する書類。
③野菜基地の農薬安全使用管理制度、田畑管理制度、野菜供給源遡及制度などの関係資料。
④野菜基地責任者、植物保護管理者の関係証明資料。
⑤野菜基地平面図
⑥その他必要な資料
を定め、野菜生産基地登録の有効期間を3年とするものの、毎年度の審査を規定している。また、登録が完了している野菜生産基地において、以下の行為が発覚した場合の期限内の改善までの輸出検査拒否を定めている。
(一)非登録基地からの輸出野菜を買い上げる
(二)植物保護管理者がいない、または植物保護管理者が条件を満たしていない
(三)規定にのっとらず農薬を使用する
(四)原料(野菜)を農薬安全間隔期間内に収穫せずに農薬残量が基準を超過する
(五)野菜が周囲環境汚染の影響を受けた結果、有毒・有害物質が基準を超過する
(六)申請した使用農薬と検出された農薬が異なる
(七)サンプリング検査で2回連続で有害・有害物質が基準を超過する
(八)輸入国政府の検査・検疫機関が、有害・有害残留物質が基準超過していることを検出する、または輸入が禁じられている有害生物が悪影響を与える
(一)の非登録基地からの輸出野菜買付けの禁止により、「同業者間での買付け」及び「輸出権を持たない野菜栽培公司からの買付け」においても当該弁法の登録基地であることを義務付けていることが注目される。
中国政府は、当該法律により輸出野菜においては十分な栽培等の管理能力を持つ公司等のみが輸出野菜を栽培・輸出することができるのであり、輸出公司等を主体とした輸出管理体制を構築する方針としている。従来のような、農民や卸売市場、産地商人からの買付け、同業者からの安易な買付け等による輸出野菜・輸出用原料野菜の購入は厳しく制限している。
また、一方で、当該法律は野菜輸出公司に対し、従来の卸売市場、産地商人、農民や同業者からの安価な輸出用野菜、輸出原料野菜の調達を禁止し、野菜輸出公司における野菜産地の幅の広い管理を義務付けるものとなっており、野菜輸出公司にとっては野菜産地管理経費の発生、又は、輸出経費の追加を意味している。上海市での現地聞き取りでは、検査は、ほ場単位で実施され、その費用は1サンプル1農薬で500元であった。サンプリング率は品目により異なるが、ブロッコリーの1農薬の検査費用は2,500元(約37,500円)であった。山東省等での現地聞き取り調査では、品目により異なるが、白ねぎ、6農薬残留検査での1コンテナ当たりの検査コストは1,000~2,000元(約15,000~30,000円9であった。
(注1)退耕還林政策
自然環境の悪化を背景として、1998年の大洪水を契機に始められた「過度な開墾、干拓地を計画的に林、草地、湖に戻す」政策(文リ 光明「中国における生態環境と調和した農業発展の模索について」より)
(注2)兪菊生「中国の野菜流通市場」
「野菜の生産と流通の現状と課題に関する日中共同研究」(株)日本能率協会総合研究所
(注3)永江弘康「中国の野菜生産流通」(社)日本施設園芸協会
(注4)2001年以降、主要品目の数値は発表されていない。
(注5)統制購入・販売制度
都市近郊において野菜産地を指定するとともに命令的な生産計画を実施するものである。この制度下では野菜の卸売・販売は国営企業が独占、野菜の小売はかなりの長期にわたって国営または集団の「野菜市場」で行われて、その価格もまた基本的に政府が決定したものであった。(兪菊生「中国の野菜流通市場」、「野菜の生産と流通の現状と課題に関する日中共同研究」(株)日本能率協会総合研究所)
(注6)安玉発「中国野菜産地における仲買商人の性格と機能」農業経済研究
(注7)王志剛「中国青果物卸売市場の構造再編」九州大学出版会
(注8)輸出入権(輸出入経営権)
日本貿易振興機構ホームページに詳しく掲載されている。
(注9)「市場准入制度」とは、「菜藍子工程」(都市住民に対する生鮮食品政策のことで、生産面では野菜の生産基地の建設を重視し、流通面では流通組織や価格対策を行うものであり、生産基地・卸売市場などの建設・整備や生産・流通における各種税制面での優遇政策や手数料の緩和などが行われている。)政策において、「放心菜認証制度(無公害野菜認証制度)」((注10)を参照)を実施するため導入された、卸売市場における残留農薬検査制度である。
(注10)「無公害食品」(「無公害食品生産標準」で定められた残留農薬等の安全基準を満たした食品)として認定された食品の流通を管理する政策。従って、「放心菜」とは、「無公害食品」のなかの野菜である「無公害野菜」を意味する。
(注11)中国政府は「無公害食品」(農業部)以上に安全な食品生産を推進するため、農薬、化学肥料の使用をより制限した緑色食品認証制度(農業部公布、産地環境の技術的要求基準、農薬使用準則、肥料使用準則からなり、各々A級及びAA級の規定がある。)と有機食品認証制度(国家環境保護総局発布公布)を整備している。農業部が管轄する緑色食品認証制度には、緑色Aと緑色AAの二つのクラスがあり、緑色AAは有機農産物と規定されている。組織としては、各地方政府において緑色食品の認証機関が組織され、中央政府農業部傘下の中国緑色食品発展中心が全国の緑色食品認証制度を総括している。
従って、「緑色食品認証」のレベルには地方政府認証と中央政府認証がある。各地方政府の緑色食品認証機関による認証の適用範囲は地方政府が管轄する行政区分に限定されているが、中央政府の緑色食品認証機関による認証の適用範囲は全国となる。
上海市の緑色食品認証機関の聞き取りによれば、各地方政府の緑色食品認証機関が書類審査から検査により地方政府レベル合否を行い、中央政府農業部傘下の中国緑色食品発展中心は、各地方政府の緑色食品認証機関が行い合格したものの「書類・検査結果」を受理し、中央政府「緑色食品認証」の合否を決定する。
一方、有機食品認証制度には、International Organic Food Movements の有機認証機関として位置づけられ国家環境保護総局傘下の有機食品認証中心が管轄する有機食品認証制度がある。現在のところ、野菜における有機認証は有機食品認証中心によるもののみの模様である。
以上のように、認証制度は、①無公害食品認証(放心菜認証)、②緑色食品認証(緑色Aと緑色AA)③有機食品認証の三つの認証制度が存在している。安全性の水準で整理すると無公害食品→緑色A→緑色AA・有機(右側が上位認証基準)となる。
(参考文献)
菅沼圭輔
「市場経済化に向けた土地利用システムの模索」
「土地を生かす英知と政策」第4章(社)農山漁村文化協会
菅沼圭輔
「農業の制度的諸問題:
「中国の農林業-現状と開発の課題-1996年版」第4章 (社)国際農林業協力協会
文リ光明
「中国における生態環境と調和した農業発展の模索について」