(1)気象概況
上旬は、日本の南海上で太平洋高気圧の勢力が強く、日本付近には湿った空気が流れ込みやすかった。このため、全国的に曇りや雨の日が多かった。3日は、台風18号が猛烈な勢力で沖縄地方に接近し、5日にかけて対馬海峡付近へ進んだため、西日本から沖縄・奄美では大雨となった所があった。また、3日から4日にかけて、発達した低気圧が北海道付近を通過したため、北日本では大荒れの天気となった。8日には、九州地方中心に南から暖かく湿った空気が流れ込んだため大雨となった所があった。気温は、日本付近に暖かい空気が流れ込みやすかったため、東・西日本ではかなり高くなった。一方、旬の後半は、強い寒気の影響で北日本中心に低温となった。
中旬は、旬の前半は、冷涼な移動性高気圧が通過することが多かった北・東日本では晴れの日が多かったが、西日本では高気圧が北に偏ったため曇る日が多かった。旬の後半は、北・東日本では、17日ごろに気圧の谷や前線の影響で天気が崩れたほかは、移動性高気圧に覆われて晴れの日が多かった。また、西日本では、気圧の谷や日本の南海上の前線の影響で曇りや雨の日が多く、16日から17日にかけては暖かく湿った気流の影響で大雨となった所があった。気温は、旬のはじめは冷涼な移動性高気圧の影響で北・東・西日本では低くなったが、その後は南から暖かい空気が流れ込んだため、旬平均気温は東・西日本では高かった。
下旬は、北日本では、冬型の気圧配置が強まったため、日本海側では寒気の影響で曇りや雨または雪の日が多かった。西日本では南から湿った空気が流れ込んだため、曇りや雨の日が多かった。22日から23日は、西日本の南岸を低気圧や前線が通過したため、九州地方で大雨となった所があった。気温は、南から暖かい空気が流れ込んだため、西日本ではかなり高かった。一方、北日本では、強い寒気が流れ込んだため、気温はかなり低かった。特に30日から31日にかけて強い寒気が流れ込み、北海道を中心に気温を観測しているアメダス334地点中44地点で、日最低気温が統計開始以来10月として最も低くなった(タイ記録5地点を含む)。なお、北海道の旬平均気温は、平年差マイナス3.1度となり、統計開始(昭和36年)以降で58年の平年差マイナス3.4度に次いで第2位の低温となった。
旬別の平均気温、降水量、日照時間は以下の通り(図1)。
(2)東京都中央卸売市場
10月の東京都中央卸売市場における野菜全体の入荷状況は、入荷量が12万9927トン、前年同月比91.4%、価格は1キログラム当たり316円、同133.0%となった(表1)。
北海道産や東北産が出回る根菜類などでは、8月の台風の影響が残り、また、9月に全国的に曇雨天が多く、日照不足となった影響から、多くの品目で前年を下回る入荷となり、価格はすべての主要品目で前年を上回った。総入荷量は前年をかなりの程度下回り、価格は前年を大幅に上回った。
類別の動向は以下の通り。
ア 根菜類
だいこんおよびにんじんは主産地である北海道、青森県を中心に、8月に相次いで襲来した台風の影響が残った一方で、後続産地においても9月の曇雨天の影響で生育が遅れたことから、入荷量は前年をかなり大きく下回り、価格は前年を大幅に上回った(図2)。
イ 葉茎菜類
主な品目のうち、はくさいは、9月の曇雨天の影響を受けたものの、入荷量は、曇雨天の影響で少なかった前年をわずかに上回った。一方、前月に引き続き9月の曇雨天の影響が大きく残ったほうれんそうは、入荷量は前年を大幅に下回った。価格は、はくさい、ほうれんそう共に前年を大幅に上回った(図3)。
ウ 果菜類
主な品目のうち、なすは、9月の曇雨天の影響を受けたものの、関東産地を中心に曇雨天の影響で少なかった前年をやや上回る入荷となった。きゅうりは、9月の曇雨天の影響を受け、草勢が悪く着果不良となったため、前年を大幅に下回る入荷となった。価格は、なすは前年をかなり大きく上回り、きゅうりは大幅に上回った(図4)。
エ 土物類
主な品目のうち、さといもは、9月の曇雨天の影響により収穫遅れとなったものの、生育は順調で、前年をかなりの程度上回る入荷となった。たまねぎは、8月の台風の影響はあったものの、作柄が良かったことから、同様に作柄が良かった前年をわずかに下回る入荷となった。価格はさといもが前年をやや上回り、たまねぎはかなりの程度上回った(図5)。
なお、品目別の詳細については表2の通り。
(3)大阪市中央卸売市場
10月の大阪市中央卸売市場における野菜の入荷量および価格は、入荷量が4万753トン、前年同月比93.8%、価格は1キログラム当たり283円、同128.6%となった(表3)。
9月中下旬の記録的な日照量不足と多雨・曇天続きの天候で播種できなかった品種が多く、一方、夏秋産地の多くの品目は全般的に前進出荷され、残量が少ない状況の中、後続の秋冬産地は生育が遅れ気味となった。特に、関東地方の早秋に出荷される品目に生育不良や大幅な出遅れが多いように感じられた。加えて、九州地方は生育の遅れと阿蘇山の噴火に伴う降灰による被害で出荷できない品目も見られ、それらが入荷量や価格に大きな影響を及ぼしたように思われる。
ア 根菜類
だいこんおよびにんじんは、生育不良などの影響で、入荷量は前年をかなり大きく下回った。中でもにんじんは、北海道産の生育の回復が遅れ、総入荷量は前年をかなり大きく下回った。にんじんの価格は前年の約2.4倍と、大幅に上回った。
イ 葉茎菜類
葉茎菜類は、生育の遅れなどにより、すべての品目において、入荷量は前年を下回った。その中でもほうれんそうは、徳島産などの出遅れの影響により、総入荷量は前年を大幅に下回った。ほうれんそうの価格は、前年の約1.5倍となった。
ウ 果菜類
果菜類は、天候不順などの影響により、すべての品目において、入荷量は前年を下回った。中でもピーマンは、日照量不足などにより、総入荷量は前年を大幅に下回った。ピーマンの価格は、前年の約1.5倍となった。
エ 土物類
土物類は、北海道産の集約出荷や輸入物の増加などにより、すべての品目において、入荷量は前年を上回った。その中でもたまねぎは、北海道産の積極的な出荷により、総入荷量は前年を大幅に上回った。たまねぎの価格は、前年並みとなった。
なお、品目別の詳細については表4の通り。
(4)需要を中心とした12月の見通し
ア 市場開市および休市
12月の開市は25日で、休市日数は6日となっている。
12月は、クリスマスや正月をひかえ、サラダやおせち向け食材の引き合いが強まる時期である。年末商戦を迎えて、量販店などではさまざまな野菜の販売企画が実施される。
イ 市場担当者から
11月に続き12月も供給不足から、野菜の価格は高値傾向と予想される。9月の日照不足は記録的であったが、10月に入っても爽やかな秋晴れは続かず、気温の低い日も多かったため、野菜の生育にとってプラスの情報はほとんどなかった。
野菜の高値が続くと確実に困るのは、学校給食関係者ではなかろうか。学校給食は、国内産にこだわるからである。外食産業は、外国産野菜の使用量を増やしたり、メニューを変えることで対応していくと思われる。また、クリスマスや正月用に量販店で販売されるオードブルは、かつてはリーフレタスを敷物にしていたが、ここ数年の野菜の乱高下の影響を受けてビニール製のものが多く見受けられるようになった。
おせち料理を自分で作るという家庭は、どんどん減っている。くわいを例にすると、入荷量は10年間で半減した。八つ頭で80%、切りみつばも半減といったように、減少している。しかし、れんこんは例外的で、健康食であり料理番組にもよく登場することなどから、ここ10年ほどは増えてきている。また、さといもは定番の埼玉産だけでなく、地方の銘品も多く入荷するようになっている。これは、和食の再評価という側面もあるが、種いもの段階での選別や出荷物の品質に対する評価とも言えるだろう。れんこん、さといも以外にも、にんじんやごぼうなどの正月用野菜の販売を積極的に展開していただきたい。
テレビの深夜のニュース番組で、生活困窮家庭への学校を通じた食料支援の実態がレポートされていた。食料の中身はお菓子が中心で、野菜は見えなかった。それはさておき、そこでは、役所に直接働きかけるよりも小学校などの教諭と親との連絡システムが児童を栄養失調から救うと報告されていた。昨年あたりから一般に知られるようになったが、東京の大田区の「こども食堂」は地域の青果商が始めたものである。母子家庭など夜に働く親がいる家庭の子どもは、食生活が乱れがちである。そういった子どもたちを地域で守るという発想である。江戸時代から日本は子どもを大切にする社会だと評価した外国人は多い。
12月の見通しを品目別に見ていくと、根菜類のだいこんは、千葉産および神奈川産が中心となる。初期生育が軟弱な環境であったことから、全般に小ぶりである。箱数が増えず、市場への入荷も平年の80%程度で、価格は平年より高い見込みである。
にんじんは、千葉産が中心となるが、年内出荷物については小ぶりと予想される。だいこんと同様に価格は高めと予想される。
ごぼうは、主産地は青森県の東側に位置する上北地方であるが、台風被害により作柄はかなり悪い。正月用の新ごぼうの産地である鹿児島産も16号台風の通過で葉がちぎれたため、作柄は良くないであろう。そういった情勢の中、輸入品を手当てする動きもある。
れんこんは、8月に主産地である茨城県を台風などが直撃し、葉の損傷や葉折れ、浸水などにより、茎部に病気が発生した。そのため、年末の入荷量は平年の60~70%程度と見られている。
葉茎菜類では、はくさいは、茨城産が定植時期の天候不順の影響で畝たてなどの作業が大幅に遅れ、入荷量は平年の80~90%と予想している。播種や定植のずれは、収穫時期には倍の遅れとなる傾向がある。
ほうれんそうは、稲の収穫作業に一段落つけて、播種作業は順調に行われた。寒波の到来が早く、やや遅れはあるが、年末には量的にはまとまってこよう。価格は平年並みかやや高めを予想している。
ねぎは関東産となるが、強風や長雨の影響で若干歯抜けの畑も見られるなど、出回りはやや少な目の見込みである。降雪が早まり出荷に手間取るなど、やや高めの価格展開を予想している。
レタスは、主産地の静岡産は定植が遅れることもなく、肥大も悪くないと報告されている。ただ、作付け面積は前年の80~90%と減少し、入荷数にやや影響が出てくると予想している。昨年は静岡産が大幅に前進化し、12月には前年の2倍の入荷になった。そのため、平年を下回る価格となったが、今年は前年比で大幅に高く、平年比でも高い見込みである。
果菜類では、きゅうりは、天候不順が続き全国的に生育の状態は良くない。11月に晴れが続くようであれば12月にはかなり回復するであろうが、それでも出回り量は少なく全国的に引き合いが強まり、高値が予想される。
トマトは、主力の九州産は10月まで日照不足の影響から収量が少なく、その後に好天が続いても、平年並みの入荷量となるのは年末ごろであろう。
ピーマンは、茨城産の9月定植の施設物が順調に入荷する見込みである。西南暖地産については、平年を下回る入荷にとどまると予想される。
冬至かぼちゃは北海道産が定番であるが、メインとなる道東・道北の産地が降雨で播種のやり直しを余儀なくされるなど、不作の傾向である。出回り量は少なく、価格は高めと予想している。21日の冬至に向け、各地の特産ものの味の良さもアピールしていただきたい。
土物類では、さといもは、埼玉産や全国の特産ものが順調に入荷している。価格は堅調に推移するであろう。
たまねぎは北海道産となるが、12月も順調に入荷する見込みである。
ばれいしょは、青果用は北海道でも道南産が多く、台風などによる被害の影響はさほどないが、それでも平年に比べて高値で推移している。
いちごは、年内出荷分については問題がないものの、普通物の生育が遅れ、正月時期には入荷が少ないと予想している。
アールスメロンは、天候が持ち直したため、ほぼ平年並みの外観が美しく肥大も良好なものがそろってくるであろう。
(執筆者:東京青果株式会社 加藤 宏一)
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