(1)気象概況
上旬は、北日本から西日本にかけては高気圧に覆われておおむね晴れたものの、北・東日本では上空の寒気や湿った気流の影響で局地的に大雨となり、1日から3日にかけては、北・東日本太平洋側を中心に大気の状態が不安定となって雷雨となり、非常に激しい雨となった所もあった。旬の後半は、本州付近で太平洋高気圧が強まっておおむね晴れて各地で猛暑日となった。8日から9日は台風5号が日本の東を北上したため、北・東日本太平洋側で天気が崩れた。
中旬は、高気圧の勢力が黄海付近で強く、東日本日本海側と西日本以西では旬を通しておおむね晴れて、北日本と東日本太平洋側でも旬の前半を中心におおむね晴れた。特に西日本では、上空も気圧の尾根となり背の高い高気圧に覆われたため、旬間日照時間はかなり長く、顕著な高温となった。日本の南海上では対流活動が活発な一方、日本のはるか東で高気圧の勢力が強まったため、高気圧の西縁にあたる北日本と東日本太平洋側では、台風や湿った気流の影響を受けやすく、特に、北日本太平洋側では旬降水量が平年比326%となり、8月中旬として1位の多雨となった(統計開始は昭和36年)。15日には、台風6号が北海道の南東海上から根室半島を通過したため、北海道のオホーツク海側や太平洋側では荒れた天気になったほか、東北地方から西日本でも上空の気圧の谷の影響で大気の状態が不安定となり局地的に大雨となった。また、16日から17日には台風7号が関東から東北太平洋側の沿岸を北上し、北海道太平洋側に上陸したため、北・東日本では太平洋側を中心に大荒れの天気となり、記録的な大雨となった所もあった。その後も北日本では前線や湿った気流の影響で雨が続き、20日は北海道を中心に東日本にかけて大雨となった。
下旬は、旬の中ごろにかけては高気圧の勢力が黄海付近で強く、東日本日本海側と西日本以西ではおおむね晴れて気温の高い状態が続いたが、旬の終わりは寒気が流れ込みかなりの低温となった日もあった。一方、北日本と東日本太平洋側では、中旬に引き続き台風や湿った気流の影響を受けやすく、旬降水量はかなり多かった。20日から21日にかけては、台風11号が関東の東から三陸沖を北上し、北海道に上陸したため、北・東日本太平洋側に湿った空気が流れ込み、関東甲信地方や北海道地方では局地的に大雨となった。22日には台風9号が関東地方に上陸し、23日にかけて東日本から北日本を縦断したため、北・東日本では太平洋側を中心に大荒れとなり、各地で大雨や暴風による災害が発生した。北日本では、26日から27日にも前線と湿った気流の影響で大雨となった所があった。また、台風10号が旬のはじめに日本の南海上を西進し、旬の中ごろに沖縄県大東島地方に接近し非常に強い勢力に発達、その後進路を北東に変えて29日には関東の南東海上を北上、30日に東北太平洋側に上陸した。この影響により北日本から西日本の広い範囲で大雨となり、北日本太平洋側を中心に各地で土砂災害や浸水害が発生した。
旬別の平均気温、降水量、日照時間は以下の通り(図1)。
(2)東京都中央卸売市場
8月の東京都中央卸売市場における野菜全体の入荷状況は、北海道産、東北産、関東産を主体に出回り、一部の品目では九州産なども出回った。入荷量は12万8499トン、前年同月比102.5%、価格はキログラム当たり235円、同88.1%となった(表1)。
入荷量は、上旬は主産地である北海道、東北、関東を中心におおむね天候に恵まれ、土物類以外のすべての品目で前年を上回ったことから、かなり大きく前年を上回る入荷となった。中旬はだいこんにおける播種の遅れやほうれんそう、なすおよびトマトにおける天候不順、一時的な端境などにより前年をやや下回る入荷となり、下旬は、トマト、きゅうりなど前年を大幅に上回る入荷となった品目もある一方で、台風の影響などを受けた品目も多く、前年をわずかに下回る入荷となったことから、月間では前年をわずかに上回った。
価格は、土物類以外のすべての品目で前年を下回り、中下旬にだいこんやねぎが前年を上回ったものの、月間では前年をかなり大きく下回った。
類別の動向は以下の通り。
ア 根菜類
入荷量は、主な品目のうち、だいこんは上旬は前年をかなりの程度上回る入荷となるも、中下旬は天候不順による播種の遅れおよび台風による大雨の影響もあり、前年をかなり大きく下回る入荷となったことから、月計では前年をかなりの程度下回った。にんじんは、上中旬は生育がおおむね順調で、前年を上回る入荷となったことから、下旬は台風による大雨の影響で収穫が遅れ、前年をかなりの程度下回る入荷となったものの、月計では前年をわずかに上回った。
価格は、だいこんは、上旬はやや高値基調で推移し、中旬には上げ基調となるも、下旬には下げ基調で推移した。月間では高かった前年をわずかに下回った。にんじんは、上旬から中旬半ばごろにかけては下げ基調で推移するも、その後下旬は上げ基調に転じて推移した。月間では前年をかなり大きく下回った(図2)。
イ 葉茎菜類
入荷量は、主な品目のうち、ほうれんそうは、天候に恵まれ適度な降雨もあり生育は順調で、上旬は前年を大幅に上回る入荷となり、中旬は前進出荷の影響で一時的に出荷が少なく前年をやや下回る入荷となったものの、下旬は再び前年をやや上回る入荷となったことから、月計では前年をかなり大きく上回った。はくさいは、天候に恵まれ適度な降雨もあり生育は順調で、上旬は前年をかなりの程度上回る入荷となるも、中旬はやや下回る入荷となり、下旬には降雨による収穫の遅れにより、多かった前年をかなり大きく下回ったことから、月計では前年をやや下回った。
価格は、ほうれんそうは、上旬はおおむねもちあいで推移するも、中旬以降は旬を追うごとに値を上げて推移した。月間では高かった前年を大幅に下回った。はくさいは、月を通して安値基調で推移したことから、月間では前年を大幅に下回った(図3)。
ウ 果菜類
入荷量は、すべての品目で前年を上回った。主な品目のうち、トマトは、天候に恵まれ適度な降雨もあり、生育は順調で、上旬は前年を大幅に上回る入荷となり、中旬は夜温の低下および段の切り替えによる一時的な端境により前年をやや下回ったものの、下旬は再び前年を大幅に上回ったことから、月計では前年を大幅に上回った。
価格は、トマトは、上旬は緩やかな下げ基調で推移したものの、中旬以降はおおむねもちあいで推移した。月間では高かった前年をかなりの程度下回った(図4)。
エ 土物類
入荷量は、すべての品目で前年を下回った。主な品目のうち、たまねぎは、府県産においてはべと病などの影響があったことに加え、北海道産においては下旬に台風の影響があったため、月を通して前年を下回る入荷となったことから、月計では前年をかなりの程度下回った。
価格は、たまねぎは、上旬は緩やかな上げ基調で推移するも、中旬は下げ基調に転じ、下旬は高値もちあいで推移したことから、月間では前年を大幅に上回った(図5)。
なお、品目別の詳細については表2の通り。
資料:東京青果物情報センター「青果物流通旬報」
※1 卸売価格とは、東京都中央卸売市場の平均卸売価格で、平均価格、保証基準額および最低基準額とは、関東ブロックにおける価格である。
※2 平均価格とは、指定野菜価格安定対策事業(以下「事業」という)における、過去6カ年の卸売市場を平均した価格を基に物価指数等を加味した価格である。
※3 事業における価格差補給交付金は、平均販売価額(出荷された野菜の旬別およびブロック別の平均価額)を下回った場合に交付されるため、上記の各表で卸売価格が保証基準額を下回ったからといって、交付されるとは限らない。
(3)大阪市中央卸売市場
8月の大阪市中央卸売市場における野菜の入荷量および価格は、入荷量が4万153トン、前年同月比103.7%、価格は1キログラム当たり222円、同90.2%となった(表3)。
8月は、相次ぐ台風の襲来による被害が大きく、今後の北海道を中心とする農産物の入荷への影響が懸念されるところである。昨年は、ひょう害などにより、長野産および群馬産のキャベツ、長野産のレタス類やはくさいなどに大きな被害があったが、本年は北海道を中心に大きな被害がみられるものの、品目的には限定的であった。総入荷量が前年をやや上回る中、価格は、下旬に台風による被害の報道と交通機関の大幅な乱れから上伸した品目があったものの、月間では前年をかなりの程度下回る推移となった。
ア 根菜類
にんじんは、上下旬における北海道産の順調な入荷により、前年をかなりの程度上回った。だいこんは、北海道産の入荷減が響き、総入荷量は、前年をわずかに下回った。価格は、にんじんが潤沢な入荷などにより、前年を大幅に下回り、だいこんは前年をわずかに上回った。
イ 葉茎菜類
葉茎菜類は、生育が良好で順調な入荷となったことなどにより、すべての品目において、入荷量は前年を上回った。その中でもほうれんそうは、主産地である岐阜産などの入荷が順調であったことから、前年をかなり大きく上回った。ほうれんそうの価格は、前年をかなりの程度下回った。
ウ 果菜類
果菜類は、日照量が多く、生育が順調であったことなどにより、すべての品目において、入荷量は前年を上回った。その中でもピーマンは、福島産の生育が良好であったことなどから、前年を大幅に上回った。ピーマンの価格は、高値推移の前年を大幅に下回った。
エ 土物類
たまねぎの入荷量は、兵庫産が前年をやや上回り、北海道産もほぼ前年並みであったため、総入荷量は前年をやや上回った。さといもは、宮崎産や愛媛産などの作柄が悪く、総入荷量は前年を大幅に下回った。価格は、たまねぎが前年を大幅に上回り、さといもは前年をかなり大きく上回った。
なお、品目別の詳細については表4の通り。
(4)需要を中心とした10月の見通し
ア 市場開市および休市
10月の開市は22日で、休市日数は9日となっている。
10月は、野外で活動するにはちょうどよい気候であり、運動会や遠足、収穫祭などの行事が行われ、レジャーに出かける人も多い。行楽弁当や野外料理に使われる食材の人気が高まり、量販店などの特売も活発化する。気温の低下とともに、鍋物需要も本格化する。
イ 市場担当者から
昨年は秋の訪れが早く、旧盆が明けてからの残暑がなかった。9月には各地で豪雨による被害が発生したが、10月は全国的に晴天が続いて高温で推移した。キャベツは千葉産や茨城産の入荷が遅れたこと、レタスは長野産や茨城産が不作であったことにより、群馬産の引き合いが強まって高値が長く続いた。市場全体の価格は、9月が大幅に高く、10月に入って後半に急落した。昨年の東京における野菜の消費者物価の推移をみると、野菜の市場価格が急騰する局面でも物価が極端に高くなることはなく、お客様に迷惑をかけないように販売されていたことが分かる。
今年は太平洋高気圧が東にずれて、8月は西日本が猛暑となった。東日本の天候はやや不安定で、北海道には3つの台風が上陸する異例の状況となった。9月は、昨年と違って気温は高めの様相である。10月は秋の運動会シーズンであり、食欲の秋も本番となる。秋の味覚が出そろうこの季節、野菜のおいしさをしっかりアピールしていただきたい。また、一般に北海道産のシェアが高まる時期であるが、道東産地は台風が直撃した影響で入荷量は少ないと予想している。渡島半島の道南産地は、大きな被害はない模様である。
根菜類では、だいこんは、終盤となる北海道産と青森産が中心となる。天候不順の中を出荷までたどりついたが、全般に小ぶりで箱数が伸びず、前年の80%程度の入荷量となる見込みである。関東産の入荷が始まるのは11月であり、それまでは高かった前年並みか、それよりやや高いと予想される。
にんじんは、北海道産の作柄が悪く、圃場によるバラツキも大きい。トータルの入荷量は、平年の70%程度と予想される。一昨年は価格が低迷し、昨年は平年並みまで回復したが、今年は平年を大幅に上回る見込みである。
葉茎菜類では、キャベツは、昨年と同様に9月以降の東北産および北海道産の入荷量が少なく、昨年ほどではないが、平年を上回る価格となろう。
はくさいは、長野産および茨城産が中心となるが、両県とも定植時期の天候に問題はなく、順調な入荷となるであろう。価格は平年並みの見込みである。
ほうれんそうは、昨年は全国的に作柄が悪く、入荷減による価格高の展開となったが、今年は順調で出回り量が多く、価格は前年を下回ると予想される。
ねぎは、青森産や北海道産を中心に秋田産などが出回るが、道南から日本海側の各産地に大きな気象災害はない。豪雨に影響された前年を上回る入荷量で、価格は前年を下回るであろう。
レタスは、終盤となる長野産の高原物と茨城産が中心となる。昨年は、両県ともに9月の降雨が影響して不作となり、価格は安値であった前年の260%と、大幅高になった。今年は大きな乱れがなく、平年比でやや高めのレベルに収まる見込みである。
ブロッコリーは、昨年は埼玉産の入荷が遅れて、北海道産および長野産が中心となった。今年は、北海道が天候不順で不作となり、前年を下回る入荷量となるが、長野産は順調である。価格は昨年ほどの高値はないが、一昨年をやや上回ると予想している。
きゅうりは、8月の定植時期の天候が安定していたため、入荷量は前年並みに多いと予想され、価格は前年並みかやや高めとなるであろう。
トマトは、東北産や北海道産が8月に高温などによって入荷が急増した影響で9月には減少しているが、関東産の抑制物は順調で、10月には前年を上回る入荷と予想される。例年、10月や11月は関西市場からの引き合いが強くなることから、東京市場も10月は全般に平年を上回る展開となる見込みである。
なすは、昨年は9月の天候の乱れもあって関東産が早めに切りあがったが、高知産は入荷が急増した。今年は逆の展開で、関東産は順調で入荷が多く、猛暑の高知産はそれほど多くないと予想される。関東産が順調で、価格安の展開となるであろう。
ピーマンは、茨城産が順調で入荷は多い見込みである。昨年少なかった福島産は回復し、逆に昨年多かった高知産は生育が遅れぎみで入荷量は少なめと予想している。数量・価格ともに前年並みであろう。
10月といえばハロウィンでかぼちゃだが、見て楽しいタイプから地域特産かぼちゃまで、多くの品種が店頭に並ぶ。かぼちゃは栄養価の面でも優れており、味覚の良さとともにアピールすることで、需要を喚起していただきたい。
土物類では、さといもは、九州を中心に西日本産は天候不順により入荷量は少なめである。品質が安定した本州産の入荷が待たれるところであるが、10月には各地の銘柄品がそろい、仕入れ筋が活発となるであろう。埼玉産をはじめ仕上がりは良好で、価格は引き続き堅調と予想される。
ばれいしょは、北海道の道南の産地が中心であったが、今後は全道からの入荷となる。台風の影響による品質の低下および入荷量の減少が懸念される。小売店はなるべく安く売りたいところだが、価格は平年を上回って推移する見込みである。
たまねぎは佐賀産が不作で、価格は6月から8月まで高値で推移し、北海道産の出荷開始により一息つくかと思われたが、台風の影響で北海道産は入荷が少なく、8月下旬の段階でも価格は平年の150%となっている。10月も北海道産の入荷が少ないと予想され、価格はもう一段高くなるであろう。特に学校給食に納入する小売店にとっては厳しく、給食の内容を変更してもらうしかないとあきらめムードも出てきた。
(執筆者:東京青果株式会社 加藤 宏一)
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