(1)気象概況
上旬は、北日本で、低気圧や寒気の影響で北海道地方を中心に降水量は多かった。東日本では、移動性高気圧に覆われることが多かったため、降水量は少なく、日照時間は多かった。梅雨前線が4日から5日にかけて本州の南岸まで北上し天気が崩れたため、九州南部、九州北部、四国、中国、近畿、東海の各地方は4日ごろ、関東甲信地方は5日ごろに梅雨入りした(速報値)。7日は前線の影響を受けて、西日本太平洋側を中心に局地的に大雨となった。
中旬は、北日本で低気圧が通過することが多かったため、降水量はかなり多く、日照時間は少なかった。特に北日本太平洋側では、旬降水量が平年比270%となり、観測史上(昭和36年の統計開始以来)6月中旬としては最も多かった。太平洋高気圧が日本の南から沖縄付近で強く、日本付近には南から暖かく湿った空気が流れ込みやすかったため、東日本以西では、気温がかなり高くなった。梅雨前線は九州付近から関東の南にかけて停滞することが多く、西日本では降水量が多くなった。12日から13日にかけては、前線上の低気圧が発達したため、東日本から沖縄・奄美にかけて大雨となった所もあり、北陸地方、東北地方では、13日ごろに梅雨入りした(速報値)。
下旬は、太平洋高気圧が日本の南から沖縄付近で強く、本州付近には南から暖かく湿った空気が流れ込みやすかったため、梅雨前線の活動は活発で西日本から東日本の南岸に停滞することが多かった。19日から月末にかけて、西日本では梅雨前線の活動が活発になり、広い範囲で大雨となった。19日0時からの雨量は、九州の広い範囲および中国地方・四国地方の一部で1時間当たり降水量が300ミリメートルを超え、熊本県や宮崎県では1000ミリメートルを超えた所もあり、各地で土砂災害や浸水害などが発生した。北日本太平洋側でも低気圧が通過することが多かったため、降水量は多く、北海道では旬の中頃に大雨となった所があった。一方、晴れの日には日射が強かったことに加え、南から暖かい空気が流れ込みやすかったため、旬平均気温は平年差プラス1.5度となり、観測史上6月下旬としては最も高かった。
旬別の平均気温、降水量、日照時間は以下の通り(図1)。
(2)東京都中央卸売市場
6月の東京都中央卸売市場における野菜全体の入荷状況は、関東産を中心に出回り、一部の品目では東北産、四国産、九州産なども出回った。入荷量は12万6267トン、前年同月比96.0%、価格はキログラム当たり269円、同102.5%となった(表1)。
入荷量は、西日本を中心に雨が多く、特にたまねぎやばれいしょにおいて病害や収穫の遅れなどが発生し、上中旬は前年を下回ったことから、下旬にはキャベツ、レタス、はくさいなどの品目が、天候に恵まれ、前年をかなりの程度上回る入荷となったものの、月計では前年をやや下回った。
価格は、上中旬は前年を上回って推移したことから、下旬はキャベツ、レタス、はくさいなどの品目で下げ基調となり前年を下回ったものの、月間では前年をわずかに上回った。
類別の動向は以下の通り。
ア 根菜類
入荷量は、主な品目のうち、だいこんは、これまでの前進出荷の影響により、月を通して前年を下回ったことから、月計では前年をかなりの程度下回った。にんじんは、生育が順調で肥大も良好となり、上旬は前年を大幅に上回り、中旬は出荷ピークを迎えて多かった前年をかなりの程度下回ったものの、下旬には再び前年をかなりの程度上回ったことから、月計では前年をやや上回った。
価格は、だいこんは、上旬半ばから上げ基調で推移し、中旬には下げ基調に転じたものの、下旬半ばから再び上げ基調となり、月間では前年をかなり大きく上回った。にんじんは、中旬半ばまでおおむねもちあいで推移したものの、中旬半ば以降は緩やかな下げ基調で推移し、月間では高かった前年を大幅に下回った(図2)。
イ 葉茎菜類
入荷量は、主な品目のうち、はくさいは、生育が順調で前進出荷となり、上旬は前年をかなりの程度上回り、中旬には前年をかなり大きく下回ったものの、下旬には再び前年を大幅に上回ったことから、月計では前年をかなりの程度上回った。ほうれんそうは、上中旬を中心に降雨が少なく干ばつ傾向となっていた産地があり、上中旬は前年を下回ったことから、下旬には前年をやや上回ったものの、月計では前年をかなりの程度下回った。
価格は、はくさいは、月の始めはもちあいで推移し、上旬半ばから上げ基調となるも、中旬半ばから下げ基調に転じ、下旬は安値で推移したことから、月間では高かった前年を大幅に下回った。ほうれんそうは、月を通しておおむねもちあいで推移しており、月間では前年をわずかに下回った(図3)。
ウ 果菜類
入荷量は、果菜類はすべての品目で前年を下回った。主な品目のうち、きゅうりは、上旬は前年並みであったものの、これまでがやや前進出荷であったことにより、中下旬は前年を下回り、月計では前年をやや下回った。
価格は、きゅうりは、上旬は上げ基調で推移し、中旬には一度下げ基調に転じたものの、中旬半ば以降は再び上げ基調で推移したことから、月間では前年を大幅に上回った(図4)。
エ 土物類
入荷量は、たまねぎは、各地でべと病が発生しており、上中旬は前年を大幅に下回り、下旬はわずかに前年を上回ったものの、月計では前年を大幅に下回った。
価格は、たまねぎは、月を通して高値基調で推移したことから、月間では前年をかなり大きく上回った(図5)。
なお、品目別の詳細については表2の通り。
※1 卸売価格とは、東京都中央卸売市場の平均卸売価格で、平均価格、保証基準額および最低基準額とは、関東ブロックにおける価格である。
※2 平均価格とは、指定野菜価格安定対策事業(以下「事業」という)における、過去6カ年の卸売市場を平均した価格を基に物価指数等を加味した価格である。
※3 事業における価格差補給交付金は、平均販売価額(出荷された野菜の旬別およびブロック別の平均価額)を下回った場合に交付されるため、上記の各表で卸売価格が保証基準額を下回ったからといって、交付されるとは限らない。
(3)大阪市中央卸売市場
6月の大阪市中央卸売市場における野菜の入荷量および価格は、入荷量が3万7071トン、前年同月比97.4%、価格は、1キログラム当たり251円、同102.0%となった(表3)。
夏秋産地の各品目は生育の前進化が見られ、順調な入荷となるものが多かったが、きゅうりなど一部の品目では入荷が不安定となった。総入荷量は、価格高で集約出荷される品目が多かった前年をわずかに下回った。月間での価格は、前年をわずかに上回ったものの、下旬には高値反動や、量販店の引き合いが弱くなったことなどで、落ち込む品目も多かった。
ア 根菜類
だいこんは、長崎産、和歌山産および岐阜産の入荷が前年を上回ったため、総入荷量は前年をかなりの程度上回った。にんじんは、和歌山産および兵庫産の生育が良く、北海道産も前進出荷となったことで、前年をかなりの程度上回る入荷となった。価格は、だいこんが前年をわずかに上回り、にんじんは前年を大幅に下回った。
イ 葉茎菜類
葉茎菜類は、切り上がりが早まった影響などにより、すべての品目において入荷量は前年を下回った。その中でもほうれんそうは、主産地の岐阜産が端境期となったことなどにより、前年をかなりの程度下回った。ほうれんそうの価格は、前年をかなりの程度上回った。
ウ 果菜類
果菜類も、これまでの前進出荷によって切り上がりが早まった影響などで、すべての品目において入荷量は前年を下回った。その中でもきゅうりは、高知産および徳島産の早期切り上がりや愛媛産の出遅れにより、前年をかなり大きく下回った。きゅうりの価格は、前年を大幅に上回った。
エ 土物類
土物類は、天候不順による生育不良などにより、すべての品目において入荷量は前年を下回った。中でもさといもは、鹿児島産の生育がやや不良であり、掘り取り作業の遅れもあって、前年を大幅に下回った。さといもの価格は、高値の推移が続き、前年を大幅に上回った。
なお、品目別の詳細については表4の通り。
(4)需要を中心とした8月の見通し
ア 市場開市および休市
8月の開市は23日で、休市日数は8日となっている。
夏本番である8月は、東北や北海道などへと産地が移動した夏野菜をメインにした売場作りが展開される。7月に続きメロンやすいか、えだまめなど、涼を呼ぶ商材に注目が集まる。また、盆などによって家庭内での消費機会が増える時期であり、家庭内需要向け野菜の特売企画などが活発化する。
イ 市場担当者から
7月に入り、西日本を中心に猛暑の報が届いた。関東でも梅雨明けを思わせる好天が続いたが、梅雨終盤の集中豪雨が九州地方を中心に多くの被害をもたらした。台風の発生は例年より遅く、7月上旬に発生した台風1号は巨大化して台湾を襲った後、中国大陸に向かった。7月の台風は梅雨明けを促すこともあるが、梅雨前線は九州から本州の南の海上に残った。
英国のEU離脱問題からユーロが値下がりして円高となり、輸入の青果物が入りやすくなる傾向にある。今のところ、卸売市場の輸入野菜では中国産のねぎと韓国産のパプリカが目立つ程度で、国内の野菜相場に影響を与えるような状況にはなっていない。
野菜全般の動きを見ると、西南暖地産や関東などの平野物が早めに切り上がったが、東北産や高原物がそれほど前進するわけでもなく、6月いっぱいは高値傾向で推移した。ただし、高原レタスは晴天が続いたために豊作で、平年より安値で7月に入った。この安値は、8月の盆明けからの高値の伏線となるかもしれない。盆明けからの天候不順による価格の高騰も想定しておくべきであろう。
7月に入り、東北産のトマトなどの入荷が、ゆっくりしたペースで始まった。寒暖の差が激しく、花落ちが見られるなど豊作ではないが、品質は充実している。えだまめやスイートコーンなども含め、東北産の夏野菜を中心とした売場作りに、積極的に取り組んでいただきたい。オリンピックの観戦に忙しく、また暑さの影響で、加熱調理用野菜の動きは鈍くなるかもしれない。
根菜類では、だいこんは7月になって入荷が急増した。価格は前年を下回る見込みである。にんじんは、地域によって多雨の被害が出やすいため、総じて出回り量は少なく、価格は平年より高めと予想している。
葉茎菜類では、ほうれんそうは猛暑の影響で全国的に出回り量が少なく、前年並みの高値が予想される。また、猛暑に耐えるえんさい(空芯菜)などへの転作も目立っている。えんさいには、この4月から東京市場の野菜コードが設定された。今後、動きを数字で確かめることができる。ねぎは、東北産や北陸産が本格化してくる時期であるが、病気の発生が多く、7月に続き高値傾向と予想される。高原キャベツは、小玉の傾向が心配されたが順調で、昨年並みに引き合いは強いであろう。はくさいは、全国的に生育が順調で、潤沢な入荷となる見込みである。
果菜類では、きゅうりは東北産の露地物が、定植時期の天候の乱れから7月になっても遅れ気味である。総じて不作傾向と予想される。冷やし中華の付け合せ用などに引き合いが強まり、価格は堅調に推移するであろう。トマトは、例年、盆の前後に入荷の大きなピークが来て価格を下げるが、今年はそういった大きな山が来ないと予想される。定植時期に天候の乱れが大きく、作によるバラツキが大きいためである。作付けが増えているミニトマトに、割安感があるのではないか。なすは体を冷やす野菜で、猛暑となれば食べたくなるが、主産地の栃木産が暑さのために不作気味である。ピーマンも東北産の入荷が遅れており、価格は8月としては高めと予想される。
土物類では、ばれいしょは茨城産が順調に仕上がり、東北産も安定した入荷が期待できる。「メークイン」「男爵」の二大品種の時代は終わり、新品種が続々と登場している。それぞれの品種の特徴や食べ方を伝えながら、売り場を盛り上げる工夫がほしいところである。例えば、「ポテトサラダに向いている」とか、「彩り豊かなばれいしょをそろえて、食卓を飾りましょう」など、情報の提供が有効である。たまねぎは、九州産の不作から全般的に高値となったが、7月に入って関東産や東北産が出回り始め、高値は徐々に落ち着いてくるであろう。
えだまめは、7月までは群馬産の高原物が安定して入荷したが、東北産は定植時の天候が不順であったため、思ったほどに入荷は増えないといった状況が予想される。スイートコーンは、ここ数年、8月下旬から9月にかけて東北産や北海道産の人気が高まるが、今年も引き合いが強いと予想している。メロンは北海道産や東北産がピークとなるが、着果時期である7月の天候が定まらず、小玉傾向や大幅な遅れが予想され、終わってみれば不作といった展開も考えられる。メロンについては、東京市場の価格安を嫌って地方市場で活発に取引きされ、大田市場では物不足の状況となるかもしれない。すいかは、終盤の長野産の価格が特に高い、といった年になるのではないか。
(執筆者:東京青果株式会社 加藤 宏一)
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