情報コーナー (野菜情報 2013年1月号)


ビタミンCの摂取における野菜の有効性について

東京都健康長寿医療センター研究所 分子老化制御
研究副部長 石神 昭人


【要 約】

 ビタミンCは小さな子供たちからお年寄りまで、その名前を誰もが知っています。しかし、ビタミンCの働きを正しく理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。私たちはビタミンCと老化との関係を明らかにするため、ビタミンCを合成できないマウスを用いた研究からビタミンCが長期的に不足すると寿命が短くなることが分かりました。ほとんどの日本人はビタミンCを十分に摂取していると思っています。しかし、ビタミンCは水溶性であるため、尿から排泄されやすく、消失しやすいです。そのため、私たちは新鮮な野菜や果物からビタミンCを十分に摂取するよう日頃から心がける必要があります。

1.ビタミンC発見の歴史

 私たちヒトは、体内でビタミンC(L-アスコルビン酸)を作ることができません。そのため、毎日の食事からビタミンCを摂取しなければ、やがて欠乏状態に陥ります。ビタミンCが欠乏したときの症状は、初期に皮膚の乾燥、脱力感、うつ状態がみられ、やがて大腿部に大きなあざ(内出血の跡)が出てきます。欠乏症状がさらに進むと、歯茎、消化管、粘膜から出血がみられ、やがて死に至ります。ビタミンC欠乏症は「壊血病」と呼ばれます。
 歴史上、壊血病の症状と思われる記載は紀元前にまでさかのぼることができます。エジプトのパピルス文書やヒポクラテス全書に壊血病と想像される記載があります。はっきりと壊血病の症状と断定できる記載があるのは15世紀以降の大航海時代に遠洋航海に旅立った船乗りたちの航海記です。1497年、ヴァスコ・ダ・ガマはポルトガル王に命じられ、約140人の乗組員と4隻の船団でリスボンを出発し、翌年にヨーロッパ人として初めてインドのカリカットに到着しました。しかし、長い航海の間、新鮮な野菜や果物をほとんど取れなかったため、体内のビタミンCが次第に減少して、壊血病を発症する乗組員が多く出てしまいました。そのためポルトガルに帰港したときには、既に半分以上の乗組員が壊血病で命を落としていたのです。
 長い間、船乗りたちを苦しめてきた壊血病の原因や治療方法を探るため、18世紀の中ごろ、立ち上がったのがイギリス海軍の船医であったジェイムズ・リンドです。リンドは壊血病にかかった12名の水兵を2人ずつのグループに分け、14日間、6種類の異なる食事を与えました。すると、オレンジとレモンを与えた水兵は6日後に顕著に回復しました。リンドはこの実験から、壊血病に対する最も効果的な治療薬はオレンジとレモンであると結論したのです。
 オレンジやレモンが壊血病に有効であることは分かりましたが、依然としてどのような成分が壊血病に効果があるかまでは長い間分かりませんでした。最初にビタミンCを純粋な物質として単離したのは、ハンガリー出身の科学者、アルベルト・セント=ジェルジです。セント=ジェルジは1927年にウシの副腎から強い還元力のある物質を単離し、「ヘキスロ酸」と名付けました。この時、セント=ジェルジはヘキスロ酸がビタミンCであることには気付きませんでした。その後、1932年に米国のチャールズ・キング(ピッツバーグ大)は、レモンから純粋なビタミンCの分離を目指し、成功しました。この時初めて、セント=ジェルジがウシの副腎から単離したヘキスロ酸がビタミンCそのものであることが判明したのです。セント=ジェルジは、ビタミンCを最初に単離した科学者として1937年度ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

2.ヒトはなぜビタミンCを合成できない

 ヒトは体内でビタミンCを合成できません。では、他の動物も体内でビタミンCを合成できないのでしょうか。いえ、それは違います。ビタミンCを体内で合成できない動物は、ヒト、サル、モルモットなど限られた動物だけです。他の動物、例えばイヌやネコ、マウスなどほとんどの動物は体内でビタミンCを合成できます。では、なぜヒトはビタミンCを合成できないのでしょうか。ビタミンCを合成できる動物は図1に示すようにグルコース(ブドウ糖)を出発材料にして最終的にビタミンCを合成します。ヒト、サル、モルモットではビタミンC合成経路の最後に位置する酵素であるL-グロノラクトン酸化酵素(GLO)の遺伝子に進化の過程で多くの突然変異が入り、そのため体内でビタミンCを合成できなくなりました。ほとんどの動物は、この酵素の遺伝子に変異がないため、体内で十分な量のビタミンCを合成できるのです。

3.ビタミンCの長期的な不足は寿命を短縮

 ビタミンCには活性酸素を消去する作用があります。それ故に抗老化作用があると考えられてきました。私たちはビタミンCに抗老化作用があるかを明らかにするため、ビタミンCを合成できないマウスを用いて次の実験を行いました。まず始めにマウスが1日に必要とするビタミンC量を実験的に求めました。検討の結果、ビタミンCを合成できないマウスに1日当たり7ミリグラムのビタミンCを与えることにより、普通のマウスの血液および臓器中のビタミンCと同じ濃度のビタミンCが維持されることが分かりました。
 次に、少量のビタミンCを与えた場合、どれくらいの量であれば壊血病の症状が出ないかを確認しました。その結果、1日必要量の2.5%である0.175ミリグラムのビタミンCを与えた場合、壊血病の症状が全くみられないことが分かりました。そこで、ビタミンCを合成できないマウスを生後1ヵ月齢から1日必要量の2.5%のビタミンCを継続的に与え、普通のマウスとその寿命を比較しました。その結果、半数のマウスが死亡する50%生存率が普通のマウスでは約24ヵ月であったのに対して、ビタミンCを合成できないマウスでは、その4分の1である約6ヵ月でした(図2)。同時にビタミンCを合成できないマウスの死因を調べると、ガンや特定の臓器疾患などは一切認められず、臓器全体が委縮するヒトの老衰としかいいようのない所見でした。
 これらの実験結果は、ビタミンCの不足状態が継続的に長く続くと寿命が短くなることを示しています。寿命短縮の原因はビタミンC不足による活性酸素の増加およびその蓄積によるためか、またはビタミンCの未知なる働きによるためかは明らかではありません。

4.ヒトの寿命を短くするビタミンCの摂取量

 ヒトでも同様にビタミンCの長期的な不足は寿命を短縮するのか。当然にわき起こる疑問です。しかし、当然ながらこの疑問に答えるヒトの臨床試験は、倫理的な問題から行うことができません。そのため、マウスとヒトの生存曲線から外挿したあくまでも仮定の推論となります。
 厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2010年版)」の中で、1日のビタミンC推奨量を100 ミリグラム(いちご5~6個ぐらい)と策定しました。そこで、ヒトが1日に必要なビタミンC量を100 ミリグラム(100%)とすると、その2.5%である2.5 ミリグラムのビタミンCしか摂取しない期間が長期的に続いた場合、寿命が短くなります。しかし、ここで気を付けなければならないことは、ビタミンCの体内貯蔵量はかなりあるため、数日間ビタミンCを全く取らなかったとしてもすぐに寿命が短くなることはないということです。あくまでも長期間にビタミンCを取らなかった場合に限ります。私たちの概算では、1日に2.5 ミリグラムのビタミンCしか摂取しない期間が約3年間続くと死亡するヒトが出てきます(図3)。また、約13年後には半分のヒトが死亡する計算になります。これはあくまでもビタミンCを合成できないマウスでの実験結果をヒトの生存曲線に外挿した場合で、必ずしもヒトで同じことが起こるという保証はありません。また、途中で一度でも1日に2.5 ミリグラム以上のビタミンCを取るとこの仮定は成立しません。

5.ビタミンCは大量に消費される

 日本人は、毎日の食事から推奨量(100 ミリグラム)のビタミンCを取っているはずです。しかし、ビタミンCは想像以上に体内で多く使われています。その消費の最も大きな原因は活性酸素の消去です。ヒトは生きていくために細胞の中のミトコンドリアでエネルギー(ATP)を作り出しています。その副産物としてどうしても発生するのが活性酸素です。私たちは日常生活でビタミンCが大量に消費されるケースをいくつか想定し、実際にビタミンCが大量消費されるか少人数の被験者で予備的な実験を行いました。この実験では被験者数が少ないため、科学的に信頼性のあるレベルまで達しているとはいえません。ここでは2つのケースについて紹介します。

(1)通勤ストレス

 郊外に家があり都内に通勤するサラリーマンの多くは、朝の通勤ラッシュに嫌でも遭遇します。私たちは、朝のラッシュ時に①電車に乗る前、②乗車30分後、③乗車60分後の血液中ビタミンC濃度を測定してみました。その結果、通勤ラッシュの時間が長ければ長いほど血液中ビタミンC濃度が減少することが分かりました(図4)。

(2)眼のストレス

 新聞や本を読んだり、パソコンの画面でインターネットや電子メールを見たりすることは、現代の社会では極めて日常的です。しかし、この時にも血液中ビタミンC濃度は減少します。図4に示すように、眼を使い始めてから30分間は断続的に血液中ビタミンC濃度が減少しています。一方、ビタミンCには体内貯蔵庫(肝臓などの臓器中)があるため、減少が激しい時にはその貯蔵庫から補おうとして血液中のビタミンC濃度は増加に転じます。しかし、体内のビタミンC貯蔵量は確実に減少しています。

6.ビタミンCの摂取方法

 ビタミンCは野菜などの食品から取るのが理想的です。なぜならば、私たちのからだの機能を維持するためにはビタミンCは当然必要ですが、ビタミンC以外に他の多くの栄養素も摂取しなければなりません。その栄養素をすべて単独のサプリメントから取ることは難しいです。それでは、野菜などの食品に含まれているビタミンCとビタミンCのみを含むサプリメントを摂取した場合、その吸収率や吸収速度に違いはあるのでしょうか?野菜などの食品に含まれるビタミンCの吸収率については、個々の野菜についての報告がほとんどありません。また、ビタミンCの吸収率もビタミンC量により異なることから、はっきりとは分かりません。しかし、私たちが行った実験で、50 ミリグラムのビタミンCを含む水溶液と50 ミリグラムのビタミンCを含む食品を摂取した場合のビタミンC吸収量に違いは見られませんでした。また、血液中のビタミンC濃度がピークに達する時間にも両者で違いは見られませんでした。これらのことからビタミンCを野菜などの食品から取った場合とサプリメントから取った場合、両者でビタミンCの吸収率や吸収速度にほとんど違いはないであろうと考えられます。だからといって、サプリメントを推奨する訳ではありません。サプリメントはあくまでも食品に不足している栄養素を補うためのものですから、あまりサプリメントだけに頼らずにできるだけ野菜などの食品から必要な色々な栄養素をバランスよく取る必要があります。

7.野菜からビタミンCを取る

 近年、私たちは食事からの栄養摂取に特に気を遣うようになりました。しかし、毎日の食事から必要な栄養素をすべて、十分に摂取することは極めて難しいことです。また、ある栄養素を1日取らなかったとしてもすぐに欠乏症を発症したり、生死にかかわることはありません。しかし、長期的に体内で合成できない必須栄養素を摂取しなければ、その欠乏症を発症します。
 ほとんどの日本人はビタミンCを毎日の食事から十分に摂取していると思っています。しかし、ビタミンCは水溶性であるため、尿から排泄されやすく、体内消費量も多いことから消失しやすい栄養素です。そのため、私たちは気付かないうちにビタミンC不足状態に陥っている可能性があります。ビタミンCの不足状態が長期的に続くと、ビタミンCを合成できないマウスを用いた研究から寿命が短くなる可能性があります。これを避けるためにも、私たちは新鮮な野菜や果物からビタミンCを十分に摂取するよう、日頃から心がける必要があります。

<参考図書>

石神昭人:ビタミンCの事典. 東京堂出版, 2011


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