惣菜向け野菜に望まれること
社団法人 日本惣菜協会
専務理事 藤木 吉紀
【要約】
食の外部化(中食+外食)はジワジワと浸透している。なかでも中食といわれる惣菜類が外食の減少以上に伸びている。すでに加工・業務用野菜の販売は家庭用野菜の販売を上回っている。かつては加工・業務用野菜=規格外(すそもの)と発想も多かったが、外部化率の伸びとともに、品質基準に基づく野菜が単品で大量に必要になっている。要件を満たす野菜が国内になければ輸入する場合も多い。どのような野菜が求められているか、野菜の購入者は何を求めているかを各界で研究し対応していく必要がある。
2011年の惣菜市場規模(予測)は前年比102.9%の約8兆3554億円(日本惣菜協会:調べ)で、5業態すべてが前年を上回った。5業態の合計について、2007年以降の4年間の変化をみると、2008年にいったんピークに達し、翌2009年はリーマンショックの影響もあり前年を下回った。2010年は前年を上回ったものの前々年の水準は回復できなかった。2011年は東日本大震災による節電の影響もあり、4年間では最も大きく(102.9%)伸び、2008年のピークも超えた。4年間で市場規模は5.1%伸びた。4年間で百貨店・総合スーパーが額・構成比ともにダウンし、CVS(コンビニエンスストア)・食料品スーパーが額・構成比ともにアップした。「専門店他」は額で伸びたが、構成比は落とした。
産業総合調査センターの調べでは、2010年の食市場(内食、中食、外食の合計)は、約65.4兆円で、2001年(約72.3兆円)に対して90.4%に縮小した。中食は構成比・額とも伸びた。外食は構成比を伸ばしたものの額が減った。外食+中食の比率は2007年(45.2)がピークで、2010年は44.9に減少した。
一方、家計の消費支出から食の外部化率を見ても、ほぼ同じ推移になる。家計調査(総務省・統計局)の「調理食品」という調査項目には、弁当・おにぎり・サラダ・コロッケなど惣菜類への支出金額が含まれる。「調理食品」+「外食」が「食料」に占める比率が、家計消費支出からみた「食の外部化率」ということになる。
家計調査での推移を世帯類型別に見た特徴1.「調理食品」は傾向的に比率が高まり、2000年頃に10%を超えた。
2.「調理食品」は、単身世帯と共稼ぎ世帯がやや高いものの、類型ごとの違いは大きくない。
3.一方、「外食」の比率は世帯類型別に特徴ある。
・夫婦高齢者世帯は他の類型に比べて外食比率が低い。ほぼ横ばいだが、2000年以降調理食品を下回っている。
・専業主婦世帯の外食率は、共稼ぎ世帯より約3%少ないが20%を超えている。
・2000年に40%あった単身世帯の外食率は10年間で9%以上減った。調理食品の比率は2%近く伸びたものの、外食の落ち込みが大きく外部化率は大きく減った。
この数年、外食比率が下降に転じ、中食比率は安定的に増加し、トータルで食の外部化率は緩やかに伸びてきている。今後もこの傾向が続くのだろうか。
1. 景気が大きく回復する可能性は低いとすると、外食が増加に転じたり、内食の減少幅が大きくなる可能性も少ない。
2. 今後、単身世帯、高齢者世帯が増えて平均世帯人員が減る傾向に変わりはない。料理を作ることは多くの人にとって楽しいことだが、少人数・少量の料理のためにさまざまな食材を調達するのは必ずしも楽しいだけではない。調理食品に比べて必ずしも費用を節約できるとは限らない。とすると、中食が引き続き外食の減少を上回って外部化率が伸長する可能性は大きい。その条件は消費者の要望に応えられる商品開発ができるかにかかっている。
3. 惣菜事業者・流通事業者は消費者の要望に一番近い位置にあるとはいえ、商品開発は各界の力を合わせる必要がある。消費者の変化・要望を正しく分析し、生産者(団体)・商社・種子メーカー・物流業が力を合わせる必要がある。
4. BSE・鳥インフルエンザ・放射能など食をめぐる安全への不安は次々に発生している。「国産だから安心」をうたった食材・食品は数値の保証がないことに不安を持つ人も少なくない。一方、健康志向はますます高まり、野菜をメインにしたメニューへの期待はますます大きくなるだろう。
惣菜・調理食品でよく使われる野菜は業種ごと・メニューごとに一様ではないが、品目は家庭用としてもポピュラーな生鮮野菜が多い。2010年度は基本野菜13品のうち、にんじん・トマト・ねぎ・だいこん・たまねぎ・レタス・さといも・はくさいの8品目は加工・業務用野菜が家庭消費用野菜の需要を上回り、キャベツはほぼ拮抗している。残りの4品目も40%を超えている。主要野菜全体では56%となり、この割合は年々上昇している。
加工・業務用野菜のもう一つの大きな特徴は、輸入の割合が高い、ということだ。輸入割合は1990年以降増え続けたが、中国産冷凍ギョーザ事件(2008年1月に表面化)の影響もあり、加工・業務用野菜の輸入もいったん減ったものの、再び上昇に転じ2010年度は13品目の平均で30%とピーク時に近づき、上昇傾向は続いている。
野菜は他の商品に比べると、鮮度劣化が早く、容積あたりの単価が低いため、本来貿易にはなじまない。それではなぜ輸入が増えるのか?どんな野菜が輸入されているか?
1. 国内の端境期や貯蔵性が比較的高い野菜(たまねぎ、かぼちゃ、にんにく、しょうがなど)。
2. 海外で一時加工し、冷凍・塩蔵などで貯蔵性を高めた野菜加工品。
近年新興国の購買力が高まり、日本料理のすばらしさが浸透するなかで、特に水産物では日本が買い負けることも多くなった。野菜・果物でも買い負けたという声を聞くようになった。「安価な輸入品」がいつでも、どこでも、いくつでも入手可能ではなくなる。
加工・業務用の需要の特性に耳を傾け、それに対応することですでに野菜需要の半分以上を占めるこの加工・業務用の野菜の販売を大きく伸ばす余地は十分にある。
「家計消費用野菜」と比較して、「加工・業務用野菜」に求められるのはどんなことだろうか?商品の形態・量目は業種・業態ごとに多様だが、共通しているのは、
1. 数量:ほぼ一定。数量確保が最優先。
2. 品質:一定であること。特に作型が終了するころの劣化が少ないこと。
3. 価格:期間値決めが基本。シーズン単位が多いが月単位や年間通し契約も多い。
4. 計画書と証明書:栽培計画・残留農薬証明・トレーサビリティ(輸入品含む)
5. 納品基準:納品時のトリミング
例:長ねぎ―白い部分の長さ
レタス・キャベツ―外葉の枚数の上限
複数の野菜を加工業者でカットして最終販売単位に包装した野菜セットはCVS・食料品スーパーでの扱いが増えている。皮むき、芯抜きなどの一次加工した原料をセントラルキッチンや各チェーン店のバックヤードで加工するのも増えており、商品形態もホール・カット・スライス・冷凍など多様である。
規格基準について、従来の「加工・業務用は規格外品」という認識は正確ではない。「1個ごとの外形による等級・階級の選別は家庭用ほど厳密ではない」とは言えても、食味・鮮度・大きさは重視される。歩留まりは極めて重視される。コストと作業効率にかかわるからだ。農水省も「加工・業務用は『すそもの対策』という生産者の意識を払拭することが必要」※と指摘している。
※ 農林水産省生産局2009年3月「『国産原材料による加工・業務用需要への対応指針』のポイント」
相場が変動しようとも、安定した価格で取引することは生産者にも加工事業者にも実需者にもメリットは大きい。
しかし、野菜の市場価格が上がると、価格の変動のない加工・業務用野菜やもやしの需要が増え、加工・業務用野菜の調達必要量も跳ね上がる。価格が上がるときは一般に品質は良くないので、歩留まりも悪く、単位時間当たりの生産量も下がる。事前の契約価格が相場から極端に乖離してしまった場合、実際は現実的な調整もあるようだ。
実需者のニーズをつかみ、それに合った栽培管理基準を策定するのは容易ではない。中間事業者の機能が求められている。
1. 実需者と生産者の間に立ち、基準・規格を作成する。
2. 想定外の収量や市場価格の変動の調整。
3. 冷蔵・冷凍保管施設の整備。
4. 品質管理、分析事業:土壌や水の診断・分析。残留農薬、栄養、重金属、放射能の分析
など。
すでに専門の加工事業者や卸売り事業者がこれらの課題に取り組んでいる。加工用・業務用野菜の栽培を重視し、取り組みを強化している商社や単位農協・県連も多い。大手小売業グループも自ら農業生産法人を設立して、野菜の栽培に乗り出した。
「加工・業務用野菜産地と実需者との交流会」も年2~4回全国各地で開催されている。生産者、卸売り事業者、種子メーカー、食品メーカー、外食・中食・給食事業者、流通事業者、専門家、マスコミ、行政など参加者は多彩で、実例の報告を中心とした講演も多岐にわたっている。概要と講演録は農畜産業振興機構(alic)のホームページから見ることができる。実務経験に基づいた含蓄のある講演ばかりだ。一流商社で34年間青果物の貿易に携わり続けてきた福田さんのお話が意義深い。安くなっても高くなっても「どちらに転んでも大儲けができるような仕組みにはなっていません」「契約取引については、単年度だけの話ではなくて毎年努力を積み上げていく関係」がポイントで、「契約しておいてよかったな」と言い合える関係を築きあげたい。
交流会に参加された各界の人々が力を合わせて、高まる加工用・業務用野菜の需要に応えていきたいものだ。