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情報コーナー (野菜情報 2012年6月号)


イチゴの高設栽培における省エネ加温技術

福岡県農業総合試験場 野菜部
研究員 水上 宏二


要約】

 促成イチゴの高設栽培において電熱線をクラウンに接触させて21度で直接加温するクラウン部局部加温は、ハウス内の暖房温度10度で局部加温しない慣行の加温と比較して、暖房温度を4度に下げても同等以上の生育、収量が得られる。また、2条外なりの高設栽培では、電熱線を条間に1本敷設し、アルミ蒸着シートでクラウンに接触するように覆い、クラウン温度を21度で制御する簡易加温を行うと、クラウン部局部加温と比べて電熱線や温度制御装置が半量ですむため導入経費が約5割、電気代が約3割削減できる。暖房経費は、ハウス内の暖房温度10度の慣行加温と比べてクラウン加温が約6割、簡易加温が約7割削減となる。

はじめに

 促成イチゴの高設栽培は、栽培管理や収穫の作業負荷軽減を目的として普及が進んでいるが、栽培槽を空中に配置するため土耕栽培よりも培地温度が低下しやすく、冬期の生育遅延や収量低下を招きやすい。そのため、高設栽培では、一般的に土耕栽培より3~5度高い設定温度(8~10度)でハウス全体を加温している。しかし、ハウス内全体を加温すると植物体がない空間まで温めてしまうこととなり、燃料の利用効率が低くなる。さらに、近年の原油価格高騰によって、イチゴ農家においても生産経費増大が大きな問題であり、暖房経費を削減できる省エネ栽培技術が強く求められている。
 そこで、イチゴ植物体を局部的に加温するクラウン部局部加温(以下、クラウン加温とする)技術について、その加温効果と暖房経費削減効果を明らかにした。また、さらなる省エネが期待できる簡易加温法を開発したので併せて紹介する。

クラウン加温の方法

 クラウン加温は、電熱線や温湯管などの加温資材をイチゴの生長点があるクラウン部に接触させ、植物体を局部的に温める加温方法である。今回の試験では、加温資材に電熱線を使用し、クラウンと十分に接触させるために果梗が伸長する側のクラウン部に電熱線を配置し、引掛け具の付いた輪ゴムで固定して加温した(写真1)。また、クラウン加温の温度は、温度制御装置(農電電子サーモ)の温度センサーを電熱線とクラウンの両方に接触させて制御した(図1)。クラウン加温の開始時期は11月上旬、終了時期はハウス外の最低気温が5度以上となる時期を目安とし、ハウスの暖房は温風暖房機を用いた。なお、供試品種は「あまおう」とした。

クラウン加温の効果と最適加温温度

 写真2は、暖房温度7度で管理したハウスにおいて、11月1日から21度設定でクラウン加温を行ったときの2月の生育状況である。クラウン加温したイチゴの株は草高が高く、第一次腋果房が収穫直前まで成熟するなど、クラウン加温しない株よりも生育が促進された。さらに、クラウン加温では、出葉速度(葉1枚が展開するまでに必要な日数)が速くなることも認められており、冬期の草勢維持および生育促進に効果が高いことが明らかとなった。
 また、クラウン加温の適温を明らかにするため15~25度の範囲で比較したところ、加温温度が高いほど生育促進効果は高かった。しかし、25度では品種によっては果重や果数が減少するなどの影響が認められたことから、生育促進効果が高く、収量性に影響しない最適なクラウン加温温度は21度であると考えられる(データ略)。

クラウン加温を利用した省エネ技術

 ハウス内暖房温度7度の条件でクラウン加温が十分な生育促進効果を示したことから、ハウスの暖房温度をどこまで下げられるか検討した。暖房温度を4度および7度に下げたハウスでクラウン加温を行う①4度・有区、②7度・有区と暖房温度10度のハウスでクラウン加温を行わない③10度・無区の3区についてクラウン加温の加温効果およびハウス暖房とクラウン加温の総合的な暖房経費を比較した。
 図2は、温度計のセンサーをクラウンに5ミリ程度差し込んで測定した2月のクラウン内温度の推移である。昼間のクラウン内温度は試験区間であまり差がなかったが、夜間(20時~翌8時)では、10度・無区が最も低く、4度・有区、7度・有区の順に高かった。このことから、クラウン加温によってクラウンの温度は、ハウス内の気温を下げても高く維持できることが明らかとなった。

 次に、2月の草高、腋果房の開花日と出葉速度を表1に示した。クラウン加温した区は、10度・無区と比べて草高が高く、第一次、第二次腋果房の開花日や出葉速度が同等かまたは促進された。また、図3に示すように商品果収量は、時期別、合計ともに試験区間で差が認められなかった。これらのことから、クラウン加温は、ハウス内暖房温度を10度から4度にまで下げても、クラウン内の温度を高く維持してイチゴの生育を促進し、収穫時期が遅れることなく同等の商品果収量が得られることが示された。つまり、クラウン加温は、ハウスの最低気温が低くても安定した加温効果が得られる技術であると考えられる。

クラウン加温による暖房経費の削減

 試験で実際に使用した燃油量とクラウン加温の電気使用量を基に試算した暖房経費を図4に示した。暖房機の燃料費は、ハウスの暖房温度を10度から7度に下げると52%、4度に下げると86%削減された。また、クラウン加温によって新たに電気代が必要となるが、90円/Lで算出した燃料費と電気代を合わせた暖房経費は、10度・無区と比較して7度・有区で約3割、4度・有区で約6割削減できると試算された。今回の試験は60㎡の小型ハウスで行ったため、暖房経費が非常に高く試算されたが、通常規模のハウスで実施した場合でも同程度の経費削減効果が期待できる。

さらなる経費削減を実現する簡易加温法

 ここまでで紹介したクラウン加温(従来法とする)は、電熱線を全てのイチゴの株に接触させて直接加温するため、加温効率が良い反面、2条植えの場合は電熱線を2本敷設する必要がある。そこで、局部加温にかかる資材費の削減を狙い、簡易加温法を検討した。
 簡易加温法は、写真3、図5のように電熱線を条間に1本敷設し、アルミ蒸着シート(太陽シート)を用いてアルミ面が下向きになるように条間を覆う。このとき、シートの両端がクラウンに接するようにし、温度制御装置の温度センサーはクラウンに接触させて21度に設定する。この簡易加温法では、電熱線の熱を保温シートで伝導してクラウンを温めるため、クラウンを直接加温する従来法より電熱線の稼働時間が約1.5倍長くなる。電熱線が長く稼働することで培地が温まり、さらに温まった培地はアルミ蒸着シートで保温される。つまり、簡易加温法は、クラウンと培地両方をある程度温め、その相加効果で従来法と同等にイチゴの生育促進、増収効果が得られると考えられる(表2、図6)。
 簡易加温法の導入経費は、従来法と比べてアルミ蒸着シートが新たに必要になるが、その増額分はわずかであり、電熱線と温度制御装置が半量ですむため47%削減できる。また、電気代(11~4月)は、稼働時間が1.5倍になっても電熱線の本数が半分になるため、契約電力や使用電力量が少なくなり31%削減できる。このため、ハウス内暖房温度4度で簡易加温を行った場合の暖房経費は、暖房温度10度のハウス加温のみと比べて約7割の削減となる。

おわりに

 将来的には、暖房用燃料である化石燃料の供給が不安定となることが懸念される中で、化石燃料由来の燃料や資材の価格高騰は避けられない。一方、地球温暖化が問題になる中、農業分野でも二酸化炭素排出量の削減が求められると考えられる。これからは、経費削減および環境負荷軽減の視点から、省エネ、化石燃料代替技術が農業分野でも重要な技術になると考えられる。そのため、クラウン加温は促成イチゴ栽培における省エネ加温技術の一つとして活用が期待される。
 なお、今回紹介したクラウン加温技術は、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業「クラウン部温度制御によるイチゴの周年高品質生産技術の開発」(2005-2007年)の成果の一部である。


引用文献

 佐藤公洋・北島伸之(2010)高設栽培におけるクラウン部局部加温の温度がイチゴの生育および収量に及ぼす影響. 福岡農総試研報29:27-32.
 佐藤公洋(2010)クラウン部局部加温を利用した促成いちご高設栽培の省エネ加温技術. グリーンレポートNo. 493:6-7.
 水上宏二・佐藤公洋・奥 幸一郎・井上惠子(2011)イチゴの高設栽培における低コストな局部加温法とその増収効果. 園芸学研究10(2):136.


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