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情報コーナー (野菜情報 2012年2月号)


冬野菜の効能その2

女子栄養大学栄養クリニック
教授 蒲池 桂子


要約】

 にんじんには、カロチンがたくさん含まれています。一方、生で食べるとビタミンCを破壊するアスコルビナーゼという酵素が含まれています。体内でビタミンAとなるカロチンは粘膜を保護し、目と肝臓の疲れをとります。ごぼうには、水溶性および不溶性の食物繊維が豊富なだけではなく、酵素活性が強く動脈硬化の予防に役立ちます。かぶはアブラナ科アブラナ属の植物で、葉には灰汁が少なく、カルシウムやビタミンCが豊富です。またかぶの根には、ジアスターゼが含まれているので、生のものを擦って飲むと消化を助けます。こまつなも、かぶと同じアブラナ科アブラナ属の植物です。カロチン、カルシウム、ビタミンC、食物繊維を手軽にとれる栄養価の高い野菜です。

にんじん

 原産地は、アフガニスタンといわれています。西洋種と東洋種があり、東洋種の方は、元の時代に中国から日本に入ってきました。しかし江戸時代の末期から明治に西洋種が増えて主流となり、今では、日常に出回っているにんじんは西洋種のカロチン(カロテンとも表記します)の多い品種になりました。そのほかミニキャロットなどの品種があります。東洋種で有名なのは、お正月料理に利用される京にんじん(きんとき)や沖縄でつくられる島にんじんなどがあり、これら東洋種には、色素として、βカロチンよりもカロチノイド(カロチンに似た構造を持った物質の総称)であるリコピンなどが多く含まれます。
 にんじんの栄養素は、何といっても、α、β-カロチンやリコピンといったカロチノイドがたくさん含まれていることが特徴です。βカロチンは、体内ではビタミンAとして働きます。一方で、生で食べるとビタミンCを破壊するアスコルビナーゼという酵素も含まれています。
 さて、そのビタミンAですが、別名レチノールといい、ビタミンAそのものとして存在するのは、動物の体の中だけですが、植物中にあるカロチンやカロチノイドのうち、αカロチン、βカロチンは、人間の体内でレチノールに転化して働きます。表1には換算式が示されていますが、それぞれの効力は、レチノール1マイクログラム当たりのβカロチンは、12マイクログラム。α-カロチンでは、24マイクログラムとして換算されます。2010年に改訂した文部科学省による日本食品成分表では、レチノール当量という表示で示されています。一般に出回っている西洋にんじん生皮むき100グラムには、レチノール当量で、680マイクログラム含まれています(表1)。これは、大体西洋型にんじん2/3本程度の大きさとなりますが、成人女子一日の食事摂取基準である推奨値700マイクログラムに迫るほどの栄養価の高さを示しています。
 カロチンは、なるべく油と一緒にとった方が、吸収がよくなります。カロチンは、脂溶性なので、油に溶け出て肝臓に貯蔵が利きます。そこで、にんじんは炒めたり、ドレッシングで和えたり、天ぷらにしたり、ケーキに混ぜ込むことで吸収がされやすくなります。
 体内でカロチンが変化したビタミンAは、網膜で光を感ずる色素ロドプシンの形成や成長促進作用、皮膚、角膜などの角化を防止しています。そこで、目がちかちかするとき、手のあかぎれ、しもやけなどの予防をしたいときには、にんじんを食べてみましょう。カロチノイドとともに、体の中のタンパク質や脂肪の酸化を防ぎ、活性酸素を除去して老化や発がん性を予防します。カロチンの欠乏症には、暗いところでものがみえにくい夜盲症や、角膜乾燥症があります。 
 ビタミンAとしての過剰症は、肝臓障害、妊婦は奇形児の出産率が高まりますが、これはもっぱらサプリメントでビタミンAを摂取したときの注意です。にんじんを食べ過ぎてカロチンのとり過ぎになってもビタミンAの過剰症にはならないといわれています。
 さて、そのほかににんじんに含まれるものの中には、根に含まれているアスコルビナーゼ(酵素タンパク)があります。これは、ビタミンCを破壊する力があり、生ジュースをつくって飲む場合には十分気をつける必要があります。出来ればお酢やレモンなど酸性の強いものを加えるか、熱を加えて一度ゆでてしまうことでこの酵素を死活させるとよいでしょう。何も加えず生のままのジュースを飲む場合は、少し時間を空けてからビタミンCの多く含まれるピーマン、トマト、キウイ、いちごなどを少し多めに食べておくとビタミンC不足にならずにすみます。漢方での西洋にんじんの効用では、脾臓、肺、胃の機能を上げ、消化不良、慢性下痢、激しい咳、解毒になるといわれています。にんじんは、オレンジ色の彩りが食卓を豊かにし、食欲がわく色でもあります。どんな料理にも合う万能野菜として、利用していきたい野菜の一つです。

表1 にんじん100グラムあたりの栄養価

ごぼう

 ごぼうは、日本へは、平安時代に既に中国大陸から渡っており、当時は、薬草として利用されていたようです。原産地は、シベリア、中国東北部などユーラシア大陸といわれています。栽培は関東地方が中心で滝野川ごぼうという細長い品種で高さは、150センチにもなるものです。そのほかにも中が空洞の太い品種として京都堀川ごぼう、千葉の大浦ごぼうなどがあります。ごぼうは、皮に近いところに旨味がありなるべく皮はこそげとるようにし、掘り起こしてからどんどん旨味が抜けていくのでなるべく早く調理をすることでおいしさを堪能することができます。
 ごぼうの注目される主な栄養素は、水溶性および不溶性の食物繊維です。この代表的な食物繊維としては、イヌリンが含まれています。イヌリンは、人間の消化液では消化されない糖質の一種です。しかし腸内のバクテリアにとっては、よい餌になり、二酸化炭素やメタンを作り出すため、腸にガスがたまることがあります。そのほか、食後の血糖値を上げにくくする素材として、コレステロールの吸収を抑えるなど、注目される物質です。また、不溶性の食物繊維には、ヘミセルロースやリグニンがふくまれます。とくにリグニンは、木質素といわれるもので、胆汁酸などを吸着してコレステロールの排泄を促します。そのほか、ごぼうは多くのポリフェノールを含んでおり、切り口を空気中に放置しておくと、すぐに褐変し黒ずんできます。これは、ポリフェノール類である、タンニン、クロロゲン酸などが、ポリフェノールオキシターゼというごぼうの中に含まれる酵素によって、空気中の酸素と反応して起こす作用です。体内では、余分な活性酸素によって血管が傷つけられたり、体内の脂肪が酸化して固くなるような、いわゆる『動脈硬化』の状況下では、タンニンやクロロゲン酸などが、体内の脂肪の酸化を阻止し、血管壁の傷をつけないように働きます。この作用を抗酸化作用といいます。褐変を防ぐには、酢水につけて空気中の酸素とこの酵素の接触を遮断する、または、熱を加えることで酵素を死活させます。さらに、この酵素が臭いを消す役割をしているので、臭いの強い鯉などの川魚や赤みの肉などと一緒に調理されることが多く、それらの臭み消しとして利用されています。
 このほかの栄養素としては、亜鉛、マグネシウム、銅が含まれます。また、ごぼうを煮込み料理やみそ汁などに入れると旨味が出ておいしくなりますが、これは、旨味の元となるアミノ酸のアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン、プロリンなどが比較的多く含まれているためです。
 薬用として、ごぼうには、喉の熱や咳をとるといわれており、むくみにも効くとされています。とくに、ごぼうの種子である牛蒡子は、昔から解毒作用があるとされ、感染症や発熱、乳腺炎のとき、煎じて飲む薬として使われています。

か ぶ

 かぶは、日本書記にも記述が見られることから、古代より日本の食に深く関わっていた野菜の一つです。原産地は、中央アジアとも地中海沿岸ともいわれています。かぶは、日本の各地でいろいろな種類が見られます。大きく分けるとアジア種とヨーロッパ種があり、東日本では、ヨーロッパ種が広く栽培されています。ヨーロッパ種は、寒さに強くつるりとしたものが多く、代表的なものは金町小蕪などの特徴は、根の肉質がやわらかいことです。西日本では、聖護院蕪などのアジア種が多く栽培されています。アジア種は、葉や茎に毛があるのが特徴です。そのほかにも赤かぶは、酢漬けにすると色がきれいに発色することもあり、漬け物として利用されることが多く、各地の名産となっています。
 かぶは、アブラナ科アブラナ属の植物ですが、同じアブラナ科のだいこんは、だいこん属に分類されています。栄養素は、ほとんど同じような構成となっています。それぞれ葉には、カリウム、カルシウムとビタミンC、食物繊維が多く含まれていて、カロチンを介したビタミンA効力(レチノール当量)の摂取にも優れた野菜です(表2)。また、根にはでんぷんの消化酵素であるアミラーゼであるジアスターゼを含んでおり、胃もたれを解消するのに役立ちます。相違点としては、だいこんよりも多糖類が多く含まれていて、漬け物にするとネバネバしたものが出てきます。また細胞への調味液の浸透もだいこんより早いために、浸かり具合も時間が短くてすむために、即席漬けなど時短料理にも重宝します。
 かぶには、解毒作用があるといわれていますが、グルコシアネート、アブラナ科に特徴的に含まれるイソチオシアネートという揮発性の抗酸化物質が含まれています。このため、炎症や痛みがあるとき、疲れているときに召し上がっていただくとこれらの抗酸化物質の効果が期待できる食材です。漢方では、解毒、利尿、胸焼け、黄疸、咳、解熱に効くとされています。食べ過ぎ、胸焼けのときは、かぶ根をすってその汁を飲むとよいとされています。
 料理法としては、灰汁が少ないので、そのまま下ゆでせずに利用できるところが、大変重宝です。フライパンにオリーブオイルとみじん切りのにんにく、皮を剥いて5ミリぐらいの厚さに切り分けたかぶの根を入れて炒め、火が通ったら、3センチほどの長さに切りそろえたかぶの葉を入れて、再びさっと炒め、塩胡椒をして、フライパンのふたを閉めて1から2分蒸し焼きにして火が通ったところで、胡麻か松の実を入れて仕上げます。食欲のないとき、カルシウム不足、便秘のときなどにはおすすめの一品です。

こまつな

 こまつなは、江戸時代に今の江戸川区にあった小松川で栽培されていたのでその名のついたアブラナ科アブラナ属の植物です。原産地は中国といわれています。冬につくられる菜を総称して呼ぶ、冬菜の一つであり、別名雪菜とも呼ばれます。また、うぐいす菜というのは、こまつなの若菜にあたる同種類とされています。だいこんではなく、かぶとおなじ属に入ります。かぶ同様、カリウム、カルシウム、ビタミンA効力(レチノール当量)を多く含みます(表2)。アブラナ科の植物は、アカザ科ホウレンソウ属のほうれんそうに含まれるカルシウムで約3倍程度を含みます(表2)。骨粗鬆症予防には、カルシウムの吸収率をあげるために、酸を加えた胡麻酢であえたものや厚揚げとの煮浸しにして、厚揚げの大豆タンパク質および油脂成分と組み合わせることが有効と考えられます。また寒さに強く、霜にあたると植物が凍結予防のため本体にあるでんぷんを糖化し甘みが増します。
 下ゆでをしなくても灰汁が少ないので食べられますが、灰汁のひとつである硝酸塩は、硝酸イオンとして100グラム中に0.5グラム(食品成分表より)と比較的多く含まれているので、食べ合わせとしてハム、ソーセージ、たらこ、などアミンが含まれている成分と組み合わせると発ガン物質を生成する恐れがあるとされます。そのため、こういった食材と組み合わせるときは、なるべく下ゆでをして、硝酸塩を湯でこぼしてしまう方が良いでしょう。
 こまつなの効能は、カリウム、食物繊維がとれるので、便秘の予防になります。またビタミンAの前駆体としてのプロビタミンAであるカロチンを多く含んでいるので、粘膜や肝臓を強化しOA機器を使って、眼精疲労があるときなどには、にんじん同様、目の疲れ、肝臓の疲れを軽減するとされています。外食が続いたり、こってりしたものをたくさん食べたりお酒をたくさん飲んだ翌日、胃腸の様子がおかしいときには、こまつなのおひたしを常備しておき、毎食少しずつ食べることで胃腸、肝臓などの調子が整います。常備菜としてのおひたし、みそ汁の実、煮物、炒め物にして毎日召し上がっていただくと、一層効果が期待できるでしょう。

表2 アブラナ科の植物100グラムあたりの栄養価


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