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意外とスゴイ、冷凍野菜

社団法人 日本冷凍食品協会
総務部 部長 種谷 信一


要約】

 社団法人日本冷凍食品協会の実施した「業務用冷凍食品ユーザー調査」の結果によれば、業務用冷凍食品の仕入金額に占める農産物(野菜・果実)の割合は、全体の平均では13.2パーセントと低い数字にとどまっていますが、弁当、惣菜などの中食産業では、33.4パーセントと積極的に利用されています。
 また、冷凍野菜は、マイナス18度以下という低温に保つことで栄養を損なうことなく長期間品質を保つことができるとともに、前処理が必要ないために包丁を使う必要もなく、生ゴミも出しません。さらに、長期保存が可能なことから周年安定供給できるメリットもあります。

冷凍食品とは

 社団法人日本冷凍食品協会(以下、「冷凍食品協会」という。)では、冷凍食品の優れた特性を広くPRするため、業界統一のキャッチコピーを平成22年度に制作しました。それが「意外とスゴイ、冷凍食品」です。
 「意外とスゴイ」というと、「何がスゴイの?」と思われることでしょう。それについては、キャッチコピーと併せて作ったロゴの中に「ここがスゴイ4つのポイント」として、次の点を挙げています。

① 冷凍状態では細菌が活動できないので、衛生的。
② 食材の細胞を壊さず、栄養価もそのまま。
③ 急速凍結で、とれたてつくりたてのおいしさをキープ。
④ しっかりした安全管理で、信頼して使える。

 冷凍食品は、今では日本の食生活にすっかり定着していますが、単に「便利だから」というだけで使っている方も多く、その特長が十分に理解されていない面があります。そこで、「意外と」という言葉を頭に付けて、さらに、その特長を4つのポイントに整理したわけです。
 これら4つのポイントについては、もう少し詳しい説明が必要ですが、その前に冷凍食品の定義を明確にしておきたいと思います。凍っている食品のすべてが冷凍食品というわけではないからです。
 冷凍食品協会の認定制度では、冷凍食品の定義を「選別、洗浄、不可食部の除去等の前処理及びこれらを加熱、調味、成型処理等を行ったものを急速凍結し、凍結状態で保持した包装食品をいう」と定めています。また、その品温は「マイナス18度以下であること」としています。これは、おおむね世界共通の定義といえます。
 この定義における「前処理」、「急速凍結」、「包装」、「マイナス18度以下」を冷凍食品の4つの条件と呼んでいます。ですから、前処理を施していない丸のままの魚を冷凍したものや、流通過程の途中で解凍されて生鮮品やチルド食品として販売されるものは、冷凍食品に該当しません。先ほどの4つのポイントは、この4つの条件に合致するものだけに当てはまるものです。
 では、4つのポイントの説明に入ります。
 まず、①について、細菌の中には低温細菌といって、かなり低い温度でも活動するものがありますが、それでもマイナス12度より低い温度で活動できる細菌は確認されていません。ですから、マイナス18度以下では細菌が繁殖する心配はまったくありません。冷凍食品が長期間保存できるのは、細菌が繁殖できない低温に保っているからで、ほかの手段は使っていません。
 ②は栄養価について、③はおいしさについて述べていますが、いずれも急速凍結後、マイナス18度以下に保つことで守られています。どれくらいの温度で何分以内に凍らせれば急速凍結と呼べるかについては、食品の種類や大きさによって異なるので、明確な基準はありませんが、冷凍食品工場ではマイナス30度からマイナス40度の凍結装置を使って急速凍結を行っています。マイナス18度以下というのは保存するための温度であって、急速凍結するには、もっと低い温度が必要なのです。
 液体には、ゆっくり凍らせると大きな結晶になり、速く凍らせると小さな結晶になるという性質があります。食品中の水分が凍るとき、氷結晶が大きくなると細胞を壊してしまい、解凍したときに細胞内の栄養成分やうまみ成分が流れ出し、組織が壊れて食感が悪くなったりします。
 このようなゆっくりした凍結を緩慢凍結と呼びますが、保存のための温度であるマイナス18度で凍らせると、ほとんどの場合が緩慢凍結になってしまいます。家庭の冷凍冷蔵庫の冷凍室の温度は、急速凍結機能を備えた機種以外は一般にマイナス18度よりほんの少し低い程度です。この温度で凍らせるホームフリージングでは緩慢凍結になります。ここが冷凍食品工場で作られる冷凍食品との大きな違いです。
 最後の④については、冷凍食品協会会員の各メーカーでは、原材料の徹底した管理、製造工程のチェック、従業員の教育など、冷凍食品認定制度にもとづいて安全対策をきちんと行っているので信頼して冷凍食品を使っていただきたいということです。このように徹底した冷凍食品認定制度に合格した製品には、「認定証マーク」が付いています(図1)。

図1. 冷凍食品の認定証マーク

冷凍野菜の種類

 冷凍食品には、水産冷凍食品、農産冷凍食品、畜産冷凍食品のような素材冷凍食品と、調理や半調理を施された調理冷凍食品や菓子類がありますが、本誌は「野菜情報」ですので、ここから先は農産冷凍食品の中の冷凍野菜に絞って話を進めます。
 さて、皆さんは、冷凍野菜(略して凍菜とも呼ばれます)というと何を思い浮かべますか。スーパーの冷凍食品売場には、ミックスベジタブル、えだまめ、かぼちゃ、いんげん、ほうれんそうなどが並んでいますね。多くの方は、そうした市販用の冷凍野菜を思い浮かべることでしょう。
 これに対して、外食産業や給食、あるいは弁当や総菜などの中食産業で使われる業務用の冷凍野菜は、それが冷凍であったかどうかは意識しないで食べているため、どんな種類があるのか、あまり知られていないと思います。
 冷凍食品協会の統計によれば、冷凍食品の種類は5,147種類に及びます。ここでいう1種類とは、例えば「えびフライ」がいろいろなメーカー、サイズで作られていても1種類として数えた数字です。ですから、「A社のBという商品の何グラム入り」というのを1種類として数えるアイテム数となると、正確な数字は把握できていませんが、その何倍にもなるはずです。
 この5,147種類のほとんどが調理冷凍食品で、冷凍野菜はわずか169種類ですが、スーパーの売場で見られるものは多くても20種類程度ですから、169というと、「そんなにあるの!」と驚かれるかもしれません。現在の技術で冷凍食品として商品化できない野菜は、レタスやサラダ菜のような生でパリッとした状態で食べる葉菜類だけだといわれています。それ以外の野菜は、ほぼ何でも冷凍食品となっているといってもよいでしょう。ただし、その多くは業務用商品です。

冷凍野菜の利用状況

 冷凍食品協会が先ごろ実施した「業務用冷凍食品ユーザー調査」の結果によれば、食材仕入金額に占める業務用冷凍食品の割合は、全体の平均が35.1パーセントで、業態別では、「弁当・惣菜・デリカテッセン(洋風惣菜店)」が47.2パーセント、「ケータリング(パーティー料理などを顧客のもとへ出向いて調理・提供する業態)」が46.1パーセント、「事業所給食」が45.1パーセントで、この3業態が45パーセントを超える高い割合を示しています。
 さらに、業務用冷凍食品の仕入金額に占める農産品(果実を含む)の割合は、全体の平均では13.2パーセントと低い数字にとどまっていますが、「弁当・惣菜・デリカテッセン」は33.4パーセントで、群を抜いて高い数字となっています。つまり、この業態では、食材仕入金額全体の約16パーセントを冷凍野菜が占めていることになります。冷凍野菜は食材の中でも1キログラム当たりの価格が安いものですから、重量に占める割合はもっと高くなるはずです。
 では、業務用のユーザーは、どのような冷凍野菜を使っているのでしょう。これも同調査の結果ですが、「仕入れている」と答えたユーザーの割合が最も高かったのは、フレンチフライポテト(72.4パーセント)で、これに次ぐのが、えだまめ(57.3パーセント)、第3位が、さといも(51.5パーセント)という結果になっています(図2)。

 家庭用冷凍食品については同様の調査はしていませんが、スーパーなどの売上高を集計したデータによると、冷凍野菜では、えだまめやポテトが上位にランクされています。
 冷凍野菜の国内供給量(国内生産量と輸入量の合計で、日本からの輸出はほとんどありません)を見ても、ポテトが圧倒的に多く、第2位がえだまめです。ポテトはハンバーガーとのセットで、えだまめはビールのつまみとしておなじみですから、この数字はうなずけるものと思います(表1)。

冷凍野菜のどこがスゴイの?

 さて、本稿には「意外とスゴイ、冷凍野菜」という表題を掲げました。冷凍野菜も冷凍食品の中のひとつのジャンルであるからには、冒頭でご紹介した業界統一のキャッチコピーと4つのポイントが当てはまるからです。
 4つのポイントの中でも、野菜については、特に栄養価が気になるところですが、冷凍されたものは生鮮のものより栄養価が低いと思っている方も多いのではないでしょうか。実際はどうなのでしょう。
 栄養素の中で最も壊れやすいもののひとつがビタミンC(アスコルビン酸)だといわれています。ですから、栄養価の変化を見る場合、これを指標にすれば、ほかの栄養素はこれよりも変化が少ないといえます。
 ディートリッヒという研究者が1957年に発表した実験結果によれば、グリーンピースに含まれるビタミンCは、マイナス1度で保存した場合およそ20日でほとんど消失し、マイナス12度でも1年間で4分の1以下になってしまいます。ところがマイナス18度で保存すると、1年たってもほとんど減少しません。
 実は、マイナス18度という世界共通の冷凍食品の保存温度は、米国の農務省が1948年から約10年の歳月をかけて行った食品の冷凍保存実験の結果、食品の当初の品質を1年間保つことができる温度として導き出されたものなのです。ここでいう品質には、もちろん栄養価も含まれます。さらに、野菜の中でも、にんじんやかぼちゃはマイナス18度で2年間も品質が変わらないことが明らかになっています。
 冷凍野菜は、マイナス18度以下という低温に保つことで長期間品質を保っているので、開封後でも、袋の口をきちんと閉じて、すぐに冷凍室に戻しておけば、開封前と同じように保存することができます。つまり、必要な分だけを取り出して、残りを腐らせることなく最後まで使いきることができるので、無駄が出ないということです。これは、1回の調理で少量しか使わない単身や少人数の世帯にとっては大きなメリットになります。
 また、前処理として、不可食部分を取り除き、そのまま使える形や大きさにカットしてあるので、包丁を使う必要がなく、生ゴミも出ません。これは、便利であるだけでなく、食べられない部分を産地から消費地まで運び、消費地でゴミとして収集して処理することに要するエネルギーを削減することにもなります。
 さらに冷凍野菜は、ブランチングといって凍結前に固ゆで程度にゆでたり蒸したりしてあるので、調理の際の加熱時間も少なくて済みます。ブランチングは、野菜自身が持っている酵素の活性を止めて、栄養素や色素が分解されるのを防ぐために行われるものですが、調理の現場で省エネ効果を発揮することにもなります。
 これを別の面から見ると、冷凍野菜を使う際の注意点としては、加熱し過ぎないことが一番のポイントになります。「冷凍野菜はふにゃふにゃで歯ごたえがない」と思っている方は、煮過ぎたり、ゆで過ぎたりしているのです。調理の際に適切な加熱をすれば、生鮮野菜を買ってきて加熱調理したものとほとんど変わらない食感が得られるはずです。およその目安として、ブランチングで8割程度の加熱が済んでいると思ってください。調理の際は、残りの2割程度加熱すればよいのです。
 冷凍野菜は、契約栽培された野菜を、最もおいしく栄養価も高い旬の時期に収穫し、産地近くの工場で直ちに前処理し、急速凍結されます。それをマイナス18度以下で保管し、流通させているので、価格が周年安定しています。業務用のユーザーにとっては予算が立てやすく、市販用のユーザーにとっても、生鮮野菜の価格が高騰したときには家計の助けになります。
 いかがですか。「冷凍野菜って、意外とスゴイ!」と思っていただけたでしょうか?


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