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『秋野菜の効能』

女子栄養大学栄養クリニック
教授 蒲池 桂子


要約】

 代表的な秋野菜としてかんしょ(さつまいも)、れんこん、しゅんぎくとしいたけを取り上げた。でん粉をたくさん含んでいる甘みのある野菜としてのかんしょ、ビタミンCの多いれんこん、カロテンの多く含まれるしゅんぎくは、乾燥した空気や冷気から、粘膜組織を強くする働きがある。また、茸も秋の味であるが、しいたけには、抗がん作用、ビタミンB群など免疫力を高める働きがあり風邪の予防にも有効である。

はじめに

 実りの秋、夏には日差しをたくさん浴びた葉は、秋の日没が早くなると枯れていきますが、地下茎ではでん粉が蓄えられて、秋に収穫される作物は、糖質が多く含まれるものが増えます。また冬に向け、葉もの野菜や茸類が旬を迎えます。人間の体も季節に合わせて代謝に変化が現れます。周囲の温度が低くなってくると、代謝量が増え、寒さに抵抗するための冬支度を行うように働きます。自然と食欲がわいてくるのもうなずけます。このときに、旬の野菜やそのほかの食べ物を食卓に取り入れることによって、必要な栄養素を取ると、天気の変わりやすさ、乾燥、冷気などに対抗する体作りができます。すると体調不良を起こしにくく、起こしても対処しやすい体になります。

かんしょ(さつまいも)


かんしょ(さつまいも)は、米国の熱帯地域が原産といわれていますが、日本には、17世紀に入って中国から薩摩地方に入ってきました。その後、江戸時代の飢饉のときに江戸幕府のもと飢饉でも育ちやすいでん粉質の作物として普及していきました。品種は多岐にわたり、芋の部分が、白、黄色、紅紫、オレンジなど、色によって、抗酸化作用のあるポリフェノールの種類や量が違います。芋の色が紅紫の品種では、抗酸化作用で注目されるアントシアニンが多く、オレンジ色のものはカロテンを多く含んでいます。栄養素は、でん粉質と糖類、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖などを含みます。また、ビタミンB1、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミンが含まれています。ビタミンCは、加熱をしても壊れにくいために、100グラム当たり29ミリグラムではありますが、200グラム程度を食べると1日必要量の半分を摂取することになり、重要なビタミンC源ともなります。食物繊維のセルロースが多く、切り口からは樹脂配糖体のヤラピンという白い乳状粘液が出ますが、この物質は、便を柔らかくする効果が認められているので、セルロースの存在とともに、便秘の予防になります。また、ヤラピンは皮の部分に多く含まれており、胸焼けの予防にもなり、かんしょはなるべく皮付きで食べた方が良いといわれています。
 調理に際しては、加熱によって甘みが増します。かんしょには、でん粉の分解酵素であるβアミラーゼが多く、加熱することでこの酵素が働き、麦芽糖ができ甘みが増します。この酵素作用は、50から55度で良く働き75度で死滅します。この酵素が活性化する温度を長く保つことで糖化がすすみ、甘みが増します。そのため、電子レンジで調理をすると、短時間高熱処理となり糖化がすすみにくく、できれば時間をかけて蒸す、またはアルミホイルなどにくるみ、蒸し焼きにするのがおすすめです。また、切ったまま放置しておくと、その部分が褐変しますが、これは、かんしょの中のポリフェノールが酸化したための反応です。また黒ずんでしまうこともありますが、これは芋の表皮から内皮の部分に分布するクロロゲン酸と呼ばれるポリフェノールの一種によるもので、コーヒーに多く含まれていることが知られています。しかし、お正月料理のきんとんなど色をきれいに仕上げたい料理では、ミョウバン水につけて灰汁抜きをします。

れんこん


 原産は諸説ありはっきりしませんが、2000年以上前から日本に在来していたといわれています。食用となったのは鎌倉時代あたりからといわれています。食用れんこんは、現在は中国種が主に流通しています。中国種は、在来種よりもシャキシャキして粘り気が少なく、ふっくらしているのが特徴です。在来種は現在では一部の地域で栽培されるだけになっています。れんこんには穴があいており、見通しが利くとして、おせち料理などの材料に使われますが、収穫期は晩夏から秋にかけてです。糖質が多く含まれ、ビタミンCが豊富です。図1、2に示すように、れんこんは100グラム当たり含まれるビタミンCが48ミリグラムと、芋類に比べてかなり多く含まれており、しかもほかの芋と同じように熱に強いです(図1、2)。風邪やしみ、吹き出物の予防にビタミンCによる抗酸化作用が期待できます。また、貧血の鉄不足、骨粗鬆症のカルシウム不足のときには、鉄の多い食品であるひじきや貝類とカルシウムの多く含まれる食品である小魚と一緒に炒めて食べると、それぞれの吸収率を上げる働きをします。
 そのほか、タンニンをはじめとしたフラボノイド類が多く含まれますが、空気中にさらされると酸化して黒ずんでしまうので、酸化を止めるためには、酢水にさらす、酢水でゆでるなどの処理をして調理をします。しかし、これらのフラボノイドは抗酸化作用があり、タンニンには、消炎、収斂作用があり、消化管にできた傷口に直接作用して出血を抑える作用があるといわれています。タンニンを利用し、生のままをすりおろしたものであれば、解熱作用、鼻血を止める、蟹毒、食欲不振、アルコール中毒、産後の激痛などに効果があるそうです。そのほか痰を防ぎ、呼吸を調節、激しい咳に有効とされています。また、生のれんこんをすりおろし、ショウガ汁と合わせ、塩少々を加え、沸騰直前まで火を通したものを服用すると良いといわれています。
 普段の食卓では、れんこんは、酢水を沸騰させて、サッとゆで、シャキシャキ感を残してサラダにするものおすすめです。また、じっくりとゆで、でん粉がα化してホクホクしたところを田楽や煮物にするのもおいしいです。

図1 ビタミンC含有量(野菜100グラム当たり)

図2 エネルギー量(野菜100グラム当たり)

資料:女子栄養大学出版部 食品成分表2011

しゅんぎく


 しゅんぎくの原産地は地中外沿岸ですが、日本では江戸時代から栽培され始めたといわれています。また、関西では菊菜ともいいます。キク科の植物で、緑黄色野菜としては、100グラム当たりカロテンの含有量5300ミクログラムと多く、ゆでた葉でみるとグラフに示したように、ほうれん草とほぼ同じ、小松菜よりも多くなっています(図3)。ゆでた状態で100グラム当たりのカルシウムが120ミリグラム、葉酸190ミリグラムと、心筋梗塞などの発作を防ぎ、動脈硬化を予防するために必要な栄養素が豊富です。特に、カルシウムは、ドレッシングなどお酢やレモン汁と一緒にとることで吸収率が上昇し、カルシウムの含有量が多いとされる牛乳や小魚など動物性食品以外のカルシウム源として重要です。また動脈硬化や心筋梗塞の予防に必要な葉酸の1日の摂取推奨量は240ミリグラムとされていますが、しゅんぎく80グラムでこの半分を摂取できます。このほかにも、アミノ酸が多く含まれており、特に、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニールアラニンなどが比較的多く含まれているため、旨味成分が濃く、灰汁が少ない品種であれば、下ゆでをせず、生のまま、そばや鍋物に入れると料理の旨味が濃くなります。アスパラギン酸は疲労回復に役立ち、フェニールアラニンは、脳内の神経伝達物質になる必須アミノ酸で、気分の落ち込みを緩和し、鋭敏さとバイタリティーを生み出すといわれています。特有の香りは、ベンズアルデヒドによるもので、胃腸の働きを促し、痰を切るといわれています。   
 最近は、生でサラダとして食べることのできる灰汁の少ない種が多く出回っているので、すりごまとポン酢、サラダ油を適宜混ぜたドレッシングをザクザクと切ったしゅんぎくにかけて、そのまま召し上がってみてはいかがかと思います。

図3 ベータカロチン含有量(野菜100グラム当たり)

資料:女子栄養大学出版部 食品成分表2011

しいたけ


 日本でしいたけが食用とされたのは、室町時代からといわれています。東アジアでは、古くから食用となっていました。西洋のフクロダケ、マッシュルーム、しいたけといえば、世界三大きのこです。広葉樹でブナ類の木(コナラ、ミズナラ、クヌギ、栗、カシ)などタンニンの多い木の枯れ木に発生します。現在、流通しているしいたけは、原木栽培品か菌床栽培品かを商品に表示することになっています。おいしいものは、傘が肉厚、丸形といわれています。
 栄養成分としては、エネルギーは生しいたけ100グラム当たり18キロカロリー と低く、ビタミンB群特にビタミンB6が多く、しいたけの中に含まれるエルゴステロールが、太陽にあたるとビタミンDに変わります。ビタミンB6は、ストレスや神経に作用し、リラックス効果を高め、貧血や心筋梗塞などの予防にも大切なビタミンです。また、ビタミンDは、骨の形成に必要なビタミンです。太陽の下で干した干ししいたけには含有量が多く、乾燥すると旨味成分が出てきます。旨味成分であるグアニル酸、グルタミン酸、ヒスチジン、アラニン、ロイシン、フェニールアラニン、バリン、アスパラギン酸が豊富で、中でもグアニル酸とグルタミン酸による旨味成分は、生しいたけでも30分ぐらい干すことによって含有量が増えます。そして、これらの旨味成分であるアミノ酸は、新陳代謝を促し、脳や神経系統の栄養素として欠かせない物質なのです。干ししいたけのだしを一口飲んで、おいしいと感じるとき、脳にその信号が伝えられ、リラックス効果が得られます。また、多糖類を含んでおり、免疫が活性化することがわかってきていますので、冬の風邪を予防するのには大変都合の良い食品です。食物繊維として、βグルカンを含み、構成成分の一つ、レンチナンという物質に強力な抗がん作用があることがわかっています。多糖類レンチナンは、免疫賦活効果があるといわれています。NK細胞、補体などの活性化により、抗腫瘍効果、発ガン抑制効果、転移抑制効果にも有用といわれ研究が進められています。このほかにもエリダニンという物質を含んでいますが、これはしいたけ特有の物質で、コレステロールの低減効果があるといわれており、しいたけを毎日食べることで動脈硬化の予防につながるといわれています。
 以上のように、ここでとりあげた秋の野菜には、免疫力をあげて夏の疲れをとり、きたる冬に向けた体力増強のためのさまざまな栄養素が豊富に含まれています。これら旬の野菜の旨味を噛み締め、効能を考えながら召し上がっていただくとおいしさもひとしおに感じるのではないかと思います。


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