『夏野菜の効能(その2)』
女子栄養大学栄養クリニック
教授 蒲池 桂子
【要約】
夏野菜で取り上げた食品は、スイートコーン、オクラ、かぼちゃとえだまめである。そのままでもゆでて食べられるスイートコーンには、疲労回復につながるビタミンB1,B2、便秘の解消となる食物繊維が多く含まれる。オクラに含まれるネバネバは、胃腸の粘膜を保護して免疫力を上げる。またかぼちゃには、βカロチンが多く含まれ、紫外線による日焼けを防止する効果があり、さらに種子にはミネラル不足を補う効果がある。えだまめは、良質のタンパク質が含まれ、葉酸が多く含まれ心筋梗塞や貧血の予防になる。
夏野菜は、強い日差しを受けて育ち、紫外線から身を守るための抗酸化物質に富んでいます。また近年の改良によって甘みや旨味が増し、食欲が落ちる夏の時期の副菜として、またダイエット、間食、そして酒の肴にもおすすめです。民間療法では、虫さされやむくみなどの対策にも利用してきたようです。夏野菜の中でもでん粉の多いのが、スイートコーンとかぼちゃ、タンパク質が多いのが大豆の若さやであるえだまめです。また夏野菜にはぬめり成分を含むものが多いですが、オクラはぬめりのある代表的な夏野菜です。湿度および気温の上昇にもめげず、体調を整えるためにも野菜の底力を知って上手に夏を乗り切りましょう。
南アメリカ、アンデス地方原産のイネ科の植物です。成熟したものは、主食として利用されるため、世界3大穀物(イネ、小麦、トウモロコシ)で穀物に分類されていますが、スイートコーン種は、野菜として利用されています。もともとは、古代アステカ、マヤ人が栽培を始めたといわれており、日本には、16世紀にポルトガル人によってもたらされたとされています。江戸時代はもっぱら穀物として食べられていたものが、大正時代に野菜として「ゴールデンバンタム」という品種が栽培され、戦後、昭和30年代になってスープや煮込み料理などに使える「ゴールデンクロスバンタム」種、その後、甘みの強い品種「ハニーバンタム」などが代表的なものとなり、最近は、同じコーンの中に色の違う白、黄色、紫などの混じった「ウッディーコーン」、白粒種の「シルバー系」などもあります。またベビーコーンと呼ばれるものは、これらゆでて食べる品種をさらに若採りしたものです。最近市場に出回っているベビーコーン以外の品種は、大正時代に一般流通していたスイートコーンに比べると10倍以上の甘みを保持しているといわれています。なるべく収穫後早く食べることが甘くやわらかい実を味わえる方法とされていますが、収穫時すぐに1からマイナス1℃程度の低温で保存することによって、糖分のでん粉化の速度を抑えることができそのために甘みの減少を抑えることになるそうです。実が穂先まで詰まった、色の鮮やかな、粒のそろったものを選びましょう。保存は買ってきてからなるべく早くゆでてから冷凍冷蔵をすることが甘みを保持するためにはよいようです。
栄養素は、1本で大体160キロカロリーとちょうどおにぎり1個分のエネルギーです。ケーキ1つ320キロカロリーに比べると半分のエネルギーで十分満足できるおやつといえます。また夏の疲労回復に必要なビタミンB1、B2、カリウムが多く含まれている上に、腹持ちをよくする食物繊維を含んでいるので便秘予防になります。夏のダイエットに、おやつとして取り入れていただくとよいでしょう。ただし、食物繊維が多く含まれるために冷たいお茶やドリンクで流し込むように食べてしまうと、胃腸が冷え、消化力が落ちてしまい下痢になることもあります。よく噛んで食べましょう。
トウモロコシの頭についているひげ(受粉前のめしべの花柱)には、利尿作用があるといわれ、お茶にして煎じて飲む場合があります。ヒゲ毛は、漢方で南蛮毛といわれますが、乾燥させたもの(雌花)は、10グラムを400シーシー水で半量になるまで煎じたものをこして一日3回に分けて飲むと利尿作用があるといわれています。コーンスープは、ゆでたスイートコーン2本をほぐして、タマネギ1/2個をみじん切りにしてよく炒めたものと水分を1カップいれて煮立て、これをフードカッターでポタージュ状にし、鍋に戻し、さらに水か牛乳1カップと固形スープの素1/2を入れて煮立たせるとできあがりです。
原産地はアフリカ東北部で、アオイ科の一年草植物です。美しい花は、夏から秋にかけて咲き、実はある程度の大きさで収穫しないとどんどん固く大きくなって食べにくくなります。品種は、断面が五角形になるものと丸形のものがあり、色は、緑、赤、黄色などがあります。日本に伝わってよく食べられるようになったのは1970年代からで、その多くは緑色の品種です。
オクラは、やわらかいものであれば生のままでも、また一般的には、ゆでてから食べますが、その際に独特の粘性をもっています。これは、水溶性の食物繊維であるペクチンと多糖類とタンパク質の結合した糖タンパクの一種です。食物繊維であるペクチンは、リンゴやみかんの皮などに含まれているもので知られていますが、食後の血糖値上昇を抑え、血糖のコントロールによいとされています。そのほか、腸内で良性腸内細菌の餌となり、腸内の細菌群層を良質に保つ役割をします。
何の食材とでも比較的合うので、とろみをつけるのに使われることが多く、ゆですぎるとせっかくのとろみが水に溶けてしまうので、おひたしにして食べる場合には、ゆですぎないようにするとおいしくなります。また、スープに入れることによってとろみをつけることができ、胃腸に優しいスープとなります。アメリカ合衆国南部料理で有名なケイジャン料理ではガンボスープが有名です。簡単ガンボスープの作り方:
サラダ油かオリーブ油でニンニクのみじん切り、タマネギのみじん切りを炒め、塩こしょう、オレガノ、クミンパウダーを振って、下味をつけておいた鶏肉(海老、貝類を入れると本格的になる。)を入れて炒め、セロリ、トマト、ピーマン、オクラを一口大に切ってさっと炒めたら、水を加えて煮込む。塩こしょう、タイム、チリペッパーがあれば加えて味を整える。またオクラは、最後の10分前ぐらいに入れて仕上げにすると色よく仕上がります。
日本での栽培されているかぼちゃの種類は、日本かぼちゃ(モスカータ種)、西洋かぼちゃ、ヘポかぼちゃに大別できるといわれています。かぼちゃは瓜科の中でもでん粉質、カロチンをはじめとしたビタミンの含有量の多い野菜です。原産地は、日本かぼちゃはメキシコなど中南米、西洋かぼちゃは、ペルーなど南米といわれています。16世紀初頭に日本かぼちゃがポルトガル船でカンボジアから入って来ました。またヘポかぼちゃは、もともとは南米の高原地帯が起源で、中国から19世紀末にそうめんかぼちゃ、錦糸瓜などが入ってきました。しかし、明治以降、ほくほくした西洋かぼちゃが消費の主流となりました。
特に、西洋かぼちゃは、糖質の含有量が全体の20パーセントとでん粉質に由来するほくほくした食感があり、さらにβカロチン、ビタミンC、ビタミンE(α-トコフェロールとして)、食物繊維で、ほかの品種よりも含有量が多くなっています(表1)。中でも、βカロチンは体内でビタミンAとして働くので、100グラム食べただけでもビタミンA効力としても、330マイクログラムと一日の成人女性摂取推奨量である700マイクログラムの約1/2量にあたり、感染症に対する免疫力を強化し、紫外線などの影響から眼を守る抗酸化作用が期待されます。また、ビタミンCはでん粉質と一緒になっているため、ばれいしょなどの芋類と同様、加熱に強いのです。一方日本かぼちゃの消費量は少なくなっており、今では特定の産地で栽培される程度になってきていますが、西洋かぼちゃに比べてエネルギー量が低いことから、ダイエットにも向きます。そのほか、そうめんかぼちゃあるいは、糸かぼちゃは、中身をゆでると錦糸状にほぐれることから、この名前がつきました。こういったヘポかぼちゃ類は、サクサクしており、糖質も少なく、さっぱりとしているのが特徴です。新種の野菜としてのズッキーニもヘポかぼちゃの一種です。かぼちゃは夏から初秋が旬ですが、暗いところで30日寝かせると甘みが増します。
ところで、かぼちゃの皮、ワタ、種子は、栄養価が高く、ワタのβカロチン含有量は、果肉よりも多くなっています。また、種子にはタンパク質がたっぷり含まれており、煎ったかぼちゃの種子に含まれるタンパク質は、26.5パーセント、アーモンドで18.6パーセント、くるみ14.6パーセント、甘栗(中国産)で4.9パーセントと多く含まれています(日本食品成分表改訂最新版2011年発刊より抜粋)。栄養素もリン、鉄、マグネシウム、亜鉛、ビタミンB1、B2などが豊富に含まれています。民間療法では、種子は、煎って食べると母乳不足、高血圧に効く、黒焼きにして蜂蜜と練り合わせると喉の痛み防止になるなどが言い伝えられています。その他、かぼちゃの花や葉は、揉んで患部につけると虫にさされたときに効くとされています。
えだまめは、大豆の実が固く熟す前に収穫したわかい大豆のことです。大豆とは、五穀に含まれる米、麦、粟、豆、キビ(ヒエ)のなかに含まれる豆をさし、一般的には、豆類として扱われますが、えだまめは、生野菜として市場に出まわります。大豆は、豆科の一年草で、原種は、東アジア各地に自生するツルマメといわれています。中国東北部で栽培化されて、中国、朝鮮、日本に伝播しました。えだまめは、大豆の若さやを収穫したもので、古くは、平安時代から食べられていたといわれています。そのうちに日本全国で在来種が生まれて、早生で豆が大きくて色が新鮮なものが選ばれていきました。しかし、近年では差別化を狙って、旨味深いといわれる山形県の「だだ茶豆」や丹波地方の黒豆の早生種などが出回っています。スイートコーン同様に、収穫して2日ぐらいで急激に甘みが落ち固くなっていくのですが、枝葉の着いたものは、変化しにくく旨味を保つのに優れています。
大豆(国産)とえだまめをゆでたもの100グラムあたりで比較してみると、ほとんど炭水化物量とタンパク質量としては変わらないものの、大豆は脂質の含有量が増え、それによってエネルギー量が増えています(表2)。
一方、えだまめでは、葉酸が多く含まれており、さらに大豆には見られないビタミンCも期待できます。葉酸は、ビタミンB群に含まれる水溶性の栄養素で、心筋梗塞の予防や痴呆症状を予防するのに有効なビタミンです。また、悪性貧血や口内炎などの予防にも効果があります。成人男性及び女性とも一日の摂取推奨量が240ミリグラムなので、えだまめをゆでて50グラム(67キロカロリー程度)食べるだけでも推奨量の約半分の130ミリグラムがとれることになります。タンパク質の質も大豆と同じなので、お米であるご飯との相性が良く、植物性のタンパク質でありながら、米飯と一緒に食べることによって、筋肉や体の組織に必要な成分を摂取できる良質なアミノ酸バランスを保つことができます。
おいしくゆでるには、はじめにえだまめを塩で軽くもんでおき、しばらく置いておきます。塩は水1リットルあたり大さじ2杯程度でお湯を沸かし、沸騰したところにえだまめを入れて4分ぐらいで取り出し、そのままざるに上げて水気を飛ばします。
えだまめといえば、ビールと一緒にまずは昼間の疲れをいやすために欠かせない食品ですが、ビタミンB群が多く、疲れを取るための補酵素の補給になる反面、プリン体も多く含まれているため、『何事も過ぎたるは及ばざるごとし』のことわざにあるように食べ過ぎには気をつけていただくとよいと思います。