レタス後のマルチ・トンネルを利用した
寒玉系キャベツの4,5月どり生産
-品種・被覆方法について-
兵庫県立農林水産技術総合センター・企画調整経営支援部
研究主幹 小林 尚司
【要約】
淡路農業技術センター内のほ場において、レタスのマルチ栽培での収穫終了後の畝をそのまま利用して、寒玉系キャベツを1月中旬に定植し、保温被覆方法の違いについて検討したところ、マルチ+トンネル栽培区が最も収穫時期が早く4月下旬収穫が可能となり、続いてマルチ+べた掛け栽培区で平均6.6日遅れ、マルチ栽培区ではさらに9.4日、裸地栽培区ではさらに9.9日遅くなった。品種の特性では、「YR-春空」、「寒玉6号」、「N-0553」、「来喜」で収穫が早く、結球重では「YR-天空」、「さつき女王」、「YR-春空」、「SE」が1,300g以上と大きかった。「さつき王」、「初恋」、「凜」は花芽分化が発生しやすく本作型には不適であった。以上より、早晩性の違う品種、保温被覆としてトンネルやべた掛け栽培を組み合わせることにより、4月下旬から6月上旬までの連続出荷が可能となった。
淡路島南部の平野部では、冬期の温暖な気象条件を利用して秋~翌年の春にかけてレタスの多毛作が行われている。しかし、同一圃場での長年の作付けにより、レタスビッグベイン病をはじめとする病害などの連作障害が多発生し生産性の低下が問題となっている。そこで、レタスの連作を避け輪作を進めるため、冬穫りレタス(図1)の後作として、加工・業務用からの要望の大きい寒玉系キャベツの4、5月端境期穫りをめざし、品種の特性並びに被覆方法の違いが収穫時期の早晩や収量に及ぼす影響について検討した。
図1 前作レタスのマルチトンネル栽培
加工・業務用キャベツは、加熱調理用(炒め物、餃子、お好み焼き、ロールキャベツ等)、カット用(トンカツの付け合わせの千切り他)を中心に「巻きが硬い」、「葉質がしっかりしている」、「水分含有率が低い」、「加工歩留まりが高い」等の特性が求められ、寒玉系キャベツが用いられている。しかし、寒玉系キャベツの4,5月どりについては、夏播き栽培では遅播きすると不結球になり、また、秋播き栽培で早播きすると抽苔するため生産が難しく品不足が問題となっている。
試験は淡路農業技術センター内圃場で実施した。前作のレタスはマルチ・トンネル栽培し2010年1月4日に収穫を終了した。キャベツは、表1に示す10品種を供試し11月19日に播種し、128穴セルトレイで育苗した苗を1月19日に定植した。試験区は、保温被覆の方法として、レタス栽培終了後のマルチとトンネルをそのまま利用したマルチ+トンネル栽培区(図2)、マルチはそのまま利用し不織布をべた掛けしたマルチ+べた掛け栽培区(図3)、マルチのみを利用したマルチ栽培区(図4)と慣行栽培としてマルチを除去した裸地栽培区(図5)の4区を設けて比較を行った。施肥方法は、定植時に複合硝燐加安(N-P-K:15-10-10)22gを株元に穴肥(10a当たり窒素成分量14.5kg相当)施用した。但し、裸地栽培区は、同量を全面散布した後に畝を成型した。追肥は、3月5日に同肥料を同量株間に穴肥施用し、4月6日に窒素加里化成(N-P-K:18-0-18)40kg/10aを畝間に施用した。栽植様式は、畝幅130cm、株間35cmの2条植え栽培(栽植密度:4,400株/10a)とした。保温被覆のトンネルは、定植時から3月30日まで全閉、以降は裾換気し4月6日に撤去した(図6)。べた掛けは、定植時から被覆し4月2日に除去した。試験規模は、1区(品種)当たり5.5㎡とし2反復で行った。
図2 マルチ+トンネル栽培区
図3 マルチ+べた掛け栽培区
図4 マルチ栽培区
図5 裸地栽培区
図6 被覆撤去後の収穫前の状況
期間中の気象の変動と生育の経過については、定植後、2月から3月にかけては平年を上回る気温が続き、定期的に適度な降雨もあり順調な生育を示した(図7)。結球肥大期の4月中旬から下旬には、まとまった降雨があり肥大も順調に進んだ(図8)。
図7 マルチ+トンネル栽培区の定値後の生育
図8 生育期間中の平均気温・降水量
収穫時期の早晩については、被覆方法の違いでみるとマルチ+トンネル栽培区が4月下旬からと最も早く、これよりマルチ+べた掛け栽培区は平均で6.6日遅くなり、マルチ栽培区ではさらに9.4日、裸地栽培区ではさらに9.9日遅くなった。最も早いマルチ+トンネル栽培区での、品種の順では、「初恋」、「さつき王」、「YR-春空」、「寒玉6号」、「N-0553」の収穫が4月29日と早かった。続いて、「来喜」は5月1日となり、「さつき女王」、「YR-天空」は5月6日、「凜」は5月7日、「SE」は5月9日と遅れた。他の被覆方法についても、品種別の収穫順は同様の傾向であった(図9)。
図9 品種・被覆方法別収穫日
収穫の早かった「初恋」、「さつき王」、また、「凜」では、被覆方法の違いにより花芽分化率が20~100%となり、これらの品種は本作型には適さなかった(次ページ表1)。
結球重についてみると、被覆方法の違いでは、マルチ+トンネル栽培区やべた掛け栽培区のような収穫時期の早いものより、マルチ栽培区や裸地栽培区のように収穫時期の遅いもので大きくなる傾向がみられた。収穫時期の早いマルチ+トンネル栽培区の中では、花芽分化のみられた品種を除外すると「YR-天空」が1,500g以上と最も大きく、「さつき女王」、「YR-春空」、「SE」は1,300g以上と続き、「N-0553」、「来喜」は1,200g以上となり、「寒玉6号」は1,000g程度と小さかった(図10)。
図10 各品種・被覆方法別結球重
結球重を球体積(球高と球径より算出する)で割った値の球緊度についてみると、花芽分化のみられた品種を除いて、裸地栽培区では0.6以上と高く、収穫時期の早いマルチ+トンネル栽培区やべた掛け栽培区でも0.5以上と葉の詰まり程度は良好であった(次ページ表1)。
品種の被覆方法別の収穫日(図9)や結球重の結果(図10)収穫時期の早い「YR-春空」(図11)や収量性の高い「YR-天空」(図12)などの品種をレタス後のマルチをそのまま用いてトンネルや不織布のべた掛け栽培、さらに露地野菜と組み合わせることにより、4月下旬から6月上旬まで連続的に出荷できることが明らかとなった。
図11 各品種の外観と切断面 図12 各品種の外観と切断面
(マルチ+トンネル栽培区・「YR-春空」) (マルチ+トンネル栽培区・「YR-天空」)
以上のように、早晩性の違う品種、保温被覆としてトンネルやべた掛け栽培を組み合わせることにより、4月下旬から6月上旬までの連続出荷が可能であることがわかった。今後は引き続き、は種時期、定植時期の前進による収穫時期の前進化や肥料の施用量・省力的施肥方法について検討を行うこととしている。